( ФωФ)さとりごころのようです

113: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:15:09.85 ID:bk6Zvl/A0
   



  四章 止水逆月


     四話 星降る夜、水鏡は地の天が如く




116: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:18:23.99 ID:bk6Zvl/A0
ノパ听)「ねえロマさん。
     この写真で何か分かるかな?」

(;Фω+)「……うぬぅ」

彼は二枚の写真を前に、唸り声を上げる。
ヒートとショボンは彼の言葉を待っている。
彼を除く二人は、この写真を穴があくほど見たであろう。
それでも何一つ分からなかったから、待つくらいしかできないのだ。

まぶたの痣を指でなぞりながら、彼はどう話すべきか考える。
この現象を詳しく説明するなどできるはずがない。
頭のなかで言葉のパズルを組み合わせて、ゆっくり口を開く。

( +ω+)「……なあ」



( ФωФ)「この町で人柱になった奴でもいるのか?」



ノパ听)「……はぁ?」

いきなりな質問に彼女は思わずおかしな声を上げた。



122: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:21:09.17 ID:bk6Zvl/A0
ノパ听)「人柱ってあれだよね?
     神様に捧げる生贄みたいな」

( +ω+)「そう、その人柱だ」

ノパ听)「ここから西の……姉者山の神様に関していえば、それっぽいのがあったような無かったような……」

( +ω+)「姉者山の神様か」

それは祠を建ててもらった荒神、と以前ヒートは言っていた。
荒神とは人に危害を加える怨霊のようなもの、とも聞いた。
たしかにそれなら人柱の一人や二人、いたかもしれない。
だが、彼は首を横に振る。

( ФωФ)「母者山でシューは神隠しにあったらしいが。
       そっちの山で何か聞かないか?」

ノパ听)「うーん、聞いたことないなあ。
     文献調べればなにかあるかもしれないけど。
     ってか話が見えない。
     もうちょいkwsk」

( +ω+)「……」

恐ろしいことを話そうとしている。彼にはその自覚がある。
本当ならば誰にも話すべきではない。
しかしヒートは半ば当事者で、シューのためには話さなければならないだろう。
それにここで中途半端に止めたら後々しつこく聞かれるだろう。

さあ、覚悟を決めろ。



126: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:23:50.76 ID:bk6Zvl/A0
( ФωФ)「……シューの体に描かれた紋様。
        これはおそらく呪術の一種であると思う」

ノハ;゚听)「え?じゃあシューってのろわれてるの?」

( Фω+)「どちらかというと、まじない的な施しだろう。
        まあ、のろいもまじないも本質的には同じものだがな。
        どちらも外れたものの力を増幅させるものだからな」

だから漢字で書けば同じ言葉なのだろう……呪い、と。
だが、「のろい」と聞くと誰しも悲惨な想像をしてしまう。
事実、ヒートは眉をハの字に曲げて困っている。
よって彼は長話で誤魔化すことにした。

( +ω+)「……そもそも私やシューみたいな奴らは、一般的にいえば “ 外れている ” のだよ。
        皆が見えないはずの幻覚をみて、その幻覚を追い払う。
        精神病一歩手前といっても過言ではない。
        幽霊なんていないから見えてるそれは幻覚なのだ、といわれてもおかしくないのだ」

ノパ听)「私はいると思うけどなあ?」

('A`) ココニイルヨ ?

彼も個人的にいわせてもらえば、今話した言葉には否定的な考えだが。


でも誰にも見えないのだ。
ならば彼らは普通ではなく、故に集団において外れなのだ。



129: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:27:17.68 ID:bk6Zvl/A0
( ФωФ)「案外いないと考えているやつは多いと思うがな。
        まあ、ここでは 『 霊がいる 』 ということにしておこう。
        ならば、いたらいたで何故私だけが見えるのだろうか?
        どうして私だけ違うのだろうか?」


( +ω+)「……ネガティブに捉えればこんな力があること自体、呪われていると考えられる。
        そも、あの世とこの世が交わることなどありえない。
        だが、そのありえない力を得るための施しが存在する。
        それこそが呪術だ」

