ドクオは正義のヒーローになれないようです

7: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 21:12:52.76 ID:PooBF2Ek0
  
T都2ちゃん区VIP市。
郊外に程近い、それでいて疎らながら自然の残るホームシティ。
穏やかな風土と人間の存在するその街は、
物騒な事とは無縁なことが唯一の取り得である――はずだった。

( ><)「ギコ巡査部長! これが例の仏なんです!」
(,,゚Д゚)「おう、どれどれ……」
VIP署の刑事、ギコは青いビニールシートの覆いの一部を剥いで、中の「ブツ」を確認した。

(,,゚Д゚)「チッ…… やっぱコレかよ」
忌々しげに舌打ちし、元人間だったものから思わず視線を逸らした。
体中を食われたような、原型を殆ど留めていない死体。
この一週間で、同じような死体が既に五体発見されている。

( ><)「犯人がなんでこんな風に殺すのかわかんないんです!」
(,,゚Д゚)「それを調べるのが俺達の仕事だろうがゴルァ!」
ギコは後輩のわかんないんですに渇を入れると、
ポケットの中からハイライトを取り出し、ライターで火をつけた。



8: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 21:21:11.98 ID:PooBF2Ek0
  
(,,゚Д゚)「……それで、またアレはあったのか?」
( ><)「はい! あったんです!」
言うと、わかんないんですはビニール袋を取り出し、ギコに見せた。
ビニール袋の中には、白い糸のようなものが詰められている。

(,,゚Д゚)「またこれか…… 犯行現場には、何だって必ず蜘蛛の糸が残されてるんだ」
( ><)「わかんないんです!」
(,,゚Д゚)「だからそれを調べるのが俺達の仕事だっつってんだろが!」
ギコは今度は口だけでなく手で渇を入れた。

(,,゚Д゚)「……ったく、犯人は怪人蜘蛛男かっつーの」
ギコの呟きは、煙草の煙と一緒に初秋の空へと消えていった。


       *     *     *



9: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 21:23:41.85 ID:PooBF2Ek0
  
「おいバイト! さっさとこれ運んどけ!」
怒号と共に、俺に向かって段ボール箱が投げつけられた。
今日は一緒にパンチが飛んでこないだけ、いつもよりマシだと言える。

('A`)「……すんません」
「なんだあその顔は!? 文句でもあんのか!?」
('A`)「いえ……」
「だったらさっさと運べ! 全く、ほんと使えねーなお前は!」

俺の名前はドクオ。
いわゆる22歳フリーター童貞。
年下の正社員に罵られながらコキ使われる、有り体に言えば社会の負け組みだ。

学歴は中卒。
高校には入学したが、イジメで辞めた。

イジメから逃げる為に学校を辞めたが、
生きていく為のバイトでイジメられる始末。

ニートになろうにも、頼れる親族もおらず、最早死ぬ以外に逃げ場は無い。
どうやら、神様は弱い人間からはとことん搾取するポリシーらしい。


しかし!
これは世を忍ぶ仮の姿!
ひとたび悪の怪人が出現し、人の助けを呼ぶ声があらば、
光と共に変身し、蔓延る悪をなぎ倒す!

そう、俺こそが正義のヒーロー、『マスク仮面』!!!



10: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 21:33:58.98 ID:PooBF2Ek0
  
('A`)「……で、この前はそんな感じで『マスクパンチ』を打ってですね、
    怪人ピザ男をぶっ倒したんですよ」
从'ー'从「まあまあ、それは凄いですね〜」

自家製の黒いマスク仮面スーツとヘルメットに身を包み、
俺はおばあさんと世間話をしていた。

このおばあさんは渡辺さん。
以前、マスク仮面変身用スーツを着て歩いていたところを警官に追われ、
慌ててこの人の家に逃げ込んだ時からの付き合いだ。

本気なのか冗談なのかは分からないが、
この人は俺の正義のヒーローとしての活躍(ツクリバナシ)を、楽しそうに聞いてくれる。
家族もいないようだし、こうして誰かと話す機会も余り無いのか、
この時の渡辺おばあさんは本当に嬉しそうだ。

('A`)「で、そしたらピザ男が死ぬ間際に『コレステロール光線』をですね……」
从'ー'从「まあ、それは大変!」
('A`)「ええ、あの時ばかりはこれはもうダメかもわからんねと思いました」
ハリボテのスーツ。
嘘っぱちの武勇伝。
虚構のヒーロー、『マスク仮面』。
それが、死ぬこと以外の俺の逃げ場所だった。

そんなことも知らず、渡辺おばあちゃんは毎日の俺との会話を楽しみにしてくれる。
まあこれはこれで、人々のお役には立っているのかもしれない。



11: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 21:45:09.93 ID:PooBF2Ek0
  
('A`)「んじゃ、今日はこの辺で帰ります。 すみません、夕食まで頂いちゃって……」
从'ー'从「あら、もうそんな時間かしら。
     ごめんなさいね、長々と引き留めちゃって」
('A`)「いえ、そんなことないですよ。 それじゃ」
从'ー'从「また来て下さいね。
     お茶だけならいつでも用意して待ってますから」

