( ^ω^)ブーンが幸せの意味を知るようです

  
1: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/30(水) 23:41:00.87 ID:+3Z6po030
  
--第12話--

ガタン




薄寂れた廃屋に物音がする。

ミ,,゚Д゚彡「風の音か・・・」

フサギコは、物音には敏感に反応する方である。
耳がいいだけなのか、それとも神経質なのだろうか、と本人は気に病んでいる。

フサギコは考える。
こんなに敏感でなれけば、「あんなモノ」を見なくて済んだのだろうか・・・


バタン!
勢い良く廃墟のさびれたドアが開く。

ミ,,゚Д゚彡「誰だ!」



  
3: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/30(水) 23:49:05.50 ID:+3Z6po030
  
( ´∀`)「フサギコ、俺だモナ。そんな警戒しなくてもここには誰も来ないモナ」

そこには見慣れた顔があった。
フサギコがマフィア組織"黒胡蝶"に流れ着いた頃、ほぼ同時に組織に入った青年である。

西の島にはマフィアやゴロツキが多い。
治安が悪いわけではない。

どこの出身のどのような人間であっても西の島に居を構えれば生活を保障される、という条例があるため
訳ありの人間が最後に流れてくる場所になっている。

フサギコと同じ時期に組織に入ったモナーという名の男。
それが本名か、どんな経歴の持ち主かは分からない。

この黒い世界でそんな事を聞くのは野暮だ。



  
4: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/30(水) 23:59:38.68 ID:+3Z6po030
  
ミ,,゚Д゚彡「しかし、用心には用心を重ねないと、な」

マフィアのボスを殺したのだから、表彰してくれてもいいものモナ、なんて冗談をモナーは言う。

( ´∀`)「まぁ、今では指名手配犯だものモナな。しかし、それにしても浮かない顔モナ。
      何かあったモナか?」


フサギコは腰を上げる。

ミ,,゚Д゚彡「ちょっと、昔の事を思い出してな・・・」

もう、10年近く前の事になるだろうか。
まだフサギコが幼かった頃は。

暖炉の傍で寝ようとも、芯から凍えてしまうような寒さを持ったあの夜は。



  
7: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 00:10:53.36 ID:oEFu0bVl0
  



すっかり夜も更け、雪が積もりゆく頃、
幼かったフサギコは、双子の妹と一緒に眠っていた。


どうしてだが、フサギコはふと目覚めた。寒くて起き上がるのは体がだるくて億劫だった。
最近体の調子がよくない、と幼心に感じていた。

・・・何故だ?暖炉が暖かい。

母が起きてきて火を足してくれていたのだろうか。


その時、ぱたん、と普通の人には聞こえない程のかすかな音でドアが閉まった。



母さんだ。

なんとなく、フサギコは確信した。子どもの勘というものだ。


でも、どうして?母さんは、病気で起き上がれないはずなのに。



  
9: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 00:19:34.30 ID:oEFu0bVl0
  



もしかして、元気になったのかな。

淡い期待かも知れない。母さんは重い病だと言っていたから。でも、でも。もしかしたら。

フサギコは眠い体をたたき起こし、目を擦りながらベッドから立ち上がった。
妹を起こさないように上着を取り、ゆっくりとドアを開け、そして閉めた。


母の部屋は離れにあるから、少し遠い。フサギコの小さな歩幅では母には追いつけそうも無い。

そうだ、スノードロップ。妹と一緒に育ててやっと咲いた白い花。
これを母さんに持って行こう。行くのは遅れちゃうけど、母さんに見て欲しいから。


そう思った幼いフサギコは、少し遠回りをして花を摘んでから母の部屋まで歩いていった。



  
12: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 00:33:03.91 ID:oEFu0bVl0
  
