( ФωФ)さとりごころのようです

4: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 16:53:12.66 ID:L2piMLFw0
   



  四章 止水逆月


     一話 湧きでる冷水、白雪が如く




7: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 16:57:28.66 ID:L2piMLFw0
シューの異能は思ったよりもたいしたことない。
それが彼の感想だ。

( ФωФ)「ほう?…………刀とはそんなに脆いものなのか?」

lw´‐ _‐ノv「海外の剣と比べると脆い部類だろうね。
       斬る武器なんて大抵そんなもんだよ」


シューの秘密が判明して一夜があけた。
彼女の眼は記憶をみて取ることができる。
しかし縛めを施している身ゆえ、過去のそれをみない。
みたら背中の刺青が反応して、頭と背中が痛くなるらしい。
「ニット帽を被ると七割増し」、彼女は淡々と語っていた。

痛みを感じないように記憶をみるには、自身の力を制限する必要がある。
そのため、彼女は過去の記憶をみずに現在の記憶だけをみるようにしているらしい。


現在の記憶…………例を挙げるなら心などだ。


lw´‐ _‐ノv「さすがに砂糖菓子みたいに脆くはないけどね。
       まあ、斧みたいに叩き割るように使うとまずそうだけど」

( ФωФ)「大きな木や動物を一刀両断とかできないのか?」

lw´‐ ,‐ノv「案外できるんじゃない?
       刃引きしてない刀は使ったことないから詳しいところは知らんけどね」



9: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:01:24.51 ID:L2piMLFw0
心をみるだけなら彼女の体に取り付けられたリミッターは作動しないようだ。
とはいえ心というものは小説などで散々いわれているとおり、複雑なもの。
みて取ることができても理解できるか怪しい。
心理学的にいえば意識と無意識の問題もある。
自分はこういうことを考えているんだ、と意識しても、頭の片隅で違う思想が腰下ろしているかもしれない。

( +ω+)「それにしてもお前、意外に詳しいな。
        そういう趣味か?」

lw´‐ _‐ノv「これでも武道を嗜んでいますので。
       最近は道場に顔出してないけどさ」

( Фω+)「空手か?」

lw´‐ _‐ノv「それはヒー姉の方だね。
       私は合気道」

彼女の言葉を借りるなら、心は表面しか見ることができない、らしい。
いいたいことは感覚でなんとなく分かるが、頭で理解するのはなかなか難しい。
なので彼は今、異能を指南するためにシューの力を計っている。
ニット帽は彼女の手元に置かれている。被り物なしのシューをみるのは新鮮味がある。

彼らはただただ会話をしている。
そして彼は話している内容とは別の、まったく関係ないことを思考している。
それを彼女の力でよみとれるか謀っているのだ。



11: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:05:39.27 ID:L2piMLFw0
今、彼が考えていることはシューの服装について。
文字入りのTシャツが好きな彼女だが、今日は違っていた。
無地のタンクトップにデニムのホットパンツ。
色合いは上が紺、下が藍色という具合か。
遠目からはスク水にみえなくもない。腹に『シュー』の名札があれば完璧だなと彼は思う。

lw´‐ ,‐ノv「さすがに名札にあだ名は書かないよー」

( Фω+)「……ふむ」


ちゃんと本名って書いてるから、と彼女は少々頬を膨らませて反論する。
白地に砂尾アキ(もしくは秋)と書かれていると思うと、なんだか残念な気持ちになる。
彼にとってみればもう『アキ』よりも『シュー』の呼び名が馴染んでしまったからだが。

lw´‐ _‐ノv「といっても、スク水なんて中学までのものしかないんだけどね。
       高校はプールないとこだから」

( +ω+)「ふうん」

lw´‐ _‐ノv「……………………高く売れるかな?」

(;+ω+)「やめとけ」

lw´‐ _‐ノv「冗談だよ。
       私物が今晩のおかずにされるのは怖いし。
       かといって売れなければ、それはそれでさみしい」



14: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:10:57.50 ID:L2piMLFw0
シューが心を読み、それに対する感想などを話す。
おかげで話題が転々とする。
それでいて話の前振りがないのだから、第三者が彼らをみていたら首を傾げていただろう。

そうして彼はシューの力を理解する。
『心の表面しか見ることができない』の意は、

( +ω+)(部分的な強い思念、ということだろうか?)

