( ФωФ)さとりごころのようです

5: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:25:10.89 ID:WhNcS3Ya0
   



  二章 走る幻、仄めく面輪


     幻話 シューとまたんきと



6: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:27:09.56 ID:WhNcS3Ya0
この町は四方が山に囲まれている。

北は『兄者山』、東は『弟者山』、北西は『姉者山』、南西は『父者山』
北東には『妹者丘』、その丘の後方には『母者山』

白い建物ほどではないが、山々に囲まれて軽く閉塞感を覚える。
人々は今、静かに寝息を立てているだろう。
閉ざされた町の中心には田畑や一本杉だけで、夜中に人影がウロつくことはない。
本来ならば、ね。

(;・∀ ・)「……」

lw´‐ _‐ノv「……いないね」

一本杉を見上げる。
夜闇に混じった深緑は「丑三つ時までもうすぐだ」と言っているようで、私を少し焦らせる。
ここにはもう用はない。振り返り、自転車を押すまたんきくんを見る。
彼は首を左右に振るう。

どうやらここで見失ったらしい。
そしてどこへいったか見当もつかないらしい。


白状しよう。こいつ使えねえ。
こんな夜更けにモナーさんの異常を知らせたのはお手柄だけどさ。



8: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:29:39.89 ID:WhNcS3Ya0
さて、ここまでの経緯をまとめてみよう。

まず私は東部のコンビニでまたんきくんと待ち合わせした。
そして彼と接触、そこでちょっとした誤爆。
すぐに気を取り直して、すでに電気を落とした建物の前で何があったか詳しく聞いた。

(;・∀ ・)「暑かったからコンビニへ行ってアイスを買ってこようと思ったんだ」

たしかに暑いからそれは分かる。
アイスを買いにいきたいのも分かる。
ただ、外出した時間はおかしいと思うよ?

そんなツっこみを入れそうになるのを抑えて、彼の話を聞くことにした。



彼の家は東部にある。
東部にも小さなコンビニがあるけど、そこは夜の十一時に閉まってしまう。
そして彼が家を出たのは十一時すぎ。
当然そこのコンビニは閉まっており、別のコンビニへいくことにしたのだった。
二四時間営業のコンビニは西部か南部くらいにしかなく、彼は西のコンビニへ自転車で向かった。

まず行きの途中、一本杉のところでモナーさんを見かけた。

「夜も遅く、こんなところで何をやってるんだろう」
そう思ったらしいが、とりあえず挨拶だけしてその場を去る。
挨拶が返ってこなく、少し違和感を覚えたが、そのまま西へ向かう。



10: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:31:16.47 ID:WhNcS3Ya0
コンビニでアイスを買った後、彼はゆっくり自転車をこいで帰路についていた。
その時の時間が大体十一時四十分ほどだったらしい。
帰り道は行きの道を逆方向へ進めばいい。だから一本杉の前を再び通る。
木の前にまだモナーさんがいるのか、ふと思ったので確認しようとチラリと見る。

そこにはモナーさんがいなく、代わりにガナーちゃんがいた。
ガナーちゃんは一本杉の前に立ち止まるのではなく、北の方へ進んでいた。

(;・∀ ・)「だから慌ててシューに電話をかけたんだよ」



そして電話をかけてすぐに私に会えるように、東部のコンビニで待ち合わせをしたのだ、と話す。
ここまでが彼の話だ。

ウツロを見たから私に会いたいと思ってくれたのは嬉しい。
しかしガナーちゃんを尾行していてくれたらもっと嬉しかった。
何故なら、またんきくんの話を聞いてすぐ行動に移したにもかかわらず、どこかへ消えていたのだから。
ちなみに二ケツさせてもらったから、東部のコンビニから一本杉まで十分とかかってないはずなのに、だ。



12: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:33:20.52 ID:WhNcS3Ya0
どこへ行くこともできないので、大きな杉の木の下で考える。


またんきくんの話を聞く限り、おそらくまだモナーさんは無事だろう。
というのも、一本杉の下にモナーさんの死体がないからだ。
ウツロに肉体・魂の情報を奪われたままにしておいたら、コロリと逝ける。
でも、奪われたからといって肉体や魂が消えるということはないのだ。
推論でしかないが、物質世界……つまり現世のことだが……の物理法則の縛りが強いのだろうと考えられている。
また、ウツロにとって肉体情報はこの世に受肉するために必要だが、大量にはいらないという考えもある。

まあ小難しい話を簡単に説明すると『死体は残る』のだ。
だからモナーさんはここでは殺されていないという結論になる。

しかしモナーさんは依然、危険な状況だ。
時間差があるものの、二者は同じ行動パターンに出ている。
これは死者の記憶とシンクロし、二重存在になっているときに起こり得ることなのだ。
例えていうなら、ものまね士と一緒に行動するのに似ている。

ただしこういう行動が出るときは、ウツロと生者の垣根がほとんどなくなっている状態……
つまり生者が死者に近付いていることを意味している。
モナーさんが憑き殺されるまであまり時間がないというわけだ。


だからなおさら急がなきゃいけないのだけど、手がかりはほとんどない。
正直、こまったよ。



14: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:36:03.64 ID:WhNcS3Ya0
lw´‐ _‐ノv「……よし」

