( ФωФ)さとりごころのようです

59: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/17(木) 23:44:00.23 ID:YitxL7qq0
   



  三章 影法師


     影話 朧目怪談




60: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/17(木) 23:47:58.68 ID:YitxL7qq0
私には記憶が見える。
そう、彼に話した。
こうなった経緯も話した。
ニット帽を被る本当の理由も、背中に刺青をしていることも話した。
ついでに彼に皮肉も言ってやった。

( Фω+)「……何に気付いていると?」

それでも彼はとぼける。
こういった人は私的に言わせてもらえば、とても相手しづらい。
私は再びため息を吐いた。

どうやらもう少し言わないと認めないらしい。
まるで幽霊は信じるくせに宇宙人を信じない輩を相手にしているみたいだ。
ある超常現象を認めて、違う超常現象を否定する。
この矛盾したスタンスを問いただしたい気もする、小一時間ほど。
……まあこの例えだと自分が宇宙人だと言ってるみたいで、おかしいけど。

lw´‐ _‐ノv「記憶ってなんだと思う?」

( ФωФ)「む?」

一つ、説くことにする。



61: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/17(木) 23:52:36.36 ID:YitxL7qq0
lw´‐ _‐ノv「私はね、記憶ってものは歴史だと思うんだ。
       この世に存在している物質は存在しているからこそ歴史を刻める。
       不変不動、不老不死の理がないのだから、皆は常に変化してゆく。
       そして生まれたときの姿と比べて変わったなら、それは一歩前に進んだってことなんだよ」

『退化も進化』という言葉があるくらいだ。
そして自分の目にも分かるほどの変化、または強く意識した変化をすると、誰でもそれを覚えているものだ。
変化、なんて言葉を使っているが大それたことを言っているのではない。
『誰かに何々言われたから、私はこうしよう。私もこうしよう』程度の意識変化でもいい。

私だって赤ん坊のころと比べたら変わっているだろう。
体は全体的に変わった。体つきはもちろんだし、後頭部のを含む傷痕も変化した証と言えよう。
そうして体に刻まれた歴史と周りの環境が、ゆっくり今の私を作り上げたのだ。

lw´‐ _‐ノv「その一歩一歩が自身の歴史となり記憶に残る。
       そしてこれは人間に限ったことではないんだ。
       木や石、書物や建築物にも歴史があり、故に記憶が刻まれる。
       だから私の目にもそれらの記憶が見える」

私の話を聞きながらロマは黙っている。
一つの可能性を見つけておきながら、あえてそれを遠ざける。
だけどロマ、そのやり方は駄目だよ。
考え、思いつき、そして受け入れられないからと遠ざけるのは、強く意識した変化に他ならないでしょ?
気持ち一つ、ため息まじりの小さな吐息をしつつ話を続ける。

lw´‐ _‐ノv「だけど人の記憶が一番濃密なんだ。
       他の動物は人より薄い。
       木や石は量は膨大だけど、やはり人よりは薄い。
       理由は簡単。人はよく考えるからね」



62: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/17(木) 23:55:51.02 ID:YitxL7qq0
彼は否定して否定して……私の言葉を聞き、ついに観念した。
この部屋に入ってからの会話に対して、「おかしい」と思えないことがおかしいのだから。
さきほどからの私の対応はもはや、鋭いと感じてはいけないレベルでしょう。そのように私は話しているのだから。

(;+ω+)「……つまり、そういうことなのか」

lw´‐ _‐ノv「そういうことなのよ。
       今の私が見るのは、リアルタイムで書き加えられた記憶が多い。
       だから顔の見えない私でも人の表情を読むくらいはできるんだ」

(;Фω+)「人の表情?」


(;+ω+)「……人の心だろ?」


正解。
ご褒美としてロマにはオプーナを買う権利を与えようかな?
まあ買ったとしてもうちではできないけど。
ハードもないし。そもそも彼はプレイしたいと思うか疑問だが。

