('A`)が狭間で生きるようです
- 6: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:35:09.00 ID:i/cIgkLl0
第18話「狭間」
( ,,゚Д゚) 「不動明王!」
( ;ω;)「コロポックル!」
二人がソードを出した。
ソウルの波、とでも言うのかな。
漫画みたいに、オーラがはじけ飛んでいるよ。
(;´・ω・`)「うおお…」
( ;゚∀゚)「…すごい」
二人が気圧されている。
それは、そうか。
俺だって漏らしそうだよ。
- 7: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:36:02.81 ID:i/cIgkLl0
- 川 ゚ -゚)「…」
クー先輩がヘリカルを腕に抱いたまま無言で佇む。
この戦いをどう見るのだろう。
ξ;凵G)ξ「ブーン…」
ツンが泣きながらブーンの名前を呟く。
こういう時、彼女は何を思うのだろう。
俺にはさっぱりだ。
('A`)「さてと…」
そろそろ行くか。
これ以上、感傷とやらに浸ってはいられない。
('A`)「行くぞ、影法師」
静やかに影法師を出す。
二人が華々しく火花を散らす中の影。
うんうん、俺らしい。
( ,,゚Д゚) 「レベル5か! ならば容赦はしない!」
( #;ω;)「うおおおお!!!」
二人の戦いが始まった。
凄いな、僕にはてともできない。
- 9: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:38:11.28 ID:i/cIgkLl0
- ( ,,゚Д゚) 「焼き尽くせ!」
( #;ω;)「イノンチ・ウパシ!!(人を殺す雪)」
ブーンを焼き尽くそうとする炎。
それを阻む雪。
凄い力だな。
まあ、俺はその隙に攻撃させてもらうかな。
('A`)「と、思ったけどなかなか入れないな…」
もはや、戦場は二人の世界だ。
第三者がおいそれと入り込める場じゃ無くなっている。
ソード同盟と一般人の戦い。
意味が無いんだろうな、この戦いには。
( #^ω^)「負けないお…」
いつの間にか泣き止んでいるブーン。
ソードの影響か、泣いている暇が無いのか。
なって欲しくなかったお前にどんどんなっているな。
贅沢な話だよ。
- 11: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:39:35.28 ID:i/cIgkLl0
- ( ,,゚Д゚) 「ホロカードの土地では、ほぼ互角か…
情けない話だ」
気になることを言う男。
土地が関係あるのか。
まあ、ソウルだってそんな頻繁には移動しないんだろうな。
コロポックルと不動明王の信仰度合がホロカードでは同じぐらいか。
はは、仏教も廃れたもんだぜ。
('A`)「闇時雨…」
一瞬、戦いが静止した。
その隙に男に向けて放つ。
闇の斬撃を飛ばす、飛ばす、飛ばす。
二人に比べれば明らかに劣る力。
( ,,゚Д゚) 「邪魔だ!」
男の目の前に現れる炎の壁によって一蹴される。
ブーンに任せておけば良いのかも知れない。
そうすれば、高みの見物を決め込むことが出来る。
だけどな、ソード同盟。
たった一人の憎しみを、お前に見せてやりたいんだよ。
- 12: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:40:56.59 ID:i/cIgkLl0
- (#'A`)「闇時雨!」
尚も放つ闇の斬撃。
何度でも、何度でも、何度でも。
お前に、個人の無力さを教えてやるよ。
( ,,#゚Д゚)「無駄だ!」
その斬撃も炎の壁に阻まれる。
いや、相殺されている。
お前は気づいていないかもしれないけどな。
少しずつソウルが消えているんだぜ。
お前のソードの源が。
たった、一人や二人のソウルかも知れないけどな。
ざまあみろ。
( ,,#゚Д゚)「燃え尽きろお!!!」
攻撃の矛先がこちらへ向いた。
ああ、俺の全力と同等ぐらいの通常技。
さすがに、レベル5は違うや。
死ぬのかな、死ぬのかな。
いや、きっとそんなことは無いんだよ。
- 16: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:43:09.56 ID:i/cIgkLl0
- ( #^ω^)「エプンキネ・オキムンペ!!(あなたを守る雪崩)」
ほら、ブーンがその攻撃を阻む。
二人のソウルが激突する。
その度に、湧き上がる恍惚感。
共に強い想いがあるはずなのに。
争う、その様。
悲しくなって笑いが出てくる。
('A`)「…さんきゅ」
( #^ω^)「大丈夫だお!」
大丈夫、ときたもんだ。
ははは。
貴様が俺に大丈夫とか。
さっきまでがたがたと泣いているだけだったのに。
出世したものだな。
なあ、ブーン。
お前は何で戦っているんだ。
- 19: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:45:08.91 ID:i/cIgkLl0
- ( ,,#゚Д゚)「…お前ら二人に手間取っている暇は無いんだ。
悪く思うなよ」
男はそう言い、一瞬だけ力を抜く。
その後に続く何かを放つために。
( ,,#゚Д゚) 「宇宙天地 与我力量 降伏群魔…」
男が経文を唱え始めた。
その言葉に合わせるように、炎が広がっていく。
うまく、ショボン先輩たちだけ分けていくが俺たちには別だ。
炎の壁。
ロマネスクの技と似てはいるものの、色が違う。
青だかなんだか分からない。
とりあえず、触れたら消滅してしまいそうな色。
そんなものが目の前に迫ってきている。
('A`)「はあ、凄いもんですね…」
( #^ω^)「エプンキネ・オキムンペ!!(あなたを守る雪崩)」
- 21: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:46:53.68 ID:i/cIgkLl0
- ブーンが対抗して、雪崩を起こす。
その力は明らかに俺よりも上。
広範囲に攻撃を広げる男と、一転集中するブーン。
お互いの力はほぼ互角。
そして、俺は明らかに下。
つまり、俺はこの攻撃を防げない。
ブーンは俺を庇えない。
挟み撃ちの形だな。
('A`)「闇柱…!!」
俺の最大の技。
闇柱を全力で放つ。
少しずつ、炎が近づいてくる。
ほら、3・2・1
目の前に迫る炎の壁。
俺の闇と接触するかしないかの狭間。
('A`)「万事休すか…」
- 22: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:47:53.46 ID:i/cIgkLl0
- やり尽くした後の開放感。
なんてものは無くて残るものは虚無感。
後悔が溢れ出ないように、必死で自分の感情を押し殺す。
('A`)「ごめんな、ニダー…」
そう呟いた時に、カウントは0になった。
- 24: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:49:18.21 ID:i/cIgkLl0
「やあ、久しぶり」
影法師か?
