( ФωФ)さとりごころのようです

78: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:25:04.66 ID:zC5zpbd/0
   



  三章 影法師


     三話 朧目奇談



79: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:28:18.20 ID:zC5zpbd/0
彼が霊に憑かれた明くる日の朝。
朝食を終えた後、彼はヒートとシューに問いかけた、「体調は大丈夫か?」
ヒートはいつも通り元気だといい、シューはぼちぼちと答えた。
ちなみに彼自身も、疲れが癒えないなんてことはなかった。

( +ω+)「ふむ……やっぱり昨日話した通りなのか?」

lw´‐ _‐ノv「じゃないの?」

('∀`) ボク、ワルイレイデハアリマセンヨ

話の中心は昨日の霊について。
通常、霊にとり憑かれると己や周りに悪影響を及ぼす。
ただ、この霊は彼にとり憑いているわけではなかった。
そのことは彼自身が一番よく分かっている。

おそらくは彼の霊力みたいなものに惹かれただけだろう。

と、昨日シューと話して出した結論だ。
そしてこの霊は無害そうなので、処遇は“放置”ということに決めた。

理由は二つ。
一つは、いたずらに手を出せばどうなるか分からないから。
昨夜、シューの部屋で彼は思いっきり手を出したが、この霊が暴れだすことはなかった。
そのことから、『無害な霊である』ことと『彼には祓えない』ことが分かり、
したがって『あまり手を出し過ぎてキレられたら困る』という答えが出た。

一応どうにかできなくもない。
寺に頼んでお経などを読んでもらえば、おそらく解決するだろう。
ただ、それは最終手段としてとっておくことにした。



81: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:31:09.72 ID:zC5zpbd/0
理由の二つ目は、シューがシャキンを苦手としているから、だ。
昨日のシューは面白かったなと、彼は思う。
無表情でいて、それでも必死な心境がありありと伝わってきたのだから。

浮遊霊ならそのうちどこかへ行くだろうとか。
わざわざ和尚の手を煩わせることはないとか。
あの和尚に目をつけられたくないとか。

一応、どうして和尚に苦手意識があるのか聞いてみた。
曰く、「あの人の同情めいた考え方が気に食わない」とのこと。


( +ω+)「シャキンさんに頼めばいいのになあ〜?」

lw´‐ _‐ノv「分かってて言ってるでしょ?」

( Фω+)「毛嫌いする理由もイマイチ理解できてないからな。
        あの和尚はそんなに心汚い人ではないだろう?」

lw´‐ ,‐ノv「そうだけどさぁ……」

('∀`) ヒーチャン、ハアハア…


(#+ω+)≡つ)∀ )、 ; ' . ・


コレのことはヒートには内緒だったりする。



84: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:34:04.75 ID:zC5zpbd/0
ちなみにヒートは今、家にいない。
「夏祭りの件で町内会に顔を出している」、と家を出る前に本人が言っていた。
だからこそ今、この霊の話もできるわけだが。

そんなわけで彼らは居間でテレビを見ながらくつろいでいた。
「さて、今日は何をしようか」、彼は考えようとしたがやめた。
というのも、今日も予定がないのだ。

( ФωФ)「ないなら、適当に過ごしてもいいよな?」

lw´‐ _‐ノv「だめだよ」

( +ω+)「そうか、残念だ」

砂尾家に居候させてもらってからまだ数日しか経ってないが、彼もずいぶん慣れたようだ。
蝉の声がどこからか聞こえはじめ、朝の空気が蒸し暑くなっていく。
二人の前にあるテーブルには、コップに注がれた麦茶がある。
そんな中で彼らは居間でのんびりテレビを見ていた。
時刻は九時をちょうど過ぎたあたりで、『モテる男、女』というタイトルで特集をやっていた。

lw´‐ _‐ノv「……」

( ФωФ)「……」

lw´‐ _‐ノv「……ガイアが俺に輝けと言っている?」

( +ω+)「サブタイトルは読まないでおこう、な?」



86: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:37:23.78 ID:zC5zpbd/0
美男、美女(自称含む)たちが変わるがわるテレビの画面に映し出される。
そうしてモテるファッション、メイク術などが紹介されてゆく。

lw´‐ _‐ノv「昇天ペガサスMIX盛りかぁ。
       あれってモテるの?」

( Фω+)「さあな。
        流行ってやつだろう。
        モテるかどうかなんて分からん」

lw´‐ _‐ノv「ロマ的には?」

( +ω+)「正直、あれはない」

lw´‐ _‐ノv「ふぅーん」

ふと思い出し、彼は軽く居間を見回す。
あの霊がいつの間にか姿を消していたのだった。
昨晩から痛い思いをしてきたからだろうか?
正直、このまま帰ってこないでほしいと思う。


lw´‐ _‐ノv「……イケメンかぁ」



lw´‐ _‐ノv「ところでロマってイケメンなの?」

(;ФωФ)「え゛?」



89: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:40:35.94 ID:zC5zpbd/0
(;+ω+)「……んー」

