( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
9: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:20:10.60 ID:d2EhhP6h0
  
-2026年9月22日 0400時

国境地帯 ニーソク人民共和国士官用天幕

『これでよし…と』

『―失礼します。同志少尉。中隊より命令です』

『あ…ああ、なんだ』
『440盆地まで前進し、敵の抵抗を排除しつつ
 橋梁を確保しろ、とのことです』
『440盆地…? あっちは近衛機械化師団が向かったんじゃないのか?』
『―壊滅したそうです』
『…近衛師団が?』

『直ちに乗車し、前進しろ、とのことです』
『了解した。やるな。VIPも』

『同志少尉は―…その…』
『なんだ』
『いえ、何でもありません』

『…教授…気づいてくれよ』

『何かおっしゃいました?』
『何でもないよ。行くぞ!』

第六話  『sweet home』



  
10: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:25:14.02 ID:d2EhhP6h0
  
-同日 0700時  404盆地西部方面特殊車両研究教導団
駐屯地基地司令部

川 ゚ー゚)「よくやったなお前たち」
(;´ω`)「…」

帰還したブーンたちではあったが、
みな一様に疲労感をその表情に浮かべていた。
 
昨日からろくに寝ていないうえ、狭い戦車で命のやり取りをしたのだ。
疲れないほうがどうかしている。

 もちろんブーンたちはこのクーという鬼の下で日夜
すさまじい訓練に明け暮れてはいた。
だが昨夜。この若い少尉にはいろいろなことが起こりすぎた。

  クーもそれは見て取れたか、語調は穏やかだ。

川 ゚ー゚)「さすがに疲れたか。そうだろうな。昨日から働き通しだ。
     だがもうちょっと起きててくれ。
     1時間以内に手荷物以外の私物をまとめてトラックに乗せろ」
(;´ω`)「…お? どういうことですかお?」

川 ゚ー゚)「当基地は放棄する」
( ゜ω゜)「!」



  
11: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:30:11.04 ID:d2EhhP6h0
  
川 ゚ー゚)「100キロ後方の駐屯地が『空いた』のでな。
     そこを使わせてもらう。
     本隊は確かに勝ったが、あくまで局地的な戦果に過ぎん。
     南部地域は相当やられているらしい」

空いた… それはつまり、住人が引越ししてしまったということだろう。
 ―そばやタオルの必要ない類の『引越し』を。

(; ^ω^)「そのための撤退ですかお」

川 ゚ー゚)「そうだ。今度は本物の戦争だぞ。内藤ホライゾン少尉」
(; ^ω^)「昨日までのは…」

川 ゚ー゚)「ママゴトだ。まあいい、少尉。荷物を整理したら
     白小隊は12時間の自由行動をとれ」

昨日の連中は相当錬度が高かった。それより精強な連中と
これから戦争しなければならないのか。ブーンの胸中に
もやもやとしたものが充満するが、

なによりもブーンが大嫌いな「片付け」をしなければならない。
彼の表情を曇らせる主たる原因はそれだった。

私物を整理しーどうやら先に大荷物だけは先に行李に
載せていってしまうようだがー日が暮れた頃、
引越しの始まりというわけか。それまでゆっくり休める。

( ^ω^)「有難いですお!しかし中佐、その自由行動というのは…」
 川 ゚ー゚)「もちろんたまっている休暇から引かせてもらう」
(; ^ω^)「アウアウ」



  
12: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:33:29.90 ID:d2EhhP6h0
  
川 ;゚ー゚)「言ってくれるな。私にもどうにもならない課がいくつかある。
      そのうちのひとつが福利厚生課だ」
(; ^ω^)「そんなにすごいんですかお…」