息を切らしながら廊下を走るフサギコ。
この角を曲がれば突き当たりに母の部屋がある。

こんな遠くに部屋があるなんて、隔離されてるみたいで嫌だな、と思いながら歩みを進めると
母の部屋に入って行く人影があった。


父親?まさか・・・ね。


フサギコには父親がいない。母に父の事を聞いてもはぐらかされるのだ。
大きくなれば会わせてあげるわ、まだ貴方達は会うのは、現実を知るのは荷が重い。

そう母は言うばかりだった。

きっと母の嘘だろうとフサギコは確信していた。



  
17: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 00:46:00.15 ID:oEFu0bVl0
  
しかし、その人影は背の高さや体つきからして男のようだ。

無造作に伸びたブロンド。
・・・あの男かも知れない。

なんの取りえもないただの人間のくせに、この家にずかずかと入ってくるあのわけのわからない男。

母とやたらに仲が良いものだから、フサギコはあまり彼のことが好きではなかった。
しかも妹が存在しない「父親のように」慕っていたものだから、余計気に食わない。

小さいながら、嫉妬心だけは一人前の男の子だ。

そんな彼が起こした行動は、



  
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/31(木) 00:47:38.14 ID:oEFu0bVl0
  



部屋を覗き見てやろう、というものだった。

あの男と一緒に母を見舞うのなんてなんだか許せない。
でも、こいつが来たって事は、母さんはこいつに会えるという事。

それは母さんが元気になったという証拠。


だから、あの男が去るまでここにいよう。
それで、帰ったら入れ替わりに僕が入ろう。


母さんには、僕だけをみてほしいんだ。
しかも会話もここなら聞こえる。この男を知るチャンスだ。
僕って悪い子だなぁ。

フサギコは心ではそう言いながら、しかしニヤリとしながら壁に耳を当てた。



  
20: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:00:15.47 ID:oEFu0bVl0
  


「もう、いいのか?」

男の声がする。何がもういいのだろう。

('、`*川「えぇ、もうこれ以上は無理だわ・・・」
続いて母の声。

('、`*川「私は思った以上に長く生きたわ。もう、そろそろ休むときなのよ」

「あぁ、お前はもう十分生きた。幸せだったか?」

何を、何を言っているのだろう。
この会話は何だろう。いやだ、怖くて背筋が凍る。

('、`*川「それはとても幸せな人生だったわ。友達に会えて、好きな人に会えて、
     ・・・子ども達に会えたのだもの。」

('ー`*川「貴方に会えて、良かったわ。だから・・・」

ドアの向かいにいるフサギコは、固まってしまって動けなかった。

もう嫌だ、続きを聞きたくなんかない。
この続きにはとても恐ろしいことが待っている、まちがいないんだ。

「続きは俺が言おう。俺が、お前を殺す。病に朽ち果てる前に」

それでもその声は声にならず、かすれて消えた。



  
23: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:23:45.27 ID:oEFu0bVl0
  

しかし、フサギコの異常な聴力はそれを聞き取った。
やめてくれ!聞きたくない!
そう叫んだフサギコの声も、声にはならなかった。

男はまだ話を続ける。
「子ども達への別れはあれでいいのか?」

('、`*川「起きているときに行くと、フサギコが離してくれなさそうだから。

     それに、私の死因は病死となって、早々に火葬される手筈になっているから
     言い訳が立たないわ」


母が困ったように笑っているのがドア越しにも理解できた。

フサギコはもう聞くことを拒絶していた。
どうしようもない恐怖にかられ、ただ、ドアの前に背をうなだれて立ち尽くすだけだった。



  
24: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:29:52.25 ID:oEFu0bVl0
  
「真実を伝える訳にはいかないからな・・・」

('、`*川「えぇ、でもいずれ姉さんがあの子達に教えてくれるわ。
     全てを、真実を、ね」

「お前の姉があの子達を見てくれるのだな。それが良い」

('、`*川「えぇ、そうね・・・。さ、もうそんなにお話してる時間はないみたいだわ。」

「あぁ、遺言を聞こう」

