( ^ω^)が日記を読むようです

  
3: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:32:13.25 ID:bPYrCeXI0
  
ピッ…ピッ…ピッ……
四角い機械尽くしの真っ白な部屋に、電子音が規則的に鳴り続ける。
その部屋の真ん中には、同じく真っ白なベッドに
ツンは眠っていた。



  
4: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:32:39.20 ID:bPYrCeXI0
  
ついさっきまで病室にいたツンのお母さんは、憔悴しきった様子でツンのお父さんに連れられて病室を出て行ったばかりだった。
僕は今、この真っ白な部屋で、ツンと、二人きりでいる。

( ^ω^)「ツン…」
ξ )ξ「……」

呼びかけてもツンは起きる様子はない。
ツンは寝起きが悪い。だから声をかけて素直に目を覚ますなんて事滅多にない。
あるとしたらそれは、メタルスライムに逃げられないくらいレアだ。
もしかしたらそれよりレアかもしれない。



  
5: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:33:19.84 ID:bPYrCeXI0
  
( ^ω^)「ツン…、ツン……」

だけど、呼ばずにはいられなかった。
この先ずっと、寝起きの悪いツンに悩まされてもいい。
無理やり起こして、
ツンの逆鱗に触れて、
聞いたことないくらい難易度の高いプロレス技を落ちるまでかけられてもいい。

( ^ω^)「ツン…起きるお……」

ただ、目を覚ましてほしかった。



  
6: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:34:07.35 ID:bPYrCeXI0
  
僕の手には今、赤い表紙の本がある。
正確に言えば本ではなく日記、今目の前で眠っているツンの日記が。

ξ'ー`)ξ「これね、ツンが毎日書いていた日記みたいなの」

ツンのお母さんが頼りない手つきでバッグから取り出した、赤い表紙の日記。
何も書かれていない、シンプルな赤いだけの表紙。
ツンらしいな、と思った。



  
7: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:34:48.37 ID:bPYrCeXI0
  
ξ'ー`)ξ「おばさんね、少し読んだんだけど…」

手渡され、軽く力を込められた。

ξ'ー`)ξ「これね、私が読んだらだめだと思ったの。ブーンくんが読まなきゃって…」

それだけ言って、ツンのお母さんはお父さんと一緒に病室を出て行った。
医者の説明を、ツンの状態を聞きに。

ξ'ー`)ξ「…少しの間、ツンをお願いね」

僕は行かなかった。
行っても聞かせてもらえないだろうし、なにより、聞く必要がなかった。

『自分の無力さを歯痒く思うよ』

もう僕は聞いてしまったから。



  
8: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:35:29.03 ID:bPYrCeXI0
  
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン」
( ^ω^)「お? 何だお?」

中庭のベンチに並んで二人。
のんびりとお弁当をつついていた時、ツンが箸を止めて言った。

ξ゚听)ξ「約束してほしいことが…お願いしたいことがあるの」

すごく真面目な顔で。
ツンからのお願いは滅多にないから(それこそ命令はしょっちゅうだけど)僕も箸を思わずとめた。
ポロ…と出汁巻き卵が箸から転がって地面に落ちた。 グッバイ出汁巻き卵。

(;^ω^)「(出し巻き卵が…!) ど…どうしたんだお? 突然…」
ξ゚听)ξ「あのね…」



  
9: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:36:12.63 ID:bPYrCeXI0
  
○月×日
最近なんだか体調がおかしい。
貧血なのかなぁ…。 よく分からないけど、目眩がすることが多くなった。
特に立ち上がるとき。
すぐに治るからいいけど、朝起きるのがさらに辛くなった。
ブーンの苦労が一つ増えちゃった。

いつも待たせてごめんね。
いつも自転車に乗せてくれてありがとう

今度お礼にお弁当を作ってあげようかな。
あ、でも朝起きられないからなー
日曜日とか、デートの時とくぁwせdrftgyふじこ



  
10: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:37:06.82 ID:bPYrCeXI0
  
最後の一文はグチャグチャになっていた。
きっとこの日記を僕が読んだことを知ったら、ツンが真っ赤になって怒るだろう。
きっと、とっても高いケーキとか、パフェとかを奢らされるはめになるんだろうと思う。
ツンは甘いものが大好きだから。
ケーキの有名店とかには凄く詳しいから、きっと一番高い店で奢らされるんだろうな。

今までなら、きっと。



  
11: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:37:57.32 ID:bPYrCeXI0
  
○月△日
今日、目眩の原因が分かった。
起立性なんたら、ってやつ。
ゆっくり立ち上がれば大丈夫みたい。
情報提供ありがとう! しぃ
不安解消(*^ー^*)

しぃに美味しいクレープ屋さんを教えてもらった。
屋台型で、神出鬼没らしい。
いつか絶対見つけて食べたいな。
スペシャルベリーカスタードが美味しいんだって!
ブーンには青色1号ポーションなんとかっていうのを勧められた。
…おいしいのかな?
本当に青い色してるのかな。 気になる!



