( ФωФ)さとりごころのようです

7: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:22:04.35 ID:qkgNguIP0
   



  四章 止水逆月


     止話 『きおく』




8: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:25:16.52 ID:qkgNguIP0
太陽がすこしばかり西に引っ張られた。
本日の最高気温の時間帯は終わりを告げたが、まだ暑い。
おかげで帽子の中は汗でグチョグチョだ。
臭わなければいいな、と思う。

さて、またんき君とわかれてしばらくすると、アスキーアートが見えた。
そんなわけなのでモナーさんへの用件を済ませようとした。


lw´‐ _‐ノv「……」

(;+ω+)「……そんなに不満だったのか?」

lw´‐ _‐ノv「不満そうに見える?」

(;ФωФ)「ああ」


じゃあ今の私は不満なんでしょうよ。
実は店の中に入る前に用件が済んでしまっていた。
もっと正確にいうなら、モナーさんに会う必要すらなかった。



10: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:27:33.08 ID:qkgNguIP0
ちょっくら先程のやり取りを回想してみよう。



lw´‐ _‐ノv「やあやあ、モナーさん。
       ウツロに絡まれたみたいだけど最近どうだい?」

(´・ω・`)「おやまあ、シューちん。
      その質問はもう僕がしちゃったよ」

lw´‐ _‐ノv「なにぃ?」

(´・ω・`)「先回りさせてもらったのさ。
       こんな暑い中、わざわざ御苦労さん。
       無駄足ざまぁ」

( ´∀`)「ハハ、ワロスワロス」




……回想終わり。
脳内脚色はあるだろうけど、大体こんな感じだったね。



12: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:29:25.24 ID:qkgNguIP0
簡潔にいうならタイミングが悪かった。
ショボンもモナーさんのことを気にかけて、アスキーアートに訪れていたのだ。
しかも私たちよりちょっぴり早く。

思い出しただけでお腹がゴワゴワする。
いつかこの坊主頭に 『 輝け 』 と落書きしたいとひそかに思う。
油性マジックで。黒だと目立たないから蛍光色で。


lw´‐ _‐ノv「そんなわけでやることもなくなったし帰ってきているわけですが」

(;+ω+)「誰に向かって言ってるのだ?」

(´・ω・`)「シューのこういう言葉は聞き流した方がいいよ」

lw´‐ _‐ノv「いや、だからなんでショボンもいるわけ?」

( ФωФ)「お前ら仲いいのだろう?
        なにか問題でもあるのか?」



lw´‐ _‐ノv
       「「いやいやいやいや」」
(;´・ω・)


……ハモんなよ、私。



18: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:33:01.21 ID:qkgNguIP0
一本杉、我が家と一筆書きするように帰路につく。
なぜか三人一緒に。

lw´‐ _‐ノv「私ら、どちらかといったら仲悪いよ」

( +ω+)「けっこういいコンビだと思うが?」



lw´‐ _‐ノv「……私がウツロを祓うのをショボンは嫌がるからね」

(;´‐ω‐)「……こんなお子様が危険なことしてるのを見過ごせなくてね」


ウツロの話になると私たちの仲の悪さは顕著になる。
ショボンにも思うところはあるのだろう、よく分からないけど。
知ろうと思えば知ることができるけど、ショボンにこの力を使わないようにしている。
別にショボンにだけ使わないわけではないけど。

私には記憶をみる力がある。
その気になれば、誰かの心だって読みとれる。
だけど知ってポロリと口にだせば、相手も私も困るのだ。
だから私の知り合いにはなるべくこの力を使わない。
だから私の力は通りすがりの名無しさんに使うようにしている。


どんなに立派な人間だろうと心のなかはそれなりに汚れている……らしい。
そんなの、誰かにみられたら恥ずかしいと思うのが人のサガなのだから。



21: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:36:59.36 ID:qkgNguIP0
lw´‐ _‐ノv「君までお子様扱いするの?」

