こころ、のようです

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:30:00.00 ID:Di7/6rlA0

( 十 )

人には触れられたくない過去が必ずひとつやふたつあるものだ、とよく言うけれど。

それが本当ならつまり、この世界のちょーたくさん居るひとの数だけちょー悲しい出来事があるってことで。
私の居るあのクラスだけでも、三十六の悲しい出来事が潜んでいるわけで。
一人につき二つあるとしたら、えっと、七十二?も悲しい出来事があの教室に存在することになる。

この世の中ってそんなに悲しいことばかりなんだろうか?
私は、人に話せないような過去は無い。

強いていうならお父さんは死んでしまっているけれど、私の生まれる前の話だから別に悲しくはない。
お母さんがいとおしそうに話すその人を知りたいとは思うけれど。

お母さんが私が寂しくないようにいっぱいがんばってくれているのだから、別に隠すようなことじゃない。
触れてくれて構わない。私はお母さんの話を胸を張って話すから。

というわけで、忘れてしまった記憶は話せないけれど、話すだけで胸が苦しくなるような過去はもっていない。
むしろ考えるだけで涙が出そうになるのは、今この瞬間、先生を想うとき。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:32:21.38 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「冬の匂い、ってあると思いませんか」

ζ(゚、゚*ζ「ふゆのにおい?」

(´<_` )「わかりやすいものだと、灯油の匂いだとか、暖められた部屋の匂いだとか」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほど……」

(´<_` )「でも、そういうのも別にして、空気の匂いがね、違うんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「うーん」

深呼吸をしてみる。

ζ(゚ー゚;ζ「……潮の香りしかしないです」

(´<_` )「そうですねえ、貴方にとっては慣れていない匂いでしょうから、
       そればかりに気が行ってしまうんでしょうね」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:38:03.85 ID:Di7/6rlA0

ζ(゚ー゚*ζ「先生は、ずっとこの辺に?」

(´<_` )「そうですね。生まれも育ちもこの辺りですよ」

ζ(゚、゚*ζ「えっ」

(´<_` )「まあ、一度は離れましたが。戻ってきてしまいました」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだったんですかー…」

(´<_` )「そうそう、此処の冬は、寒いですよ。いい加減に、もう少しくらいの厚着を考えなさい」

ζ(゚、゚;ζ「だって着こんだら太く見えるじゃないですか」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:39:17.49 ID:Di7/6rlA0

先生はいつものコートに、今日は青色のマフラーを首に巻いていた。
けれどそのマフラーのデザインはいつもの緑色のそれと変わらないように見える。
もしかしたら、色違いなのかもしれない。
だから、受ける印象は全然変わらなかった。

コートの中にどんな服を着ているのかは知らないけれど、
そう説教するからには厚着をしているのだろう。それなのに先生はほっそりとして見える。

病的なまでにではないにしろ、とりあえずメタボリックなんやらとか中年太りとか、
そういった言葉と先生は結びつかない。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:43:02.87 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「実際はそうではないのだからいいじゃあないですか」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんとうですか?!」

(´<_` )「ええ」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ……」

(´<_` )「標準だと思いますよ」

ζ(゚、゚;ζ「……」

(´<_` )「貴方って人は本当にわかりやすいですねえ」

ζ(゚ー゚#ζ「先生って人はほんっとーに意地悪ですね!」

(´<_` )「お褒めに預かりまして至極光栄です。感謝感激、いたみいります」

ζ(゚ー゚#ζ「もー!日本語喋ってください!」

(´<_` )「……日本語ですよ?」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:47:45.08 ID:Di7/6rlA0

走って此処に来たときは、まだ青かった空が、もうすっかり紅く染まっていた。
そしてきっと、次に気付いたころには真っ暗になっているのだろう。

最近、本当に日が落ちるのが早くなってきた。
それに、寒さが、身体の表面だけじゃなく中にまで沁みるようにもなった。

冬がくるんだ。

ζ(゚、゚*ζ「……先生は」

(´<_` )「はい?」

ζ(゚ー゚*ζ「えっと、恋に年齢は関係あると思いますか?」

(´<_` )「……」

ζ(゚ー゚;ζ「いや!深い意味はないんですけど!今日友達とそんな話になって!」

(´<_` )「関係がある、とは……つまり、年の離れた人に恋心を抱くことはあり得るのか、という意味でしょうか?
      それとも、恋愛をする際に障害になり得るか、という意味なのでしょうか」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、あり得るのかなって!」

(´<_` )「貴方もそんな話をするんですね。なんだか意外です」

ζ(゚ー゚#ζ「どういう意味ですか!」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:51:24.13 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「まあ、どちらにしたって同じなのですけどね」

