( ФωФ)さとりごころのようです
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:35:31.72 ID:/n8W6tLi0
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一章 夏風燃ゆる
一話 夜行
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:38:59.92 ID:/n8W6tLi0
- 昔の人は「夏は夜」といった。
夏で一番良い時間帯は夜である、という意味だ。
日が照っていると蒸し焼きになってしまいそうな季節であるため、その言は正しいのだろう。
生憎、分雲町でその言は全てに当てはまるわけではないが。
町のおおよそ中央部に一人の男がいた。
彼は必死になって走っていた。
(; ω )「ハァ……ハァ……」
どのくらい走ったのだろうか。
息は上がり、体勢もよれよれだ。
空は黒い帳で覆われ、辺りは暗闇。
遥か彼方から差す街灯の光が彼をあざ笑ってるかのようだ。
(; ω )「ハァ……ハァ……ひぃっ!」
頭を自身の背後に向けた男は情けない声を出す。
当然といえば当然だ。
なにせ、彼の後ろには鬼のような形相の老婆がいたのだから。
彼はすぐに前を見て、残り少ない体力を振り絞って加速する。
恐ろしい老婆に追われているのだから、その行動原理は分からなくもない。
分からなくもないが、誰かが見たら哀れに思うだろう。
人に助けを求めるとか返り討ちにするとかの対処のための行動ではない。
彼の行動はただ逃げるためだけの行動なのだ。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:42:28.04 ID:/n8W6tLi0
- 男は中肉中背の力みなぎる青年だ。
普通に考えれば、十重二十重の時を過ごし朽ちる手前の女からなぞ容易く逃げられよう。
しかしこの場において、普通に考えられることが起こらない。
彼の身体能力は年相応、問題は老婆の身体能力だ。
駆ける姿からは老いを感じさせない力強さがある。
白髪を風になびかせ、骨と皮だけの指を前に突き出し、およそ走る姿勢としては不向きだ。
にも関わらず、それでも彼は距離を開けることが叶わない。
何かを仕出かして彼は老婆に追われてるわけではない。
強いていうなら、ただ老婆の姿を見ただけ。
それで追われるものかと不思議に思うが、現在進行でそうなっている彼には笑い飛ばすことができない。
彼は思う。
あの老婆は人間じゃない。
あれは山に住んで人の子を喰らう女だ。
捕まれば私も喰われてしまう。
(; ω )「う、……くっ」
どうしようもないのだろうか?
どうすればいいのだろうか?
やはり立ち向かうべきか?
脳みそをぐるぐる回して考え、周囲を落ち着きなく見る。
と、彼の視界に人影が映った。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:45:50.50 ID:/n8W6tLi0
- (; ω )「たす……」
けて、と続くはずの言葉を飲み込む。
視界に映ったものは女だった。
しかも彼の後ろにいる老婆とは対称的に若い女だ。少女といったほうがいい。
lw´‐ _‐ノv「?」
少女は異変を察知して男のところへ駆ける。
彼はまずいと思った。
この老婆は人を喰らう。
さて、筋肉質の肉と脂肪が多い肉、食べて美味しいほうはどちら?
