ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:20:20.23 ID:uDjXt6oI0
  
第九話『弱虫の遠吠え』

前回までのあらすじ

(´・ω・`)「私ももうすぐ50代か……
      思えば、これまで長かったものだ」
ショボ山ショボン、48歳。
中流企業VIP商事に勤続26年のサラリーマン。
小さいながらも幸せな家庭を築き、後は定年後新たな人生を探すだけ……の筈だった。

(・∀ ・)「あ、ショボン君。 君今日からクビね」
突然言い渡されるリストラ宣告!
今まで会社に数十年尽くしてきたのは何だったのか!?
手元に残るは雀の涙の退職金!

J( 'ー`)し「すみませんが実家に帰らせて頂きます。
      子供の親権利は私で慰謝料は百億万円」
更には妻からの三行半!
プラス、慰謝料請求!
そんな金などあるわけない!

ξ゚听)ξ「ねえおじさん、二万で私とイイコトしない?」
身も心もズタボロの彼に、援助交際の魔の手が迫る!
やめろ、ショボン!
その女の後ろには、美人局が待ってるぞ!

(´・ω・`)「もう駄目だ…… 残された道は自殺しか無い……」
ショボンの足が無意識にビルの屋上へと進む!
死ぬな、ショボン!
誰か彼を止めてくれ!!



2: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:21:21.72 ID:uDjXt6oI0
  


                *    以下、何事も無かったかのように再開    *


('A`)「ふあ〜あぁ…… ねみぃ……」
午前7時30分。
この時間に起きるのが俺の日課だった。

('A`)「何かおもろいニュースでもやってっかなあ」
テレビのニュースをつけ、トイレに行き、顔を洗い、トースターに食パンをセットする。
いつもと変わらぬ朝。
いつもと同じ日常。
……の、筈なのだが……

イ从゚ ー゚ノi、「朝食は味噌汁とご飯にしてくれ。
       味噌汁の実はほうれん草と大根で」
布団から頭だけ出して、ドス女が注文をつけてきた。

……何でいるの?
何であんたがここにいるの?



3: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:22:39.41 ID:uDjXt6oI0
  



イ从゚ ー゚ノi、「もしかしたら、お主の家によからぬ手合いが来るかもしれぬ。
       よければ儂が見張っておいてやろうか?」

ギコと別れたあと、やっとのことで俺の家に帰ってきたとき、
ドス女がそう申し出てきたのだ。
俺としても、立て続けに色々事件に巻き込まれたこともあり、
このまま一人になるのは不安だったのでその申し出を受けたのだが――それが、失敗だった。

イ从゚ ー゚ノi、「では、しばらく厄介になるぞ」
('A`)「はあ!?」

俺が了承するなり、ドス女はどこからか自分専用の家具等を持ってきて、
俺の部屋の隅にまとめて片付けを始めた。
俺が呆然としている間に、ドス女はテキパキと引越しの準備を進めていて、
気付いたときには完全にドス女の居住スペースが確保されてしまっていた。

イ从゚ ー゚ノi、「腹が減った。 馳走を用意せい」
('A`)「はあ!?」
やばい、こいつ、俺の家に住み着くつもりだ、と思ったが時既に遅し。
まるでここにいるのが当然とでも言いたげな顔で、ドス女はすっかりとくつろいでいた。

イ从゚ ー゚ノi、「この部屋に風呂は無いのか?」
('A`)「部屋見りゃ分かんだろヴォケ。 こんなオンボロアパートに風呂なんぞあるか。
   銭湯行け銭湯」
俺のアパートは、郊外とはいえ都内で家賃3万5000という低価格なだけあり、
部屋も六畳一間壁オンボロ台所風呂無しトイレ共用と恐るべき劣悪な環境下である。
その部屋が、更に狭くなるなど考えただけで欝になる話だった。



4: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:23:11.02 ID:uDjXt6oI0
  
イ从゚ ー゚ノi、「チッ、使えない野郎じゃ。 明日までには儂の分の洗面用具を用意しておけよ?
       (そうか、まあ居候するのに贅沢は言っておれぬな。 今日は風呂は諦めるか)」
('A`)「思いっきり本音と建て前が逆だぞ。
   てか、ほんともう帰って下さい」
それは心の奥底からの願いだった。

