('A`)が狭間で生きるようです

15: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:24:53.85 ID:TK5dDeGy0
第五話「英雄も偽善者も関係ない」


俺がみんなを守ると言ってから10日。
この地域には暴徒と化したソードも、レジスタンスの手も伸びてはいなかった。
このまま、何もなく過ぎて欲しい。
いや、むしろソード同盟の奴等に早く国内問題を治めて欲しい。
そんな、気持ちが皆の中にも現れ始めた。

川 ゚ -゚) 「流石に、人目を忍んでこそこそして、
食料をどこかからもらってくる生活には疲れたな」

(´・ω・`) 「確かにその通りだ。
ソード同盟は外交問題が片付かないとは言え、さすがに遅い」



16: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:27:25.52 ID:TK5dDeGy0
皆、疲れている。
それもその筈だ。ショボン先輩の家に皆で暮らしてもう半月ほど。
幸いなことに全員が一人暮らしだったため、親の心配をしないですんだ。
だけども1LDKに五人暮らしでは少し狭い。
インフラ系もそろそろ止まるんじゃないか。
そんな不安が皆の心に巣くい始めた頃だった。

('A`)「ソード同盟の奴等はわざと国内の統治を遅らせているのかもですね」

( ;^ω^)「どういうことだお?ドクオ」

('A`)「不満の矛先を自分達じゃなく、レジスタンスに向けさせていると思う」

川 ゚ -゚)「だが、あいつらもソードだ。結局あいつらに不満が来るのでは?」

(´・ω・`) 「だから、ランクを設けたんだろ。あいつらはレベル5だ。
低級と高級では明らかに違うということをこの機会に見せつけるつもりだろう」

( ゚∀゚)「憶測の域を出ないのが辛いところっすね」



17: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:29:34.70 ID:TK5dDeGy0
たった、半月で自分達がこれほどまでに疲弊するとは思わなかった。
安全な秩序の中に過ごしていた自分。
差別も所詮一定の秩序がなきゃ出来ないということを思い知らされた。

一定の秩序が無くなったときに現れるのは排斥と暴力。
自分がどれだけ甘い世界で、そして狭い世界で生きてきたのかを見せつけられた思いだった。
反省はする。浅はかだった自分を恥じることもする。

('A`)「(それでも辛いものは辛いんだがな)」

そう自分に言い訳をしながら、心の中で呟く。
皆との未来が全く見えないこの世界で俺はどう生きていけばいいんだろう。
人間は自分が一番大切だろう、と信じている。
だけど、同時に皆の心を信じたい自分がいる。

居た堪れないよ。このままじゃ。
時折こんな風に、皆といるのが心苦しくなる時があった。



18: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:31:55.94 ID:TK5dDeGy0
('A`)「特訓してきます」

( ;^ω^)「おっ、気をつけてお」

(´・ω・`)「すまない、ドクオ。結局お前に頼らざるを得ないようだ」

少しばかり気弱になったショボン先輩に返事を返して、俺は外に出る。
ブーンにはうまく返事を返せない。
どうして、友達とうまくやれないのだろう。

しかし、外に出たら1人になる。そして、街を見渡しながら考える。
暴徒と化したのはソード。
一般住民はどこかで怯えながらひっそりと暮らしている。
外を歩けるのも最早一種の特権だ。
ごめんよ、みんな。
俺は外の空気が吸いたくなっただけなんだ。

('A`)「始めるか」

懺悔の意を心に表しながら、俺は何だかんだで特訓を始める。
皆を守りたいから?
多分、自分が死にたくないからだと心に語りかけ、暗い暗い感情を大きくする。
体と心に何か嫌なものが満ちて、大気にそれが拡散していくのが分かる。



19: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:34:12.26 ID:TK5dDeGy0
('A`)「出てこい、影法師…」

こいつを呼び出すときは常に陰鬱になる。
自分の心の表れを、こうもまざまざと見せつけられたら誰だって嫌になるだろう。
相変わらずに奇妙な顔のドクロと薄黒いボロボロの布と怪しく光る日本刀。
弓でないのが天の邪鬼な俺らしいな。

('A`)「広がれ」

今では半径15メートルにまで影を広げることが出来るようになっ。
自分の心の影を世界にも与える。
俺の影を世界に映す。
そう思うと、影は世界に広がった。

影の中にいると落ち着く自分にたまに嫌悪感を感じる。
何も見えない真っ暗な世界、俺だけの世界。
俺だけが全てを把握できて、他の者には真っ暗闇なこのちっぽけな空間。
優越感に居心地が良いのは当たり前なものの、少しばかり自分に引く。