彼は徐々に減速してやがて足を止める。
振り返ると皺が刻まれた鬼の顔。
妖怪相手に試したことはついぞなかったがやるしかない。
彼は決心する。
鬼の顔が近づいてくる。
意識を集中させて、老婆の一挙手一投足を刮目して見る。
爪が彼の顔目掛けて襲い掛かり、寸でのところでそれを避ける。
そしてカウンターとばかりに掌撃を与え……
(; ω )「ぬん!!」
分解させるイメージを頭に浮かべ、それを手の平越しに鬼女の体に叩き込んだ。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:49:17.23 ID:/n8W6tLi0
- 果たして老婆は動きを止めた。
そして彼が触れているところから体の末端まで、徐々に蛍のような煌きを放ちながら形が崩れていった。
やがて蛍はばらばらに散っていき、消えていき、その場に在ったものが消えた。
その様子を見ながら彼は深く息を吐く。
長時間苦しめられていたものから開放され、彼はへなへなと腰を地に付ける。
(; ω )「は、はは、なんだ、効くじゃないか」
彼は全身から溢れる汗を拭おうとしない。
あまりの疲れのせいで億劫になっているのだろう。
だらしなく足を伸ばし、気を抜けば路上で寝てしまいそうな心地になっていた。
lw´‐ _‐ノv「……」
ただし少女はそれを許さない。
ゆっくりと流れるような動作で腰に掛けてある小刀の一本を抜き、静かに彼の背後から近づく。
そして彼は気が緩んでいるので少女の行動には気づかない。
(* ω )「あー、生きてるって素晴らすぃー♪」
lw*‐ _‐ノv「だよねー、私もそう思うよ♪」
(; ω )「っ!!」
他人の声を聞き、彼はあわてて警戒態勢を取ろうとする。
しかしその動きは首筋に当てられた刃によって封じられてしまう。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:52:37.74 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「いくつか質問するから答えて」
(; ω )「……はい」
少女がいたことを忘れてたこと。
少女がこんな危険人物だということ。
そんな少女にさきほど助けを請おうとしたこと。
その全てが一まとまりになって男にのしかかり、彼は自身の不覚を恥じた。
lw´‐ _‐ノv「まずあなたの名前を教えて」
(; ω )「え?あ、……さ……す……」
lw´‐ _‐ノv「?」
彼は答えにくそうに口ごもる。
少女は「なぜ答えないの?」と視線で問う。
それは彼が少女を警戒しているからに他ならないだろう。
そんな自明の解を少女は導き出せずに男に刃を宛がう。
彼は数秒ほど間を置き、やがて空気を振るわせる。
(;ФωФ)「す、杉浦、ロマネスクです」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:55:52.87 ID:/n8W6tLi0
- 観念したらしく質問に答えた。
自己紹介の言葉はだんだん小さくなり、最後の音が聞き取れないほどだったが。
それでもいいと答えを受け止め、少女もまた自己紹介を始める。
lw´‐ _‐ノv「私は砂尾 アキ。アキは春夏秋冬のアキと書く。
そんな名前してるからシューとか……あと、変人してるからシュールとか呼ばれてるよ。
好きなように呼んでね」
(;ФωФ)「えーと、シューさん?刀を下ろしてくれないでせうか?」
lw´‐ _‐ノv「まだ質問がある。
私も君を警戒してるんだからもうちょい辛抱して」
シューはさきほどから体をほとんど動かさない。
姿勢を固定させたその様は彫刻を思わせる。
対して男も体をほとんど動かさない。
男の様は彫刻というよりむしろ、お縄についてる罪人を思わせる。
彫刻は罪人に質問する。
lw´‐ _‐ノv「変なおばあさんに追われてたみたいけど、何をして追われたの?」
(;ФωФ)「心当たりがございません。
ただ山で出会って、追ってきたので逃げました」
lw´‐ _‐ノv「……山?なんで山にいったの?」
(;ФωФ)「登山が趣味でして」
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:59:35.33 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「ほうほう。
装備を何も持たずに登山とな?」
(;ФωФ)「学生さんはお金がない。
散歩程度でいけそうな山しか登らないのですよ」
彫刻は疑いを持って質問する。
罪人はその質問に丁寧に回答する。
