( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
42名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/09(土) 22:15:30.22 ID:gKRfj78B0
  

第3話


(歩兵) 「コメツキバッタ11より 白1。 送れ」
( ^ω^)「コメツキバッタ11.こちら白1。送れ」

2026年9月21日 1130時。
ブーン達はニーソク人民共和国との国境近い丘陵地帯に展開していた。
白、は彼らの小隊の符号。白・赤・黄・黒。それぞれが3両ずつの4小隊。
計12両から中隊は構成されている。  ブーンは小隊長としてこの丘陵に派遣され、任務についていた。
 
 尾根に残暑の陽光は容赦なく照りつける。だが車両のエアクリーナーを通して僅かに薫る緑は
わるい物ではなかった。



  
43名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/09(土) 22:33:08.65 ID:gKRfj78B0
  

( ^ω^)「・・・・・・弾着いま!送れ」
( 歩兵)「白1、こちらコメツキバッタ11。弾着確認、右へ100、落とせ200、効力射を要求。送れ」

彼らが今ついている任務は、三週間前の9月1日。ある事件をきっかけに国境を越え侵攻した
ニーソク人民共和国の部隊に、重迫撃砲をもちいて打撃を加えることだった。

彼らの操る多足歩行戦車V−I−Pは『便利』な機体だ。
 8本の脚部は人工筋肉によって稼動し、僅かなジェネレーターの電力によって作動する。
即応性も高い。また脚部を伸縮することにより重心の上下が容易であり、機敏な起動。
 熟練者があやつり、整った路面であるなどの適当な条件さえあれば『ジャンプ』すら可能だ。

蜘蛛を思わせるようなその外見。一見小型だが多重外殻構造の装甲を持っており、
歩兵携行の対戦車ミサイルなどに対しては有効な装甲となっている。



  
44名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 22:51:47.20 ID:gKRfj78B0
  

もちろん欠点も多い。

人工筋肉は確かにレスポンス、稼動域などにおいて車輪・キャタピラには大きく勝る。
しかしやはりエンジンの出力にはかなわない。結果的に車体は軽量化・小型化することになり、
 必然的にMBTに搭載するような大口径の砲は積めない。

 コックピットにダミー君人形を入れ、105ミリ砲を試作的に搭載したvーiーpでの射撃実験は、
技術者が顔面蒼白する結果となった。その技術者は、バク転し擱坐した車両から文字通り
「粉々」になって出てきたダミー君人形を、賞与で弁済するハメになったらしい。

またこの車両は車体上部のハードポイントに複数の火器を搭載できる。対空ミサイル、対戦車ミサイル、
機関砲。ロケット砲。今回搭載している重迫撃砲もそうだ。
 それぞれまったく運用方法も操作方法も違うこれら火器を運用するのには、
V−I−Pに搭載されているOS「ヤマタノワロチ」が不可欠だ。 当然乗員にも相当の練度を要求される。

他にもいろいろとあるのだが、とりあえずブーン達はこの国境地帯に闖入した招かざる客達をけん制するため、
だらだらと迫撃弾を打ち込んでいた。まるでこの初秋の日差しのように。



  
46名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 23:03:01.02 ID:gKRfj78B0
  

( ^ω^)「午前中の投下終わりにするお。送れ」
(歩兵 )「早いなw もうメシか?w」
( ^ω^)「だおだおw今日のレーションは何味か楽しみだおww」
(歩兵 )「納豆味あったら後で交換してくれ。 交信終り」
( ^ω^)「了解だお。交信終り」

(´・ω・`)「少尉…」
( ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「無線の私的交信は現金だとあれほどいったじゃないですか」
(; ^ω^)「おっおー‥ またクー団長に怒られるかお?」
(´・ω・`)「…私は何も聞いてません。あとは先方と少尉がうまくやってくださいよ」
( ^ω^)「了解だお!」



  
48名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 23:19:37.13 ID:gKRfj78B0
  

( ^ω^)「白2、白3。食事にするお!交代で1人ずつ出てくるお!」
無線で各分隊長に呼びかける。すぐさま了解、の返信。
薄暗い車内とちらつくHMDに辟易していたのだろうか。彼らの声は明るい。

(´・ω・`)「私は無線に張り付いてますから、少尉お先にどうぞ」
( ^ω^)「いいのかお? ショボンありがとだお!!」

そういうとブーンはタンキストスーツの腕についているスイッチを押す。
 空気が一気に抜ける音がしたかと思うと、ブーンはハッチをあけ、勢いよく外へ飛び出す。

( ^ω^)「ぷはーーッ! やっぱ外は気持ちいいお!」

彼らが身に付けるタンキストスーツは特注だ。
VーIーPは小型の車両に2人が乗るため、ほとんど身動きが取れない。
戦車というより航空機のコックピットに近い。脱出時、計器や操縦桿に服が引っかかり、
生存性の低下をひき起こすのを防ぐため突起やたるみをほとんど排除した全身タイツのようなものとなっている。

 胸から腹部、背中には主要な臓器を守るためのケプラーとチタンの複合素材のプレートを付けてはいるが、
下半身に関してはおおむね女性クルーからは大不評である。

 いまブーンがした操作は、空気圧によってスーツの一部をふくらませ、コックピットに体を固定させていたのを
解除したのだ。高級なシートベルトといったところだろうか。だが様々な体格の兵士に完璧に適応しているとは言いがたく、
彼らの腰痛の原因の1つとなっている 



  
53名前: 1投稿日: 2006/12/09(土) 23:53:47.71 ID:gKRfj78B0
  

( ・∀・) 「小隊長!お疲れ様です!」
从'ー'从「おひゃきにいただいてまひゅよ〜」

キョロキョロと小動物のような黒いまんまるな瞳の男がモララー1等軍曹。
すでにレーションをほお張りながら喋っているのは ワタナベ上級勤務伍長だ。
 長ったらしいので2人とも隊では単に「軍曹」か、ワタナベの場合「超伍長」と笑われながら言われている。
これは長たらしい階級名だけでなく、彼女の性格もその一因ではあるのだが。

本来上級下士官がこなさなければならない分隊長の任であるが、ここにも人員不足の弊害が出ていた。
 

(; ^ω^)「お前達早すぎだお…」
从'ー'从「はひゃいとこたびぇてこうひゃいしにゃけひゃいけひゃいでひゅかひゃ」
( ^ω^)「日本語でおk」
( ・∀・)「早いとこ食べて交代しなけりゃいけないですからね」