( Фω+)「あとは施しに重きを置くか、施しの結果に重きを置くかで呼び名が決まるわけだが」


例えばこっくりさん。
あれは儀式に着目しているため、まじないと呼ばれる類だ。
何者かと交霊し、言葉を得るのが目的だから。

例えば丑の刻参り。
あれは人を死なせたいがためのまじないである。
しかしその結果、人が死んだらそれはのろいとなる。

ただ、のろいもまじないも大前提がある。

( Фω+)「問題は呪術の効力より呪術の存在そのものであるがな。
        私やシューが使う霊能力にも条件があるのだ。
        “この世の者でなければ霊能力は使えない”、ということなのだが。
        どんなに境界をぼかしても、地に足つけてなければ霊能力者になれんし、呪術も使えん」



132: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:30:03.91 ID:bk6Zvl/A0
霊には大小違いはあるが、力はある。
だから“霊能力”と特別な名で呼ぶ必要はないのだ。
つまり死んで霊となれば、その全ての力は“霊障”とまとめて呼ばれる。
まあ、その力によって引き起こされた結果には様々な呼び名があるが。

( +ω+)「特に呪術はあの世の者には絶対できない。
        ……呪術は儀式であり、この世ならざる理を引き寄せた結果である。
        故にこの世の霊力を秘めた物質、またはあの世とつながる依り代が必要になる。
        そんな物、死後の世界にあるはずない」

というか物と呼ばれるものが一切ないのがあの世だ。
だから絶対にできない。
さて、と彼がちらりとヒートを見る。
彼女は固まっていた。

ノハ;゚听)「あまりにワケワカラン理論だったから半分も理解できてないけど。
      ……つまりどゆこと?」

( ФωФ)「あー、つまりだな」

ここで話は始めのほうへ戻る。
そう、「人柱」の話だ。


( Фω+)「シューの魂は誰かとつながった。
        だがつながった奴は幽霊や神のような実態のない奴ではない。
        物質世界の理を持ち、呪術を施された奴だ」

ノハ;゚听)「っ」



133: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:32:49.38 ID:bk6Zvl/A0
居間はシン、と静まり返る。
遠くで蝉が鳴いているが、まるでラジオの向こう側のような隔たりを感じる。
ヒートが驚いて何も言えないところに一つ、手が挙がる。

(;´・ω・)「二つばかり質問をしたいのだけど」

( ФωФ)「どうぞ」

ショボンは手を止めている。
とりあえずはメモしたというところだろう。

(;´・ω・)「その人柱さん (仮名) はまだ生きているの?
       あとシューに施された呪術ってどんなの?」

(;+ω+)「……ふむ」

彼はまだシューの呪術について説明していなかった。
呪術の効果はある程度の見当がついているが、正直に言ってしてしまっていいのだろうか?
考えに考え、やがて決める。
説明する前に、彼は一つだけ言い聞かせた。

( ФωФ)「まず始めにいっておくことがある。
        これから話すことは全て私の憶測だ。
        もしかしたらそうではない可能性だって考えられる。
        話し半分に聞いておけよ」

(;´・ω・)「おk」

ノハ;゚听)「おk」



136: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:35:13.46 ID:bk6Zvl/A0
( ФωФ)「まず人柱さん (仮名) だが……まあ常識的に考えて死んでるだろ。
        人柱っていつの時代の風習だ?明治以前だろ?
        そんなに長生きできる人間など私は知らない」

ノパ听)「つーかもう人間とは呼べないんじゃ」


( +ω+)「……だろうな」


( Фω+)「ただ、その遺体と魂は残っている可能性はある。
       シューが神隠しにあったところでな」

(;´・ω・)「その……シューは遺体から呪術を受け取ったと?」

( ФωФ)「おそらくはな」


( Фω+)「それと呪術の効果だが……見る限り “霊力の増加” だろうな。
        これと似た施しを以前みたことがある」

彼は二枚の写真に目を落とす。
腹を写しているものには、へそを中心に工場を表わす地図記号みたいな紋様が。
背を写しているものには、腹の紋様よりも大きく複雑に描かれた円形の紋様が。

