こころ、のようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:07:03.86 ID:hUB8EbhC0
(十一)

('、`*川「あかさたな……、な、な、なつ、なつめ…あった!」

ζ(゚ー゚;ζ「何それ、でかすぎるでしょ!辞典だよ!」

(*゚ー゚) 「全集なんだから仕方ないよー。ちょっとまって、目次……あった」

('、`*川「ほら、これがアンタご所望の『こころ』だよ」

ζ(゚ー゚;ζ「う、うわー……明らかに読みたくないんだけど」

(*゚ー゚) 「恋の為なら読みなさい!」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:09:13.18 ID:hUB8EbhC0

彼女の迫力に、思わずうぐう、と唸ってしまう。
半ば無理矢理渡された全集は重くって、全体的に黄ばんでいた。
いったい、いつからここにあったんだろう。

ζ(゚ー゚;ζ「……えーと…わたくしはその人を常に先生と呼んでいた……
       世間を…はばか…る…あああああだめもう無理!!!」

('、`*川「早いッ!!」

ハハ ロ -ロ)ハ 「図書館では静かにしましょうネー」

ζ(゚ー゚;ζ「はーい…」

('、`;川「すみません……」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:11:53.67 ID:hUB8EbhC0

人生初の、図書室の自主的訪問はこんな感じ。
まあ二人に引きずられながら来たから、胸を張って自主的とは言えないけれども。
手渡された本は人を殴るのに適したサイズと重さで、
ついでに殴らずとも私にダメージを与えることのできる内容だった。

まず、文字が細かすぎて、目がチカチカする。
そして、先生の話し方をずっと難しくしたような文面。
それでも無理やり頭を押さえつけられて二、三ページは読み進めたものの、全然おもしろくない。
そういえば、ハリーポッターも最初の二ページで挫折したんだったなあ。

('、`#川「あんたやる気あんの?そんなんじゃ奴の心を奪い取れないよ!?」

ζ(゚ー゚;ζ「奴って……」

(*゚ー゚)「まあ別に無理して読まなくてもいいじゃん?
     ほら、私難しくて読めなくって、あらすじ教えてもらえますか?とかでも話題にはなるよー」

ζ(゚、゚;ζ「な、なるほど……」

('、`;川「ほほう矢張り年上キラーの言うことは違いますなあ、ちょっ、ギブギブ!!」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:15:44.43 ID:hUB8EbhC0
二人がじゃれあったせいで、また司書の先生に怒られてしまった。
反省して、内緒話をするときの音量で会話をする。
そもそも図書室は雑談禁止なのだけど。

('、`;川「あんた本当は私が嫌いなんでしょ?!いつか私死ぬわよ?!」

(*゚ー゚)「うーん、まずは簡単な本から読んでみたらどうかなあ?
    普段全然本読まないんでしょ?それでいきなり夏目漱石はしんどいよー」

ζ(゚、゚*ζ「なに読めばいいかなあ」

(*゚ー゚)「今まで読んだ本で、好きな話とかある?」

ζ(゚ー゚*ζ「……ごんぎつねとか……」

(*゚ー゚)「……」

ζ(゚ー゚;ζ「モチモチの木とか…」

自分でも、流石にこれはないだろうと思うくらいなのだから、二人は尚更そうに決まってる。
言っていくうちに、二人の顔が呆れから哀れみに変わっていくのがよくわかった。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:19:15.06 ID:hUB8EbhC0

('、`;川「いや、あのね……小学校の国語で習ったハナシ言えってんじゃないのよ?」

ζ(-ー-;ζ「お話って言われるとそれくらいしか思い出せない……」

('、`*川「あーあー、だめだこいつ早くなんとかしないと」

物凄くどうでもよさそうに言われると、逆に馬鹿にされた感じを受けないものだなあと気付く。
彼女はサバサバした性格、というものを体現したような人だ。
何を言っても嫌味がない。これはもう才能のようなものだと思う。

('、`*川「でもま、そんなアナタにお買い得情報!」

ζ(゚ー゚*ζ「んあ?」

('、`#川「やる気ねえなあ!えーなになにちょー知りた―いくらい言えんのかい」

(*゚ー゚)「素出てるよー」

('、`*川「え?あ?やだわオホホ」

(*゚ー゚)「きもっ」

('、`*川「てっめ……もう!あなたって人はっ!」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:22:31.89 ID:hUB8EbhC0

お父さんの影響もあって、素ではやけに男勝りな喋り方が素の彼女なのだという。
本人は気にしているらしいけれど、生きているお父さんから影響を受けることが出来るのは、
わたしにとってはとても羨ましいことだ。

('、`*川「うーん、やっぱ小さいときからのしゃべり方って中々治らないなあ」

ζ(゚ー゚*ζ「家ではいっつもあんな喋り方なの?」

('、`*川「まあねー」

ζ(゚ー゚;ζ「家でも普通の喋り方にしないからダメなんじゃないの?」

('、`*川「…んなこたァどうでもいい!」

(*゚ー゚)「出てる」

('、`*川「そんなことはどうでもいいんですのよウフ!」

(*゚ー゚)「きもい」

('、`*川「……」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:26:52.10 ID:hUB8EbhC0
('、`*川「ううっ、どうせ私なんか、私なんか…」

