ドクオは正義のヒーローになれないようです

3:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 21:35:00.86 ID:OzcfqwBY0
  
第三話『襲来、怪人クマ男!』

怪人ドス女と会わなくなって、三日目になる。
その間、俺はバイトにも行かずひたすら家の中で引き篭もって生活していた。

「正義のヒーローとは、何じゃ?」

……思い出したくもないのに、頭の中であの女の言葉が繰り返される。
正義のヒーロー。
ピンチになれば必ず助けに来てくれる、弱い物の味方。

……まだ、それは、俺の前に現れてはくれない。

('A`)「……腹減った」
冷蔵庫の中の物も底を付き、
空腹に耐えられなくなった俺は久し振りに外へ出ることにした。

最初はあれだけ鳴っていたバイト先からの電話も、今はもう鳴らない。
この様子じゃ、とっくにクビになっているのだろう。
いつまでも働かずに済む程俺の貯金は多くない。
面倒だが、また新しいバイトを探さなければ。

('A`)「…………」
部屋を出ようとした時、壁にかけておいたマスク仮面変身スーツが目に入ってきた。
そういえば、あれからこの服にも袖を通していない。
何となく、着る気になれなかったのだ。



4:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 21:38:24.67 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「……こんなもん着て、何になるってんだ」
分かっている。
こんなものは所詮まやかし。
ハリボテのヒーローにしか過ぎないことを。



('A`)「それでですね、怪人蜘蛛男が糸を吐きかけてきたのを
   さっとかわして、マスクキックでやっつけたんですよ」
从'ー'从「まあ、そうなんですか!」
結局、俺はスーツを着て渡辺おばあちゃんの家に来ていた。
スーツを着ることで、幾分か心も軽くなった気がする。

从'ー'从「でも、心配ねえ。
     近くでそんな怪人が出ていたなんて」
('A`)「大丈夫ですよ。
   もしもの時は、このマスク仮面がすぐに駆け付けて守りますから」
俺は何を言っている。
俺に、何が出来るというのだ。
あの時だって、何も出来ずに殺されかけただけだってのに。



5:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 21:47:26.79 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「……そろそろ帰りますね」
从'ー'从「あら、もう夕方なのね。
     ごめんなさいね、長々と引きとめちゃって」
('A`)「いえ……」
渡辺おばあちゃんの気遣いが、今日だけは痛かった。

从'ー'从「あ、そうそう」
('A`)「はい?」
从'ー'从「今日は何か元気が無いみたいだけど、頑張って下さいね。
     詳しい事は私には分かりませんけど、きっと大丈夫よ。
     信じる道を進んでいれば、きっと最後には上手くいくわ」
('A`)「……はい」
信じる道。
だが俺は、一体今何を信じているのだろう。



渡辺のおばあちゃんの家を出て、一人人気の無い道を選んで歩く。
先日警察官に追いかけられて以来、周囲には最大の注意を払っていた。
もし捕まれば、間違い無くブタ箱にゴーホームだ。

('A`)「あ」
(,,゚Д゚)「あ」
そんな矢先、曲がり角でばったりと人に出くわしてしまった。



6:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 21:53:47.08 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「……あ〜、こんばんは。
   自分、マスク仮面っていいます」
(,,゚Д゚)「これはこれはご丁寧に。
    俺はギコっていう、VIP署の刑事です」
('A`)「へ〜、刑事さんなんですか〜。
   凄いですね〜。 最近何かと大変でしょう」
(,,゚Д゚)「ええ、そうなんですよ〜。
    猟奇殺人は連続して発生するし、不審者も出てくるし」
('A`)「それは忙しそうですね〜。 じゃあ私はこの辺で……」
俺はそそくさと反転してその場を立ち去ろうとした。
(,,゚Д゚)「ちょっと待ってくれませんか〜」
その肩を掴んでくる刑事。
('A`)「……そっすよね〜」
(,,゚Д゚)「そっすよ〜」



8:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:00:26.76 ID:OzcfqwBY0
  
(,,゚Д゚)「そこの変態、さっさと止まれやゴルア!!」
('A`)「止まれと言われて止まる馬鹿がいるか!!」
街頭の点き始めた通りの下で、俺と刑事が壮絶な鬼ごっこを繰り広げていた。

(,,゚Д゚)「止まれゴルア!」
('A`)「嫌じゃボケ!」
糞。
やっぱりもう少し夜遅くなってから外に出るべきだった。
てか、本当にブタ箱入りになったら洒落にならんぞ。

(,,゚Д゚)「あじゃー!」
('A`)「うぎー!」
最早言語ですらない雄叫びを上げながら、鬼ごっこは続いていった。



9:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:08:05.61 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「はあ、はあ……
   どうにか逃げ切ったか……」
逃走劇を繰り広げること数十分、ようやく刑事を振り切り、
俺は人気の無い河川敷の土手に腰を下ろした。

('A`)「あ〜、だり〜……」
一週間以内に警察に二回も追いかけられる人間など、そうはいるまい。
このままいけば、その内ギネスに載れるかもしれない。
全く載りたくないけど。

