( ^ω^)ブーンが幸せの意味を知るようです

  
1:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:30:15.57 ID:EvHyY+xZ0
  
--第18話 後編--

( ^ω^)「お・・・?」

ブーンは目をまんまるくする。
あのドクオが、好戦的なドクオが守りに入るとは。

(;^ω^)「あのみかん攻撃でおかしくなっちゃったのかお・・・」

見かけは至って健康そうなドクオを心配そうにじっと見る。

('A`)「どうした?」

丸腰になったドクオが問う。
まぁ、マントの裏には嫌になるぐらいの量の武器が隠しされているが。



  
3:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:31:13.55 ID:EvHyY+xZ0
  


ブーンは思考を巡らせる。

( ^ω^)(あっちから攻撃してこないのは間違いないなさそうだお・・・)

最初は何か−その何かはちゃんと分からないが−を企んでいるのかと思った。
しかし、そうではない事をすぐに確信した。


ドクオの攻撃は基本的に、非常に威力が強い。
そのために攻撃に移るまでに大きな踏み込みや構えに時間が必要になる。

(;^ω^)(だから、こっちから攻撃を仕掛けて、その隙を突いてドクオが大型の技を放つことは多分、不可能だお!)

100%の確証はない。

しかし、これに頼るしかないのだ。

勝つためには。


ブーンの頬に冷や汗が流れた。



  
6:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:32:48.64 ID:EvHyY+xZ0
  

(;^ω^)「ドクオ、多少の時間は・・・猶予は、くれるのかお?」

('A`)「あぁ、俺はお前が何か仕掛けてくるまでは動かない。いつまででも待つさ」

−正々堂々闘ってくれることを信じているからな、ブーン。

ドクオは心の中でひとりごちた。



−良かったお。じゃあ、もういらない事は考えずに、これからの作戦を考えるお!