(; ^ω^)「お前すごいお…」



  
54名前: 1投稿日: 2006/12/10(日) 00:07:30.77 ID:1smMNJyK0
  

( ^ω^)「そうだお!納豆味のレーション、ストック無いかお!?」

(; ・∀・)「あー ありますよ まあ…なんだ。その…」
从'ー'从「このレーション悪くなってませんでしたー? なんか変なニオイしましたよ?」

(; ・∀・)「ありました、と言いますか…」

从'ー'从「次はどんなのありましたっけ〜」
ワタナベは小体長とモララーの会話を、まるで100マイル先で行われているアメリカン・フットボールの
ハドルみたいに意に介さず、レーションを漁る。

(; ^ω^)「参ったお・・クー団長に怒られるかもだお」
( ・∀・)  「怒られなかった日があるんですか?」

相変わらずこの小動物のような男は、他人がなかなか言い出しにくいことをズバズバという。
 もっとも、そのあたりを買われてクーからスカウトを受けたのだが。内藤自身もモララーのことは嫌いではなかった。
事実、訓練においてクー隊長の駆るV−I−Pに撃破判定を与えた数少ない車長のひとりであるなど、
彼の言葉は自信と経験に裏打ちされたものだった。



  
56名前: 1投稿日: 2006/12/10(日) 00:27:44.15 ID:1smMNJyK0
  

( ^ω^)「モララーは術科学校でクー団長と同じだったのかお?」
( ・∀・)「ええ。最初はビックリしましたね。幹部候補生。半年もすれば少尉様になるエリートが、
      なんでこんなところに?って」

2人はワタナベのことはもう諦め、おぞましい色をしているレーションをぱくついていた。
 オレンジ色のフレーク状のレーションを水筒で飲み干すと、モララーは続けた。

( ・∀・)「そりゃ最初は反発しましたよ。こんなお嬢様、一発で音を上げるに決まっている。
      ここは俺達の場所だ。狭い鋼鉄の棺おけの中で、殺し、死ぬことができる
      俺達の場所だ、って。 ところが音をあげたのはー」
(; ^ω^)「モララーたちのほうだった、かお? …そのフレーク何味だお?」
( ・∀・) 「グレープフルーツ味。 そうですね。ありゃ大雨の日だったかな。酷いぬかるみでした。
      誇張抜きで、だ。俺の足の長さぐらいある砲弾を、ひたすら戦車に積み、そして降ろす訓練があった」

あれはいつだったかなー。
 モララーは「フルーツポンチ味」とラベルのあるレーションをあけながら語りだした。
とりあえず糧食開発部は腹を切るべきだろう。



  
61名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/10(日) 00:53:45.89 ID:1smMNJyK0
  

ー2019年 vip共和国軍 戦車術科学校敷地内

ぜえ、ぜえ、ぜえ。
目がかすむ。足がぬかるみに沈み、力が入らない。
 
ベシャッ!
(#-∀・)「ぐえッ!」

  /ノ 0ヽ
_|___|_
ヽ( # ゚Д゚)ノ「モララー生徒!また落としたか!腕立て40回!」

畜生。また落とした?何キロあると思ってるんだ、この砲弾。

ヽ( # ゚Д゚)ノ「不服そうだな!ああそうだ!やめちまえ!貴様みたいなクズは歩兵になっちまえ!
        ダッチワイフでも乗せてたほうががまだ戦車が見栄えする!」
( メ∀・)「モララー生徒腕立てします!故郷に1回!共和国に1回・・・!」
ヽ( # ゚Д゚)ノ「声が小さい!またコーヒーを飲みたいか!?」

野郎。頭を踏みつけやがった。顔面が泥水まみれになる。息ができない。
 そのまま腕立てを続ける。頭を抑えられ、思うように体が上がらない。
( メ∀・)「上官に1回!!愛する戦車隊に1回!!」



  
62名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/10(日) 01:02:36.44 ID:1smMNJyK0
  

ヽ( # ゚Д゚)ノ「よおーし!!それだ!それでいい! あと3セットで許してやる!!
        熱いシャワーを浴びられるぞ!」

熱いシャワー。なんてすばらしいんだろう。この忌々しい泥と汗とおさらばできる文明の利器だ。
 不覚にも一瞬想像してしまい、腕の筋肉が緩む。教官はそれを鋭敏に察知し、踏みつける!

ヽ( # ゚Д゚)ノ「馬鹿めが!あと5セットだ!」

こいつは絶対変態だ。俺達を苦しめる様を覚えておいかないと、
不細工(であろう)嫁とヤる時に、たたないんだろう?
 
周りを見ると、どこの分隊も同じようなものだった。
もちろん俺の分隊のメンバーは全員何百回と腕立てをした。
そんなことに一抹の安心感を覚え、再び砲弾を受け取る。

そのとき、とんでもない声を聞いたんだ



  
64名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/10(日) 01:17:33.13 ID:1smMNJyK0
  

川メ゚ー゚)「クーク分隊!作業完了しました!!」

え…? …馬鹿な。あの細腕で?俺は眼を疑った。あのお嬢様が、何故?
 確かに彼女の軍服は泥だらけだった。美しい銀髪も、泥がこびりついて乾き、
魚網のようになっていた。だが、なんて形容したらいいんだろうか。

小さい頃、クレヨンを使って絵を書いたことがあるだろ?クレヨンで書いた後に、絵の具で塗りたくる。
そうすると絵の具はクレヨンを避けちまう。

…きっと俺には文才が無いな。まあいいさ、けどそんなふうだった。そんなふうに、
彼女の大事な部分だけは、何かこう、泥から避けている。そんな感じだったんだ。
 不覚にも俺は見とれていた。あれに眼を奪われない奴は、男じゃない。そう思っていると…!