随分と答えづらい質問である。
彼の個人的な考えとしては、ブサメンではない、と思っているらしい。
とりあえず今まで周りから言われてきたことを思い出して、意見をまとめる。

(;+ω+)「老け顔とかコワモテとか言われたりはするが。
        ブサメンではないんじゃないかと……」

lw´‐ _‐ノv「ほう?」

(;ФωФ)「というか、そういうのは分かるものじゃないのか?」

だからこそテレビでもそういう特集があるのだろう、と彼は言う。
それに対してシューは無言で画面を見つめる。
こころなしか、少し気まずそうだ。
「どうしたのだ?」、彼が尋ねるとシューは曖昧な返事をして、すぐに黙る。

lw´‐ _‐ノv「……」

( +ω+)「……」

なんだか微妙な空気ができあがる。
二人は黙って同じ場所を見つめている。
テレビでは陽気な音楽がむなしく流れていた。



90: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:42:50.06 ID:zC5zpbd/0
lw´‐ _‐ノv「ねえ、ロマ」

( ФωФ)「なんだ?」

lw´‐ _‐ノv「ちょっと、聞きたいんだけどさ」

数秒、間を置いてからシューは彼に尋ねてくる。
どうもいつもの彼女と様子が違う。
おどおどしていてどうにも歯切れが悪い。

lw´‐ _‐ノv「もしも、さ」





         「 私がおかしくなっても、ロマは普段どおりに接してくれる?」





彼女の言葉が耳に入る。
テレビの音が少し遠ざかった気がした。



91: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:45:24.69 ID:zC5zpbd/0
( ФωФ)「……」

lw´‐ _‐ノv「……」

( +ω+)「それはどういう意味だ?」

lw´‐ _‐ノv「言葉通りだよ」


小さな彼女だが、さらに小さくなったように見えた。
「おそらく何を聞いても、今の彼女からはまともに答えは返ってこないな」、彼は思う。
そして先ほどの言葉の意味をよく咀嚼して、自身の考えを導く。

そうやって出た答えは、この一言に集約されていた。


( +ω+)「何をいまさら」


シューは首を傾ぐ。
彼の答えをよく理解できていないようだ。
なので、彼はさらに言葉を重ねてシューに聞かせる。



92: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:47:53.72 ID:zC5zpbd/0
( ФωФ)「お前は自分で言っているじゃないか、『変人』だとな。
        だからいまさら、なんだよ」

目の前の彼女は、黙って彼の言葉を聞いている。
「今の状態で変人なら、これからおかしくなっても変人だろう?」と彼は言う。
彼の知っているシューは、自分が変人だといっているのだ。
例えこれからおかしくなったとしても、今の彼女と違いがあるだろうか?

だから今と変わらず、シューに接する。
言葉にはしなかったが、その意味に気づいた彼女はわずかに微笑む。

lw*‐ _‐ノv「そうだね、いまさらだね」

(*ФωФ)「だろ?」


lw*- o-ノv「あー、変人って言っておいてよかったー」

(*ФωФ)「だろ?」



(;ФωФ)「……あれ?」



93: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/17(月) 23:50:04.20 ID:zC5zpbd/0
シューの言葉の意味に気づき、彼は戸惑う。
「変人って言っておいてよかった」、と彼女はいった。
彼はいままでの会話から、ある事実を察した。

まるで彼女はおかしくなるのが確定してるみたいだ。
もしくは『変人』という言葉で予防線を引いてたみたいな言い方だ。
片目を閉じて、額に人差し指を置き、深く考える。
頭の中に作られた迷路を進み、出口に近づいてゆく。

しかし、出口の目の前で厚い壁が現れた。
その壁は自分の力では壊せない。だから聞いてみた。

( +ω+)「正直に答えてくれ。
        その“変人”というのは、お前の秘密に関係しているのか?」

lw´‐ _‐ノv「……」

シューは無言。
さきほどの彼女から発せられた明るい空気が消えうせた。
「 YES 」とも「 NO 」とも判断がつかないはずの返答は、しかし明確な答えになっていた。

