( ^ω^)ブーンが幸せの意味を知るようです

  
1:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 01:35:13.70 ID:PtnyBvfC0
  
--第19話--

びゅうう、と音を立てて春の嵐が駆け抜ける。

まだ芽吹くには早い、青い青い草が揺れている。

僕とツンの家。
大きな山の麓にある一面の草原地帯をツンがいたく気に入ったため、
この季節を風が運ぶ場所に建てたのだ。


僕らの、家を。


彼女が風を感じる事が出来るのか・・・それは、分からない。

─びゅう。
再びうなりながら草を揺らして吹きすさぶ。それでも、風は暖かい。

( ^ω^)「ジョルジュさんがいなくなったのも・・・こんな風に強いけど、のどかな風の吹く夜だったお・・・」



  
2:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 01:39:45.77 ID:PtnyBvfC0
  

ブーンはぼうっとして、木で作られたあたたかい家から庭を見つめている。
しかし、娘の声で意識が醒める。

(*゚ー゚)「ここでこの話は一旦終わり?」

( ^ω^)「そうしようかお。次は・・・前の話からだいだい1年と半年程後の話になるお」


(*゚ー゚)「その間、ジョルジュさんはどこに行っていたの?帰ってくるの?」

しいがこちらにずいっと身を乗り出して聞いてくる。

( ^ω^)「まぁまぁ、落ち着くお。それもこの後の話で分かるお」

頭をぽんぽんと叩いて娘を諌める。
この子は母親に似てせっかちだ。
焼き料理をさせればいつも生焼け。焼く時間ぐらいじっとしていて欲しいものだ。



  
3:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 01:43:13.51 ID:PtnyBvfC0
  

(*゚ー゚)「それにしても、父さんの喋り方っていじわるね」

( ^ω^)「そうかお?」

─それは意外だお。
ブーンは眉を上げる。

(*゚ー゚)「重要な鍵を持ってそうな人やことがらには全部含みを持たせちゃってさ。
    別にそんな伏線張らなくてもいいじゃない」

じれったい、と言わんばかりの目つきでしいが言う。

( ^ω^)「いつものお話の代わりに昔話を、と言ったのはしいだお。
       だから、すぐに答えを言っちゃ面白くないお?
       
