( ФωФ)さとりごころのようです

70: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:42:36.84 ID:5TWzej3E0
   



  二章 走る幻、仄めく面輪


     四話 しぃとヒートと



72: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:46:18.59 ID:5TWzej3E0
(*゚ー゚)「霊が見えるんですか?」

( ФωФ)「ん……ああ、見えますよ」

午前零時すぎ。
二人は玄関前の廊下で腰を下ろしていた。
普通ならば外に出て待っているのだが、今回に限り、家の中で待たせてもらっている。
ウツロのこともあり慎重に行動しなければ、と考えてのことだ。

猫のウツロはしぃを見ると逃げていった、と昨日聞いた。
警戒してるのか分からないが、外に出て猫と鉢合わせになるとおそらく逃げられるだろう。
それを防ぐ意味で二人は外に出ないようにしているのだ。
とはいえ待ち人も外から来るため、この行動に意味があるのか疑問に感じる。

そんなことを考えていたところに質問が来たため、彼の答え方はどこかぼんやりしていた。
おそらく答えの意味すら考えてなかったのだろう。

(*゚ー゚)「……」

(;ФωФ)「ん?どうしました?」

視線を感じたので彼の方から問いかけた。



75: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:48:43.27 ID:5TWzej3E0
(*゚ー゚)「ええと、霊感のある人に会ったの初めてなので、何を言ったらいいか……」

( +ω+)「あーあー、なるほどね。
        まあいつもは見えないようにしてるから、普通の人とあまり変わらないですよ」

(*゚ー゚)「へぇー。
     漫画などでは『いつでも見えてる状態』なのに、ロマネスクさんはそこらへんを調整できるんですか?」

( ФωФ)「まあね。
       大体、いつも見えるような状態だと発狂しちゃうから。
       霊能力を題材にした漫画の主人公は凄いですよ」

ただ、漫画だからそんな設定になっているのかもしてないが。
そういう漫画の作者のほとんどが、霊感なんてまるでないだろうし。

(*゚ー゚)「発狂?」

( +ω+)「長い間、見てていいものじゃないってことですよ」

単純にいえば気持ち悪いのだ。
見えすぎるというのもそうだし、見える物は生きてる人と感性が合わないだろうと思う時もある。



76: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:51:31.14 ID:5TWzej3E0
彼は霊だけじゃなく魂なども見てとることができる。
ちなみに無害、有害の区別をしなければ霊はそこらじゅうにいる。
それに加え、魂は生き物すべてにあるといってもいい。


つまり見てとれるものの数が多すぎる。
そのため、彼にはそれらがワラワラと蠢いて見えるのだ。
ちょうど白アリが柱の奥に巣食っている感じで、生理的に受け付けない。

さらにいえば、霊のなかでとても気持ち悪い個体が存在したりする。
そういうものは大抵、人に害を及ぼす悪霊だったりする。
恨みや妬みで肥大した者を見るのはたまらなく気持ち悪いのだ。


( +ω+)「だから、余計な時に余計なものを見ないように訓練したんですよ」

(;゚ー゚)「それは……大変でしたね……」

大変だったのはたしかだ。
でも今は見えないようにできるのでそれでいいと思う。



そういえば、と彼は少し前のことを思い出す。
彼の頭の中には、以前、魂や霊の話をするニット帽が浮かんだ。



78: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:55:11.17 ID:5TWzej3E0
頭の中にいるニット帽は口を動かし、初めて会った時そのままに会話を再生する。



「諸法無我。
魂には自我がなく、自我と思わせるものは現世で過ごした記憶なんだよ」

「現世の記憶を魂から分離させるってことだよ。
忘れるわけじゃない、切り離されるんだ。
その事象に抵抗して記憶を持ち続けると、魂は霊として現世に現れる。
記憶を手放さない、イコール現世に未練があるってことだからね」



シューの話から霊を定義するなら、霊とは『未練がある者』と解釈することができる。
その未練にあたるものが負の感情だから悪霊は気持ち悪いのだろうな。

しぃと会話しながら、彼はそんなことを考えていた。

( +ω+)(そういえば、その後でウツロの話を聞かされたんだっけなぁ)

