( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
5: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:28:55.04 ID:lvev7LLg0
  
-1215時

ハッチからコックピットへ軽快に滑り込むブーン。
どこからその身軽さが来るのか。その体型からはまったく想像がつかない。
中ではショボン曹長が手をあごにあて、いぶかしげな表情をしていた。

( ^ω^)「連絡が取れない・・・?」
(´・ω・`)「ええ、さっきから呼び出してはいるんですが、いっこうに応答がありません」
( ^ω^)「…わかった。あとはブーンがやるお。ショボンは外で休んでるお」
(´・ω・`)「いえ」

表情を変えずに短く返す。

(´・ω・`)「何か嫌な予感がします。他の分隊員も速やかに搭乗し、即応状態にすることを提案します」
(; ^ω^)「…とりあえず呼びかけてみるお」
 
自分が動揺してはいけない。指揮官の動揺は隊全体に影響を及ぼす。ブーンは深呼吸をしてから
無線に向かった。

(; ^ω^)「コメツキバッタ11!こちら白1!聞こえているかお!送れ!」

しかし応答は無い。シャーー…。メット内臓スピーカーからは遠くの川のせせらぎのような音が響くのみ。

どういう事だ。ブーンは無線の不調の可能性を示唆したが、この曹長はすぐさまそれを否定した

(´・ω・`)「白2、白3を経由しての無線でも同じでした。
      それに小隊長が外に出た後すぐに本管との定時報告がありましたが」



  
6: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:30:04.73 ID:lvev7LLg0
  
( ^ω^)「きちんとできたのかお?」
(´・ω・`)「ええ、まったく問題なく」

胸を打つ焦燥感。嫌な予感が確信へと変わっていく。胃の上あたりに鈍く、冷たい感触がする。
それはブーンの不安そのものだった。

(; ^ω^)「コメツキバッタ11!応答するお!納豆味は無かったけどコンソメマシュマロ味ならあったお!
       これで勘弁してくれないかお!送れ!」

(´・ω・`)「…おかしいな」
(; ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「さっきまで繋がっていた本管と連絡が取れません。引き続き呼びかけてみます」

ブーンも何度も何度も無線に呼びかける。だが応答は無い。胃を襲う刺すような不安は、
もう口から飛び出てきそうだった。

ーその時だった。



  
8: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:32:40.71 ID:lvev7LLg0
  
(; ゜ω゜)「おおおおおおお!?」
(;´・ω・`)「小隊長!落ち着いて! 各車状況知らせ!」

内藤の小隊を猛烈な爆発が襲った。ハッチを空けていたブーンのすぐ上を爆風が吹き抜ける。

そして雲を裂くようなガラガラという鋭い音。そして形容しがたい爆音が立て続けに一発、二発…
そして数え切れなくなった。二つの轟音は乱暴に融和し、v−i−pの潮音マイクのレベルを振り切った。
 外部カメラには何も写らない。ただもうもうと砂塵と黒煙が立ち込めていた。

(; ゜ω゜)「なんだ、なんだお一体!」
( ・∀・) 「白2。外郭に破片くらいましたが問題なし!」
从 ー从「…」

一瞬の沈黙。ショボン曹長は無線にがなりたてる。

(´・ω・`)「白3!どうした!状況知らせ!」
从;ー 从「あのッ…あのっ クビ。首がッ…無線手が…ハッチ開けてて…」
(´・ω・`)「落ち着け!落ち着いて状況だけを報告しろ!」

再びガラガラ、と鋭い音が空と鼓膜を裂く。

(; ・∀・)「こりゃあ…ニーソクの多連装ロケットだ!」
吐き捨てるようにモララーが口を開く。彼は彼なりに状況を把握しようと必死だった。
(; ゜ω゜)「来るお!全車衝撃に備え!」

 重心を下げ、限りなく地表に車体基部を近づける。それと同時に脚を立て、爆風から車体基部を守る。
またもマイクのリミッターは振り切れてしまった。



  
9: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:35:14.23 ID:lvev7LLg0
  
从;ー;从「…ザ…ザ…白3…無線手 戦死、車体には特に問題なし」
 
マイクが回復して最初に流れてきたのはワタナベの悲壮な涙声だった。
このままではまずい。撤退か、退避して遮蔽物に入らないといけない。
ブーンは隊長として決断に迫られていた。 そのとき。

