( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
20: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/12(火) 23:59:01.15 ID:lvev7LLg0
  
(;´・ω・`) 「なー」
从 ー从 「私の車両は特に被害がありませんし、何より先頭です…それに」
( ^ω^) 「……」
从'ー'从 「今勇気を出さないと、二度と私はVーIーPに乗れなくなる気がします」

声はかすかに震えていた。だが恐怖ではない。それはなにか壁を乗り越えようとする、
強い少女の精一杯の気持ちがあった。

( ^ω^) 「…いいか。躊躇するなお。ミサイルの回避機動訓練。あの横の動きが縦になった気持ちでやってみるんだお」
(;´・ω・`)「小隊長!」
しかしブーンはショボンをさえぎる。
( ^ω^) 「どの道ワタナベが通れなければ南にいって損害をこうむるのも同じだお! 
       白小隊は無駄な犠牲を許可しないおッ!ワタナベ!やってみせるお!」

从'ー'从 「はい!」

ワタナベの車体が動き出す。ゆっくりと。そしてじわじわとその蟲を思わせる脚が獲物を見つけたかのように
歩を速める。目指す先には鉄骨が横臥していた。
从 ー从「バランサー…マニュアルよし…。脚部同調装置…マニュアルよし」
まだだ。もっと速く。もっと速く。
ヘルメットのバイザーをおろした ワタナベの表情は伺えない。だが僅かに除く小さい唇が、
きゅ、とすぼまっていた。

从 ー从「速度同調よし…重心よし…」
VーIーPの胴体部が地面すれすれまで下がる。獲物は見つけた。あとは飛び掛るだけだ。
 まるで生物のように車体が躍動する。脚が地面を蹴る轟音が山間に響く。

鉄骨まで50メートル…30メートル…10メートル…

( ゜ω゜)(;´・ω・`)( ・∀・)『今だ!!』 从'ー' 从



  
21: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:12:31.42 ID:FuKpD9L90
  
跳んだ。戦車が跳んだ。敵からは羅刹のごとく恐れられ、
味方においては後光差す慈愛あふるる存在である戦車が。

それは馬鹿馬鹿しいと同時に、崇高な光景に思えた。
 立ち上る黒煙をスクリーンに、VーIーPはその躍動を焼き付けたのだ。

!ガシュゥー…ン 

着地する。荷重により脚がこれでもかというぐらいに沈みこむ。
 だが何事もなかったように脚部は元の蜘蛛を思わせるしなやかさを戻していった。
 そして沈黙。 まるでこのまま世界の終わりが来るような。そんなすっぽりとした沈黙だった。

从 ー从「…長」

ー世界の終わりは来ない。

从;ー;从「ブーン小隊長!できました!脚部に若干の損傷ありますが、できました!」

歓声が上がる。もう誰が誰の声だかわからない。そんな歓声だった。
しかしこうもしてはいられない。世界の終わりは来ないし、時間は有限だ。

( ^ω^) 「今やった通りに白1、白2も続く!急ぐお!時間が無いお!!」

(´・ω・`)( ・∀・)『了解!』


初秋の昼下がり。戦車が飛ぶにはいい陽気かもしれないー。



  
24: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:24:30.26 ID:FuKpD9L90
  

 ばかばかしくも神々しい様を見ていたのはブーンたちだけではなかった。
この男達も同様に、それを目に焼き付ける僥倖に恵まれた。

補給隊の隊長は、ブーンたちが去っていった方向を呆然と見つめている。
 そしてそんな彼に背中越しに声をかけるもの。彼の部下たちだ。
(部下)「隊長…」
(   )「お前たち、泳ぎは好きか?」
ブーンたちが撤退した方向ー東ーに背を向けたまま、隊長は話す。秋の日はつるべ落としだ。
昼下がりといってももう黄色くなった陽光を背中に浴び、彼の表情は読み取れない。

(部下)「……自分たちは」
(   )「いいよ、お前らはよくやった。降伏しろ。
     俺は何とかして帰ってみせる。あんなもの見せつけられちゃな…」

そういって彼は振り返る。そして違和感。おかしい、さっきまで白旗を作るのに一生懸命だったこいつらが、
下着一枚になっている。浅黒く日焼けした肌がきらきらと輝いていた。

(部下)「何してるんですか隊長。とっとと服を脱いでください。
      まず自分が渡ってロープを渡しますから、後に続いてください。なあみんな!」
(部下一同)「応!」