ヽ( # ゚Д゚)ノ「危ない!!!」



  
67名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/10(日) 01:30:58.59 ID:1smMNJyK0
  

やっぱり俺は大馬鹿野郎だった。目が覚めて、最初に飛び込んできたのは真っ白な天井。

( -∀-)「お…ここは?」

体を引き起こそうとすると、激痛が走る。一瞬何が起こったか事態を把握できなかったが、
首を起こして足元を見てみると左足にはいかめしいギプスがはめられていた

川 ゚ー゚) 「気がついたか」
( -∀・) 「クーク…曹長?」

幹部候補生である彼女達は、少尉任官するまでのごく短い期間を曹長の身分で過ごす。
方や我々は術科学生。一応上等兵並みの待遇は与えられているが兵ですらないハンパものだ。
既にここから俺と彼女の差はあった。

川 ゚ー゚) 「すまんな」
( -∀・)「?」
川 ゚ー゚)「熱いシャワーは無理だったが、代わりに私が拭かせてもらった」

何を言ってるんだ。この女は。吹いた?噴いた?
 とっさ手を頭に伸ばしてみると、髪の毛に凝りついていた泥は綺麗になくなっていた

( ・∀・)「俺は一体…」
川 ゚ー゚)「雨で手を滑らし、受け渡された砲弾を足に落として骨折した。よくある事故だ」



  
68名前: 愛のVIP戦士投稿日: 2006/12/10(日) 01:45:01.76 ID:1smMNJyK0
  

( ・∀・)「そうですか…」

よかった。気づかれてない。女に、しかも一応上官に見とれて、砲弾を落として骨折。
そんな奴は、『間抜け』という。栄光あるタンキストじゃない。

川 ゚ー゚)「詳しくは話せないがー…
      どうしてもな。上に昇らなければならない理由があるんだ」
( ・∀・)「!?」

俺は、上手くやっていたはずだ。この女に気をとられていた素振りなんかこれっぽっちも見せていたはずはなかった。

( ・∀・)「な、なななんでそんな話を?」
川 ゚ー゚)「違ったか?お前は私をよく見ていたからな。てっきり」

結局、彼女にとって俺は路傍の石に過ぎなかった。綺麗な花に絡み付いてくる醜いツタ。
結局俺もそんなふうに思われていたのか。 
 よく考えてみれば、そうだ。俺はこの花に噛み付いて、栄光どころかギプスをもらっちまった。

川 ゚ー゚)「養生しろ。それからこれはな、教官からの差し入れだ。私は内容について感知しないが」

そういって彼女は紙袋を渡す。どうやら雑誌のようだった。



  
69名前: 1 ◆OC3qKKb/tI 投稿日: 2006/12/10(日) 01:54:18.71 ID:1smMNJyK0
  

( ・∀・)「曹長!!」
川 ゚ー゚)「教官を恨んでくれるなよ。あれが彼らの仕事だ」

( ・∀・)「違うんです…曹長は…曹長は」

言葉が出てこない。喉を搾り出すが、嗚咽しか出てこない。
俺はどこまでグズなんだ。

川 ゚ー゚)「−私と同じ景色が見たかったら」
( ・∀・)「!!」

川 ゚ー゚)「まずは最高のタンキストになってくれ。そうしたら必ず迎えに行く」

俺は泣いた。声を出して泣いた。
 そして半年後、卒業直前に曹長は姿を消した。教官に問い詰めたが、
『お前等の知ったことではない』と腕立て伏せを食らった。
 秘蔵の「雑誌」を渡しても、口を割っては呉れなかった。

だが俺には判っていた。彼女は花であることをやめ、戦士になったのだ。
卒業の日。
術科学校最優秀生徒として表彰されながら、俺は確信していた。



  
72名前: 1 ◆OC3qKKb/tI 投稿日: 2006/12/10(日) 02:05:59.30 ID:1smMNJyK0
  




(; ^ω^)「…クーはやっぱりすごいお…」
( ・∀・)  「まあ泣いた後、きっちり抜いたんですけどね」

( ^ω^) 「お前やっぱり最低だお」
( ・∀・) 「大変でしたよ。足伸ばせないから、一発抜くのにも時間がかかってかかって」

从'ー'从 「何の話ですかー?」

台無し。本当にこいつらは国内屈指のタンキストなんだろうか?ワタナベの間延びした声は、
そんな疑問を抱くことすらつまらないようなことに思える

从'ー'从 「しかし小隊長〜?」
( ^ω^) 「お?」
从'ー'从 「私達のこの作戦、本当に団長が考えたものなんでしょうか〜?」
( ^ω^) 「?」
从'ー'从 「だっておかしいじゃないですか〜。いくらけん制とは言っても、たった三台の重迫撃砲ですよ?
       集中運用するべきの火砲なのに、効果があるかどうか疑問ですよ〜」
( ^ω^) 「!!」
从'ー'从 「それに、この作戦私達がやる意味があるんですか〜? 確かにこの丘陵は車両は入れませんけど、
       歩兵なら昇れないということもないですし〜」

この女は。時々本当に鋭い。こんな性格も「超軍曹」と敬意を込めて揶揄されるゆえんだろうか

( ^ω^) 「それはブーン達の考えることじゃないお…」

我々は兵士だ。そんなことは考える必要は無い。疑念を頭から振り払おうとしたとき、ハッチからショボンが出てきた。
(´・ω・`) 「隊長、ちょっときてください。何かおかしいんです」



  
5: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:28:55.04 ID:lvev7LLg0
  
-1215時

ハッチからコックピットへ軽快に滑り込むブーン。
どこからその身軽さが来るのか。その体型からはまったく想像がつかない。
中ではショボン曹長が手をあごにあて、いぶかしげな表情をしていた。

( ^ω^)「連絡が取れない・・・?」
(´・ω・`)「ええ、さっきから呼び出してはいるんですが、いっこうに応答がありません」
( ^ω^)「…わかった。あとはブーンがやるお。ショボンは外で休んでるお」
(´・ω・`)「いえ」

表情を変えずに短く返す。

(´・ω・`)「何か嫌な予感がします。他の分隊員も速やかに搭乗し、即応状態にすることを提案します」
(; ^ω^)「…とりあえず呼びかけてみるお」
 
自分が動揺してはいけない。指揮官の動揺は隊全体に影響を及ぼす。ブーンは深呼吸をしてから
無線に向かった。

(; ^ω^)「コメツキバッタ11!こちら白1!聞こえているかお!送れ!」

しかし応答は無い。シャーー…。メット内臓スピーカーからは遠くの川のせせらぎのような音が響くのみ。

どういう事だ。ブーンは無線の不調の可能性を示唆したが、この曹長はすぐさまそれを否定した

(´・ω・`)「白2、白3を経由しての無線でも同じでした。
      それに小隊長が外に出た後すぐに本管との定時報告がありましたが」



  
6: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:30:04.73 ID:lvev7LLg0
  
( ^ω^)「きちんとできたのかお?」
(´・ω・`)「ええ、まったく問題なく」

胸を打つ焦燥感。嫌な予感が確信へと変わっていく。胃の上あたりに鈍く、冷たい感触がする。
それはブーンの不安そのものだった。

(; ^ω^)「コメツキバッタ11!応答するお!納豆味は無かったけどコンソメマシュマロ味ならあったお!
       これで勘弁してくれないかお!送れ!」

(´・ω・`)「…おかしいな」
(; ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「さっきまで繋がっていた本管と連絡が取れません。引き続き呼びかけてみます」

