('A`)が狭間で生きるようです

3: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:01:14.91 ID:uGs/uriS0
第十五話「切ない未来」




( A )「ワカッテマス…」

( <●><●>)「やあ、ドクオくん。今日は講義を出来ないようですね」

相変わらずのお見通しの目。
そのソードの千の眼とやらで何もかもお見通しか?
だから、俺はお前が嫌いなんだ。
でも、今は俺はお前にすらすがりたいんだ。
俺は、弱い人間だから。

( A )「…」

( <●><●>)「ドクオくん、そんなすがるような目で見られても私にはあなたを救えませんよ」

( A )「そうか…」

何もかも分かっていますみたいな顔をしているくせに。
俺の心を救う方法は分からないのか。
色々俺にくだらない講義をするくせに。
お前の目的なんて、もうどうでもいいんだよ。
俺を楽にしてくれ。
今なら、俺を殺してもいいから。



8: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:03:31.19 ID:uGs/uriS0
( <●><●>)「じゃあ、ドクオくん。少し私の話をしましょうか。」

( A )「いらないよ…」

( <●><●>)「まあ、聞いてくださいよ。聞く人はあなた一人になってしまったんで」

ああ、ロマネスク達が死んだからか?
俺が殺したからか、俺達が。
お前の仲間だったんだよな、そういえば。
でも、俺はお前が羨ましいよ。
それくらいは分かっているんだ。

だけど、お前の話をつらつらと聞かせて何を教えたいんだ。
ただただとお前の話を聞くことに何の意味があるんだ。

( <●><●>)「私は元々寺生まれなんですよ。ソードも恐らくその影響でしょうね」

( A )「…」

( <●><●>)「私の家は仏門です。しかし、他の宗教にも興味がありましてね」

( <●><●>)「ですから、この大学の哲学・宗教科に入ったのですよ。なぜだか分かりますか?」

( A )「知ったことか…」

もったいぶった話をするワカッテマスに苛立ちを覚える。
自暴自棄な心は正直な想いをワカッテマスにぶつける。
しかし、それでもワカッテマスは言葉を続けていく。



9: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:05:49.26 ID:uGs/uriS0
( <●><●>)「救われたかったからですよ」

( A )「…!」

意外な言葉を言い放つワカッテマス。
俺と同じか?
お前も救われたいのか。
やめてくれよ、お前と同類になんてなりたくないんだ。

( A )「それで…?」

だけども、続きを切望する。
お前は、結局救われたのか。
俺と同じ悩みを抱えた貴様は結局救われたのか。
それを俺に教えてくれ。

( <●><●>)「どの宗教にも、哲学にも救いはありませんでした」

( A )「…」

だろうな。
救いがあるのなら、この世に多数の宗教があるはずが無い。
それなのに、期待をさせないでくれ。
例え、俺が勝手に期待していたとしても。



11: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:07:51.70 ID:uGs/uriS0
( <●><●>)「正確には、どの救いも条件的なんですよ」

( A )「…」

( <●><●>)「修行をしたり、信者になったりと救いの条件が随分自分勝手な神様達です。
まあ、その中には万人救済を謳っているものもありました」

( <●><●>)「一時期、私もそれにすがろうと思いましたよ」

じゃあ、それにすがれば良かっただろう。
だけど、それが出来なかったのは俺のようにそれを信じられない何かがあるかい?

( <●><●>)「ですけどね。知識がそれを私を阻むんですよ」

( A )「知識…?」

( <●><●>)「ええ、ここ何日間であなたに教えた知識がね」

ワカッテマスの言葉に促されてこれまでの講義が顔を出す。
ああ、「我思うゆえに我あり」だとか、不完全性定理だとかか。
それが、お前にとっての壁なのか。

( <●><●>)「万人救済説を謳う宗教を、その知識を知る前に信じれば良かったんですけどね。
ですが、私は既に世界がどうなっているのかという疑問を持ってしまいました」

( <●><●>)「結論は、教えたとおりです。この世はどう出来ているかすら分からない。
運命すら科学と哲学は否定する。宗教は己の主張を証明できない
とても、不完全な世界だと」



13: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:10:02.67 ID:uGs/uriS0
( A )「…」

