ドクオは正義のヒーローになれないようです

1:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 13:18:23.46 ID:5SRLIFDz0
  
第四話 『変身、怪人狼女!』

ヨーイドンの合図も無かったのに、
怪人ドス女と怪人クマ男はほとんど同時に相手に向かって突進した。

イ从゚ ー゚ノi、「ひゅうあッ!」
( ・(エ)・)『クマー!」
お互いに必殺の間合いに入った所で、ドス女の日本刀とクマ男の左腕とが激突する。
普通なら、刃物と生身の肉体とが接触すれば、肉の方が斬れる。
ましてやその刃物が日本刀だった場合、肉どころか骨までその切れ味と重みで切断できる。
そして、クマ男は普通ではなかった。

イ从゚ ー゚ノi、「ちッ……!」
ドス女の斬撃は、クマ男の左腕に少し食い込んだところで止まっていた。
クマ男の強靭な筋肉が、日本刀の刃すら食い止めたのだ。

( ・(エ)・)「クマー!!」
空いている方の右腕で、クマ男が横薙ぎにドス女の体を力任せに叩く。
イ从゚ ー゚ノi、「がッ!!」
日本刀を両手で握っていた為防御できずにまともにその一撃を喰らい、
ドス女がまるでゴム鞠のように大きく吹っ飛んだ。



4:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 13:27:12.64 ID:5SRLIFDz0
  
( ・(エ)・)「クマー!」
クマ男が、倒れたドス女に追い討ちをかけようと跳び掛かる。
あの巨体のどこにそこまでの敏捷性があったのかと目を疑うような高い跳躍をすると、
クマ男はその巨躯を重力の力を乗せてドス女の体にのしかかった。

イ从゚ ー゚ノi、「ごッ……!」
メキリ、メキリと、胸骨の折れた音がこちらまで聞こえ、
ドス女が口から盛大に血を吐き出した。
( ・(エ)・)「クマー!」
クマ男はそれにまったく躊躇や哀れみを見せることなく、
馬乗りの体勢から遠慮なしにドス女の顔にパンチを打ち込んでいく。

これが、プライドとかの試合なら、レフェリーストップがかかっている勝負有りの状態だった。
しかし、これは試合ではない。
殺し合いだ。



5:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 13:36:22.11 ID:5SRLIFDz0
  
('A`)「ドス女!」
俺はドス女の所へと駆け出そうとした。
このままでは、ドス女がやられる。
俺ではクマ男の相手にはなれないだろうが、
それでも、せめて注意を引き付けるくらいはしなければ……!

イ从゚ ー゚ノi、「来るな!」
しかし、ドス女の声が俺の加勢を押し止めた。
('A`)「何言ってんだ! このままじゃ、死ぬぞ!?」
イ从゚ ー゚ノi、「お主がそこを離れたら、誰がその童を護る!?
      正義のヒーローを名乗るなら、己の使命を見誤るな!」
('A`)「だけど!」
俺は唇を噛んだ。
傍らには、惨劇に震える女の子。
確かに、この子を放って置くことなどできない。
理屈では分かっている。
だけど……!

イ从゚ ー゚ノi、「それに、な。
       儂を見縊ってもらっては困る。
       この程度の相手に、くたばりはせぬ」
この程度って……今、ボコボコにやられてるじゃないか。
( ・(エ)・)「クマー!!」
そんな俺達のやりとりにお構いなしに、クマ男が止めとばかりに渾身の一撃を振りかぶった。
('A`)「ドス女!」
駄目だ、殺られ――



7:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 13:55:56.78 ID:5SRLIFDz0
  
( +(エ)・)「クマー!!」
次の瞬間、クマ男の悲鳴が響き渡った。
さっきまでドス女の上に馬乗りになっていたのに、
せっかくのその有利な体勢を解いて、右目を手で押さえながら転がりまわっている。

イ从゚ ー゚ノi、「目までは鍛えることは出来ぬようじゃな」
ドス女の右手の人差し指と中指が血で濡れていた。
あの体勢から、クマ男の目を突いて逃れる。
試合でないからこそ、許される手段だった。

( +(エ)・)「……クマー!」
しかし、クマ男の闘志は全く衰えてはいなかった。
どころか、さっき以上の凄みさえ漂わせている。
誰かが『獣は手負いこそが最も恐ろしい』と言っていたが、正に、その通りだった。

イ从゚ ー゚ノi、「そう来なくては、な……
       骨が折れただけ、目が潰れただけ。
       そんなもので、死合いは決着したりはせぬ、のう?」
ドス女が口の中に残っていた血を吐き捨てた。
そして、日本刀を握り直すと、何を思ったか自分の手の平に切っ先を当てておもむろに突き刺した。

イ从゚ ー゚ノi、「マスク仮面。
       童の目と耳を塞げ。
       これから起きることを、決して見聞かせしてはならぬ」
鍔元まで手に日本刀を差し込むと、ドス女は腰に刺さっていた鞘を投げ捨てた。

イ从゚ ー゚ノi、「――望月天に煌と照り、地には血風吹き荒ぶ」
ドス女が小さく呟くと――



8:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 14:07:34.72 ID:5SRLIFDz0
  
('A`)「――――!」
目の前の異変に、俺は我が目を疑った。
ドス女の体が、リアルタイムでさっきとは別の『何か』に変質していっている。

イ从゚ ー゚ノi、「ぎ……ぐぐ…………ぎぃぃ……!」
ドス女が体をくの字に折ると、体格が一回りも二周りも大きくなっていく。
続いて、体中をドス女の髪と同じ、輝くような銀色の体毛が覆っていく。

