( ФωФ)さとりごころのようです
- 27: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:49:44.90 ID:WhNcS3Ya0
-
lw´‐ _‐ノv「……見守っててほしいとは思ったけど」
lw´‐ _‐ノv「見られてる、か」
- 31: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:52:01.53 ID:WhNcS3Ya0
-
二章 走る幻、仄めく面輪
五話 彼女と彼と
- 33: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:53:49.71 ID:WhNcS3Ya0
- 内陸に位置する分雲町は、夏でも夜になると少し肌寒い。
昨日と今日の境目を過ぎたばかりで辺りは暗く、人などいるはずがない。
黒色に染まった霧は山裾まで下りてきて、視界を覆う。
だからだろうか。どこか言い知れぬ不気味さが風に乗って流れてきた。
(;´∀`)「ガ……ガナー?ど、どうしたモナー?」
( ‘∀‘)「……」
男は地べたに腰を落とし、少女を見上げている。
どうやら彼は足腰に力が入らないようで、立ち上がろうともしない。
少女がモナーにしたことは、ただ触れただけ。それだけで彼は腰が抜けたようだ。
(;´∀`)「お願いだモナ!何か喋ってくれモナ!!」
( ‘∀‘)「……お、と………ちゃん…」
(;´∀`)「ひっ」
少女は無言で男に近づく。
その動きはひどく遅く、まるで人形が動いているように錯覚してしまう。
人形と男の距離は近い。少女はゆっくりと手のひらを首に宛がおうとする。
彼は昼間の出来事を思い出す。
シューはガナーのウツロが現れたと告げた。
「ならばこれがウツロさまで私は死ぬのだろうか?」彼はぼんやり考える。
(;´∀`)(……でも)
( ´∀`)(これで死ねたら……本望モナー)
- 34: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:55:36.80 ID:WhNcS3Ya0
- 彼が消極的な覚悟を決めた時。
「残念、死なせないよ」
何か細長い物が彼の愛娘の顔に当たり、小さい体を吹っ飛ばした。
彼は何が起こったのか分からず、唖然としていると、先ほど娘がいた場所に人影が立っているのを確認できた。
_,
lw´‐ _冂v「ふぅ、急いで来たから頭がグラグラズキズキするぅ」
人影は左目を隠すように頭を押さえている。
そしてもう片方の手には、この平成の世には似合わないであろう刀が握られている。
それに気づいたモナーはシューに向かって怒鳴り込むが、彼女は軽く頭を振って無視した。
左目に当てていた手を下ろし、倒れている少女に質問する。
lw´‐ _‐ノv「で?あなたはモナーさんを死なせたいの?」
( ‘∀‘)「……」
( ‘∀‘)
( ‘∀‘)「…………い……や…」
lw´‐ _‐ノv「おkおk、上出来」
少女はゆっくりと起き上がる。
シューは少女を見ながら状況を整理する。
- 37: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 21:58:04.82 ID:WhNcS3Ya0
- ウツロの少女はほぼ暴走している。
しかし質問に答えたことから理性はまだあると考えられる。
lw´‐ _‐ノv(なら……)
少女に右手に握る刀を向ける。
それに加え、左手で鞘に納めている刀をゆっくり抜く。
シューは思う。
おそらくガナーちゃんは今夜中にも完全に暴走するだろう。
今はウツロの本能に抵抗していると見るべきか。
動きが極端に遅いのはそのためと考えられる、と。
ならばやってやれないわけではない。
武器はもう出揃っている。
「あとは優しく涅槃の海に帰してあげるだけ」、そうシューは考え口を開く。
lw´‐ _‐ノv「……帰葬、枝折詩」
- 39: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:00:13.36 ID:WhNcS3Ya0
- lw´‐ _‐ノv「枝の数は一七本。
……これを折って五二本。
とりは四九刻かけてこれを燃やそう。