分かっているよ、そんなこと。
お前が散々聞かせてくれたことだ。
だけど、俺が聞きたいのはその先だ。
お前は何でそんなにも感情を排して、淡々としていることが出来るんだ?
俺と同じように救われたいと願う心の絶望の先。
俺は、それが知りたいんだよ。

( <●><●>)「でもね、私は信じたかったんですよ。運命を、救いを」

声をほんの少しだけ強めるワカッテマス。
弱い自分を少しだけ、曝け出す。
お前の心を、俺はどうやって見ればいいんだろう。

( <●><●>)「そして、苦悩しましたよ。必死に救いを求めました。
実家に戻って、家にある千手千眼観音像に救ってくれと泣き叫ぶときもありました」

( A )「…」

( <●><●>)「それが極限に達したときでしたね。私のソードが発現したのは」

( A )「良かったな…」

おめでとう、信じるものは救われたのか?
でも、それならばなんだってこんなことを。
お前に対する疑問は相変わらず尽きないよ。



16: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:13:29.43 ID:uGs/uriS0
( <●><●>)「それが全く良くなかったんですよ」

( A )「どういうことだ…?」

( <●><●>)「ドクオくん、
なぜ千手千眼観音には手に目がついているか知っていますか?」

( A )「救いを求める人を見るためだろ…。それがどうした」

( <●><●>)「そう、私に与えられた能力は【見る】ことでした。
救いなんてどこにもありませんでしたよ」

( <●><●>)「さらに言うならば、自分の未来が勝手に見えるんです。
私の気持ちなんてお構い無しに。
私だって、今なぜ自分がこうなっているか知りません。
ただ、未来に逆らおうとしても予知どおりになるんです。
抗うのを止めた今は余計にその通りです。」

( A )「…」

( <●><●>)「なぜ、私がこんなことをしているのか。なぜ、私があなたに知識を与えたのか。
私も知りません、まさしく仏の導きですよ。」

( A )「クソッタレが…」

結局、全部は分からずじまいか。
期待させやがって。
俺に対する思いも全部無くて、全ては運命どおり。
お前も確信に満ちた、欺瞞者だったのか?



18: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:15:36.09 ID:uGs/uriS0
( <●><●>)「ですけどね」

( A )「…」

( <●><●>)「あなたのことを嫌いではないですよ」

( A )「…!」

( <●><●>)「あなたは苦しんでいます、それは多分これからもそうでしょう。
しかし、その気持ちはいつまでも残しておいてください」

( A )「バカヤロウ…」

何気ない一言が、心を癒す。
お前に好かれたって、嬉しくなんか無いんだよ。
なのに、なんだってほっとしているんだ俺は。

( <●><●>)「そろそろ認めたらどうですか?」

( A )「…何をだ?」

だけども、ワカッテマスが言い放つ言葉にまた心が揺れる。
俺に、何を認めてないって?



22: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:18:35.96 ID:uGs/uriS0
( <●><●>)「自分の心をですよ」

( A )「…っ!」

うるさい。
認めている、自分の心なんて腐るほど認めている。
お前に何が分かる。
お前に俺の心の何が分かる。
自分の心の汚さなんて、俺が一番分かっているんだよ。

( A )「…余計なお世話だっ!」

( <●><●>)「そうですか…」

悲しげな顔をするワカッテマス。
お前の弱さを見ることなんてどうでもいいんだよ。
ああ、そうさ。
何もかもがどうでもいいんだよ。
だけど、そのどうでもいい心だけは嫌いなんだ。

( <●><●>)「他に何か聞きたいことはありますか?」

( A )「ない…!」

( <●><●>)「そうですか、しかし私にはまだ話があるんですよ」

( A )「なんだよ…」



25: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:21:22.78 ID:uGs/uriS0
ここまで、話して人を虚仮にしておいてまだ何かあるのかい。
ああ、いいさ。話しておくれ。
空っぽな心を少しでも埋めるのならば絶望でも、嘲りでも歓迎だ。

