( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
3名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 02:59:21.67 ID:gKRfj78B0
  
プロローグ

―いつからだったろうか。暗闇を恐れなくなったのは。

HUDに映るのは溶けてしまいそうなぐらいにただ深い闇。
もうどれだけこの闇を凝視しているのか。
そのまま時間を忘れてしまいそうになる。夜風にざわつく深い木々が、闇にわずかにシルエットを浮かべる。それはまるで地獄の門のようだった。

じっとりと鼻の頭に汗が浮かぶ。
 ヘルメットのベンチレーターはちゃんと作動しているのだろうか?
くぐもった生暖かい息が、鼻隆をかすめていく。わずかに生臭い。
先ほどぱくついた戦闘糧食。あれは絶対悪くなっていた。



  
5名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/09(土) 03:03:30.64 ID:gKRfj78B0
  
漫然とした不安。増える呼吸。胃をつく嘔吐間。
それらを押さえるためにそんなとりとめも無いことを
頭の中で延々と反復していると、突如としてHMD
(ヘッドマウントディスプレス)が振動した。無線受信のサインだ。

『…ザッ…ザザ―無線封止解除。 白1。ダンスパーティは終わった。
物足りなさげなゲストがそっちに向かった。歓待してやれ』

汗が鼻の頭を伝って落ちた。ぴちょん。今の僕には針が落ちる音だって、
ワールドカップのチャントのように聞こえるはずだ。

『白1。聞こえているか。応答しろ』
「―し、白1迎撃命令了解だお!」

あわてて返事をする。
「団長」は愚図を好まない。
「団長」が好むのは優秀な部下、統率された部隊、そして混沌とした戦場だ。



  
10名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/09(土) 03:06:56.52 ID:gKRfj78B0
  
「ショボン曹長!ジェネレーター起動しますお!白2、白3。
聞いたとおりだお。僕の号令で先頭車両がキルゾーンに入ったら
アンブッシュから十字砲火にかけるお!」
振り返り、後ろの上部座席に座る無線手兼装填手のショボン曹長に声をかける。
もっともHMDとぴちぴちのタンキストスーツのおかげでほとんど後ろなんか向けない。
せいぜい曹長の薄汚れたブーツが見えるぐらいだ。


「白2了解」
「白3了解です!」
「了解。しかし少尉」
各分隊からの返信。そして最後にショボンさんからの返事。落ち着いた、やさしい声。
「なんですかお?」
「いい加減、きちんと命令口調でしゃべってください。特に無線を使うときには。
あとで僕がきまりが悪くなるんです。僕は曹長です。部下なんです」
「お…おーん…」

  
11名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/09(土) 03:08:46.26 ID:gKRfj78B0
  
曹長にたしなめられる。所在無く僕は返事をした。
仕方ないじゃないか。僕は少尉だけど新米だし、
曹長は年齢で言っても一回りも上だ。僕は口を結んで、開いて。
いつもの仕草だ。困ったときにはいつもこれが出る。

そうやって逡巡しているとHUDに、ジェネレーターが即応状態になったというサインが出る。
緑色の光点。後ろの闇をスクリーンに、ひときわ輝いて見えた。

ぎしっ…しっ…。

独特の音。ベッドのスプリングがきしむ音に似ている。だけどそれよりもっと
鋭角的で乾いていて。何より静かだ。それはこの多足歩行戦車の人工筋肉が伸縮する音だ。
ジェネレーターのリソースは十分だ。すぐにだって活動できる。



  
12名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 03:12:28.03 ID:gKRfj78B0
  
(やべwwwww名前抜けてた)

「少尉」
「なんだお?」
「緊張、とれました?」
 背中に届く。表情は見えないが、僕のやることは決まった。
口を真一文字に結び、静かに祈った後、決意すること。
そうだ。僕は戦える。一人ではないから戦える。

暗闇に浮かぶ光点が増えた。振動感知センサーは正しく
作動しているようだ。「ゲスト」をきちんと認識している。
軽戦闘車両が2…3…4両。 無反動砲搭載の自走砲もいるのだろうか、
大きい光点が三つほど。

「白2、待機完了」
「白3、待機完了です!下命を待ちます」

交信の後、一瞬の静寂。
耳を澄ます。はっきりと聞こえてくるお祭囃子。
キャタピラ、タイヤ。それぞれのサスペンションが軋む音。敵兵のおしゃべりや
汗のはじける音だって聞こえてきそうだ。。

間違いは無い。IFFも敵性認識を下す。そうだ。敵だ。
我々が打ち倒し、撃滅するべき敵が来たのだ。



  
13名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 03:15:19.37 ID:gKRfj78B0
  
(´・ω・`)「来ました。自走砲3 歩兵戦闘車両4!
ニーソクの機甲化部隊に間違いありません!
MBTは確認できず!ブーン少尉!」

大きく息を吸い込み、吐く。それだけで僕は得ることができた。
小さな勇気を。そして無線に向かう。

( ^ω^)「小隊!僕たちの多足歩行戦車V―I―Pの初陣だ!
お偉いさん方に御披露目するするチャンスだお!行くお!
地獄の門を開いてやるお!小隊!!撃ち方始め!!」



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