『…白1!白1!応答を!こちら本管!白1!』
(; ゜ω゜)「ツンかお!」

本管副官のツンの声だ。

『生きてた!団長!無事です!白小隊生きてます!』

本管からの無線だ。普段冷静なショボンがガッツポーズを作っている。
しかしブーンにそんな余裕もあるはずなく、ただ無線にしがみつく。

(; ゜ω゜)「これはどういう事だお!なんだってニーソクのロケッ弾トが僕らを攻撃…」
『ともかくまずは尾根を降りて、本管へ!…あ』

( ゜ω゜)「どうしたお!?」
無線の向こうがガタガタとあわただしくなったかと思うと突如として静寂。そして次の瞬間には

川 ゚ー゚)『白1。私だ』
(; ゜ω゜)「……」

団長の声。最も聞きたくて、そして最も聞きたくない声の人間が無線に出た。
この美しき暴君は次の瞬間何を求めるのか。まったく予想がつかない。



  
10: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:39:36.69 ID:lvev7LLg0
  
川 ゚ー゚)『詳しくは無事に帰ってからだ。やってみせろ。私の部下に無能と腰抜けはいないはずだ』
(; ^ω^)「…了解だお」

川 ゚ー゚)『情け無い声を出すなよ。貴様はタンキストだ。自分と自分の部下を信じろ。交信終り』
あ・・・団長! 一瞬ツンの声がしたが、無線は切られた。そして繋がらなくなった。

 ブーンは静かにヘルメットのバイザーを下ろし、無線を操作し、交信を小隊内に切り替える。
ぱくぱくと口を空け、また閉じる。そして静かに真一文字に結び、自分のやるべきことを再確認し発信する。

( ^ω^)「全車起動!単縦陣で戦域を全速で離脱するお!
       白3、援護する。真ん中に入れ!白1先導す!」
(; ・∀・)「…」
( ^ω^)「白2。どうした!」

(; ・∀・) 「いえ、本管まで何キロでしたっけ…ヤマタノワロチが、
       食らった破片で脚部の温度が芳しく無いといってきてまして」
(; ^ω^)「……」

 モララーの声は笑っているようにも聞こえた。だがこの歴戦の軍曹が笑うとき。
それはおおむね甚だ芳しく無い状況のときだ。だがともかく今は全速だ。ロケット砲からの射程外に出れば、
あとは巡航速度でもなんとか脚は耐えてくれるはずだ。でなければ死ぬだけだ。

 走る。ひたすら走る。後ろから爆音が近づいてくる気がしてモニタを見るが、何も表示されてはいない。
自分が走っているわけでは無いのだが、吹き出る汗が止まらない。息切れがする。

 そうして走り続けて尾根の稜線を越えた。ロケット砲の射程は20キロ弱。ここさえ越えればいくらなんでも
国境地帯からは届かないはずだ。あとは戦車の脚部と相談しつつ、基地に戻ればいい。 
ブーンたちは一様にそう思っていた。 
 だがー



  
11: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:44:27.11 ID:lvev7LLg0
  
( ゜ω゜)「なんだおこれは…」

尾根を越えたところにある440丘陵地帯。ここは盆地になっており、その真ん中をワロタ川が横切っている。
扇状地の川で、大して深くはないのだが雨が続くと突如として水かさが増えるため、
それに掛かる唯一の橋梁、バロチェ橋は堅固にできていた。

盆地には東西南北に隘路が伸びていて、それを利用して国境に配備されている部隊の
前進補給基地になっていた。

ここまでくれば大丈夫。ブーンたちは尾根を越えた瞬間、そう思った。だがしかしー。

彼らの目に飛び込んできた現実は、目を疑いたくなるものだった。

(´・ω・`)「これは…壊滅状態じゃないか」

あちこちで空をつく黒煙。そのうちのいくつかはまだ根元が赤々と燃えていて、
時々思い出すように爆ぜ、破片を撒き散らしていた。

(; ゜ω゜)「と、ともかくバロチェ橋を渡るお!基地本管にさえ帰れば状況が分かるはずだお!
       白3!先行しろ!白1後方警戒に当たる!」

目前に広がる悪夢のような情報源を遮断するようにブーンは無線に向かい指示を出す。
おずおずとワタナベの車体は前進し、暫くして橋のたもとにつく。そこでワタナベは急停車した。