ブーンも何度も何度も無線に呼びかける。だが応答は無い。胃を襲う刺すような不安は、
もう口から飛び出てきそうだった。

ーその時だった。



  
8: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:32:40.71 ID:lvev7LLg0
  
(; ゜ω゜)「おおおおおおお!?」
(;´・ω・`)「小隊長!落ち着いて! 各車状況知らせ!」

内藤の小隊を猛烈な爆発が襲った。ハッチを空けていたブーンのすぐ上を爆風が吹き抜ける。

そして雲を裂くようなガラガラという鋭い音。そして形容しがたい爆音が立て続けに一発、二発…
そして数え切れなくなった。二つの轟音は乱暴に融和し、v−i−pの潮音マイクのレベルを振り切った。
 外部カメラには何も写らない。ただもうもうと砂塵と黒煙が立ち込めていた。

(; ゜ω゜)「なんだ、なんだお一体!」
( ・∀・) 「白2。外郭に破片くらいましたが問題なし!」
从 ー从「…」

一瞬の沈黙。ショボン曹長は無線にがなりたてる。

(´・ω・`)「白3!どうした!状況知らせ!」
从;ー 从「あのッ…あのっ クビ。首がッ…無線手が…ハッチ開けてて…」
(´・ω・`)「落ち着け!落ち着いて状況だけを報告しろ!」

再びガラガラ、と鋭い音が空と鼓膜を裂く。

(; ・∀・)「こりゃあ…ニーソクの多連装ロケットだ!」
吐き捨てるようにモララーが口を開く。彼は彼なりに状況を把握しようと必死だった。
(; ゜ω゜)「来るお!全車衝撃に備え!」

 重心を下げ、限りなく地表に車体基部を近づける。それと同時に脚を立て、爆風から車体基部を守る。
またもマイクのリミッターは振り切れてしまった。



  
9: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:35:14.23 ID:lvev7LLg0
  
从;ー;从「…ザ…ザ…白3…無線手 戦死、車体には特に問題なし」
 
マイクが回復して最初に流れてきたのはワタナベの悲壮な涙声だった。
このままではまずい。撤退か、退避して遮蔽物に入らないといけない。
ブーンは隊長として決断に迫られていた。 そのとき。

『…白1!白1!応答を!こちら本管!白1!』
(; ゜ω゜)「ツンかお!」

本管副官のツンの声だ。

『生きてた!団長!無事です!白小隊生きてます!』

本管からの無線だ。普段冷静なショボンがガッツポーズを作っている。
しかしブーンにそんな余裕もあるはずなく、ただ無線にしがみつく。

(; ゜ω゜)「これはどういう事だお!なんだってニーソクのロケッ弾トが僕らを攻撃…」
『ともかくまずは尾根を降りて、本管へ!…あ』

( ゜ω゜)「どうしたお!?」
無線の向こうがガタガタとあわただしくなったかと思うと突如として静寂。そして次の瞬間には

川 ゚ー゚)『白1。私だ』
(; ゜ω゜)「……」

団長の声。最も聞きたくて、そして最も聞きたくない声の人間が無線に出た。
この美しき暴君は次の瞬間何を求めるのか。まったく予想がつかない。



  
10: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:39:36.69 ID:lvev7LLg0
  
川 ゚ー゚)『詳しくは無事に帰ってからだ。やってみせろ。私の部下に無能と腰抜けはいないはずだ』
(; ^ω^)「…了解だお」

川 ゚ー゚)『情け無い声を出すなよ。貴様はタンキストだ。自分と自分の部下を信じろ。交信終り』
あ・・・団長! 一瞬ツンの声がしたが、無線は切られた。そして繋がらなくなった。

 ブーンは静かにヘルメットのバイザーを下ろし、無線を操作し、交信を小隊内に切り替える。
ぱくぱくと口を空け、また閉じる。そして静かに真一文字に結び、自分のやるべきことを再確認し発信する。

( ^ω^)「全車起動!単縦陣で戦域を全速で離脱するお!
       白3、援護する。真ん中に入れ!白1先導す!」
(; ・∀・)「…」
( ^ω^)「白2。どうした!」

(; ・∀・) 「いえ、本管まで何キロでしたっけ…ヤマタノワロチが、
       食らった破片で脚部の温度が芳しく無いといってきてまして」
(; ^ω^)「……」

 モララーの声は笑っているようにも聞こえた。だがこの歴戦の軍曹が笑うとき。
それはおおむね甚だ芳しく無い状況のときだ。だがともかく今は全速だ。ロケット砲からの射程外に出れば、
あとは巡航速度でもなんとか脚は耐えてくれるはずだ。でなければ死ぬだけだ。

 走る。ひたすら走る。後ろから爆音が近づいてくる気がしてモニタを見るが、何も表示されてはいない。
自分が走っているわけでは無いのだが、吹き出る汗が止まらない。息切れがする。

 そうして走り続けて尾根の稜線を越えた。ロケット砲の射程は20キロ弱。ここさえ越えればいくらなんでも
国境地帯からは届かないはずだ。あとは戦車の脚部と相談しつつ、基地に戻ればいい。 
ブーンたちは一様にそう思っていた。 
 だがー



  
11: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:44:27.11 ID:lvev7LLg0
  
( ゜ω゜)「なんだおこれは…」

尾根を越えたところにある440丘陵地帯。ここは盆地になっており、その真ん中をワロタ川が横切っている。
扇状地の川で、大して深くはないのだが雨が続くと突如として水かさが増えるため、
それに掛かる唯一の橋梁、バロチェ橋は堅固にできていた。

盆地には東西南北に隘路が伸びていて、それを利用して国境に配備されている部隊の
前進補給基地になっていた。

ここまでくれば大丈夫。ブーンたちは尾根を越えた瞬間、そう思った。だがしかしー。

彼らの目に飛び込んできた現実は、目を疑いたくなるものだった。

(´・ω・`)「これは…壊滅状態じゃないか」

あちこちで空をつく黒煙。そのうちのいくつかはまだ根元が赤々と燃えていて、
時々思い出すように爆ぜ、破片を撒き散らしていた。

(; ゜ω゜)「と、ともかくバロチェ橋を渡るお!基地本管にさえ帰れば状況が分かるはずだお!
       白3!先行しろ!白1後方警戒に当たる!」

目前に広がる悪夢のような情報源を遮断するようにブーンは無線に向かい指示を出す。
おずおずとワタナベの車体は前進し、暫くして橋のたもとにつく。そこでワタナベは急停車した。