彼は遥か過去に教わった言葉を思いだす。



138: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:38:41.96 ID:bk6Zvl/A0
  

―――― 日を模す画を御身の表へ、月を模す画を御身の裏へ。


曰く。
太陽があるのは生者の象徴、彼の者があちらに逝かせないよう繋ぎ止める役目を果たす。
月があるのは死者の象徴、彼の者にあちらの理を分からせ、力を与える。

刻むは丑三つ時。
太陽よりも月を大きく。
■■■■の象形を一つずつ綴り、月の形に■■■■を成す。






     「ロマさん?」

( +ω+)「……ん?」

ノパ听)「どうしたの?」

( ФωФ)「ああ、すまん。
        呆けていた」

しっかりしろ、と心のうちで彼は己を叱咤する。



139: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:41:27.51 ID:bk6Zvl/A0
ノパ听)「じゃあ私たちはこれからどうすればいいの?」

( ФωФ)「シューについてできるだけ知ることが必要だ、それも霊的な視点で。
        ……ここまでの話はけっこう憶測の部分があるから」

(´・ω・`)「完全にロマさんの分野だね。
      僕やヒートさんにできることは?」

( Фω+)「なるべくシューが普段通りの生活を送れるよう努めてほしい。
        あとは情報交換して、何が起こっているかを理解する。
        私とて見逃す点があるかもしれないから、気になったところがあったら言ってくれ。
        ……お前たちのほうが私なんかよりもシューに近いのだから、期待しているぞ」


ノパ听)「……」


ノパー゚)「あまり期待されても困るなあ。
     家族でも分からないものってのはあるからさ」

( ФωФ)「それでも居候させてもらって一カ月も経ってない私よりはマシだ」

ノパー゚)「そうかねえ?」

( +ω+)「あんな変人、私にすぐ理解できるはずなかろう」

( ´‐ω‐)「……」



140: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:43:47.55 ID:bk6Zvl/A0
クスクス笑うヒート。
顔を見られないシューに数年気付かなかった彼女は、己を責めているのだろう。
そんなヒートを彼らは慰めも叱りもしない。
彼女自身が乗り越えなければ、何をいっても無駄だと知っているから。

話は終わり、彼は立ち上がる。


( ФωФ)「とりあえずシューの様子を見たいのだがいいか?」

ノパ听)「あ、やめといたほうがいいよ。
     今は眠っているし、起きてても無差別に読みとっちゃうからね」

暗い感情を素早く引っ込めた彼女に止められる。
無差別とはどういうことだろうと疑問に思った彼に言葉を重ねた。

ノパ听)「えー……と、今のシューは現実が見えないとでも言えばいいのかな?
     見える記憶が多すぎて記憶しか見えてない状況なんよ。
     だから会話が成立しないし、場合によっては閉まっておきたい想いとかもバレてしまうんよ。
     人の心を読みとることもあれば、数十、数百年前の記憶すら見えてしまうからね。
     会って話せば混乱するし、シュー自身もそんな姿を見られたくないと思ってるんだよ」

(;+ω+)「なるほど、難儀な」

とはいえ彼には一つ、手がある。
シューの記憶を見る力が霊能力であるならば、彼自身の力で見せないこともできるのだ。
彼個人の感想として少々つらいところではあるが、そんなのは日常茶飯事だ。



143: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:47:08.15 ID:bk6Zvl/A0
( +ω+)「ま、なんとかなるだろう」

シューに会うため、居間をでる。
妹思いのヒートは予想通り慌てた。
が、彼に頼るしか改善策がない以上、もう止める言葉を出せずに見送った。

暗い廊下をヒタリヒタリ。
未知に出会うこの感覚を懐かしんでいると、すぐにシューの部屋の前に到着した。


( ФωФ)「シュー、起きてるか?」


…………。
……………………。
………………………………。


しばらく待ったが返事がなかった。
意を決して戸を開けたが布団が敷かれているだけで、人の形をしたものがなかった。

(;ФωФ)「あっるぇ〜?」

寝てたんじゃないのか?
どこにいったのだ?
というか出歩いても大丈夫なのか?