( +ω+)「いままでも私の心を覗いてたのか?」

lw´‐ _‐ノv「今日という日を除けば……たまにね」

( +ω+)「……」

lw´‐ _‐ノv「……『破廉恥』とか思わないでよ」

(*+ω+)「……」



63: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/17(木) 23:58:45.04 ID:YitxL7qq0
まあ否定はしない。
しないが弁明させてもらおう、私の名誉のために。

lw´‐ _‐ノv「ちなみにお札も刺青も力を封じた、っていうより力を抑える装置をつけたって感じなんだ。
       私が全力で見ようとすれば痛みを発して押さえつけようとする。
       だから普段はあまり見ない。見たとしても心の表面だけだから、強く意識しない限り見えない。
       私が積極的に見ようとしたことは、ロマと出会ってから三回しかないよ。
       ガナーちゃんの識別と、モナーさんの追跡、あとはロマの部屋に案内した時くらいだね」

( Фω+)「そして今日は私が納得しやすいように開眼しているってわけか?」

lw´‐ _‐ノv「そおだよ。
       ……この部屋に入って私が見えたことをロマにも話したよ。
       でもあなたは全部『いつの間にか口にした独り言』だと勝手に納得してたね?」

(;+ω+)

正直あれはじれったかった。
でもそれはあえて言わない。
ロマだって私の考えを理解してくれてるから。私の苛立ちが少し声に出てしまったせいだが。
そしてこの事実を分かってほしい。この部屋にきた後、ロマの独り言はなかったのだ。

(;Фω+)「しかし、積極的にではないにしろ私の心を覗いた時もあり……どうしてだ?」

lw´‐ _‐ノv「……私は自分の力をコントロールできなかったって言ったよね?
       今は少しだけなんとかできるけど、それでも制御不能なところもあるんだ。
       お札や刺青で力を抑えてても同じ。
       たまに魂が揺らいでしまうおかげで勝手に見えてしまうんだ」



65: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/18(金) 00:02:15.81 ID:n3Dy+JJV0
( +ω+)「つまり不可抗力と?」

lw´‐ _‐ノv「そうなんだよ。やんなっちゃうよねー」

( Фω+)「どんなのを見たのだ?」

lw´‐ _‐ノv「けっこう適当な感想とかかな?
       大体は見てしまったらロマに話してるはずだよ。
       そうじゃないとなんだがアンフェアな気がするからね。
       ……あと一応補足しておくと、ロマのプライバシーを侵害するようなものは見てないから」

( +ω+)「……」

彼はこれまでの生活を思い出している。
まぶたの裏で動画を再生し、その中には私がいる。


「……悪かったね。いつかムチムチになってやるんだから」
「というより今も暇なのだが?」
「今考えているとおりだよ、残念ながらね」

「そう……そうか」


私が現れ、場面が切り替わる。
彼が心を読まれたとおぼしき時の出来事を確認している。
ああ、たしかにこんなこといってたなあ、私は。



67: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/18(金) 00:05:30.40 ID:n3Dy+JJV0
( +ω+)「一つ、いいか?」

lw´‐ _‐ノv「どうぞ」

( +ω+)「初めてこの家に訪れたとき、お前は私に質問したな。
        私にはお前の考えていることが分かっているだろう、ってな。
        あれはもしかして……」

lw´‐ _‐ノv「……」

言葉の続きは話さなかったが分かる。
だから私は頷いた。そのとおり、少しだけ期待してたのだ。
もし私と同じ力があったなら、と。

( ФωФ)「私とは違う才だが……お前の力になろう。
        刺青は消せないだろうが、もしかしたらニット帽を脱げる日がくるかもしれない。
        訓練すればその力をコントロールできるだろう。
        そうすればその力で悩むことはなくなる、と私は考えるのだがどうだ?」

彼は思う、普通に過ごせば厄ネタは今より訪れにくくなるだろうと。
それはとても魅力的な提案だった。
だから私はすぐ返事した。

lw´‐ _‐ノv「そいつはありがたい。ぜひ指南してくれ」

彼は内心喜んでいる。
ああ、でもね、ロマは少し思い違いしてる部分がある。
だから否定する。

lw´‐ _‐ノv「そうすれば今よりもっと自由に見れるし」



70: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/18(金) 00:08:36.66 ID:n3Dy+JJV0
( +ω+)「……おい」

ああ、彼は怒っている。
怒られると分かっていたけど、実際そうなると心が締め付けられる。
でも言わずにはいられなかった。
普通に過ごせば不幸が減る?
なにも見ないで過ごすなんて、そんなの無理だよ。

lw´‐ _‐ノv「私はね、鈍感な人間だったんだ」

だってこんな目がなくとも私は充分変人だからね。
もし神隠しにあわずに今日まで過ごしていたら、と考えると怖気が走る。

見えないということは不便だ。
だからといって逆に見えすぎるというのも困りものなのだ。
記憶の見えすぎのせいで現実を観賞できなくなったため、刺青を彫るはめになったのだから。

lw´‐ _‐ノv「人の感情なんてまるで理解してなかった。
       良くいえば純粋無垢、悪くいえば無能。
       この目を通じて人の考えを見れたから今の私があるんだ」

