ドクオは正義のヒーローになれないようです

1:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 15:28:42.28 ID:FYilZTEP0
  
(’e’)「蜘蛛男が斃されたようだ」
研究員』A「思ったより早かったな。
 『JOW機関』も、やるものだ」
(’e’)「いや、それがどうやら『JOW』とは違うらしい」
研究員B「何!? ならば誰があの蜘蛛男を斃したというのだ!?」
(’e’)「これを見たまえ。 回収した蜘蛛男の記憶素子からサルベージしたデータだ」

('A`)「怪人蜘蛛男……」

研究員C「何だ、こいつは」
「こんな馬鹿げたヒーローごっこをしている男が、蜘蛛男を打倒したと?」
(’e’)「いや、その可能性は低い。
 問題はここからだ」

「大事無いか、マスク仮面?」

研究員A「!!!」
研究員B「!!!」
研究員C「!!!」
(’e’)「見ての通り、ヒーローもどきに注意がいっている背後から、
 何者かが蜘蛛男を解体している。
 余りの手際に、反撃も回避も出来なかったようだ」
研究員B「……それで、その何者かの正体は?」
(’e’)「分からない。 だが、蜘蛛男の背後から攻撃した、ということは、
    ヒーローもどきがその姿を見た可能性は高いと予測できる」



3:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 15:35:57.61 ID:FYilZTEP0
  
|::━◎┥「キニスルヒツヨウナドナイ。
      ウゾウムゾウガイクラアガコウト、セカイノススムナガレニアラガウコトハデキヌ」
(’e’)「歯車王様……!」
|::━◎┥「……ガ、ハムシガワレワレノマエヲトビツヅケルノハ、イクブンメザワリダ。
      ドクター・セントジョーンズ、ショリハマカセル」
(’e’)「お任せ下さい。
    実験も兼ねて相応の怪人を向かわせましょう……」



4:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 15:41:49.91 ID:FYilZTEP0
  

                *            *           *

正義のヒーローは、いつか、きっとやって来る。

「あいつ何が楽しくて生きてんだろーなゲラゲラ」
「もう学校来んなよ」

正義のヒーローは、いつか、きっとやって来る。

「誰が家に入って良いっつった!」
「ろくでなしの子供はやっぱりろくでなしね。
 早く孤児院の人が迎えに来ないかしら」

正義のヒーローは、いつか、きっとやって来る。

「金にもならねえ薄汚いガキのお前を食わす余裕はうちの施設にゃねえんだよ!」
「全く、ただでさえ部屋がいっぱいだってのに。
 あの子、早く死ねばいいのに」

正義のヒーローは、いつか、きっと――



19:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 15:54:34.02 ID:FYilZTEP0
  

             *            *            *

('A`)「うわああああああああああああああ!!」
自分の叫び声で目を覚ますのは、毎度のことだった。
忌々しい、昔の夢。
きっと、自分は一生この夢に苦しめ続けられるのだろう。

('A`)「……昨日のアレも、夢だったのかねえ」
そう言いかけて、かぶりを振る。
違う。
あれは、断じて夢などではない。
あの夜の光景が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

('A`)「……バイト行くか」
バイト先に行く足取りはいつもより軽かった。
バイトに行けば、否応無く現実に引き戻される気がしたからだ。

だが同時に、俺は興奮していた。
あの夜、あの非日常。
現実の惨めな自分を忘れることが出来る、あの超常の空間。
あの場所にまた行くことが出来るなら、命すら投げ打つことが出来る自分が、確かに心のなかにあった。

またあんな目にあったら今度こそ死ぬかもしれない。
だが、今のこの俺の現状は、果たして生きていると言えるのだろうか?
あそこならば、本当の自分の人生を送ることが出来る――
そう、思っていたのかもしれない。



35:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 16:11:40.27 ID:FYilZTEP0
  
今日は、バイト先の先輩の嫌味や嫌がらせも、そんなに気にならなかった。
というより、ほとんど記憶にすら残らなかった。
頭の中は昨日の記憶を反芻するばかりで、何も身に入らなかったのだ。