- 26: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:50:15.62 ID:i/cIgkLl0
- 「そう、その通り」
ここはどこだ?
「さてね」
はぐらかすなよ。
「お前と世界の狭間辺りじゃないのかな」
なんだよ、それ。
「知ったことか」
真っ暗闇だ。
なんなんだ。
なんで、俺はここにいてお前はそこにいるんだ。
「知ったことか。
ここは、お前の空間だよ。
お前が望んだからここがある。
お前が望んだから俺がここにいるんだ」
意味が分からない。
男はどうした。
ブーンはどうした。
ショボン先輩は? クー先輩は? ヘリカルは?
- 28: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:51:42.32 ID:i/cIgkLl0
- 「あはははあはは、おかしいなあ」
おい、答えろよ。
真っ暗なんだ。
真っ暗なんだ。
真っ暗で何も見えないんだよ。
「そんなことはどうでも良い」
何がだよ、大問題だ。
俺はこれから一体どうなるっているんだ!
「選択の時だ」
ドン
影法師がそう言った瞬間に、二つの扉が現れた。
一つは黒い扉、一つは白い扉。
その色が何を表すのかは分からなかった。
ただ、二つとも絶望を表していることだけが無情にも感じられた。
- 30: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:52:40.45 ID:i/cIgkLl0
「さあ、どちらを選ぶ?」
知らないよ。
そもそも何の扉なんだ。
「黒い扉は闇さ。お前を消してくれる」
俺が消える?
おい、どういうことだ。
「白い扉は光さ。今と何も変わらない」
質問に答えろよ、この野郎。
どちらも本当に望んじゃいないことじゃないか。
「決めろよ。今のお前にはその二つの選択肢しか残されていないんだ。
安心しろ、黒い扉を選んだら俺がお前の代わりに生きてやる」
ああ、質問に答えたなこの野郎。
なんなんだ、その出来の悪い選択肢は。
俺が消えるか俺が残るか。
その二つの選択ってことか、このやろう。
そんな選択を何だって俺がしないといけないんだよ。
- 34: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:54:13.95 ID:i/cIgkLl0
「黙れよ、卑怯者」
影法師が俺にそう言った。
侮蔑の意味を込めて。
俺から派生した俺のくせに生意気な野郎だ。
「もう一度、お前の人生を振り返ってみな」
影法師が語りかける。
俺に語りかける。
影法師が俺に語りかける。
ちくしょう。
見たくない記憶なのに。
何だって見なきゃいけないんだよ。
「優しいだろ?
人生を振り返ってから決めさせてやるんだから」
クソ野郎。
最高の侮蔑だ。
ああ、いいさ。
見てやるよ。
- 36: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:57:37.91 ID:i/cIgkLl0
- ―――
頭の中に走馬灯が流れる。
これまでの人生が思い起こされる。
最初に頭の中に思い浮かんだのは、小学生の頃の俺だった。
幼稚園の時に仲良くしていた友達が急に俺に冷たくなった時だった。
低学年のときは無視だった。
戸惑いを覚えながらも、友達に話しかける。
友達も戸惑った表情をしながら俺を避ける。
何がなんだか分からなかった。
「ドクオくんはあっちね〜」
そう言って、俺の帰り道を反対方向に押しやる女子。
それに追随する男子。
格好よくいじめっ子を助ける男子なんてものは存在しなかった。
直接的な暴力になったのは高学年になった時だった。
突然、後ろから蹴りを入れられた。
転びながら慌てふためく俺を見下ろしていたのはガキ大将だった。
ガキ大将は何も言わずに俺を笑っていた。
侮蔑に満ちた目で。
その意味が最初は分からなかった。
ただ、その頃からクラス内で派閥が出来始めていたのは感じていた。
- 39: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 20:58:48.23 ID:i/cIgkLl0
- なぜだか、皆がグループになっていた。
女子も男子も。
仲が良いとかそういったものではなくて。
そこに帰属する仲間のような関係。
ただそれだけなのに絶対的な関係。
それは子供心になんとなく感じていた。
そして、俺がそこに入れないことも。
そして、その中の何人かが俺に意地悪をすることも。
「昨日のテレビ見た?」
「授業だるい〜」
そんな他愛も無い会話をただ聞く日々。
なんで自分が入れないんだ?
そう思いながら、休み時間はただ空を見ていた。
俺は選ばれた人間だ!
