( ^ω^)は村人Aのようです

  
69: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:54:31.13 ID:rAE2DaST0
  
闇。
門の中に音が隠れるようにして書かれている漢字。
まさしくそれは字の如く、静寂を意味していた。
そんな闇が空から地にかけて広がる夜。
普段なら忌み嫌われるであろう対象のそれを、ブーンは待ち侘びていた。


( ^ω^)「ここは VIPの村ですお」
( ^ω^)(もうそろそろ時間かお)

そう、その時間帯のみが彼の得られる限られた自由時間だから。



  
71: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:55:08.80 ID:rAE2DaST0
  
そして彼は業務中にも小さな脳を休めることはしなかった。
『セーブ』によって記録された情報を整理していたのだ。

( ^ω^)「ここは VIPの村ですお」
( ^ω^)(あの怖そうな人の住所は確か村を出てちょっと行ったところの草原のど真ん中にあったお。
       でもなんであんな魔物がうじゃうじゃいるところに……)

朝にショボンから見せてもらったメモの内容を思い出している。
セーブ機能は確かに彼に物凄く役立っているようだ。



  
72: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:55:34.17 ID:rAE2DaST0
  
そして遂に時間が来た。
昼の間は地に光を注ぎ続けていた太陽が、名残惜しそうに一筋の光を残して沈んでいったのだ。
それはつまり夜の訪れを表す。
空には陽の象徴であった太陽の代わりに、陰の象徴でもある月が浮かんでいる。
その月に流れてきた雲が傘を掛けた。

( ^ω^)「やっと仕事の時間が終わったお。でもこれからが大変なんだお。だから休んでる暇なんて無いんだお」

彼は自分に言い聞かす。
些か説明口調ではあるが、疲れている身体に少しでも元気が戻れば良い。
自分の気力を奮い立たせる為の言葉であった。



  
73: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:56:17.69 ID:rAE2DaST0
  
( ^ω^)「よし!まずはあれを取りにいくお」

自分の意志通りに動かせるようになった足で力一杯地を蹴って走り出す。
向かう先は、家。
これから夜のフィールドに出るのだ。
護身用の道具くらい持って行きたい。
そう考えるのは自然なことであった。

(;^ω^)「でもあれに自分の命を任せるのはちょっと不安だお」

そう言いつつも彼は両親の想いが詰まった形見である『あれ』を取りに来たのだ。



  
74: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:56:41.02 ID:rAE2DaST0
  
ドアを開ける。
今日も無法者が来て荒らされた形跡は無し。
机を見る。
ジョンがいた空間に小さな穴が剥き出しで見える。
穴を見る。
マイケルが隠してくれていた鍵が刺さりっぱなしで放置してある。
彼はその鍵に手を当て、穴の奥深くへと更に差し込んだ。



  
75: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:57:55.78 ID:rAE2DaST0
  
カチッ

小さく穴の奥から音がしたかと思うと机の下には穴が出現する。
幼少の頃には良くこの仕掛け扉の向こう側の部屋で遊んだものだ。
道端に落ちていたエロ本の保管庫にもしてたっけ。
あぁ、そういえばカーチャンがそれを見つけて何も言わずに机の上に置いて放置していた時は気まずかったなぁ。



  
76: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:58:40.47 ID:rAE2DaST0
  
感傷に浸りながらもブーンは口を開けて待っている穴の中へと下りていく。
ちなみに何故前はあんなに鍵と鍵穴を隠していた彼が、今は隠すこともなく鍵を刺しっぱなしにしていたのか?
答えは簡単である。
鍵と言っても誰もが予想するような一般的な形の鍵ではない。
材質こそは貴金属のようでひどく頑丈だが、形はむしろ爪楊枝のように細長い形状のものだ。
そんなものが机に刺さっているのを見て、変に思う者はいるかもしれないが仕掛けが隠されていると思う者はいないだろう。
彼なりにそう考えた上での結論であった。
普通に考えたらわかるようなことだったが、頭の弱い彼は必死に友達を利用して隠していたのだ。



  
77: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:59:10.75 ID:rAE2DaST0
  
( ^ω^)「あったお」

そこには確かに両親の想いが詰まった物があった。
決して明るくはないひっそりとした部屋の中で自分の役目が訪れるのを待っていたかのように。

(;^ω^)「でもやっぱりこれじゃ不安だお。でも今僕が持っている道具なんて他にないから仕方ないんだお」

そして彼は『あれ』を手にした。
それは太くて、固くて、黒っぽい焦げ茶色で。

どう考えてもチンコです。本当にありがとうございました。



  
78: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 00:59:50.16 ID:rAE2DaST0
  
