ドクオは正義のヒーローになれないようです

59: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:24:04.44 ID:NgMWOEwo0
  
第十一話『誰が為に闘う』

〜前回までのあらすじ〜

('A`)「まちはきらめくぱっしょんふるー」

イ从゚ ー゚ノi、「うぃんくしてるえぶりーなーいと」

( ^ω^)「ぐらすのなかのぱっしょんびーと」

ξ゚听)ξ「ひとくちだけでふぉーりーんらーぶ」

川 ゚ -゚)「あーまいー めろーでぃー かーぜにのればこんやー」

(,,゚Д゚)「ひーみつー めーいたー とびらがどこかで ひらーくよー」

(=゚д゚)「みーつめるきゃっつあい まーじっぷれずだんしん みーどりいろにひかーあーるー」

(´ー`)「あーやしくきゃっつあい まーじっぷれずだんしん つーきあかりあびてー うぃーげっちゅーうー」

('A`)イ从゚ ー゚ノi、( ^ω^)ξ゚听)ξ川 ゚ -゚)(,,゚Д゚)(=゚д゚)(´ー`)「みすてりあす がーーーる」


「ジャスラックの者ですが」

 __[ J]
  (  ) ('A`)
  (  )Vノ )
   | |  | |



61: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:29:21.95 ID:NgMWOEwo0
  


           *   以下、何事も無かったかのように再開   *


風邪を引いた。
熱が38度5分もある。
間違いなく、昨日雨に濡れてしまったからだ。

('A`)「あー……だりぃ……」
体の節々が痛み、寝返りをうつのも億劫だ。
することも無いので、独り言を呟くくらしか出来ない。

イ从゚ ー゚ノi、「帰ったぞ」
部屋の入り口のドアが開き、ドス女がスーパーの袋を下げて帰ってきた。
袋の中には、林檎やフルーツの缶詰類。

イ从゚ ー゚ノi、「こういった物なら、喉を通り易いじゃろう」
言いながら、ドス女が林檎の皮を器用に剥いていく。
一分もいないうちに皮を剥き終え、8等分された林檎が皿に乗せられて枕元へと運ばれてきた。

('A`)「さんきゅー……」
寝転がったまま、ドス女に礼を述べた。



62: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:31:42.66 ID:NgMWOEwo0
  
('A`)「ごっそさん」
イ从゚ ー゚ノi、「お粗末様でした」
林檎を平らげ、皿をドス女に返す。
部屋が狭くなるのは勘弁だが、矢張り病気になったとき介護してくれる人がいる、というのは有難い。

イ从゚ ー゚ノi、「熱が下がるまで、そうやって安静にしておくことじゃな。
       分かったか、マスク仮面」
ドス女はまだ俺のことをマスク仮面と呼んだ。
そのことが、俺の心をささくれ立たさせる。

('A`)「……俺の名前は、マスク仮面じゃない」
イ从゚ ー゚ノi、「……そうか。 悪かったな、ドクオ」
少し悲しげな顔をし、ドス女が答えた。

……何をやっているんだ、俺は。
こんなの、単なる八つ当たりじゃないか。

('A`)「……悪い。 風邪移してもいけないし、ちょっと外に出ててくれないか?」
嘘だ。
ただ単に、一人きりになりたいだけだ。

イ从゚ ー゚ノi、「……分かった」
特に何を言うこともなく、あっさりとドス女は部屋を出て行った。
出て行く時の後姿を見ながら、俺は自己嫌悪に陥る。



64: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:33:41.84 ID:NgMWOEwo0
  
('A`)「ほんと、何やってんだか、俺……」
自嘲気味に呟く。
――と、部屋の隅にかけておいたマスク仮面変身スーツが不意に目に止まった。

('A`)「…………」
一週間かけて必死に作り上げた、俺の宝物「だった」もの。
それも今は、俺の心を苛むものでしかなかった。

('A`)「…………」
だるい体に鞭を打ち、俺は布団から起き上がった。





('A`)「はあ……だりぃ……」
熱のある体を引きずりながら、俺は道端を歩いていた。
手には、マスク仮面変身スーツの入っているゴミ袋。

('A`)「こんなことなら、もっと簡単なの作れば良かったぜ……」
俺の力作であるマスク仮面変身スーツは、皮や鉄板をふんだんに使った特製品で、燃えるゴミでは捨てられない。
だからこうして、わざわざ粗大ゴミ置き場にまで捨てにいかなくてはならないのだ。

('A`)「……こいつとも、長い付き合いだったな」
俺がこの変身スーツを作ったのが、今からおよそ2年前。
それ以来、ほぼ毎日このスーツには袖を通していたのだが、それももう終わりである。
俺は正義のヒーローなんかじゃないと分かった以上、
こんなものを持っている必要は最早無い。