(; ^ω^)「どうしたお!白3!」
从;ー;从「橋が…橋がふさがれてます!」

(; ・∀・)『「なんだと!」お!』(゜ω゜ ;)



  
12: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 22:51:14.32 ID:lvev7LLg0
  
ほぼ同時にハッチから身を乗り出す2人の車長。そして同時に言葉を失う。
 
 横倒しになったトラックが、道をふさいでいる。いや、トラックだけならまだ通る幅があった。
更に悪いことに荷台から散逸したであろう鉄骨が、完全に橋をふさいでしまっているのだ。

悪いことは重なるもので、今年は秋雨が多い。川の水をみたものの、とても渡河装備無しの戦車が渡れるような水かさではなかった。

( ^ω^)「なんで…なんでだお、ここまできて!」

ブーンはハッチから乗り出した半身を支える両手を強く握った。充血し、真っ赤になる掌。
万事休すか。ブーンの奥歯はぎりぃ、と嫌な音を立てる。
と、そんなブーンを呼ぶ声がした

「あんたたち!教導団の人たちか!」
無線ではない。一瞬幻聴かと疑ったが、確かに声がした。
まだ誰か生き残っているのか。辺りを見回すが、声の主は見当たらない。

「ここだ!ここ!」

声の主が出てきた。橋の下から、もぞもぞと親に怒られ、しゅんとする子供のように。
 それを見てブーンの声は明るくなる。主は曹長の階級章をつけていた。

兵科を示す徽章にはトラックとパンのエンブレム。兵站をつかさどる補給科の人間だ。
その軍服はあちこちが破れ、すすけている。
ヘルメットもどこかに飛ばされてしまったのだろうか、かぶってはいなかった。



  
14: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:02:02.40 ID:lvev7LLg0
  
( ^ω^)「補給隊の人かお!いったい何があったんだお!」
(  )「わからん!自分はいつもどおり車体の整備をしていたら、
     急に無線が通じなくなって…そのあと…」
(; ・∀・)「砲撃が来たのか?」

(  )「いや、ヘリだ、ヘリが来たんだ。国境地帯から撤退してきた部隊が
    大挙して橋を渡ってるその間に…ほらあれだ」

指差した先には一際明るく燃える残骸。よく見ると流線型の機体に、
折れ曲がってはいるが確かにローターらしきものが炎に映えていた。

(# ・∀・)「バカな!制空権はどうなってるんだ!」
(´・ω・`)「怒鳴るな。多分撃墜されるのを覚悟で来たんだろう。
     尾根を這うように低空飛行でくれば、国境地帯からここまでなら来られない距離じゃない。だろ?曹長」

ショボンもハッチから出てきて、橋の下に声をかける。すすけた曹長はゆっくりとうなずく

(  )「…ああ。撃墜には成功したが、被害は甚大だ。奇襲だったからな…
    散開したものの、戦車回収車は軒並みやられちまった。部隊は半分は渡河できたが、
    半分は南の平地を通って撤退だ。
    あっちは防衛が脆弱だし、国境地帯からも近い。
    隠れるべき森も少ない。…多分三分の一も本隊に帰れないだろう」

( ・∀・)「あんたは何してるんだ?」
モララーが曹長に問いかける。



  
15: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:07:11.74 ID:lvev7LLg0
  
(  )「俺たちは残ってあんたたちみたいな人に状況を教えて、
   橋上の残骸を取り除き、可能であれば端の破壊を命じられてるんだが…

     …重機も爆薬もないし、どうしようもない。いつまたヘリが来るか分からんし、その…あれだ。隠れてた」

ばつが悪そうにうつむく。しかし実際その通りだ。人力であの鉄骨はどうしようも無い。曹長は続ける。

(  )「運がよければ逃げて見せるが、もう部下はシャツを引き裂いて白旗を揚げようとしている。
   俺には止められん。あんた達も早く南にいけ。神があんたらの運命を裁くだろうさ」

そういうと曹長はお手上げ、のサインをして橋の下へ戻っていってしまった。

取り残されたのはブーン達。どうするか。確かにヘリは撃墜したが、いつまた新手が来るとも限らない。
そもそも友軍が本当に制空権を確保できているのかすらわからない。
いや、下手をすると国境地帯の野砲部隊がここまで伸張してくるかもしれない。

こういった状況下で迷うことは、刻一刻と自分の首を絞めていることと同義だった。



  
16: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:17:38.82 ID:lvev7LLg0
  
ブーンはヘルメットを人差し指で叩く。トン、トト、ト。トン、トン、トン。不規則なリズム。
そして中指で1回。

トンッ!
 