20: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:36:19.70 ID:TK5dDeGy0

('A`)「切り裂け」

袈裟に切って、返す刀で燕返し。
横、斜め、縦と真っ暗闇な空間で、刀を振り回す。
自分のソウルが満ちているからだろうか。
どこに何があるかが俺にだけは分かる。

暗く小さな俺だけの世界。
俺より強いソードが現れれば、すぐにかき消されるような弱い世界。
真っ暗闇な空間で俺は優越感と自己嫌悪を繰り返す。

その度に影法師に力が満ちるのを知っているから。

('A`)「帰るか…」

商店街だった場所に行き、散乱している商品を
少しばかり手に持ちながら俺は帰路に着く。
もう、商店街にも人はいない。
皆どこかに引きこもっている。引きこもりに外に出て来いと言っていたのはどこのどいつだよ。
結局、怖ければ誰だって引きこもるんだ。



21: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:40:01.77 ID:TK5dDeGy0
(´・ω・`)「お帰り、ドクオ。今日は卵無しのすき焼きだよ」

帰ったらショボン先輩が豪勢な鍋を用意して待っていてくれた。
きっと皆の疲れを少しでも嫌そうと、作ってくれたのだろう。
ちょっとした散財を咎める人間は誰もいなかった。

( *^ω^)「おっお、ショボン先輩は料理がうますぎだお!」

ξ゚ー゚)ξ「全くブーンったら、もっと上品にしなさいよ」

検事という夢を絶たれ、現実を受け入れることも出来なく落ち込んでいたツン。
そんなツンもショボン先輩の料理とブーンの無邪気さに少し元気が出たようだった。
良かった、ツンのような気丈な人間が落ち込むと場の空気すら悪くなる。

まあ、いいや。とりあえず食べよう。
皆で箸を持つ。

           「「「「「いただきま―す!!」」」」」


( *^ω^)「美味しいお!この調理ならむしろ卵は不要!この料理を作ったのは誰だあ!」

( ゚∀゚)「この料理を作ったのは…」




(´・ω・`)「このショボン様さ!」



22: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:43:07.93 ID:TK5dDeGy0
談笑をしながら鍋をつつく。
みんなに元気が少しだけ戻るのが見える。
普段はあまり冗談を言わないショボン先輩すら、場を盛り上げようと努めている。
俺はこの人を尊敬している。
だけど俺はこの人のために命を捨てれるか?
答えろよ、影法師。

川 ゚ -゚)「ふう、満腹だ」

( *^ω^)「心もお腹も大満足だお!」

ξ゚ー゚)ξ「ありがとうございました、ショボン先輩。わざわざこんな料理を…」

(´・ω・`)「なあに、先輩の役目ってやつさ。
それよりも皆のその顔を見れて僕も満足さ」

場の空気に活力が戻る。
ショボン先輩の料理とブーンの明るさ。
ジョルジュ先輩の活発さに、クー先輩の理知的な頭。
皆に優しい気持ちを起こさせるツン。

こんな時に必要なのはソードじゃない。
人の心の明るさだ。
俺にはないもの。
そう、俺のソードには一片も見ることが出来ないもの。



25: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:45:29.30 ID:TK5dDeGy0
変わりたい、無くしてしまいたい自分の汚い部分。
大学に入り初めての部活、初めての先輩、そして初めての友達。
変われると思った、消してしまえると思っていた。
今でも消そうと思えば消せるのかもしれない。

だけど、そうすると影法師は消えるだろう。
なんでだろう、それだけはなんとなく分かる。
このままここにいても辛いだけなのに、俺はここから離れられない。
駄目だ、楽しいはずなのに結局暗くなる。

( ゚∀゚)「ふう、腹一杯だ。ドクオ、腹ごなしに一服付き合えよ」

('A`)「あ、はい。分かりました」

暗い顔をしていたのだろうか。
唯一の喫煙者のジョルジュ先輩に付き添ってベランダに出る。

( ゚∀゚)「腹ごなしの一服だけはやめられねぇな。
おっぱいがあればもちろんそっちの方がいいけど」

笑いながらそう言うジョルジュ先輩。
言動から想像出来ない思慮深さを持っているこの人も良い人だ。
空気を読めないのは無く、良い意味で空気を読まない。
自分はどうあがこうとこの人のようにもなれないな。



28: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:46:55.95 ID:TK5dDeGy0
('A`)「お袋が煙草嫌いで大学入るまでは周りに吸う人居なかったんです。
だからなんか新鮮ですよ」

( ゚∀゚)「おう、そりゃお袋さんが正しい。こんなもん積極的に吸うもんじゃねぇや」

('A`)「はは」

他愛もない話をされるのが一番心が楽になる。
こんなときは励まされたりする方がかえって辛い。
ジョルジュ先輩もそれを分かって、わざわざこんな風に軽く話してくれてるのだろう。