ドクオの思惑を知らずながらもほぼ同時に、ブーンが自分の心を自分の言葉で勇気付けた。


(本^ω^能)「そうだお!あきらめちゃいけないお!」

(;^ω^)「うぉっ!びっくりしたお!」

(本^ω^能)「本体のピンチと聞いて飛んできましたお。これで考えるスピードも2倍だお」

( ^ω^)「そいつはありがてぇだお」



  
8:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:36:20.12 ID:EvHyY+xZ0
  
(*‘ω‘ *)「あいつ何ぶつぶつ言ってるっぽ?」

ちんぽっぽが再びコロシアム場内の異変に気付く。余程鋭い子のようだ。

ブーンの正面にいたドクオもブーンの状態の変化に気付く。

('A`)「目が虚ろだな。また精神会話始まったか・・・まぁ、いいけどさ」



  
10:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:39:22.71 ID:EvHyY+xZ0
  
( ^ω^)「本能さん、これからどうするお?」

(本^ω^能)「うーんとだお、作戦を考える前に少しだけいいかお?これがいいヒントになるかもだお」

( ^ω^)「オフコース、続けてくれだお」


そう言って、続きを促す。

(本^ω^能)「ドクオ君は例えるなら剣のような子だおね」

( ^ω^)「そうだお、戦いとなるといつも先陣きって戦って・・・本当に一陣の修羅のような奴だお」

しみじみとブーン(本体)が言った。特訓でもあの背中にいつも憧れていたのだ、とも。



  
13:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:43:27.81 ID:EvHyY+xZ0
  
(本^ω^能)「それに対して、僕らは言うなら盾のようだお」


( ^ω^)「言われてみれば、納得できるお。僕はいつも攻撃を受けてばっかりで、後ろで何かを守るためにいそうだお」

うんうんと本体が頷く。



(本^ω^能)「その言い方・・・やっぱり本体の方も不満だったんだおね」





( ^ω^)「不満・・・?どういうことだお?」

思わず口がぽかんと開く。
いきなりの言葉にブーン(本体)は理解が追いつかない。



  
14:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:47:08.60 ID:EvHyY+xZ0
  

そんな本体の混乱を気にすることもなく彼は続ける。

(本^ω^能)「僕の顔に何がついてるか見えるお?」



(;^ω^)「何って・・・"本能"だお」

ブーン(本能)の素っ頓狂な質問に頭がこんがらがりそうになる。



(本^ω^能)「そうだお!忘れちゃいけないお、僕は君の本能なんだお?」



そういえば、彼の事はなんかおもしろい奴、としか思っていなかった。

ブーンは目で話を続けるように訴える。

(本^ω^能)「だから君が理性とか抜きで考えていることは僕にも分かるお。
    

        君は、ドクオ君が羨ましい、ずっと、あんな風に闘いたいと思っていた。・・・違うお?」



−どくん、と心臓がひとつ高鳴った。



  
17:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:52:29.63 ID:EvHyY+xZ0
  
(;^ω^)「そ、そんな・・・僕は、人を守るために水の魔法を選んで・・・」

ちゃんと喋れない・・・どうして?


(本^ω^能)「否定しきれてないお?」

腹立たしいほどの笑顔のまま本能が続ける。


(本^ω^能)「確かに、ブーン(本体)は人を守ると言って水の魔法を授かったお。

        ・・・喧嘩や争いごとは好きじゃないのも本当の事だお」

(本^ω^能)「でもね、洗礼のおっちゃんが水の魔法は守りの為だけにあると言ったかい?
 
        風の魔法は攻撃のためだけの魔法だと、誰かが言ったかい?





       ・・・魔法はね、使い方や、使う人の考え一つで全てが変わるんだお。

       
彼は早口にそこまで言い、まだ喋ることを止めない。

そこで、初めて哀れみの表情を浮かべる。



  
19:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:53:21.01 ID:EvHyY+xZ0
  







(本^ω^能)「君は、水使いだからという事を言い訳にして、思い切り闘うことを諦めているんだお・・・」


(;^ω^)「ちが・・・ちがうお・・・」


さっきより自分の声が声が心細く聞こえる、脈も、呼吸も速い。






(本^ω^能)「君は、ドクオ君に憧れていると言ったお。どうして"憧れ"ているんだお?別の感情ではなく、ね」





( ^ω^)「!!」



  
21:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:54:58.28 ID:EvHyY+xZ0
  


−どくん、どく、どくん

心の臓が張り裂けるほどに、叫んでいた。


それには触れたくなかった、触れて欲しくなかった。

戦いたいと思いながら戦えない。

そんなのが知られてしまったら。



臆病者と呼ばれそうで怖かったのだ。臆病者なのに、臆病と言われるのが嫌だった。

そんなところまで、弱くて情けない。



  
24:◆OLIVIA/O7I :2006/09/16(土) 23:58:45.34 ID:EvHyY+xZ0
  



僕だって、"思い切り戦ってみたい"という気持ちだってあったのだ。

だけど、剣を振るうことを恐れる心が、
人を傷つけるのを恐怖する心が、

臆病者の自分がそれを許さなかった。


攻撃役にはドクオがいるから大丈夫、だから後衛役になろうと勝手に動いたのも僕。

自分に、"守り"と言う名の枷をつけ、動き出さなかったのも自分だったのか。



(;^ω^)「僕は・・・ぼくは・・・」

だって、だって、だって!!
そこまで言ってみるか、言い訳も思い浮かばない。

足元ががらがらと崩れてしまいそうな不快感。



  
28:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:05:58.66 ID:mARMtn+b0
  
(本^ω^能)「ねぇ、ブーン(本体)」

ブーン(本能)が優しく話し出した。


(本^ω^能)「僕には分かるお。もう君はまたちゃんと歩きたがっていることを。
     
        だから、傷つきたがるのは止めるお」

やはり彼は僕の本能なのだろう。

理性や、たくさんのいらない物が、感情が無いため、
彼の言葉は本当に素直だと感じるんだろう。

そんな彼の的確な忠告に、ぐうの音も出ない。



  
30:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:08:02.63 ID:mARMtn+b0
  

(本^ω^能)「君は気付いていたかお?ドクオ君だって、きちんと仲間を守る力を持っているんだお?


