( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
6 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:21:30.16 ID:H92Ul2gX0
  

ザ・・・ザ…ザザ…
『本日未明、首都ジップ=デークレーにおいて移民排斥のデモが勃発し…
 …現場のショウジさん、中継をお願いしま…』

『ドクオ…ドクオ?』
『…学食でテレビなんか見て。何してるお。式始まるお?』
『あ…ああ、先輩。今行きます』
『先輩…』
『?』
『式が終ったら、河川敷で待っていてください。お話があります』

第四話「NEWS FROM FRONT」



  
7 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:23:43.84 ID:H92Ul2gX0
  

2025年 2月 1日 1700時


( ´ω`)「……」

VIP国立大学に程近い河川敷。ここに思いつめた表情をした青年、
内藤ホライゾンは独りたたずんでいた。脇に紙袋を抱え、
川の水面に映る夕日のようにオレンジが、その赤い体を覗かせていた。
 彼がここに立っている理由。それは一時間ほどさかのぼる。






  
9 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:28:23.06 ID:H92Ul2gX0
  

     @@@
    @ _、_ @
     (  ノ`) ウフフフ  
     ノ ^ ヽ   / )
    ( (   \/ /
    /ヽ   |\丿
   / / |   ゝ
   ( /  l  ヾ\
       i ヽ\  ゝ
     |     \ ゝ
     レ'⌒`-'\ \
      | |    ヽ )
      | |
      /  )          
      ( /

 (  ノ`)「あらブーンちゃん!今日卒業式だったんでしょ?晴れてV国大の学士様だ!
      どうするんだい?お役所かい?それとも技師様?先生なんてのもいいね!」
(; ^ω^)「多分兵役ですお…ブーンには無理ですお」

つかまってしまった。このおばさんは大家だ。背の低い体躯を覆うような大きいエプロン
(と声)を常に身に着けていて、雑貨店も経営する近所の名物おばさんであった。

ブーンはその雑貨店の二階に下宿していた。一階のおばさんはこのコンビニ、
大型量販店全盛の時代に珍しいぐらいの古いタイプの人で、カラフルに陳列された
缶詰に囲まれながら、下宿を貸す学生の世話を見ることが楽しみといったようなひとだった。



  
10 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:32:14.99 ID:H92Ul2gX0
  

 Vip国立大学は、まさに卒業式が終わったばかりだった。

さまざまな歌声、嗚咽の交じり合う中、いっせいに学帽
(普段はかぶらないので、わざわざこの日のために買うのだ)を天に向かって放り投げる。

そのさまは一種の名物で、テレビ局も取材に来る恒例事業だった。

しかしブーンはそれにも加わらず、アニージャ教授のゼミの卒業パーティーにも
足を向けなかった。ただドクオの「夕方、河原で話をしたい」という伝言だけが気になっていた。

そんな精神状態の彼にとって、彼女の舌は凶器と化す。

(  ノ`)「あ、そうか!サッカー選手か!軍隊のサッカーは強いからね!
     うちの下宿からサッカー選手が出るのかえ! こりゃいいわ!」

もうすでに自分の希望になってる。確かにろくなナショナル・リーグもない共和国では
軍隊もひとつの選択肢だ。というより軍隊か他国に行くしか、続けられる道はあまりない。
何しろ社会人リーグで続けるのは、軍隊のサッカーをドロップアウトした人間なんだから。

(  ノ`)「またまた!ほら、卒業祝いだ!持ってきな持ってきな!」

お茶を濁すブーンに、おばさんはエプロンのポケットからどうやって入っていたか
分からないぐらいの缶詰をブーンに渡す。
荷物になるから、もう僕は引っ越すのに。彼女にそんな理屈は通用しない。
両手いっぱいになったところでお礼もそこそこにブーンは階段へと向かってしまった。



  
11 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:35:13.77 ID:H92Ul2gX0
  

(  ノ`) 「あ、ブーンちゃん、まだあるのよ!上にね…!」
(;゜ω゜)「失礼しますお!」

やれやれ。あれを相手にしていたら二階に運ぶのにフォークリフトが必要になってしまう。
わずかに表情の明るくなったブーンだったが、自室の前に立ち、
郵便受けに入っていた封筒を見ると、再びそれは曇った。

( ´ω`)「……軍隊行きかお」

『○○地方 公務員採用試験 合否のお知らせ』
ー封筒にはこうあった。

薄い封筒。ダメもとで出した出願だったが、やはりダメだったか。
2留のうえにろくな成績もとってないサッカーバカの世間的な評価などこんなものだ。
半ばあきらめにも似た軽い決意をした後、ドアノブに手を伸ばす。

