( ^ω^)ブーンが幸せの意味を知るようです

  
7: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 21:43:13.05 ID:GfxM83GT0
  

--第22話 中編--

(´・ω・`)「ただいまー」

('A`)「お邪魔しまーす」



(´・ω・`)「って言っても誰もいないんだけどね・・・」

石畳の街道から、一段掘り下げて作られた建物。ショボンの家。
焼板で作られたドアに掲げられたプレートには『バーボンハウス』の文字。

そのドアをくぐり、ドクオが見たものは。


('A`)「棚にお酒がいっぱい・・・。ここは、バー・・・ですか?」

狭いながらも、きちんとしたお店の様だった。


(´・ω・`)「まぁ、そんなところだね」



  
8: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 21:46:42.80 ID:GfxM83GT0
  


ショボンはカウンターらしき場所に歩いていく。
机をつつ、と指でなぞった。


(´・ω・`)「ふぅ・・・久しぶりに帰ってきたから埃だらけだね。
      掃除しなきゃ。ドクオ君も手伝ってくれる?」

指にまとわりつく埃を息で払った。
ドクオは思う、
ショボンの赤い唇から紡ぐ吐息、その仕草は卑猥なものだ、と。

(´・ω・`)「どっくん?どうしちゃったの?」

ドクオのATフィールド(視界)にショボンが入り込んでくる。
・・・入り込んでくるだなんて、エロい響き!

('A`)「いえいえ、そうじゃなくて!片付けですよね!!」

そう言って慌てふためくドクオ。掃除をしようにも掃除用具の場所が分からない。



  
9: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 21:48:38.01 ID:GfxM83GT0
  

('A`)「それにしても、ブーンの奴・・・
    ジョルジュさんのお墓参りが終わったらすぐに飛び出しやがって・・・」

(´・ω・`)「それほどツンに会いたかったんだろうね、仕方ないよ」

('A`)「まぁ、そうでしょうけど。でも掃除の人手が減りましたね。



    ・・・俺からしたらラッキーなんだけど」

最後の方の声は擦れてしまった。
意図的なものだけれど。


ドクオの発情期にはお休みがない。


(´・ω・`)「んー?何か言った?」

ショボンはカウンターの椅子に悠然と腰掛けた。



  
11: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 21:51:00.07 ID:GfxM83GT0
  

(;'A`)「い、いえっ!何も!!」

ドクオはそこから逃げるように部屋の端に箒を取りに歩いていく。

(´・ω・`)「あ、そう?・・・白状しないとこわーい目に合うよ?

      僕がこのツナギのチャックを下ろしたとき、君は、欲望には逆らえぬ淫獣へと姿を変える。
      ・・・そう、僕の性のしもべにね・・・」

先ほどまでジャケット姿だったショボンの高速の早着替え。
整備士のようなツナギを着ている。

ちー、と高い音がして、ショボンの首、鎖骨、胸板・・・どんどん裸体が露わになる。

(;*'A`)「ショ、ショボンさん!!殿のご乱心よー!!!」


慌ててチャックを戻しにドクオがUターン。

ショボンはひらりとかわす。



  
12: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 21:54:36.92 ID:GfxM83GT0
  

(;゚∀゚)(全く・・・一周忌だから地上に帰ってきてみればこれかよ・・・ブーン、早く帰って来いよ)

掃除も進まないままに暴れるので、部屋は埃まみれになっていた。
ジョルジュは誰知れず現れ、そして去っていった。


( ゚∀゚)(元気そうで・・・なによりだぜ)



