( ^ω^)ブーンが多足歩行戦車に搭乗するようです

  
20: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:00:19.38 ID:sNMvRDp40
  
 tips-2

「紅色少女」

登場人物 つー

      (*゚∀゚)



  
21: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:02:36.98 ID:sNMvRDp40
  
ザ・・・ザ…ザザ…
『本日未明、首都ジップ=デークレーにおいて移民排斥のデモが勃発し…
 …現場のショウジさん、中継をお願いしま…』

2025年 2月 1日 1700時
   ーラウンジ・VIP共和国立學館より
    公共交通機関で30分ほどの高級住宅街にて。







  
22: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:04:29.24 ID:sNMvRDp40
  


…あたしの名前? そうね。つーって呼んでくれるとうれしいわ。
共和国立學館の四年生。…もっとも、さっきまでね。さっき、ようやく終わったの!

何がって? 卒業式よ。鈍いね。まあいいや。あたしは今日は機嫌がいいの。

首都で仕事してるお父さんも今日は帰ってくるはずだしね。

「ただいまー! 卒業式終わったよ!」

玄関から勢いよくただいまの挨拶。言ったでしょ?機嫌がいいって。
だから声も大きいの。玄関には大きな革靴が二つ。

お父さん帰ってきたのかな?同僚でもつれてきたのかな。
そう思いながらリビングに行ったわ。リビングの食卓にはぽつんと小奇麗にラッピングされた
箱がひとつ。

「最愛の娘へ。父より」

と書かれたカードが挟まってる。



  
24: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:09:45.82 ID:sNMvRDp40
  
厳格な父からのプレゼント。思わずうれしくなって、ついつい開けてしまう。

こういうものは家族がそろって食事するときにでも
開けなければいけないんだろうけど。 

「やだ、お父さんったら…」

苦笑い。箱の中身は口紅。真っ赤な色した口紅。

    『女の口紅は赤いものだ』

厳格で真面目なのがとりえ父の乏しいイメージ。
こんな赤い口紅なんて、外につけていけるわけないじゃない。

ベージュとか、ピンクとか。20ちょっとの女の子がつけていいのはそんなところ。

なんで苦笑いしたかって?

―そっか。知らないもんね。うちのお父さん。
超厳しいの。軍人さんでね、めったに家にも帰ってこないし、
いつも口をむすっとしてて、めったに笑わないんだ。



  
25: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:12:00.07 ID:sNMvRDp40
  
でも、そんなお父さんがデパートでまごまごしながら口紅を買う姿。

店員にあれこれ言われながら結局「もう、これでいい!」とか言いながらなんだろうな。

それを想像したら、つい笑っちゃった。 
まずは鏡の前へ。この真っ赤な口紅をつけた姿をお父さんに見せてやろう。

今度はあたしが笑わせる番でしょ?

「……」
「……」
「帰ってください」

あれ? 応接室のほうから声がする。男の人が二人と、女の人が一人。
女の人はお母さんの声だな。

…男の人は…お父さんの声じゃない…?



  
26: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:14:08.53 ID:sNMvRDp40
  
「陸軍省は最後まで職務を全うしたご主人の英雄的行動をたたえ、
 共和国議会勲章を与えることになりました。
 これにより首相の推薦によりご子息を幹部候補生課程へと…」

「帰ってください!あなたたちは…あの人だけでなく、
 娘すらも奪っていく気ですか!
 娘は…娘がようやく大学を卒業したときにこんなことだなんて…!」

…え?職務をまっとう?英雄的行動? お父さんが?

 ちょっと理解の範疇を超えている。
 応接室に聞き耳を立てていたあたしは、
 いつの間にか身を乗り出していた。

 お母さんと制服を着た男の人が二人。テーブルを挟んで対峙していた。
 男の人たちの制服は、お父さんのとそっくりだった。



  
28: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:19:56.48 ID:sNMvRDp40
  
「ご息女でらっしゃいますか。失礼いたしております、
 近衛師団本部から参りました。お父様は残念でした」
「つーちゃん、お父さんはね、お父さんはね…」

私の姿を見ると、お母さんが駆け寄ってきて、そのまま泣き崩れてしまった。
自体が飲み込めないでぽかんとしている私を尻目に、制服さんたちは続けた。

「…これをごらん下さい」

制服さんが懐から端末を取り出し、スイッチを押す。
どうやらテレビの機能があるらしく、静かな応接間に
ノイズ混じりの声が響いた。いつものメインキャスターの声。

あたしはあんまりこいつが好きじゃない。こいつが夜やってる
歌番組自体は好きだけど。

『ザッ…首都で起きたデモにおいて一時民衆は暴徒と化し、
 鎮圧に近衛師団の戦車が乗り出しました。これに反発した暴徒は
 戦車に対し投石を繰り返し、最終的には猟銃による発砲騒ぎとなりました。
 これにより説得に当たっていた現場の隊長が負傷。搬送先の病院で
 死亡しました…ザッ…プッ』



  
29: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:21:29.75 ID:sNMvRDp40
  
「…こちら遺品になります…」

そういって布切れが一枚テーブルに置かれる。真っ赤なスカーフ。
近衛師団員の証。そしてどす黒いしみがついている。

「お父様は暴徒と化した民衆にも発砲することなく毅然と対応し、
 ハッチから身を乗り出し暴徒の説得と沈静化に勤めていましたが
  …そこを…」
「帰ってください…お願いだから帰ってください…
 娘を…つーちゃんを持っていかないで下さい」

お母さんは嗚咽でもう言葉にならない。

…あたしはしっかとお母さんの肩を抱く。
あたしと同じ、細い肩。 その感触をしばし確かめてから、お母さんを見つめる。



  
31: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:25:40.58 ID:sNMvRDp40
  
「お母さん。書類をちょうだい」

泣かないで。お母さん。私がお父さんの代わりになるから。
お母さんが教えてくれたお化粧のしかた。私は今日で忘れます。

泣かないで。お母さん。
パーマともカラーリングともお別れ。お父さん譲りの真っ黒な髪、
私がしっかりと受け継ぎます。

だから、泣かないでお母さん。


さようなら。お父さん父が残してくれた口紅。

―するべきことを見つけたから。
―もっと鮮やかな赤を見つけたから。

 あたしはつー。誇り高きVIPの守護者、近衛師団戦車連隊長の子。
       
                      そしてその遺志を継ぐべき存在。



  
32: 1 ◆OC3qKKb/tI :2007/01/07(日) 23:26:22.96 ID:sNMvRDp40
  

tips-2

「紅色少女」
   
                 終



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