数秒考えて、方針を決めた。
振り返り、またんきくんを見る。
そして告げる。

lw´‐ _‐ノv「悪いんだけど、自転車貸してくれない?」

(・∀ ・)「え?いいけど」

lw´‐ _‐ノv「じゃあまたんきくんはもう帰っていいから」

(;・∀ ・)「え?え?」

lw´‐ _‐ノv「邪魔だっていってるの。
       ここからは私の領分だから」

私のトレードマークであるニット帽を脱ぐ。
夜なので日差しはなく、また、風もないので問題はないと思う。
しかし傷痕に生温い夏の空気が触れただけで、ブルリと体を震わせてしまう。

(;・∀ ・)「でもぉ」

lw´‐ _‐ノv「自転車は明日返すから」

(;・∀ ・)「いやいや、ロマさんに間違われたんだから僕も頑張らなきゃ!!」

lw´‐ _‐ノv「……それは忘れてっていってるでしょ」



16: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:38:08.77 ID:WhNcS3Ya0
またんきくんと会ったとき。
暗いコンビニの前で自転車を止めている彼を見て、私はちょっとした失敗をしてしまった。
人影を見つけるなり、私は彼にこういってしまったのだ、「ロマ?」
……言い訳をさせてもらうなら、今日の彼はロマと服装が似ている。
加えて暗かったので見間違えてしまったのだ。

彼の声を聞いてすぐに訂正したのに。
すぐに忘れるよう言ったのに。

(・∀ ・)「だってロマさんもウツロ退治するんでしょ?
     じゃなきゃシュールと一緒にモナーさんのところに来ないはずだし。
     そのロマさんに間違われたんだ!!漢なら頑張らなきゃ!!!!」

lw´‐ _‐ノv「いい病院紹介してあげるからちょっと黙れ」

バカのくせにこういうときだけ鋭くなるなよ。
あとウツロに関しては男も女も関係ないから。もちろん漢も。


それとも無理矢理黙らせたほうがいいの?
腰にぶら下げている刀の柄にそっと手を置く。
さて、どっちか選べよこの野郎。



18: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:41:19.07 ID:WhNcS3Ya0
その動作を見るや、彼は一歩後退する。
私の行動をわりかし本気だと捉えたのだろう。うん、本気だ。

彼とは中学のころからの付き合いだが、一応同じ小学校出身だ。
ただ小学のころは、同じクラスになったことがなかった。
真面目に顔を合わせたのは中学になってからだった。
それまではお互い、顔は知ってるが赤の他人という状態だったのだ。

彼はいい意味でバカで、私は自他共に認める変人。
すぐに意気投合した。
友達としての付き合いは私も気兼ねなく楽しめた。
彼氏にはしたくない部類だけど。苦労しそうだし。
彼も私みたいなのは彼女にしたくないらしい。苦労したくないからとか。
同性ならどんなによかったか、とお互い真剣に話し合ったことがあったなぁ。


まあ……彼とはまだ三年しか遊んでないが、立派な腐れ縁なのだ。

おかげで彼は、私の秘密にしたい事柄のほとんどを知っている。
それを知っていて私をいじるのだ。正直ムカつく。

lw´‐ _‐ノv「まったく」

柄から手を離すと彼はほっと息をついた。



21: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:43:35.31 ID:WhNcS3Ya0
(・∀ ・)「ねえ?」

lw´‐ _‐ノv「ん?」

(;・∀ ・)「モナーさんは大丈夫なのかな?」

lw´‐ _‐ノv「……先のことなんて誰にも分からんって」

またんきくんに近づく。
自転車を借りると彼はうつむいていた。

私にはそれしか言えなかった。
たしかに未来のことなんて誰にも分からないが、予測はできよう。
そして私の予測は限りなく悪いものだったのだ。
言えるわけがない。

だから彼は邪魔なのだ。
最悪の状況に陥ったとき、おそらくまたんきくんを守る余裕などないから。

lw´‐ _‐ノv「今日はもう帰ってゆっくり休めばいいよ。
       きみにできることはもうないんだから。
       またんきくんの頑張りを生かせるように私も頑張るから」

彼の肩に手を置き、強制的に回れ右をさせる。
そしてその背中をぽんと軽く叩く。
彼は困惑しながらも前へ進みだす。

少しずつ小さくなっていく背中に向けて自然と独り言を口にする。
「絶対納得できてないよなぁ……」、次いでため息も漏れる。



23: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:45:58.79 ID:WhNcS3Ya0
ニット帽を自転車のかごに入れ、携帯で時刻を確認する……零時三分。
またんきくんがガナーちゃんを見てから、約二十分経過している。

lw´‐ _‐ノv「北かぁ」

またんきくんの話から、ガナーちゃんは北へ行ったことが分かっている。
町に中央部から北へ……ということは現在、モナーさんたちは北部にいると考えられる。
しかし、ずっとそこにいるとは限らない。
さらにいうなら、小さい町の北部だけどそれなりの面積もあるし、今はご覧のとおり真っ暗なのだ。
簡単には見つからないだろう。
ペダルを踏み、サドルにお尻を置く。



……ちょっと無茶させてもらおうかな?







戻る次のページ