        彼は本当の戦いになれば強靭な刃となり、前線で敵を蹴散らすだろう。

        敵を減らせば、弱らせれば弱らせるほど、それに比例して味方への脅威は減る。」




そこで、彼は一拍の間をおく。

そして、言った。






──それは、"守る"ことにはならないかお?

──彼にだって、大事なものを守る力があるんだお



と。



  
33:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:09:48.68 ID:mARMtn+b0
  


どくん。

−大事なものを、守る力−

僕が今、何よりも強く欲しているもの。





( ^ω^)「・・・」

僕は彼の言う言葉を聞き、完全に黙ってしまっていた。


(本^ω^能)「少し・・・言い過ぎたかお?大した言葉じゃないけど、君の心にはよく響いたかもだお」

ちょっとだけ困った顔で彼は言った。


(本^ω^能)「人にはそれぞれ、本分というものがあるから、無理しちゃだめだお?」


( ^ω^)「僕も・・・」


ブーンが呟いたかと思うと、いきなり声を荒げる。



  
34:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:10:44.40 ID:mARMtn+b0
  
( ^ω^)「僕も、あんな風に、ドクオみたいになれたら、大事なものを守れるかお!?」


(本^ω^能)「それは、間違っているよ。


        ドクオ君みたいになるんじゃない。ブーンはドクオみたいには、ドクオにはなれないお」


その言葉を聞いて、ブーン(本体)はげんなりとしょげる。



( ´ω`)「・・・じゃあ、どうすればいいお?」



  
37:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:12:34.66 ID:mARMtn+b0
  


(本^ω^能)「ブーンはブーンだお、他の誰でもないお!
    
        いくらたくさんの感情と共に生きてる本体でも、そんな当たり前の事は忘れちゃいけないお!


        自分らしさは、自分で見つけるお、一緒に頑張るお!!」


ブーン本来の陽気さで彼は言った。



( ^ω^)「・・・!!」


(本^ω^能)「僕が僕として、"本能"として言えるのは、暴れて来いってことぐらいだお!

        もしかしたら、そこで何かが見つかるかも知れないお。




       濁流のように荒ぶってくるお!!!」



そう言って、彼は僕の目の前から消えた。



  
40:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:15:44.91 ID:4jhnpARq0
  


その直後、眼前に見えたのはドクオ、続いてコロシアムの風景。


−そうだ、僕は闘っているんだ。最大の好敵手と。




ブーンの目にもう迷いは無かった。



( ^ω^)「み な ぎ っ て ま い り ま し た!!!」


('A`)「お?」

ドクオの顔が僅かにだが驚愕にゆがむ。


さっきまで目が虚ろだと思ってたのに、なんだろうな、この違和感。

ブーンの目の意志の強さを、ドクオは不思議に感じていた。
そして、すこしだけ「その目を恐ろしい」と、戦慄を覚えていた。


ブーンが精神会話を始めてから3分ほど経った時のことだった。



  
44:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:18:36.48 ID:4jhnpARq0
  

(;'A`)「ついにやる気になったかっ・・・っとぇっ!」



−ばしゃあっ!