ζ(゚、゚*ζ「えっと……」

(´<_` )「年が離れていても恋に落ちることも、年の差が問題となって恋愛が阻まれることもあると思います」

ζ(゚、゚*ζ「二十歳とか、三十歳とか離れている相手に、ですか?」

(´<_` )「そりゃまあ、赤ん坊に恋をできるかと言われたら無理かもしれませんが、
      ……年の差を、気にしている時点で手遅れじゃあないですか」

ζ(゚、゚*ζ「手遅れ?」

(´<_` )「なぜ、年の差を気にする必要が?友情や親愛の情ならば誰にだって、それこそ犬や猫にだって抱けるものです。
      その感情が恋に起因するものだからこそ、年の差を気にするのでしょう。そこに障害が発生することを知っているから」

ζ( 、 *ζ「つまり」

ζ( 、 *ζ「……つまり、年の差を気にしている時点で、手遅れってことですか」

(´<_` )「それ、さっき私が言いましたよ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:55:44.85 ID:Di7/6rlA0

先生が目を細めて笑う。私はそれに笑い返すことができない。
親愛なる友人である彼女の考えと、先生のこの考えは、言葉こそ違うけれども、きっと同じものだ。
ずしりと胸に落ちた重みはきっと、真実とか現実とか、そういったものの重み。

私は、先生に恋をしている。
心の中で何度繰り返し言ってみても、どうしても否定したくなる。
だけど、その否定の理由が”だって歳が離れすぎている”しかない。

先生との記憶のどこを探したって、世界中を探したって、
それ以外に否定する理由は見つからないと思う。
そしてそのたった一つの否定すら言いわけなのだと気付いて。

それなのにまだ抵抗をやめないのはなんでだろう。
だって、だって、と駄々をこねてみても、
恋をしているのは私なのに。私だけなのに。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:59:36.01 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「では、私からも質問をひとつ」

ζ(゚、゚*ζ「……なんですか?」

(´<_` )「……ある本で、こういった台詞がありました」

(´<_` )「”しかし君、恋は罪悪ですよ。解っていますか”」

その台詞はあくまで本からの引用で、
先生の心から生まれたものではないことはわかっているのに、私はひどく傷ついた。
私の、この無駄な抵抗の理由の一番根っこの部分を先生に見抜かれたような気持ちがした。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:01:58.02 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「その台詞を言ったひとはこうもいいました。”そうして神聖なものですよ”」

ζ( 、 *ζ「……」

(´<_` )「どう、おもいますか?」

ζ( 、 *ζ「どう、って」

ζ( 、 ;ζ「……どうって」

(´<_` )「別に、授業中の質問じゃあないんです。減点したりしませんから、貴方の思ったことを言ってみてください」

(´<_` )「恋は罪悪だと、貴方は思いますか?」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:05:14.28 ID:Di7/6rlA0

恋は罪悪か、罪悪でないか。

私の頭の中でたくさんの意見が飛び交う。
ひとつ意見が出ればそれを否定する意見が出て、そして次の瞬間にその否定を肯定する意見が出る。
そんな感じでぐるぐると考え過ぎて、誰も声を出していないのにうるさく感じる。

それをずっと続けていると頭がショートしそうになる。
意見の飛び交うスピードがどんどん速くなる。
肯定。否定。肯定。否定。最後には中立派まで出てきた。

(´<_`;)「…あのう、大丈夫ですか?」

そんな私を見かねてか先生が声をかけてくれたのだけど、
その声がスイッチになって私の頭から意見が飛び出てしまった。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:10:21.98 ID:Di7/6rlA0

ζ( 、 ;ζ「思いま、せん!」

ζ(゚ー゚;ζ「いや!ほ、ほんとうはちょっと思ってます、けど!」

ζ(-ー-;ζ「けど、けどそれは寂しいから、そんな風に思いたくありません!」

oζ(゚ー゚;ζ「恋とか愛とかそーゆーのはっ、なんていうか!そりゃ寂しいこともいっぱいあるだろうけど!
        でも、でもやっぱり楽しかったり嬉しかったり!そう、そう、幸せであるべきです!
        ええ、そうなんです!そしたら世界は平和になるんですっ!らぶあんどぴーすでハトがぶわーなんです!」

煮立った頭で熱弁する私は、いつの間にかこぶしを握りしめていた。

(´<_`;)「は、はい、そうですね」

oζ( ー ;ζ「世の中の恋人たちは幸せであるべきです!ぜひとも!す、すべからく!世界平和のために!」

(ノ<_ ;)「ええ、わ、私もそう思います……ふっ、」

先生が噴き出して、ようやく私の口も止まってくれた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:16:16.85 ID:Di7/6rlA0