( ´ω`)「…お?」

鍵が掛かっていない。どうしたことだ。きちんと鍵はかけたはず。
自分はそんなことも忘れるほど出来損ないだったか?どうかしたのかお?
そんな馬鹿げたことを言いながらこの青年はドアを開ける。
覚えがないのに施錠がなされていないのならどうかしているのに決まっている。
強盗、火付け、誘拐。こんな選択肢は一膏たりとも頭に浮かばない平和な青年だった。



  
12 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:39:39.63 ID:H92Ul2gX0
  

(  )「よお、来たな」

強盗、火付け、誘拐魔。中にはそのどれでもないが、もっと考えられる最悪の人物がいた。
( ゜ω゜)「あなたは…」

 
  /  ̄/〃__〃   /  ̄/       /
    ―/  __ _/   ./ ―― / /
    _/   /   /   _/    _/ /_/
    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
  . |(●),   、(●)、.:| +
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|    
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +
   \  `ニニ´  .:::::/     +
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||



  
14 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:44:02.38 ID:H92Ul2gX0
  

(●),   、(●「ずいぶんとキャンパスライフを堪能したようじゃないか。他人様より長く」

ブーンの部屋は西向きだ。家賃も安い。射し込まれる西陽。
これを背景に「人物」はしゃべり始める。その表情は読み取れない。

(  ω)    「…何しに来ましたかお。あなたと話すことなんてありませんお」
(●),   、(●「随分じゃないか。父との対面だろ?学費を出したのは俺なのに」
( ゜ω゜)「   大学なんて行きたくなかったお!ブーンは…ブーンはただ…」
 
顔色を変えてまくし立てるブーンだったが、それをまったく意に介さず彼は続ける。
彼は自分の世界に入り込んでしまっているようだった。それを証佐するように、
わずかに見える彼の目は虚空を見つめている。

(●),   、(●「昨日見たドラマの話なんだが…見てるか?
          月9って名前の奴?あの家族愛のテーマの奴。
           …どうして親ってのは子供を愛さないといけないんだろうな?
          
         その点で俺は異常なのかな?いいや俺はイカれちゃいないと思うよ。
         もし母性・父性ってものが遺伝的な本能として存在するならば、
         俺みたいな存在を種が許すわけは無い」
( ゜ω゜)   「何の話だお!」

(●),   、(●「何度も言ったとおり、俺は子供なんてほしくなかった。
          ただ、上に昇り詰めるには妻と子供。
          健全な家庭というものが必要だったんだよ。役所というところではな」



  
15 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:48:01.75 ID:H92Ul2gX0
  

(# ω)「……」!

ーこの男は。恥ずかしげもなく絶対口にしてはいけないことを平然と言う。
ブーンの顔は瞬時に紅潮し、今にもくってかかりそうな勢いになる。
しかしその怒気をいなし、彼は一枚の封筒を取り出す。
分厚い。どちらかというと小包と呼べる厚さだった。

(●),   、(●「ほら」
(  ω)「……?」

(●),   、(●「合格おめでとう、だ。『内藤君』。三月から君は幹部候補生学校に入り、
          半年間の課程の後、君は少尉として任官する。共和国のために尽くせよ。
          それじゃ失礼する。 おい」

彼が合図をすると、黒服に身を包んだ男が、1人、2人。
ひとりは押入れの中から。もうひとりはベランダの洗濯機の中から出てきた。

(; ゜ω゜)「……」

なんだって?合格?地方公務員でにすら落ちるのに、僕の身長ぐらいあるような
倍率の幹部候補生試験に合格?それになんだ。今の男。いったいどこから出てきたんだ。
何が起こったかわからぬまま目をぱちくりさせていると、男は身を翻してドアに向かう。

(●),   、(●「これでも多忙な身でな。常に何があるか分からんから
          こうやって張り付けている。ああ、そうそう。この茶、貰ってくぞ。じゃあな」



  
16 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:53:45.83 ID:H92Ul2gX0
  

冷蔵庫から一本のペットボトルをひったくると、無造作に硬貨を数枚投げ渡す。
そうしたかと思うととっとと出て行ってしまった。

( ゜ω゜)「これじゃ足り…ないお!」

 ブーンに出来たことと言えば、どうにかしてとんちんかんな声を振り絞ることだけだった。
月9は枠の名前であって、ドラマの名前じゃない。何故だかそんなことが想起された。
 そして再びがらんとする部屋。ぎらぎらとてりつけいた西陽は、ずいぶんと脚を伸ばした。