( <●><●>)「人が死んだ後の話です」

( A )「天国やら地獄には興味が無いぜ」

( <●><●>)「正確には、人が死んだ後のソウルの話ですね」

( A )「そうる…?」

ああ、そういえばソウルが脳内に満ちていたんだっけ。
そいつが死んだらどうなるか。
知ったことじゃないよ。
俺の意思が死んだ後どうなるなんざ興味が無いんだよ。

( <●><●>)「ええ、そうです。
ドクオくん、人は死んだらその脳内のソウルはどうなると思いますか?」

( A )「知るか…」

( <●><●>)「大気中に拡散するんですよ」

( A )「へえ…」



27: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:24:40.59 ID:uGs/uriS0
面白味の無い話だな。
お前のもったいぶった話し方から何かあるかと思ったのに。
だから、聞いたのに。
宗教の話をまだ続ける気か、それとも天国地獄の話か。
なんにせよ聞きたくも無い話だ。

( <●><●>)「おかしいんですよ」

( A )「なにがだよ…」

( <●><●>)「生まれた子供はソウルを持ちえています。
それは決して消えない、たとえ死んだとしても。
つまり、ソウルは増え続けているんです。
質量保存の法則やらエントロピー増大の法則なんて無視ですよ。
人が増えるだけ、ソウルは増えていく。まったく、おかしな状況です」

( A )「だから…?」

( <●><●>)「レベル5のソードは、その大気に拡散したソウルを自分の力としているんです」

( A )「な…!!」

( <●><●>)「私のソードも昔から千手千眼観音を望んでいた信仰、想いが積み重なった結晶です。
レベル4でようやく自然のソウルを感じ取れるくらいですが
レベル5はそれに加え過去の人々のソウルすら自分の力にする。
どれだけのソウルを操っているかが分かりましたか?」

( A )「…」



31: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:27:47.57 ID:uGs/uriS0
圧倒的じゃないか。
神や精霊を象っている理由はそれか。
今まで想いを積み重ねてきた人たちのソウルを感じ取れるから。
その想いを受け継ぐことが出来るから。
だから、ソード同盟は平和を作り出すことが出来るのだと。
嘘吐き共の自己欺瞞も極まれば、只の暴力から正義に変わるのだな。

( <●><●>)「しかしですね、あなたのソード…ソードと言うのでしょうか。
その影法師とやらはそれらに比べてもとても異質なのですよ。」

( A )「どういうことだ…」

( <●><●>)「分かっているでしょう? 消すんですよ、全て。」

( A )「…」

( <●><●>)「消えるはずの無いソウルまで消す能力。魂をも消す。
この世で、本当の意味で人を殺すことが出来る能力ですよ。」

( A )「…」

黙れよ。
俺だけがこの世界の唯一の殺人者か。
ははは、俺だけが殺人者か。
そいつは滑稽だ。
今まで、人殺しの同類だと思っていたのが俺だけが殺人者か。



33: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:31:52.41 ID:uGs/uriS0
そんな馬鹿な。
なんだって、そんなソードが俺にあるんだよ。
俺よりも悪党なんてそこら中にいるだろう。
なのに、なんだって俺のソードだけがそんなに残酷なんだよ。

( <●><●>)「だからこそ、私はあなたが羨ましい」

意味が分からない。
お前は人が殺したいのか?
たった一人の殺人者になりたいのか?
俺の何が羨ましいんだ?

( A )「黙れ…もう、帰る」

( <●><●>)「そうですか、それではさようなら恵まれた人。
ソード同盟が来るそのときまで安息の時を過ごしましょう。
ソード同盟が来たら私は死にますから」

ワカッテマスはそう言って、図書館から出て行った。
締めの挨拶はいつも通り。
そうだ、なぜ俺を恵まれた人と呼ぶかを聞いていない。
しかし、ワカッテマスはもういない。
誰かにすがろうとしている時点で俺もあいつと同じだな。
皆、何かにすがって生きている。



35: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:33:53.49 ID:uGs/uriS0
その結果、発現したワカッテマスのソード。
だけど、その運命もあと数日。
言い逃げか。俺に絶望だけ与えて言い逃げか。
なんだよ、俺のソードよりあいつのソードのほうがよっぽど残酷じゃないか。
絶望で幕を閉めるその言い方。
殺さずに苦しめる。
悲しみも消す俺のソードの方が…よほど優しいよ。

( A )「…」

ふらふらと、雪道を歩く。
目に入るのは、先ほど自分が壊した並木道。
ばらばらになった、街路樹。
ひび割れた道。
俺の心を移したかのような、道並。
ああ、世界の全てがこうなれば迷うことなく死ねるのに。