イ从゚ ー゚ノi、「そう邪険にするな。
       儂も野宿にはうんざりしていたところじゃ。
       こんなボロ屋でも、夜露を凌ぐことくらいは出来るじゃろうから使ってやる。
       有り難く思え」
('A`)「…………」
もう、言い返す気力すら起きなかった。

イ从゚ ー゚ノi、「ふむ、しかし服が汚れたままでは気持ちが悪いな。
       着替えはあるか?」
('A`)「俺の服しかねえぞ」
イ从゚ ー゚ノi、「できれば和服が良いのじゃが、ま、この際仕方があるまい。
       それ……っと」
('A`)「わーーーーーーー!!
   俺が部屋から出てから着替えろーーーーーーーーーーー!!!」



5: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:24:27.42 ID:uDjXt6oI0
  



……そんなこんなで、折角家に帰ったというのに、
全く休むことは出来なかった。

てかあの女、寝言で「あはーん」とか「ぬふーん」とかぬかしやがって!
同じ部屋ん中であんなことされて寝れるか!!

イ从゚ ー゚ノi、「聞こえておるか?
       朝食は味噌汁とご飯じゃぞ?」
俺が回想に耽っている間に、ドス女は布団から出てきていた。
いつもの着物ではなく、俺のTシャツとスパッツを着ているのだが、
ドス女が俺より背が高いためどちらもパッツンパッツンで非常に目のやり場に困る。

('A`)「うちにんなもんはねえ。
   どころか作る場所すらねえ」
てか、居候するんなら飯の用意くらい自分でしろよ……

イ从゚ ー゚ノi、「全く、根底役に立たぬ男じゃな」
その役立たずの家に居ついている貴様が言うか。

イ从゚ ー゚ノi、「そういえば、目が赤いが、寝不足か?」
どこからどう見てもあなたの所為です。 本当にありがとうございました。

イ从゚ ー゚ノi、「言っておくが、寝ている間に手を出そうとしたら殺すからな」
('A`)「しねえよ!!」
俺はついにブチ切れた。
マジでこいつ、早く出ていってくれ……



7: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:27:25.14 ID:uDjXt6oI0
  




喧々諤々のすったもんだの末、結局は俺が全てを諦めるという形で全ては決着した。
恐らく、悪の秘密結社が壊滅するまでこいつは居座り続けるのだろう。

イ从゚ ー゚ノi、「あー、風が気持ち良いのう」
秋風に長い銀髪をたなびかせながら、俺の隣でドス女が呟く。
夕暮れ、晩飯の調達に駅近くのスーパーまで買出しに行こうとしたとき、
何故かこいつも一緒にくるとか言い出してついてきたのだ。
勿論俺は嫌がったが、一向に従おうとしなかったので、
最低限の譲歩として日本刀だけは家に置いて来させた。

イ从゚ ー゚ノi、「のう、マスク仮面よ。
       そういえばお主の部屋の前に、鬱山とかいう立て札がかかっておったのじゃが、
       お主は鬱山という者から部屋を借りておるのか?」
('A`)「はあ?
   鬱山は俺の苗字だ。 俺の名前は鬱山ドクオっての」
イ从゚ ー゚ノi、「……? お主の名前はマスク仮面ではなかったのか?」
('A`)「んなわけねえだろ、常識的に考えて……」
こいつ、俺の言ったこと本気にしてたのか。

イ从゚ ー゚ノi、「……怪人毒男、か。 まさに、じゃな……」
('A`)「んあ? 何か言ったか?」
イ从゚ ー゚ノi、「いや、別に、こっちのことじゃ。 気にするな」
('A`)「…………?」
何故かそそくさと会話を逸らすドス女。
まあいいや。 こいつの変なのは、今に始まったことではない。



8: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:28:41.40 ID:uDjXt6oI0
  
('A`)「あ、渡辺おばあさんだ」
買い物に行く途中、渡辺おばあさんの家の前を通りかかろうとしたときに、
たまたま渡辺のおばあちゃんが家に入ろうとしているところに出くわした。
渡辺おばあさんとは、マスク仮面変身スーツを着ていないときにも何度か話をしたことがあるので、
スーツを着ていない今でも俺が誰かは分かる筈だ。