現状、早急に対処しなければいけないものは霊よりウツロだ。
しかし、ウツロという現象はこの分雲町にきて初めて体験したものなのだ。
ウツロについて考えるが、基本的な知識と経験が乏しいので答えはすぐに出てこない。


シューの話す内容が時々理解できなかったのもあったから、というのも理由の一つだが。



81: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/04(月) 23:57:59.87 ID:5TWzej3E0
( ФωФ)「そういえばしぃさんはウツロについてどれだけ知っています?」

とりあえず知識が足りないので、目の前の少女に聞いてみた。
彼女は若干戸惑ったようで、少々間を置いてから話してくれた。

(*゚ー゚)「昔話程度ですよ」

「昔話?」、問うとしぃは丁寧に答えてくれた。



昔……大体、五〜六百年前の話。
分雲町がまだ村ですらなかった頃、ここは『子捨て山』だったらしい。
当時は貧しい家も多くあり、この行為は食いぶちを減らすためと認知されていた。
捨てられた子供は家に帰ることが許されず、山々に囲まれて屍になってゆく。


孤独に逝く彼らを憐れんでだろう、山々には自然と名がつけられた。

一番距離がはなれている山を『母者山』『父者山』
その間に並ぶ山々を子供と見立てて『兄者山』『弟者山』『姉者山』


そして彼らを捨てなければならなかった親は、山の神々に祈った。
「私たちでは彼らを育てることができませんでした。どうか……」
しかし、山の家族は親たちの願いを聞き入れなかった。
そも、親たちにとって「子供を預ける」というより「子供を捨てている」という認識が強かったから。

中には預けにいく親もいたが、大半の親は神が快く預かってくれると考えていなかった。



82: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:00:35.32 ID:hIU3hT/x0
そんななか、少数に含まれるであろう親が山の神に子供を預けにいった。
「豊作になったときには必ず連れ戻しますので、なにとぞ……なにとぞ……」
もちろん神々は子供を預かる気はなかった。
うんざりしていたのだ。汚らわしい子供が増える現状に。

山の神は汚れを嫌う。
そしてどうにかこれ以上汚れた子をこの地に来させないようにしたかった。
弟者から生まれた太陽が父者と姉者の間に沈んでゆく。
何度も何度もそれを繰り返し、ようやく神々は一つの結論に達する。


汚らわしい親には汚らわしい子がふさわしい。


そうしてこの地に連れてこられた子の汚れを洗い落した。
清められた子供は山の家族に迎え入れられた。
それが妹であり、彼女が居ついた場がのちに『妹者丘』となる。
そして汚れで妹者にそっくりな子供を造り上げた。

時が経ち、やがて親たちが子供を連れに戻ってくる。
豊作になり、蓄えもできたのだろう。
ならば早々と二人で帰ってくれ。もたもたしてると貧しい家の子がやってくるぞ。

彼らが帰ると神々は息をつく。



84: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:04:32.94 ID:hIU3hT/x0
家に帰った親は数日、子供と暮らした。
そして疑問に思った。どこかおかしい。
だがその疑問の根本はまだ分からなかった。
さらに数日過ごし、その疑問が強くなっていった。
そうして日を重ねていって季節が変わり、ついに疑問の根本を知ることになる。


……この子は心がないのでは?

姿は以前の子なのに、その行動に心が伴っていないのだ。
まるで空っぽ、虚ろな瞳はどこを見ているのだろうか。
神が我が子に何かしたのだろう?
しかし神々がそのような非道をするわけがない、と自らの考えを否定する。

その日の夜、かの親は子供に丸呑みされることになる。
遠くから山の家族はその様を見つめる。
彼らの表情に喜びや悲しみはない。ただ冷徹な眼差しがそこにはあった。



86: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:07:51.77 ID:hIU3hT/x0
  

我らの行動を非道と捉えるならそう捉えればよい。


だがその前に、貴様らの非道を正してから物を言え。


自らの子を捨てようものなら、己の悪行に身を散らせ。


其は人に憑き、人を喰らうもの。されど霊にあらず、その中身は空ろなり。


人として足りず、人としてありえない。其は汚れた虚ろなる者よ。


この先、この地にぬしらが子を捨てたならば、ぬしらの罪に食われて滅せ。



87: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:11:00.09 ID:hIU3hT/x0
(*゚ー゚)「だからこの地に現れる誰かに似た何かは『ウツロさま』と呼ばれています。
     ウツロさまは罪悪感や未練など……いわゆる“後ろめたさ”に憑くといわれてます。
     と、私が知ってるのはこんなところです」