川; ゚ー゚)「すごいぞ。奴らは軍人年金未納の連中を演習場まで
      追いかけていったり、差し押さえに憲兵動員したりする」

( ^ω^)「それは…言葉を失いますお…ところで中佐。
      いくつかということは他にもあるんですか?」
川 ゚ー゚)「…」

中佐の顔色が変わった。ぴし,とこわばり、周りの空気が張り詰める。
ブーンの背筋に冷たいものが走る。

川 ゚ー゚)「いいからとっとと荷物をまとめろ。戦闘詳報と
     死亡報告書も書いておけよ」
(; ^ω^)「は、はいですお!」

追い出されるように司令部を後にしたブーンは、ふと空腹を覚える。
腹に手を当てるとー…これは危険信号だ。まずい。

−何か口にしなければ命が危うい。いいや世界が危機に陥る。

ブーンの自嘲ににた諧謔が腹を駆け巡る。実際今は共和国という
世界の危機ではあるのだが。とにかくブーンは腹が減った。

そういえば昨日の昼から戦闘配食とレーション以外何も食べてない。
パサパサのフレークとまずいレトルト。
 今ブーンに必要なのは湯気立つライスと油のしたたるステーキだった。



  
13: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:38:03.85 ID:d2EhhP6h0
  
気づくと彼は士官用食堂に立っていた。
ドアを開けると、清涼な空気とピカピカに磨かれた床が五感に飛び込んでくる。
雑多な基地の中で数少ないブーンのオアシスのような存在だった。
もっとも、あと半日もすればがらんとしてしまうのだが。
 
 小躍りでカウンターに向かうブーン。そこで見慣れた顔を見つけた

( ^ω^)「お?お前たち、一般食堂はどうしたお?」
从'ー'从「締め出されちゃいましたよ」
( ・∀・)「もうほとんど撤収済みだから、こっち行けって」

階級社会である軍隊には食堂にも厳然たる決まりがある。
ブーンたち士官は普段士官用食堂を使うが、ワタナベたち下士官や兵は
一般の食堂を使う。もちろん兵たちと親睦を深めるため、
あるいは個人的嗜好のため一般用食堂を使う士官もいる。
なにより一般食堂の安くてて油っぽく、腹にたまると評判なメンチカツは
VIP全体の名物だった。

从'ー'从「メニューが豪華なのはいいんですけど…高いんですよね」
( ・∀・)「それちょっとくれよ」
从'ー'从「いやですよー 自分で頼めばよかったじゃないか」
( ・∀・)「なんか今見たらそっちのほうが美味そうだった」



  
14: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:44:10.09 ID:d2EhhP6h0
  
基本的に士官食堂は自弁だ。メニューは豪華だが、
どれもこれもそこそこな値段がする。

ヘタに士官になったばかりにこういう出費や付き合いが増え、
もっと貧乏になった悲惨な曹長も結構な数がいた。

だがそんなことよりブーンには気になることがあった。

( ^ω^)「お前ら仲いいなお…付き合ってるのかお?」
从//ー//从「違います違います、そんなんじゃないです!」

真っ赤になって反論するワタナベ。モララーもその大きな目を
ひときわ大きくさせている。

―と、そこに



  
15: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:53:26.24 ID:d2EhhP6h0
  
(*゚∀゚)「ヤった?」
(; ^ω^)「ちょwwwwwww何いきなりwwwwwww」(・∀・ ;)

(*゚∀゚)「あれ?わかんなかった?つまりアレだハメー」

从//ー//从「なんですか!なんなんですかいきなり!」

ワタナベはもうパニック状態だった。砲撃を受けてもすぐに恐慌から立ち直った
あのタフな女下士官の姿はもうそこにはない。そこにいるのは突如として現れた珍客に
いいように引っ掻き回される一人の少女だった。
 
珍客の名はつーという。この基地に所属する少尉だ。…一応は。

('、`*川 「避妊はちゃんとしなさいって事よぉ」

うわぁ。またなんか来た。「なんか」というのは失礼か。
一応階級だけでならこの基地のトップだ。ペニサス伊藤大佐。
正確に言うとペニサス伊藤従軍牧師大佐。もっと正確に長い役職名と階級
があるのだが、あまりにも煩雑なため大佐と呼ぶ。



