ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:23:53.39 ID:ay5HGSFZ0
  
第十二話『正義のヒーローの条件』

〜前回までのあらすじ〜

麻雀――
ルールを知っている知らないを問わず、誰もがその名前くらいは知っているであろう。
日本でも有名なギャンブルの一つであり、あらゆる人間を魅了してやまない禁断の遊戯。
これは、そんな麻雀に命を懸けた者達の物語である――

(,,゚Д゚)「俺が最強の雀師ということを証明してやるぜ!」

裏の世界で非合法に行われている超高レート麻雀!
その世界に生きる強者達が、今日、真の頂点を奪い取る為に集結した!!

( <●><●>)「御無礼、ツモりました。 4000、8000」
知力、体力、時の運――
その全てを兼ね備えた者だけが、この勝負に勝ち残ることが出来る!
勝てば極楽負ければ地獄――
勝者には大量の賞金、敗者には莫大な借金だ!!

(´・ω・`)「ロン! 中のみ一兆点!」
    

勿論ルールはイカサマ裏取引何でもありのバーリトゥード!
ローズ、エレベーター、燕返し、綺麗事だけでは生き残れないぞ!



2: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:25:20.44 ID:ay5HGSFZ0
  
(;゚∀゚)(くっ……! この牌は超危険牌。 だが、これを切らなきゃ聴牌出来ねえ……!)
(゜3゜)「くっくっく…… さあ、早く切りたまえ」
絶体絶命のピンチ!
この窮地をどう乗り切るか、真の雀力が試される!

(;゚∀゚)「あ、UFOだ!」
(゜3゜)「え、どこどこ?」
(;゚∀゚)(よし、今のうちに牌をすりかえだ!)
超絶の妙技……って、貴様ら小学生か!!

( ФωФ)「ロン! 幺九牌(ヤオチューハイ)入りタンヤオ!!」
それはただのチョンボじゃねえか!!
お前ルール知ってんのか!?

( ゚д゚ )「あンた、背中が煤けてるぜ……」
駆け巡る脳内物質っ……!
β-エンドルフィン……! チロシン……! エンケファリン……!
バリン……! リジン……ロイシン……イソロイシン……!

最強の称号は誰の手に!?



3: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:26:27.29 ID:ay5HGSFZ0
  


                *    以下、何事も無かったかのように再開    *


大人になるということは、諦めと妥協を覚えることだと誰かが言っていた気がする。
個人差はあれど、誰もが大人になるにつれて、
自分の限界を知り、世の不条理に屈し、怠けることを覚え、夢を棄てていく。

だが、これだけは譲れない、というものを持っている人も中にはいるだろう。
俺にとっては、『正義のヒーロー』がそれだった。

――だけど、もうそれも、棄ててしまった。
今は心の傷が痛んでも、それもじきに慣れてしまうのだろう。

そう、気にすることはない。
今まで棄ててきたものの数が、一つ増えただけ……





('A`)「…………」
マスク仮面変身スーツを捨ててから、
俺はバイトもせずにひたすら生ける屍のように暮らしていた。

何もしたくなかった。
何もする気になれなかった。



5: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:27:32.61 ID:ay5HGSFZ0
  
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ドス女は相変わらず俺の家にいる。

俺がマスク仮面変身スーツを捨てたとしったとき、
こいつは何故か寂しそうな顔をしたのを覚えている。

どうして、そんな顔をするのか不思議だった。
こいつには、何も関係の無いことの筈なのに。


('A`)「……バイト、探してくる」
とはいえ、僅かばかりの貯金もそろそろ底をついてきた。
甚だ遺憾ではあるが、バイトをしなければ金が得られない。
金が得られなければ餓死してしまう。
なので、渋々バイトを探すことにした。

イ从゚ ー゚ノi、「そうか、気をつけてな」
居候してんだからお前も何か働けよ、と思ったのだが、
人間ではないこいつでは戸籍も何も無いので職につくのは難しいだろう。