(´・ω・`)「・・・ん?」

(;'A`)「どうしましたか?」

取っ組み合いの姿勢で、ショボンがいきなり硬直する。

(´・ω・`)「懐かしいような声がした気がして・・・ね。
      いや、なんでもないよ。さ、そろそろ遊んでないで掃除しようね」

('A`)「・・・はい」

なんだか深く追求するのも気が引けたので、ドクオもショボンにならって掃除用具を取り出した。



  
14: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:03:06.30 ID:GfxM83GT0
  



(´・ω・`)「ふぅ、どうにかこうにか綺麗になったね」

元々掃除は嫌いではない。むしろ得意かも知れない。
埃を払うぐらいなら、造作もないことだ。

殆どの部屋の掃除も終わり、ショボンはまたカウンター席に座り込む。

('A`)「残りはこの部屋だけですね」

唯一掃除をしていない部屋。
その部屋の前にドクオは立ち、ドアノブに手をかける。

(´・ω・`)「あ、その部屋はいいんだよ。置いといて」

('A`)「ふぇ?どうし・・・」



ふと、ドクオはそのドアの前に紙が張られている事に気がつく。
大分インクが薄れてしまい、読みにくくなったその文字を解読する。

('A`)「診察・・・室?」



  
17: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:13:47.24 ID:GfxM83GT0
  

(´・ω・`)「そう。そこはみだりに入っちゃいけない、って父さんが言ってたから。

      危ない薬品もたくさんあるからね」


('A`)「お父さん、医者だったんですか?」

(´・ω・`)「母さんもだよ。二人とも、街のお医者さんとして知られていたよ」

('A`)「なるほど・・・ショボンさんも医学には詳しいですもんね。把握しました。

    でもじゃあ、このバーは?」

周りをきょろきょろと見回し、すこし考えてドクオが尋ねる。
医者が家でバーを経営するって謎だな、そう思いながら。



  
18: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:16:08.30 ID:GfxM83GT0
  


(´・ω・`)「いや、このバーは僕が作ったんだよ。
      両親がここから出て行くときに、たくさんのお金をくれたから、リビングを改造してね。

      冬はとても冷え込むから、たくさんの人がお酒を飲みに来たもんだよ」


そう、たくさんの人が。
幼いショボンの経営する店に。


(´・ω・`)「だから、寂しくなんて無かったよ・・・」

小さな声で呟く。
ドクオには聞こえてないといい。

ここを作ったのは、ジョルジュと仲が良くなる前のこと。
寂しさを、人との温もりで無理やり埋め立てて生きていたあの頃のこと。



  
21: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:26:55.65 ID:GfxM83GT0
  

懐かしいな、昔は瀬が足りないせいでカウンターから顔が出なくて、踏み台が必要だったんだ。

と、過去を語るショボン。

顔は笑っているのに、陰を背負っている。ドクオは心配そうにそんな物憂げな彼を見上げる。

(´・ω・`)「どうしたのかな?かな?」

それをショボンが察知してか、明るげに振舞ってくる。
でも、こちらの疑問は晴れない。


('A`)「ショボンさんの親は、何処に行ったんですか?ショボンさんを残して」



(´・ω・`)「んー、まぁ、ここに残ることを決めたのは僕なんだけどね」



  
22: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:29:41.01 ID:GfxM83GT0
  


('A`)「そう、だったんですか」

ドクオは続きを話すように促す。


(´・ω・`)「半分強制みたいなものだったさ、ジョルジュのね」


苦笑しながら、ショボンはカウンター席から立ち上がる。

(´・ω・`)「まぁ、立ってないでここにお座り。ジュースぐらいは出すよ。
      少し長い話になるからね」

そう言って、棚の方に歩みを進めていった。



  
23: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:35:38.40 ID:GfxM83GT0
  




─親が出て行く少し前に、僕の、弟が死んだ。

─流産、だったんだ。





これから生まれてくるべき命を失って、両親の涙の海は毎日乾くことは無かった。

─前にも少し触れたと思うけど、僕の親は今、東の島で研究をしているよ。


('A`)「あぁ、確か・・・」