('A`)「こんばんは。 渡辺おばあさん」
軽く会釈をしながら、渡辺おばあさんに挨拶した。
向こうも、こちらに気付いて向き直る。

从'ー'从「あら、こんばん――」
渡辺おばあさんが笑顔で挨拶を返そうとしたとき、
急にびっくりしたような様子で手に持っていた買い物袋を地面に落とした。

('A`)「…………?」
何があったのだろう。
あの渡辺おばあさんが、こんなに取り乱すなんて。

('A`)「なあ、ドス女――」
と、ちらりとドス女の方を向いた時、
ドス女にも僅かだが渡辺おばあさんと同じ驚きの表情を浮かべているのが見えた。

从'ー'从「あら…… あらあら、まあ……」
渡辺おばあさんは目に涙を浮かべ、ドス女を見つめていた。
('A`)「???????」
俺は訳も分からず、ドス女と渡辺おばあさんとを交互に見返し続けた。

从'ー'从「お久し振りです。 狗神様」
イ从゚ ー゚ノi、「久しいな、渡辺。 息災じゃったか」



9: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:29:19.17 ID:uDjXt6oI0
  






('A`)「――つまり、渡辺おばあちゃんとドス女は、昔一緒に遊んでいた、と」
すっかりお馴染みの渡辺おばあちゃんの家の居間で、
俺とドス女は出されたお茶を啜っていた。

从'ー'从「ええ。 狗神様には、危ないところを何度も助けて頂いたのですよ。
     ……ところで、狗神様、ドス女、というのは?」
イ从゚ ー゚ノi、「気にするな、渡辺。
       馬鹿の妄言じゃ」
こいつ、今俺のこと馬鹿って言いやがった。

从'ー'从「狗神様、今まで、どちらに行かれていたのですか?
     急にいなくなられて随分と心配しておりました」
イ从゚ ー゚ノi、「済まぬ。 
       戦争が始まってから、この国の軍隊が儂を軍事利用するとか何とか抜かして、
       しつこく追い回して来おってな。
       で、ほとぼりが冷めるまで身を隠しておって、やっと軍が解体されたと思ったら、
       また次から次へと厄介事が起きて、一つ所におれなんだのじゃ。
       全く……あの『死置き人』には随分と手を焼いたわ」
戦争って……ひょっとして第二次世界大戦のことか?



10: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:29:56.52 ID:uDjXt6oI0
  
('A`)「あの……前から気になってたんだけど、お前、何歳なの?」
イ从゚ ー゚ノi、「女性に歳を尋ねるのは無礼と知らぬのか?」
どうやら、一人前に女としての自覚はあるらしい。
だったら女が男と一つ屋根の部屋で暮らそうとすんな。

イ从゚ ー゚ノi、「まあよい。 詳しい歳は儂も覚えておらぬ。
       500を過ぎてからは数えるのをやめた」
……室町とかそんな時代ですか。
文字通り桁違いだ、このババア。

从'ー'从「さっきお会いしたときは本当に驚きました。
     狗神様が、最後に会ったときと同じ、美しいままのお姿だったので」
イ从゚ ー゚ノi、「世辞はやめてくれ、渡辺。
       お主こそ、VIP小町と呼ばれるほどの可憐な花一輪だったではないか」
渡辺おばあさんがVIP小町……
確かに、温厚な物腰と、柔和な顔つきから、昔は相当の美人だったことが窺い知れた。

从'ー'从「何をおっしゃいますやら。
      私はこの通り、もう皺くちゃのおばあちゃんでございます。
      VIP小町なんて、とてもとても……」
イ从゚ ー゚ノi、「何を言う。 
       その皺の一本一本こそが、一歩一歩精一杯人生を歩んできた何よりの証ではないか。
       それこそが、本当の美しさじゃ。
       老いもせぬ、育ちもせぬ、変わりもせぬ……
       ……儂の、何が美しいものか」
自嘲気味に、ドス女が笑った。
その悲しそうな笑顔に、俺は思わず顔を背ける。