 一同にこぶしを天に突き上げたかと思うと、その1人が勢いよく川に飛び込んだ。
 水面が大きくしぶきを上げる。濁流に尾を引き、彼は泳ぐ。 
(   )「…あんまり泣かせるなよ、お前たち」

隊長の頬に一筋の光。きっと気まぐれな秋の日差しだ。そうに決まっている。
向こう岸までピンと張られたロープを見て、彼は自分のそう言い聞かせた。

ーもうひとつの生き残りが始まった。



  
26: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:36:46.02 ID:FuKpD9L90
  
 ー1605時
404盆地。ブーンが所属する西部方面特殊車両研究教導団の駐屯地がおかれている。

西部方面特殊車両研究教導団。こんな長い名称は文章以外では誰も使わない。
みなが尊敬と畏怖とこめ、この隊をこう呼ぶ。『クー戦闘団』と。

運用できる兵力は機甲中隊に毛の生えたようなものだったが、
輸送用の滑走路や駐屯地防衛用の対空機銃などが十分な数とはいえないが敷設、配置されていた。

それはまさにクーの城だった。美しき戦姫。

その実力と権力を示すかのように、この駐屯地は404盆地に居を構えていた。

( ´ω`) 「やっと到着したお…」
(; ・∀・)「ヤマタノワロチからのアラートがさっきから鳴り止みませんよ」
从;ー;从「よかった…よかった…」

駐屯地の門まで来たところで、ブーンたちは一斉に安堵の声を漏らした。
よかった。生きて帰れた。だがブーンたちに安息は訪れないのだ

『白1ぃぃぃぃィィwwwwww邪魔だぁぁぁぁ!wwwww戸口でボーっとつったってんのは
門付け欲しがる乞食(ほいと)だけだぜぇぇぇぇ!!!wwwww』

(; ゜ω゜)「つぉぉ!」

突如最大出力で入ってきた無線に驚き、慌ててv―i―pを飛びのかせる。
次の瞬間、五台のタンク・トランスポーターがものすごい勢いで過ぎ去っていく。

『みwwwwなぎってwwwきたぜぇぇぇwwwwwヒャッホォーーーーイ!!!!wwwwww』



  
27: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 00:47:05.84 ID:FuKpD9L90
  
訳の分からない喚声を残して、無線は途絶える。
残ったのは呆然とするブーンたちともうもうと立ちこめる砂煙。

状況を飲み込めないでいると、車外カメラに1人の男が映る。
右手にはスパナが握られている。彼はカメラを覗き込むように顔を近づけると、v-i-pの外郭をスパナで叩こうと…

( ^ω^)「ジョルジュ!!」
( ゚∀゚)「おお!ブーン!生きてたか!反応ないから死んだと思ったぞ!」
(# ^ω^)「多積層装甲をスパナで叩くなと何度言ったらわかるお!」
( ゚∀゚)「まだ叩いてないじゃん!」
(# ^ω^)「叩くつもりだったろお!」

思わず熱くなっていたことに気づく。なぜかって?背中からあの視線が降り注いだからだ。

(´・ω・`)「…」

(; ^ω^)「あー…じ、ジョルジュは無事だったかお!」
( ゚∀゚)  「おっぱいの命令でな、当初基地守備の対空警戒に充てられてたが、出撃だってんで今の今まで整備に回ってた!」

気を取り直して尋ねてみれば、いきなり帰ってきたフレーズはこれだ。おっぱいー。
これは彼ージョルジュ長岡1等軍曹ーの人生そのものだ。



  
28: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 01:03:06.27 ID:FuKpD9L90
  
『神ははじめにおっぱいを作られた。おっぱいは神なりき』

気は進まなかったが、隊長が率先してサボるわけにもいかずしぶしぶ参加した日曜日のミサ。
ブーンが眠気まなこをこする中、そこに彼はいた。
…従軍牧師のミサの席で彼は腕を振り上げこの持論を展開し、営倉送りとなった。
その光景をブーンは苦笑しつつ見ていたときに、ついて目があってしまったのだった。 
( ゚∀゚)『おい、お前!お前おっぱいに興味があるんだろ!なあ!』
(MP) 『貴様!上官に向かってお前とはなんだ!申し訳ありません内藤少尉!すぐにこいつをー!』
( ゚∀゚) 『おっぱいの前では全てが等しい!不平均な一切合切はおっぱいのもと灰燼に帰すべきだ!!いいか!これは真理だ!』
(; ^ω^)「……」