そんなことを妄想するのが唯一の楽しみだった。
学校にテロリストが侵入してきて、俺がやっつける。
そして、今まで嫌っていた皆が俺に感謝して友達になる。
毎日そんなことを考えていた。
- 42: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:00:14.11 ID:i/cIgkLl0
- 自分が特別な存在であることを知ったのは中学の時だった。
ただ、それがひどく残酷な特別であることを。
きっかけは歴史の授業で習ったシーナ国とニーホ人の争い。
シーナ人の教師は、ニーホ人を悪いと言い
ニーホ人の教師は、それをやんわりと否定していた。
そこで俺は気づいた。
クラスのグループはニーホ人と、シーナ人のグループだと言うことに。
そして、ある日俺の素性が公に晒された。
それは、とても当たり前に。
( ゚д゚ )「お前、ハーフなんだってな」
('A`)「あ、ああ…」
( ゚д゚ )「けっ…」
こっちをじっと見る男は、ニーホ人だった。
ただ、俺とは違った意味でグループに属せない人間だった。
いじめ…では無く単なる本人のコミュ不足。
ただ、その自業自得の矛先が俺に向けられたのは意外だったな。
- 43: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:01:43.12 ID:i/cIgkLl0
( ゚д゚ )「なあ、お前はどっちの味方なんだよ」
('A`)「いや、味方とか考えたこと無いよ…」
( ゚д゚ )「黙れよ、コウモリ野郎。お前みたいなやつがいるからなあ!」
バキ
俺みたいなやつがいるからなんだってんだ。
お前みたいな奴がいるから世界は駄目になるんだ。
みたいな、ことを考えていた。
今思えばなんて愚かなことだったんだろう。
ただ、そこが皮切りだった。
今までは何となく、皆がやらなかったことをこいつがやった。
虐げられているこいつがやるなら、俺も。
いや、私も。
皆のそんな声が聞こえるようだった。
- 45: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:03:07.77 ID:i/cIgkLl0
- ('A`)「靴の中に画鋲は効くなあ…」
靴の画鋲で足から血が流れる。
拳を振るわれ、口から血が出る。
学校に俺の味方はいなかった。
学校で俺と同じ境遇の人間はいなかった。
いじめと排斥。
俺をいじめて楽しんでいる人間。
俺を憎らしく思い、排斥しようとする人間。
くだらない奴らだ、こいつらはくだらない奴らなんだ。
俺は、いつしか俺以外の人間を見下すようになっていた。
( ゚д゚ )「けっ、よく学校に来れるもんだぜ」
同級生がそう言った。
中学三年生。
受験の時になった時にも、そいつはそう言っていた。
もうクラスも違うのに。
新しいクラスで新しいクラスメートが俺をいじめていたのに。
虐げられた鶏はいつだって、自分よりも下を探す。
俺は自分よりも下がいなかったから、いつしか想像の中で全員を殺していた。
全てが消えてしまえば良いと思ったのに。
- 48: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:04:44.37 ID:i/cIgkLl0
- 受験が終わり、高校生になった。
新しい生活が始まるかもしれない。
そう思っていた。
ただ、現実は残酷だ。
状況は何も変わらなかった。
俺に対する態度は何も変わらない。
周りの腕力が強くなっていた。
口の中の、血の味が強くなったことぐらいが変わったところだった。
('A`)「ちくしょう…!」
誰もいない帰り道でそう呟いたことを未だに覚えている。
あの頃にはまだ悔しさがあった。
反抗する意思があった。
どんなに殴られようと、目だけは屈しなかった。
負けるもんか、負けるもんか。
こんなことに負けるもんか。
父が死んだのは、そんな時だった。
- 49: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:05:56.46 ID:i/cIgkLl0
- ('父`)「ド…オ…」
('A`)「父さん、死なないで!なんだってこんな目に…!」
('父`)「ちが…ドク…。私…やり…か…が…まち…ってい…た。」
('A`)「父さん…!」
('父`)「…」
('A`)「父さん…!」
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。
父が死んだ、殺された。
何よりも正論を吐いていた父が。
ああ、そんなものか。
正論なんざ命すら救えねえ。
命が救えない祈り。
ああ、ちくしょう。
ああ、ちくしょう。
( A )「…なんも意味がねえ」
それから、俺を殴る人間は少し減った。
いくら俺を殴ろうとも、俺はただ相手を見るだけになったから。
何の感情も込めない。
それだけが、俺が出来る世界への反抗だった。
- 51: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:07:24.59 ID:i/cIgkLl0
J( ;'ー`)し「ドクオ…」
そんな俺を心配してカーチャンが与えてくれたのはパソコンだった。
その頃には、すでに匿名掲示板が出来上がっていた。
民族に関係なくただ馬鹿騒ぎをしているような場所。
俺はそこに入り浸るようになった。
('A`)「玉ねぎレイプしてみたwww」
他に逃げ込む場所が無い俺は、それに依存するのも早かった。
すっかり、オタクとなり匿名掲示板でネタで盛り上がれる。
こんなもの、単なる文字と文字の付き合いなのにそれだけが救いだった。
ただ、眠るときにどうしようもない寂しさがこみ上げてくるだけで。
学校に行けばいつもと同じ日々が流れる。
そのことに涙する。
感情を出すのは、寝るときだけにしようとその時にはもう決めていた。
- 53: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:08:22.23 ID:i/cIgkLl0
- (’e’)「死ねよ」
('A`)「…」
何もしないつまらない俺に突っかかってくる人間はいるものだ。
俺と同じように、多数から漏れている存在。
必死に下を見つけようとしている人間。
そんな奴に、こう言われるのも慣れたものだった。
もう、お前は俺の心に何の小波も感じさせないよ。
言葉は無力なんだ。
(’e’)「そこから飛び降りてみろよ」
('A`)「…」
理不尽には沈黙を。
それだけが反抗の手段。
(#’e’)「何とか言えよ! てめえ!」
バキ
('A`)「…」
同級生はそう言って、俺を殴った。
沈黙をただただ返す。
貴様程度の暴力じゃもう何も感じないんだよ。
- 55: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:09:11.23 ID:i/cIgkLl0
- そうやって、ただただ日々を過ごしていた。
何の意味も無い日々を。
蔑まれる日々を。
それが変化したのは受験シーズンの時だった。
J('ー`)し「ドクオあんた大学はホロカードね」
('A`)「え!? 何勝手に決めてんの!?」
J(#'ー`)し「だまらっしゃい!