(ノ<_ ;)「あ、あなた、本当に、おもしろいひとですね……」

ζ(-ー-;ζ「うれしくないです……」

(´<_` )「いや、本当にね、素直に褒めているんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そういう風には聞こえないですー」

(´<_` )「それは、残念です」

ζ(゚、゚*ζ「ふーんだ」

(´<_` )「……ああ、本当に貴方は、」

不自然に言葉が止まる。私は先生を睨みつけた。
どうせまた、私をからかうつもりなのだろう。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:19:28.50 ID:Di7/6rlA0

ζ(゚ー゚*ζ「本当に?」

(´<_` )「……言ったら、貴方が怒ると思うので、言いません」

ζ(゚ー゚;ζ「そんなこと言ったら気になるじゃないですか!」

(´<_` )「いやあ……怒りません?」

ζ(゚、゚*ζ「聞いてから、考えます」

(´<_` )「もう怒ってるじゃないですか」

ζ(゚ー゚#ζ「怒ってません!」

(´<_` )「ほら、怒った」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:22:14.18 ID:Di7/6rlA0

思うに、先生は私の行動パターンくらいお見通しで、
これをしたら怒るとか悲しむとか、喜ぶとか、そういうことを全部わかっていて、
だから、よりによって、怒ってるとか怒ってないとかいう口喧嘩が一通り終わって、

ζ(゚ー゚*ζ「この辺は、雪、積もりますか?」

(´<_` )「積もりますよ。もう見飽きるほどに」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、雪だるま、作りたいです。向こうじゃ雪なんて滅多に降らないし、
      降っても積もるなんてもっとないし、雪だるまとか、作ったことないんですよ」

(´<_` )「なるほど。じゃあその雪だるまさんにはベタにバケツでもかぶせてあげましょうか」

ζ(^ー^*ζ「はい!」

こんないつもどおり普通で、しあわせな会話をして、
私がすっかり油断したところに、



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:24:11.08 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「ああ、そういえば」

ζ(^ー^*ζ「はい?」

(´<_` )「かわいい、ですよ」

こんな、ことを言って、

ζ(^ー^;ζ「……は?」

(´<_` )「さっき、言いかけてやめた続きです。あなたは本当にかわいい、ですね」

その上、優しくほほえむのも、きっと全部わかってやってるんですよね。
そうだと言ってください。天然だったら犯罪だと思います。

ζ(゚ー゚*ζ「う」

(´<_` )「?」

ζ(///*ζ「うッわああああああああぁあああああ!!」

(´<_`;)「うおっ?!」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:29:46.63 ID:Di7/6rlA0

ζ(///*ζ「かっ、かかかかかえります!」

(´<_`;)「は、はい…お気をつけて……」

ζ(///*ζ「さような、りゃ!」

(´<_`;)「さようなら……」

先生の顔をもう一生見れないかもしれない。それくらいに恥ずかしい。
とにかくこの場から立ち去りたくて全力で走ったら、全力でこけた。
悲しいことに二回目の、顔面から砂浜へのダイブ。

(´<_`;)「だ、大丈夫ですか?」

先生が近づいてきているのだろう、ざくざくと砂を踏みしめる音が聞こえる。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:33:03.23 ID:Di7/6rlA0

ζ(///;ζ「だ、だだ大丈夫ですからこっち来ないでくださいぃいいい」

(´<_`;)「い、いやでも」

ζ(///;ζ「大丈夫ですからあああ!」

(´<_`;)「じゃ、じゃあせめてその、スカートをどうにかしてください!」

ζ(゚ー゚*ζ「は?」

(´<_`;)「めくれてますから!」

ζ(///;ζ「きゃあああああああああせんせいのへんたいいいいいい」

(´<_`;)「見てません!大体ブルマじゃないですか!」

ζ(゚ー゚#ζ「ちょー見てるじゃないですか!先生のロリコン!ばかあああああ」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:35:28.80 ID:Di7/6rlA0

砂が顔中についていて、それがちくちくと痛い。
乱暴に顔をこすると、それは簡単にばらばら落ちる。

少し泣きそう。感情が一定以上まで高ぶると、泣きたくもないのに泣いてしまう。
砂を落とすふりをして、涙をぬぐった。

顔をあげると、来ないでと言ったのに、目の前に先生が居て、
私に手を差し伸べていた。いつか見たような光景。

(´<_` )「貴方はよくこけますね。それも盛大に」

ζ(゚、゚*ζ「先生が、私をからかうから」

(´<_` )「そうですね。すみません」

ζ(゚、゚*ζ「……」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:39:28.11 ID:Di7/6rlA0