なにかシンクロを感じるものがあったのか、それともただの好奇心か。
いつの間にかブーンは差し入れを持って営倉の前に立っていた。そこで意外な人物と会った。

川 ゚ー゚)「やあ、こんなところで会うとは奇遇だな」
( ^ω^)「団長…」

川 ゚ー゚)「あいつも面白いな。私のことを神だといった」
( ^ω^)「判る気がしますお…」
団長の顔を見て喋ってるつもりだが、思わずその胸のふくらみに目がいってしまう。
軍制式支給の下着に合うサイズはあるのだろうか? すらりと伸びた背に不釣合いなほど
大きいシルエットが胸にふたつ。

川 ゚ー゚)「やはりスカウトは成功だったようだな。素行不良で干されていたのだが」
(; ^ω^)「それも判る気がしますお…」
そういうとクーはきびすを返した。司令部に戻るのだろうか。後姿だって抜群に美しい。
川 ゚ー゚)「内藤」
( ^ω^)「ジョルジュのことですか?」
思い出したように振り返り、クーが問う。内藤もこの隊長に対してどう答えるべきか。
それは重々承知していた。



  
29: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 01:09:02.72 ID:FuKpD9L90
  
川 ゚ー゚)「そうだ。奴と仲良くしてやってくれ。あれであいつはいい整備兵だ。何も見ていないようで、
     隊全体のことを見渡している。ベテランだよ。いろいろな兵科を経験してるようだしな」

そして再びヒールを鳴らし、クーは帰っていってしまった。内藤も手に握られてる「差し入れ」
の存在を思い出し、ジョルジュの営倉を覗き込む。

( ゚∀゚)『お前、おっぱいは好きか?』

これがジョルジュとの出会いだったお。



(; ^ω^)「今の無線は?」
( ゚∀゚)「ああ、内藤少尉の運転するトランポか。ありゃ前に立つほうが悪い」

クー戦闘団に「内藤」という苗字の将校は二人いる。1人はv―i―pのクルー、内藤ホライゾン。ブーンだ。
もう1人はそのv―i―pを後方や前線へ移送するための大型車両、タンク・トランスポーターの輸送小隊長の内藤少尉だ。
普段はおどおどしていておとなしいのだが、ハンドルを握る時、彼は「勇者」「ナイト」と呼ばれ恐れられている。
味方である戦車搭乗員と部下の両方から。

( ゚∀゚) 「ブーンの隊は無事だったか!」
( ´ω`)「無線手が一人戦死したお…」
(; ゚∀゚)「ショボンか!?」
( ^ω^)「いや…ちがうお…けど…」
( ゚∀゚)「ともかくお前が無事でよかった!ああ、そうだ!おっぱいがない方の偉そうなやつが呼んでたぞ!急いで」



  
35: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:08:04.07 ID:FuKpD9L90
  
司令部に出頭しろ、だそうだ!急げ急げ!
あ、そうだ。また『差し入れ』が入ったんだ!ラウンジものだぜ!
すげーでかいんだ!神を見たぞ!じゃあな!」

(; ^ω^)「アウアウ」

相変わらずこの男は。上官に対する口の利き方という物をまったく知らない。
嵐のように去っていった男に対し、半ば諦めを覚えながら、ブーンは司令部に出頭した。

司令部。ここは作戦の心臓部であり、オペレーターが常にモニタとにらめっこしている。また
常に小隊長や特務曹長が何人もつめており、鉄火場のような様相を呈している…はずだった
 だがそこにいるのは数人の通信士と、巻き髪の女性ーいや、少女といってもいいほど
幼さをその容姿に残した士官が1人。我々を呼びつけた鬼のような中佐は影も形もなかった。

ξ゚听)ξ「よく帰還しました。内藤ホライゾン少尉」

ツン。ツン少尉。例に漏れずクーがスカウトしてきた副官だ。現場一筋のモララーや
学生くずれのブーンと違い、クーと同じく陸軍士官学校の出身だ。なんでも在学中から
陸軍の研究機関に籍を置いていたほどの才媛だとか。無論クーの食指が動かないはずは無い。