まったくあんたは父さんが死んでから友達も作らず毎日毎日パソコンばっかり!」
J(#'ー`)し「民族差別が無縁な土地で、とっとと友達作って来なさい!」
('A`)「は、はい!!!」
そうして、俺はホロカードの土地へと来た。
―――
- 56: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:10:16.51 ID:i/cIgkLl0
- 「どうだった? お前の人生の前半は」
最低だったよ。
まさしく、最低だ。
クソッタレだよ。
「だけど、ホロカードで救われた」
ああ、そう思っていたよ。
だけどな、そんなものもまやかしだったんだ。
「あははあははあは! おかしいなあ!」
何が面白いんだ、クソが。
「何でもないさ。さあ、お前の好きな自己嫌悪の続きだよ」
クソッタレ、クソッタレ、クソッタレ。
俺がなぜ俺に意地悪をする。
俺のくせに。
俺のくせに。
俺のくせに。
- 58: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:11:33.80 ID:i/cIgkLl0
- ―――
( ゚ω゚)「一番ブーン! 一気いかせていただきます!」
ξ;゚听)ξ「ば、ばか!」
イケイケー!
イイゾー!
ブーン達に初めて会ったのは、弓道部の新入生歓迎会の時だった。
たった、三人の新入生。
だけど、今までとは違う雰囲気。
それを感じて、久しぶりに心が弾んでいた。
(´・ω・`)「ブーンのちょっと良いとこ見てみたい♪」
( ゚∀゚)o彡「そ〜れ! そ〜れ! そ〜れ!」
( ゚ω゚)「おおおおおおおおおお!!!!!!!!」
ゴキュゴキュゴキュ!
イッター!
ヤルナー!
ブーンが先輩達に促されて一気飲みをしていた。
そう、この時は大学生が怖いと思った。
まさか、俺にも来るんじゃないかと。
- 60: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:12:30.80 ID:i/cIgkLl0
- ( ゚ω゚)「おおお!!!」
ダン!
ブーンが飲み終わってグラスを置いたときだった。
川 ゚ -゚)「ご馳走様が聞こえない♪」
(´・ω・`)「それ最初の三回♪」
チャチャチャ!
( ゚∀゚)o彡「そーれそれそれ♪」
川 ゚ -゚)o彡
(´・ω・`)o彡 「そい!そい!そい!そい!」
( ゚∀゚)o彡
( ゚ω゚)「おおおおおおおおおお!!!!!!!」
ギャッハッハ!
エゲツネーwww
- 63: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:14:09.82 ID:i/cIgkLl0
- 大学生は怖い。
俺はそのときそう思った。
横にいたツンもそう思っていたようだった。
(´・ω・`)「安心しな。飲みたくない人には飲ませないから」
ショボン先輩が始めて話しかけてくれたのはそのときだった。
周りにたくさんいる先輩の中で、話しかけてくれた初めての人だった。
(;'A`)「大学生ってすごいっすね…」
(´・ω・`)「そうかい?」
それほどでもないよ、とショボン先輩は言った。
だけど、俺はびっくりしっぱなしだった。
( ゚∀゚)「さ〜て、新入生の自己紹介でも言ってみるか!」
ジョルジュ先輩がそう言った。
自己紹介…!?
そんなものがあるだなんて思いもしなかった。
どうしよう、うまく行かなかったらネットで見た時のように馬鹿にされるのか。
心臓がバクバクいっていた。
- 67: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:15:39.35 ID:i/cIgkLl0
- ( ゚∀゚)「じゃあ、そこの一気飲みをしていたブーンから行くか!」
( ゚ω゚)「お!?」
( ゚∀゚)「さ、いってみよー!!」
( ゚ω゚)「北市高校から来た、内藤ホライゾンですお!
ちょっぴりシャイのハニカミボーイですお!!!」
イイゾー!
ハニカミボーイ!
( ゚ω゚)「一気いかせていただきます!」
オー!
バカダー!
このときのブーンのテンションを超えるものを未だ見たことが無い。
後日聞いたところ、ツンに相当怒られたようだった。
- 71: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:16:47.19 ID:i/cIgkLl0
ξ゚听)ξ「同じく北市高校から来た、ツンです。
弓道にあこがれていたんですけど、高校では部がなかったので大学で始めることにしました。
初心者ですがよろしくお願いします」
カワイイー!
ヨロシクー!
二人の自己紹介が盛り上がる。
心臓がバクつく。
この後に自己紹介。
膝が震えて、口の中が乾く。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
( ゚∀゚)「じゃあ、次はそこの君だね!」
オトコカー!
ウホッ!
(;'A`)「え…」
- 72: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:18:30.12 ID:i/cIgkLl0
- 言葉がうまく出ない。
どうしようどうしよう。
とにかく何か言わなきゃ。
(;'A`)「本州から来た鬱田です…」
ホンシュウ…?
ホンシュウッテ…
場が静まり返っていく。
民族差別が無いと聞いていたのに。
まさか、そんなここでも?
( ゚∀゚)「都会人だー!!!」
シティボーイ!!
ワー!!
オサレー!!
Σ(;'A`)「ええ!?」
予想外の反応に驚く。
ちょっと待って。
別に都会人じゃないし、家は田舎だし!
- 75: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:19:28.35 ID:i/cIgkLl0
- ( ゚∀゚)「よーし、飲むか!」
イッキ!
イッキ!
イッキ!
Σ(;'A`)「ええ!?」
な、なんだってこうなるんだ!?
大学生恐るべし。
ええい、こうなったらやってやれ!
('A`)「イッキいかせていただきます!」
ワー!
ワー!
ワー!