ドクオが変な声をあげて、水浸しになる。

地中から水を巻き上げ、ドクオの足元からそれを吹き上がらせたのだ。



('A`)「てめっ!服ずぶ濡れだし・・・剣だって錆びたらどうしてくれるんだっ!!」


そう言って彼はナイフを構える。

ブーンはドクオに向かっての疾走を始める。



  
46:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:21:36.62 ID:4jhnpARq0
  

そして、迎え撃たんとドクオが一歩大きく踏み出す。

('A`)「サイコロ型に切ってLEGOブロックにしてやっ・・・


べちゃり。

泥状になった土にドクオの体が沈む。


うつ伏せに倒れてしまったドクオ。

ブーンには絶好のチャンス。
ドクオには最大のピンチであるこの状況。

ちゃきん、と音がするほどに双剣使いは「それ」を強く握り締めた。

足を止めずにブーンが大きな声で笑いながら言う。

( ^ω^)「水びたしの土の上で踏み込んだらそうなるのは目に見えたことだおっ!」

ブーンは天に掲げた両手を限界までしならせ、


そして、振り下ろした。



  
49:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:27:03.22 ID:4jhnpARq0
  


ブーンは後に語る。

あの時は正直勝ったと思ったお、と。



(;^ω^)「ちぃっ!」


状況はこっちの方が有利だったのにだお!

ブーンは心の中で憤る。


('∀`)「こんなので俺を止められると思うなよ」

ドクオが不敵に、しかし面白そうに微笑う。

そして立ち上がり、泥を払う。
その体に傷は一つも無かった。



  
52:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:30:56.04 ID:4jhnpARq0
  

ブーンが両の剣を振り下ろしたその瞬間のこと。

ドクオの周辺につむじ風が起こった。
そのせいで彼の腰のマントが翻り、凶器が全てこちらを舐める様に見ていた。

そして、風はドクオからブーンの方へ更に吹き荒れ、
20本ほどの凶器がこちらへ突進してきたのだった。


ブーンは魔法で水の壁を作った。
そして後ろへ飛び下がった。

水のせいで減速したナイフは、
それでもブーンを襲わんと宙を舞ったため、服が浅く切り裂かれてしまった。


(;^ω^)「こっちも傷がなくて良かったお・・・」

ブーンは傷が無いのを確認し、安堵の息を吐いた。



  
53:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:35:50.07 ID:4jhnpARq0
  

そして再び睨み合う二人。

('∀`)「・・・」

ドクオは視線は外さずに、一瞬殺気を緩めて笑う。

( ^ω^)「なんだお?」

不思議に思ったブーンが尋ねる。

('∀`)「いや、返り討ちにした時のブーンの顔が面白くてつい、な」


どんなアホ面をしていたのか一瞬不安になる。


('∀`)「それと、やっといい目をするようになったなと思ってな。楽しいぜ、ブーン」

−楽しい?

確かに、さっきから感じるこのすっきりとした気分。

( ^ω^)「これは、僕もひょっとすると楽しいのかもしれないお」

戦いとは真剣であるものだと考えていたブーンには意外な感情であった。



  
57:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:45:55.82 ID:4jhnpARq0
  

やっと楽しくなりそうだな。
剣と剣の闘争、このライバルはブーン以外に有り得ない。


元々こいつも、血の気は多いのだから。


ドクオはそう思い、にやりと笑った。


─しかし、コロシアムでこれ以上長引かせるのもな。

早く終わらせなければ、次の試合の体力が足りなくなる。
・・・どっちが勝ったとしても。


ブーンもドクオも、息が上がってきていたのだ。


('A`)「これの続きはまた特訓でするとして、今はそろそろ決着をつけようぜ」

いつものようにクールに振る舞い、ドクオは言った。



  
59:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:52:02.15 ID:4jhnpARq0
  


( ^ω^)「わかったお!次できめてやるお!!」


−全く、ちょっと前まで押されてた奴がナマ言いやがって。

そこまで考えて、ドクオの思考は停止する。
直後、彼には戦いの最期を飾るか、それしか頭に無かった。


ドクオが後ろに跳躍。

観客席の手摺まで退却する。

ブーンはそれをじっと見て、動きを捕らえようとする。


両者とも、最後は自分の得意分野で攻めることにしたのだろう。



  
62:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 00:59:52.15 ID:4jhnpARq0
  