65: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:36:58.88 ID:NgMWOEwo0
  
('A`)「…………」
未練が、無いわけではない。
辛いとき、苦しいとき、これを着るだけで力が湧いてきた。
このスーツは、俺の希望だった。

――だが、もう、これは俺の希望にはなり得ない。
これは、もう夢の残骸でしかない。

('A`)「えーっと、次の角を左だったな……って、うわあ!」
俺が角を曲がろうとしたとき、死角から走ってきた何者かに正面から激突した。
熱があったこともあり、足腰に力が入らず無様に尻餅をつく。

(;^ω^)「ご、ごめんなさいだお!」
ぶつかった相手は、少しぽっちゃりの高校生ぐらいの少年だった。

('A`)「いや、こっちもよく前を見てなかったからいいですよ」
よろよろと立ち上がろうとすると、少年が腕を差し出してきたのでそれに掴まって体を起こす。

(;^ω^)「ほ、本当に大丈夫ですかお!?
      何か、顔色が悪いようですけどお……」
('A`)「ああ、これは熱があるからですよ。
   さっきのとは関係ありません」
( ^ω^)「そうですかお…… 体の具合が悪いときに、どうもすみませんお。
     あ、これ!」
少年が、倒れた拍子に地面に投げ出されていたゴミ袋を拾い上げた。



67: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:39:41.80 ID:NgMWOEwo0
  
( ^ω^)「これ、あなたのですかお?」
('A`)「……あー、まあ」
ゴミ袋は地面に落ちたときに破れてしまっており、
破れ目からはマスク仮面変身スーツの一部が露わになってしまっていた。

何てこった。
こんな物、他人には絶対見られたくなかったのに。

( ^ω^)「すごいですお! 格好いいですお!
     これ、あなたが作ったんですかお!?」
('A`)「……そうですか」
少年からの褒め言葉も、今の俺には苦痛でしかなかった。

('A`)「よかったら、これ、差し上げますよ。
   どうせ、今から捨てるところだったんで」
ゴミ捨て場まで行く手間を省こうと、俺は少年にそう言った。
俺としては、手元にさえ残らなければ捨てようと人にあげようとどっちでも良かった。

( ^ω^)「ええ!? それを捨てるなんてとんでもないですお!
      こんなに立派なものなのに……」
('A`)「いえ、いいんです。 もう、必要のないものですから。
   ……それに、いい歳こいて、いつまでも正義のヒーローごっこなんてしてられませんしね」
そう。
俺は、正義のヒーローなんかにはなれないのだから。

('A`)「正義のヒーローなんて――いやしないんですよ」
だから、いくら変身スーツで着飾ってみたって、虚しいだけだ。



70: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:41:49.88 ID:NgMWOEwo0
  
( ^ω^)「……正義のヒーローは、いますお」
突然、少年が口を開いた。

('A`)「…………?」
いきなりのその言葉に、俺はポカンとする。
今まで、俺が他人に正義のヒーローはいるとか言ったことは何度もあったが、
他人から言われるのは初めてのことだったからだ。

( ^ω^)「あなたは、僕が正義のヒーローと言ったら信じますかお?」
('A`)「…………」
普通の人間なら、
何言ってんだこいつパラパラ草でもキメたか、
と一笑しただろうが、俺はそんな風には思えなかった。
少年の目を見ると、何故か信じることが出来たからだ。

( ^ω^)「少なくとも、僕は正義の為に闘っているつもりですお。
     そして、大切な仲間や友達も沢山いますお。
     その人達の為にも、僕は正義のヒーローであり続けたいですお」
曇りの無い瞳で、少年が告げる。
さながら、自分に言い聞かせるように。



72: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:45:01.80 ID:NgMWOEwo0
  
( ^ω^)「だから――
     こんな僕でも、正義のヒーローになれるんだから、
     あなたも諦めちゃ駄目ですお。
     信じていれば、いつかきっと夢はは叶いますお」
信じていれば、夢は必ず叶う。
それを、疑いもせずに、少年はきっぱりと言い切った。
きっと、この少年は、良い人達に支え続けられて生きてきたのだろう。

――大切な仲間
――助け合える友達
――心を通わせた恋人
――暖かい家族

どれも、手に入らなかったモノ。
俺の欲しかったモノ。
それを、この少年は全てあますところなく、持っているのだろう。



74: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:47:22.36 ID:NgMWOEwo0
  
('A`)「――ははッ」
思わず、笑いが漏れた。
自分と少年との差の激しさが、あまりにも滑稽だったから。

('A`)「ははははははははは……」
乾いた笑いだけが周囲に響く。

そうか。
そうだったんだ。
やっぱり、俺は正義のヒーローなんかになれない。

正義のヒーローは、綺麗な理想。
だからこそ、それになるためには、綺麗なものを持っていなければならない。
そんな正義のヒーローとしての理想を、信じていなければならない。

