( ФωФ)さとりごころのようです

52: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:09:22.17 ID:qkgNguIP0
   



  四章 止水逆月


     三話 待宵、老仙が如く




59: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:13:18.02 ID:qkgNguIP0
(´・ω・`)「……」

( +ω+)「……」


彼とショボンは砂尾家の居間にいる。
急いで帰ってきたためか、それとも緊張のためか若干息が上がっていた。
二人とも一言も話さず、ただただヒートの報告を待った。

先程の帰り道、シューがいきなり倒れた。
なぜ、どうして、等の疑問をすっ飛ばしてショボンはヒートに連絡し、彼はシューを担いでいった。
彼らが砂尾家に着くと同時に、ヒートも汗だくで家に到着した。
町内会を抜け出したようだった。

「私に任せて」、そう言うとすぐにヒートはシューを風呂場へ連れていった。
ヒートに任せたので、男衆は何もやることがなくなったのだ。
仕方なく居間で待たせてもらっているが、その間、彼は心臓が縮む思いだった。

数十分後、ヒートが居間に顔を出した。


ノパ听)「おまたー」

(´・ω・`)「どうだった?」

ノパ听)「んー、今回もおんなじだったね。
     ただちょっといつもより早く来ちゃったね」

( +ω+)「……」



62: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:16:17.31 ID:qkgNguIP0
( ФωФ)「なあ、あれはなんなのだ?」

ノパ听)「あー……ロマさんには言ってなかったね。
     あれはシューのちょっとした発作だよ」

そうしてヒートは説明する。
シューの発作は身体的なものじゃなく、霊的なものだと。
体から墨汁で書かれた紋様が現れ、シュー特有の力が暴走し、そして……。
ちなみに発作は大体、年に五回ほど起こるらしい。

ノハ‐凵])「治療法なんて分からないから、墨汁を洗い流して寝せるしかないんだけどね」

( +ω+)「なるほどな。
        いきなり倒れたのも力の暴走のせいなのか」

ノパ听)「いや、厳密にいえば違うよ」

( Фω+)「ぬ?」

片目を開けて疑問の意を伝える。
ヒートは言うべきことを整理するためにしばらく口を閉ざす。
やがてゆっくりと一言。


ノパ听)「ロマさんはシューの霊能力についてどこまで知ってる?」

いつぞやと似た質問が飛んできた。



67: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:20:04.75 ID:qkgNguIP0
これはおそらく確認だ。
できるだけ広めたくない部類の話なので、ヒートは慎重に彼の理解を見極めたいところだろう。
だから彼は正直に、シューから聞いた全てを話した。


記憶を見る眼。
心すら読みとる力。
たまに力のコントロールがうまくいかなくなること。

彼の知っていることを話し終えると、ヒートは 「なるほどね」 と呟く。


ノパ听)「そこまで聞いているなら、シューに施してある縛めも聞いてるよね?」

( +ω+)「ああ」



( Фω+)「……ああ、そういうことか」


彼はヒートの言わんとしたことが分かった。

シューの力はもともと使わないようにセーブできない。
だからニット帽の裏に縫い付けてあるお札と、背中に施された刺青で開けっ放しの蛇口に栓をしている。
栓をしているけど力は使える。ただし無理やり使うので強い力だと体に痛みを感じてしまう。
そういうわけで力を使うときは、過去の記憶をみないで現在の記憶……心などを見ている。

シューがそのように話してたのを彼は覚えていた。



71: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:23:07.90 ID:qkgNguIP0
つまり。

( ФωФ)「強い力を使ってしまったから、縛めがシューを叩いたということか」


ノパ听)「さすがロマさん。こういうことの理解が早くて助かるわ。
      まあ、刺青の縛めだけならシューも倒れなかったでしょうよ。
      あれはやさしい類の結界ってシャキンさんも言ってたし」

ノハ‐凵])「ただ、ニット帽のお札は洒落がきかないっぽい。
      今回はそれを被ってたせいで倒れたとみていいね」

( ФωФ)「洒落がきかないとは?」

(´・ω・`)「僕の家……うん、家の秘伝の一つでね。
      鬼を封じるための結界、という謳い文句があるのを改変したものだよ。
      結界内で悪鬼が暴れたり外から壊そうとしたら、同じ力を跳ね返すってやつらしい」