( A )「…」

てくてくと何の感情も無く歩く。
真っ白だ。
俺の心が今真っ白だ。
希望も絶望も無く、ただそこに存在しているだけ。
感情が封じ込められている。
クレバスに落ちながら、足掻いている気分だよ。



38: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:37:39.21 ID:uGs/uriS0
( A )「悲しい世界だな…」

部屋に戻り、ベッドに潜り込む。
何も考えたくない。
今は渡辺とすら過ごしたくない。
ただ、ただ、寝ていたい。
闇に身を任せる、一番楽な逃げ方を選択する。
明日は、何が出るのかな。
もう、なんでもいいや。

チュンチュン

('A`) 「朝は来るんだよなあ…」

どんなに絶望しても、朝は来る。
それを希望と捕らえるか、残酷と捕らえるか。
俺はどちらかな。
どちらでも、あまり関係ない気がするのは気のせいじゃないだろう。

目が覚めても世界は変わらない。
それでも体は容赦なく疲労を回復させる。
昨日は一日中、一人だった。
渡辺すらも拒否していた。
太陽の光は、残酷に心を回復させる。
体が勝手に、脳が勝手に快楽物質を分泌する。
何がしたいのかも分からない。
だけれども、俺は何をしたいのかも分からない。



39: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:39:32.71 ID:uGs/uriS0
コンコン

「ドッくん、いる…?」

('A`) 「いるよ、渡辺」

ガチャ

从'ー'从「おはよ〜、ご飯食べよ〜」

('A`) 「ああ、食べるか」

そう言えば昨日は何も食べていなかった。
消耗するだけしてしまえば、体は飯を欲する。
心も同様に砕ければ砕けるほど直してくれと叫ぶ。
限界を超えた今は、なおさらに。

ただ、違うのはいつもよりも臆病になっていること。
当たり障りの無い答えしか出来なく、自分の感情を出せない。
まるで、差別されていたときのように。
俺の心はまた、殻に篭り始めていた。
殺した、殺した、殺した俺の手。
誰よりも誰よりも罪深くなった俺の手。
ああ、世界で一番俺が汚い。

何で俺は渡辺と一緒にいるんだろう。
もう、癒される資格も何もないはずなのに。
なにもかもがどうでも良くて考えるのすらも億劫なのに。
何かを拒否することさえ出来ない。



42: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:41:22.01 ID:uGs/uriS0
从'ー'从「美味しいね〜」

('A`) 「ああ、美味しいな」

適当な相槌を打ってしまい、自分に反吐が出る。
自分の何が自分の何を蔑んでいるのかも分からない。
ただ、自分を蔑んでいれば自分の罪を認めているようで楽になる。
認めるところはそこかい?
俺自身も欺瞞者だということを認めろってことか。
認めているつもりなんだけどな。
改善しないだけで。

从'ー'从「ドッくん今日はどうやって過ごすの〜?」

('A`) 「部屋でだらだら過ごすよ」

从'ー'从「私もいていい〜?」

('A`) 「ああ、いいよ」



44: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:43:30.08 ID:uGs/uriS0
だらだらと過ごす。
言い方を変えれば怠惰な時を刻む。
渡辺と一緒になにをするでもなく、ベッドに横たわり昼寝をしようとする。
ああ、意味が無い。
何の意味も無い。
だけど、これでいいんだ。

ワカッテマスの行動にも意味なんて無かった。
もしかしたら、俺に特別な何かがあるかと思っていた。
だけども、あいつも単なる運命の奴隷だった。
俺は、奴隷にすらなれない。
そんな、俺が今一体何をしろって言うんだい。

从'ー'从「ドッくん、トランプしよう〜?」

('A`) 「ああ、いいよ」

二人きりのババ抜き。
二人きりのポーカー。
二人きりの大富豪。
どれもこれも、二人じゃ楽しくない。
何も賭けない、何も得ない、何も失わない。



46: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:47:00.29 ID:uGs/uriS0
从'ー'从「ドッくん、お昼ごはん食べよ〜」

