( ゚∀゚)ジョルジュは命を売るようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:27:09.13 ID:KePTxKPY0


昔、ある一人のギタリストがいた。
彼のプレイは、決して飛びぬけて上手かったわけではなかった。

が、突然の失踪から数か月後。
ギター一本でアメリカを渡る彼は、世界に名を知られるほどのブルース・ギタリストへと変貌していた。


『悪魔に魂を売り、引き換えにブルース・テクニックを手に入れた』


皆口々にそう噂し、彼の音楽を称賛した。
彼はその後、27歳という若さで命を落とすことになる。

悪魔が彼の命を奪いにきた。


そんな伝説が、あるのだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:32:18.76 ID:KePTxKPY0


第一話 「トランザクション」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:34:25.71 ID:KePTxKPY0
本棚に一人向かい、面白そうな本を探していた。
誰もいない、古くて大きな家の中。
小説でも、絵本でも、塗り絵でも、医学書でも、なんでもよかった。

最近の若者は本を読まないらしい。
俺はそんなメディアが垂れ流す胡散臭い情報を、信じてはいない。
昔の人は本を読んでいたのか?
食い物さえ入手困難な戦時中、読書だけは欠かすことがなかったのか?
縄文人が本を読んだとでも?

最近の若者である俺は、本を読むのが好きだ。少なくとも、俺は。

( ゚∀゚)「んー・・・・・ん?」

棚の隅に、他の本よりも分厚く、且つ小さな本を見つけた。
埃にまみれ、薄汚れている。
自然と、俺の手は本棚の隅へ伸びていった。

( ゚∀゚)「へぇー・・・」

俺は一目でこの本を気に入った。
重くも、軽くもない。良質な革でできたカバーは、時代を感じさせる手触りだ。
決して安っぽくはない、深みのある黒に、銀押しの十字架が施されている。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:38:48.96 ID:KePTxKPY0
( ゚∀゚)「・・・」

中を開くと、予想通り俺には見当もつかない言語で書かれた文章が、びっしりと紙を埋め尽くしていた。

( ゚∀゚)「聖書・・・かな」

本自体は気に入ったが、読めないのでは仕方がない。
古代ヘブライ語、というやつだろうか。いや、ありえない。
世界遺産ともなりえるほどに古い書物が、俺の家の本棚の隅で、埃まみれになっている理由が見当たらない。

( ゚∀゚)「まあ・・・いいか」

アンティークとしてなら使えるのではないかと、部屋へ持っていこうとした時。
その時だった。

俺の現実が、派手な音を立てて、脆くも崩れ去ることになったのは。
この時俺は、何も知らなかった。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:42:45.54 ID:KePTxKPY0
(; ∀ )「う・・・うぁ・・・!」

突然の目眩と、暗転する世界。
俺は戸惑い、床に膝をつく。

(; ∀ )「なん・・・だよ・・・」

違う。いつもの発作とは、明らかに違う。
誰かの意思を、はっきりと感じる。
それでも俺の貧弱な心臓はあらん限りの力を振り絞り、体の中で暴れまわっていた。

(; ∀ )「ぐうっ!」

呻き、吐き気を感じた。
胃の奥から這い上がってきた夕飯が、俺の喉を突く。

(; ∀ )「う・・・おぇっ・・・く、そ・・・・!」

口からおぞましい何かが吐き出されるのが分かったが、確認することはできなかった。
見ることは、重要ではない。
感じること。それだけだ。

(; ∀ )「ちく・・・・・しょう・・・だれ、だ・・・よ」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:48:50.09 ID:KePTxKPY0
そして俺は耳にする。

今でもはっきりと耳にこびりついている。
あの、信じられない響きを持った、囁きが。






『ようこそ』



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:51:43.11 ID:KePTxKPY0




俺は誰だ?

最初に頭の中に浮かんだ言葉が、それだった。
俺は誰だ?

アイデンティティを、何か汚らわしい存在に奪われるような感覚が、体中を駆け巡る。
俺は誰だ?