というか、ドス女がファーストフードで0円のスマイルを売ったり、
コンビニでレジ打ちをしたり、
工場で弁当詰めをする姿というのは全く想像出来ない。

アウトローな夜の仕事でもすれば、相当稼げるのだろうが……
流石に、そこまで求める気にはなれなかった。



6: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:28:30.66 ID:ay5HGSFZ0
  
しかし、俺としてもいつまでもフリーターで生きていくわけにもいくまい。
といっても、定職に就く当ても無い。
子供の頃は、正義のヒーローを仕事にして生きていきたいとか考えていたが、
それが、とてつもなく非生産的な妄想だったことを今更ながらに実感していた。

('A`)「……ま、どうでもいいか」
どうでもいい。
駄目になったときはそのときだ。
どの道、これから先の人生に希望があるわけでもない。

……だけど、たった一つの生きる意味を棄ててしまって、
俺は何でまだ生きているのだろう。





('A`)「はあ…… やっぱ駄目か」
6件ほど採用情報誌に載っていた目ぼしい所を回ってみたが、
結果は散々なものだった。
まあ、最終学歴が高校中退では、そう簡単にはどこも雇ってくれないだろう。

('A`)「……ふう」
歩くのも疲れたので、公園のベンチに腰を下ろす。
これが、格差社会というものか。
社会が俺に死ねといるようにしか思えないのも、
あながち被害妄想ではあるまい。



10: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:30:12.19 ID:ay5HGSFZ0
  
「でたな〜、ショッカー! これ以上の悪事は許さんぞ!」
「ふははははー。 だったらどうするのだ」
ふと見ると、公園の中で子供達が遊んでいた。
会話から察するに、どうやらヒーローごっこをして遊んでいるらしい。

「変身! お面ライダー!」
「何!? 貴様がお面ライダーだっただと!?」
「ライダーー、キーーーーーーック!」
「ぎゃあああああああああああ!」

子供達は、無邪気に遊んでいた。

……俺には、あんな風に一緒に遊べる友達はいなかったが、
それでも、あの子供達のように、正義のヒーローを心の底から信じていた。

大人になってからも、信じ続けていた。
少し前までは、確かに信じていたのだ。

だが、正義のヒーローを信じ続けた結果はどうだ。
コンビニのレジ打ちにすら採用されることのない、惨めな男。
これが、正義のヒーローを信じ続けた子供の成れの果てだった。

何故、こうなってしまったのだろう。
どこで、間違えてしまったのだろう。

考えても、答えなど出る筈もない。



11: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:31:14.92 ID:ay5HGSFZ0
  
「ありがとう、お面ライダー!」
――と、遊んでいる子供の中に、知っている顔を見つけた。
あれは、クマ男に襲われた女の子だ。

……そうか、あの子、無事だったんだな。
結局あの後気を失ってどこかに連れて行かれた為、
あの子がその後どうなったか分からなかったが、
こうして見る限り、心も体も傷ついていることもなさそうだ。

('A`)「…………」
俺はそれを見て、何故だか少し救われた気分になるのだった。

                 *             *             *

(・∀ ・)「おいお前。 こんな時間に何してんだ、あァ?」
夜、もうすぐ日付が変わろうという時間、
斉藤またんきはその日も圧迫的な職務質問に精を出していた。

斉藤またんきにとって、法と秩序を護る番人といった、
警察官としての倫理などどうでも良かった。

警察の制服を着て、拳銃を腰に下げていれば、誰もが自分を畏れ、尊敬する。
場合によっては、何かしら理由をつけて実力行使してもいい。
そういったことで嗜虐心と優越感を満足させることが出来るという点で、
警察官という仕事はある意味彼にとって天職とも言えた。