ドクオは辺りに観客がいないところまで手摺を伝って歩く。

周りに人がいれば、とばっちりが飛ぶことを考えてブーンは無闇に攻撃出来なくなる。



だから、わざわざ人がいない所まで歩いた。



( ^ω^)「!!」

ドクオが人のいないところまで歩き、そして辿り着いたその瞬間。


大きな、そして強い風の流れを感じた。


それを少しでも阻止せんと、
ブーンはドクオに向かって幾条もの氷の刃を放つ。

しかし、それは虚しくもドクオの周りを付き従う風に弾かれ、コロシアムの土に突き立った。



  
63:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:03:40.65 ID:4jhnpARq0
  


風は勢いを増し、近くにいる人の髪を強くかき乱している。

これが限度か、とドクオが思い、そして口を開く。



('A`)「ブーン、構えろ」


低い声で言い放ち、そして飛んだ。

手には、数え切れない程のナイフや短剣。
風までもが剣を従え、ドクオの周辺にそれを浮かせている。


ブーンが少しだけ視線を下げると、マントが大きく風に揺れてはためいていた。



−全ての武器を使って攻撃してくるつもりかおっ!

ブーンがその言葉を声にする時間は、無かった。



  
68:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:12:35.79 ID:4jhnpARq0
  

('A`)「喰らって倒れろ!!」

幾十、百に近いほどの刃物の到来。

(;^ω^)「どこにこんだけ武器隠してたんだおっ!!・・・でぇぇぇいっ!!」


ブーンは驚きの余り叫んだあと、息を吸い込み両手をドクオの方、ほんの少しだけ上方へと差し出した。


(;^ω^)「当たらないお!!!」

その差し伸べられた両手から、ひやり、唐突に冷気が漂う。

その冷気は氷の粒となり、両手の少し先、何も無い空間に収束する。

ぱきぱきぱき、と音を立てて形勢されたそれは。


('A`)「鏡・・・!?」


ドクオの驚いた声。

氷で作られた巨大な、それはそれはとても大きな円盤が、凶器の軌道に形成された。



  
69:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:21:08.98 ID:4jhnpARq0
  

ブーンの方からは、円盤のせいでドクオの体の一部も見ることは出来ない。
あちらとてそれは同じだが、ナイフは今どこまで来ているのk・・・

そう思った瞬間。


がしゃり


と壮大な音がして氷が割れた。


落ちゆく氷の隙間から見えたものは─ドクオに向かって反射していく鋭い鋼の群れ。



  
72:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:26:06.33 ID:4jhnpARq0
  



方向にも寸分の違いもない。

ナイフは地上に突き立つようなベクトルを描いて飛ぶ。




その途中、数本のナイフがドクオの服に食い込む。

( ^ω^)「予想通りだおっ!」



そして、ドクオはナイフに捕まり、大地に縫い付けられた。


ドクオはもがくが、腕、腹、足全てを拘束されており、
その上深く突き刺さっているため抜けない。


─ドクオは、そこからもう動けない。

この好機を逃すまじとブーンはナイフを、その先のドクオを追いかけて走り出した。



  
76:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:41:38.07 ID:4jhnpARq0
  

( ^ω^)「さぁ、もう勝ち目はないお!!チェックメイトだお!!」

ブーンはドクオの傍らにしゃがみ込み、彼の顔を覗く。


・・・?
一瞬姿が陽炎のように揺らめいた気がした。だが、気のせいだろう。

('∀`)「そうだな・・・もう動けねぇや」

大地に仰向けに寝そべったドクオが力なく笑う。




( ^ω^)「もう、終わりだお。続きはまた後でやろうだお。さぁ、ギブアップを言うお!」

('∀`)「あぁ、終わりだな・・・でもさ」



  
77:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:42:43.93 ID:4jhnpARq0
  
その時、観客がざわめいた。
彼らも試合の雌雄がついたからだろうか?


