( ФωФ)さとりごころのようです

88: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 22:58:42.40 ID:WhNcS3Ya0
   



  二章 走る幻、仄めく面輪


     仄話 私と誰かと



90: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:03:11.73 ID:WhNcS3Ya0
『 VIP STAR 』……ご存じ、我が携帯の着メロだ……が静寂を破る。

シャキンさんに連絡を入れてからしばらくして、今度は私に電話がきたみたい。
画面をみると、知っている名前が現われている。
通話ボタンを押して耳に当てると、名前の通りの人物の声がきこえた。

lw´‐ _‐ノv「はいはい、こちらシューですよー」


lw´‐ _‐ノv「……うん……うんうん、分かったー」


lw*‐ _‐ノv「もちろん電話に出てるんだからもう終わってるさー。
       んじゃ私はこのまま家に帰るね。
       ……うん、おやすみー」

話が終わり電話を切る。ぽちっとな。
相手はヒー姉だった。
どうやらあちらも終わったご様子。

さて、私も家に帰ろうか。
そう思い踵を返そうとして、立ち止まる。


lw´‐ _‐ノv「っと、そうそう」



92: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:05:18.96 ID:WhNcS3Ya0
lw´‐ _‐ノv「何か言いたいこととかある?」

( ´∀`)「……」

私はモナーさんに向き直る。
今日の昼……といっても日付は変わったのだが……の様子から考えれば、彼はガナーちゃんを消されたくなかったはず。
文句はききたくないけど、今のうちに何か意見をきかないと後々引きずる。
きいても引きずるケースは多分にあるが、今、何もしないよりはマシだ。

私の苗字は『砂尾』。
ウツロを祓うのが私たちの仕事といっていい。
でも、かつての愛しい人を消されるのは誰だって抵抗はある。
だからあーだこーだ言われることだってある。

そんなわけであなたの生の声をきかせてほしい。
私はどんな言葉でも受け流すから、どんどん罵声を飛ばしてみ?


( ´∀`)「どうしてモナ?」

どうして?
どうして、というのは「どうして祓ったのか?」ということかな。
だから仕事なんだよ、仕事。
私たちはウツロを例外なく祓わなきゃいけないのだ。
ここで例外を作ってしまえば、現場で判断に困ってしまうよ。

そこあたりを簡単に説明したけど、どうも反応が鈍い。



94: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:09:19.48 ID:WhNcS3Ya0
モナーさんの様子からすでに分かっていたことだが、彼は何が起きたか受け止められずにいる。
簡潔にいうなら混乱状態。むりもないと思う。
とりあえず今の彼から生きた言葉をきくことはできないだろうね。

なら。
私から少しだけ言わせてもらおうか。

lw´‐ _‐ノv「死ぬっていうことはつまり、忘れるってことなんだよね」

( ´∀`)「……?」

彼は首をかしげる。
私のいったことが理解できていないみたい。
言葉自体は、某海賊マンガでもおんなじ物が出てたと思ったけど?

ただ私の言葉は、厳密にいうならマンガと少し違うけどね。


lw´‐ _‐ノv「魂は現世で肉体とともに生きてゆく。
       そして様々なものを学習して、記憶して、自我のようなものが出来てくる」

( ´∀`)「さっきからなにをいって……?」


モナーさんの疑問を無視して私はさらに話す。



96: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:12:20.09 ID:WhNcS3Ya0
lw´‐ _‐ノv「そして肉体が死んだら幽世に魂が流れる。
       その際、魂は現世の垢ともいうべきものを落としてゆく。
       現世の垢とは何か?
       ……それは思い出であり、感情であり、作り上げた自我である」

そうして魂は浄化されてさらに先に進める。
先とは極楽浄土だったり、輪廻転生した現世だったり、はたまた天国だったり。
まあ宗教によっていろいろな考え方があるけど、大体そんなんだよ。

lw´‐ _‐ノv「その現世の垢と誰かの心がシンクロするから、ウツロが生まれるんだ。
       以上、ウツロの生まれ方の解説でしたー。
       ……私が何をいいたいか分かるかな、モナーさん?」

(#´∀`)「……」

モナーさんは無言のまま、しかし不穏な何かが体から滲み出ている。
おそらく私の話を完全に理解できてはいないだろう。
今の話は「ウツロがどのようにできるか」という疑問の、寺と神社の仮説だ。
一般の人はこんなのを知る機会などないし、こういう話はある程度馴染みがないと頭に入らない。

でもおおまかに、もしくは部分的になら理解できたはず。
じゃなきゃこんな不穏な空気などにはならないだろうから。


(#´∀`)「本物のガナーは……私のことを忘れているから。
      ガナーは死んでいるから、もう忘れろというモナか?」



98: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:14:38.75 ID:WhNcS3Ya0
ぴんぽーん、と言ったらモナーさんはどんな行動に出るだろう?
今のモナーさんは怒ってる。
今は敏感だから彼の感情が手に取るようにわかった。