(・∀ ・)「ケッ。 あいつら、うざってえ目でこっち見やがって。
     今度会ったら、また職務質問してやるか」
必要以上に胸を張りながら、他者を威圧するような感じで斉藤はパトロールを続けた。



12: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:31:58.38 ID:ay5HGSFZ0
  
(・∀ ・)「ん……?」
と、彼の目に一つの人影が映った。
ボロボロの服を着た、明らかにみすぼらしそうな男。
その姿は、斉藤の心に邪な感情を生み出させるのに充分だった。

(・∀ ・)「よーし、今日はあいつで最後にするか……」
斉藤はこっそりとその男の後をつけることにした。
男はどんどん人気の無いところへと進んでいく。
それは、斉藤にとって好都合なことであった。

(・∀ ・)「おい、お前。 何してるんだ?」
人気の無い原っぱに差し掛かったところで、斉藤は後ろから男に声をかけた。
しかし、男はそれを無視して歩き続けようとする。

(・∀ ・)「てめえ、聞いてんのか……!」
男の態度に腹を立てた斉藤が、男の肩に手をかける。
男が、ようやく振り向くと――

ミ,,・・彡「貴様こそ、何の用だ?」
振り向いた男の顔は、人間のそれではなかった。
蝙蝠と人間がごっちゃになったような、異形の姿。
ドクター・セントジョーンズによって生み出された怪人、蝙蝠男。
それが、男の名前だった。

(・∀ ・)「う、うわあああああああああああああああ!」
斉藤は、無我夢中で腰につけていた拳銃を発砲した。



14: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:33:51.31 ID:ay5HGSFZ0
  

               *             *              *

('A`)「!?」
アパートから離れたところにあるコインランドリーから洗濯物を持って帰る途中、
どこか近くから拳銃のような音が聞こえた。

('A`)「…………」
足を止め、考える。
放っておこう。
俺はもう、マスク仮面などではない。
誰かが困っていたところで、助けに行く義理も無い。

だけど、もし。
もし、今誰かが傷つけられようとしていたら……!

('A`)「…………!」
俺は音のした方向へと走った。
何故走るのか。
それは俺が、救いようの無い馬鹿だからだろう。



15: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:34:20.42 ID:ay5HGSFZ0
  



('A`)「おい、何が――!」
現場に駆けつけたとき、俺の体が硬直した。

蝙蝠と人間が合体したような姿――恐らく、今までに会った怪人の仲間であろう奴が、
警察官に襲い掛かろうとしている。

そこまではいい。

今まで、怪人騒動に関わってきた俺にとって、
それは最早驚くべきような事実ではなかった。

問題は、襲われているのがあの斉藤だということだ。

見捨ててしまえ。

心の中で、そういった考えが浮かんでくる。

そうだ。
あいつは、今まで俺に何をしてきた。
それを考えれば、今ここで、俺が斉藤を助けなかったとしても、
誰にも文句を言われる筋合いなど無いだろう。

どころか、自分の手を汚さずして復讐が出来る。

だったら今、ここで俺がどういう行動を取るべきか。
そんなことは、考えるまでもないだろう。



16: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:34:50.81 ID:ay5HGSFZ0
  
('A`)「……様ぁ見やがれ」
幸い、あちらはまだこちらに気付いていないようだった。
振り返り、気付かれないうちに逃げ出すことにする。

そう、俺はもう、正義のヒーローマスク仮面などではないのだ。
そして、このまま見なかったことにすれば、昔何度も願っていた復讐が達成される。

このまま、逃げてしまえばいい。
逃げて、しまえば――

(・∀ ・)「誰か! 助けてくれええええええええええ!!」
その声を聞いたとき、俺の足が思わず止まった。

馬鹿。
何をやっているんだ。
あんな奴、死んで当然じゃないか。
放っておけばいい。
助けを呼ぼうが、知ったことか。
だから。

だから……!