('A`)「…………」
バイトから帰って、俺はもう一度頭の中を整理してみることにした。

まず、昨日渡辺のおばあちゃんの家からの帰り道、ポリスに追われて廃寺に逃げ込んだ。
そこで、怪人ドス女に会った。
そしたら悲鳴が聞こえて、次に怪人蜘蛛男に会った。
怪人蜘蛛男に殺されそうになったところを、怪人ドス女に助けられましたまる。

以上の記憶の掘り下げから導き出される結論は、
俺には、文章構成能力が無いということだ。

って、そうではなく。
怪人蜘蛛男が死んだ今、謎を解く鍵は怪人ドス女が握っているということだ。

……しかし、どうにもあの女に会うことは躊躇われる。
なんといったって、ドス。
前回はどうやら助けてもらったみたいだが、今回もそうとは限らない。

次に俺があのドスの餌食にならない保障など、
どこにも無いのだ。



38:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 16:22:35.05 ID:FYilZTEP0
  
('A`)「…………」
結局、ここに来てしまった。
昨日と同じ、廃寺。
そしてマスク仮面変身スーツ。

……別に着替えなくても良かったのだが、そこはまあ気分的に。

('A`)「こんちわー……」
声をかけるが、寺の中から返事は無し。

冷静に考えれば、怪人ドス女が今日もここにいるとは、限らないことに今更気づいた。
どうやら俺には文章構成能力以外にも、色々足りない物があるらしい。
主に頭の中が。

('A`)「……帰ろう」
諦めて、俺が背を向けた時、

イ从゚ ー゚ノi、「来たか、マスク仮面」
さっきまで誰も居なかった筈の場所に、突然そいつは現れた。



40:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 16:38:01.70 ID:FYilZTEP0
  
('A`)「現れたな! 怪人ドス女ば!!」
格好良くポーズを決めた台詞も、噛んだことで完全に台無しだった。

イ从゚ ー゚ノi、「誰が怪人ドス女じゃ。 儂は銀と言うに」
しかし腰に下げた日本刀は、怪人ドス女という呼称をこれ以上無い位に主張していた。
それか怪人銃砲刀剣類所持等取締法違反女だ。

イ从゚ ー゚ノi、「で、何用じゃ?
       あれだけ怖い思いをしたにも関わらず、今日もまたここに来た、ということは、
       それなりの理由があってのことじゃろう?」
怪人ドス女は悪戯っぽい笑みをこちらに向けて浮かべる。
イ从゚ ー゚ノi、「ま、大方昨日の事を聞きにきた、ってところじゃろうがな」
('A`)「くっ……」
どうやら、こちらの考えは全てお見通しのようだった。
しかし、それならそれで、逆に話がし易いというものだ。

('A`)「お前は何なんだ!? あの怪人は何者だ!? 裏では何が動いている!?
   答えろ!!」
大声で、俺は怪人ドス女に質問をぶつけた。

イ从゚ ー゚ノi、「知らん」
しかし、返ってきたのはそっけないその三文字だけだった。



41:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 16:48:51.88 ID:FYilZTEP0
  
('A`)「知らん……って」
俺は絶句した。
思わせぶりな素振りしておいて、結論はそれか。

イ从゚ ー゚ノi、「何じゃ、その不服そうな顔は?
       お主が一人で儂が何でも知っていると勘違いしただけじゃろうが。
       お主の勝手な思い込みに、何故儂が付き合ってやる義理がある?」
('A`)「…………」
言い方はあれだが、こいつの言うことは一々尤もだった。

イ从゚ ー゚ノi、「ま、見当をつけるとか、推理するとか、予想するといったことは出来んでもないがな」
('A`)「? どういうことなんだ?」
イ从゚ ー゚ノi、「……おそらくあれは、儂のような『種』の似非」
('A`)「???」
何言ってんだこいつは。
質問に答えているようで、それ以上の謎を増やすような言い草。
お前はRPGのサブキャラか。



42:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 16:54:20.48 ID:FYilZTEP0
  
('A`)「ってか、お前、何でそんな年寄り臭いっつーか、次代がかった喋り方――」
イ从゚ ー゚ノi、「待て。  次は儂からの質問の番じゃ」
俺の質問を、怪人ドス女が遮る。