  
17: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 16:57:45.20 ID:d2EhhP6h0
  
もちろん実戦経験なんかないので部隊の指揮はおろか、
聖書より重いものなど持ったこともないと公言していたが。

だいたいこの人は聖職に就けておくには色気がありすぎるすぎると
思うのだが。ブーンの頬もいつの間にやら赤い。
 
つまりはそんなめんどくさい人が、このハウリング=マッド=つー
といる。今考えうる限り最悪の組み合わせだった。

('、`*川「仲いいわねぇ、あなたたち」
从'ー'从「シスター、お食事ですか」
(*゚∀゚)「よーう、食ってるかねお前等!豚のように肥えるがいい!」
(; ^ω^)「つーもいるのかお。牧師様と赤小隊長。なんかあったのかお?」
「あたしはシスターじゃないんだけどねぇ…いやぁ、ただの偶然よぉ。休憩頂いて食事にきたら、つーちゃんもいたから一緒にランチをね」
( ^ω^)「そうだったかお」
(*゚∀゚)「ウチの小隊も整備でな!その休憩だ!」
( ^ω^)「昨夜の作戦の損害かお」
(*;゚∀゚)「お前等もうまくやったようだがー… ありゃすごかった… 訓練とはケタが違ってた」
(; ^ω^)「…中佐かお」

つー少尉。常に赤いマフラーを巻いていて、隊では目立つ存在だ。
赤いマフラー。それが意味するものは悪の組織に改造されたバッタ男…
 
 ではなく。

すべてのタンキストの憧れ、首都ジップ=デークレーの守護者、
近衛師団の証だった。



  
18: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 17:01:45.85 ID:d2EhhP6h0
  

彼女もブーンと同じく士官学校ではなかったが、
その強靭な意志とタフな性格で自ら近衛師団に配属されるという名誉を
勝ち取った。そしてそんな美味しそうな人材をクーが見逃すはずもなく、
彼女によってこのクー戦闘団にスカウトされたのだった。

幹部候補課程で同期だったブーンとは
(ブーンが主計科にいたせいで術科学校は半期違いだったが)
そこそこ親しく、たまに会うと時として軽口の叩きあいになる。

そして何より。彼女はV-I-P「赤」小隊長だった。
マフラーと小隊のエンブレム。彼女が操る戦車は敵の血で染まっているのだ。

ブラディ=つー。彼女のもうひとつの名だった。

もう近衛師団ではないのにマフラーを手放さない彼女は時として隊内でも
陰口の的となる。だが彼女の眼光はそんなものでは一片たりとも曇りはしない。

(*゚∀゚)「確かに訓練では何回か中佐に撃破判定を与えたことはあったけど
     …すごかったぜ。まるで脳が三つも四つもあるような動き方をするんだ」

彼女が言うには、北部でクーたちが迎え撃った装甲車両郡は精鋭であり、
しかも数的にみても非常に優勢であったらしい。

しかし少ない時間で対車両地雷を散布し、機動防御とアンブッシュ
(待ち伏せ)を巧みに使い分けることによりこちらの脆弱な戦力を
過大に悟らせ、撃滅・撤退させることに成功したのだという。

−ブーンたちが屠った勢力も、その撤退した戦力の一部だという。



  
19: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 17:05:05.90 ID:d2EhhP6h0
  
从'ー'从「すごい…」
(*゚∀゚)「自分の車両も指揮しながら、まるではるか高空から俯瞰してるような
     …そんな感じだった。正直これほどまでとは想像がつかなかった…
     あたしゃ天狗になってたね…」