lw´‐ _‐ノv「ま、だいたいそんなんじゃないかな?」

( Фω+)「……むぅ、本当に考え事が素通りしてしまうんだな」

強い思念と彼は言った。いや、考えた。
つまり、周りが見えなくなったり身を焦がすような感情など。
または、頭を悩ますほどの考えごととかならある程度、彼女にも見えるらしい。

( ФωФ)「心の中で声をあげるような感じか?」

lw´‐ _‐ノv「あーあー、音読してくれるようにすると読みやすいのはあるね」

( +ω+)

lw´‐ _‐ノv「……いや、ちゃんと背中に『賢者モード』って書かれてるから」

(;+ω+)「女の子が着るべきでない気がするのだが」

レスポンスがすぐに飛んできた。
ちなみに彼は『どうして今日は無地なのだ』と疑問に思っただけだ。



16: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:15:57.11 ID:L2piMLFw0
どうもただ漠然と思い浮かんだものだと見ることができないらしい。
もしくは見えにくい。これなら『ただ勘のいい人』として捉えられなくもない。
その点を確認できて彼はほっとする。

lw´‐ _‐ノv「基本的に力を弱めている今なら、感覚の目のオン、オフが切り換えられる。
       逆に力を強く使いすぎると、なかなか治まってくれない。
       やかんで温めた水を冷ますようなものかな? 熱しすぎれば冷めにくいからね」


lw´‐ _‐ノv「それとこの力は私の制御を離れるときがあるから。
       そうなったら、今以上に鋭く見えてしまうこともあるよ」

( ФωФ)「そうなのか?」

lw´‐ _‐ノv「不安定なお年頃だから」

それはいろんな意味で違う気がするが、彼は黙っておく。
二人が今いるシューの部屋は、それだけで涼しくなった。
外ではいつも通りの蝉の声、たまに飛行機の音がする。
本日も晴天なり。外は暑く、早くシューの季節が訪れてほしいと切に思う。

そんなこんなの昼下がり、部屋の襖が勢いよく開かれた。


ノハ*゚听)「これより家族会議を始めるぞおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」


彼がここに来てから二度目の家族会議。
シューは当然の如く、叫ぶ直前に耳をふさいでいた。
ちょっとだけ憎らしく思う。



18: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:18:57.46 ID:L2piMLFw0
ノハ*゚听)「ちょっくら宴会でも開こうかと思っているんだ」

(;+ω+)「……何故に?」

キンキンする耳を軽く押さえて言葉を返す。
ヒートはにんまり笑い答えた。

ノハ*゚ー゚)「心の安らぎを与えるためさっ!!」

そこから彼女は詳しく説明した。
話を進めるにつれて、どういう経緯で朝から酒の話をするのかを理解していく。
簡単にいってしまえば、宴会はモナーさんとしぃ、つーを励ますためらしい。

(;ФωФ)「子供に酒を飲ませるつもりか?」

ノハ*゚听)「んなわけないじゃん!
      成年と未成年者で別れて、楽しく遊べばいいと思うよ?!
      というわけでシューっ、しぃちゃんたちの処遇は任せたああああああっっ!!!!」

lw´‐ o‐ノv「りょーかい」

ノハ*゚听)「私はシャキンさんとモナーさんとで近くの居酒屋あたりで盛り上がることにするから!!
      ロマさんはどっちにする??」

( +ω+)「んー……それじゃあヒート組で」

ノハ*゚听)「ぃよっっっしゃああああああああああdghfjぁ;gm、w102お3−rw−0、390ds、m;!!!」

なんとなくで答えたが彼は少し後悔した。
興奮のせいだろう、もう何言ってるか分かりませんヒートさん…………。



20: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:22:26.94 ID:L2piMLFw0
げんなりしている彼の肩が叩かれる。
何事かと思いのっそり振り返る彼は、背後の少女を目に収める。

( +ω+)「……どうした?」

lw´‐ _‐ノv「逃げたかったらいつでもこっちにおいで」

( ФωФ)「は?」

lw´‐ _‐ノv「実はヒー姉、そんなにお酒に強くない。この前なんて……」

ノハ;゚听)「うわわわああっっっ!!」


ヒートは突然叫びだし、シューの口を押さえる。
シューはもがもが言っているが抵抗しない。力負けすると理解しているからか。
妹を抱きかかえる姉はふと、固まっている男の視線を感じとる。