二回目に触れた先生の手は、前と変わらずひんやりとしていた。
先生の手を離すのが惜しくて、私は手を握ったまま尋ねた。
先生も、その手を振り払おうとはしなかった。

ζ(゚、゚*ζ「先生は、どう思っているんですか?」

(´<_` )「何を?」

ζ(゚、゚*ζ「恋は、罪悪だと思っているんですか?」

(´<_` )「……恋は、」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:41:32.50 ID:Di7/6rlA0

繋がれた手に込められる力が、少し強くなる。そうしたのは私じゃない。
きっと、いつの間にか、私の心臓はこの手の中に移動したんだと思う。
その少しだけ込められた力がそのまま、私の心臓を締め付けたから。

(´<_` )「私にとって、恋は、呪いです」

(´<_` )「どうしようもない、呪い」

( <_  )「誰も幸せに、ならない……」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:44:51.92 ID:Di7/6rlA0

なんで今、太陽が照っていないのだろう。青空が広がっていないのだろう。せめて夕焼けではないのだろう。
こんな薄暗い中では、その言葉に呑み込まれてしまいそうになる。

悲しいと思った。先生は本当にそう思っている。
絞り出すように紡がれた声が、繋がれた手の震えが、そう言っていた。

これが先生の一番深いところにあるこころなのだと。
こんな寂しい言葉が、もうずっと先生のこころを支配しているのだと。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:46:37.15 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「気付いたときにはもう遅くて、どうにかしてその呪いを解こうとしても、自分ではどうにもできなくて」

(´<_` )「それどころか、考えれば考えるほど深みにはまって、愛おしくなるばかりで、焼けついて、焦がれて」

(´<_` )「……ひどい、ものですね」

ζ( 、 ;ζ「そんな……、」

何か言いたかった。誰かを救うことのできるような、凄くありがたい言葉じゃなくていい。
さっきのめちゃくちゃに語ったみたいな言葉でも、
なんの根拠もないデタラメでもいいから、先生の言葉を否定したかった。

それなのに私の口ときたらひとつの言葉も紡がない。
さっきまで勝手にしゃべっていたくせに!
呆れた目が涙を流す。けどその涙も、すぐに暗闇に呑み込まれてしまった。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:50:15.47 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「どんなに酷いことをされても。殴られても、犯されても、たいせつな人が殺されたとしても。
      どんなに酷いことを言われても。こころが引き裂かれるくらいに傷つけ、傷ついても。それでも解けない。
      どうしたって想うことを止められない。たとえ、自分がころされてしまっても」

(´<_` )「だのに、誰も意図しないときにその呪いは解けるのです。しかしその呪いがふたつ同時に解けることもない。
      残されたもうひとつの呪いはただ急速に傷痕になり、それもまたどうしようもない、違った種類の呪いとなる」

(´<_` )「私の知る恋とはそういうものです」

ζ( 、 ;ζ「でもっ、」

ζ( 、 ;ζ「でも、でも、私の、私のお母さんとお父さんは、凄く愛し合っていたって、お母さんが……ッ、」

ζ( 、 ;ζ「それでも、先生は呪いだというんですか」



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:52:04.14 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「……マイナスのものと、マイナスのものをかけるとプラスになりますね」

(´<_` )「しっかりと二つの呪いが繋がっていれば、それは……」

(´<_` )「それを、きっと愛とよぶのでしょう」

(´<_` )「けれど、少しでも解けてしまえば、それは呪いです。
      繰り返しますが、私にとって恋はそういうものなのです」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:56:00.38 ID:Di7/6rlA0

やっと紡いだ言葉さえ、先生には届かない。
またなんにも言えなくなって、私はただぽろぽろ涙を流す。

寂しい。悲しい。苦しい。愛しい。
全部がごちゃまぜになって、涙になって、溢れては消えていく。

こんなに近くに居るのに、届かない。

(´<_` )「……少し、自分に酔ったようなお話でした。年寄りがするものではありませんね。みっともない」

先生は笑って、けど私と繋いでいた手を解いた。

(´<_` )「暗いお話をしてしまって、ごめんなさい。貴方はきっと、こんなお話は嫌いでしょう、理解もきっと出来ない。
      ああいえ、こんな話、理解出来ない方がいい。理解出来るような貴方には、なって欲しくない。
      恋はきっと、貴方のいうとおり、幸せなものなのです。そうであるべきです。
      私だって、わかっているんですよ。それを願っています。
      せめて、貴方の恋だけでも。だから、……泣かないでください」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:58:51.45 ID:Di7/6rlA0

(´<_` )「私は」

(´<_` )「私は、貴方の笑っている顔がすきです」

(´<_` )「貴方が笑うと、私はすくわれたような気持ちになるんですよ」

そんなことを言うものだから、私はぐしゃぐしゃの顔で笑ってみせた。
先生も先生で、少し下手くそな笑い方をして、それから私の目じりにたまった涙をすくってみせた。



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