17: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:36:20.56 ID:ay5HGSFZ0
  
('A`)「ッォおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
気付いたときには、走っていた。

逃げる為ではなく、蝙蝠男と斉藤の方に向かって。

何で、こんなことをしているのだろう。
あいつなんて、死んでしまえばいいと、確かに思っていた筈なのに。


『そうだ、それでいい』


心の奥の何処かから声が聞こえてくる。


『お前は正義のヒーローの姿ではなく、その生き様に憧れたのだろう?
 その美しさに憧れ、それを信じ続けたのだろう?
 ならば、誰に誹られ、虐げられようと、最後まで信じ続けろ』


どこかで聞いた声。
どこかで会った気配。



19: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:37:25.69 ID:ay5HGSFZ0
  

『誰に恥じることもない。 誰に憚ることもない。
 お前の信念を、貫き通せ。
 その資格があるからこそ、我らはお前を選んだのだ』


誰かが語りかけ続ける。
どうでもいい。
俺は、今ここで、斉藤を見捨ててはいけないと思った。
だから、助ける。
それだけだ……!

('A`)「だりゃああああああああああああ!!!!!」
ミ,,・・彡「!!?」
蝙蝠男に体当たりをぶちかます。
不意をつかれた蝙蝠男が、バランスを崩して尻餅をついた。

('A`)「おい! 早く逃げろ!」
(・∀ ・)「ド、ドクオ!?」
('A`)「いいから逃げろ!!」
(・∀ ・)「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいい!!」
斉藤が脇目も振らずに逃げていく。

警察官が、一般人を置いて逃げるなよ、とも思ったが、
こんな化物を目の前にすれば、それも酷な話だろう。
……問題は、今度は俺が、どうやって逃げるかということだ。



20: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:38:11.82 ID:ay5HGSFZ0
  
ミ,,・・彡「……なんだ、お前は?」
蝙蝠男が俺に尋ねる。
マスク仮面、と答えようとしたが、
変身スーツを着ていない今、その台詞を言っても意味が無いと思ったのでやめる。

('A`)「……別に。 ただの一般市民だよ」
そう、俺は正義のヒーローでも何でもない。
ただの、愚かで弱い人間だ。

ミ,,・・彡「そうか、死ね」
蝙蝠男の返答はそれだけだった。
これ以上話すことなどないとでも言うかのように、
俺の体を鉤爪で引き裂こうとする。

やばい、避けられ――

イ从゚ ー゚ノi、「させぬ!!」
ミ,,・・彡「!!?」
その一撃を、ドス女の一閃が受け止めた。

('A`)「ドス女!」
矢張り、助けにきてくれた。

さっき銃声がしたとき、狼の怪人でもあるドス女ならば、
多少距離があってもその音を聞きつけるだろうと予想していた。

そして、銃声が俺の行ったコインランドリーの近くであると気付けば、
様子を見にやって来てもおかしくない。
俺は、それに賭けたのだ。



21: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:39:23.28 ID:ay5HGSFZ0
  
イ从゚ ー゚ノi、「ふんッ!」
鉤爪と刀の鍔迫り合いの状態から、
ドス女が気合を込めて蝙蝠男を突き飛ばす。

ドス女の力技によって、蝙蝠男は後方に押し飛ばされた。
蝙蝠男が、体勢を立て直しドス女を睨み据える。

ミ,,・・彡「――その銀髪。 貴様が、蜘蛛男とクマ男を屠った狼女だな?」」
蝙蝠男は、ドス女に心当たりがあるようだった。
口振りからして、どうやら何らかの手段で蜘蛛男とクマ男との闘いの内容を知ったらしい。

どこかから誰かが監視していたか、
蜘蛛男やクマ男に情報発信機か何かが埋め込まれていたか――
恐らく、そんなところだろう。

イ从゚ ー゚ノi、「……だったら、どうする」
ドス女が低い声で言った。
ミ,,・・彡「知れたこと。 邪魔者は、排除するのみだ」
平然と、蝙蝠男が言い放った。

イ从゚ ー゚ノi、「ほう、大した自信じゃな。
       儂に、勝てるとでも?
ミ,,・・彡「ああ、思っている。
      一つ教えてやろう。 貴様では、俺には絶対に勝てない」
あのドス女を前に、蝙蝠男は微塵も怖れを見せてはいなかった。

馬鹿な。
ドス女を知っているなら、その実力だって分かる筈だ。
なのに、何故こいつはそこまでの余裕がある?