- 77: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:20:31.17 ID:i/cIgkLl0
- (;'A`)「ゴキュゴキュゴキュゴキュ!!!」
イイゾー!!
トカイッコー!!
(゚A゚)「ブゲラー!!」
バタ
トカイッコガタオレター!
ヨクヤッター!!
オサレー!
そうして、俺は人生初の一気飲みで気絶した。
格好悪いことこの上ない。
- 78: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:21:29.73 ID:i/cIgkLl0
川 ゚ -゚)「おお、気づいたか」
('A`)「はい…ってここは?」
川 ゚ -゚)「ショボンの家で二次会の真っ最中だ」
('A`)「あ、ありがとうございます」
ぶっきらぼうな仕草だが、ずっと介抱してくれていたらしい。
その先輩の名前は、須直クー。
俺は、その時にクー先輩に恋をした。
(´・ω・`)「おお、気づいたか一年生」
('A`)「あ、すいません…迷惑かけちゃって」
( ゚∀゚)「な〜に、言ってんだ!」
(;'A`)「え?」
( ゚∀゚)「後輩は飲む! 先輩がそれを介抱する!
それが大学生ってもんだ! さあ、飲みなおそうぜ!」
(;'A`)「まだ、飲むんすか!?」
(´・ω・`)「あたぼうよ! ブーンを見てみな!」
- 79: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:22:52.30 ID:i/cIgkLl0
♪
♪ ランタ タン
ヽ( *^ω^)ノ ランタ タン
( へ) ランタ ランタ
く タン
b('A`)「ラジャー!」
そうして、宴会の夜は更けていった。
この時、俺は始めて仲間という輪の中に入れた気がした。
そう、初めて。
生まれて初めて、人と遊んで楽しいと思った。
( *^ω^)「ドクオ、本州ってことはシーナ人かお?」
Σ('A`)「いや、ハーフなんだ…」
( *^ω^)「おっお! かっこいいお!」
ぶしつけな質問をするブーンに苛立ちを覚えた。
だけど、その次の言葉でそれは氷解した。
かっこいいなんて生まれて初めて言われたから。
だけど、今だから思う。
よくも、無責任な言葉を吐いてくれたものだと。
- 81: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:27:03.12 ID:i/cIgkLl0
- 次の日は惨劇だった。
皆が皆二日酔い。
例に漏れずに俺も。
(;´・ω・`)「はしゃぎすぎた…」
( ;゚∀゚)「正直、調子に乗りすぎました」
( ω )「…」
( A )「…」
川; ゚ -゚)「さすがに一年は死んでいるか」
ξ;゚听)ξ「大学生こえー…」
そんななかで日々を過ごしてきた。
初めて出来た友達。
初めて出来た仲間。
グループ、所属、帰属。
これを失いたくないと思っていた。
だけど、それも全て自分勝手な想い。
ああ、なんでこんなにも砂上の楼閣だったんだろう。
―――
- 82: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:28:47.38 ID:i/cIgkLl0
- 「…」
先輩は、ただ沈黙し
「裏切り者!」
好きな人からは罵られ
「ち、違います! 僕等はレジスタンスじゃありません!」
尊敬する人からは、裏切られ
「あ…う…これは…」
親友は真実を話さず
「違うのよ、ドクオ…ブーンは私を守ろうとして…」
仲間は、嘘を吐く
- 84: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:29:41.71 ID:i/cIgkLl0
- うるさい、黙れ、口を開くな。
俺にその言葉で話しかけるな。
どいつもこいつも好き勝手なことを言いやがって。
みんなみんな大嫌いだ。
みんなみんな好き勝手だ。
俺と何が違う、俺と何が違うって言うんだ。
普通の生活だったら、こんなことにはならなかったのに。
過去のトラウマを払拭できるはずだったのに。
状況が全てを変えたんだ。
俺のせいじゃない。
状況が皆を変えただけなんだ。
ちくしょう。
ちくしょうちくしょうちくしょう!
クソッタレ!
―――
- 88: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:30:30.26 ID:i/cIgkLl0
「どうだった、人生の後半は?」
最低だよ、クソッタレ。
「答えは決まったか?」
当たり前だ。
「ほう…」
そう言って、俺は黒い扉の前に立つ。
いらない。
もう俺なんかいらない。
俺が傷つけるのも、俺が傷つけられるのも真っ平だ。
後はよろしく、影法師。
お前に全部任せたよ。
「それがお前の選択か」
ああ、そうさ影法師。
お前が選ばせたんだ。
どうせ、消えるんだ。
全部お前のせいにしてやるさ。
俺は悪くない。
俺は悪くないんだ!
- 92: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:31:40.14 ID:i/cIgkLl0
「ほとほと、最低だな」
ああ、最低さ。
最低で結構だ。
俺は、もう行く。
何も無いところに俺は行く。
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は!
俺は何も無いところに行くんだよ。
そう思い、俺は黒いドアノブに手をかけた。
―――
- 94: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:32:55.18 ID:i/cIgkLl0
「ごめんお…ドクオ」
扉を開けようとした時に、何だよ。
なんだって、こんな記憶が流れて来るんだよ。
俺の走馬灯は終わっただろう。
お前は関係ないだろう。
お前は、もう俺に関係ないだろうが。
お前の言葉なんて、俺には関係が無いんだよ。
そうだ、そうだ、そうに決まっているんだ。
お前の言葉なんて俺には関係無いんだよ。
- 98: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:34:03.60 ID:i/cIgkLl0
「あっちじゃ、民族同士の対立が激しいなんて知らなかったんだお…。
僕が不用意だったお…」
やめろよ。
お前にそんな同情をされても嬉しくなかったんだよ。
経験したことが無いお前に言われても。
ああ、確かにからかわれたさ。
大学の同じ講義の奴らにからかわれたさ。
それから、落ち込んでいたかもしれないよ。
だけど、お前には関係が無いだろうが!