(*゚ー゚)「あーはいはい、拗ねないの」

ζ(゚ー゚*ζ「お母さんみたいだね」

(*゚ー゚)「こんな子供はお断りですねー」

('、`*川「あんたねえ……」

(*゚ー゚)「でも大丈夫!本を読んでないなら読んでないで話題は作れるよ!」

そういえばそんな話をしていたんだった。

ζ(゚ー゚*ζ「ど、どんな?」

('、`*川「さすが、恋愛バカは違うわ」

(*゚ー゚)「私っ、普段本とか読まないんですけどっ、でも最近ちょっと読んでみよっかなって思ってっ……」

ζ(゚ー゚;ζ「それ私の真似とか言わないよね!?」

('、`*川「ちょー似てる、やるなあ」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:29:53.25 ID:hUB8EbhC0

(*゚ー゚)「それでっ、えっとっ、何かお勧めの本を教えてくれませんかっ?」

(*゚ー゚)「……これよ!」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほど!」

('、`*川「うわー白々しい。萎えるー」

(*゚ー゚)「頼られると男は嬉しいものよ!そして次会うときに本の感想いいますねと言えば、会う口実にもなる!」

ζ(゚ー゚*ζ「師匠と呼ばせてください!」

(*゚ー゚)「ふふん、よろしい。私はスパルタよ」

(う、`*川「ふふん、愛の反対は無関心とはよく言ったものだわ」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:33:08.74 ID:hUB8EbhC0
(*゚ー゚)「で、早速師匠からのとっておきの情報をお教えしたいんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「はい師匠!」

(*゚ー゚)「これはかーなーり効くと思うのよねえ。文学好きで夏目漱石好きっていうなら」

('、`*川「はよ言えよ」

(*゚-゚)「口調」

('、`*川(かまってくれた…)

(*゚ー゚)「あのね、夏目漱石って有名な小説家だけど、実は教師でもあったの」

ζ(゚ー゚*ζ「へー、そうなんだ……」

(*゚ー゚)「まあ、私も詳しくは知らないんだけどねー。
    あるとき、生徒さんがI love youを訳せって言われて、私は貴方を愛しますって訳したのね」

ζ(゚、゚*ζ「ふんふん」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:35:16.94 ID:hUB8EbhC0

(*゚ー゚)「でもそこで漱石は言ったの」

(*゚ー゚)「日本人はそうは言わない。今夜は月が綺麗ですねとでも訳しておきなさい」

ζ(゚、゚*ζ「……?」

('、`*川「……」

(*゚ー゚)「……」

('、`*川「か、かっこいい……」

(*゚ー゚)「流石お札に載っただけのことはあるよね…」

('、`*川「ねー……」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:39:47.80 ID:hUB8EbhC0

二人は心底感心しているようだったから聞けなかったけれど、
私には漱石さんがそう訳せと言った意図がよくわからなかった。

幼稚園の子が描いたような絵なのに、
「これは抽象芸術なんだ」とみんな感心しているから、
私も感心したふりをしている。そんな感じ。

I love you .

これくらい私でもわかる。
Iは私で、loveは愛してる、youは貴方。
どう捻ってみても、今夜は月が綺麗ですね、だなんてなりそうにもない。
どこがどう進化したらこうなるんだろう。

あまりにもわからなくて、罪悪感すら湧いてしまう。
このゲージュツが、ブンガクがわからないなんて、
お前はなんて感受性が低いんだ!と、偉い人に責められてる気がしてくる。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:44:10.52 ID:hUB8EbhC0

('、`*川「いやしっかし、私、漱石見直したわー」

(*゚ー゚)「あんたに見直されたなんて知ったらファンが泣くよー?」

('、`*川「……」

(*゚ー゚)「とにかく、これをさりげなく彼に言ってみれば……ね!」

ζ(゚ー゚*ζ「う、うん」

('、`*川「うん、これはちょっとグッとくるかもしれんね。
     あくまでさりげなくよ。気づかれないくらいのほうがいいわ。
     しっかし……はー、こんなこと言える教師は今の日本には居ないだろうなあ」

(*゚ー゚)「いわゆるモンペに訴えられるだろうしねえ」

('、`*川「全く、日本は腐ってるわあ。総理大臣にでもなろうかしら」

(*゚ー゚)「なれたらすぐ報告してね。海外に逃げるから」

('、`*川「……あんたって私のこと大好きよね」

(*゚ー゚)「あれ、知らなかったの?」

二人のやりとりに、私は笑いがこらえきれなかった。
つられて二人も笑ってしまって、ついに図書室を追い出されてしまう。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/18(日) 19:48:50.27 ID:hUB8EbhC0

(*゚ー゚)「あー、怖かったあ。にしても、箸が転がってもおかしい年頃ってこういうことを言うのかなあ」

('、`*川「ちょっとまって、この子が箸転がしてるとこ想像したらめちゃめちゃ面白くなってきた」

ζ(゚ー゚;ζ「しっつれいだなあ!笑ってないでちゃんと拾ってよ!」

(;゚ー゚)「「そういう問題じゃないでしょ!」

みっつの笑い声が、放課後の静かな廊下に反響している。
そのうちのひとつは、自分のもので。

私には、そんなことが不意に嬉しく思えてしまう。
基本的に、私はしあわせな馬鹿なのだ。



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