はぜて炎は四つに割れ、其はごうごうと二夜嗤う」
枝折詩。
……お経の効かないウツロを祓うのに、有効な手段がこれだ。
この詩は数え唄を元に作られたとされる。詩の中に数字が多いのが特徴だ。
枝折詩の名の由来は始まりの言葉から、と結構安易な決め方をされたらしい。
lw´‐ _‐ノv「彼の者ら、四名三名。
されど四名は露と消え。なれば三名、炎を見つめ。
ようようとする者一人、かたかた震える者一人。聞こえぬものは一人のみ。
これでのこり三六刻。るりの花弁は九枚墜つ」
この世に言葉で表現できないものはない。
つまり言葉はこの世の全てを内包する。
故にこの世に生まれおちた者に、言葉の力で揺り動かす手法を『言霊』という。
要は一つのコミュニケーションだと思えばいい。
初心者に「半年ROMれ」というように。
「死ね」が挨拶になるように。
言霊はそれらと比べて、少々言葉に力がこもっているが……まあそんなものだろう。
- 41: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:02:31.26 ID:WhNcS3Ya0
- 枝折詩も言霊の一種だ。
正直、この詩の意味を問われても答えられない。
彼女もその意味を正確に知ってるわけではない。
それでもウツロに語りかける。彼らが消えてくれるのを信じて。
信じることが力になる。
言霊で想いを伝えるのに、己すら信じぬ嘘のそれでは意味がない。
このケースに限り、ウツロばかりではなく人同士でもあてはまる。
心のこもった言葉は相手に響くものだからだ。
lw´‐ _‐ノv「空(うろ)に六散。虚(うろ)に七法。
現(うつつ)に三〇端。
我に四一鈴。彼に二一面。梅に一五枝。
のこるるは二四。……二塵から九塵へ」
( ‘∀‘)「…………あ……きゃあ…あ……」
lw;‐ _‐ノv「っ」
目の前の少女は、肺から漏れ出す空気に音を加えて、私を目指して突進してくる。
スピードも先ほどより増したような気がした。
シューは少し慌てた表情をしていたが、すぐにいつもの鉄仮面に戻った。
左腕で上段、右腕で下段の構えを素早く取る。
- 43: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:04:38.51 ID:WhNcS3Ya0
- 二者の距離はそう離れてなかったため、ウツロの少女はすぐに生者の少女の間合いに入るだろう。
そうなる前にシューは動いた。
lw´‐ _‐ノv「とっ」
左に握っていた刀を少女めがけて投げつける。
シューの狙い通り、刀の腹が少女の眉間に当たり、視界を奪う。
そのあるかなしかのタイミングで、少女の視線から解き放たれたシューは自ら距離を詰める。
そして、
lw#‐ _‐ノv「はっ!!」
( ‘∀‘)「ぎっ!」
少女のあごに刃を潰した刀が吸い込まれる。
シューはそのまま刀を振りぬき、少女の頭は夜空に引っ張られる。
前進していた少女の体はその場に止まる。
その隙を見逃さず、シューの回し蹴りが少女の横腹に入る。
ガナーの小さな体が吹っ飛んだ。
「ふぅ」、溜息を吐き、シューは枝折詩の続きを読み上げる。
背後で何か騒がしい気がするが、シューはそれを無視した。
- 45: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:07:19.53 ID:WhNcS3Ya0
- lw´‐ _‐ノv「きぃきぃ、とんとん、二弦で静寂を彩ろうか。
こくこく、四八の羽音は止を塗りつぶし。
るるろろ、数を減らし四七へ。
のこるるは二二」
( ‘∀‘)
lw´‐ _‐ノv「るりを三五埋。はりを一四舞。
いしは五葬。なみは八相。
むしは五一遠。とりは三七恩。にいは三二市。
まりは三四抜。ずがは四〇伐。とうふうは二七本。
うみは二八反。らいかは三九目。へんさんは四五子。
のこるるは一八」
( ‘∀.:*:.。..
lw´‐ _‐ノv「為の三、八丁に欠けよう。
如の心、一死九生となり、命の心、全生絶生とし。
くさの根は音となり二〇の穴を落とす。
我は四度この世を去ろう、されど一度も忘れはせぬ。
望みは五つあれど叶うるものは〇ばかり。
世は現世、幽世、狭間、選ぶは三界から一つのみ。
留まることは許されず、三者三様に応えろ」
(‘.::.。*:.。....