  
12: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:38:41.25 ID:bPYrCeXI0
  
( ´ω`)「……」

日記を捲る手を止める。
この頃のツンはまだ知らなかったんだろう。
知っていたら、こんな日記にはならない。
この頃のツンだったら、あんなお願いはしてこないだろう。
僕は一度深呼吸をして、ページを捲った。



  
14: 黒豆(二粒) :2006/12/23(土) 14:39:24.01 ID:bPYrCeXI0
  
▼月○日
おかしい。
ゆっくり起きても、立ったままの時も、目眩がするようになった。
一瞬、電気が突然切られたみたいに目の前が真っ暗になることも。
これも起立性?
わからない。
今日、薬局で鉄分のサプリメントを買った。
とりあえずこれで様子をみてみよう。



  
15: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:40:21.52 ID:bPYrCeXI0
  
▼月■日
パソコンで調べてみた。
やっぱり起立性の何かではないみたい。
サプリメントの効果はまだ出てない。 目眩の回数が増えたような気がする。
明日、病院に行ってみよう。 ちょうど、土曜日だし。

今日、ブーンが数学の宿題忘れて立たされてた。
そのせいで放課後ブーンは特別講習。
先生に「いつになるか分からないから帰りなさい」って追い出されちゃった。
今日は一緒に帰りたかったのに。



  
16: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:40:59.09 ID:bPYrCeXI0
  
▼月☆日
血液検査をした。
下手な看護婦さんにあたっちゃったみたい。
すっごい痛かった。 最悪。
アザになっちゃったらやだな。
もー 最低。

ただの貧血でありますように。
結果は来週までおあずけ。 気になるなー

病院でもらった薬がすごく苦い。
良薬口に苦し!



  
17: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:41:38.91 ID:bPYrCeXI0
  
そのあとの一週間はそれまでと同じように体調のことから学校のことが書かれていた。
やっぱり体調は病院で処方された薬を飲んでも変わらないみたいだった。
そして、
血液検査の結果が出る、次の土曜日。

僕はページを捲る。

心臓がバクバクとうるさい。
ツンもこの日、同じような気持ちだったのかもしれない。



  
18: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:42:19.97 ID:bPYrCeXI0
  
(  ω )「!?」

■■■■■■■■■■
■■■■■
■■■■■■■■■
■■■■■■■■

日記は真っ黒に塗りつぶされていた。



  
19: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:42:56.47 ID:bPYrCeXI0
  
ξ゚听)ξ「あのね……」

沈黙。
僕は黙って続きを待った。
そうしなきゃ、いけない気がしたから。
そして、ツンが決心したかのように口を開いた。

ξ゚听)ξ「…もし、もしね? もしも、の話なんだけど…」

何度も念を押された。
もしもの話。
仮定の話。



  
20: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:43:40.63 ID:bPYrCeXI0
  
約束なんてしなければよかった。
お願いなんて聞かなきゃよかった。
後悔先に立たず。
まさに今の状況にぴったりの言葉だと思う。

ξ゚听)ξ「私が、もし…」



  
21: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:45:09.12 ID:bPYrCeXI0
  
■月○日
今日、ブーンと約束をした。
変に思われなかったかな?
気づかれなかったかな?
ギリギリまで知られたくない。
そうなる日まで。
ブーンに余計な心配かけたくないから。

だったら、約束もしなきゃいいのに。
ごめんね、ブーン



  
22: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:46:11.68 ID:bPYrCeXI0
  
ソノ時、僕は学校にいた。
丁度授業中で、数学で
携帯が震えているのには気づいていたけど、それに触れることはできなかった。
学校終わったらすぐにツンのお見舞いに行きたかったから。
特別講習を夜までやるわけにはいかなかったから。

そう
ソノ日、今日、ツンは今学期何度目かの欠席をしていた。



  
23: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:47:05.56 ID:bPYrCeXI0
  
授業が終わってすぐ、携帯を見た。
たくさんの履歴。
家から、家から、ツンの家から…

( ^ω^)「ツンの家から? 何でツンの携帯じゃないんだお?」

ピカピカと携帯が点滅する。
留守電の合図。
何だか、嫌な予感がした。
急いで操作をして留守電を聞く。
そこには切羽詰った声が入っていた。



  
24: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:48:12.25 ID:bPYrCeXI0
  
(;^ω^)「っ!」

メッセージを聞いて反射的に立ち上がる。
椅子が大きな音を立てて倒れた。

('A`)「ん? どうしたんだよ、」

気だるげに机に突っ伏していたドクオが顔を上げた。
眠っていたのか目が細められていた。

(;^ω^)「ど! ドクオ! 悪いけど僕早退するお! 先生によろしくだおー!!」

手荒く荷物をまとめて教室を飛び出した。
人生初のサボりだったけど感慨に耽る時間も余裕もなかった。



  
25: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:50:12.31 ID:bPYrCeXI0
  
走った。 全力で。
空を飛べるんじゃないかってくらい。
いっそ飛べたらよかったのに。

『ツンが…!
 ツンが倒れたの!』

『ツンちゃんが倒れたって連絡があったわ
 学校なんて放って行ってあげなさい
 VIP病院よ、知ってるわね?』



  
29: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:52:47.29 ID:bPYrCeXI0
  
病院の受付に駆け込んでツンのことを聞いた。

( ゚ω゚)「ツンは! ツンはどこだお?!
      今日、2時間くらい前にここに! 女の子が!」
爪*゚〜゚)「えっと…少々お待ち下さい…」

受付の人が調べている僅かな時間も惜しい。
早く、早く、早く、早く…!

爪*゚〜゚)「あ・これですね、緊急入院のツンさん。 8階889号室です。 でも、」
( ゚ω゚)「ありがとうだお!」



  
30: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:55:42.28 ID:bPYrCeXI0
  
エレベーターも使わずに階段を一気に駆け上がる。
8階
889号室
ツンの名前も書かれている。

面会謝絶。

この四文字に、僕は阻まれた。


***



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