( ´ω`)「やっぱブーンはダメなやつなのかお…」

そう悲観的になっても時は過ぎる。時計を確認するともう五時前だ。
ドクオとの約束が迫っている。あわててコートを引ったくり、階段を下りる。

(  ノ`)「あらブーンちゃん!お出かけ?お父様に会えた?
     そうそう、さっき忘れててね、いいオレンジとお酒も入ったの!持ってきな!」

(; ^ω^)「ーいえ、これからドクオに会いに行くんですお、だから荷物に…」

またおばさんに捕まってしまう。下宿には何度もドクオをつれてきている。もちろん他のサッカー部の同期も。

(  ノ`)「あらあらまあまあ! じゃあドクちゃんの分もだ!ホントこの子はおねだりが巧いんだから!」

 ―またも大荷物。…どうやら裏目に出てしまったようだ。



  
18 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 00:58:00.92 ID:H92Ul2gX0
  




場面は再び河川敷。
( ´ω`)「ブーンはダメなやつなのかお…」

思い出したように呟く。壊れた鳩時計のように、不定期に、何度も。
土手では長い冬で色を失いきった芝が、吹きすさぶ風に揺れていた。
思い出しついでにブーンはもうひとつ思い出す。

『よいサッカー選手の条件?そうだな、普通のサッカー選手がすばらしいプレーをする。
それはグッドだ。しかし世界にはベターがあり、ベストがある。

ためしにオレンジを使ってリフティングしてごらん。
オレンジがあなたの足を嫌うようでは、あなたはベターには進めない』

どこかの有名なサッカー選手がそういっていた。ー丁度いい。ブーンはオレンジを抱えている。
紙袋を置き、何気なくオレンジを取り出し、しげしげと見つめる。

そしておもむろに放り投げ、足で一回…二回…三回…   
そこでオレンジは内藤の足から離れ、土手を転がり落ちる。
オレンジの鮮やかに色づく表皮に泥がつく。

やはり自分はダメな人間だったか。

自嘲気味にブーンはせせら笑う。
その、くっく。と肩でで自分を笑う彼に突然声をかけるものがあった。



  
19 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:01:08.59 ID:H92Ul2gX0
  

( ´_ゝ`)「分かったか?自分がどれだけ皆に助けられていたか」
(; ^ω^)「…教授? 奇遇ですお、これからドクオと会う予定だったんですお」

意外な人物だった。アニージャ教授。今頃ゼミのパーティーに出てるはずではなかったのか。

( ´_ゝ`)「知ってるよ。だから俺が来た」
(; ^ω^)「どういうことですかお?」

( ´_ゝ`)「こいつだ」

そういうと背広の内ポケットから一枚のルーズリーフを取り出し、ブーンに手渡す。
教授は顔色を変えず、目で促した。「読め」と。



  
20 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:03:29.61 ID:H92Ul2gX0
  

(ドクオの手紙)