22: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:39:49.89 ID:ay5HGSFZ0
  
イ从゚ ー゚ノi、「絶対に勝てない、か――」
ドス女がそんな蝙蝠男の態度に苛立ちを覚えたのか、
やや怒りのこもった声で呟く。
と同時に、右手に日本刀を突き刺して固定し、人狼形態へと変身した。

ミ,,゚(叉)「面白い! ならば、その体で証明してみせろ!!」
ドス女が蝙蝠男に飛び掛った。
対して、蝙蝠男はその場から一歩も動く様子はない。

と、蝙蝠男がいきなりその口を広げ――



23: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:42:09.44 ID:ay5HGSFZ0
  



('A`)「あ…… がッ……!」
気が付くと、俺は地面に這いつくばる形で倒れていた。

視界が揺れる。
酷い耳鳴りがする。
頭がぐらぐらする。

何だ。
一体、何が起こった……!?

ミ,,・・彡「頗る付きの衝撃超音波(ウルトラショックソニックウェイブ)だ。
      即死じゃ不服だろうが勘弁して貰おう」
衝撃――超音波?

……そういえば、どこかの本で見たことがある。
蝙蝠は、超音波を放出して、その反響で物の位置等を認識する、と。
ならば、もし怪人改造によって、その超音波を強化したのだとすれば、
それは恐るべき兵器となる。

そして――
人間の数十、数百倍の聴覚を持つ犬科の生物が、
そんなものをまともに喰らったとしたら……!



27: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:45:46.67 ID:ay5HGSFZ0
  
ミ,,゚(叉)「かッ―― ぐはッ……!」
ドス女は、目や耳から血を流し、半死半生の状態で倒れていた。
離れていた俺と違い、至近距離から直接あの殺人音波を叩き込まれたダメージたるや、
想像を絶するものだった筈だ。

ミ,,・・彡「ほう? まだ生きているとは。
      だが最早反撃する力は残っていまい」
蝙蝠男が、ドス女に止めを刺そうと歩み寄る。
奴のいう通り、ドス女はもう生きているのがやっとといった状態でしかなかった。

('A`)「やめろ……!」
蝙蝠男が俺の目の前を横切ろうとしたとき、俺は奴の足を手で掴んだ。
('A`)「そいつに手を出すな。 殺すぞ……!」
させない。
今まで、ドス女は何度となく俺を護ってきてくれたのだ。
今、ここで、俺がその恩を返さなくてどうする。

ミ,,゚(叉)「やめろ、マスク仮面……!
     儂のことはいいから、お前だけでも逃げ――」
ドス女がそう言いかけたとき、俺の背中に鋭い痛みが走った。



30: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:46:44.20 ID:ay5HGSFZ0
  
('A`)「……え?」
いつの間にか、俺の胸から鋭利な何かが突き出ていた。
いや、これには見覚えがある。
蝙蝠男の鉤爪だ。
それが、何で俺の胸からはえているんだ?