幸か不幸か、実におしい回答なんだけど。

モナーさんの答えは間違っているので、彼の怒りに油を注ぐ結果だけは避けそうだ。
でも、正解は今の彼を突き落とすには十分なものだと思う。
あまり気が進まないけど、私は言った。


lw´‐ _‐ノv「モナーさんが会いたいと願っても、もう会えないってことだよ」

( ´∀`)「え?」

モナーさんは呆気にとられる。
今の言葉は理解できない、というより頭に沁み入ってないかんじだ。
私は言葉を重ねた。

lw´‐ _‐ノv「つまりどんなに死にたいと思っても、無駄だってこと」

(;´∀`)「っ!!」


あ、今度は通じたみたい。



101: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:19:23.55 ID:WhNcS3Ya0
死ぬということはつまり、忘れるということだ。
幽世に魂がゆくと、魂は現世で蓄えてきた思い出がきれいさっぱり洗い落とされる。
そうやって魂は穢れのない状態になる。
そして現世の垢というべき記録の一部が誰かとシンクロしてウツロが現界する。


ウツロが現れたということはつまり、幽世の彼女はもうモナーさんを覚えてないのだ。


もちろんこれは良いことである。
ガナーちゃんは化けて出てくることはない、と言っているようなものだから。
しかし、その魂は清められていっている。
故にあの世で会おうとしても、生前の性格などの特徴も消え失せて、しかも相手は彼に関心を持たない。
……会えるはずがない。


( ´∀`)「……死にたいと考えていたこと、よく気づいたモナ」

lw´‐ _‐ノv「それはもちろん。
       もうね、今のモナーさん、見てらんなかったからね」

( ´∀`)「そんなに?」

lw´‐ _‐ノv「そんなに」



103: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:21:28.64 ID:WhNcS3Ya0
「そうか」、モナーさんは涼しそうにつぶやいた。
しかしそれはあくまで表面上だけ。
心の内ではどうしようもないモヤモヤが渦巻いているだろう。
私は一歩、彼に近づく。

lw´‐ _‐ノv「もし死にたいのなら私が優しく殺してあげるけど?」

さらに一歩近づく。
物騒な言葉はしかし、彼は平然と受け止めていた。
もっといいリアクションがほしいと思ったのはナイショ。

lw´‐ _‐ノv「でもその前によく考えてみて。
       私が殺すにしても、自殺にしても、ウツロに殺されるにしても……。
       それらは全部、ガナーちゃんへの想いがそうさせているということを」

どんどん近付く。
「ガナーちゃん」という単語に反応して、わずかに動く気配が一つ。
モナーさんが死にたいと思ってたのは分かる。
しかしそれがガナーちゃんへの想いが原因なら、どちらにとってもつらいだろう。

私はモナーさんの目の前に立つ。
見上げ、彼の顔を見つめて問う。


lw´‐ _‐ノv「モナーさん、自分の娘に親を殺させる覚悟はある?」



105: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:24:42.09 ID:WhNcS3Ya0
彼の顔はよく見えない。
暗いせいなのか、はたまた違う理由なのか。
……答えは分かるけど、暗いせいにしておこう。

両手を伸ばす。
暗闇の中、何かを掴み取ることができた。
ゆっくりそれを引き寄せ、腕の中にしまう。

lw´‐ _‐ノv「……例えウツロだとしても、あれはモナーさんの娘さんだ。
       会えて嬉しかった?
       それとも悲しかった?
       もっとずっと一緒にいたかったのかな?」


lw´‐ _‐ノv「でも、あなたの娘さんはもう違う世界の住人だ。
       もう会えないのは絶対なんだ。
       会おうと考えても駄目だよ?」


lw´‐ _‐ノv「そんなことを考えたら彼女は悲しむ。
       すでに彼女はいないし、悲しみようがないと言われるかもしれないけど。
       でも絶対悲しむでしょうよ。少なくともあなたの中の彼女は、ね」


lw´‐ _‐ノv「死ぬっていうことはつまり、忘れるってことだから。
       忘れてなければ、彼女はあなたの中で生き続けてくれる。
       ……詭弁かもしれないけど、それでもその考えを貫いてほしい。
       心の中の彼女が笑えるモナーさんになってほしい」



107: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:27:30.59 ID:WhNcS3Ya0
lw´‐ _‐ノv「まあ、なんだ。
       まだ亡くして間もないし、しばらくはつらいと思うけど。
       そんなときはワンワン泣いて、心のモヤモヤを吹っ飛ばしてほしい。
       そうやって頑張ってみてはどうだろう?
       私も応援するからさ」


腕の中のものを見る。
反応はないが、それでもいい。
私にできることは言葉を投げかけることだけだから。
どうか元気を出してもらいたい。
がんばれ、パパ。


lw´‐ _‐ノv「…………応援っていっても、今できるのは胸を貸すことくらいだけどね」


( ´∀`)





(  ∀ ) グス…



108: ◆pGlVEGQMPE :2009/06/12(金) 23:29:52.96 ID:WhNcS3Ya0
……その後、起こったことはそれほど多くはない。

モナーさんは大泣きしたこと。
感想として、大きな子供を相手していたみたいだった。
私は彼の背中を静かにトントンと叩いてあげた。
深夜で嗚咽以外の音は何もなかったが、周りに家がなかったことが幸いだった。

おかげで服はグズグズになるし、帰りの時間も少し遅くなってしまった。
しかもガナーちゃん祓うときに覗かれもしたし、よけいな神経使いすぎたよホント。



ああ、今日は疲れたなあ。









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