シューがいないことに対するたくさんの疑問に、彼は首を傾げる。



146: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:50:53.41 ID:bk6Zvl/A0
慌てて居間に彼は戻った。
今度は二人が首を傾げる番だった。

ノパ听)「あっるぇ〜?」

(´・ω・`)「ロマさんどうしたの?」

(;ФωФ)「シューをみなかったか?」

(´・ω・`)「いなかったの?」

ノパ听)「もしかしたら、私らが話してる間に外に出たかもね。
     こういう状況のとき、たまにフラッと出るからね」

(;ФωФ)「それってまずくないか?」

ノパ听)「いやいや、外出るっつっても家の前にいるはずだから。
     あの子だってそこあたりは分かってくれるからさ」

(;+ω+)「……ん」

しかし今のシューは RPG でいうところの混乱状態だ。
味方や民間人を攻撃したり、まっすぐ進めなかったりするのではないだろうか。
とにかく早めに会った方がよさそうだ。

(;+ω+)「面倒はしてくれるなよ」

独り言を呟き、彼はすぐに玄関を出た。



150: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:53:47.58 ID:bk6Zvl/A0
夕日の残滓が地上を染めている。
空には赤と青のグラデーションができていて、あと数分で夜の時間になるのを知らせてくれる。
そして町を見下ろすように、天上の満月が主張を始めた。

(;ФωФ)「シュー、どこにいるー?」

あたりは薄暗く、さっと見渡したかぎりでシューを見つけ出すことができなかった。
もしこのまま彼女が麓に降りて誰かと接触したら、と想像してみる。


―――――――――――――― ( ФωФ) 想像中 ―――――――――――――――

(・∀ ・)「あれ?こんな時間にどうしたの?」

lw´‐ _‐ノv「なるほど……今晩のおかずはふたなりか、変態め」

(;・∀ ・)「え、え?ちょ、ちょっとっ!?」

lw´‐ _‐ノv「昨日は触手で一昨日は……中学の卒アル? マジかー」

(;・∀ ・)「やめてっ!見ないでっっ!!」

lw´‐ _‐ノv「佐藤さんや渡辺さんや……私まで入ってるのか。鬱だ死のう」

(;・∀ ・)「ぎゃああああああああああああああああっっ!!」

―――――――――――――― (;+ω+) 想像終わり ―――――――――――――


(;+ω+)「……早く見つけないと」



154: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 00:58:59.11 ID:bk6Zvl/A0
(;ФωФ)「シューっ、どこだーっ!!」

(;ФωФ)「おーいっ!! シューっ!!!!」

比較的、真剣な色を帯びた声を遠くへ飛ばす。
しかし、返事は返ってこなかった。
本当に麓に降りたのだろうか、と心配になり始めたころになって彼はある物を見つけた。
それは砂尾神社に至る石段の途中にあった。

黒い物体だった。

(;ФωФ)「なんなっ……」

「……のだ?これは」、と続くはずの言葉が途中で止まる。
黒い物体はシューだった。

物と間違えたのも無理はない。
薄暗いからだろう。
T シャツも短パンも黒で統一しているからだろう。
ニット帽もしてなかったからだろう。
返事もなかったからだろう。

まるで枯れ果てた何かを連想させる格好で彼女は石段に腰を下ろしてた。

( +ω+)「 」

言葉が出なかった。
その姿がシューと分かり、深い悲しみを覚えた。



155: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 01:02:23.07 ID:bk6Zvl/A0
( +ω+)「……」

lw´‐ _‐ノv「   ボソ       ボソ」

( Фω+)「?」

lw´‐ _‐ノv「        ……ボソ 」


月を見上げた彼女は小声で何かを言っている。
「独り言だろうか?」、内容を確かめるために近づいてみた。


lw´‐ _‐ノv「……独自の思考と既存のそれを操り、私は今日も励む。
       思うにこれはうつろなる者たちを彼岸に押し出す術らしい」

(;+ω+)「?」

lw´‐ _‐ノv「綺羅星が見える、土砂降りなのに?獣がいないのは運がいいと考えていいのか?
       その他にも様々なものがあるが、それらは天から授かりし才がなくては出来ぬ代物」