その時、もう一度ゆらりとドクオの体が大きく揺らめき、


ドクオの体は、そのまま消えてしまった。



( ^ω^)「!?」






('A`)「降参するのはお前だよ」



背後から「彼」の声がした。



  
78:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:44:30.48 ID:4jhnpARq0
  
同時に、たすっと心地のいい音がして、ブーンの首に手刀が放たれた。



('A`)「さっきのは俺の風が作り出した空蝉。残念だったな」




─あぁ、やっぱりかなわないお・・・

そう思いながらブーンはゆっくりと倒れていく。
彼の意識はそこで途絶えてしまった。





(;'A`)「やっべ、力入れすぎた」



  
79:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:52:42.33 ID:4jhnpARq0
  
  _
( ゚∀゚)「あいつら、中々やるようになったじゃねぇか」


気を失ったブーンは担架で運ばれていく。
ドクオは心配そうにその隣について歩く。

(´・ω・`)「あれだけやり合っておきながら、ブーン君の昏倒以外は怪我ひとつないとはね・・・

      正直びっくりだよ」


2人は安心しきった表情で弟子を見ている。
不安は、取り除かれたようだ。

その時、ぴりりり、とジョルジュの腰のポケットから甲高い電子音がした。

ジョルジュが腰から四角い物体を取り出す。



(´・ω・`)「ジョルジュ、それは"携帯電話"というものかい?」

ショボンが興味深そうに聞く。



  
81:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 01:53:50.64 ID:4jhnpARq0
  
  _
( ゚∀゚)「あぁ、なんでも東の島の最新の発明らしいな。
     遠くの人間とも声でやり取りができるとかすげぇよな。

     じいさんが持たせてくれたもんなんだが・・・ちょっと話してくるわ」


そう言って、ジョルジュは席を立つ。


鼻歌を歌いながら。




それは、妹からの電話であり、


悲しい知らせである事など知らずに。



  
84:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:06:55.73 ID:4jhnpARq0
  

( ^ω^)「お・・・?」

目覚めたブーンの視界に飛び込んできたものは、天井と、自分の足が投げ出されているあたりに座るドクオ。

声をかけようとしたが、目は閉じられ、頭がかくかくと揺れていたので止めておいた。

( ^ω^)「ここは・・・観客席かお?」

落ち着いて考えてみる。
コロシアムでドクオを戦って、首のあたりをさくっとやられて、そして・・・


( ^ω^)「僕、負けたのかおっ?今何時だお!?」


慌てて飛び起きるとつきーん、と首に痛みが走った。


(´・ω・`)「あー、おはようブーン君。まだあんまり動いちゃ駄目だよ?

      今は午前1時。ドクオ君は疲れて寝ちゃったよ」

観客席の手摺にはべりついていたショボンがこっちにやって来た。



  
85:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:07:56.41 ID:4jhnpARq0
  
(;^ω^)「もうそんな時間ですかお!?4時間は軽く経ってるお!ショボンさんっ、コロシアムバトルは?」


まぁ、そう慌てずに、とショボンが落ち着くように促す。

暖かいお茶もくれた。

その時、観客席中から会場が割れるほどの大歓声と、鼓膜が裂けるほどの拍手の音がした。



(´・ω・`)「コロシアムバトルはね、見てごらん。

      ちょうどジョルジュが"討伐士"部門で優勝したところだよ」

ブーンは色んな意味で顎を落としそうになった。



  
88:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:15:23.02 ID:4jhnpARq0
  


とりあえずブーンはコロシアムの方を覗いた。

その時のジョルジュの顔は、とても晴れやかで、一片の曇りも無かった。
確かに、無かったのだ。


そして、ジョルジュが帰ってきて、試合を見てなかった事を茶化しつつも怒られた。
でも機嫌が良かったので、すぐに許してくれた。

その間も、やっぱりジョルジュは楽しそうだった。



  
89:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:19:24.23 ID:4jhnpARq0
  

その後、全ての試合が終了したというので、その後「また」祝杯をあげた。

今回はコロシアム主催のが優勝者を祝うための表彰式を兼ねた盛大なパーティだったのだけど。
参加は誰でも自由、ということだったので、たくさんの人がいた。



そこで、ドクオが"下級和解者"部門の優勝者である事を知った。


─どうして言ってくれなかったんだお?