「前略 
                                    ブーン先輩

覚えてらっしゃいますでしょうか。はじめて先輩と会ったときを。

キャンパスって空間は広そうで狭い。けどやっぱり広いもので、
気に入らないやつを人目につかないところで痛めつけるような場所は
往々にしてあるもんです。

その日も今日みたいにテレビでニュースが踊ってました。なんだったかな。
今でも結構覚えてますよ。

『近衛師団の戦車部隊、移民排斥のデモ隊鎮圧に出動。
けが人多数。戦車部隊1人死亡』だったかな。

けが人の具体的な数までは覚えちゃいない。

俺は学食で1人モニタに流れるそのニュースを見ていた。
馬鹿みたいにカレーをつつきながらね。そうやってカレーつついてたら、
俺の肩を誰かがつついた。

何気なしに振り向いたら、マッチョな三人組の連中がいて、
いきなり胸倉をつかまれてこう言われたっけ。



  
22 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:05:21.45 ID:H92Ul2gX0
  

『顔貸してくれや。ニーソク野郎』
 …『カレーなんかよりもよ、いいことしようぜ』

だったけな?まあいいや。 で、俺は例の「人目につかない場所」に連れてかれた。
俺にできたことは、殴られてる間ひたすらファックサインを出し続けることだけでした。

ラウンジとの問題である移民排斥と、国境紛争が問題であるニーソク人の
俺との区別もつかない連中だ。きっと言葉は通じないだろうと思った。

…だからひたすらに睨み付けて、中指を立てていた。
 
 気づいたら内藤先輩がいたっけ。俺に肩を貸してくれて、
手当てまでしてくれた。その部屋がサッカー部室だった。

―あとで考えてみたら、先輩は俺の二倍ぐらい顔面を腫らせてましたね。

「足の速さはケンカにはあんまり関係ないみたいだお…」

そうやって苦笑いを浮かべた先輩を、俺は忘れられません。

「ああいう真似をするやつらはゆるせないお。ボコボコにしてやるお」

ボコボコなのはあんたじゃないか。俺はVIPに来て、初めて声を上げて笑いました。
ー初対面の人間を笑わせてくれるやつに悪いやつはいない。ニーソクのことわざです。 

俺はその俚諺を、あの時確信するに至りました



  
23 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:09:17.39 ID:H92Ul2gX0
  

俺をサッカー部

(言っちゃ悪いですがVIPのサッカーはあまりほめられたレベルでは
ありませんでしたね。いい選手はラウンジやニーソクのリーグに、
頭を下げて入れてもらうのが常でしたしね。ですから比較的リベラルだったんでしょうけど
*申し訳なさそうにこの部分は小さく青インクで書いてある*)

に入れてくれて、四年間鍛え上げてくれました。久しぶりのサッカーでしたが、
先輩のおかげでいろいろとサッカーの楽しさも垣間見ました。

ゼミも紹介してくれて友人もできました。その点で俺は先輩に感謝してもしきれません。

 …でも俺は内藤先輩にはなれない。帰るべき国も違うし、するべきことも違う。

今日のニュースを見ましたか?どうやらいよいよ危なくなりそうです。

「またいつもと同じで、一通り暴れたら収まるだろう」
「ニーソクはラウンジが怖いから手なんか出せやしないさ」

―恐ろしいことにそんな言説が世間にあふれ出してます。

『楽観主義がはびこる時。人は知らず知らずのうちに攻撃的になっている。
とくに自分のよく知らない他者に対しては』

ーアニージャ教授は常日頃からそう繰り返していました。…今まさにそれを実感しています。



  
24 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:11:27.37 ID:H92Ul2gX0
  

 そろそろ潮時です。自分の身も危うい。。

別れはつらい。だから手紙だけにします。

アニージャ教授はいい人です。先輩と同じぐらいに。
だから頼んでみることにします。きちんと受け取れましたか?

これを読んでるということは受け取れてるということでしょうけど。 …バカだな。俺って。

もう飛行機の時間が近いです。
荷物はけして多くはないけれど、思い出は重過ぎます。

 そういったわけでここらでペンを置きます。


追伸。

今度手紙を送れるときは、おそらく検閲を受けているでしょう。
国境。人種。サッカーの上手い下手。
先輩と、何のしがらみもなくボールを蹴れる日、そんな日が来ればいいなと祈りつつ。
                                           
                                                ドクオ



  
26 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:18:10.90 ID:H92Ul2gX0
  

( ;ω;)「おん…」
( ´_ゝ`)「泣くなよ」

手紙から顔を上げると、アニージャ教授は紫煙をくゆらせていた。
冬の芝、インク。いろいろな香りと混ざり合い、えもいわれぬ刺激が鼻をつく。

( ´_ゝ`)「お前はドクオのためにも泣くべきじゃない。いまお前がするべきこと。
       それは他にあるはずだ」

タバコを持ったまま、教授は器用にブーンを指差す。

( ´_ゝ`)「…だろ?内藤少尉」

( ゜ω゜)「!?」

何故だ。何故僕が合格したことを知っているのか。僕の、
丸くぽっかり空いた口を塞ぐみたいに教授は話す。

( ´_ゝ`)「俺もな、伊達に長生きしてるわけじゃない。
      しがらみもあればそのぶんコネもある
      …お前の親父さんとは詳しくはいえないがな、古い付き合いだ。
      お前の合格は決まっていた」
( ゜ω゜)「そんな、父と教授が…」

出来レースだったのか。最初から僕の合格は決まっていた。
だから教授は僕に願書を出させたのか?そんな疑問が頭の中でぐるぐる回るが、
教授は紫煙を一息ふう、と吐き出すと、続ける。ブーンの目をまっすぐと見据えながら。



  
27 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:29:30.55 ID:H92Ul2gX0
  

( ´_ゝ`)「だけどな、お前は行くべきだ。誰も彼もが自分で道を切り開けるわけじゃない。
      自分で切り開いたと思っていても、それは誰かがすでに通った道だったり、
      周りの人間が露払いしてくれた結果だったり。…お前はサッカーで何を学んだ?」

(  ω)「…ブーンがゴールできたのは…ドクオや、他のチームメイトのパスがあったからですお」

( ´_ゝ`)「そうだ。何ができるか、何をすべきか。そんなものすべて分かって
      生きてるやつなんていない。いたって気持ち悪いだけだ。そういうやつらは危ういんだ。
       …その牙城が崩れたとき、そいつは生きていけなくなる」