(;ФωФ)「……暴れたら痛いのか?」

(;´・ω・)「……力にもよるけど、おそらくは」


なんというものを身につけているんだろう、あの糸目は。
いや、それより見につけるようにしたシューの周囲に文句を言うべきなのだろうか。



73: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:25:50.40 ID:qkgNguIP0
(;+ω+)「いや」

二人に文句をいおうと思ったが、彼はすぐに考え直した。
というのも、彼も一応霊能力者なのだ。
シューに起こった発作が彼の霊を識る感覚に見事に引っかかったのだ。それも大物クラスで。
立ち会えばあの発作の異常さは理解できるし、故に最善の対処法など誰にも分からないのであろう。

(;Фω+)「質問いいか?
       もし縛めがなかったらシューはどうなっていたのだ?」

ノパ听)「……記憶の渦に溺れてしまうよ。
      放っておいたら、いつ浮かび上がるか分からないね」

(;+ω+)「…………すまん」


彼は謝るしかなかった。
あまりに不躾な質問だったと反省する。

シューの記憶をみる力について、簡単に説明してもらっている。
それはデジャヴのように「こんなこと前もあったなあ」なんて生易しいものではない。
どんなものの経験も体感してしまう、といったほうがいいらしい。
つまり、どんなものにだって成ってしまうことができる。

だから自分が自分でいるための基点が必要になるのだろう。
どうすれば基点を確保できるか。
それは幻覚や幻聴を覚ますのと同じものだ。

痛み、が答えだ。



76: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:30:11.41 ID:qkgNguIP0
ヒートたちにとっても苦渋の決断だったのだろう。
だからそこを責めるべきではないのだ。

ノパ听)「いや、謝られてもね。
      大体、ニット帽のほうは力の暴走の予兆があれば脱ぐよう言ってるし」

(;ФωФ)「は?」

ノハ;゚听)「あのさ、なんかロマさん勘違いしてない?
      今回みたいなのは刺青だけで十分なんよ。
      むしろ力の暴走を抑えるのに、ニット帽の鬼強い結界なんて不必要だから」

(;ФωФ)「じゃあなんでそんなの身につけさせてるのだ?」

(´・ω・`)「シューは霊媒体質だからね。
      霊が見えるくせに、対処できないと困りものでしょ?
      縛めはシューを護る檻のようなものと考えてほしい。
      あいつはロマさんみたいに霊を祓えないからね」

(;+ω+)「……あー、なるほどな」

ノパ听)「檻には “シューが勝手気ままに見ないようにする” っていうの意味もあるけどね。
     普段からなんでもかんでも覗かれると、覗かれた人も困るでしょ?
     恥ずかしいそんなんが満載なんだし」

(;ФωФ)「恥ずかしいそんなんがお前にはあるのか?」

ノハ*゚听)「いやだ、言わせるんじゃないよ!!」

あるらしい。



79: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:34:42.81 ID:qkgNguIP0
ノパ听)「まあ私はシューに見られても大丈夫だけどさ。
     私以外はそうじゃないでしょ?」

(;ФωФ)「たしかにな。
       でもニット帽被った状態でもけっこう見られてる気がするのは気のせいだろうか?」

(´・ω・`)「……気のせいじゃないよ」

ノハ*゚听)「ある程度見られるのは仕方がないって割り切ってもらうしかないね。
      力を完璧に封じちゃうと中身が澱んじゃうらしいからね」

( ФωФ)「?」

(´・ω・`)「えーと、つまりね……」

ヒートが話した内容を、ショボンが丁寧に説明してくれた。
砂尾妹の結界は先程話した檻のようなものらしい。
例えば檻の中のライオンは、外には出てこれないが檻の外に手を伸ばすことくらいはできる。
これと同じで隔てた大本は外に出さないが、ある程度の穴くらいは結界に存在する。

界を結ぶと書いて結界。
大抵は人の手で擬似的に作った界である。
本来それは隔離ではなく、区分けを意味している。
ここからここまでを聖の領域、ここまでを俗の領域という具合に。


そして性質上、“遮断” は結界ではやらないらしい。
この世に永遠なるものは存在せず、越境するもの、されるもののための穴が必要であり。
全てを遮断すると中身が澱むので、換気口が不可欠なのだ。



82: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:37:44.27 ID:qkgNguIP0
もしも……とあるもの、とある界をこの世から完璧に隔離したらどうなるか?
そうなるとそれの存在を消すことを意味している。
つまり殺すのと同じだ。

(´・ω・`)「さすがにそんなことはできないからね。
      まあ……殺すっていうのは物騒な比喩だけど。
      でも力を隔離しすぎたらシューに悪影響が出るのは間違いないよ」