酔っ払っていてうろ覚えだけれど、そんな事を言っていた気がする。



(´・ω・`)「そして、どうして僕が残ったかというとね・・・



  
25: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:42:43.38 ID:GfxM83GT0
  

  _
( ゚∀゚)「なぁ、ショボン!お前のとーちゃんとかーちゃん引っ越すってほんとか!?」

(´・ω・`)「え・・・あ、うん」

僕は、昔気の弱い子だった。

  _
( ゚∀゚)「なぁ、お前は残れよ!うちのじじいがお前の事見ててくれるって!!」

強く強く彼はショボンに北の島に残るよう言った。

ジョルジュを、怖がっていた面があった。
なんでも力で解決しようとするジョルジュ。

悪戯には絶対参加するジョルジュ。

ここに残った理由は、
彼の言う事を断れなかったのが半分。


彼に言われてここに残りたいと思ったのが半分。


その時は、どうして自分がそう思ったのか理解できなかった。



  
27: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:48:07.00 ID:GfxM83GT0
  


(´・ω・`)「今思えば、あの時には既に彼に惹きつけられていたのかも知れないね」

彼のまっすぐな強さに。
穢れなき純真さに。

彼は人に愛される天才だったから。


(´・ω・`)「さて、昔話はもうおしまい」

過去という重く重くのしかかる荷物に、囚われないように。


('A`)「・・・」

ドクオは、何も言えないでいた。
彼ら二人の絆は口で語るものじゃない、どうしてだかそう感じたから。



  
29: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 22:59:07.58 ID:GfxM83GT0
  

(´・ω・`)「それよりもね、ドクオ君。いいかい?」


('A`)「はい?」

その口調が話題の転換を知らせる。
何故かそれに少し安堵して、でも次の話題の内容が何かと思って緊張する。


(´・ω・`)「ブーン君の事なんだけどね・・・」

('A`)「ブーン?がどうかしたんですか?」

あまりにも想像がつかない所から話題が飛んできた。
ちょっと間抜けた声が出て焦る。


(´・ω・`)「今は3人で旅をしているよね?・・・でも、いずれバラバラになるだろう」

('A`)「確かに、そうですね・・・」


ドクオはその攻撃性から、この先間違いなく"討伐士"を選ぶだろう。

でも、ブーンは。



  
31: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:02:12.65 ID:GfxM83GT0
  

('A`)「あいつはとことん"討伐士"には向かないだろうから・・・」

人を守るための魔法、剣。
それは"和解者"のエキスパートになるか、"守護者"向きだろう。

(´・ω・`)「それにあの子にはツンもいるからね・・・

      いずれはずっとあの子の傍らにいるやも知れないね」


これは僕の想定だから、実際はどうなるか分からないけどね、と付け加えることは忘れなかった。



  
32: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:07:39.30 ID:GfxM83GT0
  

(´・ω・`)「でも、もし・・・ブーン君が居なくなったら、ドクオ君はどうする?」

('A`)「どうするって・・・?」

(´・ω・`)「君もいつかは一人前の"討伐士"になる日が来るだろう。
       ・・・もしかしたら僕よりも早く。


      そうしたら、君はどうする?」

考えてもいなかった。
いつまでもこんな日々が続くと思っていたから。


考えが足りなかったのだ。
ジョルジュが居なくなった時点で、とうに、あの日常は奪われている。

よく回らない頭が、それでも勝手に言葉を紡ぐ。

('A`)「俺は・・・



  
38: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:16:57.60 ID:GfxM83GT0
  


僕の、可愛い弟子。
いずれはここを巣立つだろう。

それは、師匠の感情だけとっても、すごく寂しいことだ。

彼もいつかは一人前になり、今度は弟子をとるようになるのだろう。
だから、彼が何を言っても、僕は受け止めてあげよう。

残り少ないかもしれないこの時間に、この子たちにしてあげられることをしよう。



      「俺はショボンさんの右腕になりたい」


(´・ω・`)「え?」

ショボンはいきなり現実に戻された。
・・・耳でもいかれたかな?