- 47: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:10:02.46 ID:WhNcS3Ya0
- ガナーはシューの回し蹴りを食らったまま、寝ころんでいた。
そしてその間に続けられていたシューの言葉が、倒れている少女を徐々に溶かす。
溶けた部分は光り、まるで蛍のように暗闇に散ってゆく。
lw´‐ _‐ノv「其の願、一つも応じず、三裂にしてくれよう。
者々、二者から三片に別るる。
者々悉く一から〇へ」
枝折詩ものこり一言だけとなった時、シューはちらりとガナーを見る。
体は半分以上無くなっている。足も消えてしまい、もう抵抗することもできないだろう。
シューはなるべく音を立てないように、ゆっくりと刀を一本、鞘に納める。
そうして最後の言葉を紡ぐ。
「 ……一つは二つは塵と消えろ、其が得るものはなにもなし」
- 49: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:12:32.03 ID:WhNcS3Ya0
- lw´‐ _‐ノv「……」
シューはさきほどまでガナーがいた場所を見ていた。
そこには人の形をした何かの姿はなく、代わりに光の雫が中空に浮かんでいた。
彼女は投げた刀を拾い上げ、一本目と同じように鞘に納める。
そしてふと光の雫を見ようとしたが、それらはすでに見当たらなかった。
すべて散った。
今夜はもう出ないことを理解して、彼女は携帯を取り出す。
指が目的の番号をプッシュするとすぐにコール音。
一回、二回……。
三回目が鳴る前に、相手の声が聞こえた。
lw´‐ _‐ノv「おっす、シャキンさん。仕事は片づけたからこっちはもういいよ」
- 51: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:15:05.79 ID:WhNcS3Ya0
-
さて、視点を変えてみようか。
彼の方はどうなっているだろう?
- 53: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:17:11.30 ID:WhNcS3Ya0
- …………
……
ノハ;゚听)「ふぅ」
(;ФωФ)「……大丈夫か?」
ノハ;゚ー゚)「らくしょーらくしょー。
しばらく休んでから外出るから、ロマさんは準備して玄関で待っててね」
(;+ω+)「把握した」
ふと時計を見ると、針は零時二十分を刺していた。
現在、彼らはしぃの部屋に二人っきりだ。
彼は警戒するように佇み、壁に背を預け座りこんでいる彼女を気遣う。
この部屋の主も、主の妹も、坊主頭の寺の息子も、今ここにはいない。
彼はどうしてこの状態になったのか、改めて整理してみた。
- 56: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:20:00.39 ID:WhNcS3Ya0
- 彼とヒートとショボンとしぃ。
基本的な作戦はシューが提案したものを採用して、四人はしぃの部屋で猫の到来を待っていた。
そこでしばらく駄弁っていたが、日付が変わり十分後、しぃは言った「お夜食でもどうですか?」
他の三人はこれに同意し、しぃは部屋を出た。
しぃがいなくなり部屋には男二人に女一人、なおも駄弁り続ける。
というのも、ウツロの猫は午前一時あたりに来ると考えていたからだ。
それまでやることばないので彼らは暇なのだ。
トン、と音が聞こえた。
音の発生源は外からだった。
しかも音はその後も一定のテンポで鳴り続けた。
しぃとつーの部屋は二階にある。
だから誰かがトントンと同じ間隔でノックなどできるはずもない。
疑問に思ったヒートは窓のカーテンを開けて夜闇を凝視して……
何かを確認したヒートは窓を開け、外に飛び出た。
窓の外のすぐ下には屋根があり、ヒートはそこに足を付けるとつーの部屋の窓を目指した。
そしてつーの窓の前にいた何かを掴むと、屋根の下に放り投げた。
すぐにしぃの部屋に戻ってきたヒートは窓を閉め、壁によりかかり、重力のなすがままにズルズルと腰を下ろす。
そして言った。
「……猫が窓に頭突きしてたよ」
- 58: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:22:53.13 ID:WhNcS3Ya0
- ヒートの言葉を聞いたショボンはすぐに部屋を出た。
しぃとつーを一か所に集めて、守るためらしい。
もともと寺の者はウツロから人々を守ることに特化している、と先ほど駄弁っていた時に話していた。
今頃はしぃとショボンはつーの部屋に押し入っているだろう。
つーにも事情を説明しているのかもしれない。
そしてしぃの部屋には彼と彼女が残った。
(;+ω+)「しかし何を準備すればいいのだ?」
ノハ;゚ー゚)「決まってるでしょ。心構えだよ。
一二〇パーセントの結果を引き寄せるためにね」
ヒートはまだ立ち上がろうとしない。
どうやら腰が抜けたらしい。
しかしその原因は『猫が怖かったから』ではない。
凶暴化したウツロは“人”を襲う。
ここでいう人とは、憑かれた人だけではない。
憑かれた人が優先されるのは変わらないが、何も知らない他人もそこには含まれる。
肉体も魂も一が最小値。一を分けて一以下にすることなど本来できない。
故に憑かれた人もウツロも不安定な状態に陥る。
そして凶暴化したウツロは、現世に留まるための肉体 ・ 魂の情報が歪んでしまっている状態なのだ。
だから情報を正すために、奪えるのなら誰からでも奪う。
- 60: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:25:05.23 ID:WhNcS3Ya0
- 「屋根の下に捨てた猫はウツロということで確定したね」
情報を奪われた彼女はそう告げた。
ノハ;゚听)「ロマさんの力は触れなきゃ効果ないの?