そのやりとりが数分続いたあと、彫刻は最も聞きたかった件を口から出す。
lw´‐ _‐ノv「貴方、あのおばあさんをどうやって消したの?」
(;ФωФ)「……それは」
始めの質問のときのように口ごもる。
ただしその様子は始めのときとは少し違っていた。
もちろんシューを警戒しているのだろうが、その他の理由があるみたいだ。
やがて男から出てきた答えは答えらしからぬものだった。
(;ФωФ)「話せば長くなるのですが」
lw´‐ _‐ノv「……そう」
男の言葉を聞きそれだけ言うと、小刀の切先を彼の首から何もない地面へ向ける。
そして流れるように切先を鞘へ収める。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:03:27.29 ID:/n8W6tLi0
- (;ФωФ)「……生きてるって素晴らすぃ」
老婆を倒したときとまったく同じ台詞を吐く。
ただし若干疲れが見える。
lw´‐ _‐ノv「んじゃ明日改めてあなたに話を聞かせてもらうから。
今日はもう遅いから。だからもう家に帰っていいよ」
(*ФωФ)「え?マジで?」
lw´‐ _‐ノv「まじまじ。だからまた明日ねー」
シューは踵を返し、ひらひらと手を振る。
それを男は「あれ?」と思いながら見る。
そして背を向けている少女に声を投げかけた。
( ФωФ)「もしかして私がこの町に住んでると思ってます?」
ゆっくりと遠ざかる背がピタリと静止する。
男は思う。ビンゴなのだな、と。
シューは振り返り、再び男に近づく。
lw´‐ _‐ノv「……明日、貴方の名前を役場で調べようとしてた。
意味のないことするところだったみたいだね。
やっぱり今話を聞かせてもらおうかな?」
そして紡ぎだされる言葉、「私の家に来ない?」
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:07:11.37 ID:/n8W6tLi0
- …………。
……。
lw´‐ _‐ノv「夏休みに浮かれて山登ったら迷子になっただって?」
(;ФωФ)「……非常に情けないことなのだがな。
おかげでここがどこなのか全然分からない有様だ」
lw´‐ _‐ノv「ここは分雲町。
ちっちゃい・閉鎖的・暗いの三重苦が揃ってるところだよ。
まあ暗いのは町の中央部だけであって、町の端々は明るいんだけどね。
夜、上空から見たらドーナツ型の夜光が確認できると思うよ」
( ФωФ)「なんでまたそんな造りを?」
lw´‐ _‐ノv「まあいろいろあるんだけど。
簡単に言ってしまうと“見栄と利益”だね」
( ФωФ)「へぇ」
二人で夜道を歩く。
男の言葉遣いが先ほどと違うのは、彼女が「敬語はいらん」と言ったためだ。
なら、ということで男は幾分気を楽にして話すことにした。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:10:56.74 ID:/n8W6tLi0
- 二人が目指すは町の北部。
シューは当初、西部までいって引き返すつもりだった。
しかし今日、杉浦ロマネスクという男と出会ったがため、自分の家がある北部へ歩を進める。
つまり家に帰ってるということだ。
lw´‐ _‐ノv「で、ロマの力……力、といえばいいのかな?
それについて詳しく説明して」
(;ФωФ)「あ、うん。いいのだが……ロマってなに?」
lw´‐ _‐ノv「可愛いじゃん。文句は聞かないよ。
それより説明してくれないの?」
文句は聞かないって横暴だなおい、と男は思う。
思うが口には出さない。
文句をいうより、まず力の説明をするほうが重要だからだ。
( ФωФ)「えと、この力は生まれつきのものなのだ。
昔から霊が見えていてな。
ある日、襲ってくるやつがいたから必死に抵抗したら退治できたのだ。
その後もいろいろあったんだが、そのおかげでこの力を理解できた。
どうやら私が霊に触れると簡単に浄霊ができるみたいだぞ」
lw´‐ _‐ノv「ふむ。……その力を人に向けたことある?」
( ФωФ)「ある……が、ろくな事にならなかった。
あと妖怪にも向けたことがあるな。
ぶっちゃけさっきのばあさんだけど」
lw´‐ _‐ノv「妖怪?」
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:14:14.07 ID:/n8W6tLi0
- ( ФωФ)「あれは俗に言う山姥という輩だろう?」
lw´‐ _‐ノv「やまんば?」
( ФωФ)「?」
彼は話が噛み合わないのを感じた。
だって山で会った婆さんだから山姥だろう?