(  ω )「父のことを言ってるんですかお…?」
( ´_ゝ`)「…」

2人の間を支配するのは沈黙。ただ紫煙だけが風に揺れ、雄弁に語っていた。
 教授は煙草をシガレットケースで器用にもみ消す。灰皿は持っていないようだった。
ブーンに寄って行くと、袋のオレンジを1つ手に取った。

( ´_ゝ`)「ひとつ貰ってくぞ。…泥のついてないほうをな」

2人して土手の下を見る。もう陽が当たらず大分暗くなったそこには、泥にまみれた
オレンジが1つ。

( ´_ゝ`)「ブーン」

土手の頂に立ち、教え子の名前を呼ぶ。その教え子は今にも泣き崩れそうに
眉間がしわくちゃになっている。やれやれ。世話の焼ける奴だ。教授の口元が僅かにゆがむ。
 
ここから先は恩師とししてやれる範囲を越えている。だから、少しでもこの落ちこぼれが
迷わないように、精一杯笑いかけてやる。



  
29 :1(支援感謝です) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:36:53.57 ID:H92Ul2gX0
  

(´,_ゝ`)「次帰ってきたときは、俺の研究室にこい。とびきりの酒を用意して待っている。
     …だからお前も、とびきり笑って帰ってこい」
( ;ω;)「はいだお…!教授…!」

そういうと教授は夕日の中に消えていった。舞台は俺達が作った。
その舞台でブーン、お前はどんなふうに踊る?

涙で塗れたブーンの目に映るのは、遠い友人の背中と泥まみれの
オレンジだけであった。



『ー少尉』
( ;ω;)「?ブーンはブーンだお…」

涙が止まらないんだ。ほっといてくれ

『何言ってるんですか内藤少尉。出撃ですよ』
( ;ω;)「…」

聞き覚えのある声。おかしいな。僕はさっきまで河原にいて、教授の背中をー

ξ#゚听)ξ『少尉!』
(ili゜ω゜)「ぶおおっ!?」



  
30 :1(ノシ) ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:47:28.01 ID:H92Ul2gX0
  

2026年9月21日ー1805時

体をゆすられる。目を開くと、顔を覗き込む巻き毛の少女。
また夢を見ていたか。あの悲しい記憶の。ブーンの複雑な表情を読み取ったか、
それともただの寝不足のむくみ面が余りにおかしかったか。少女は声をかける。

ξ゚听)ξ「少尉…」
( -ω-)「お?」
ξ゚听)ξ「目やにです」

あわてて顔をこする。目の辺りがガビガビになっている。参った。
まずいところを見られたか。慌てて顔に手を当てる。そうしていると
ツンは顔を柔和にさせて、優しい声で。

ξ゚ー゚)ξ 「…夢、見てましたか?」
( ^ω^) 「…夢じゃないお」

そうだ。夢じゃない。
こんな悲しいできごとを、夢にさせてなるものか。
ぽりぽりと爪を立て、目やにをこそぐ。

ξ゚听)ξ「そうですか。ではこちらがブリーフィングと命令書の入ったディスクです。
       v−i−pはすでに装備の換装が済んでいます。 

       車両の中で確認してください。詳しく説明したいですが、時間がありません。
       五分以内に搭乗を完了させてください」



  
32 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:51:40.30 ID:H92Ul2gX0
  

( ^ω^)「了解したお」

そういうと彼女はすう、と深呼吸し、その小さい胸をいっぱいに膨らませて一息にいう。

ξ゚听)ξ「命令、西部方面特殊車両研究教導団、第3小隊はあらゆる障害を排除し、
      西部440丘陵地帯の隘路にて現地の歩兵と共同してここを防衛。
        敵攻勢兵力の撃滅を図れ。

      なお別命あるまで無線封止とする。隊内通信は赤外線パルス通信および手信号、口頭で行え!」

( ^ω^)「復唱!西部方面特殊車両研究教導団、第3小隊「白」、は
       あらゆる障害を排除し、西部440丘陵地帯の隘路にて現地の歩兵と共同して
       ここを防衛。敵攻勢兵力の撃滅を図りますお!」

オレンジのように丸い夕陽はまさに地平線の向こうに落ちようとしていた。
すぐに夜のとばりが落ちるだろう。だがこの若い少尉の目に宿る光は、しっかりと未来を見据えていた。



  
33 :1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/16(土) 01:52:58.97 ID:H92Ul2gX0
  

第四話「NEWS FROM FRONT」
                        完

第五話に続く



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