「そういうの、やめてくれないかな。
そうやって、される方が嫌だよ」
ほら、その時の俺もそう言っている。
そうだ、そうだ。
お前なんかに何が分かるっているんだよ。
「ドクオ…!
だけど、僕は…僕は…」
もう、やめな。
俺を抉るだけだから。
俺が楽しいんじゃない。
お前が辛いんじゃない。
ただ、世界が悪いだけなんだ。
- 100: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:35:09.88 ID:i/cIgkLl0
「もう、いい」
そう言って、俺はブーンから去っていく。
これが、最初だった。
大切なものを捨てるのは。
自分のトラウマを理由に友情を自分から捨てるのは。
「ドクオ…!」
さよならさよならさよなら。
何度も呟いた。
心の中で呟いた。
ブーンと一緒にいたかった。
そう、俺は友達が欲しかっただけなのに。
「待ちなさい!」
捨てた直後の、別方向からの声。
ツン。
ブーンと同じ高校出身の子。
なんだよ、何の用だよ。
お前が惚れているブーンに冷たいことを言ったから怒っているのか?
- 101: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:36:30.64 ID:i/cIgkLl0
パン!
「いて!」
俺にいきなりの平手打ち。
だけども、腹は立たなかった。
これで、嫌われることになったなら。
俺は捨てたことにならないのだから。
俺は、捨てられただけになるんだもの。
ドゴ!
「モゲラ!」
ツンは、ブーンの股間を蹴り上げた。
え?
呆気にとられたんだ。
ツンはブーンの味方だと思っていたから。
「これで終わりにしなさい!」
「え…?」
呆気にとられる俺。
声を荒げるツン。
そして、俺を睨みつける。
- 103: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:38:05.38 ID:i/cIgkLl0
- 「この馬鹿はバカだから、このくらいじゃ足りないわよ」
「…」
「でもね!」
「…」
「民族の対立なんて、人間の尊厳に関係無いのよ!」
「…」
「誰だって、幸せに生きる権利があるの!」
「…」
「あんたは、ドクオ! 私はツン! こいつはブーン!
皆、弓道部の仲間なの!」
「…」
「だから、仲直りしなさい!」
「…」
顔を真っ赤にして唇を震わせながらそう言うツン。
目にはうっすら涙が浮かんでいる。
ああ、この子は正義感みたいなものが強いんだな。
親父以外にそんなことを言われたのは初めてだよ。
公衆の面前で、よくもそんな臭い台詞が吐けるものだ。
- 107: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:41:21.32 ID:i/cIgkLl0
「わかった!?」
「ああ…」
とうとう涙を流しながらそう言うツン。
はいはい、分かりましたよ。
そう思って俺は答えた。
だけど、分かってなんかいなかった。
俺は分かってなんかいなかった。
そうなんだ、俺は分かってなんかいなかったんだよ。
だって、あの時は今みたく涙なんて流していなかったもの。
だって、今はあの時みたく声なんて出ないもの。
―――
- 108: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:42:29.30 ID:i/cIgkLl0
「どうした、早く扉を開けろよ」
黙れよ、黙れ。
流れてくるんだよ。
勝手に流れてくるんだよ。
俺の意思なんかじゃない。
俺の意思なんかじゃないんだよ
「クズが」
良いんだよ。
最後なんだから。
最後だから良いんだよ。
こんなんじゃ決意なんて変わりやしないんだよ。
だから、良いだろう。
決意を変えなければ、いくらでも見ていいだろうが!
―――
- 109: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:43:31.14 ID:i/cIgkLl0
「ドクオ、おっぱいはな。奇跡なんだ。
ただ、そこにあるだけで奇跡なんだよ。
まるで、人間みたいだろ?」
「はあ!?」
部室で、初めてジョルジュ先輩と二人だった。
初めて、ジョルジュ先輩のおっぱい哲学を聞いたときだった。
意味が何一つ分からなかった。
おっぱいという単語に対する興奮。
そして、その後の臭いセリフ。
この人は危ない。
最初は、正直そう思った。
「お前には、まだ分からないか!」
「はい、ぜんぜん分かりません!」
「ははは! そのうち分かるさ!」
正直な話、今でも意味は分からない。
でも、ジョルジュ先輩が優しいことだけは分かっている。
先輩としての気遣い程度の付き合い。
だけど、決して俺を否定しなかった。
この人の強さの根源は何だろうと考えたときに、浮かぶのはおっぱいだった。
- 113: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:44:28.37 ID:i/cIgkLl0
- ガチャリ
「ジョルジュ、ドクオが困っているだろ」
「そいつはすみませんwww」
その二人の空間に現れたのがショボン先輩だった。
面倒見が人一倍良い先輩。
器用な先輩。
そして、俺の初恋の人の彼氏。
妬ましくて嫉ましくて。
夜な夜な、ショボン先輩を心の中で交通事故に合わせたものだった。
「ときに、ドクオ」
「はい?」
「お前、シーナとニーホのハーフなんだってな」
「…!? はい…」
唐突にトラウマに触れられた。
あの時は、まさかと思った。
先輩は、まさか本州出身なんじゃないか。
そう、思った。
- 114: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:45:24.68 ID:i/cIgkLl0
「いきなり、こんな話すまんな。ただ、確認だけをしとくぞ」
「なにをですか…」
「俺とお前の関係についてだ」
「いったい、何ですか…」
関係。
この言葉は嫌だった。
俺と人との関係なんて、全部愛憎がらみのものだった。
自己愛、民族愛。
その裏返し。
そんなものでしか、俺は人と接したことが無いんだから。
「俺は先輩で、お前は後輩だ。俺とお前の関係はそれだけだ。
それ以外は何も無いからな」
「…」
一瞬、ドキリとした。
それ以外の何も無い。
それ以上のものなんて何も無い。