(;+ω+)「……えと、何を言ってるんだ、お前は?」


始めは何を言っているか分からなかった。
結局、最後まで独り言の内容が分からなかったのだが。
それでも、今のシューの異質さだけは理解できた。



158: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 01:05:46.62 ID:bk6Zvl/A0
lw´‐ _‐ノv「でもやらなければ、皆、今日を生きるのに精一杯なのだから。きっとまた何処かの山に死体が生まれる。
       それともこの大雨で私は何処かへ流されてゆくのだろうか?
       この町は優しく、そして残酷だ。ウツロなんていう悲惨なシステムが腰を下ろしている。
       あのお方がいった。愛しい彼の者を此処へ連れてきてほしいと。
       果たして、あのお方の望みは叶った。ひと時でしかなかったが。そして災厄だけが残ってしまった。
       ではなんでこんな悪天の空の下で寝ているのだろう?なんでこんなにひもじいのだろう?
       わしはここに何も残さない。だから全て消して逝く。
       父はあの者から託された。だから子である私もあの者に続かねばならない。
       それがたまらなく悔しい。どうにかならないだろうか?
       凡庸な私たちでは扱えぬ。だがうつろなる者たちを追い払えればそれでよい。
       光ってるのは星ではなく雫だ。ああ、苦しい。もう体を起こせない。おそらくこのまま朽ちるだろう。
       欲するお方は政の力を持つお方だった。しかしいかに強いられようと無理があるのだ。
       伝承なんかもあたっているが、古くてよく読めないのが多いのが難点だな。
       奇術を用いる者がいた。あの女は強張っていた。これから男を殺さねばいけないのだ。
       神通力を宿す者がいた。あの男は笑っていた。これで村は救えると。
       だから私は愚か者だ。男はどこかへ消え、女もどこかへ消え、あのお方はうつろなる者に喰われた。
       いくら奇術を用いるわしにもできることとできないことがある。はじめは力が及ばないといっておいた。
       もうあの者はいない。それでも託されたのだ。ならば我らはあの者の悲願を叶えたいのだ。
       私は愚か者だ。あのお方のおっしゃる通りに従えば、彼奴らは喰うにも困らなくなるだろうと考えた愚か者だ。
       そのような時にあれに出会った。それは喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのか。
       解決策なんて分からない。私たちはただ彼らを望んだ人の前で、ウツロを消していくしかない。
       私たちはいつまで死者を殺していかなければならないんだろうか?
       だから……」

(;ФωФ)「……」

シューは彼を見ない、彼に言葉を返さない。
ただただ月を見上げ、呪文のように唱えている。



159: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 01:09:05.31 ID:bk6Zvl/A0
こんなシューを見ていられない。
そしてシューに見せてはいけない。
衝動に駆られ、彼女の背中に手を置く。
多少湿っているが、気にしていられない。

浄霊するときと同じく、分解するイメージを頭の中に描く。
同時に感覚の目が開かれる。
霊視をしていなかったときのシューは黒かった。
霊視を始めたら、今度はシューが眩しくて直視できなかった。

まるで正反対。
あの世で強い力を持てる者は、この世では死体のよう。
そんな妄想ごと彼の力で分解する。


――――― そして、光が散った。


これは一時しのぎにすぎない。
強すぎる力に強い力でぶつけただけだ。
調整してシューの力よりぶつける力を弱めたのだから。

強すぎてはシューの魂を砕く恐れがある。
彼は今まで生者の魂を砕いたことはないが、あの世の理がこの手に在る以上、注意している。
だから必ずシューの力は残ってしまう。
その力がまたオーバーフローする可能性もある。

それでも今はこれが最善だった。



161: ◆pGlVEGQMPE :2010/12/30(木) 01:11:47.67 ID:bk6Zvl/A0
目がチカチカする。
手のひらがチリチリする。
そんなものなど知らないとばかりに、彼は声をかけた。

( ФωФ)「シュー?」


彼の言葉に反応を示す。
もう月を見上げてはいなかった。











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