周囲に人のいない事を確認してから、俺は渡辺おばあちゃんの家を出た。
こんな姿を見られて通報され、また警察に追われては適わない。

('A`)「11時半、か……」
時計を見る。
今日は随分と遅くなってしまったようだし、早く寝よう。
仕事中欠伸でもしたら、また怒られてしまう。
そんなことを考えていると……

「君、ちょっといいかな」
肩に手をかけられ、振り返るとポリがいた。
当然、即座にダッシュで逃走する。

「こら〜〜! 待ちなさ〜〜〜〜い!!」
後ろからは、警官が鬼の様な形相で追いかけてきた。
畜生、今日に限って真面目にパトロールしやがって!
警官なら警官らしく、税金泥棒してろってんだ!



14: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 21:58:09.12 ID:PooBF2Ek0
  
('A`)「……どうにか撒いたようだな」
人気の無い廃寺に逃げ込み、俺は九死に一生を得た。
しかし、「どうにか撒いたようだな」って、どう考えても悪人の台詞のような気がする。

('A`)「うげ、もう日付け変わってんじゃん」
   明日は8時からバイトだってのに、余計な体力を使ってしまった。
('A`)「あ〜あ、仕事辞めてえなあ……」
しかし、辞めたところで先にあては無い。
今のバイトも一ヶ月前に入ったばかりだし、
次のバイトも見つかるかどうか疑問である。

('A`)「はあ〜あ……」
もう一度、溜め息をついたその時、

「主は誰じゃ?」
('A`)「!!?」
廃寺の奥から、いきなり女の声がした。

('A`)「だ、誰だ!?」
恐怖の余り、声が震える。
誰だ。
いつの間に、そこへ。

「先に質問したのは儂の方じゃぞ。 もう一度聞く。 主は何者じゃ?」
('A`)「お、俺は――」
言葉が詰まる。
どう答えるか。
しばし迷った後、俺はこう言った。
('A`)「俺は、正義のヒーロー『マスク仮面』だ!!」



15: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:10:41.09 ID:PooBF2Ek0
  
「正義のヒーロー、とな?」
寺の中に光が差し込む。
月明かりがさあっと寺の中を照らしていき、声の主の姿が、徐々に見えていく。
そこに居たのは――

イ从゚ ー゚ノi、「くくっ、正義のヒーロー、『マスク仮面』と申したか」
和服姿の女だった。
背が高い。
172センチの俺より少し身長がある。
腰に日本刀。
肌は雪の様に白く、それとは対照的に、唇は血の様に紅い。

だが、そんな特徴より何より――
腰まであろうかというその髪は、光り輝くような銀色をしていたことが、俺の目に焼き付いた。

イ从゚ ー゚ノi、「くっ、ぷっぷ……」
女は口に手を当て笑いを噛み殺すような仕草をしていたが、やがて堪え切れず、
イ从゚ ー゚ノi、「あーーっはっはっはっはっはっは!!」
高らかに大笑いを始めた。

('A`)「何が可笑しい!!」
恐怖も忘れ、俺は叫んだ。
俺の夢を馬鹿にされたことが、悔しかった。

イ从゚ ー゚ノi、「いや、すまんすまん。
     長く生きてきたが、その様な自己紹介をされたのは、初めてのことだったのでな」
まだ笑い足りないらしく、女はしきりに口に手を当てた。



16: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:16:20.42 ID:PooBF2Ek0
  
('A`)「さあ、俺は答えたぞ! お前こそ誰だ!」
イ从゚ ー゚ノi、「おおそうじゃった。 名乗られた以上、こちらも相応の返礼をせねばな」
女はようやく笑うのをやめ、俺に向き直った。

イ从゚ ー゚ノi、「儂は銀と言う」
真っ直ぐに見つめられ、俺は思わず顔を逸らした。
よく見ると、この人かなりの美人だ。
いや、待て。
俺は何か重要なことを見落としてないか?

('A`)「――って、その刀は何だ!?」
そう、刀。
日本刀。
サムライソード。
ドラクエだと装備すれば攻撃力40アップは間違い無し。
イッツアベリーデンジャラスウェポン。

イ从゚ ー゚ノi、「何って、日本刀じゃが」
('A`)「んなこた見りゃ分かるっつの!
   何でそんなもん持ち歩いてんだよ!
   日本じゃ正当な理由無く刃渡り6センチ以上の刃物を携帯したら犯罪だぞ!」
イ从゚ ー゚ノi、「大丈夫。 ちゃんとした理由はある」
('A`)「ほう、それは?」
イ从゚ ー゚ノi、「護身用」
('A`)「考え得る限り最悪の言い逃れじゃねえか!」
大丈夫か、この女。
日本が法治国家ということを知らないとはゆとり教育の弊害か。