もしそういう力なら注意してね。
体が少し触れただけでこのざまだから」
(;+ω+)「触れなくても祓えなくはないが、動く相手だと正直きついな。
……本当に大丈夫なのか?」
ノハ;゚听)「触れた時間が短かったから、腰が砕けた程度ですんでるよ。
情報は持っていかれたけど……体調から考えると少しだけだよ。
だいじょーぶ。もうちょい休めば動けるからさ」
だから先に玄関に行くようにと彼女は告げた。
彼はその指示に従い、部屋のドアを開けて廊下に出る。
「……待ってるぞ」、ヒートの顔を見ずにドアを閉める。
きっと彼女は笑って見送ってただろう。
そんなことを考えて玄関へ向かおうと足を進めようとして、隣の部屋から坊主頭が出てきたので立ち止まる。
(´・ω・`)「どんなかんじ?」
( ФωФ)「ヒートが猫を下に落とした。
ただ、あいつの情報が少しばかり吸われた。
今は休んでいる」
(´・ω・`)「そう」
- 63: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:27:08.91 ID:WhNcS3Ya0
- ( ФωФ)「そっちはどうなのだ?」
(´‐ω‐`)「つーちゃんが起きない。
おそらくウツロに憑かれた影響だろうね。
このままずっと起きないってことはないだろうけど」
( +ω+)「そう、か」
(´‐ω‐`)「……こういうときが一番心苦しいよ。
なんで僕は守りに特化してる寺の生まれなんだろうってね。
攻めに特化した神社の生まれならどんなによかったと、何度思ったことか」
狭い廊下が重い空気で満たされる。
今、ショボンにできることは、しぃとつーを守るという名目で部屋の中に引きこもることしかない。
皆を苦しめる原因から逃げることしかできない、とショボンは嘆く。
( +ω+)「なるほどな。
でもお前の役目も重要なんだぞ?」
(´‐ω‐`)「……わかってるよ」
( +ω+)「ふむ」
( ФωФ)「なあ?ここは私にまかせてくれないか?」
(´・ω・`)「……は?」
- 65: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:30:00.14 ID:WhNcS3Ya0
- ( ФωФ)「今から外に出てあのウツロをぶっ飛ばしてくる。
だから私にショボンの想いを託してくれと言っているのだ」
(;´・ω・)「ちょ、ちょっと!
ヒートさんの回復を待ってからウツロを討つんじゃないの?!」
( Фω+)「そんなの待ってられない。
それにな、個人的にあれに怒りを感じている。
ヒートの情報を奪って、彼女のこれからに何かあったら……」
( +ω+)「死者であろうが記憶であろうが、絶対に許さん」
(´・ω・`)「…………」
(´・ω・`)「どうぶつぎゃくたいはんたーい」
( +ω+)「おい、こら」
(*´・ω・)「はは、まあウツロ相手には頼もしく感じるね。
どうやらとめても聞かなそうだね」
「それじゃあ、僕の分として一発きついのをお願いするよ」
寺の子の頼みを聞き入れて、彼は玄関に向かう。
- 67: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:32:00.99 ID:WhNcS3Ya0
- 玄関に着き、靴を履く。
猫が家の中に侵入するのを警戒して、戸を素早くあけ、風のように身をすべらせる。
結論からいうとそれは杞憂に終わり、彼は何事もなく外にでることができた。
数歩分、前に出ると椎名家の敷地を抜けて道路にでる。
ヒートが投げ捨てたあたりを視界に収めると、そこに夜色に染まった何かがあった。
目を細めてその物体を凝視すると、二点の光がキラリと彼を見た。
( ゚ ゚)
それはピクリとも動こうとせず、黙って彼の動きを観察していた。
聞いた話では、他人の姿をみると逃げるはずなのだが……それだけ目の前の餌が恋しいのだろうか?