(;ФωФ)

ノパ听)



ノハ;゚ー゚) ニコッ

(;+ω+)


言いようのない不安を覚えた彼であった。



21: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:27:13.59 ID:L2piMLFw0
…………
……




(*゚ー゚)「頑張ってくださいね」

(;+ω+)「つぶれない程度にやってみますよ、はい」

lw´‐ _‐ノv「だから…だめなのだっ……!
       命はもっと…粗末に扱うべきなのだっ……!」

(;ФωФ)「やめてくれ」


某ギャンブル漫画の名言が万事に適用されれば、この世は阿鼻叫喚となるだろうと彼は思う。
仲間内の飲みは楽しくすべきである。それは命がけでやるべきものではない。
大学の部活動や会社の接待でもそこまでの覚悟が必要ではない……と思いたい。
ボケる彼女とツっこむ彼を見比べて、しぃはクスリと笑った。

今、彼とシューは椎名家に来ている。
宴会(子供たち風にいうならお楽しみ会だが)の具体的な日付と遊びについて話し合いにきたのだ。
流石に自宅以外では、彼女はニット帽を被っている。それがほんのちょっぴり残念に思う彼であった。

本来、彼はこなくともよかった。
だがヒートは町内会に出たため、シューが暇を弄んでいた彼を引っ張ってきたのだ。
なんでも近々祭りが、兄者山の下……つまり砂尾神社の下で催されるらしい。
毎年、分雲町の縁日の時期はいつもこうらしい。
故にヒートは朝から大忙しなのだ。



22: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:32:31.79 ID:L2piMLFw0
(*゚∀゚)「で、それっていつやるの?」

lw´‐ _‐ノv「今日はさすがに急だろうね。
       んー……三日後の夜ってことでいいかな?」

(*゚ー゚)「私たちはそれでいいですよ」

(*゚∀゚)「うはっ、たっのしみだなあ!!」

lw´‐ _‐ノv「場所は私の家でいい?」

(*゚ー゚)「お邪魔してもよろしいのですか?」

lw´‐ _‐ノv「いいよ。
       友達とかも呼びたかったらじゃんじゃん呼びなよ。
       皆まとめて片づけてやるっ」

「お前はどこのヒーロー様だ?」、彼はツっこむがシューは華麗にスルーした。
しかし、しぃは友達を連れていかないことをやんわり伝えた。
そこまで面の皮が厚くないであろう彼女らしい返答だった。

(*゚ー゚)「それに友達を片づけられるの嫌ですし」

シューの言葉がツボにハマり、自身も同じネタで話して、しぃは再度笑った。



23: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:37:03.97 ID:L2piMLFw0
開催される日時を簡単に伝えて彼らは椎名家をあとにする。
玄関先ではそこの家で育った姉妹が手をふって見送ってくれた。
遠くの道の先で空気が歪んでいる。日没まであと五時間ほどか?

lw´‐ _‐ノv「さてさて、ロマさんや。
       これからの御予定はおありでせうか?」

( ФωФ)「んー……ちょっくら町をみて回っていろいろ確認したいところだが、急ぎでもないからな。
        付き合ってほしい用件でもあるのか?」

lw´‐ _‐ノv「そうなんですよ。
       一人でいってもいいけど、私、さみしいの」

( ФωФ)「おk、私も暇があるから付き合ってやる」

lw´‐ ,‐ノv「おっしゃ」

ガッツポーズをとるニット帽。
嬉しいのかと彼が聞くと、それほどでもないと彼女は答えた。
じゃあそのガッツポーズは何なんだろうか。彼の疑問に彼女は答える、「なんとなく」。
いまいち要領を得ない隣を歩くチビッ子と二人、坂を下りながら南方面へ向かう。

lw´‐ _‐ノv「ところでさ、町をみて何を確認するの?」

( +ω+)「……ちょっと気になることがあってな」

lw´‐ _‐ノv「ふーん?」



24: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:40:18.03 ID:L2piMLFw0
lw´‐ _‐ノv「……みても良いかえ?」

( +ω+)「こらこら」

lw´‐ ,‐ノv「見たいよぅ」

砂尾家をでる前に、シューと一つ約束した。
『勝手に人の心をみないこと』、ある程度のプライバシーを守りたい彼の方からこれをいいだした。
そして彼女は同意した。だから今、彼に許可を取っているのだ。
シューは彼が気になっていることを知りたいようで、しつこく頼みこむ。