ミ,,゚(叉)「アオーーーーーーーン!!」
さっきまでドス女が居た場所に、銀色の獣が存在していた。

('A`)「人狼……!」
狼男を代表とする、古来よりの怪物。
漫画や映画にもよく登場し、
ライカンスロープ、ワーウルフ、ヴェアヴォルフなどその寓話は世界中に存在している。
だが――現実に、本物を見ることは、勿論初めてのことだった。



10:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 14:18:21.77 ID:5SRLIFDz0
  
( +(エ)・)「クマー!?」
クマ男が、一歩後ずさった。
本能的に感じているのだろう。
目の前の魔獣と闘えば、死という結末しか存在していないことに。

ミ,,゚(叉)「ゴオオォ!!」
ドス女――改め狼女は、クマ男に逃走の素振りを見せる暇すら与えなかった。
跳躍してからの右足後ろ回し蹴り――フライング・ソバットキックで、
さっきのお返しとばかりにクマ男を思い切り蹴飛ばした。

( +(エ)・)「クマー!!」
錐揉み回転しながらクマ男の体が宙を舞う。
地面に激突するまで後十数センチ。
その時には、既に狼女はクマ男のすぐ近くまで接近していた。

ミ,,゚(叉)「ガアッ!」
両手を組んだ状態で腕を上から思い切り振り下ろし、
クマ男の体を地面に思い切り叩き付けた。
地面にぶち当たるだけではその恐るべき威力が消費し切れず、
クマ男の体が反動で再び上へと跳ね上がった。



12:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 14:29:38.12 ID:5SRLIFDz0
  
ミ,,゚(叉)「ガアアァッ!!」
左足でクマ男を更に上空へと蹴り上げると、
狼女は自分も跳躍してクマ男を追った。

ミ,,゚(叉)「ウバシャアァッ!!!」
右手に刺さった形で握られた日本刀を、クマ男の体を正中線に沿って這わせる。
分厚い筋肉に覆われていた筈の肉の鎧が、
まるで熱したナイフでバターを切るかのように何の抵抗も無く斬り裂かれた。

狼女はその切断面に両手を差し込むと、更に傷口を押し広げた。
零れ出す小腸、大腸、胃、肺、腎臓、膵臓、十二指腸。
その悉くを爪や牙や日本刀で裂き、空にばら撒く。
最後に心臓――
これを右手で引きずり出すと、狼女は上に掲げて握りつぶした。

ミ,,゚(叉)「アオオーーーーーーーーーーン!!」
狼女が着地すると同時に、クマ男の肉片と血とがバケツをひっくり返したかのように降りかかる。
銀色のの毛を血で真っ赤に汚しながら、
狼女は空に向かって高々と勝鬨にも似た遠吠えを上げた。



13:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 14:38:53.24 ID:5SRLIFDz0
  
('A`)「な、な、な――」
女の子に決して前を向けさせないように抱きしめながら、俺は絶句していた。
今のは、何だ?
怪人ドス女が怪人狼女に変身して――
それで、馬鹿みたいな強さでクマ男を――

('A`)「お前は一体何なんだ!?」
最初にドス女に会った時と同じ台詞を、狼女に叩き付けた。

何なんだ。
何なんだ、一体。
蜘蛛男も、クマ男も、ドス女も、狼女も……

一体、何なんだ!?
俺の周りで、一体何が起こって――

(=゚д゚)「お前が知る必要は無いラギ」
('A`)「――――!?」
振り返る間も無く、首筋に重い衝撃を感じたかと思うと、俺の意識はそこで無くなった。



14:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 14:55:04.81 ID:5SRLIFDz0
  
研究員A「今のは、まさか、ライカンスロープ!?」
研究員B「有り得ん! とうの昔に絶滅している筈だ!」
研究員C「だが――こうしてこの目で見た以上、否定するわけにもいくまい」
研究員A「しかし、あれがもし敵に回るとなると、少々厄介だぞ……」

(’e’)「何をそんなに驚いている。 まるで子供がお化けでも見たようだぞ」
研究員B「ドクター・セントジョーンズ!」
研究員C「ドクター、あれを見てあたなは驚かないとでもいうのですか!?」

(’e’)「驚く、も何も。
    存在していると分かっているものを見て、何を驚くのかね」
研究員C「…………?」



15:停学中(チリ) :2007/03/22(木) 14:56:39.39 ID:5SRLIFDz0
  
(’e’)「そもそも、我々が改造して生み出す怪人は、『ああいったもの』を原料にしたものだ。
    『ああいったもの』がなければ、怪人もまた産まれない――
    君達はいるのがおかしいかのように驚いているが、寧ろ、いない方がおかしいのだぞ?」
研究員A「それは、その通りですが……」
(’e’)「しかし、あの性能…… 欲しい。 是非欲しい。
    何としてでも解剖して研究してみたいものだ……」

研究員B「あ、あの、ドクター・セントジョーンズ。
      トラ男が捕らえた変態は如何いたしましょうか?」
(’e’)「ああ、あれか。
    蜘蛛男を斃した者の正体が分かった以上、あれにもう用は無い。
    『例のヤツ』の餌にしておけ」
研究員C「はッ」

(’e’)「くくッ……
    再び本物の怪異を見ることが出来るとはな……
    これだから、人生というものは面白い」


〜第四話『変身、怪人狼女!』 終
 次回『正義の使者、ブーン!』乞うご期待!〜



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