( ФωФ)さとりごころのようです

46: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:08:49.65 ID:5TWzej3E0
   



  二章 走る幻、仄めく面輪


     幻話 シューとヒートと



48: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:12:03.62 ID:5TWzej3E0
lw´‐ _‐ノv「今どこにいる?」

     『今、寺にいるよ。
      ここ十年で亡くなった人らをリストアップしてるところだよ。
      あまり長電話するとショボンくんに怒られるから要件は手短にね♪』

lw´‐ _‐ノv「んじゃ産業で。
       ガナーちゃんが現れた。
       ついでにモナーさんもどこかに消えたらしい」

無人の夜道を歩きながらヒー姉の要求通り、要件を手短に話す。
しかしこんな遅くまで寺にこもってたのか。好都合だ。
数秒の沈黙のあとに聞こえた声は、色が変わっていた、『どこへ向かえばいい?』
事情は理解してくれたようでなにより。さすが私の姉だよ。
私は素早く口を動かした。

lw´‐ _‐ノv「ロマのところへ行って」

     『また無茶するつもりじゃないだろうね?』

lw´‐ _‐ノv「必要なら」

     『それなら私たちがモナーさんの件を片付ける。
      あんたは椎名さんの家に戻りなさい』

ありゃま、もう外に出てることがばれてたとは。
まあ携帯から聞こえる音は私の声だけじゃないものね。
それに私が生まれてから十五年間、ずっと一緒だったわけだから分かるもんなんだろうね。

だがヒー姉、その案は却下だ。



50: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:15:54.39 ID:5TWzej3E0
lw´‐ _‐ノv「適材適所だよ。
       私なら万が一の時でもモナーさんを助けることができる」

携帯は黙り込んだ。
片目を閉じて、ロマに話した内容を頭の中で再生する。
「……文献を調べるのなら得意だよ。聞き込みが苦手だけどね」


私は人の顔を覚えるのが苦手だ。いや、苦手というのもおかしいかもしれないが。
だから私は聞き込み調査などをやらない。
そのため私はモナーさんを見つけられない、と普通なら考えるだろう。

だけど今は人がいない深夜。
つまり、モナーさん探しは『人探し』というより『物探し』というジャンルに近いのだ。
私に出来ないわけはない。


ロマに探させて、私が椎名家に残ればもっとラクできただろうが、そうもいかない。
この町に慣れてないロマに探させるには、少々酷なことだからだ。
適材適所とはそういう意味だ。

lw´‐ _‐ノv「それに今現在、その“万が一”の状況だと思うんだ」

     『kwsk』

私は通話を続ける。その間、歩みは止めない。



53: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:19:37.06 ID:5TWzej3E0
ヒー姉も今、緊急性のある事態なのを大体分かっているだろう。


ウツロが現れ、憑かれている人が姿を消す。
実はこれ、けっこう普通に起こりうることなのだ。


ウツロは人に憑き、人から肉体と魂の情報を半分貰う。
だからウツロを肉眼で見ることができるし、触れることもできる。

だが、肉体も魂も一が最小値なのだ。
一を分けて一以下にすることなど本来できないため、憑かれた人は不安定な状態に陥る。
不安定な状況には肉体の衰弱などが挙げられるが、今回のモナーさんの行動もそれに当てはまる。


ウツロが生まれるのは、『死者の魂から分離された記憶と生者とが、シンクロして二重存在になるため』と考えられている。
つまりウツロの半分は生者である、というわけだ。
だからこそ、憑かれた人がウツロの行動に影響される、ということが多々ある。
これを噛み砕いて言い換えるなら『ウツロと生者は惹かれあう』ってことだったり。

ヒー姉もそこらへんは分かっているのだろう。
だが私が言った“万が一”とは、ヒー姉が思っているそれとは少々ニュアンスが違う。
だから簡潔に説明した。


lw´‐ _‐ノv「スピードが早すぎる。
       私たちがガナーちゃんを祓ったのは昨日だよ?」



55: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:22:34.61 ID:5TWzej3E0
携帯の奥から息を飲む気配が聞こえた。

lw´‐ _‐ノv「一度祓ったウツロが再び現れるのは珍しいことじゃないよね。
       でも再び現れるまで、どんなに短くても一週間ほどかと思ってたけど?」

     『……記録されている最短時間は五日だよ。
      なるほど。なら早めにモナーさんを見つけなきゃいけないね。
      モナーさんが消えたとなると、ウツロはいよいよレッドゾーン入りしてるからね』