('A`) 「ああ、食べようか」

味噌煮込みうどんを二人でかっ込む。
熱くて、少ししょっぱい。
体が暖まり、上着を一枚脱ぐ。
渡辺も、一枚脱ぐ。
その姿に少しだけドキリとした。

从'ー'从「ドッくん、お昼寝〜」

('A`) 「食ってすぐ寝ると牛になるぞ?」

从'ー'从「牛さん〜? 可愛いね〜!」

呑気な渡辺。
深刻な俺。
どちらでも、この場には存在している。
それはそれで世界のあり方だ。

('A`) 「まあ、いいか。こっち来いよ」

从'ー'从「うん! ドッくん…」

何かを求めるような渡辺の目。
はっきりと口には出さなくなったのは、俺達の関係が少し変わったのか。
それともただ単純に俺のことを気遣っているのか。
どちらにせよ、それくらいのことには応えるさ。



48: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:50:48.96 ID:uGs/uriS0
('A`) 「ほら、腕枕」

从'ー'从「ありがと〜」

二人で寝る。
昼間に二人で寝る。
心地よい。
心が臆病になろうが、この世がどうでも良くなろうが心地よいものは心地よいんだ。
それは、悪いことなのか。
人を殺しておいて、のうのうと女と寝る。
あ、やっぱり悪いことだった。

从'ー'从「気持ち良いね〜」

('A`) 「ああ、そうだな」

从'ー'从「ドッくんは、暖かいね〜」

('A`) 「渡辺の足が冷たいんだよ」

从;'ー'从「あ、ごめん〜」

('A`) 「もっとくっつけないと冷えるぞ?」

从'ー'从「ありがとう〜」



50: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:52:44.48 ID:uGs/uriS0
はは、まるで恋人同士だ。
こいつの気持ちなんか知ったことじゃないんだよ。
何も考えられ無いくらい頭が真っ白なんだ。
一生でも、どこでも一緒に居る人間がいる。
なのに、心の中の罪悪感はそれを許さない。
それが、どうだ。
その罪悪感を無視すれば、こんなにも楽になれる。
泣きたくなる気持ちを無視すれば、こんなにも楽になれる。
心が回復すればまた泣くだけなのに。

从'ー'从「…ねえ、ドッくん?」

('A`) 「なんだ?」

渡辺が話しかける。
いつも俺の横ですぐ寝る渡辺が。
思えば、この子の気持ちも分からないままに今もこうしている。
今は、どうでもいいんだけどね。

从'ー'从「本当になんでエッチしないの〜?」

('A`) 「なんでって?」



52: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:55:55.18 ID:uGs/uriS0
从'ー'从「ドッくんが辛いのは見て分かるよ〜? 
でもそういう時って女の子に走りそうじゃない〜?」

('A`) 「…ああ、そうだな」

そういえば、何で抱かないんだろうな。
納得済みの関係。
そう成れるはずなのに。
だけど、抱かない。
抱く気にもならない。
ああ、何で抱かないんだろうな。

('A`) 「…やっぱり、俺だけが気持ちよくなっても意味無いじゃん」

从'ー'从「どういうこと〜?」

('A`) 「…なんか、渡辺でオナニーしたくない」

从'ー'从「…」

あれ、黙ってしまった。
オナニーって単語がまずかったかな。
嫌われたかな?
これで嫌われるならそれも一興だ。
自暴自棄って楽だな、本当に。



54: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 21:59:49.43 ID:uGs/uriS0
从'ー'从「…」

('A`) 「なんか、怒った?」

从'ー'从「…」

('A`) 「…おーい」

腕の中で黙り続ける渡辺。
ああ、もう眠りこけてしまうかな。
目が覚めたときに、渡辺がいなかったら?
それはそれで、現実を受け入れればいいだけだ。
泣きなくなる気持ちを無理して無視して。
そうすれば、万事解決だ。
後は、ソード同盟がきっと俺を殺してくれるさ。
そのことについては、いささかの恐怖も何も感じない。
なんだか、諦めたら人生って簡単だな。

('A`) 「寝るぞ…」

渡辺にそう言い、瞼を閉じる。
おやすみなさい。
君の体はとても柔らかいよ。
そう思ったときだった。



55: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:01:48.46 ID:uGs/uriS0
从'ー'从「バカ…」

ギュッ

そう小さく呟いて、渡辺は俺に抱きついてきた。
どうしたんだろな、この子は。
俺は、ただ適当に答えただけなのに。
瞼を瞑りながら、腕枕をしている手で包むように渡辺の頭を撫でる。
さらさらの髪だ。
おやすみ、渡辺。

そのまま、どれくらい眠り続けただろうか。
夕方?夜まで?夜中まで?
そんなことは関係無い。
大切なのは、闇の中に影法師が出てきたことだ。



57: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:04:32.92 ID:uGs/uriS0
―やあ、相変わらず見もせずに楽ばかりだな―

久しぶりだな、俺が何を見ていないって?