(; ^ω^)「どうしたお!白3!」
从;ー;从「橋が…橋がふさがれてます!」

(; ・∀・)『「なんだと!」お!』(゜ω゜ ;)



  
12: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:51:14.32 ID:lvev7LLg0
  
ほぼ同時にハッチから身を乗り出す2人の車長。そして同時に言葉を失う。
 
 横倒しになったトラックが、道をふさいでいる。いや、トラックだけならまだ通る幅があった。
更に悪いことに荷台から散逸したであろう鉄骨が、完全に橋をふさいでしまっているのだ。

悪いことは重なるもので、今年は秋雨が多い。川の水をみたものの、とても渡河装備無しの戦車が渡れるような水かさではなかった。

( ^ω^)「なんで…なんでだお、ここまできて!」

ブーンはハッチから乗り出した半身を支える両手を強く握った。充血し、真っ赤になる掌。
万事休すか。ブーンの奥歯はぎりぃ、と嫌な音を立てる。
と、そんなブーンを呼ぶ声がした

「あんたたち!教導団の人たちか!」
無線ではない。一瞬幻聴かと疑ったが、確かに声がした。
まだ誰か生き残っているのか。辺りを見回すが、声の主は見当たらない。

「ここだ!ここ!」

声の主が出てきた。橋の下から、もぞもぞと親に怒られ、しゅんとする子供のように。
 それを見てブーンの声は明るくなる。主は曹長の階級章をつけていた。

兵科を示す徽章にはトラックとパンのエンブレム。兵站をつかさどる補給科の人間だ。
その軍服はあちこちが破れ、すすけている。
ヘルメットもどこかに飛ばされてしまったのだろうか、かぶってはいなかった。



  
14: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:02:02.40 ID:lvev7LLg0
  
( ^ω^)「補給隊の人かお!いったい何があったんだお!」
(  )「わからん!自分はいつもどおり車体の整備をしていたら、
     急に無線が通じなくなって…そのあと…」
(; ・∀・)「砲撃が来たのか?」

(  )「いや、ヘリだ、ヘリが来たんだ。国境地帯から撤退してきた部隊が
    大挙して橋を渡ってるその間に…ほらあれだ」

指差した先には一際明るく燃える残骸。よく見ると流線型の機体に、
折れ曲がってはいるが確かにローターらしきものが炎に映えていた。

(# ・∀・)「バカな!制空権はどうなってるんだ!」
(´・ω・`)「怒鳴るな。多分撃墜されるのを覚悟で来たんだろう。
     尾根を這うように低空飛行でくれば、国境地帯からここまでなら来られない距離じゃない。だろ?曹長」

ショボンもハッチから出てきて、橋の下に声をかける。すすけた曹長はゆっくりとうなずく

(  )「…ああ。撃墜には成功したが、被害は甚大だ。奇襲だったからな…
    散開したものの、戦車回収車は軒並みやられちまった。部隊は半分は渡河できたが、
    半分は南の平地を通って撤退だ。
    あっちは防衛が脆弱だし、国境地帯からも近い。
    隠れるべき森も少ない。…多分三分の一も本隊に帰れないだろう」

( ・∀・)「あんたは何してるんだ?」
モララーが曹長に問いかける。



  
15: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:07:11.74 ID:lvev7LLg0
  
(  )「俺たちは残ってあんたたちみたいな人に状況を教えて、
   橋上の残骸を取り除き、可能であれば端の破壊を命じられてるんだが…

     …重機も爆薬もないし、どうしようもない。いつまたヘリが来るか分からんし、その…あれだ。隠れてた」

ばつが悪そうにうつむく。しかし実際その通りだ。人力であの鉄骨はどうしようも無い。曹長は続ける。

(  )「運がよければ逃げて見せるが、もう部下はシャツを引き裂いて白旗を揚げようとしている。
   俺には止められん。あんた達も早く南にいけ。神があんたらの運命を裁くだろうさ」

そういうと曹長はお手上げ、のサインをして橋の下へ戻っていってしまった。

取り残されたのはブーン達。どうするか。確かにヘリは撃墜したが、いつまた新手が来るとも限らない。
そもそも友軍が本当に制空権を確保できているのかすらわからない。
いや、下手をすると国境地帯の野砲部隊がここまで伸張してくるかもしれない。

こういった状況下で迷うことは、刻一刻と自分の首を絞めていることと同義だった。



  
16: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:17:38.82 ID:lvev7LLg0
  
ブーンはヘルメットを人差し指で叩く。トン、トト、ト。トン、トン、トン。不規則なリズム。
そして中指で1回。

トンッ!
 
 静寂の支配するコックピットに乾いた音が響いた。 ブーンはしばし瞑目した後、
刮目。その目は決意をたたえている。


( ゜ω゜)「ブーンたちは…あきらめんお…!」
(;´・ω・`)「小隊長、…まさか!」
( ゜ω゜)「まさかだお。ショボン曹長なら不可能じゃないことを知ってるはずだお」
 
(; ・∀・)「何をする機ですか小隊長!」

しばしの間。そしてゆっくりとブーンは口を開く。

( ^ω^)「…ジャンプするお!」

( ・∀・)「!!」



  
17: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:34:10.72 ID:lvev7LLg0
  
(; ・∀・)  「…な!バカな!確かに不可能ではないとデータにはありますが,
        そんなもんカタログ上のことで実践じゃー」
( ゜ω゜)  「やらないと死ぬだけだお!」

モララーが激しく反論する。彼は優秀ではあるが、通常戦車部隊引き抜かれてから浅い。
vーiーpの限界性能を引き出しているとは言いがたかった

(´・ω・`)  「確かにそれしか方法は無いかもしれませんね」
(; ・∀・)   「ショボン分隊士ー!んなバカな!」

思わぬところからの横槍。この人は苦手だ。なんといってもー。

(´・ω・`)  「ジャンプするといってもトラックを越えるわけじゃない。鉄骨を超えるだけだ。
        足場が悪すぎていかに多足歩行といえどもあれはスタックする可能性があるがー」
( ・∀・)   「ジャンプならできる可能性がある、と?」
(´・ω・`)  「試作段階のテストでは脚部は高さ三メートル、幅10メートルのジャンプのストレスに耐えたぞ」
(# ・∀・)   「だから技術屋の言うことなんて信用…」