( Фω+)「そしてその秘密は霊が見える力、というわけではないな?」

やはり答えは沈黙。
彼は片目でシューを凝視して迷路の出口を目指す、「……いや、違うな」

( +ω+)「霊視も秘密に含まれるのか。
        ただ、それとつながった何かがあるか、または別の秘密もあるか……だな」



99: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:09:40.05 ID:PgNfJB0W0
シューは彼が問いかけても、変わらずテレビを見つめる。
いつものように無表情で眠そうに細める目はしかし、自身の心を映していた。
彼女のトレードマークであるニット帽だけが、彼女の存在を強くアピールする。

彼女は静かに流れるような動作でコップを手にとり、麦茶を口に含む。
それを飲み込み、次いで軽く息を吐いたあと彼に問う、「読心術でもあるの?」

lw´‐ _‐ノv「というか、ロマってたまに鋭いよね」

( ФωФ)「それはお前のほうが、だろ?」

読心術というものがあるとしたら、シューの方こそ素質があるだろう。
ごく稀にだが彼の考えを鋭く読みとる時がある。
雰囲気がぼんやりしているシューに心を見透かされると、どきりとする。

( +ω+)「で、どうなんだ?」

lw´‐ _‐ノv「……」


lw´‐ _‐ノv「そうだね。
       あとで話すつもりだったけど、やっぱ今話しておくべきだね」


その言葉は彼に言っているというより、むしろ彼女自身に言い聞かせているみたいだ。



101: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:14:08.14 ID:PgNfJB0W0
lw´‐ _‐ノv「まずはロマ、私の顔を見て。
       私きれい?」

( +ω+)「口裂け女じゃあるまいし。
        鏡で自分の顔を見てきて判断しろ」

彼の本心として、シューは綺麗というより可愛らしい女の子だ。
ただし、そのことを本人に伝えるのはひどく照れくさい。
さらにいえば、それを聞いたら彼女になめられてしまるだろう。
そんな考えがあったから、彼はぶっきらぼうに答えてしまった。
しかし、シューはその反応がお気に召さなかったらしい。そして言った。

lw´‐ _‐ノv「私が見たって分からないんだよ。
       私じゃ駄目なんだから」

( +ω+)「謙遜か?それとも私の口から言わせたいだけなのか?」

lw´‐ _‐ノv「どっちも違う。
       だから私じゃ判断できないんだってば」

( Фω+)「ぬ?」

彼女のその返事に違和感を覚えた。
謙遜とも彼に言わせたいわけでもない。
彼女では判断できないから、彼に確認してもらおうというニュアンスだ。

lw´‐ _‐ノv「……訂正。やっぱりロマの口から聞きたいのもあるわ」

(;+ω+)「おい」



103: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:18:07.55 ID:PgNfJB0W0
ただ、今の会話で「もしかしたら……」と悪い考えが頭をよぎる。
しかしその考えは現実的ではない。
シューは霊視ができ、ウツロを祓っている。
そんな特殊な境遇だからといって、“見えなくなる”なんてことはありえないだろうと彼は考えを纏め、

シューはその思推を鋭く読みとった。


lw´‐ _‐ノv「今考えているとおりだよ、残念ながらね。
       私は人の“顔”を認識することができないんだ」


シューは言い切った。
そして彼女は彼の様子を見守る。
彼はというと、驚き、戸惑う。

今の話が嘘だとシューが言ったなら、おそらくそっちを信じてしまうだろう。
しかし、彼女はいつまでたっても否定しなかった。
代わりに別の言葉を以って話を進める。



105: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:22:59.49 ID:PgNfJB0W0
lw´‐ _‐ノv「パターン認知って言葉、知ってる?」

(;ФωФ)「……いや」

唐突にシューの話が変わった。
いや、変わったというより、今までの話の補足説明みたいだ。
その言葉が、顔が見えないことと何か関係しているのだろうか。
シューは水滴で濡れたコップに触れる。

lw´‐ _‐ノv「パターン認知っていうのはね、脳の働きの一つなんだよ。
       簡単にいうとね、三角は三角、四角は四角、丸は丸って具合に……っと。
       まあこんな感じで文字や物を見たとき、特定のパターンと照合して形を認識する働きなんだ。
       ちゃんと形になってる?」