( Фω+)「だから割り切れということか」

ノパ听)「そうそう」

( +ω+)「そういうことなら仕方がないな」


シューに施された縛めについて彼なりに理解できた。

縛めとしての結界を一つの社会と例えよう。
ルール違反は罰するし、社会を回すために外にも門を開けなければならない。
今回、シューの身に起こったのはまさしく罰なのだろう。
多少のやんちゃは許しても、やりすぎて警察にお世話になったと見るべきか。


そんなおかしなことを考えているところに、ヒートが彼に質問を投げかけた。


ノパ听)「で、今回の発作のとき、ロマさんも居合わせたけど……どう感じた?」



83: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:42:07.25 ID:qkgNguIP0
ヒートとしてもその点が気になるところだろう。
あの発作がどういうものなのか、結局のところ彼女たちには分からなかった。
彼女たちは霊視できないから、霊的な事象を詳しく知ることができない。
シューの発作がそういう事象だということは疑いようもないからこそ、有効な手がないのだ。

彼は慎重に発言した。


( +ω+)「……霊気の爆発だな」

ノパ听)「霊気の爆発?」


( ФωФ)「ああ。
        服が墨で黒くなってからすぐ霊視したよ。
        なんというか、火山噴火みたいに体中から大量の霊気が放たれてた。
        霊視で見続けていたら、目が潰れると思うくらいにな。
        急いで感覚の目を閉じたよ」

( Фω+)「できるかぎり早いうちに次の手を打った方がいいな。
        今のところは大丈夫だが、あのままでは早死にするぞ」

彼が見たものを話し、次いで己の意見をありのまま伝えた。
しかし、あまりに正直な意見だったためか、二人は焦った。


ノハ;゚听)「え? え? それマジなの? マジでいってるの?」

(;´・ω・)「……じ、寿命が縮まってるとかそういうのなの?」



85: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:44:47.29 ID:qkgNguIP0
( +ω+)「いや、寿命は縮まってないと思うが。
        しかしあの状態が頻繁に起こるのならば、心身共に負荷がかかってよろしくない。
        今のシューは若く、活力があるからまだ安心できるが、という話だ」

ノパ听)「どうすれば、いいの?」

( Фω+)「……さてな。
        こういうのは初めてのことだから何ともいえん。
        有効な結界でも見つければいいのではないか?」

あまりに希望の見えない回答である。
それを聞き、ヒートは唸る。
無理もないと思う。
対称的にショボンは黙って彼の言葉を聞いた。

ノハ;゚听)「じゃあシューはばあちゃんになるまで生きられないのかっ?!」

( +ω+)「……」

今度の質問には答えなかった。
ヒートを無視したわけではなく、いくつかの可能性を吟味していたからまだ答えを出せなかっただけだった。
そうとは知らず、ヒートは勝手に絶望した。

ノハ;゚听)「そんな……っ」

( ФωФ)「……ちょっといいか?」

ノハ;凵G)「そんなのってないよっ!!」

(;ФωФ)「いや、頼むからちょっと聞いてくださいな」



87: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:46:51.48 ID:qkgNguIP0
ヒートを落ち着かせるのに数分を要した。
ヒートもヒートだが、すぐに話さなかった彼も悪いと思う。
彼もその点を反省し、ゆっくり言葉を紡ぐ。

( ФωФ)「まず、これから話す内容は私の推測だということを忘れないでほしい」

ノパ听)「おk」

(´・ω・`)「……」


( +ω+)「シューに記憶を見る眼がそなわったのは神隠しのとき。
        そして神隠しの時に誰かに会って力を授かった。
        また、それ以降その誰かに見られている感覚がある。
        ……そう、本人が話してくれたのだが」

( ФωФ)「それらを踏まえて考えてみた。
        もしかしてシューとその誰かとは魂のどこかでリンクしてしまったのではないかと」

ノパ听)「簡潔にいうと?」

( ФωФ)「そいつをぶっ飛ばせばシューの力も消えて万々歳かな?」

ノハ#゚听)「ショボン君、ロマさん、留守番よろしくッッ!!」



(;ФωФ)「こらこら」



89: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:50:23.20 ID:qkgNguIP0
今すぐ家を飛び出そうとするヒートを押さえる。
ショボンと二人がかりで無理やり座らせ、まずは話を聞くようにと促す。
少しは落ち着いてほしい。
あと、今している話は彼の推測にすぎないという点を忘れてはいないか?