―分かっているはずだろう? この嘘吐きが―

お前の言っていることはさっぱり分からないよ

―俺もお前がさっぱりだ―

気が合うもんだな、さすがは俺の心だ

―バカを言うなよ、俺とお前は別物だ―

なんだって? 

―俺は、お前の一部だよ―

俺じゃないか

―全体から切り離された一部はもう、お前じゃないんだよ―

意味が分からないな、だけどまるでワカッテマスだ。
本当に、俺じゃないみたいだよ。



59: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:06:45.76 ID:uGs/uriS0
―そろそろ、気がついたらどうだ? 自分が認めていない自分に―

そんなものがあるのかすら分からないよ。
お前は教えてくれないのかい?

―人から教えられた時点で、それはお前の心じゃないんだよ―

そういうものなのか

―ああ、そういうものだ―

どうでもいいんだけどな。

―まるで、卑怯者だな―

ああ、そうさ。

闇の中に消えていく影法師をまどろみの中に感じていた。
目覚めたときには、辺りは暗く真夜中なのか次の日の夕方すら分からなかった。
それでいい。
ソード同盟が来るまで後何日だとか考えたくも無い。
ただただ、起きているのと寝ているのとの狭間にずっといたい。
腕の中にある渡辺の重みを僅かに感じながら、もう一度目を閉じる。
さあ、夢の中の回廊への扉はどうやったら開くんだい。



60: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:07:49.43 ID:uGs/uriS0
ぼんやりとした頭で今までのことを考える。
君がいてくれたらそれで良かったのに。
そう、思える相手といることなんて出来ないはずないのに。
求めて求めて、最後に自分を排斥して。
空っぽな世界を外から眺めている自分を作り出す。
影法師、俺の心は空っぽなんだろう。
もう、鍵は閉めてあるんだ。

('A`) 「…」

いつだって運命を信じていたかった。
自分の境遇は特別なときを待つための布石だと。
そして、そのときは突然訪れた。
身の丈に不釣合いな力。
どの場所にも属さない特別な力と、周りにいる仲間達。
だけど、その力に心が耐えられなかった。
運命は未だにその姿を見せず俺を笑っている。

ゲームやマンガで憧れていた主人公。
勇者の敵はいつだってモンスターで、人は人ではなく只の喋る何か。
手を血に染めた平和に酔いしれながら、物語は続き新たな敵と戦い続けていく。
そして、また仮初の平和に酔いしれるのさ。
ソード同盟よ。
お前らも仮初の平和の中でまどろんでいているのだろう。



64: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:11:32.27 ID:uGs/uriS0
抗いながら生きてきたと思っていた。
実際は流されていただけだった。
世界に抗っていたつもりがただ、世界に流されていただけだった。
敵は世界と己自身。
じゃあ、味方は?
俺の味方なんてどこにもいないのさ。

('A`) 「おはよう…」

从'ー'从「おはよう、ドッくん〜」

朝目が覚めたときに、ソード同盟がまだ来ていないことに安堵する。
後、何日だったろう。そんなことも忘れてしまった。
明日か、明後日にここは壊滅するのだろう。
そして、ワカッテマスも死ぬ。
絶望が身を襲うかと思えば、あるのいつもの虚しさ。
渡辺を連れて逃げるか?
ブーン達はどうするのか?
逃げた先に何がある?
恐怖と死の二者択一には、保留という答えでお茶を濁しながら日々を過ごしていた。



66: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:14:26.95 ID:uGs/uriS0
('A`)「渡辺はなんでレジスタンスに入ったの?」

从'ー'从「もともとこの大学だったからね〜。
レジスタンスに入らなければ奴隷だったもん〜」

('A`) 「なるほどね」

从'ー'从「あのときは怖かったよ〜。すぐに慣れたけどね」

人を殺すことに慣れたのかな。
人間らしい心というものは何なのだろうな。
人殺し同士が気軽に笑いあうこの世界は異常なのか。
それとも、俺達が異常なのか。
どちらにも答えなんて用意されているから性質が悪い。