(;ФωФ)「山の神、こええ……」

(*゚ー゚)「まあこれはただの昔話ですよ。昔の人が作った話でしょう。
     でも、事実としてウツロさまと呼ばれるものがこの町に出没しています。
     ……ウツロさまが存在するなんて、実際に見るまでお年寄りの迷信だと思ってましたが」

しぃは顔を伏せたので、表情に影ができた。
彼は同情するように彼女を見て、同時にしぃの話を心うちで半濁する。


確かにこれは作り話だ。
山を神と見立てた事柄は昔からあるが、神さまなんてものは現実には存在しない。
いや、現世に存在しないと言うべきだろう。

「だからウツロも存在しない」となればよかったのだが、残念ながら存在してしまっている。
そしてウツロという超常現象を信じている者は、お年寄りか被害にあった者だけだろう。
当然しぃは後者である(あえていえば、「あった」ではなく「現在進行で被害中」というべきだろう)。
そんなよく分からないものに家族の安全が脅かされるのだ。
怖くないわけがない。


( +ω+)「私もウツロに関してはよく分からないのだが……。
        とりあえずこの件が無事片付いたら、つーちゃんと墓参りしたらいいと思いますよ」

(*゚ー゚)「です、ね」



90: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:14:01.82 ID:hIU3hT/x0
不意に会話が途切れる。
お互い聞きたいことを聞いたため、次はどんな話をするべきか、すぐに出てこなかった。
やることもないので、彼は気を楽にしようと視線を前方の、玄関の明かりを見つめる。

すると、いきなり勢いよく玄関の戸が開けられた。

ノハ*゚听)「ジャンッ!!」

(;ФωФ)「……効果音は口にしなくていいから」

張り切っているヒートを見て彼は、気を楽にする、を通り越して脱力した。
だからといって見てるだけとはいかず、「夜も遅いので静かに」と注意しておいた。
そういえば、と彼はシューも擬音を口にしてたことを思い出す。

( +ω+)「やっぱり姉妹だなぁ」

ノハ*゚听)「当たり前だろ、姉妹なんだから。
      とりあえずこんばんはー」

(*゚ー゚)「はい、こんばんは」

しぃはお辞儀をして丁寧に挨拶を返す。
その対応はとてもまともで、まだ中学生なのに大人だなと彼は感心した。
出会ってすぐに刀を向けたり町内会に連絡しようとした、どこかの姉妹とはまるで違う。
彼は思う、「なんで椎名家に泊まらず、砂尾家に泊まってしまったのだろう」と。



92: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:16:58.92 ID:hIU3hT/x0
( ФωФ)「そういえば、来たのはお前一人だけ?」

シューは椎名家から出る前、「ヒー姉たちに連絡入れとく」と言っていた。
ヒート一人で来たとは考えにくいが、現状として彼女しかいないので聞いてみた。
すぐに返事が返ってくる。

ノパ听)「ううん、ショボンくんも一緒。
     彼は今、外で結界張ってる」

(;ФωФ)「……ちょっとまて。
        結界張ってたら猫こないのでは?」

彼にとってみれば、猫が来ないと困るだろう。
つーの部屋の外に現れる猫が、ウツロかどうか確認できないからだ。
しぃにしてみれば現れない方がいいのだろうが、その点を把握しない限り、安全を確保できないのだ。
ヒートは彼を見て、何か考えるようにあごに手を置き、ほんの数秒ほど動きを止める。
そして動き出す。

ノパ听)「ロマさん、ちょっと」

(;ФωФ)「ん?」

ヒートは彼の手を引っ張って外に連れ出した。



94: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:20:38.01 ID:hIU3hT/x0
玄関から数歩離れたところでヒートは立ち止り、よって彼も歩みを止める。
新しい一日が始まったばかりの空は黒く塗りつぶされ、その黒に紛れて星が輝いている。