つまりウツロが人を食う段階までいっている可能性が高い。
今は危険で異常な状況なのだ。もたもたしてられない。
そこまで分かっていながらどうして、


     『ならなおさら私たちがモナーさんを探さなきゃいけないじゃない。
      今そっちに向かうから待ってて』




どうしてそんなことをいうの?



57: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:26:05.67 ID:5TWzej3E0
w´‐ _‐ノv「それは駄目だよ。ミスチョイスだ。
       今は緊急事態かつ異常事態なんだ。
       使える駒が少ない時、あとから投入されたものは後方からの支援が鉄則だよ」

     『……何が言いたいの?』

lw´‐ _‐ノv「私の支援もほしいけどロマの方を支援しておけってこと」


今、確認されているウツロは二体だ。
私とロマを別行動にしてどちらにも対応できるようにしている。
でも彼は、ウツロに関して素人も同然。

加えていえば、椎名家のウツロの方がよっぽど性質がわるいかもしれない。
話を聞いた限り、猫のウツロはまだ凶暴化していないみたいだが、「大丈夫だ」とはとても言えない。
この二日で三体ものウツロが現れただけでも異常事態。
そして祓ったウツロが次の日にまた現れて、しかも凶暴化。
ガナーちゃんだけが、と考えるのはいささか楽観的だよ?

とてもロマ一人には任せられないから。


lw´‐ _‐ノv「椎名家に現れるウツロは猫だよ?
       そして現状を考えると、今夜、凶暴化しないと断言することはできない」

獣はウツロであろうがなかろうが、手ごわいものなのだ。
素早いし、爪とか牙とか持ってるし。



58: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:28:33.37 ID:5TWzej3E0
     『……分かった。私たちは椎名さんちに向かう。
      そのかわりシャキンさんをシューのところへ向かわせるから』

まあそこあたりが妥当だろうね。
あの人が苦手、という個人感情を除けばだけど。

lw´‐ _‐ノv「分かった。椎名家のタイムリミットは午前一時だから。んじゃ切るね」

携帯を耳から離すと同時、親指でボタンを押す。
そして素早く携帯を折りたたみ、しまう。
しかし思ったより長電話してしまった。
三十秒程度で済ませたかったんだけどね。



lw´‐ _‐ノv「ねえ、あなたはどうなると思う?」


ふと疑問に思ったので聞いてみた。
当然、答えは返ってこなかった。
私も返ってくると思ってなかったので気にしない。


そもそも物を尋ねる前提として相手がいないから、ね。



61: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:32:33.53 ID:5TWzej3E0
空を見上げるとたくさんの光を見てとれた。
それがなんなのか、誰もが知っている。星だ。

星とは地上にまで届いた恒星や惑星の光、と言われている。
それは昔の人が調査して判明した事実であり、否定材料もないので私も当然のようにそう考えてる。
だけど、幼いころの感情は今もある。

lw´‐ _‐ノv「みんなはどう思う?」

あの光の一つ一つが地上から去った人であってほしい。
たくさんの人たちが私たちを見守ってると思っていたい。
世界中のすべてのものは今は亡き人たちによって創り上げられたのだから。


lw´‐ _‐ノv「……いかんいかん。
       まただよ、自主規制っと」

こんなことを考えてはいけない。
死者ではない何者かに見られるかもしれないし、見られていい思想ではない。


というかそんなこと考えている暇はない。



65: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:36:30.04 ID:5TWzej3E0
lw´‐ _‐ノv「さてと」

とんとん、とつま先でアスファルトを軽く叩いてから走り出す。
とりあえずは近くのコンビニだ。

ここは東部で店は少ないが、一応コンビニはある。
まあ夜の十一時には閉まってしまうが。
そこでまたんきくんと待ち合わせしている。



誰でもいい。

誰でもいいから私たちを見守ってちょうだいね。



戻る四話