そして、今日の明日だった日の真夜中に差し掛かった時に現実はすぐそこまで迫っていた。
ソード同盟がとうとう来る。
ああ、とうとう来るんだ。
口を開けて笑っている運命に俺は何を言ってやれば悔しがらせれるだろう。
誰の思惑なのか、この茶番は。
ソード同盟とレジスタンスの戦いなんてどうでもいいのに。
世界の平和も何もかもどうでもいいのに。
犠牲を生む世界で、自分が犠牲になるのが嫌なだけなのに。
明日は無常にもやってくるんだ。
そう、明日って今なんだよ。



69: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:18:55.56 ID:uGs/uriS0
('A`)「今日か…」

渡辺を部屋に返して、一人でぽつんとベッドに座る。
これから、起きる不幸をただ傍受しようとしているだけの姿勢。
さながら、タイタニック号に残った老夫婦のように、美しく散りたいものだ。
後、何分で悲劇は起こるのか。
ブーン達はどうなるのか。
そのことまで考えたときに俺はベッドに潜り込んで何も考えないようにした。

布団に潜りながらこれまでの人生を考える。
ああ、アフリカの子供達よりはマシな人生だったかな。
生まれながらにエイズじゃなかった。
それだけでも幸運なのか。
じゃあ、俺より幸運な人間から見た俺は不幸なのか。
幸運と不幸の狭間を何と言うのだろう?
普通?そんな言葉じゃ表せない。
俺が神様なら世界をこんな風にしなかった。
俺が悪魔だったら世界をこんな風にしていただろう。



71: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:20:43.99 ID:uGs/uriS0
考えている内に阿鼻叫喚の叫びが聞こえてくる。
ああ、来たな。
ソード同盟がおいでなすった。
遅い到着。
早い虐殺。
君達が作り出す平和を見てみたかったな。
もう、そんな気も起きないけど。

ガチャ

从;'ー'从「ドッくん! 大変だよ!」

渡辺が慌てた様子で入ってきた。
大丈夫、お前の能力ならきっとどこにでも逃げれるさ。
だから、心配しないで。

('A`)「ソード同盟がとうとう来たみたいだな。早く逃げろ」

从;'ー'从「ドッくんは!?」

('A`)「俺はここに残るよ」

从;'ー'从「なんで!?」

('A`)「なんとなくだよ、特に理由なんてないさ」



75: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:22:24.32 ID:uGs/uriS0
从;'ー'从「駄目だよ! 早く逃げよう!?」

('A`)「どこにも逃げる場所なんて無いよ。いずれソード同盟が世界を平和にしてしまう」

从;'ー'从「でも…」

('A`)「早く行けよ。お前が死ぬ姿はそんなに見たくない」

从;'ー'从「…」

黙り込む渡辺。
それを見る俺。
うん、分かっていたよ。こうなることは。
でも、どうしようもないんだよ。
俺に他人を気遣う余裕があるように見えるかい。
俺にはそうは思えないよ。

从;'ー'从「友達の人たちはどうするの…?」

('A`)「一般人は殺さないだろうさ」

从;'ー'从「暴走したレジスタンスが殺すかもよ…?」

('A`)「そうなったら、それまでさ」



78: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:24:07.75 ID:uGs/uriS0
脅しをかけるように説得を始める。
仲間達がどうなってしまうかって?
俺がこれから死ぬのにそんなことはどうでもいいだろうさ。
いや、どうでも良くはないんだよ。
だけど、どうでもよくしないと心が壊れてしまいそうなんだ。

从;'ー'从「駄目だよ、ドッくん…ドッくんは行くべきだよ」

('A`)「何をしに行くべきなんだ?」

从;'ー'从「友達を助けに行かなきゃ駄目だよ!」

('A`)「何でお前にそんなこと言われないといけないんだ?」

从;'ー'从「待っているよ! 友達はみんな待っているよ! ドッくんを待っているよ!」

('A`)「何でお前にそんなことが分かるんだ?」

从;'ー'从「分かるよ…」

('A`)「だから、どうだっていうんだよ…。もう、守るのも抗うのにも疲れたんだ」

从;'ー'从「嘘だよ!!」

(#'A`)「嘘じゃない!!」



81: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:25:47.29 ID:uGs/uriS0
どいつもこいつを俺を決め付けやがって。
逃げ道ぐらい残しておいてくれてもいいじゃないか。
この選択が誰かに覆して欲しいと願っていても。
それでも、俺の決めた道を認めてくれたっていいじゃないか。