       さぁさぁ、今まで長かっただろうお。
       休憩がてら、母さんと散歩にでも行ってくるお」

少しだけ風が冷たくなってきた。陽が西に傾いてきた証拠だ。
この時間のしいとツンの散歩はほとんど日課であった。



  
4:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 01:50:16.94 ID:PtnyBvfC0
  

(*゚ー゚)「分かったわ。でも、その前に聞いてもいい?」

( ^ω^)「お?なんだお?」

(*゚ー゚)「父さんがまた旅に出るときに、母さんが言った事って何だったの?
    ほら、ウンディーネさんの伝言の言葉」

ブーンは少し記憶を吟味する。

( ^ω^)「あぁ、あれかお!・・・あれは言わないでおくお。
       ご想像におまかせ、だお」

(*゚ー゚)「えぇー、気になるじゃない!」

しいの明らかな不満の声。

(;^ω^)「言っちゃったら後でツンが怖いんだお・・・」

一度ドクオにその伝言の内容を言ってしまったことがある。
それがどうしてだがツンに知れてしまい、ブーンは、大変な目に会った。

思い出したくもないぐらい、大変な目にあったのだ。

がたがたと震えながらブーンが言う。

(;^ω^)「・・・それは言えないけど、代わりにいいことを教えてあげるお」

そう言って、ブーンがいる縁側から見える部屋の壁、その上の方を指差す。



  
7:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 01:57:25.16 ID:PtnyBvfC0
  
(*゚ー゚)「あぁ、あのぽんこつ鏡?あれがどうしたの?」

あれについて何も教えてなかったが、ぽんこつ鏡・・・とは。
あの鏡は国宝、この国の神器だと言うのに。

( ^ω^)「あれはぽんこつじゃないお。とても価値の高い鏡なんだお」

意外な事を言ったので、しいが目をまんまるくする。

(*゚ー゚)「・・・うそ?だってあれ、鏡の部分が水で、いつも波紋がゆらゆらしてて何も見えないじゃない」

( ^ω^)「そうだお。あれはただの鏡じゃなくて、ウンディーネが作った、きまぐれに色んなものを見せてくる鏡なんだお。


       ただ、幻は決して見せない。過去でも未来でも、現実だけを見せる鏡なんだお」



  
8:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 01:59:12.96 ID:PtnyBvfC0
  

(*゚ー゚)「すごい鏡じゃない・・・どうしてそれを早く教えてくれなかったのー!?」

思いっ切り不満を混ぜた高く澄んだ声。

( ^ω^)「だって、それ言うと絶対しいはあれに興味を持つお?
       どこかに持っていかれたらたまったもんじゃないお」

(*゚ー゚)「う・・・」

しいが低くうなる。
やっぱり言わなくて良かった。

しいの兄が似たようなことをして、騒動になったことがあったのだ。
割れ物は子どもに持たせるもんじゃないお、とブーンはしみじみ思っていた。



  
10:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 02:06:37.02 ID:PtnyBvfC0
  
うなりながら頭を垂れていたしいが、がばりと立ち上がる。

(*゚ー゚)「むぅぅぅ!いいもんいいもん!散歩行ってくるわ!」

半分怒ったようにしいが言い放つ。
どかどかと居間の方へと歩いて行った。ツンを迎えに。

(;^ω^)「あれま・・・怒らせちゃったかお。ツンにちくられると怖いお

       顎吹っ飛ぶぐらいの覚悟はしておくかお」

まったく、僕が尻に敷かれているこの夫婦関係、生涯続くのかお・・・
ブーンは肩を落とす。


(*゚ー゚)「父さん・・・これから最後の話、聞いてもいいのね?」

いつの間にか隣に来ていたようだ。
その表情は少し物憂げで。

( ^ω^)「そろそろ・・・しいも聞いておく時だお」

肯定の言葉と共に深くうなずく。

(*゚ー゚)「そっか・・・じゃ、散歩行ってくるわね。
    それと、その話が全部終わったら、あたしからも聞いて欲しい事が一つあるの。
    内容は後で言うわ・・・行ってきます」



  
12:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 02:15:15.38 ID:PtnyBvfC0
  

軽く飛び跳ねて庭へ降りるしい。
さっきの表情とは裏腹に楽しそうな顔をしている。

ツンと一緒だからだろうか。
母とは、偉大なものだ、と"父"は母をうらやましく思った。

それにしても。

( ^ω^)「散歩しているうちに、気持ちの整理をつけなきゃだお・・・」


ひとつ、深い溜息。


( ^ω^)「もうこの話は、何回も人にしたことあるのにだお・・・」

何回話をしても、慣れない。
そのたびに心臓が嫌な音を立てている気がする。

どう例えたらいいのか分からないような不快感。






( ^ω^)「少しでも伏線張っておかなきゃ、ちっともおもしろくないんだお・・・」

───この話の、結末は。



  
13:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 02:19:34.83 ID:PtnyBvfC0
  
ちらり、と娘が散歩をしている方を見やる。

きっと、何も知らない人が見たら奇怪だと思うんだろう。
嬉しそうに飛びはねる小柄な少女が、




母を胸に抱きかかえているこの光景を。





いや、全く何もしらない人なら、しいがひと───

ずきり。



  
14:◆OLIVIA/O7I :2006/09/19(火) 02:21:19.28 ID:PtnyBvfC0
  
そう考えている途中、と心臓が痛んだ。

5寸、いや、それ以上の長さの釘を刺されたような激痛は、しかし、すぐにひいた。


少し息が荒いにも関わらず、ブーンは独り言を言う。

( ^ω^)「あの子が帰ってきたら、すぐにでも話そうかお・・・僕が、倒れてしまう前に」


すべての悲劇の始まりと、血まみれの終焉を。


--第19話 終--



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