('、`*川「来世があるなら、今度は貴方と共に。
     愛という儚い夢に溺れた私に報いを。」

「・・・!」

ザッ


肉に刃物を突き立てる、嫌な音がした。

しかしフサギコはそんな音は聞いていなかった。
目に見える光景に、ただ、違和感を覚えていた。

背をうなだれたフサギコの目線の先にあったものは、母の部屋の鍵穴、その中の光景。


見たくも無いものを、見てしまった。



  
25: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:36:05.05 ID:oEFu0bVl0
  



もう見たくない、何も聞きたくないのに、男が一段と低い声で独白する。

「私もお前を・・・いや、それよりも許してくれ
 俺は、この剣は、お前だけでは足りず、まだ血を求める」

そう言って男は、母の部屋の窓から出て行った。


ミ,,゚Д゚彡「あぁ・・・あ・・・」

うまく言葉にならない。次に殺されるのは僕なのか。
妹もみんな殺されるのか?


スノードロップ・・・落ちちゃった。
花言葉の「希望」が欲しくてこの花を育てたのに。

そういえば、この花は人にあげると「あなたの死を望む」になるって誰かが言ってたっけ・・・

あぁ、僕のせいなのかな。



  
28: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:45:03.99 ID:oEFu0bVl0
  

フサギコはパニック状態に陥っていた。




いや、落ち着くんだ。
それよりも"これ"は何だろう。夢?


鍵穴の向こうで倒れているのは誰?

あそこで白い肌を鮮血で飾っッテいル女性ハダレ?



ボクハ アナタヲ マモレナカッタ



ミ,,゚Д゚彡「うわぁぁぁぁぁっ!!」

フサギコは走り出した。あてもなく。     

そうして、フサギコはあの家に帰る事無く、ひたすら孤独に流れて生きることになった。



  
29: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:53:36.85 ID:oEFu0bVl0
  




( ´∀`)「・・・サ、フサ?大丈夫モナ?」

ミ,,゚Д゚彡「あ・・・あぁ、すまん」

すっかり自分の世界に入ってしまっていたようだ。

( ´∀`)「過去を思い出すのも構わないけど、今はまだそんな時間ないモナ
      これからが大変モナ」

ミ,,゚Д゚彡「そうだな・・・それで、結果はどうだった?」


( ´∀`)「"黒胡蝶"の全組織人数が578人、その内の中間管理職以上の人間は全員消去完了、
      それ以下の下っ端369人を全員捕縛。今説得をしているモナ。
      
      説得に応じない物は処分でいいモナ?」


ミ,,゚Д゚彡「その辺はお前に任せる。別に生きて返しても構わない。
      説得に応じた者はここに連れて来てくれ。


      
      新たな新組織"逆さの胡蝶"の設立メンバーとなるのだから」



  
30: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 01:57:45.67 ID:oEFu0bVl0
  
フサギコを中心とした、新しい組織を完成させる。
それを言い出したのはモナーだった。

フサギコはまだ10代半ばだが、戦闘に長け、人の心を読み、何よりカリスマがあった。

そんなフサギコに惹かれた人間は少なくない。
モナーもその一人である。

彼らはフサギコが"黒胡蝶"のトップを殺して逃げた後、どうにか彼を見つけ出し、新しい組織を作らないかと話を持ちかけた。


"復讐"を目指す組織を。

大切な何かを奪われたものが集う場所。

フサギコは、その話をするモナーから何か強い意志を感じて、承諾した。

何より、復讐のためにこの世界に流れた彼には好都合であった。



  
31: 1 ◆et0cofkO4A :2006/08/31(木) 02:05:38.38 ID:oEFu0bVl0
  
( ´∀`)「分かったモナ!じゃあ、ちょっと様子を見てくるモナ。
      ・・・ところでフサは、この組織は間違ってると思うモナ?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、間違えてるな。



      でも、間違っていても憎しみは、復讐は止められないさ」


廃墟に冷たい風が吹く。

守りたいものを守れなかった人が足掻く世界に生きる人々。
彼らは後に水使いの少年達と交差する。


--第12話 終--



戻る次のページ