( ФωФ)「……」

彼は私を見ている。怒りを鎮めて、同意も否定もせずただ見ている。
私の考えを読み取ろうとしているみたいだ。



71: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/18(金) 00:11:49.04 ID:n3Dy+JJV0
lw´‐ _‐ノv「たしかに普通の人ならこんな力、いらないでしょうね。
       心なんて綺麗なものばかりじゃない。変な力を使い続ければ霊に好かれる。
       デメリットが大きすぎるし多すぎるから、誰もが手放す。
       でもホラ、こんな目なんかなくったって私は変人さ」

( +ω+)「お前は変人じゃ」

lw´‐ _‐ノv「変人なんだよ。
       私は顔が見えない。
       そのせいか、はたまた脳の他の損傷のせいか、他人の心も理解できなかった。
       よって私は他人とのコミュニケーション能力が著しく低かった。
       果たしてこれは普通なのかい?」

彼の言葉を遮って、私はなおも語る。
この脳みそには顔の概念がない。だがこぼれ落ちたのは何もそれだけとは限らないのだ。
判明しているのが『顔パターンがない』というだけで、他のパターンも落としてる可能性は捨てきれない。
もっというなら、パターン認知以外の脳の働きがダウンしてしまっているのも考えられる。

この力は本当に便利なのだ。
人の心をこの目を介して見ると、よく理解できる。
脳ではなく魂で理解しているのじゃないかと疑いたくなるくらいに。

私はもともと感情が薄かったのではないかと思っている。
もしくは先ほど述べたように、脳の欠損がそうさせているのではないか、というのもある。
小学生の時はクラスメイトや先生にいろいろ言われてた。『冷たい』とか『協調性がない』とか。
いじめられなかったのは奇跡だけど、腫れものみたいに扱われてたのだろうと思う。
通信簿で国語の成績はいつも、五段階中の二だった。



73: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/18(金) 00:14:41.66 ID:n3Dy+JJV0
lw´‐ _‐ノv「もちろんノーさ。
       私は普通には生きられない。
       だからこの力を使う。制限が緩めば見放題さ。
       そうしなきゃ私は本当の変人になるからね」

つまり、使わなきゃ純粋無垢な無能者。
そいつは何も知らず己しか興味がない、昔の私。
そんな奴になるのはごめんだと、今の私が言っている。

lw´‐ _‐ノv「ねえロマ。
       私がおかしい。それでもあなたは普段どおりに接してくれる?」

( +ω+)

ロマは目をつぶっている。
また小難しく私のことを考えているようだ。
あまり複雑に考えると、私としても見にくいからやめてほしいと思うけど……そんなこと言えないわな。
やがて彼はまぶたを開け答える。

( ФωФ)「もちろん。
        私とておかしな力は持っている。私もお前と変わらず変人なのだ。
        まあ、指南するかどうかはもう一度よく考えてから答えようと思うが、どうだ?」

lw´‐ _‐ノv「……」

今度は私が沈黙する番だった。
そこに私に対する恐れなどが見られない。
普通なら不気味がると思うんだけどなあ?



74: ◆pGlVEGQMPE :2009/09/18(金) 00:17:46.32 ID:n3Dy+JJV0
私は彼の問いかけの応じた。
そうして彼の疑問は解決し、対して私は疑問が生まれた。
とはいえ、普段どおり接してくれるのは正直嬉しい。
自身を変人と揶揄しているが、やはり普通というのに憧れているのだろうな。

lw´‐ _‐ノv「しっかし不思議なものだねえ」

( ФωФ)「なにが?」

lw´‐ _‐ノv「そこでスムーズに仲良くしようと言えるロマがだよ」

( Фω+)「霊能力や超能力を持ってる奴なんて世界中にいるだろ?
        真偽は怪しいがな。私もそういう奴だからっていうのもあるが」

lw´‐ _‐ノv「だってさあ人の心読めるって、そんなの」




まるでどこかの妖怪みたいじゃん。








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