( ・∀・)「つー少尉が弱音なんて珍しいですね」

(#*゚∀゚)「弱音じゃないよこれは!正確な判断!
     これ隊長としての務めよ?わかんないの!?」
(ii; ∀)「少尉…わかりました…から…手を…」

(*゚∀゚)「あ、ごめんごめん」
(; ^ω^)「大丈夫かお?」
(; -∀-)「割と死に掛けました…」

いったいどこにこんな力があるのか。身長的に対して変わらないモララーに対して
彼女がかけた技はネックハンギング・ツリーだった。プロレス万歳。

(*゚∀゚)「とにかくだ!これからニーソクの豚どもの侵攻はもっと本格化する!
     そんときに、こんな心構えじゃ死ぬだけだってことだ!」

( ^ω^)从'ー'从「…」

空気が固まる。さっきまで熱暴走を起こしていたワタナベも、
赤い少尉を凝視している。その空気を溶かしたのは、やたら淫靡で鼻くぐもった声だった。



  
21: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 17:10:58.72 ID:d2EhhP6h0
  
('、`*川「あたしはまだたくさん作業残ってるから先に失礼するわねぇ 
     あんまり殺しあわないように。仕事増えるから。じゃあねぇ」

芝居がかった風に一礼して上着を取ると入り口へと向かうペニサス。
ドアを開けると、一人の少女と鉢合わせ。金髪の巻き毛。ツンだ。

('、`*川「あ」
ξ゚听)ξ「あ」
('、`*川「あらツンちゃん。相変わらずお肌きれいねぇ。お食事?」

ξ゚听)ξ「―ええ。失礼します」
('、`*川「うふふ、お姉さんうらやましいわぁ。じゃあね」

そう言うとペニサスは消えてしまった。入れ替わりにツン。
彼女はペニサスが行ってしまった方向を暫く見ていたが、
やがてカウンターへと歩き出すのをブーンは呼び止める。

( ^ω^)「ツンも食事かお?」
ξ゚听)ξ「内藤少尉」
( ^ω^)「ブーンでいいお。階級も同じだし」

ξ゚听)ξ「ではブーン少尉。あまり牧師大佐とはお話にならないほうが
     いいかもしれません」
( ^ω^)「なんでだお?ペニサス大佐いい人だお?エロい身体してるし」

ξ゚听)ξ「……」
(; ^ω^)「……」
ξ#゚听)ξ「……ビキビキ」
(; ^ω^)「…正直スマンカッタ」



  
22: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 17:17:13.40 ID:d2EhhP6h0
  
ξ#゚听)ξ「ともかく、気をつけてください。それと少尉!
     まだ報告書が届いてません!早くもってきてください!
     それでは私はランチをいただきますので」
(; ^ω^)「アウアウ」

すっかり気勢と食欲をそがれてしまったブーンたち。
高い金を払ったランチだったがすっかり冷たくなっている。
あれだけ空腹だったはずなのにまったく失せてしまった。不思議だ。
 
 適当に匙でシチューをかき混ぜていたブーンだったが、
ふと思い出したように呟く。

(; ^ω^)「あ…そうだお!一時間以内に私物をまとめてトラックに入れろだそうだお!
 お前たちに伝えるのわすれてたお!」
( ・∀・)「「知ってますよ」
(; ^ω^)「え?」

从'ー'从「ハンガーに車両を戻したとき、ジョルジュ軍曹から伺いました」
(; ^ω^)「うおー…」

从;'ー'从「小隊長、元気出してください!誰も小隊長が役立たずの白豚だなんて言ってません!」

(; ・∀・)「バカ!」
从;'ー'从「あ…!」



  
31: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 18:54:19.77 ID:d2EhhP6h0
  
円弧を描いていたブーンの匙は止まっていた。この冷めたシチューみたいにどんよりとした表情を彼は浮かべていた。

(; ´ω`)「「…片づけするかおー…」
( ・∀・)「…そうですね」
(*゚∀゚)「それうまそうだな。食わないんなら頂戴」
(; ^ω^)「お前まだいたのかお!」

やれやれ。



  
32: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 18:58:53.68 ID:d2EhhP6h0
  