(´・ω・`)「僕の右腕はここにあるよ?」

そう言ってぶんぶんと右腕を振り回す。
棚に手をぶつけそうで危なっかしい。


('A`)「いつの時代のボケですか」



  
40: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:25:24.53 ID:GfxM83GT0
  

ちゃんと話を聞くように、と弟子が師匠に釘を刺したあと、彼はこう言った。

('A`)「ショボンさん、ジョルジュさんの仇を追うんでしょう?」

(´・ω・`)「・・・うん」

真実なので嘘はつけない。

('∀`)「俺もお供しますよ。風の魔法がいいアッシーになります」

(´・ω・`)「でも・・・」

('A`)「・・・俺だって、ジョルジュさんが殺されて辛かった。一言で言えないぐらい。
    仇をうつ権利があるでしょう?


    それに、ショボンさんの悲しい顔なんて見てられませんよ。


    隠したって分かるんです。ショボンさんが寂しがりやなことぐらい」



・・・もう、なんと言ったらいいんだろう。
自分の子どもが出来たら、こんなむずがゆい気持ちも理解できるんだろうか?

こんなに、慕ってくれて、こんなに、自分を良く見てくれて・・・
やっぱり、君が言ったとおり最高の弟子だよ、ジョルジュ。



  
45: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:35:44.23 ID:GfxM83GT0
  

(´・ω・`)「君は本当にいい子だね・・・やらないかい?」

(*'A`)=3「それでこそいつものショボンさん」

満足そうな声と鼻息が同時に漏れた。


('A`)「多分、ブーンも同じことを考えてますよ。

   俺達からはなれていくとしても、ジョルジュさんの仇を討ってからでしょう」

(´・ω・`)「よく分かるね」

('A`)「くされ縁ですからね」

ちょっとふてくされて言うドクオ。

(´・ω・`)「ふふ、それはとても素敵なことだね」

そういうショボンの笑顔を見て頬がほんのりと紅潮する。

そうだ、これでこそいつものペースだ。
"いつも"になったって、過去は帰ってこないけど。
それでも。

今日を思い出す明日の為に。未来の為に。

僕達は笑うんだろう。
傷を抱えても、まだふざけあうんだろう。



  
46: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:41:18.26 ID:GfxM83GT0
  

今日を思い出す明日の為に。未来の為に。

僕達は笑うんだろう。
傷を抱えてもふざけあうんだろう。


('A`)「ブーンがいなくなっても、俺達の仲が変わるとは思いませんよ。

   また、いつも見たいに会いに行けばいいんです。
   それに、俺はどこにも行きませんよ」

(´・ω・`)「ありがとう、ドクオ君。
      じゃあ、寂しいことがあった時は、それに乗り越えた自分に乾杯を、
    
      楽しいことがあった時はそれを感じる事が出来た喜びに乾杯するのを約束しようか」

そう言ってショボンは、小指を差し出す。

('A`)「分かりました。あ、右手は俺の分、左手のはブーンの分です」

両手の小指を絡める。
弟子の思いをそこに託して。



  
47: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:49:12.64 ID:GfxM83GT0
  

(´・ω・`)「なんかここまで慕われちゃうとドクオ君が弟みたいだなぁ」

('A`)「もうちょっと格上にならないかなぁ・・・まぁ、アタイ頑張る。

    
    そういえば昔、ブーンとも兄弟みたいだなって話してたんですよ。
    それじゃ3兄弟ですね」


ふわり、と絡めた小指に暖かい風が触れた。
ここは室内、風を起こすものは何も無いのに。



  
49: ◆OLIVIA/O7I :2006/10/04(水) 23:50:50.16 ID:GfxM83GT0
  

と、そこで有り得ないはずの声。

( ゚∀゚)(ったくドクオは分かってねぇーなぁ。なぁショボン?
      ちゃんと訂正しといてくれよ!

     無理してでも残っといて良かったぜ・・・もう、消えr・・が)


暖かい感触は、もう、しなかった。


(´・ω・`)「違うよ、ドクオ君」


('A`)「え?」


あの暖かい手の事をドクオに話すことになるのは、随分と先の話。
それまで、この体験は胸に秘めることになる。




(´・ω・`)「ドクオ君とブーン君と僕とジョルジュ、でしょ?」

--第21話 中編 終--



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