今日は新月のようで、人工の明かり以外に夜を照らすものがなく、闇が辺りを覆い尽くしていた。
周りの家々からはすでに明かりはなく、そのかわり椎名家から放たれる光が彼らを照らす。
そして脇に止めてあるバイクにはヘルメットが二つぶら下がっており、椎名家の光を反射していた。

ノパ听)「シューからどのあたりまで聞いた?」

( +ω+)「質問が漠然としすぎてる。具体的に頼む」

ノパ听)「ウツロの倒し方とかこの家の現状とかそこらへん」

( ФωФ)「ウツロの倒し方は聞いた。
        現状は……猫が現れてないからあまりはっきりしたことは言えんな」

ノハ‐凵])「……なるほど」

彼女は目を閉じ、納得する。
そうして鼻からぬるい空気を吸い、肺の中に溜まったそれを口から吐き出す。
それを三回行なった後、ゆっくり目を開けて口も開く。


ノパ听)「んじゃ結論に言おう。
     今、けっこうやばめだから」

(;ФωФ)「はぁ?」



95: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:23:48.03 ID:hIU3hT/x0
いきなり「やばめ」と言われても実感が湧かず、彼は間抜けた声を上げる。
ヒートは彼の態度を見て、左の人差し指を一本立たせて説明に入った。

ノパ听)「昨日祓ったウツロ、覚えてるでしょ?
     あれが再び現界して、凶暴化したらしい。ちょうどロマさんを追いかけていたお婆さんみたいにね。
     シューは今、そっちのほうの対処に追われているの」

それならヒートたちはシューのところへ向かえばいいのでは?「何故こっちに来たのだ?」
そんな彼の慌てた質問を受け、ヒートは静かに答える。

ノパ听)「今は何も起こってないけど、こっちのほうが深刻な事態になりかねないからだよ」

ただ、またも結論から入った答えだった。
おかげで、彼にはヒートが話した以上の事を理解できなかった。
どんな風に深刻なのかと考えてみたが、明確な答えを見つけるにはあまりに靄が多い。
彼はなんとか「kwsk」とだけ言うことができた。

ノパ听)「一度祓ったウツロが再び現界するのはよくあることなんだ。
     でも現界したウツロが一日で凶暴化するのは前例がない。
     そしてこっちのウツロも凶暴化する可能性があるんだよ」

なるほど。
「それでこっちに来たわけか」、彼は納得した。



97: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:26:25.47 ID:hIU3hT/x0
最悪のケースとして二体のウツロが凶暴化する。
片方はシューが対処し、もう片方は彼が対処しなければならなかった。
なのにヒートたちは椎名家にきた。
これはおそらく“信用”という面が出た結果だろう。

シューはウツロ退治に慣れていて、彼はまったくの初心者である。
どちらも危ないだろうが、より危険な方は彼の方なのだ。
慣れがないと、いざという時に戸惑い、しくじる。
しくじった結果がウツロを逃がしただけだったらまだいいが、命を落としたら流石に洒落にならない。

答え合わせするように考えてたことをヒートに伝える。
彼女は頷いてみせた。

ノパ听)「その通り。
     加えていえば獣のウツロはやっかいなんだよ。
     素早い、パワフルなのはもちろんのこと、枝折詩や結界もほとんど効かないんだ」

(;ФωФ)「枝折詩や結界が効かない?」


「どうして?」と言いかけて、ふと、シューが言っていたのを思い出す。



99: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:29:12.15 ID:hIU3hT/x0
  

「そうなんだよねぇ。
加えて言えば、理性を失ってる人のウツロ相手だと、枝折詩はほとんど効かないし、結界も効きづらい。
枝折詩というのはウツロに“ここにいちゃいけない”と悟らせるものなんだ。
結界も視覚 ・ 聴覚に訴えて、誰も近寄らせない、または誰も外に出さない手法だからね」



彼は心の中で自問自答する、「つまりそういうことなのか?」

昔、誰かが言っていた気がする。
「人間は理性があるから人間であり、それがなければ獣同然だ」と。
彼が難しい顔をしていたので、ヒートは彼が理解できなかったと思ったのだろう。
簡単にそれらの対抗手段が効かない理由を話しだす。