それに私の能力で消えるのは人以外の何者かなのだから。
シューにそう告げると彼女は僅かに困った表情を作った。
lw´‐ _‐ノv「んー……あれは多分、山姥じゃないよ。
あれはね」
( ФωФ)「うん」
lw´‐ _‐ノv「……っとその前にこの町のことを説明しなきゃいけないね」
(;ФωФ)「ちょ」
肝心な部分を説明しない少女に男は思わずつっこみを入れそうになる。
そんな男の心境を察した少女はぽつりと。
lw´‐ _‐ノv「関係なくないよ」
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:17:57.29 ID:/n8W6tLi0
- ( ФωФ)「?」
lw´‐ _‐ノv「物事の説明には順序ってものがあるんだよ。
まずこの町の特異性を聞かせなきゃいけないからね」
シューはそこまで言うと口を閉ざす。
語りたくないというわけではなく、何を話すべきか整理しているようだ。
やがて中央部から北部に入り、人口の光により、周囲が明るくなり始めたところで彼女は口を開く。
lw´‐ _‐ノv「この町にはウツロっていうものが出るんだ。
正確には違うけど、まあ、幽霊みたいなものと思ってくれていい。
私が夜中に外をうろついてたのはそのためなんだ」
( ФωФ)「ウツロ?なんだそれは」
lw´‐ _‐ノv「『人に憑き、人を喰らうもの。
されど霊にあらず、その中身は空ろなり』
……意味分かる?」
(;ФωФ)「すまん。全然だ」
lw´‐ _‐ノv「んー……まず魂の定義から話さないとだめっぽいね」
(;ФωФ)「よろしくお願いします」
少女はふぅ、と息を吐き、静かにぬるい空気を吸う。
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:21:14.44 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「諸法無我。
魂には自我がなく、自我と思わせるものは現世で過ごした記憶なんだよ。
例えていうなら、魂は“買い物かご”、現世の記憶が“かごに入れた商品”って感じかな?」
lw´‐ _‐ノv「商品が入ってない状態を無我といって、魂の到達点とされてる。
その状態になると現世に化けて出てくる事はない。
体が死んで間もない魂は、商品をたくさん入れた状態なんだ。
だからあの世でゆっくりと商品を取り出される」
( ФωФ)「取り出される?」
lw´‐ _‐ノv「現世の記憶を魂から分離させるってことだよ。
忘れるわけじゃない、切り離されるんだ。
その事象に抵抗して記憶を持ち続けると、魂は霊として現世に現れる。
記憶を手放さない、イコール現世に未練があるってことだからね」
lw´‐ _‐ノv「魂の定義はこれでおしまい。
何か質問ある?」
(;ФωФ)「……内容を理解するので精一杯です」
男は必死に今の言葉を頭の中でぐるぐる回す。
シューはその様子をみて一言。知恵熱出さないようにね。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:24:20.07 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「さて、ウツロの説明をしていいかな?」
(;ФωФ)「お願いします」
シューはコホンと咳払いをする。
息を吸い、意味のある音として口から出す。
lw´‐ _‐ノv「魂は買い物かごで説明したけど、ウツロにおいて重要なのは商品のほうなんだ。
つまり分離された現世の記憶ね。
現世の記憶自体に何かできるわけじゃない。
ただこの町……いや、この土地ではその記憶がやっかいの種なんだ」
lw´‐ _‐ノv「この土地はある意味近いんだ。
だからこの町の人が分離された記憶とシンクロする、という現象が起こる。
そしてそれが起こるとシンクロした人が二重存在になる」
( ФωФ)「二重存在?」
lw´‐ _‐ノv「二重人格みたいなものだよ。
現世にいる肉体・魂は一人分、でも現世の記憶は二人分。
だから分離された記憶は現世にいる肉体・魂の情報を半分貰うんだ」
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:29:11.65 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「分離され、再び現界した記憶を『ウツロ』と呼ぶ。
そしてウツロに憑かれるといつか死ぬ。
魂も肉体も“一個”が最小値だから。本来、半分こなんかにできないんだ。
だから憑かれた人もウツロも不安定な状態になるんだ」
lw´‐ _‐ノv「憑かれたままでもいずれ衰弱して死ぬ。けどやっかいなのはウツロが直接手を下すことなんだ。