从#'ー'从「じゃあ、せめて仲間の前で死になよ! 
そんなに言うなら仲間の前でしんじゃえ!!」

('A`)「!!」

ああ、その手があったんだ。
仲間の前で死ぬ。
後悔や自虐が大きすぎて、最終的には笑って死ねそうだ。
それなら、良い。
形がなんであれ、最後に笑って死ねれば人生勝ち組だと誰かが言っていた。

('A`)「行ってくるよ…」

从;'ー'从「え…?」

('A`)「ありがとう、渡辺」

从;'ー'从「え…? ちょっと待ってドッくん」



83: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:27:33.39 ID:uGs/uriS0
渡辺を尻目に走り出す。
皆が捕まっているのはここから300mほど離れた別の学生寮。
渡辺から場所は聞いている。後は行くだけ。
みんなの前で死ぬ。
守らずに死ぬ。
ただ、虚無感に塗れて死ぬ。
ああ、ああ、ああ、ああ、ああ。
これで後悔無く死ねる。
運命よ、ざまあ見ろ。
俺は、満足な死に方をしてやるからな。

タッタッタ

('A`)「ハア…ハア…」

緊張により少しの息切れを起こしながら、走る。
学生寮に向かって走る。
みんながあれだけ大切だったから。
みんなの前で死にたい。
そう思っていた。
受け入れる、受け入れられない。守る、守れない。
抗う、抗わない。戦う、戦わない。
愛す、愛さない。
その狭間を皆の前で終わらせよう。
そう思いながら見えてくる風景はまるで地獄のようだった。



86: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:30:31.07 ID:uGs/uriS0
遠くの方で、上がる火柱。
俺の全力の闇柱より遥かに大きい火柱が時を置かずに、二本も三本もあちらこちらで立っている。
ああ、これは確かにレベル5の力だな。
ロマネスクのソードの火炎など、非じゃない。
戦ったら確実に殺される相手。
その相手が現実に今、こうしている。
さあ、現実を受け入れに行こう。
そして、死のう。
俺を不幸にする運命をあざ笑いながら笑って死のう。

('A`)「ハア…」

学生寮についたときに見えたのは、ちょっとした異変。
人の気配が少ない。
遠くにいるから皆逃げ出したのだろう。
ブーンやショボン先輩はどこだ?
皆はどこだ!?
まさか、もう殺されたなんて…。
くそ、未だに皆に未練があるのか。
そう思った時に、ドラマのように悲鳴が聞こえる。



88: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:31:33.52 ID:uGs/uriS0
「きゃあああああああああ!!!」

林の向こうにツンの悲鳴が聞こえた。
生きている、うん、生きている。
ああ、生きている。
それだけで、さっきまでの暗い心が晴れていくようだ。
この心を誰か何とかしてくれ。
早いところ、ソード同盟がここに来い。

('A`)「クソ…!」

暴徒化したレジスタンスか何か知らないが、とりあえず殺してやる。
いや、消してやる。
仲間の前で死ぬには仲間が必要なんだ。
だから、俺のエゴのために死んでおくれ。

そう思いながら林の中に入って行った事を、俺はどれだけ後悔したか。
あの時、渡辺の提案を受け入れなければどれだけ楽に死ねていたか。
自分の選択をどれだけ呪ったか。
そう思うぐらいに、林の中の光景は信じられないものだった。



89: ('A`)が狭間で生きるようです :2009/04/12(日) 22:32:45.55 ID:uGs/uriS0

そこにいたのは右手にガラスを握り締め、血を流しているツン。


そのツンを握り締めているソード。


その光景を不安げな顔で見ているショボン先輩、クー先輩、ジョルジュ先輩。


ソードでツンを握り締めながら、氷の円柱に右肩を貫かれているニダー。






そして…、その氷の円柱の源を操っているブーン。


俺の最初の勘違いは現実となり、世界はまたその色を変えた。
ほら、結局運命は口を開けて俺を笑っている。
また新しい世界の始まりだ。
あと何回繰り返せば、俺は楽になるのかな。




第15話「切ない未来」終



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