俺は拒絶されたのだ、と思った。
- 117: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:46:11.88 ID:i/cIgkLl0
「分かりましたよ…」
涙が出るのを堪えながら、そう言う。
ショボン先輩は良い人だと思っていた。
だけど、思えば本州の人たちの大半も俺以外には優しかった。
つまりは、そういうことなのだろう。
「分かってないだろ」
「分かってますよ…。
なんなら、部室出ましょうか?」
「…」
少し、怒った表情をするショボン先輩。
俺も負けずに不機嫌になる。
それを黙って、見守るジョルジュ先輩。
この時の言葉は、本当に後悔したよ。
「馬鹿野郎」
「はい?」
唐突に馬鹿扱い。
怒りそうになった俺。
ちくしょう。
あんたに何が分かるんだよ。
- 120: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:47:12.22 ID:i/cIgkLl0
「俺はお前の先輩だ。
お前がハーフだとか、関係ない。
そんなもの俺とお前の関係に、何一つ影響なんざ与えないんだ。
その辺をちゃんと分かっているのか?」
「え?」
素っ頓狂な声が出た。
この人が何を言っているのか分からなかった。
先輩と後輩。
ただ、先に生まれたか後に生まれたかの違いじゃないのかよ。
俺の周りはそんなものだったぞ。
「やっぱり、分かってないんだな」
「ショボン先輩、その言い方じゃ誤解されますってw」
「ん? そうか?」
「え? え?」
慌て続ける俺を尻目に、ジョルジュ先輩は半笑いだった。
ショボン先輩も釣られて、笑い始める。
俺は、さっきまでの自分の考えが間違いだということだけは理解していた。
- 121: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:47:56.19 ID:i/cIgkLl0
「よし、飲みに行くか!」
「いいっすね!」
「えぇ!?」
いきなりの提案に戸惑うしかない俺。
明らかに俺の方を向いて言っている。
しかしながら、しかしながら。
先輩、意図が全く分かりません。
「ほら行くぞ、ドクオ!」
「今夜は、寝かせないぞ!」
「ラ、ラジャー!」
こうして、俺はその日は先輩と飲み、吐いた。
優しく、そして男らしく受け入れてくれた。
ちくしょう、何だってこんな記憶を。
貴様は、今見せやがる。
- 123: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:49:22.66 ID:i/cIgkLl0
―――
「どうした? 早く扉を開けろよ」
うるさい、黙れ。
黙れよ。
黙れ黙れ黙れ黙れ!
黙りやがれ!
「白い扉を開く勇気は、お前の中には無いんだろう?」
ああ、そうさ。
このままの自分が続くなんて真っ平だ。
ああ、そうさ。
俺は自分が一番好きなんだ。
ああ、そうさ。
俺は自分が一番嫌いなんだ。
- 126: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:53:07.84 ID:i/cIgkLl0
「迷うなよ」
だから、黙れって言ってんだろ!
分かっているんだよ。
ぜんぶぜんぶ。
皆、聖人なんかじゃないんだよ。
平気で俺を傷つけるんだ。
平気で俺は傷つくんだ。
こんな世界なんて嫌いなんだ。
こんな世界なんて憎いんだ。
みんなが羨ましいんだ。
みんなが憎らしいんだ。
みんなが妬ましいんだ。
みんなが嫉ましいんだ。
「それが一生涯続くんだよ」
ああ、そうさ。
俺はそんなのに、耐え切れないさ。
きっとまた投げ出すさ。
白い扉を選んでも、結局は投げ出すんだ。
「分かっているなら…」
それでもなあ!
それでもそれでもそれでもそれでも。
それでもなあ…!
- 129: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:54:15.50 ID:i/cIgkLl0
「ブーンはニダーを殺したんだぞ」
分かっているよ!
あいつだって、聖人なんかじゃない。
俺の期待していたあいつなんかじゃない!
皆、俺を裏切ったさ!
皆、俺の望む俺じゃなかったさ!
「だったら、何を迷う?」
黙ってくれよ、ちくしょう…。
―――
- 131: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:55:17.94 ID:i/cIgkLl0
「ほら、ドクオ水だ」
「あ、すいません…」
クー先輩に、介抱されたのは二回目だ。
ショボン先輩とジョルジュ先輩と飲んでいたとき。
三人で飲んでいたはずなのに、いつの間にかクー先輩がいた。
その時、改めて確信したんだ。
ショボン先輩とクー先輩は、付き合っているって。
「おう、起きたか。少し休んでな」
「はい」
ショボン先輩がクー先輩の近くに座る。
前までは、単なる嫉妬の対象だった。
だけど、今では何でだろう。
この人で良かったと思える。
他の人なら耐えられなかった。
「しかし、いつもいつもすみません…」
「気にするな。いずれ、お前が何かで私を助けてくれよ」
クー先輩は、微笑みながらそう言った。
ええ、もちろん。
心の中でそう呟く。
口には出さない。
- 135: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 21:59:08.80 ID:i/cIgkLl0
「すみません」
「気にするな。私はお前の先輩だぞ」
何を考えているか分からないクー先輩。
だけど、この人は俺がハーフだからと差別はしない。
思想信念とかじゃない。
本当にどうでも良いだけだった。
ハーフとかそんなものが。
「そういうことは気にしたら負けだ。気を強く保て!」
「は、はい!」
「分かったら飲め!」
「は、はい!」
自分の芯を大切にする。
そういう人だった。
だから、僕は憧れた。
その言葉がショボン先輩と同じだとしても。
ショボン先輩は自分の思想からそう言っていた。
だけど、クー先輩は自分の感情からそう言っていた。
だから俺はクー先輩に憧れていたんだ。
- 139: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:00:43.87 ID:i/cIgkLl0
- ―――
「早く扉を開けろ!」
黙れ!