思い出せ。急がなければ、取り返しのつかないことになる。

( ゚∀゚)「俺は・・・俺は」

『キミは』

( ゚∀゚)「俺は・・・長岡ジョルジュ・・・そうだ」

『長岡ジョルジュという、名前。本当にそうか?』

( ゚∀゚)「ああ・・・間違いない。俺の名前だ・・・取り戻したぞ」

『他には?』

( ゚∀゚)「・・・17歳・・・男・・・高校生だ。なんだ、簡単じゃないか」

『ふむ、若い。キミにはまだ長い未来が待っているな』



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:54:22.91 ID:KePTxKPY0
記憶は戻った。
思考はまだ混乱しているが、もう自分を失う心配はないだろう。
余裕が出てきたことで、今の状況が気になり始めた。

( ゚∀゚)「ここは・・・どこなんだ」

『十字路だ』

目の前に、長く伸びる銀色の道があった。
どこまでも続いている。

( ゚∀゚)「十字路?」

『そうさ。我々は十字路に立っている』

左右を見ると、同じように、長い銀色の道があった。
十字路に、俺は立っていた。
声の主は見当たらない。

( ゚∀゚)「・・・」

何よりも先に聞くべきことだったのだけど、どうしても聞けなかった。
あまりにも大きく、あまりにも邪悪なものだったから。

体中のエネルギーのすべてを振り絞って、声にする。

( ゚∀゚)「あんたは誰だ?」

俺の声は震えていた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 19:56:47.54 ID:KePTxKPY0


『悪魔と呼ばれている。君達からは』


( ゚∀゚)「へぇ・・・」

『信じないか?』

( ゚∀゚)「いや、信じるよ。他にすることがない」

『本題に入ろう。なぜこの悪魔が、キミをここへ連れてきたのか』

( ゚∀゚)「・・・」

『教えてやる』


取引だ。

悪魔はそう言った。

『私に、キミの一部をよこせ。代わりに、私の一部をキミにやる』

( ゚∀゚)「一部」

『そうだ』

まさか悪魔と取引をする日が来るとは、夢にも思っていなかった。
俺はどうすればいい?



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:00:08.16 ID:KePTxKPY0
『キミは何が欲しい?』

悪魔の言葉に、俺は少し考えた。ほんの少し。
そしてこう言った。

( ゚∀゚)「心臓が欲しい。あんたの心臓。悪魔の心臓だ」

『心臓か・・・ふむ。キミは何を差し出す?』

( ゚∀゚)「俺の」

視界が揺れる。汗が噴き出る。
俺は今、人生の岐路、十字路に立っている。

( ゚∀゚)「心臓だ。あんたの心臓と、俺の心臓。取引だ」

『・・・』

『・・・悪くない。悪くないぞ。人間の心臓か』

( ゚∀゚)「どうだ?すぐにできるか?今、すぐに」

焦りを悟られないよう、精一杯の平静を繕う。

『いいだろう。すぐに』

途端に、胸に激痛が走った。この世のものとは思えない痛み、苦しみ。
声も出せずに苦しんでいると、徐々に痛みは引いていった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:02:58.59 ID:KePTxKPY0


『・・・なんだ、これは』

( ゚∀゚)「こ、これが・・・悪魔の心臓の、鼓動かよ。すげえな」

『人間の心臓とは、これほどに弱いものなのか。おい、これはなんだ』

( ゚∀゚)「悪魔の、心臓・・・俺は手に入れたのか・・・信じられない」

『キミに聞いているんだ。この感覚はなんだ。キミの心臓に張り付いていた、この機械は』

( ゚∀゚)「・・・ん、ああ、言ってなかったな。悪い」

( ゚∀゚)「ペースメーカーっていうんだ」

『・・・心臓が・・・動きを、止めようと』

『している・・・キミは・・・』

( ゚∀゚)「それがないと、俺の心臓は動かなかったんだ。ありがとう」


( ゚∀゚)「愚かな悪魔」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:04:09.30 ID:KePTxKPY0
悪魔の声は、もう聞こえてこなかった。
十字路から、やつの存在が消えた。

代わりに、俺の形がはっきりとしてきた。
何でもできる。そんな気がする。


いつ戻ってきたのかは分からない。
ただ、あれからあまり時間は経っていなかった。
暗い部屋の中で、俺はひどく古めかしい聖書を手に持ち、一人で立ち尽くしていた。

( ゚∀゚)「・・・悪魔の、心臓」

俺の身体の中で、得体のしれないものを送り出している物体が、ドクン、ドクンと動いている。
それにどれほどの価値があるのか、少なくとも、金では買えない代物だ。

( ゚∀゚)「・・・もう、夜か」

悪魔は死んだのだろうか。俺には分からない。
ただ、眠ろうと思った。


俺の中で、悪魔が蠢いていた。



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