( ФωФ)「子供が大人の考えをみたって理解できないだろ?」

lw´‐ _‐ノv「大人ってみんなけっこう子供っぽいよ?」

(;+ω+)「……あまり日常的に見てやるな」

lw´‐ _‐ノv「いやいや、勘違いなされても困りますって。
       近しい間柄の方は、とあるバカ以外見ないようにしてますよ。
       普段、私が力を使おうと思って見る輩は、名前も知らない他人様ですから。
       人間観察、おいしいよ?」

( Фω+)「……ん?ヒートとかの心をよく見透かしてるんじゃないのか?」

lw´‐ ,‐ノv「あほう。
       知人の心をバカスカ見まくってたらそれこそコミュニケーションが崩壊してしまうっつの。
       黒歴史や甘酸っぱい恋心とかエッチぃそんなんとか、ぽろりと話題に出すだけで場が凍るわ」



26: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:46:15.70 ID:L2piMLFw0
なぜか怒られた。
シューの言い分もよく理解できるが何か納得いかない。
だから言ってやった、「じゃあ私のも見るなよ」。
で、ジャイアニズムな感じで言い返された、「私が見たいんだからいいんだよ」。

たしかに知らない人の心を覗き見るのは問題なかろう。
しかし知り合いとなると、関係に余計な摩擦をいれる可能性は十二分に考えられる。

彼は砂尾家に来てから今日まで、シューを見ている。
彼女は特に口が堅いわけでもなく、柔らかいわけでもない。いたって標準的な部類だ。
ならば人の秘密にしておきたいことが、つい口から出てしまうこともあるだろう。

(;+ω+)「……というか、出した経験はあるんだな?」

lw;‐ _‐ノv「聞くな」

彼女はススーと顔をそらす。
彼の直感は当たっていたらしい。
とりあえずシューの危険性をよく理解した上で、詳しくは聞かないでおくことにした。

( ФωФ)「それでどこへいくのだ?」

lw´‐ _‐ノv「とあるじいさんの家に」

( ФωФ)「ウツロ絡みか?」

lw´‐ _‐ノv「そうだよん」

場所は分雲町の南東付近らしい。
のんびり坂を下る。



28: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:50:16.72 ID:L2piMLFw0
lw´‐ _‐ノv「そのじいさん、一人暮らしでね。
       昔、火事で妻も子もすべて失ったらしいのよ」

( ФωФ)「それでウツロを呼ぶと?」

シューは経緯を話す。
それをきき、なんとなく彼は思ったことを口にする。
しかしシューは彼の言葉を肯定せずに首を傾げる。
ウツロ絡みと彼女は認めたので、結果的に今の話が関係あると思ったのだが。

( +ω+)「違うのか?」

lw´‐ _‐ノv「……いや、あってると思う。おそらく。
       ただなんというか、家族失ったからウツロを呼ぶっていう単純な公式じゃないんだな、これが」

( ФωФ)「kwsk」

lw´‐ o‐ノv「ほいほい」

言われたとおり詳しく話し出すシュー。
道のすぐ横はカモシカでも出てきそうな具合に木々が影を落としている。
その影はアスファルトまで伸びて彼らを日光から守ってくれていた。



29: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 17:56:39.24 ID:L2piMLFw0
lw´‐ _‐ノv「結論をいえば、そのじいさんは一人で立ち直った。
       全てを失ったっていっても、時間がじいさんを癒してくれた。
       でもね、長い時間を生きてきた彼にも気がかりがあったんだ」

( Фω+)「それは?」

lw´‐ _‐ノv「家族の顔を忘れたんだ。
       火事のせいで写真はない。
       歳のせいで情報が抜け落ちていく。
       “せめて彼岸で会えるように、顔を覚えて逝きたい”と思うようになった。
       それが発端だね」