( Фω+)「ん……ちゃんと丸、三角、四角に見えるぞ」

彼女の濡れた指はテーブルに図形を描いていた。
その丸、三角、四角は水が伸びないために線が途切れ途切れになっている。
シューは話を続ける。

lw´‐ _‐ノv「パターン認知はここに描いた図形以外にもある。それこそたくさんね。
       だけど私の頭は、その中の一つがこぼれ落ちてしまったみたいなんだ。
       それが“顔のパターン”なんだよ。
       実をいうと、こんなに近くでロマの顔を見ても私には分からないんだ」

(;ФωФ)「どうしてそんなことに…………あ」

彼の目がある一点に縫いつけられた。
シューの頭を隠す色鮮やかなニット帽に。
それを被っている理由はたしか、傷跡が染みるからではなかったか。



108: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:26:37.93 ID:PgNfJB0W0
lw´‐ _‐ノv「人は眼で見て脳で視る。
       私たちは眼で見たものを脳で処理して、視覚による世界を認識している。
       そのことをよく分からせてくれるものの一つに、錯覚というものがあるね。
       あれは脳の認識を誤解させて生まれる現象なんだよ。」


シューは「まあ錯覚は置いておくとして」と一旦区切り、


lw´‐ _‐ノv「重要なのは『脳がおかしくなると世界の認識もおかしくなる』点だよ。
       これは何も視覚的な部分だけの話ではないよ。
       例えばだけど、精神的に病んでる人は世界の認識も普通とちがう。
       私は病んでいないと自覚してるけど、やっぱり皆とは認識がちがうんだよ」

精神は正常だけど脳はキズモノだからね、と続けた。
だからイケメンとかブサメンの判断もつかないらしい。
彼女の話を吟味し、疑問を一つ投げつけてみた。

(;ФωФ)「お前、私が初めて砂尾家に来たとき、私のまぶたの痣をなぞったよな。
        あれはお前が私のまぶたに異常を感じたからではなかったのか?」

つまり、「本当に顔が見えてないのか?」という遠まわしの確認だった。
それにシューは丁寧に答える。

lw´‐ _‐ノv「顔が“見えない”んじゃなくて“認識できない”んだよ。
       目とか鼻とか口とか……別々なら認識できる。
       ただ、それらをまとめた全体像を見ようとすると、なんかぼやける」



110: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:30:25.50 ID:PgNfJB0W0
(;+ω+)「にわかには信じられんな」

lw´‐ _‐ノv「信じられなくても事実なんだよ。
       物心つく前に顔のパターンを失ったから、私の記憶には顔の概念すらないし。
       だから私は人の表情に対してのみ、盲目であるんだ。
       ……個人的な考えだけど、それが霊視能力につながったんじゃないかな?
       五感のうちの一つが衰えると、他の感覚器官が鋭くなるという話もあるしね」

それは、「視力の低い人は耳がいい」という感じの話だろうか。
たしかにそれはあり得なくもないと思う。
イタコがまさにそれだからだ。
目の見えない女性が口寄せという儀式をして、霊を呼び寄せる。
顔を見ることができないシューだから、そういうものを見る力が宿ったのだろうか。


“第六感”というものは全て常識を逸した五感の働きである、と彼は考えている。

「霊が見える」「霊を感じる」「何かが起こる予感がする」
どこの器官でそれを感じたかは分からないが、それを脳に知らせるのは間違いなく五感のうちのどこかなのだ。
いつだったか稲川淳司も言っていた、「霊の気配を感じて口の中がすっぱくなった」と。

そして五感でどう感じるかはまさしく人それぞれだろう。
ちなみに彼の場合、主に『視覚』で『色の点の集合体』として霊を捉える。
昨日から見える霊も、口の動きから何をいっているか分かるが、声は聞こえていないのだ。
また彼自身、その感じ方をテレビの音量のように強弱をつけることができる。
その力を強くしすぎると見なくていいものも見えてしまい、そのため、感覚を調節できるよう努力した結果だ。

もしかしたらシューの霊視も彼と同じ類なのかもしれない。
力の強弱をつけられるか分からないが。



112: ◆pGlVEGQMPE :2009/08/18(火) 00:33:51.54 ID:PgNfJB0W0
lw´‐ _‐ノv「私の秘密はまあそんな感じ。
       秘密だから他の人に言っちゃ嫌よ?」

(;ФωФ)「む、わかった」

lw´‐ _‐ノv「あ、そうそう忘れてた。
       私きれい?」

(;+ω+)


彼は眼を伏せ、深く息を吐く、「しかたがないな」
シューの問いに正直に答えてあげた。








戻る次のページ