イ从゚ ー゚ノi、「……長居し過ぎたな。
       邪魔をした、渡辺。 また、共に茶でも飲もう」



12: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:31:19.54 ID:uDjXt6oI0
  





イ从゚ ー゚ノi、「…………」
渡辺おばあさんと別れてから、ドス女は一言も口を利こうとしなかった。
何故かは知らないが、落ち込んでいるようにも見える。

('A`)「しっかし、前々からどっか人間とは違うと思ってたけどさー、やっぱ凄い存在だったんだな」
沈黙に耐えられなくなり、俺から努めて明るい声でドス女に話を振った。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
しかし、ドス女からは何の反応も無い。

('A`)「いや、ほんとすげーよ。
   歳を取らないとか、すっごい羨ましいって……」
イ从゚ ー゚ノi、「……お主には、分からぬ。
       共に同じ時を歩めぬ、苦しみなど」
('A`)「え?」
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ドス女が何か言った気がしたが、声が小さくてよく聞き取ることが出来なかった。
それっきり、ドス女はまた貝のように口を閉ざしてしまう。
よく分からないが、どこかで地雷を踏んでしまったらしい。



13: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:31:53.49 ID:uDjXt6oI0
  
('A`)「あ、あのさッ!」
何となく居た堪れなくなり、俺は話題を変えることにした。
('A`)「この前の蜘蛛やクマの怪人について、本当に何も知らないのか?
   何か、心当たりは無いのか?」
イ从゚ ー゚ノi、「……奴らについては、本当に何も知らぬ。
       ただ、予想は出来る」
ドス女は意味ありげな答え方で返す。

('A`)「予想、って……どういうことなんだ?」
俺はドス女に尋ねた。

イ从゚ ー゚ノi、「……昨日も言ったろう。
       ここから先は、お主がみだりに踏み込んでいい話ではない。
       死にたくなければ、詮索はせぬことじゃ」
ドス女の回答はそれだけだった。
それ以上、俺に教えるつもりはないらしい。

――お呼び出ない、というわけだ。
俺には、そこまでの力は無い、と。
見くびりやがって。

('A`)「……俺、ちょっと別の店に行ってくるわ」
腹の虫を収める為、俺はドス女から少し離れることにするのだった。



15: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:32:31.86 ID:uDjXt6oI0
  





('A`)「糞ッ……俺なんかが首を突っ込んじゃ駄目だ、ってかよ」
俺は人気の無い道を、悪態をつきながら歩いていた。

詮索するな?
冗談じゃない。
もう三度も、怪人騒動には直接関わっているのだ。
このまま、知らんぷりなどできるものか。
そうさ、大体ドス女は……

(・∀ ・)「よう、ドクオ」
ブツブツ言いながら歩いていた所を、いきなり呼び止められた。
見ると、警官が目の前に立っている。
誰だ、こいつは。
今日は、マスク仮面スーツは着ていないぞ。
――いや、こいつには、見覚えがある……!

(・∀ ・)「相変わらず、シケた顔してるなあ」
悪意に満ちた笑顔で、警官が警棒を手でもてあそぶ。
忘れもしない。
こいつは、斉藤またんき。
高校時代、俺を十自主退学するまで苛め抜いてきた奴だ……!



16: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:33:06.59 ID:uDjXt6oI0
  
('A`)「斉藤……!」
俺は斉藤を睨んだ。
よりにもよって、こいつが警察官だと?
俺にあれだけのことをしておいて、いけしゃあしゃあと正義を名乗ろうというのか。

(・∀ ・)「驚いたか? 俺が警察官になってて」
('A`)「……最近の警察は、人を見る目が無いんだな」
(・∀ ・)「ハハッ! まだ高校のときのことを根に持ってるのか?
     あんなもん、ただのストレス解消の遊びじゃないか。
     ま、お前が自殺してくれなくて良かったよ。
     変なことで俺の経歴に傷がついてたら、こうして警察官になれなかったもんなあ」
心底おかしそうに斉藤が嫌味な笑いを浮かべる。
俺の脳内は、今にも沸騰寸前だった。