「クスン、クスン……」
と、土手の上の方からすすり泣くような声が聞こえてきた。
見ると、小学生低学年くらいの女の子が、泣きながらとぼとぼと歩いている。

('A`)「お嬢さん、どうしたんだい?」
正義のヒーローの使命として、俺はすぐに声をかけた。
泣いている人には救いの手を差し伸べる。
これは正義のヒーローとして当然の事だ。

「……おじちゃん、誰?」
('A`)「私はマスク仮面。 君を助けに来た」
おじちゃんという単語が聞こえた気がするが、きっと空耳だ。

……俺も、もう十代じゃないんだな……



10:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:15:55.60 ID:OzcfqwBY0
  
「……本当に、助けてくれるの?」
('A`)「ああ、本当だ」
俺はにっこり微笑んで頷く。

('A`)「さ、何があったのか、話してみなさい」
「……おかあさんがくれたペンダント、失くしちゃったの」
女の子が節目がちのまま俺に言った。

「今日、ここで遊んでたらね、
 誕生日にってお母さんがくれたペンダント落としちゃったの。
 それで……」
女の子がまた泣き出しそうになる。
いかん。
ここは正義のヒーローとして、この涙を止めなければ。

('A`)「任せなさい! 
   このマスク仮面が、必ずや君のペンダントを見つけてあげよう!」
「本当?」
女の子がこれ以上ないくらいの笑顔を俺に見せた。
この純粋さといったらどうだ。
それに比べてポリの野郎め。
俺を見るなり犯罪者扱いしやがって。

('A`)「さあ、それじゃ一緒に探そう!」
「うん!」
こうして、鬼ごっこから一転、宝探しが始まるのだった。



13:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:27:37.88 ID:OzcfqwBY0
  



('A`)「……無いな〜」
日が落ちてからの捜索は予想以上に困難を極めた。
懐中電灯でもあればいいのだが、あいにくそんな物を買うだけの手持ちが俺には無い。
しかし、あんまり遅くなり過ぎてもこの子の両親が心配するし……

('A`)「って、うわあ!」
考え事をした瞬間、足を滑らせて土手の坂を無様に転がった。
('A`)「……っつ、いってぇ〜。
   糞、手ぇすりむいちまっ……ってあれ?」
思わず地面についた手に、土や草とは違う感触があった。
('A`)「ペンダント……って、これか?」
プラスチックの宝石と、安合金のペンダント。
それでも、こんなイミテーションでも、
あの子にとっては何にも変え難い宝物だったのだろう。

('A`)「さて、と。 さっさと教えてやるか。
   きっと喜ぶぞ」
俺は周囲を見渡し、今も必死でペンダントを探しているであろう女の子を捜した。



17:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:35:25.26 ID:OzcfqwBY0
  
「きゃああああああああ!!」
その時、あの女の子の悲鳴が聞こえてきた。
反射的にそちらの方を向く。
そこには、女の子と、もう一つの巨大な影。

( ・(エ)・)「クマー!」
どう見ても怪人クマ男です。
本当にありがとうございました。

どうしてこの都会に熊がいるんだ?って、今はそんな場合じゃない。
クマ男は、今にも女の子に襲いかかろうとしている。
助けなければ。

('A`)「待……!」
駆け出そうとした時、俺の足が動かなくなった。

駄目だ。
行けば、殺される。
蜘蛛男にすら歯が立たなかったのに、
それより更に強そうなあいつとどうやって戦えというのだ。

前は、ドス女が助けてくれたが、
今回もそんな都合のいいことがあるとは限らない。
幸い、クマ男はまだこちらには気づいていない。
今なら、逃げられる。
逃げ――

「助けて! マスク仮面!!」
('A`)「――――!」



18:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:41:23.03 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
反射的に、俺は走っていた。
さっきまで石みたいに動かなかった足が、
今は自分の足じゃないぐらいに速く動いた。

『今』、『目の前で』、『助けを求める人がいる』。
だから、走った。
だから、走れる。

そうだ。
正義のヒーローは、助けを呼べば、必ずやってくる!!!



19:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:48:25.42 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「マスクキック!!!!!!!!!」
全体重を乗せたドロップキックを、怪人クマ男に叩き込む。
テレビの様に相手が吹っ飛んで爆発する、なんてことは勿論出来なかったが、
それでもクマ男に尻餅をつかせることぐらいは出来た。

('A`)「出たな怪人クマ男!
   幼い子供を襲おうとするなど言語道断!」
起き上がろうとするクマ男に向かい、ポーズを取って見栄を切る。
('A`)「マスク仮面、ただいま参上!
   貴様の悪運もここまでだ!!」
クマ男が、こちらを睨む。
負けずに、こちらも睨み返した。

('A`)「さあ、お嬢さん。
   ここは私が引き受けた。
   君は早く逃げなさい!」
「あ、あの……」
('A`)「早く!!」
「はい!」
女の子が逃げていくのを確認して、俺はひとまず安堵の息をついた。
問題は、ここからだ。
あっさりやられては、女の子が安全な場所まで逃げることが出来ないし、俺が死ぬ。
いかに時間を稼ぎ、かつ、死なないようにするか。