「クソ野郎が!」
黙れ!
「今更なんだってんだ! 捨てたんだろう!
全部、捨てたんだろう! お前が捨てたんだ!
お前が全部価値がないとしたんだ!」
黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!
- 140: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:01:33.20 ID:i/cIgkLl0
「クソが…!」
ああ、捨てたさ。
意味が無いと思ったさ。
皆の心なんざ俺を何一つ変えやしないんだよ。
そんなものは、分かりきっている話なんだ。
俺は、何一つ変わっちゃいないんだ。
でも、抉るんだよ!
俺の胸を抉るんだよ!
こいつらが俺の胸を抉るんだ!
痛いんだよ…!
心が壊れそうなくらいに痛いんだ!
こいつらは、俺の心をこんなにも痛めつけるんだ!
痛いんだよ…。
―――
- 142: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:02:26.90 ID:i/cIgkLl0
( ゚∀゚)「ドクオ、おっぱいが【ある】のも素晴らしい。だけど【ない】のも同様に素晴らしいんだ。
例えみんなにおっぱいがあっても、例えおっぱいが皆になくてもそれは変わらない」
こいつは、いつも訳の分からないことばかり言うんだ。
だけど、こいつは俺を嫌いにならないんだ。
川 ゚ -゚)「私はお前に助けてもらった。これからもそういうことがあるかも知れない。
たけど私がお前の先輩だと言うことを忘れるな」
こいつは、いつだって自分の意思でしか動かないんだ。
だけど、だからこそこいつは俺を嫌いにならにんだ。
ξ゚听)ξ「あんたは私の同期。そして友達。それは何も変わらないからね!」
こいつ、自分の思想信念で人を裁くんだよ。
だけど、だからこいつは俺を嫌わないんだ。
(´・ω・`)「お前はソードになった。だけど僕はお前の先輩だ。
お前よりも弱い存在だ。だけども変わらずにお前に先輩面をするからな」
こいつは、その偽善でいつも俺を憐れむんだ。
だけど、だからこいつは俺を嫌わないんだ。
- 144: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:04:25.46 ID:i/cIgkLl0
「だから、皆自分勝手なんだろう!?」
それでもなあ、影法師…!
( ^ω^)「ドクオ、僕と君はお互い違ってしまっても友達だお?」
ブーン…。
お前はいつもその明るさで俺を影にするんだ。
憎いよ、お前が心から憎々しい。
俺を勝手に友達だなんて言いやがって。
俺の欲しい言葉を勝手に言いやがって。
だから、お前は…。
お前は…。
お前は…。
それでもお前は…。
- 146: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:05:26.96 ID:i/cIgkLl0
壊したくないんだ
- 148: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:06:39.88 ID:i/cIgkLl0
「…それだけか?」
- 152: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:09:19.74 ID:i/cIgkLl0
皆を…愛したい
- 155: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:10:45.77 ID:i/cIgkLl0
('A`)「やっと、認めたな」
- 162: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:15:21.38 ID:i/cIgkLl0
光が溢れた。
涙で濡れる顔で、横を見る。
そこにあるのは、木で出来た茶色いドア。
俺の部屋のドアだった。
現実に繋がるドア。
迷いも無く、扉を開ける。
ほら、笑えるだろ。
憎くて憎くて憎みきっているはずなのに。
未だに皆が大切なんだ。
抱きしめたいんだ。
抱きしめられたいんだ。
首を絞めたいんだ。
首を絞められたいんだ。
だけど、皆には死んで欲しかないんだよ。
俺は皆が心から憎いよ。
そして、嫉ましい。
でも、皆が心から大切だ。
そして、守りたい。
どちらも嘘なんかじゃない。
全て、俺の真実。
その狭間で生きていく。
それが俺が選んだ単なる現実だ。
黒も白も無い。
そんなものは、世界に関係が無い。
その狭間が俺の現実なんだよ。
- 164: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:16:37.98 ID:i/cIgkLl0
('A`)「…!」
視界が平がる。
焼け焦げた大地。
そこに寝そべっていた俺。
だけど、焼けていない。
その代わりに、焼け焦げているブーンの右腕。
( #^ω^)「ドクオを…やらせはしないお!」
( ,,゚Д゚)「やれやれ…」
相変わらず、勝手なことを言うブーン。
呆れた表情をする男。
蔑みと、怒りの同時が湧き上がる。
顔は笑いながら歪み、涙を静かに流す。
どうやら、それは影法師も同じようだった。
衣は消えうせ、骨だけの体。
柄だけになった刀。
ああ、なんて弱々しいんだろう。
だけどな、俺は生きるんだ。
俺はな、ブーン。
あの時の答えを、まだお前に言っていないから。
- 166: ('A`)が狭間で生きるようです ◆9hxXX2kPHI :2009/05/30(土) 22:18:21.22 ID:i/cIgkLl0
- ('A`)「行くか」
立ち上がり、男を見据える。
男の興味は俺には無い。
後は、どうやって処理するか。
それだけの興味しかない。
( ,,゚Д゚)「そのまま寝ていれば楽だったものを…」
ああ、黙れよこのクソが。
その臭そうな口からそれ以上言葉を吐くな。
貴様らが行ってきたツケを今払ってもらおうか。
俺の友達をこんな目に合わせやがって。
俺が殺したいと思っていたのに。
はは、よく言うぜ。
まあ、そんなことはどうでも良いんだよ。
これから俺がお前に立ち向かうんだ。
「俺」がお前に立ち向かうんだ。
笑えるだろ、レベル5。
俺はレベル何だと思う?
俺も分からないよ。
さあ、行くか。
物語の始まりだ。
第18話「狭間」 終
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