('A`)「質問……って?」
イ从゚ ー゚ノi、「お主と同じ質問じゃよ。 聞こう、お主は何じゃ?」
('A`)「…………?」
イ从゚ ー゚ノi、「どうした。 自分が何者かも、分からぬか?」
真っ直ぐに見つめられ、俺は身動き出来なくなる。

('A`)「お、俺は……」
俺は、何者だ。
負け組み。
人間のクズ。
ハリボテヒーロー。
('A`)「俺は――――」
俺は、誰だ。

('A`)「……俺は、『マスク仮面』だ」
口に出た名前は、昨日俺が怪人ドス女に名乗った時と同じものだった。



43:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 17:08:43.17 ID:FYilZTEP0
  
イ从゚ ー゚ノi、「ほう、では更に問おう。
       マスク仮面、お主は何者じゃ?
       どんな信念が、どんな信仰が、どんな定義がお前をお前たらしめている」
('A`)「正義のヒーローだ!」
正義のヒーロー、マスク仮面。
譲れない、俺の最後の夢(逃げ場所)。

イ从゚ ー゚ノi、「ならば、正義のヒーローとは?」
('A`)「困っている人がいたら、助けを求める人がいたら、
   いつでもどこでも駆け付ける。
   それが、正義のヒーローだ!」
そう、そして、それは、ずっと、俺の前には――

イ从゚ ー゚ノi、「困っている人を助ける――
       ふむ、綺麗な理想ではある。
       じゃが――」
('A`)「?」
イ从゚ ー゚ノi、「別に、それは正義のヒーローでなくとも出来ることじゃし、やるべきことであろう?
       誰でも当たり前にすべきことを、さも誇らしげに掲げることが、正義のヒーローの本質か?」
('A`)「――――!」
反論出来なかった。
必死に否定しようと口を何度も動かしたが、何の言葉も出てこなかった。



44:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 17:22:42.28 ID:FYilZTEP0
  
('A`)「…………」
何も言えず、俺は立ち尽くした。

イ从゚ ー゚ノi、「……すまんな。 別に、お主を責める心算だったわけではない。
       ただ、どんな理由かは知らんが、在りもしない虚像に縋り続けるのは見ていて余りに危うい――」
('A`)「……かる」
イ从゚ ー゚ノi、「?」
('A`)「お前に何が分かる!!」
叫んで、俺は怪人ドス女から逃げるように駆け出した。

「馬鹿じゃねーの? 正義のヒーローなんて、いるわけねーだろ」
「お前なんか誰も助けちゃくれねえよ」
「さっさと諦めて死ねよ」

後ろから、誰かの笑い声が追いかけて来る。

うるさい。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
うるさい!

お前らに分かってたまるものか!
正義のヒーローは、絶対にいる!
いつか、いつか、俺の前に現れる!

('A`)「絶対に、いるんだ……!」
俺の目からは、いつの間にか大粒の涙がこぼれていた。



45:外来種(チリ) :2007/03/18(日) 17:35:54.17 ID:FYilZTEP0
  

              *             *             *

(,,゚Д゚)「現場検証は不要ってどういうことだゴルァ!!」
ギコの怒号がVIP署刑事一課の部屋を震わせた。
刑事一課長「だから先程説明しただろう?
        これ以上現場を調べても何も得る物はない。
        そう判断したからだ」
(,,゚Д゚)「ざけんな! サラリーマンからは、化物が出たって証言も出た!
    それに、現場には明らかに何か異質な物が残留していた形跡があった!
    それを調べなくて、何の為の警察なんだ!」
ギコが机に拳を叩きつける。

刑事一課長「……ギコ君、君は最近仕事のし過ぎで疲れているんだ。
        長期の有給休暇を認めるから、しばらくゆっくり休み給え」
(,,゚Д゚)「なっ……!」
ギコは拳をわなわなと震わせ、やがて大きく舌打ちをすると、
これ以上話しても無駄というように刑事一課長に背を向けた。

(,,゚Д゚)「そうかい分かったよ! それじゃお言葉に甘えて一ヶ月程休ませてもらうとしますかねえ!」
ギコは壁に罅を入れんばかりの勢いでドアを閉めて、部屋を出て行った。


 〜第二話『怪人ドス女の謎』 終
  第三話『襲来、怪人クマ男!』乞うご期待!〜



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