半分この情報を一個にするため、憑いてる人を殺して情報を奪う。
結局、ウツロが情報を一個にしてもある程度したら消えるんだけど……消えるまでの間、人を襲い続けるんだ。
情報をもっと奪えば現世で生き続けれると勘違いしてね」
(;ФωФ)「……それはやっかいな」
シューが夜の町を見回っていたわけがよく分かった。
おそらく私を追っていた老婆みたいなのがウツロなのだろう、と男はぼんやり思う。
しかしあれがウツロだとすると……
(;ФωФ)「……ううむ」
lw´‐ _‐ノv「ん、どしたの?」
(;ФωФ)「いや、私を追っていた老婆がウツロだったのは話の流れで分かった。
分かったんだけど一つ疑問が出てきた。
私が見た時、老婆は老婆らしい姿をしていた」
lw´‐ _‐ノv「ああ、そういうこと」
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:32:51.91 ID:/n8W6tLi0
- シューには何が言いたいのかよく理解できた。
老婆が現世の老婆らしい姿をしている。
ならばどうやってウツロと区別をつけるべきか。
男が知りたがっているのはそこなんだろう、と考える。
lw´‐ _‐ノv「人とウツロにはあまり違いが見られないね。
でも雰囲気で大体分かるよ。
いくら人に憑いてウツロになっても、中身が空ろなんだよ」
( ФωФ)「??」
lw´‐ _‐ノv「死んだら魂は現世の記憶を切り離されるっていったよね?
でも切り離し方は、魂と記憶を一刀両断するみたいに一気に分けるわけじゃないんだよ。
少しずつ少しずつ垢を落とすように魂からそぎ取っていくんだ。
だから記憶といっても、特定の思い出や感情といった小さいものがほとんどなんだ」
lw´‐ _‐ノv「そしてその中の一つが人とシンクロしてウツロが生まれる。
だけどウツロにはその特定の記憶しかないわけだから……」
( ФωФ)「人として生活すると不自然さが際立ってしまう?」
lw´‐ _‐ノv「そのとーり」
なるほど、だから中身が空ろなのか。
男は納得する。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:36:53.11 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「例えば私が死んで、魂と記憶が分離されるとする。
そして分離されて『今日アイス食べたかった』という記憶が出てきたとする。
これがウツロ化すると私の姿が現界する。
でもその私には『アイス食べたかった』という記憶しかないから、アイスにしか反応を示さない。
始めのうちはアイス以外では無反応でしょうね。
現世の情報欲しがる様になったらまた違った反応を示すだろうけど……」
( ФωФ)「じゃあ今日会ったあの老婆は私の何に反応したんだろうか?」
lw´‐ _‐ノv「さあね。
ロマに反応したのかもしれないし、山に侵入したから反応したかもしれない」
(;ФωФ)「後者であってほしいなぁ」
lw´‐ _‐ノv「前者でも後者でも君がもう倒しちゃったじゃないの……と」
シューは足を止め、隣を歩く男の足も自然と止まる。
目の前には長い石段。
山の中腹くらいまであるだろう。
( ФωФ)「何段くらいあるのだ?」
lw´‐ _‐ノv「数えた事ないから分からないけどそれなりには。
ここにくるまでで疲れちゃった?」
(;ФωФ)「まあ途中、坂が多いなとは思ったが。
趣味が登山なのでこれくらいでは疲れないぞ」
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:40:52.21 ID:/n8W6tLi0
- 実のところ男は疲れていた。
そのことを言わずに虚勢を張った。
しかし嘘をついてはいない。
疲れた原因は老婆と鬼ごっこしたからだった。
そんなことをこっそり考えていると金属製の看板が目に留まる。
目に入れた情報を口から出す。
( ФωФ)「砂尾神社……」
lw´‐ _‐ノv「ん」
男の言葉に相槌で返す。
そして彼の頭に一つの単語が浮かぶ。
( ФωФ)「巫女?」
lw´‐ _‐ノv「ん」
(*ФωФ)「なん……だと……」
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 01:43:43.01 ID:/n8W6tLi0
- 男は感動してその場で立ち尽くす。
数段上ったところでシューは男の様子に気づき、振り向く。
lw´‐ _‐ノv「はよこい」
( ФωФ)「あ、はい」
男は頭を振ってから石段を登り始めた。
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