既に在学中からそのオルグは始まっており、
士官学校、そして幹部候補生課程を終えたばかりの20歳の若々しいこのツン少尉は、
すでに上司となるべき人間を見定めていた。確かに階級は内藤たちと同じ少尉だ。
 
 だが彼女は2年もすれば大尉への道が開けるだろう。そういうこともあって、団の隊員たちは、
このクーほどには危うさを感じさせないが、ほどほどに美しい女に一歩距離をとって接していた。



  
37: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:24:15.29 ID:FuKpD9L90
  
ξ゚听)ξ「まずは報告を伺いましょう」
( ^ω^)「カクカクシコシコ」
ξ゚听)ξ「おk 把握」

やはり才女だ。一言で全てを把握してしまう。巻き毛がかった金髪は、彼女の知性の顕れと思えた。

ξ゚听)ξ「白3の無線手のことは残念でしたが、死亡報告書は後で書いてもらいます。
       ともかくは補給と修理を受け、仮眠をとってください。2時間後、ここでブリーフィングを行います」

ツンは一息で言ったあと、手にした電子バインダーを閉じようとする。あわててブーンはそれを制し、問いかける
(; ^ω^)「待ってくれお」
ξ゚听)ξ「何か?」

再びバインダーが開かれる。開閉機構が一種のスイッチになってるのか、一瞬で液晶モニタにびっしりと
文字が浮かぶ。それは彼女の情報の海だ。ブーンが一生かかってもたどり着けない、彼女専用の海なのだ。

(; ^ω^)「まだ聞いて無いお。一体、国境地帯で何があったんだお?いつもの小競り合いじゃないのかお?」
ξ゚听)ξ「……戦争です」

彼女は一瞬目を伏せた。その鋭い眼光をいささかも衰えさせぬままに。そしてそのままブーンを見据えた。

(; ^ω^)「お?」

ツンの視線に対して返すは間の抜けた声。
口が『金魚』をし始めた。この状態のとき、この男はまさに間抜けだ。
ツンはそれを見越して、一気呵成に喋る。



  
38: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:36:09.52 ID:FuKpD9L90
  
ξ゚听)ξ「ニーソク人民共和国は、先ほど最高意思決定会議において兼ねてよりの領土紛争を解決する手段として
      人民共和国軍をVIP領内に侵攻させる決定が下されました。以上の報告は衛星回線において世界各国に
      通達され、ラウンジ連邦・VIP首都ジップ=テークレーにもすでに到達しました。
        国家非常事態宣言が宣言され、わがVIP共和国も戦時体制に移行しました。
     
        先ほど内藤少尉もごらんになられたでしょうが、わが隊も宣言に基づき部隊を出撃させました。
      クー中佐ご自身も戦闘指揮官として出撃されました。だから私が代理で職務を執り行っています。

       侵攻兵力は情報が錯綜している現状ではまったく不明瞭ですが、かなりの大軍であることは間違いありません。
      苦戦は必至でしょう。    
        現在共和国首相はラウンジ連邦に赴き、首脳会談を行う予定ですが、ラウンジがどう出るかは
      まったく読めません。かねてからの国境問題というのは建前で、ニーソクはラウンジ本土への制海・制空権
      の戦力的獲得を…
                      
                                                         …内藤少尉聞いてます?」

(; ゜ω゜)「お…お…戦争…ニーソクと…ドクオ…」
     
     ふら、ふら、ふらり。
     ーどさっ。
      
Σξ;゚听)ξ「内藤少尉!!」
     バインダーを放り出して美しい少女は、倒れたあまりーいや、とても美しくない青年に駆け寄る。
     ーショック状態?パニック症状?
     怜悧な少女の頭脳には、士官学校で習った戦闘症候群の病名がいくつも駆け回る。
     その細腕で青年を仰向けにし、脈を図ろうとする。しかしー



  
39: 1 ◆OC3qKKb/tI :2006/12/13(水) 02:40:28.88 ID:FuKpD9L90
  
( -ω-)「zZZ…」
ξ*゚ー゚)ξ「……」

やれやれ。手間が省けた。怜悧な巻き髪の少女の頭脳は、時としてそんな俗っぽいことにも漏れなく働いていた。
ともかくひとまずは休ませておこう。この眠くなりそうないい天気に襲い掛かった4時間あまりの悪夢。

こんなことなどまだ地獄の序章に過ぎないのだ。ブーンにブランケットをかけながら、
少女は強く確信していた。



                                     第3話 終



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