ミ,,・・彡「ゴミが触るな。 汚れる」
蝙蝠男が鉤爪を引き抜き、俺の体を蹴飛ばした。
ぼろ切れのように俺の体が地面を転がるのを、まるで他人事のように感じていた。

ミ,,゚(叉)「マスク仮面ーーーーー!!!」
ドス女が何か叫んでいたが、うまく聞き取ることが出来なかった。

体から、熱が失われていく。
目が霞む。
耳が、聞こえなくなる。
体が、動かない。



32: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:48:35.28 ID:ay5HGSFZ0
  
ミ,,・・彡「騒ぐな。 すぐ、お前も後を追わせてやる」
蝙蝠男がドス女に向かって鉤爪を振りかぶる。

やめろ。
やめてくれ。
ドス女を、殺さないでくれ。

畜生。
動け、俺の体。
頭の中では、必死に動こうとしているのに、どうして動かない。

こんなにも護りたいと思っているのに、どうして動いてくれない……!

誰か。
誰か、助けてくれ。

俺は助けてくれなくてもいい。
だから、ドス女だけは、助けてくれ。

誰も来ないのか。
正義のヒーローは、こんなときでもやって来てくれないのか。

畜生。
力が欲しい。
今ここで、動けるだけの力が欲しい。

もう、正義のヒーローだとかそんなことはどうでもいいんだ。
だから――
だから、大切なものを護れるだけの力を……!



33: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:49:21.85 ID:ay5HGSFZ0
  
('A`)「かはッ……! ヒュー…… ヒュー……」
息をする度に血泡が口からこぼれる。

駄目か。
このまま、何も出来ずに終わるのか。
出来損ないは、所詮出来損ないなのか。
正義のヒーローの真似事をしたところで、何も変わりはしないというのか。

護りたいと、
闘いたいという思いは本当じゃないか。
それでも、何も出来などしないというのか。

視界が真っ黒になっていく。

嫌だ。
今ここで、死ぬわけにはいかない。

なのに――
なのに、どうして体が動いてくれないんだ……!

もう、全てお終いなのか。
全て、駄目なのか。

俺は、何一つ護れないまま死んでしまうのか……!



37: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:52:00.69 ID:ay5HGSFZ0
  


『我らと重なれ』


心の奥で、声がした。
さっきと同じ、あの声だ。


『その想いが偽りでないのなら、
 その願いが本物なら、
 我らと重なれ』


誰だ。
誰なんだ、お前らは。


『我らと重なるのだ。
 お前の力だけでは、お前の希望に届かないというのなら、
 我らも力を貸してやる……!』


視界が完全に闇に染まっていき――



40: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:53:30.80 ID:ay5HGSFZ0
  

                  *             *             *

ミ,,・・彡「――――!?」
蝙蝠男が銀に止めを刺そうとする直前、彼はドクオに起こっている異変に気が付いた。

ミ,,・・彡「なッ!? これは!?」
ドクオの体から黒いヘドロのようなものが溢れ出し、彼を包んでいる。
立ち込める腐臭。
あらゆる生物を拒絶するかのような、圧倒的な死の気配。

ミ,,・・彡「な、何だ……」
蝙蝠男は、そのおぞましい光景に絶句した。

ミ,,・・彡「何なんだ、貴様は!!!!!?」
悪意と混沌と狂乱と腐敗と汚濁と闇黒の塊に、蝙蝠男は恐怖からの叫びをあげた。



42: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:54:33.13 ID:ay5HGSFZ0
  

                  *               *               *

闇の炎が表皮を焦がす。
黒い血液が体の中で沸騰する。
力が、湧き出てくる。
全て壊してしまいたいという衝動が、俺を急き立てる。

これが――俺か。
この、禍々しい姿が、俺だというのか。

――それでも、構わない。
護る為に、この姿になることが必要ならば、いくらでもこの身を闇に堕とそう。

一つだけ、確かな気持ち
大切なものを護りたいということ。

……俺は、決して、正義のヒーローにはなれないのだとしても。



〜第十二話『正義のヒーローの条件』 終
 次回、『死闘、ネガティブアバター対蝙蝠男!』乞うご期待!〜



45: 底辺OL(チリ) :2007/04/05(木) 23:55:06.86 ID:ay5HGSFZ0
  
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