ここは士官用個室。ブーンの城だ。殺風景ではあるが、
整然とはしていない。そこらに脱ぎ散らかしたソックスがばらばらと
点在して、シーツには謎の染みがこびり付いていた。

本当にこいつは士官なのかと疑いを持たざるを得ない部屋だった。
そんな部屋のロッカーを、崩れてくる洗濯物と戦いながらブーンは
部屋の整理をしていた

( ^ω^)「荷物ったって…たいしたもんはないー…お?」

下着だとかそんな類のものは向こうで買えばいい。これで半分以上片付く。
あとはたわいもない「雑誌」だとか、そんな類。
Vip人の魂の源である「真なる水」は隊のトラックなどに任せてはおけない。
自分で持っていく。そう考えていくと、ほとんど残らない。

われながら完璧じゃないか。と最低の結論に達したブーンであったが、
ロッカーから落ちてきたしなびた皮袋に気づく。白と黒。これは…

( ^ω^)「なつかしいお。そういえば持ってきてたかお」

 空気の抜けたサッカーボールだった。任官した当初、
持って来たボールだったが日常の忙しさについついその存在を忘れていた。



  
33: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 19:01:50.27 ID:d2EhhP6h0
  
ブーンの胸中に去来する思い出。サッカー。
ゴールの瞬間の射精しそうなほどの快感。
そしてサッカーを通じ出会えた仲間。ドクオ。

―…気づくと一心不乱にボールを膨らませようとしているブーンがいた。

口で。

本当にバカなのだこいつは。だが中くらいのバカだったのか、
すぐに無駄だと分かり、エア・コンプレッサーの必要性を感じ取る。
整備ハンガーに行けばあるはずだ。ジョルジョに頼めば貸してくれるだろう。
思うが早いがブーンはしなびたボールを持ってハンガーへと足を伸ばしていた。

―整備ハンガー

払暁のころ、ブーンたちはここでv−i−pを降り、整備に渡した。
本来戦車兵は自分の車両の整備も仕事のうちなのだが、運のいいことに
ブーンは休みをもらえた。だが他の小隊はそうでもないらしく、
整備員たちにスパナで追い回され、こき使われていた。

よく見ると赤小隊の連中もいる。つーはまだ戻っていないようだった。
怒号と機械音がハンガーにはあふれていた。
ブーンは目ざとく一番やかましく怒鳴っている対象を見つけ、近づく。
ジョルジュだ。

( ^ω^)「ジョルジュー…エアコンプレッサー貸してくれー…」
(# ゚∀゚)「…」

(; ゜ω゜)「おぉぉぉぉぉぉおお!?」



  
38: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:15:51.24 ID:d2EhhP6h0
  
―中庭

涙目でリフティングをするひとりの青年の姿。ブーンだ。
時たま頭をさすり、再び涙目となる。コブが出来ているようだった。
と、そこに再び部下たちが通りかかる。いつもの仲良しペアだ。

从'ー'从「あー 隊長〜?」
( ・∀・)「どうしたんですかそのボール…とコブ」

(;(ii)ω^)「前者については入営したとき持ってきたものだお。
  …後者は…」

从;'ー'从「まさかハンガーに行ったんですか?」
(;(ii)ω^)「…」
( ・∀・)「いまジョルジュ軍曹たち人殺しかねない勢いで働いてますよ…
  他の小隊の皆も手伝ってますし。そっとしといたほうが」

(; ^ω^)「その通りだったお…まさかコンプレッサー投げてくると
までは思わなかったけどお」

( ・∀・)「少尉!リフティングってやつですか!あれやってみてくださいよ!頭とか肩でポンポーンってやつ」

モララーが声を上げる。サッカーのあまり盛んではない共和国では
珍しいのだろうか。まるでサーカスの曲芸を見るようにモララーが
まじまじと見てくる。



  
39: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:17:09.46 ID:d2EhhP6h0
  

(; ^ω^)「ブーンはヘタだからこんな基本的なことしか出来ないお」

そういうとつま先でテンポよくボールを右、左打ち上げる。
胸でトラップして、腿に落とす。両腿で小刻みに十回ほど上げて、
足元に落とす。ぴったりとかかとの下に収まる。
 