ノパ听)「……枝折詩は言葉を用いて相手に“ここにいるな”って告げる詩なんだ。
     言葉が理解できない奴が相手じゃ、まったく効果が見込めないね。
     同じ理由で結界も効きづらい。熊が『クマ出没注意』の立て看板を読めないのに似ているのさ」

「だから」とヒートは続ける。
その言葉はあまり聞きたくないものだった。

ノパ听)「私たちは物理的にウツロを倒すつもりよ」



102: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:33:17.98 ID:hIU3hT/x0
ウツロは肉体の情報を半分持っているため、そのように退治することができる。
シューもそう言っていた。竹刀で訓練したのはそういった理由もあったからじゃないか。

ただし、この方法は“祓う”のではなく、“退治する”なのだ。
傍から見れば猫を虐殺するのと変わらない。
ウツロという免罪符がなければ、後ろ指を指される羽目になるだろう。
さらにいえば、物理的に現世から追い出すときの手ごたえは気分が悪くなること間違いない。

( +ω+)「私の力もあてにしていいんだぞ?」

ノハ*゚听)「んじゃ期待させてもらいますかー」

彼女は不自然な陽気さで笑いだす。
そのおかげで彼は悟った。本心半分強がり半分といったところだろう、と。
冷静に彼女を分析して、彼は悲しくなり、うつむく。
やはり彼女はそのような方法はとりたくないのだ。

再び彼女の顔を見るとすでに陽気な笑みが消えていた。
代わりに少しだけ真面目な表情で彼を見ていた。

ノパ听)「まあこんな切羽詰まった状況だけど。
     でもそのことをしぃちゃんに悟られてはいけないよ」

理由は何となくわかった。
しぃが不安がるからだろう。
彼は回答するとヒートは頷く。



104: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:35:59.74 ID:hIU3hT/x0
ノパ听)「正解。
     だからさっきみたいな受け答えは絶対にしないこと。いいね?」

( +ω+)「把握した。そしてすまん」

さきほど「結界張ってたら猫こないのでは?」と彼は言ってしまった。
しぃとしては来てくれないほうが嬉しいのだから、この発言は失敗なのだ。
反省し、さきほど以上にしぃに気を使う必要があることを理解する。
しぃはしっかりしててもまだ中学生なのだ。
大人が守るべき子供であり、成人になっている彼にはその義務があるのだ。

( ФωФ)「よし、ならばそろそろしぃさんのもとに戻った方がいいだろう。
        あまり長く離れてても不安になるだけだろうしな」

ノパ听)「そだね」

玄関の明かりに近付き、彼は戸に手をかける。
そして開けようとするのと同時に、視界の端で動く何かを捉えた。

(;ФωФ)「っ!!」

びっくりして固まってしまう。
そんな彼をヒートは不思議そうに見る。



105: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:38:42.01 ID:hIU3hT/x0
ノパ听)「ショボンくんがそんなに怖い?」

(;ФωФ)「え?ショボン?」

ヒートの言葉に反応して、動く影をよく見てみる。
猫にしてはやけに大きかった。

(´・ω・`)「やあ、こんばんは。
       指示通り、この家の周りにたっぷり粉末状のマタタビ撒いてきたよ」

(;ФωФ)「こんばんは。
        ……何故マタタビ?」

ノパ听)「今夜現れる猫がウツロだとまだ断定できないし、ウツロだとしても結界は効かないだろうと思う。
     だから手法を変えてみたんだよ。
     こうしておけば、普通の猫は椎名家に現れることはない。
     もし現れたのなら、それは猫じゃない何かだよ」

( +ω+)「なるほどな」

(´・ω・`)「問題点もあるんだけどね。
       暗くて片づけられないから、朝まで放置しなきゃいけないんだけど。
       その間に他の猫が来てしまったら……」



106: ◆pGlVEGQMPE :2009/05/05(火) 00:41:56.32 ID:hIU3hT/x0
ノハ*゚听)「やっべえ、ここら一帯が猫地帯になるのか!!」

(;+ω+)「……」

(;´‐ω‐)「……」


嬉しそうにはしゃぐヒートは置いておこう。
二人の心は見事にシンクロした。
ついでに原因がよく分からない頭痛もシンクロした。


彼らは玄関の戸を開け、家の中へ消えた。








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