 静寂の支配するコックピットに乾いた音が響いた。 ブーンはしばし瞑目した後、
刮目。その目は決意をたたえている。


( ゜ω゜)「ブーンたちは…あきらめんお…!」
(;´・ω・`)「小隊長、…まさか!」
( ゜ω゜)「まさかだお。ショボン曹長なら不可能じゃないことを知ってるはずだお」
 
(; ・∀・)「何をする機ですか小隊長!」

しばしの間。そしてゆっくりとブーンは口を開く。

( ^ω^)「…ジャンプするお!」

( ・∀・)「!!」



  
17: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:34:10.72 ID:lvev7LLg0
  
(; ・∀・)  「…な!バカな!確かに不可能ではないとデータにはありますが,
        そんなもんカタログ上のことで実践じゃー」
( ゜ω゜)  「やらないと死ぬだけだお!」

モララーが激しく反論する。彼は優秀ではあるが、通常戦車部隊引き抜かれてから浅い。
vーiーpの限界性能を引き出しているとは言いがたかった

(´・ω・`)  「確かにそれしか方法は無いかもしれませんね」
(; ・∀・)   「ショボン分隊士ー!んなバカな!」

思わぬところからの横槍。この人は苦手だ。なんといってもー。

(´・ω・`)  「ジャンプするといってもトラックを越えるわけじゃない。鉄骨を超えるだけだ。
        足場が悪すぎていかに多足歩行といえどもあれはスタックする可能性があるがー」
( ・∀・)   「ジャンプならできる可能性がある、と?」
(´・ω・`)  「試作段階のテストでは脚部は高さ三メートル、幅10メートルのジャンプのストレスに耐えたぞ」
(# ・∀・)   「だから技術屋の言うことなんて信用…」

砲弾にやられて死ぬのはいい。だがいい加減なことで死ぬのは真っ平だ。車体がつぶれて
ショックで全身打撲や脳挫傷なんて冗談じゃない。モララーは激しく反論する。

(´・ω・`)  「僕だよ」
( ・∀・)   「え?」
(´・ω・`)  「そのデータをたたき出したクルーは僕だ。クーに戦車学校から引き抜かれて、
        テストクルーをやったのは、この僕だ」



  
18: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:39:27.28 ID:lvev7LLg0
  
(´・ω・`)  「だからモララー生徒…」
(;; ・∀・) 「!!」

ヤバイ、ショボン分隊士の声色が変わった。やな予感がする。
嫌な思い出が頭の中を駆け巡る。そうだよ、なんと言ってもこの人は元戦車学校の教官だったんだ。それもー

川 ゚ー゚)『クー分隊、作業完了しました!』
(´・ω・`)『よくやった!お前は最高のクソ虫だ!』

ーあのクー分隊付きの教官だったんだ。

(#´・ω・`) 「ぐだぐだ言わんとやって見せろ!腐れマラが!!
        口から先に生まれてきたお嬢様かお前は!?
        それともタンキストかお前は!!」

(;; ・∀・) 「さ…サー!自分はタンキストであります!サー!」
(#´・ω・`) 「よぉし、じゃあやってみろ!」
(;; ・∀・) 「も、モララー生徒了解しました!」

ヤバイ、スイッチが入っちまった。こうなったショボン分隊士…いや、教官はとめられない。俺は
あわてて脚部のモニタリングを開始する。後部座席では無線に届いたすさまじい罵声に無線手が目を回していた。
(  ・∀・) 「し、白2、いきます!準備よろし!」

ーその時
从 ー从 「…白3 やってみます」

落ち着いたワタナベの声が無線に乗ってきた。



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