( +ω+)「……」

彼は何もいえなくなっていた。
それはまだ見ぬ老人を労わったからだろうか。
それともその老人と同じ気持ちになったからだろうか。
考えている彼にも分からなかった。

lw´‐ _‐ノv「でもねぇ、私たちにとってみれば少々迷惑なんだよね」

( ФωФ)「……ウツロが危険だからか?」

lw´‐ _‐ノv「暴走すれば危険だね。
       そうならないように私たちも頑張ってはいる。
       それはいいんだよ。お役目だから」



30: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 18:00:56.24 ID:L2piMLFw0
では何が迷惑なのだろうか?
彼が質問すると、ニット帽から返答がきた。
理由を聞くと、彼女の苦労も老人の考えもよく理解できた。

lw´‐ _‐ノv「呼びすぎ。
       多少痴呆入っているじいさんとウツロの組み合わせは化学反応じみてる。
       実をいうと、ウツロを呼び出す想いは『家族の顔を覚えたいから』じゃないんだよ。
       『忘れた顔を覚えたいから』会いたいって思ってるクチなんだ。
       無限増殖にはもう飽き飽きしてるんだけどねえ」

(;+ω+)「……それは疲れるな」

原理は知られていないが、ウツロはこの世とあの世の想いが重なるから、と考えられている。
忘れた顔に会いたいから、老人はウツロを現界させる。
そうなると対象は最小で家族、最大で年の数ほどいるであろう知人、友人。
化学反応じみてるとシューは呆れていたが、聞いていた彼もまた気が滅入る。

(;+ω+)「どうにかならんのか?」

lw´‐ _‐ノv「どーにもならん。
       頻繁に顔みせてウツロの有無を確認してくしかないね」

(;ФωФ)「説得は?」

lw´‐ _‐ノv「M U R I デス」


M U R I らしい。



31: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 18:05:58.55 ID:L2piMLFw0
lw´‐ _‐ノv「ありゃあ年くって子供に戻った類よ。
       変なとこで頑固なんだから…………っと」


lw´‐ _‐ノv「ここだね」

シューは一軒の家屋の前で立ち止まる。
玄関の横に表記された『出田』という文字が目に入る。
しかしなんと読むのだろうか。彼はチビっ子に聞いてみた。

lw´‐ _‐ノv「……涅槃の海に放り投げるよ?」

質問には答えではなく、よく分からない脅し文句が返ってきた。
チビッ子発言が気に入らなかったようだ。
彼女は彼を無視して、呼び鈴を押す。
しばらく待つと目の前の戸が開き、一人の老人が顔をのぞかせた。

( "ゞ)「……おぉー、おぉー、アキちゃんお久しぶり」

(゜3゜)

老人の後ろ、広い玄関の先には一人の青年が立っている。
この老人の方は先程の話にでてきたじいさんなのだろう。
青年の方は……ホームヘルパーとか?



32: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 18:09:25.85 ID:L2piMLFw0
lw´‐ _‐ノv「んなわけあるかいな」

( +ω+)「ナチュラルに見るなっつの」

lw´‐ ,‐ノv「だから不安定なんだよ。
      勝手に見えてしまったんだから許せよ」

( ФωФ)「おk、許す」

彼らが気軽におしゃべりできるのも、目の前のウツロが凶暴化してないと理解したからだ。
だったら祓うのは簡単。彼の力か砂尾の枝折詩か。
ニット帽が一歩前にでる。

lw´‐ _‐ノv「やっちゃうけどいいかな?」

( "ゞ)「悲しいことじゃが、しかたあるまい」

老人は意外なほどすんなり答えた。
さらに一歩、今度のニット帽はウツロに近づく。
ウツロの青年を見あげ、帽子を脱ぐ。
この行為にあえて理由をつけるとするなら、おそらく散ってゆく記憶を見たいからだろうか。
そうしてシューは言葉を紡ぐ。

lw´‐ _‐ノv「……帰葬、枝折詩」

( +ω+)「……」



33: ◆pGlVEGQMPE :2010/01/29(金) 18:12:14.81 ID:L2piMLFw0
シューはウツロを祓うだろう。
彼女に任せておけば、この場は納まってくれるはず。
故に彼の力は必要ない。
なので彼は彼女たちから離れて、外で蝉の声に耳を傾ける。

空は青く、目に痛い。
太陽の力強さに身を焼きながら、人のいないであろう草むらまで足を進める。
彼は誰にも聞かれないように、または誰かに聞かせるように呟く。


(;+ω+)「ふぅ。
        ……なあ、ウツロとは」


胸の奥に渦巻いている複雑な感情は、結局形のある言葉にならなかった。









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