砲弾にやられて死ぬのはいい。だがいい加減なことで死ぬのは真っ平だ。車体がつぶれて
ショックで全身打撲や脳挫傷なんて冗談じゃない。モララーは激しく反論する。

(´・ω・`)  「僕だよ」
( ・∀・)   「え?」
(´・ω・`)  「そのデータをたたき出したクルーは僕だ。クーに戦車学校から引き抜かれて、
        テストクルーをやったのは、この僕だ」



  
18: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:39:27.28 ID:lvev7LLg0
  
(´・ω・`)  「だからモララー生徒…」
(;; ・∀・) 「!!」

ヤバイ、ショボン分隊士の声色が変わった。やな予感がする。
嫌な思い出が頭の中を駆け巡る。そうだよ、なんと言ってもこの人は元戦車学校の教官だったんだ。それもー

川 ゚ー゚)『クー分隊、作業完了しました!』
(´・ω・`)『よくやった!お前は最高のクソ虫だ!』

ーあのクー分隊付きの教官だったんだ。

(#´・ω・`) 「ぐだぐだ言わんとやって見せろ!腐れマラが!!
        口から先に生まれてきたお嬢様かお前は!?
        それともタンキストかお前は!!」

(;; ・∀・) 「さ…サー!自分はタンキストであります!サー!」
(#´・ω・`) 「よぉし、じゃあやってみろ!」
(;; ・∀・) 「も、モララー生徒了解しました!」

ヤバイ、スイッチが入っちまった。こうなったショボン分隊士…いや、教官はとめられない。俺は
あわてて脚部のモニタリングを開始する。後部座席では無線に届いたすさまじい罵声に無線手が目を回していた。
(  ・∀・) 「し、白2、いきます!準備よろし!」

ーその時
从 ー从 「…白3 やってみます」

落ち着いたワタナベの声が無線に乗ってきた。



  
20: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:59:01.15 ID:lvev7LLg0
  
(;´・ω・`) 「なー」
从 ー从 「私の車両は特に被害がありませんし、何より先頭です…それに」
( ^ω^) 「……」
从'ー'从 「今勇気を出さないと、二度と私はVーIーPに乗れなくなる気がします」

声はかすかに震えていた。だが恐怖ではない。それはなにか壁を乗り越えようとする、
強い少女の精一杯の気持ちがあった。

( ^ω^) 「…いいか。躊躇するなお。ミサイルの回避機動訓練。あの横の動きが縦になった気持ちでやってみるんだお」
(;´・ω・`)「小隊長!」
しかしブーンはショボンをさえぎる。
( ^ω^) 「どの道ワタナベが通れなければ南にいって損害をこうむるのも同じだお! 
       白小隊は無駄な犠牲を許可しないおッ!ワタナベ!やってみせるお!」

从'ー'从 「はい!」

ワタナベの車体が動き出す。ゆっくりと。そしてじわじわとその蟲を思わせる脚が獲物を見つけたかのように
歩を速める。目指す先には鉄骨が横臥していた。
从 ー从「バランサー…マニュアルよし…。脚部同調装置…マニュアルよし」
まだだ。もっと速く。もっと速く。
ヘルメットのバイザーをおろした ワタナベの表情は伺えない。だが僅かに除く小さい唇が、
きゅ、とすぼまっていた。

从 ー从「速度同調よし…重心よし…」
VーIーPの胴体部が地面すれすれまで下がる。獲物は見つけた。あとは飛び掛るだけだ。
 まるで生物のように車体が躍動する。脚が地面を蹴る轟音が山間に響く。

鉄骨まで50メートル…30メートル…10メートル…

( ゜ω゜)(;´・ω・`)( ・∀・)『今だ!!』 从'ー' 从



  
21: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:12:31.42 ID:FuKpD9L90
  
跳んだ。戦車が跳んだ。敵からは羅刹のごとく恐れられ、
味方においては後光差す慈愛あふるる存在である戦車が。

それは馬鹿馬鹿しいと同時に、崇高な光景に思えた。
 立ち上る黒煙をスクリーンに、VーIーPはその躍動を焼き付けたのだ。

!ガシュゥー…ン 

着地する。荷重により脚がこれでもかというぐらいに沈みこむ。
 だが何事もなかったように脚部は元の蜘蛛を思わせるしなやかさを戻していった。
 そして沈黙。 まるでこのまま世界の終わりが来るような。そんなすっぽりとした沈黙だった。

从 ー从「…長」

ー世界の終わりは来ない。

从;ー;从「ブーン小隊長!できました!脚部に若干の損傷ありますが、できました!」

歓声が上がる。もう誰が誰の声だかわからない。そんな歓声だった。
しかしこうもしてはいられない。世界の終わりは来ないし、時間は有限だ。

( ^ω^) 「今やった通りに白1、白2も続く!急ぐお!時間が無いお!!」

(´・ω・`)( ・∀・)『了解!』


初秋の昼下がり。戦車が飛ぶにはいい陽気かもしれないー。



  
24: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:24:30.26 ID:FuKpD9L90
  

 ばかばかしくも神々しい様を見ていたのはブーンたちだけではなかった。
この男達も同様に、それを目に焼き付ける僥倖に恵まれた。

補給隊の隊長は、ブーンたちが去っていった方向を呆然と見つめている。
 そしてそんな彼に背中越しに声をかけるもの。彼の部下たちだ。
(部下)「隊長…」
(   )「お前たち、泳ぎは好きか?」
ブーンたちが撤退した方向ー東ーに背を向けたまま、隊長は話す。秋の日はつるべ落としだ。
昼下がりといってももう黄色くなった陽光を背中に浴び、彼の表情は読み取れない。

(部下)「……自分たちは」
(   )「いいよ、お前らはよくやった。降伏しろ。
     俺は何とかして帰ってみせる。あんなもの見せつけられちゃな…」

そういって彼は振り返る。そして違和感。おかしい、さっきまで白旗を作るのに一生懸命だったこいつらが、
下着一枚になっている。浅黒く日焼けした肌がきらきらと輝いていた。

(部下)「何してるんですか隊長。とっとと服を脱いでください。
      まず自分が渡ってロープを渡しますから、後に続いてください。なあみんな!」
(部下一同)「応!」