( +ω+)(……)
( Фω+)(……どうでもいいか)
彼は思考を中断して、感覚の目を見開く。
- 70: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:35:06.23 ID:WhNcS3Ya0
- 彼の視界にフィルターがかかる。
パノラマは新たな色を重ね、風景を濁らす。
白は紅く、灰色は黄色く、黒は緑に。
普段見えないであろうそれらは、彼に色として教えてくれる。
色は混ざり、そして分かれ、滲み、点在する。
椎名家の居間より酷い色彩の混雑に、彼は眼を痛ませる。
猫を見た。
それの姿に重なるように様々な色が蠢いている。
彼が魂を見るとき、魂は宙に浮いた水のように見える。
魂に特定の形はなく、それゆえに揺らいでいるからだと、昔、とある坊主に教えてもらった。
だがこの猫の魂は歪だと彼は感じた。
魂の揺らぎが激しすぎる。まるで野球のボールのようにグルグルと流動している。
その様は、隙間ができた魂が自分で穴を埋めようとしているようで……生々しい気持ち悪さを感じた。
( ゚ ゚) マーオ
(;Фω+)「くっ」
猫が彼に向ってきた。
彼は反射的に蹴り上げるが、猫には当たらず空を切る。
視界から消えた猫を急いで探すと、塀の上で光る猫の目を見つけた。
- 72: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:37:42.65 ID:WhNcS3Ya0
- (;Фω+)「これは……」
彼は驚愕する。
そして自分がやろうとすることの大変さを知る。
猫は彼に飛びかからない。
野生の本能なのか、それとも魂の本能なのか……彼が危険だと感じているのだろうか。
一定の距離を保ったまま、光る瞳で観察する。
彼が近付くと距離をあける。
(#Фω+)「はあっ!!」
距離をあけられるから近づく。何度も拳を振るう。
それでも彼の努力は向かわれず、猫は全てを避けきる。
体力と時間だけが無駄に消費されてゆく。
熱い体はブレーキが壊れたようにがむしゃらに動き続ける。
冷静な思考は動きを止めるように告げるが、彼は無視する。
が、やはり限界はくる。
無酸素運動を続けていた体は、新鮮な空気と休息を欲して立ち止まる。
まるでそれを待っていたかのように猫は彼に飛びついてきた。
- 74: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:40:41.15 ID:WhNcS3Ya0
- (;Фω+)「っ」
猫は彼の頭に狙いを定めて飛んでくる。
彼の体は急に重くなり、宙を浮く猫がスローに感じた。
「……ふぁ〜…」、なにか聞こえた気がした。
(;Фω+) (゚ ゚ )
(;Фω+) (゚ ゚ )
(;Фω+) (゚ ゚ )
(;Фω+) ┻━━)゚ ゚)、;'.・
(;Фω+)「は?」
「……ブーメラン」
- 76: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:42:39.86 ID:WhNcS3Ya0
- 彼の背後から飛んできたトンファーは、猫に当たり、小さな体を吹き飛ばす。
しかしやはり猫というべきか、空中で崩した体勢を整えて無事、着地する。
「待っててっていったのに……」、背後の声が近付いてきて、ついには彼の真横に女性の姿が現れる。
ノパ听)「なーんで先走っちゃうかなー?」
(;Фω+)「ヒートか」
ノパ听)「少し休めば回復するっていったのに」
( Фω+)「……」
ノパ听)「いったのに」
( +ω+)「……ごめん」
ノパー゚)「分かればよろしい」
彼らは目を合わせずに会話する。
視線は猫に突き刺したままであり、会話が終わると意識もまた猫に向ける。
( ゚ ゚) フーッ
ノパ听)「さーて、にゃんこ。
少しとはいえ、よくも私の情報を奪ってくれたね。
まさか私から逃げるつもりはないよねえ?」
- 78: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:45:35.25 ID:WhNcS3Ya0
- 「同調して奪っていったんだ。ロマさんより食いやすい餌を放りだせるかな?」
右手のトンファーをくるくる回して、ヒートは前に出る。
彼女に倣って彼も猫に近づこうとしたが、ヒートにとめられる。
「もうすこし待ってくれたらチャンスが訪れるから」、その言葉を聞き、彼の足は地に縫いつけられた。
なんだかヒートが怖い、彼は冷や汗をかきながら思う。
さきほど彼が待たなかったのをまだ根に持っているのだろうか?