まるでタンキストスーツみたいにぴったりだ。ワタナベが歓声を上げる。

从'ー'从「すごいすごい!じゃあつぎあれ!
     かかとで上げて頭とか肩で前に通して、
     縄跳びみたいに打ったボールを足でまたぐの!」

(; ^ω^)「お前あれはすっげー難しいんだお。ブーンは足の速さと
       シュートの強さだけで点取ったきたから無理だお」

戦場の喧騒を忘れ和気藹々とするブーンたち。
その彼らを影から眺めている二人がいる。

(´・ω・`)「どうかな。クー」
川 ゚ー゚)「いい部下たちだよ。本当に。私には過ぎる、な」

(´・ω・`)「―…俺はお前の体のことなんて気にしちゃー」

川 ー )「その話はよそう。終ったことだ。人の目もある」

静かな中庭にはきらきらと照りつける太陽。
陽光に内藤たちの歓声が反響していた。



  
40: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:21:20.13 ID:d2EhhP6h0
  
(´・ω・`)「…しかし連中、楽しそうだな」
川 ゚ー゚)「そうだな。リアリティが無いんだろうな」
(´・ω・`)「?」
川 ゚ー゚)「戦争をしている、というだよ」

(´・ω・`)「…俺はてっきりお前のことかと思ったよ」
川 ゚ー゚)「…」

(´・ω・`)「お前はまるで、御伽噺の姫様みたいに綺麗で、強くてー…
       術科学校でお前をはじめて見たとき、こいつはヤバイと思った。
       
       こんな絵本から抜け出したような奴が存在するはずが無いって。
       だけど真実は悲惨だった。お前が戦ってる理由を聞いたときー
       俺は悲しくて涙が止まらなかった」

川 ゚ー゚)「よせー よしてくれ。その話は」

ポン、ポーン…

( ^ω^)「やってみるお…おぉっ」
( ・∀・)「相当難しいんですね」
从'ー'从「すいませんー ボールとってくださいー」

ヒールでボールを高々と上げる。頭で一回。次は足だ。
しかしブーンの足にそれは収まらず、ショボンの足元へとそれは転がっていった。
ショボンはボールに一瞥をくれると、われに返ったようにかぶりを振る。



  
41: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:24:43.80 ID:d2EhhP6h0
  

(´・ω・`)「ーすまない」
川 ゚ー゚)「いや、いい…昔のことだ。忘れてくれ」

軽くうなずくと、中佐はこの不届き者をどやしつけるべく声を張り上げる。

川 ゚ー゚)「内藤!お前書類はどうした!」
( ^ω^)「ち、中佐ですかお!す、すいませんまだ…」

川 ゚ー゚)「ふ」
( ^ω^)「?」

川 ゚ー゚)「まあいい、ボールだったな。それ!」
( ^ω^)「お…?」

ぶん、と大きな音。大きく振り上げられた足は空を切る。
ボールは微動だにしていない。

川  ー)「…もう一回だ!」
(; ^ω^)「…」

ぴゅん。
再び空を切る足。支給品のヒールがすっ飛び、ブーンの手に納まる。
あきれたショボンがボールを手に取り、軽くステップを踏みながら
下手投げで内藤に渡す。

それはぴったりと内藤の足元へとボールは納まる。



  
42: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:28:06.22 ID:d2EhhP6h0
  
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「中佐の思い通りにならないもの…か。福利厚生科とスポーツ科だ…」

( ・∀・)「ありがとうございます…あれ?曹長!」
从'ー'从「曹長もいらしたんですか?一緒に蹴って行きませんか!」
(´・ω・`)「俺は遠慮するよ。楽しむのはいいが時間は守れよ。
       それと中佐のこのことは…」