(´・ω・`)「あたりまえだよ。
       年下は年上の意見を聞くことだよ」

lw´‐ _‐ノv「一年早く生まれたからってえらそーに……」

(´・ω・`)「一年早ければ経験値差がとんでもないことにならない?」

lw´‐ _‐ノv「同一機種ならね。
       何を隠そう、私は天才だからね」

(´‐ω‐`)「……脳みそはポンコツなはずなのにね」

lw´‐ _‐ノv「顔が見えないからって今は困ってないよ。
       そりゃあ昔はあんなんだったけどさ」

(´・ω・`)「それは君だけだよ。
       ヒートさんは今でも悩んでるかもしれないよ?」

lw´‐ _‐ノv「そんな空気があったなら即行で私の力を使ってるよ。
       で、嫌になるほど慰めてやるさ。
       R - 18指定でね」



( ФωФ)「……ふむ」



22: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:41:11.29 ID:qkgNguIP0
陽炎立ち伸べる道中、私とショボンは貶し合う。
最初はウツロ絡みだったが、次第に話題は学業や普段の行動など、どうでもいいことに移っていった。
そして数歩後ろをロマがついてくる。

lw´‐ _‐ノv「てかさ、ロマも何かいってやってよ」

( ФωФ)「……ん?
        それなら疑問を一つ。
        シューって頭良いのか?」

(;´‐ω‐)「ですよねー。
       しかしこんなでも学年成績一位。
       テスト中に人の頭の中覗いてるんじゃないかと疑いたくなるよ」

lw´‐ _‐ノv「失礼な奴だ。
       大体、中学時代から夏休みの課題の手伝いしてやったの忘れたの?
       ほら、私ってば上の学年の課題でもヘルプ要員としてなりたつ後輩だから。
       私の頭脳に恐れ戦け」

( +ω+)「人は見かけによらないな」

(´・ω・`)「んじゃ、フェルマーの最終定理解いてなよ」

lw´‐ _‐ノv「ぶん殴るよ?」


余白が足りないとでも言えばいいの?



23: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:43:02.35 ID:qkgNguIP0
( ФωФ)「ふむふむ」

ロマは私たちの背中を観察している。
ヒー姉とかシャキンさんに私たちの不仲を解消するよう言われたのかな?
まあそんなこと言われたとしても、どうしようもないと思うけどね。

( Фω+)「ふむ……ん?」

一本杉を通り過ぎたあたりで、ロマがおかしな声を上げた。
何かおかしなものでも見つけたのだろうか?
私は振りかえり、後ろにいるであろうロマの顔をみる。
相変わらず、顔なんてものを見ても私には理解できなかったけど。
それでも以前、ヒー姉から 「人と話すときは顔を見て話すんだよ」 と習ったから。


lw´‐ _‐ノv「どうか」

「したの?」 と続くはずだった言葉が喉の奥でつっかかる。
夕暮れにはまだ早い黄色い空の下で、視界の端であるものを捉えた。
私にはとてもなじみ深いもの。





……蛍の光。



27: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:46:07.26 ID:qkgNguIP0
光の粒が綿毛のように漂っている。
それが十、二十あったところで別に驚かない。
いつものことだし。


私にしか見えない光を、私の眼に飛び込ませる。
これが記憶を読みとるプロセスだ。
光が瞳に飛び込むと、視界全部を占領したそれが私に記憶を見せる。
感覚的にいうなら、白昼夢に近いと思う。

記憶をみる、といっても視覚だけの情報ばかりではない。
白昼夢よろしく映像もみえる、匂いもかげる、音もきこえる…………ついでに心の中の声なんかも。
また記憶なんてものは全て過去の存在だけど、今からコンマ一秒経過しても過去と呼べる。
だから私はほぼリアルタイムで人の心を見ることができる。
まあ、読心のメカニズムはこういうものなんだけど。