相手を倒せなくてもいい。
こちらの勝利条件は、生きのびることだ。



22:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 22:57:12.43 ID:OzcfqwBY0
  
( ・(エ)・)「クマー!」
考えがまとまらないうちに、クマ男がこちらに向かって襲いかかってきた。
フェイントもテクニックもへったくれも無い、単なる体当たり。
それでも、それは人を殺傷するのに充分すぎるものであるということは、一瞬で判断できた。

('A`)「う、うわあ!」
咄嗟に右に横っ飛びして、辛うじてだが体当たりをかわす。
避け切れずにかすった太腿の部分が、それだけで麻酔でも打たれたかのように痺れて感覚が薄くなる。
あんなものをまともに喰らったら。
恐怖の冷や汗が俺の背中をつたった。

( ・(エ)・)「クマー!」
再び、クマ男が突進してきた。
大丈夫。
決して避けられない速さじゃない。
落ち着いていれば、完全とはいかないまでも回避は可能。
後は、機会を見て逃げればいい。

('A`)「うおっ、と――」
俺がもう一度右に跳んだ瞬間――



23:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 23:04:19.31 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「がはあっ!!」
とてつもない衝撃が、俺の腹部を襲った。
吐瀉物を撒き散らしながら吹っ飛び、地面に叩き付けられる。

('A`)「がはっ! がああっ!!」
余りの苦しみにたまらず地面を転がりながら、ゲロと苦悶の声を口から絞り出す。

クマ男がすれ違う瞬間、ほんの少し腕を横に開き、
その部分が俺の腹に命中したのだと、喰らった後で理解出来た。

全く腰の入っていない、手打ちですらない、ただ当てただけのパンチ。
それだけで、この威力。
マスク仮面変身スーツに鉄板を仕込んでいなければ、間違い無く内臓が破裂していただろう。

幸いにも、肋骨のある部分には当たってはいなかったため、骨は無事のようだが――
今この現実で、骨が折れていないからそれが一体何だというのか。
死刑執行の時間が、ほんの僅かに延びたに過ぎない。



26:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 23:17:38.73 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「ぐうっ! がっ……!」
体に残された力を総動員して、何とか起き上がる。
ふらふらとおぼつかない足でバランスを保ち、怪人クマ男に向き直る。

( ・(エ)・)「クマー……」
クマ男は勝利を確信したかのように、ゆっくりとこちらに歩みを進めてきた。
俺に次の一撃をかわすだけの力は、もう無い。

('A`)「くっ……!」
死という文字が脳裏に浮かぶ。
そういえば、あの女の子はもう逃げただろうか。
俺はもう助からないかもしれないけど、それだけが心残り――

「マスク仮面!」
聞こえる筈の無い声。
あの子、何で戻ってきたんだ!?
あのまま逃げてれば、助かったものを……!



27:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 23:18:22.60 ID:OzcfqwBY0
  
( ・(エ)・)「クマー!」
俺はいつでも殺せると判断したのか、クマ男が向きを変えて女の子に襲い掛かる。
('A`)「させるかあ!!」
もう動かない筈だったのに、俺の体は全力以上の力で女の子に向かって駆け出した。

('A`)「がああああ!!」
一瞬だけ、俺の方が女の子の所に先に到着した。
だが、一瞬だけ。
それだけの時間では、最早何の手も打つことは出来なかった。

( ・(エ)・)「クマー!」
クマ男の腕が俺と女の子に向かって振り下ろされる。
('A`)「くっ……!」
俺は女の子を庇うように抱き締めた。

畜生。
何が正義のヒーローだ。
誰も、何も守れやしない。
こんなものが、俺の――!



29:彼女居ない暦(岡山県) :2007/03/19(月) 23:30:07.01 ID:OzcfqwBY0
  
('A`)「…………?」
しかし、いつまで経ってもクマ男の腕は振り下ろされてこなかった。
恐る恐る眼を開ける。
そこに映ったのは――

イ从゚ ー゚ノi、「間一髪、といったところじゃな」
('A`)「――――!?」
銀の髪。
日本刀。
怪人ドス女。
そいつが、そこにいた。
俺より細い筈のその腕で――怪人クマ男の一撃を受け止めている。

イ从゚ ー゚ノi、「よくぞここまで吼え、戦った。
      正義のヒーローの矜持、しかと見せて貰った」
ドス女が腕を受け止めた状態からクマ男を蹴り飛ばして、強引に距離を離す。

イ从゚ ー゚ノi、「そこな童はお主が守れ。
      あとは、こちらで始末をつける」
そう言うと、ドス女はそのトレードマークである日本刀をゆっくり引き抜く。
イ从゚ ー゚ノi、「怪外は怪外同士、死合うとしようぞ。
      のう? クマ男よ」
日本刀の切っ先が、怪人クマ男に真っ直ぐに向けられた。


〜第三話『襲来、怪人クマ男!』 終
 次回『変身、怪人狼女!』乞うご期待!〜



戻る第四話