17: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:22:24.42 ID:PooBF2Ek0
  
イ从゚ ー゚ノi、「ふむ。 で、法律違反じゃとしたら、どうする?
('A`)「どうするって、そりゃ成敗して……」
そこで俺は硬直した。
日本刀VS素手のハリボテヒーロー。
オッズは1:100ってところか。
勿論俺が勝つのが100といった感じで。

('A`)「くっ……!
大丈夫じゃないのは俺の方だった。
どうする。
どうする。
どうする。

イ从゚ ー゚ノi、「さあ、どうするのじゃ?
     正義のヒーロー、『マスク仮面』」
女が挑発的な笑みを浮かべる。
どうするって、決まってる。
逃げなければ。
そうさ、いつだって、逃げるのは俺の得意技――

('A`)「舐めるな、怪人ドス女!
   ここで遭ったが百年目!
   このマスク仮面がお前を成敗してくれる!!」
逃げてはいけない。
このスーツを着て逃げてしまったら、
俺にはもう何処にも居場所は無くなってしまう……!



19: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:32:25.94 ID:PooBF2Ek0
  
イ从゚ ー゚ノi、「ほう、それなりに根性はあるようじゃな……」
女が日本刀の柄に手をかける。
俺は逃げなかったことを真剣に後悔し始めた。
真剣なだけに。
って、今はそれどころじゃねえぞ!

「うわあああああああああああああああ!!」
その時、絹を裂くような悲鳴が寺の中に飛び込んできた。

('A`)「くっ! 命拾いしたようだな!
   今日のところは見逃してやる!!」
これ幸いと、俺は悲鳴のした方へと駆け出した。
声からして、距離はそんなに離れていない筈だ。

('A`)「おい、大丈夫か! 何があった――」
そこまで言って俺は絶句した。
サラリーマン風の男が、腰を抜かしてしゃがんでいる。
そこまでは現実の風景だ。
だが、その前にいるモノは――



20: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:38:33.65 ID:PooBF2Ek0
  
ミ 嵒彡「フシュ…… フシュルルル……」
人間と蜘蛛が、『THE FLY』に出てくる機械でごっちゃになった様なその姿。
しかも、それは俺の様なハリボテではなく、
まるで本物のような――いや、紛れも無く正真正銘それがそいつの現実での本当の姿だった。

('A`)「……怪人蜘蛛男」
思わず口にした単語は、比喩でなくそいつを端的に、正確に表した言葉だった。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいい!!」
サラリーマンは俺の姿を見るや、脱兎の如く逃げ出した。
硬直したまま、その場に取り残される俺。
当然、奴の標的となるのは――

ミ 嵒彡「フシュルアアアアアアアアアアアアア!!」
蜘蛛男の口から、糸の様なものが吐き出された。
驚く間も無く糸に絡めとられ、俺は全く身動きが取れなくなる。

('A`)「な!? ああ!? ちょッ……!」
思考が現状に追いつかない。
何だ、これは。
あんな化物が、現実に?
いや、そんなことより。
俺は、まさかこのまま食われてしまうのか!?

ミ 嵒彡「フシュルウウウウウウウウウウウウウウ!!」
('A`)「う、うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」
駄目だ。
殺され――



21: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:53:55.37 ID:PooBF2Ek0
  
イ从゚ ー゚ノi、「情けないぞ。 マスク仮面」
('A`)「!?」

月を背に、黒い影が宙を飛ぶのを俺の目が捉えた。
そこから放たれる銀閃が、蜘蛛男に吸い込まれていく。

ミ 嵒彡「フオ!?
    ゴオオオオオオオオオオオオオオオ……!」
断末魔の悲鳴と共に、蜘蛛男の体は綺麗に十等分された。
緑色の体液と共に、蜘蛛男の体が地面に崩れ落ちる。



23: ほっちゃん(岡山県) :2007/03/16(金) 22:55:27.92 ID:PooBF2Ek0
  
イ从゚ ー゚ノi、「大事無いか、マスク仮面?」
女が日本刀で俺に絡まった蜘蛛の糸を斬り、ようやく体が開放された。
('A`)「あ、ああ。 う……」
頭が混乱する。
何だ、今のは。
怪人蜘蛛男。
それを、不意打ちとはいえ、事も無げに葬った。
一体、一体お前は――

('A`)「お前は一体何なんだ!?」
イ从゚ ー゚ノi、「ふむ、正義のヒーローのファンの一人、とでも言っておこうか」
('A`)「!?」
イ从゚ ー゚ノi、「では、な。 次に会う時まで少しは精進しておくことじゃ。
      のう、正義のヒーロー『マスク仮面』」
それだけ言うと、女は夜の闇の中へと消えていった。

怪人ドス女。
怪人蜘蛛男。
ハリボテヒーロー。
そう。
この時から、全ては始まっていた。
全て始まっていたのだ。
後に、俺はそれを知る事となる。


〜第一話『ハリボテヒーロー、参上!』 終
 次回、『怪人ドス女の謎!』、乞う御期待!〜



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