( ゚∀゚)「寒くなっちまったな。入ってテレビでも見ようぜ」

('A`)「そうですね。ジョルジュ先輩のせいですっかり冷えちゃいましたよw」

( ゚∀゚)「この野郎www」



30: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:49:27.42 ID:TK5dDeGy0
居間に入ってテレビをつける。
下らないお笑い番組や、バラエティ。ドキュメンタリーにしようかなんにしようか。
こんな時だからこそ見たい。こんな時だからこそ見たくない。
今日は前者だったらしい。
皆が笑いながらテレビを見る。
何も考えなくていい。ただ笑えばいいだけなんだ。

(´・ω・`)「さあて、そろそろ寝ようか。」

ショボン先輩がそう言ってテレビを消そうとした時、
無情にもニュースの速報が入った。空気を読めよ、ソード達は。

「レジスタンスがホロカード放送局を占拠したようです。
繰り返します、レジスタンスがホロカード放送局を占拠しました!」

('A`)「な…!」

(;´・ω・`)「なんだって…」



32: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:51:53.45 ID:TK5dDeGy0
ショボン先輩が慌ててチャンネルをホロカード放送局に移す。
そこに映っていたのはソード同盟のモララーじゃない。
全く別の男だった。

【( <●><●>)】「初めましてソードレジスタンスのリーダー、ワカッテマスです」

【( <●><●>)】「我々はソード同盟の趣旨に概ね賛成です」

目を見開いて喋る男の顔に狂気の色が見てとれる。
こいつはやばい。
モララーは柔和な雰囲気だった。だけど、こいつには柔和という文字は見えない。
確信に満ちた瞳で、淡々と話すその男に恐怖すら覚えた。

【( <●><●>)】「過去独裁が長く続かなかったのは代が変わる度にその力を衰えさせたからです」

【( <●><●>)】「しかし、我々ソードに弱体化はあり得ません。」

【( <●><●>)】「ソードになれば独裁が許される。
弱肉強食の自然において、これほどシンプルな統治はあり得ません」

【( <●><●>)】「我々ソードレジスタンスはソード同盟に独裁政治を求めます。
受け入れられなければ宣戦布告を致します。また、ソードでない方は我々の奴隷、人質です」

【( <●><●>)】「それでは皆さん明日からをお楽しみに」



35: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:54:37.87 ID:TK5dDeGy0
ワカッテマスと名乗った男は、そう言い近くにいたディレクターの首をナイフで刺した。
赤くなる、画面。
誰か死を恐れない人がいたのだろう。
次の瞬間には、画面は砂嵐となっていた。

短い放送、たった五分間の映像。
その五分間でこの十日間の苦労が無になった。
必死に耐えて、心を気丈に持ちいつかの明るい未来を想像していた皆。
力の無い希望は、それだけで絶望になるんだな。
そういう世界か。

ξ;;)ξ「もう、嫌!!!なんでこんな…!!!」

( ;^ω^)「落ち着くお、ツン!!ソード同盟だってきっとこんなのは許さないお!!」

ξ;;)ξ「うるさい!!うるさい!!うるさい!!!」



37: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:56:50.35 ID:TK5dDeGy0
ツンをなだめるブーン。
ほら、もうソード同盟に頼っている。

必死に冷静になろうとする先輩方、やけに冷めた心の俺。
こんなものだろうな。よく考えれば人間は昔からこうだった。
新しい強力な武器が生まれる度に混乱は生まれ、争いを起こす。
武器がソードに変わっただけ。

今までは武器がソードに勝っていた。
それが逆転したら、新しい混乱になるのは目に見えている。
むしろ、ここまで来るのに遅かったくらいだ。
なのに、何でだろうこの不快感は。

(;´・ω・`)「とりあえず眠ろう。ドクオすまない。
とうとうお前に頼る時が来てしまったのかもしれない」

('A`)「分かってますよ…」



40: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/03/01(日) 16:59:21.09 ID:TK5dDeGy0
またも気弱になってしまったショボン先輩を励ましたかった、力一杯答えたかった。
なのに出てきた言葉は、冷めた一言。
想像が現実になる。
マッド・ピエロに初めて出会った時の様な恐怖をまた感じるのだろうか。

もう、英雄でも偽善者でも関係ない。
ここまで来たら後は戦うだけだ。
他人のためでも自分のためでもない。
ただ生きるために。

生きる理由は死ぬときに考えよう。今は、とてもそんな暇は無い。
そう思いながら、俺は眠りについた。


第五話「英雄も偽善者も関係ない」 終



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