(;ФωФ)「どこにいるかも分からない相手をぶっ飛ばせるわけないだろ。
       それに本当に神隠しなら、異界に行かなければならないぞ。
       帰ってこれる保証があるのか?」

ノハ;゚听)「……うぅ」

(;+ω+)「そんなわけでぶっ飛ばすのはとりあえずなしだ。
        だからもう一つの案を提案したい」

ノパ听)「それは?」

( ФωФ)「シューの安定化だな」

(´・ω・`)「kwsk」

( ФωФ)「おk。
        シューは誰かに会って記憶を見る眼を授かった。
        その誰かというのは、おそらく幽霊とかオカルトの類だろうな。
        しかもとびきり強力な奴だ」



93: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:53:47.29 ID:qkgNguIP0
ノパ听)「強力なの?」


( Фω+)「……現状、シューは霊に憑かれていない。
        周りに浮遊霊っぽいのが一匹、うろついてはいるがな。
        まあ結界の有効性を証明できたということで、浮遊霊のことは置いておくとしてだ」

( +ω+)「リアルタイムで憑いているわけではないにもかかわらず、シューに影響を与えすぎている。
        記憶を見る眼はもちろん該当するし、霊気爆発もそうだ。
        そこらへんの幽霊が一回憑いただけでこうはならん」

一度、臨死や心霊現象を体験すると、今まで見えなかったものが見えるようになる。
シューの力もそういう体験を経た結果だが、一度死にかけた者のそれと比べてスケールが違いすぎている。
彼女の力は強力で膨大で、敏感すぎている。

( ФωФ)「おそらくシューはあまりに強い何かに触れたのだろう。
        だから力をコントロールできない。
        力が強力だから、たまに抑えが利かなくなる」

ノパ听)「つまり?」

( ФωФ)「コントロールできるように修行すればいい」



ノパ听)「……………………」


ノパ听)「どうやって?」



98: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/29(水) 23:56:31.05 ID:qkgNguIP0
( ФωФ)「私に任せろ……といいたいところだが、私自身いまいち掴めてないところがあるからな。
        推測だけではなく、何がどうなっているか、仕組みを見れたら一番なのだが。
        分からない点がいろいろあるから、教えてくれると助かる。修行はそのあとだ」

ノハ*゚听)「把握した。
      じゃんじゃん教えちゃうよっ!!」

( +ω+)「助かる」

ノハ*゚听)「そりゃこっちのセリフだ」

(´・ω・`)「……んー。
      ヒートさん、ルーズリーフとボールペンを貸してもらえる?」

ノパ听)「ん、いいけど?」

さっきまでなるべく口を挟まなかったショボンが、ヒートに物を要求する。
ヒートはすぐに言われたものを渡す。
受け取ったショボンは、いままでの話の内容を箇条書きしていった。

(´・ω・`)「わりかし重要な話っぽいから。
       父さんにも聞かせておいた方がよさそうだからね」

それ以降、黙ってペンを動かし続けた。



100: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:00:16.37 ID:bk6Zvl/A0
なら彼の仕事は話すこと、知ることである。
とりあえずなんらかの手がかりがあればいいので、口を動かす。

( ФωФ)「ところでシューの体から湧き出る墨汁はなんなのだ?」

ノパ听)「あれかぁ。
     私にもよく分からないけど、変な紋様を描いてるみたいだね」

( Фω+)「ふむ、どういうのなのだ?」

ノパ听)「……ちょっと待っててね」

ヒートは立ち上がり、居間から出る。
なにか紋様をメモった紙でも探してるのだろう。
そうして見つけ出したようで、すぐに戻ってきた。

ノパ听)「一番きれいに撮れてる写真をもってきたよん」

( +ω+)「助かる。
        …………どれどれ?」

ヒートが持ってきた写真は二枚。
一枚はシューの背中を撮ったもの。
一枚はシューの腹をアップで撮ったもの。
どちらも背景が風呂場である。
おそらくどちらも半裸のシューだろうが、写ると恥ずかしい部位は意図的に外されている。

ちょっぴり残念。



101: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:03:20.66 ID:bk6Zvl/A0
写真には墨汁で描かれた陣のようなものが写されている。
一番きれいに撮れてるとヒートは言ったが、陣はとめどなく流れ出る墨汁で形を崩している。
ぼやけた輪郭を彼は凝視し、





(;ФωФ)「…………これは」








そのせいか、目まいを覚えた。





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