(#^ω^)「こんなシーンで地の文ふざけんなお!作者出てこいお!」

>>1「サーセンwwwwwww」

( ^ω^)「さっさと元のふいんき(何故かryに戻すんだお」

>>1「把握した」



  
84: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:03:18.67 ID:rAE2DaST0
  
そして彼は『あれ』を手にした。
それは太くて、固くて、黒っぽい焦げ茶色で。

そう、棍棒だ。
RPGなどでも金のない初期の勇者が村で購入したり、比較的弱めの魔物を倒すとよく落とすあれだ。
攻撃力などはあまり期待できる物でもなく、攻撃のシーンもショボいなかなか不人気な武器。
何故彼の両親がそんな物をブーンに残したのか。



  
85: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:03:51.77 ID:rAE2DaST0
  
その理由はこうである。
一介の村人が剣や槍などの高価な武器を買えるはずなんかない。
しかし今後自立した我が子に身の危険があるような事態が起きたら、何も持たない村人である我が子では自分1人で対処できないだろう。
しかも彼は頭が弱い。その心配は当然のことだった。
そう考えた両親は身を守るための道具が我が子には必要なんだと悟った。
我が子のために両親は村人業で蓄えた貯金を下ろして棍棒を購入し、彼が立派な村人として自立した時の餞別として渡すつもりであった。



  
86: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:04:21.74 ID:rAE2DaST0
  
だがその時が来る前に我が子に危険が訪れてしまった。
我が子の命は守ることが出来たが、自分達は今後この子を守り続けることが出来ないだろう。
死に際の朦朧とした意識でそう判断した彼らは息も絶え絶えに我が子に遺言を残した。

『もうこれからは誰に引っ張られるわけでもなく、自分の足で自分の人生を歩みなさい』

『トーチャン……?何を言ってるんだお?』

『ごめんね。これから1人で寂しいだろうけどカーチャンもうダメみたいだからごめんね』

『カーチャン……?今ここで死んだら僕は絶対に許さないお!』



  
87: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:04:50.10 ID:rAE2DaST0
  
『そうだ、お前にプレゼントがあったんだった』

『そんなことより死んじゃダメなんだお!』

『良いから……聞いてくれ』



我が子への餞別の隠し場所を教えるとほぼ同時に彼らは息を引き取った。
そしてブーンは涙を枯れ尽きさせるほどに流し、泣き疲れた後にその隠し場所へと向かった。
そこにはまだ新品同様の棍棒があった。

『ありがとう』

そう声に出して、また彼の視界は涙でぼやけ始めたのであった。



  
88: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:05:10.29 ID:rAE2DaST0
  
(;^ω^)「それからずっと宝物のように隠してきたけど、今冷静に考えると棍棒ってなかなか身を守るには不安だお」

しかし彼には棍棒しか身を守る道具は残っていない。
ずっしりとした質感を持つ棍棒を握りしめて決意する。

( ^ω^)「数子、これから僕を守ってくれお」

彼の目にはもうさっきまでのおふざけムードはない。
そんな空気が数子(棍棒)にも伝わったのか、冷たかった表面が一瞬だけ暖かくなった気がした。



  
90: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:06:22.18 ID:rAE2DaST0
  
数子を取るために下りてきた穴を彼は今上っている。
穴から上りきると、今度は机に刺さっている鍵を軽く持ち上げる。
すると先ほどまで人を迎え入れる為に開いていた穴が塞がっていく。
数秒後には完璧に床の一部となった隠し扉があった。

( ^ω^)「よし、行くお」

数子を右手に、彼は我が家を出た。
村から出るのは何年ぶりだっけ?
最後に出たのは変なイベントで気付いたら移動していた洞窟の中で勇者を待ち続けてた時かなぁ。
あの勇者は良い人だったなぁ。



  
92: ◆qvQN8eIyTE :2007/03/04(日) 01:06:49.05 ID:rAE2DaST0
  
昔のことを思い出していると『勇者』の言葉に反応して友達の仇が浮かび上がった。

【( ・∀・)】

( ^ω^)「そういえばあの犯罪勇者は今どうしてるのかお」

ふとした疑問が生まれたが、今の目的はそいつじゃない。
設定に関する情報収集だ。
そう割り切ったブーンは闇に支配され、危険が漂う夜のフィールド上へと飛び出していった。
何が待ち受けているのかも知らずに……



戻る次へ