記憶の蛍火はゆらゆら浮かんでいる。
私にとってはいつものこと。
私自身、記憶を見るつもりはなかったが、この力は時々不安定になり勝手に光が出てきてしまう。


そう、不安定なのだ。
いつものことなら私も驚いて言葉を中断させたりなんてしない。



予兆が現れたのだ。



29: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:50:09.62 ID:qkgNguIP0
蛍火は磁石に引き寄せられた砂鉄の如く、大量に群がっていた。
おかげで思わず硬直してしまった。
声が聞こえる。


  ФωФ)「なんかお前の背中、変に黒ずんで」

   ωФ)「……って、おい、シューっ!!」


    ・`)「何やって…………これは」


周囲を見渡す。
蛍火は景色を塗りつぶし、私を取り囲んでいた。


…………ああ、なにもこんなタイミングで来なくても。


地面が揺らいだ気がした。
光が私の網膜にこびりつき、おかげで二人の顔も眩しくて見えない。

こればかりは私の力ではどうにもできない。
いや、まあ私の力なんだけど、今のこの状態は完全にコントロールを失ってしまったのだ。
こういうことは一年で数えられる程度にはある。
だからどうすればいいか、対処法は分かっている。


ただ、受け入れればいい。



32: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:54:34.34 ID:qkgNguIP0
光、光、光。光が私の眼球に飛び込んでくる。周囲の景色はもう見えない。
でもロマだけは霞んで見えるが、僅かに認めることができる。不思議。

 あれか、幽白的な霊力バリアーみたいなものですか?私も鍛えればできるかな?
      でもすぐに彼すら見えなくなってしまうだろうな。だって光で目が眩むから。

そして私も消えてゆく。私は誰かに変わってゆく。
   記憶が人格を作るから、その変化は当たり前に起こらなくてはならない。
       光が映像を造り始めた。ぼんやりとだが何かが見える。
            でも今までいた空間とは違う何処かである。
              空気が違う。ロマの姿はもう見えなくなった。

        記憶を見る。見せつけられる。私に誰かの一生の一コマ
           を疑似体験させる。体験だからドラマのように第
             三者視点ではいられない。今の私はこれから起こる
                    台本の役者だから。

                たくさんの声が聞こえる。たくさんの
                  人が過ぎ去る。たくさんの色
                      が写りこむ。

                   思考が乱れて
                    きた。光の氾濫
                      と同じく
                      誰かの想いが
                       私を冒す。

                       記憶が私
                        を塗り
                         か



36: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 22:59:21.03 ID:qkgNguIP0
『                        ・                                        』
『                        ・                                        』
『                        ・                                        』
『                       今日      .                                 』
『                    ?獣が                 .                       』
『                    それら                                  .       』
『                         精一杯                                  .  』
『                     流され                                 .       』
『                      ロなん                                       .』
『    .              を此処                                          』
『                           しかな                                  .』
『                       るの           .                            』
『                         して逝く。           .                       』
『.          託された。                               .                 』
『               どうにか      .                                      』
『                       る者たちを                  .                 』
『                      苦しい。もう体              .                    』
『           .             しかしい   強いら                            』
『                         読めないのが多い                             』
『   .            あの女は        これから                              』
『            .       は笑っていた。これで村は                             』
『                     へ え、女もどこかへ消え、  お方はうつ                   』
『                       とできないことがある。                            』
『                      たのだ。ならば我らはあの者の            .           』
『               のおっしゃる通りに従えば、彼奴らは喰うにも                      』
『         あれに出会った。それは喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのか。              』
『        分からない。私たちはただ彼らを望んだ人の前で、ウツロを消していくしかない。        』
『私たちはいつまで死者を殺していかなければならないんだろうか?                        』



41: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:01:47.28 ID:qkgNguIP0
  







―――― 瞬間、頭の中で何かが弾けて、映像も音も黒塗りになった。








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