( ^ω^)( ・∀・)「口外無用です」从'ー'从

(´・ω・`)「よし、行ってよし」

川 ; ー)「…なぜ止まってるボールに当たらんのだ…」
(´;・ω・`)「お前球技さっぱりだったもんな…」

日がとっぷりと暮れたころ。移動用のトラックに乗り込むところで
ブーンはふと思い出した。整理がまったく終わってないことを。

そして明日の分の下着がないことを。そして部下に下着はないかと聞いて回り、
勢いあまってワタナベにも聞いてしまったところで、
後ろに立っていたツンに耳を引っ張られ我に返った。

ξ#゚听)ξ「少尉。報告書」

(; ゜ω゜)「あ」


−明日はどっちだ。



  
45: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:36:55.28 ID:d2EhhP6h0
  
-2026年9月23日 1000時

VIP首都ジップ=デークレー近郊
陸軍省 七階参謀本部会議室

『陸軍省大臣閣下。何故あなたがここにいるのか、おわかりですかね?』
『越権行為だぞー、いくら将軍とはいえ、内閣にまで口を出す権利は無いはずだ!』

『口出しだなんてとんでもない。我々はただ助言をしに来ただけですよ
 この写真…覚えありますかね?』
『…!!』

『参りましたね。あなたの体制下でVIP軍は骨抜きだ。
 さらにこの上にスキャンダルとくれば…』

『ー…どうしろというんだ』

『少し静養して頂こうと思いましてな。有事における心労で辞任ー。
 よくある事ですよ』

『貴様はこの国をどうするつもりだ…!』

『勝つためですよ。仕方がない。さあ、お車を用意しております。 
 …運転手ともどもね。ゆっくりお休みください』

『覚えておけよ!貴様ら!貴様らの好きにはさせんからな!!』

バタァン。

−…静寂。



  
46: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:39:09.00 ID:d2EhhP6h0
  
『ー閣下。どうなさいますか』
『んー…交通事故かなあ…毒物はヤバイ。ありがちなふうに頼むよ
 しかし、わからんな。男色とはねぇ…しかも運転手と』

『将軍閣下。お客様がおいでなさいました』
『来たか。まったく。使える人間を探すだけでも一苦労だ』

『―お久しぶりです。内藤中将閣下』
『ようやく将に上がったよ。あー…軍籍の件は今書類を通してる最中だ』

『ご厚意感謝いたします。あの…ご子息は』
『ああ、うまくやってくれた様だな。クーのおもちゃ箱で楽しんでるよ』

『中将…将軍閣下。ご子息はいい方です。あまり悪く言われないで下さい』
『そうだな。確かに人がいい奴だ。―生き残れんタイプのな。
 さあ、奴のことなどいい。テーブルについてくれ。忙しくなるぞ。
 …アニージャ大佐』

( ´_ゝ`)『ーはい』



  
47: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/31(日) 20:42:16.48 ID:d2EhhP6h0
  
vip日報 9/24 ジップ=デークレー発

交通死亡事故 -自暴自棄の薬物中毒者原因か

『本日未明、首都ジップ=デークレー東の幹線道路にて乗用車同士の
 衝突事故があり、2人が死亡、1人が重傷を負った。
 
 死亡したのはナ=ナシさん(62)と西部から疎開してきた少年(18)。
 重傷者はナ=ナシさんの乗車する車の運転手で、事件は少年の運転する
 
 自動車がナ=ナシさんの乗る大型の乗用車の後部座席横に衝突。
 搬送先の病院で2人の死亡が確認された。

 なお少年からは大量の薬物とアルコールの反応が検出され、
 当局は疎開による自暴自棄に陥っての暴走との見方を強めている』

             
               −…第六話   
                   『sweet home』 完
      
                      第七話に続く



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