そして、生れてこのかた、俺はそんなものを持ち合わせてなんかいない。
だから――

そんな俺が、正義のヒーローになりたいだなんて――

ヒーローに、助けてもらおうだなんて――

始めから、無理だったんだ。



75: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:49:02.56 ID:NgMWOEwo0
  
(;^ω^)「あ、あのどうしたんですかお?」
少年が心配そうに話しかける。
('A`)「……いえ、何でもありませんよ。
   あと、ありがとうございます。 夢を、きっぱりと諦めさせてくれて」
(;^ω^)「…………?」
('A`)「あなたはきっと、立派な正義のヒーローなんでしょう。
   これからも、負けずに頑張って下さい」
逃げるように、俺はその場から立ち去った。
このまま少年と一緒にいれば、きっと少年を憎み、嫉妬してしまうだろうから。

少年は言った。
大切な人を護る為に闘っている、と。
では俺は、今まで何の為に闘っていたのだろうか?

決まってる、自分の為だ。

自分が正義のヒーローになることで、
正義のヒーローに助けてもらえなかった自分を助けようとしたんだ。

そんな自分勝手な男が――
正義のヒーローなんかに、なれるわけがない。
救われる、わけがない。

俺には、何も無かった。
闘う理由も。
護るべき、大切な何かも。
何一つ、持ってなんかいなかった。

ゴミ捨て場にマスク仮面変身スーツを捨て、帰路につく。
日は、既に沈みかけていた。



77: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:50:55.83 ID:NgMWOEwo0
  


              *             *             *


イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ドクオと初めて会った廃寺で、銀は考え込んでいた。

ドクオは正義のヒーローになることを諦めたようだった。

それはいい。
あの地下の実験施設で見た、彼が異形に変身した姿――
もし、街中であれと同じ事態が起こったら、沢山の犠牲が出る。

それをさせない為に、銀はドクオのすぐ傍で、彼を監視することにしたのだ。

だから、彼が正義のヒーローになることを諦め、
これ以上事態に関わろうとしないことは、本来有難いことの筈だった。

――だが、この、もやもやした気持ちは何なのだろうか。
自分は、ドクオに正義のヒーローであることを諦めてくれるようにと望んでいる筈なのに、
一方で、それと相反する気持ちもまた存在している。

かつてドクオは言った。
自分は正義のヒーロー『マスク仮面』だと。

最初は、そのことを馬鹿にしていた。
ありもしない幻想に縋り付く、ただの愚者である、と。



78: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:52:06.13 ID:NgMWOEwo0
  
だが、あの時――

自分の身も省みず、少女を助けにクマ男に立ち向かったその姿を見て、銀はそれを美しいと感じていた。

口先だけではない、命を張った覚悟が、そこにはあった。

それが、今、消え去ろうとしている。
それを良しとする気持ちと、止めようとする気持ちとが、
心の中に同時にあることが、銀を混乱させた。

――いや、もうやめよう。
どんな理由があったとしても、
ドクオが再びあの化物に変身するようなことがあってはならない。

それが、成り行きとはいえ、
彼と、その周囲で渦巻く何かに関わってしまった自分に課せられた責任であると――

銀はそう、無理矢理自分を納得させるのだった。



80: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:53:31.76 ID:NgMWOEwo0
  


              *            *           *


(’e’)「くははははは! 素晴らしい……
    素晴らしいぞ、これは……!」
トラギコから受け取った実験施設での記録を見て、
ドクター・セントジョーンズは狂的な笑い声をあげた。

(’e’)「まさか、あの失敗作が、こんな風に化けるとは……!
    面白い、これだから現実は面白い!
    確立だの公式だのの机上の空論では決して予想もつかぬイレギュラーを引き起こしてくれる!!」



82: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:53:56.94 ID:NgMWOEwo0
  
(=゚д゚)「相変わらず一人でぶっトんでるラギね、セントジョーンズ」
いつの間に部屋に入ってきたのか、
トラギコがセントジョーンズの後ろに立っていた。

(’e’)「おお、トラギコか。 この前はご苦労だったな」
(=゚д゚)「別にいいラギよ。 面白い女共にも会えたしラギね」
(’e’)「ふん、JOWか……」
セントジョーンズが思案するように腕を組む。

(=゚д゚)「しっかし、向こうがこっちを一人殺せば、こっちも向こうを一人殺して、
    十人殺せば十人殺し返して、百人殺せば百人殺し返して、
    一体いつまで、このいたちごっこは続くんラギかね?」
(’e’)「ほう、トラ男とあろう男が、闘うのが嫌になったか?」
(=゚д゚)「別に。 闘いが長引いてくれれば、長引いてくれるだけいいラギ。
    それだけ、金儲けになるラギからね」
俺は金が貰えるならそれでいい、と、トラギコは笑い、
セントジョーンズのいる部屋を後にするのだった。

〜第十一話『誰が為に闘う』 終
 次回『正義のヒーローの条件』 乞うご期待!〜



83: 留学生(チリ) :2007/04/03(火) 15:54:24.97 ID:NgMWOEwo0
  
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