 一同にこぶしを天に突き上げたかと思うと、その1人が勢いよく川に飛び込んだ。
 水面が大きくしぶきを上げる。濁流に尾を引き、彼は泳ぐ。 
(   )「…あんまり泣かせるなよ、お前たち」

隊長の頬に一筋の光。きっと気まぐれな秋の日差しだ。そうに決まっている。
向こう岸までピンと張られたロープを見て、彼は自分のそう言い聞かせた。

ーもうひとつの生き残りが始まった。



  
26: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:36:46.02 ID:FuKpD9L90
  
 ー1605時
404盆地。ブーンが所属する西部方面特殊車両研究教導団の駐屯地がおかれている。

西部方面特殊車両研究教導団。こんな長い名称は文章以外では誰も使わない。
みなが尊敬と畏怖とこめ、この隊をこう呼ぶ。『クー戦闘団』と。

運用できる兵力は機甲中隊に毛の生えたようなものだったが、
輸送用の滑走路や駐屯地防衛用の対空機銃などが十分な数とはいえないが敷設、配置されていた。

それはまさにクーの城だった。美しき戦姫。

その実力と権力を示すかのように、この駐屯地は404盆地に居を構えていた。

( ´ω`) 「やっと到着したお…」
(; ・∀・)「ヤマタノワロチからのアラートがさっきから鳴り止みませんよ」
从;ー;从「よかった…よかった…」

駐屯地の門まで来たところで、ブーンたちは一斉に安堵の声を漏らした。
よかった。生きて帰れた。だがブーンたちに安息は訪れないのだ

『白1ぃぃぃぃィィwwwwww邪魔だぁぁぁぁ!wwwww戸口でボーっとつったってんのは
門付け欲しがる乞食(ほいと)だけだぜぇぇぇぇ!!!wwwww』

(; ゜ω゜)「つぉぉ!」

突如最大出力で入ってきた無線に驚き、慌ててv―i―pを飛びのかせる。
次の瞬間、五台のタンク・トランスポーターがものすごい勢いで過ぎ去っていく。

『みwwwwなぎってwwwきたぜぇぇぇwwwwwヒャッホォーーーーイ!!!!wwwwww』



  
27: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:47:05.84 ID:FuKpD9L90
  
訳の分からない喚声を残して、無線は途絶える。
残ったのは呆然とするブーンたちともうもうと立ちこめる砂煙。

状況を飲み込めないでいると、車外カメラに1人の男が映る。
右手にはスパナが握られている。彼はカメラを覗き込むように顔を近づけると、v-i-pの外郭をスパナで叩こうと…

( ^ω^)「ジョルジュ!!」
( ゚∀゚)「おお!ブーン!生きてたか!反応ないから死んだと思ったぞ!」
(# ^ω^)「多積層装甲をスパナで叩くなと何度言ったらわかるお!」
( ゚∀゚)「まだ叩いてないじゃん!」
(# ^ω^)「叩くつもりだったろお!」

思わず熱くなっていたことに気づく。なぜかって?背中からあの視線が降り注いだからだ。

(´・ω・`)「…」

(; ^ω^)「あー…じ、ジョルジュは無事だったかお!」
( ゚∀゚)  「おっぱいの命令でな、当初基地守備の対空警戒に充てられてたが、出撃だってんで今の今まで整備に回ってた!」

気を取り直して尋ねてみれば、いきなり帰ってきたフレーズはこれだ。おっぱいー。
これは彼ージョルジュ長岡1等軍曹ーの人生そのものだ。



  
28: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 01:03:06.27 ID:FuKpD9L90
  
『神ははじめにおっぱいを作られた。おっぱいは神なりき』

気は進まなかったが、隊長が率先してサボるわけにもいかずしぶしぶ参加した日曜日のミサ。
ブーンが眠気まなこをこする中、そこに彼はいた。
…従軍牧師のミサの席で彼は腕を振り上げこの持論を展開し、営倉送りとなった。
その光景をブーンは苦笑しつつ見ていたときに、ついて目があってしまったのだった。 
( ゚∀゚)『おい、お前!お前おっぱいに興味があるんだろ!なあ!』
(MP) 『貴様!上官に向かってお前とはなんだ!申し訳ありません内藤少尉!すぐにこいつをー!』
( ゚∀゚) 『おっぱいの前では全てが等しい!不平均な一切合切はおっぱいのもと灰燼に帰すべきだ!!いいか!これは真理だ!』
(; ^ω^)「……」

なにかシンクロを感じるものがあったのか、それともただの好奇心か。
いつの間にかブーンは差し入れを持って営倉の前に立っていた。そこで意外な人物と会った。

川 ゚ー゚)「やあ、こんなところで会うとは奇遇だな」
( ^ω^)「団長…」

川 ゚ー゚)「あいつも面白いな。私のことを神だといった」
( ^ω^)「判る気がしますお…」
団長の顔を見て喋ってるつもりだが、思わずその胸のふくらみに目がいってしまう。
軍制式支給の下着に合うサイズはあるのだろうか? すらりと伸びた背に不釣合いなほど
大きいシルエットが胸にふたつ。

川 ゚ー゚)「やはりスカウトは成功だったようだな。素行不良で干されていたのだが」
(; ^ω^)「それも判る気がしますお…」
そういうとクーはきびすを返した。司令部に戻るのだろうか。後姿だって抜群に美しい。
川 ゚ー゚)「内藤」
( ^ω^)「ジョルジュのことですか?」
思い出したように振り返り、クーが問う。内藤もこの隊長に対してどう答えるべきか。
それは重々承知していた。



  
29: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 01:09:02.72 ID:FuKpD9L90
  
川 ゚ー゚)「そうだ。奴と仲良くしてやってくれ。あれであいつはいい整備兵だ。何も見ていないようで、
     隊全体のことを見渡している。ベテランだよ。いろいろな兵科を経験してるようだしな」

そして再びヒールを鳴らし、クーは帰っていってしまった。内藤も手に握られてる「差し入れ」
の存在を思い出し、ジョルジュの営倉を覗き込む。

( ゚∀゚)『お前、おっぱいは好きか?』

これがジョルジュとの出会いだったお。



(; ^ω^)「今の無線は?」
( ゚∀゚)「ああ、内藤少尉の運転するトランポか。ありゃ前に立つほうが悪い」

クー戦闘団に「内藤」という苗字の将校は二人いる。1人はv―i―pのクルー、内藤ホライゾン。ブーンだ。
もう1人はそのv―i―pを後方や前線へ移送するための大型車両、タンク・トランスポーターの輸送小隊長の内藤少尉だ。
普段はおどおどしていておとなしいのだが、ハンドルを握る時、彼は「勇者」「ナイト」と呼ばれ恐れられている。
味方である戦車搭乗員と部下の両方から。