(・∀ ・)「ま、残念だねえ、ドクオ君。
     お前も警察官を目指してたんだろ?
     でも、中卒じゃ警察官にはなれないなあ」
('A`)「目指してたのは警察官じゃねえ。
    正義のヒーローだ……!」
(・∀ ・)「ハハハハハハハハハハ!
     お前、馬っ鹿じゃねーの!?
     まだそんなこと言ってんのかよ!
     あんなもん、この世にいるわけねえだろが!」
その言葉を聞いた瞬間、溜まっていた怒りが一気に爆発した。
反射的に、斉藤に掴みかかる。



17: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:33:37.92 ID:uDjXt6oI0
  
(・∀ ・)「公務執行妨害」
しかし、その行為は斉藤の振り下ろした警棒に阻まれた。
警棒で喉を突かれ、俺はもんどりうって地面に倒れる。

(・∀ ・)「どうしたよ、正義のヒーロー!?
     ほら、悪いやつを倒すんじゃねえのか!?」
倒れた俺に、次々と警棒や蹴りやらが降りかかってくる。
助けを呼ぼうにも、周りには誰もいない。
ただひたすら、うずくまって耐えるしかなかった。





(・∀ ・)「ふー、すっきりした」
ひとしきり殴って満足したのか、斉藤が警棒をしまって服装を整えた。

(・∀ ・)「このことを警察に言いたければ言えば?
     ま、どうせ誰も信じないだろうけど。
     これでも、署の中じゃ品行方正で通ってるからね」
そうだ。
こいつは、昔から上の者への顔だけはよかった。
高校の時の教師の中で、こいつが俺を苛めてると知ってた奴は皆無だろう。

(・∀ ・)「ま、精々正義のヒーロー目指して頑張ってよ。
     じゃーねー」
笑いながら、斉藤は去っていった。
後ろから襲い掛かろうにも、体中傷だらけでろくに動けない。
口の中で血の味がする。
鼻血も、大量に流れていた。



18: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:34:22.15 ID:uDjXt6oI0
  
('A`)「糞ッ……!」
いつの間にか、雨が降り始めた。
水滴が、俺の体を容赦なく濡らしていく。

(;A;)「畜生…… 畜生……!」
頬が濡れているのは、雨の所為だけではなかった。

……結局、俺はあの頃から、何一つ変われてはいなかった。
マスク仮面という、薄っぺらいハリボテの鎧の中に閉じこもっただけで、
強くなったつもりになっていただけだった。

(;A;)「畜生…… 畜生…… 畜生……!」
もう怪人事件とは部外者じゃない?
俺にも知る権利はある?
俺を見くびるな、だって?

何様のつもりだったのだろう。
本当の俺は、一人じゃ何一つ出来ない、弱虫だったくせに。



19: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:35:08.62 ID:uDjXt6oI0
  
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
いつの間にか、ドス女が俺の前に立っていた。

('A`)「…………」
終わった、と思った。
こいつにだけは、知られたくなかった。

俺の、隠していた弱さを。
隠していた、醜さを。

こいつの前でだけは、
俺は正義のヒーローでありたかったんだ……!

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ドス女は、傘も差さず濡れたままで、ただ、何も言わずじっと俺を見ていた。

('A`)「……笑えよ」
俺は一言、呟くように言った。

('A`)「これが、マスク仮面の正体さ。
   格好良い事言って、格好つけて、
   実際は、自分一人救えない張子の虎だ」
俺は更にドス女に言った。
きっと、今の俺のことは醜く歪んでいることだろう。

('A`)「笑っちまうだろ!?
   ちゃちぃ変身セットに身を包んで、他人だけでなく自分まで騙し続けて、
   それで、何かしていた気になっていたんだ!」
俺の慟哭は止まらなかった。



20: キンキキッズ(チリ) :2007/03/31(土) 21:35:35.88 ID:uDjXt6oI0
  
('A`)「正義のヒーロー!?
   冗談も大概にしろっての!
   何も出来ない!
   誰も助けられない!
   自分すら!!
   俺は正義のヒーローなんかじゃない!!
   俺は――」
俺は、
馬鹿で、
醜くて、
ちっぽけで、
弱ちい――

(;A;)「……ただの、惨めな道化だったんだ」
雨は更に激しくなり、地面に降り注ぎ続ける。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ドス女は、ただ、俺を見つめていた。


〜第九話『弱虫の遠吠え』 終
 次回、『激突、素直クール対怪人トラ男!』乞うご期待!〜



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