彼女はどんどん猫との距離を縮める。
ノパ听)「ロマさんに獣の対処法を教えてあげるよ」
( ゚ ゚) ……
( ゚ ゚) フガーッ
猫が飛びかかってくる。同時にヒートは残り一本のトンファーを捨てる。
さきほど彼にしたように、猫は彼女の頭に向かってゆく。
ヒートの重心が若干うしろへ下がった気がした。
猫は牙をむき、爪をたて、彼女を引き裂こうとする。
そうしてもうすぐ爪や牙が彼女の頭に届くだろうという距離になって、
ノハ#゚听)「ふっ」
短く息を吐き、素早く前に出て、右の掌を以って猫を掴みとる。
そして勢いを殺さず、掌を掴んであるものと一緒に地面にたたきつけた。
- 80: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:47:49.46 ID:WhNcS3Ya0
- ノハ#゚听)「ロマさんっ!!」
(;Фω+)「応っ!!」
ヒートは彼の名を叫ぶ。彼も呼びかけに応じる。
しかし彼は呼ばれる前にすでに駆けだしていた。
彼女は今、素手でウツロを押さえている。
それがどれほど危険かは、椎名家をでる前に彼女が体を張って教えてくれた。
「急がなくては」、彼は焦りながらも彼女の手に潰され、暴れているそれを刮目する。
フィルターをかけられた彼の視界の中心、いくつかの情報を蓄えた歪な魂。
それらを分解するイメージを頭に宿す。
しゃがみ込み、それでも手を放さないヒートの傍による。
彼女もつらいだろうが、彼はヒートを見ず、声もかけなかった。
早くこのウツロを祓うことがヒートのためになると信じて。
彼は腰をかがめ、指先がそっと猫に触れる。
その瞬間、くらっと立ちくらみがしたが、力を足に込めて体勢を維持する。
(#Фω+)「これで……終われっ!!!」
頭に溜めこんだイメージを指先から放出した。
- 82: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:50:20.49 ID:WhNcS3Ya0
- ( ゚ .:*:.。.. ギャース…
猫は無数の蛍となって崩れてゆく。
そして猫という形がなくなり、蛍たちが消えたのを見計らって、彼らは地面に腰を落とす。
ノハ;-凵])「ふぃー……つかれたぁー」
(;ФωФ)「ああ、そうだな。
ところで、またウツロに触れてたが具合は大丈夫か?」
ノハ;゚ー゚)b「だいじょーぶ。
元気だけが取り柄だし、原因であるウツロも消えてくれたからね」
ヒートは親指を立てて笑ってみせる。
ただ夜闇と合わさって、親指を立てた手が赤黒く染まっているのは洒落にならない。
押さえ方がまずかったのか、右手の平にはひっかき傷や噛まれた痕が見受けられる。
彼女は言った。
ノハ;゚听)「だって獣を倒すと考えたら、下手に身を守るのはかえって長引かせて危険だもの。
てっとり早く終わらせるには『肉を切らせて骨を断つ』戦法でいかなきゃ。
鉄砲とかあれば別だろうけどさ」
(;ФωФ)「というか早く戻って治療しなきゃ!」
ノハ;゚ー゚)「はいはい、それじゃあしぃちゃんやショボンくんに診てもらうよ。
つーちゃんの状態も見たいしね。
ロマさんはもうちょい休んでいくといいよ」
(;+ω+)「いや、外で休んでもな……。
ここにいても意味ないし、蚊に刺されるだけだから」
- 84: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:52:55.03 ID:WhNcS3Ya0
- ノハ*゚听)「んじゃ一緒に戻るかね?」
(;Фω+)「ああ」
二人は立ち上がり、椎名家へ足を進める。
傍目から見ると、どちらもフラフラしていて少し危うい。
彼はぼうっとした頭を振り、今さらなことを思い出す。
「そういえば、あのウツロにはショボンの分しか与えてなかったなあ」、と。
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