( ゚∀゚) 「ブーンの隊は無事だったか!」
( ´ω`)「無線手が一人戦死したお…」
(; ゚∀゚)「ショボンか!?」
( ^ω^)「いや…ちがうお…けど…」
( ゚∀゚)「ともかくお前が無事でよかった!ああ、そうだ!おっぱいがない方の偉そうなやつが呼んでたぞ!急いで」



  
35: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:08:04.07 ID:FuKpD9L90
  
司令部に出頭しろ、だそうだ!急げ急げ!
あ、そうだ。また『差し入れ』が入ったんだ!ラウンジものだぜ!
すげーでかいんだ!神を見たぞ!じゃあな!」

(; ^ω^)「アウアウ」

相変わらずこの男は。上官に対する口の利き方という物をまったく知らない。
嵐のように去っていった男に対し、半ば諦めを覚えながら、ブーンは司令部に出頭した。

司令部。ここは作戦の心臓部であり、オペレーターが常にモニタとにらめっこしている。また
常に小隊長や特務曹長が何人もつめており、鉄火場のような様相を呈している…はずだった
 だがそこにいるのは数人の通信士と、巻き髪の女性ーいや、少女といってもいいほど
幼さをその容姿に残した士官が1人。我々を呼びつけた鬼のような中佐は影も形もなかった。

ξ゚听)ξ「よく帰還しました。内藤ホライゾン少尉」

ツン。ツン少尉。例に漏れずクーがスカウトしてきた副官だ。現場一筋のモララーや
学生くずれのブーンと違い、クーと同じく陸軍士官学校の出身だ。なんでも在学中から
陸軍の研究機関に籍を置いていたほどの才媛だとか。無論クーの食指が動かないはずは無い。

既に在学中からそのオルグは始まっており、
士官学校、そして幹部候補生課程を終えたばかりの20歳の若々しいこのツン少尉は、
すでに上司となるべき人間を見定めていた。確かに階級は内藤たちと同じ少尉だ。
 
 だが彼女は2年もすれば大尉への道が開けるだろう。そういうこともあって、団の隊員たちは、
このクーほどには危うさを感じさせないが、ほどほどに美しい女に一歩距離をとって接していた。



  
37: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:24:15.29 ID:FuKpD9L90
  
ξ゚听)ξ「まずは報告を伺いましょう」
( ^ω^)「カクカクシコシコ」
ξ゚听)ξ「おk 把握」

やはり才女だ。一言で全てを把握してしまう。巻き毛がかった金髪は、彼女の知性の顕れと思えた。

ξ゚听)ξ「白3の無線手のことは残念でしたが、死亡報告書は後で書いてもらいます。
       ともかくは補給と修理を受け、仮眠をとってください。2時間後、ここでブリーフィングを行います」

ツンは一息で言ったあと、手にした電子バインダーを閉じようとする。あわててブーンはそれを制し、問いかける
(; ^ω^)「待ってくれお」
ξ゚听)ξ「何か?」

再びバインダーが開かれる。開閉機構が一種のスイッチになってるのか、一瞬で液晶モニタにびっしりと
文字が浮かぶ。それは彼女の情報の海だ。ブーンが一生かかってもたどり着けない、彼女専用の海なのだ。

(; ^ω^)「まだ聞いて無いお。一体、国境地帯で何があったんだお?いつもの小競り合いじゃないのかお?」
ξ゚听)ξ「……戦争です」

彼女は一瞬目を伏せた。その鋭い眼光をいささかも衰えさせぬままに。そしてそのままブーンを見据えた。

(; ^ω^)「お?」

ツンの視線に対して返すは間の抜けた声。
口が『金魚』をし始めた。この状態のとき、この男はまさに間抜けだ。
ツンはそれを見越して、一気呵成に喋る。



  
38: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:36:09.52 ID:FuKpD9L90
  
ξ゚听)ξ「ニーソク人民共和国は、先ほど最高意思決定会議において兼ねてよりの領土紛争を解決する手段として
      人民共和国軍をVIP領内に侵攻させる決定が下されました。以上の報告は衛星回線において世界各国に
      通達され、ラウンジ連邦・VIP首都ジップ=テークレーにもすでに到達しました。
        国家非常事態宣言が宣言され、わがVIP共和国も戦時体制に移行しました。
     
        先ほど内藤少尉もごらんになられたでしょうが、わが隊も宣言に基づき部隊を出撃させました。
      クー中佐ご自身も戦闘指揮官として出撃されました。だから私が代理で職務を執り行っています。

       侵攻兵力は情報が錯綜している現状ではまったく不明瞭ですが、かなりの大軍であることは間違いありません。
      苦戦は必至でしょう。    
        現在共和国首相はラウンジ連邦に赴き、首脳会談を行う予定ですが、ラウンジがどう出るかは
      まったく読めません。かねてからの国境問題というのは建前で、ニーソクはラウンジ本土への制海・制空権
      の戦力的獲得を…
                      
                                                         …内藤少尉聞いてます?」

(; ゜ω゜)「お…お…戦争…ニーソクと…ドクオ…」
     
     ふら、ふら、ふらり。
     ーどさっ。
      
Σξ;゚听)ξ「内藤少尉!!」
     バインダーを放り出して美しい少女は、倒れたあまりーいや、とても美しくない青年に駆け寄る。
     ーショック状態?パニック症状?
     怜悧な少女の頭脳には、士官学校で習った戦闘症候群の病名がいくつも駆け回る。
     その細腕で青年を仰向けにし、脈を図ろうとする。しかしー



  
39: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:40:28.88 ID:FuKpD9L90
  
( -ω-)「zZZ…」
ξ*゚ー゚)ξ「……」

やれやれ。手間が省けた。怜悧な巻き髪の少女の頭脳は、時としてそんな俗っぽいことにも漏れなく働いていた。
ともかくひとまずは休ませておこう。この眠くなりそうないい天気に襲い掛かった4時間あまりの悪夢。

こんなことなどまだ地獄の序章に過ぎないのだ。ブーンにブランケットをかけながら、
少女は強く確信していた。



                                     第3話 終



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