─自分から言ったら自慢じゃねぇかよ

─間違いないお

そんな会話をしながら、喧騒の止まないパーティの会場で笑いあっていた。

出してくれたご飯は美味しくて、パーティは楽しくて。
みんな酔っ払っちゃって。


だから、僕もドクオもショボンさんも気付いていなかったんだ。

ジョルジュさんが途中から会場にいなかったこと。



  
91:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:25:39.92 ID:4jhnpARq0
  

ふぅ、と深い息を吐く男性がいた。
彼はパーティの会場から少し離れた休憩所にいた。

少し席を外す、とそこらにいたオヤジに言うと、
「あなたがこの祝賀会の主役のようなものですからね」と早く戻ってくるように釘を刺された。

だけど、戻る気はさらさら無かった。

両親が死んだっていうのに、何を祝えってんだ。

少し、悲痛な顔になる。

フィルターを通して、煙を吸い込む。
そして、
ふぅ、とまた息を吐く。今度は少し長く。


今日は煙草がよく減る日だ、とジョルジュは思った。



  
93:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:32:09.04 ID:4jhnpARq0
  

2箱もストックがあったのにな、と。

1箱は、ツンとの電話の際に。
もう1箱は、荒巻との電話の際に消費した。
  _
( ゚∀゚)「煙草なんて・・・好きじゃねぇんだけどな」

その言葉は嘘では無かった。
昔、煙草には有害な物質が含まれ、嫌われていたというが、今でも好きな人はあまりいない。

現在の人にも「悪習」だと見られている。


そんな事を考えて、ゆらりと不可解な曲線を描く紫煙を見つめる。
・・・少しも気が晴れない。

小さくなった煙草をもみ消し、もう1本を口に咥える。

吸いたくはないが、吸っていなければ物に当たってしまいそうなのだった。

指の先に火を起こし、それを煙草に近づけてまた大きく息を吐く。



  
96:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:41:53.00 ID:4jhnpARq0
  


そして、口から煙草を離したジョルジュは、朗々と喋りだす。

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( ゚∀゚)「キーワードは・・・"逆さまの胡蝶"」

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( ゚∀゚)「この島にあるという廃墟・・・"そこ"に鍵がある・・・」

荒巻が言った情報だ。

ふと、休憩所の壁に鏡が掛かっていることに気付いた。

覗いてみる。

このいつも笑ってるような顔、どうにかなんねぇかな。
まぁ、これで得もしてんだがよ。

口だけを動かしてそれだけ言う。
むなしさに、すこし苦笑する。

そしてジョルジュは鏡を横目に、出口に向かって歩き出した。



  
98:◆OLIVIA/O7I :2006/09/17(日) 02:46:02.67 ID:4jhnpARq0
  
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( ゚∀゚)「さて、そろそろ行くか。ちゃんと置き手紙は残したしな!」

あいつら、俺がいなくても大丈夫だろうか・・・
まぁ、なんとかやっていくだろうな。
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( ゚∀゚)「っと、しんみりしちゃいけねぇ!」

しかし、一瞬その顔が翳る。


元気で、やってくれよな・・・

そう言って、パーティ会場を後にした。

─廃墟を探しに。


いつか、帰ってこれたら。
あいつらとまた合流して、俺も弟子を作ろう。
ブーンや、ドクオみたいに可愛い可愛い弟子をな。



そんな事を考えて、自分を奮い立たせて見たものの、どうしてだろうか、
彼は、そんな当たり前の願いすら叶わない事をなんとなく理解していた。


--第18話 終--



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