ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:04:22.61 ID:75FRpm3X0
第三十話『緊急事態発生、原子力発電所での攻防!』

〜前回までのあらすじ〜

最近何かツイてない。
今一人生パッとしない。
そんなあなた方に朗報!
幸せを呼ぶグレートアイテム、その名も『スーパーキノコ・カラフルX!』
今までの眉唾もの幸運グッズとは一味違う!
これさえ手に入れれば、次の日からあなたもラッキーマン!
七日の間に効果が現れなければ、いつでもクーリングオフ可能です!
(ただしクーリングオフをした次の日からいかなる『不幸』があなたに降りかかっても当社は一切関知しません。)

*購入者の方々からの喜びのお便り*

VIP市在住、Dさん
('A`)「今までキモい、ダサいと皆から馬鹿にされる毎日でしたが、
   カラフルXを買ってから全てが180度変わりました!
   宝くじに当選し、可愛い彼女も出来、
   幸運続きの毎日です!
   今日は宝くじで当たったお金で、
   限定版の仮面ライダーフィギュアを買って来ようと思います!」

VIP市在住、Gさん
イ从゚ ー゚ノi、「最初は半信半疑でしたが、思い切って買ってみてびっくり!
       幸が薄いと言われている私でしたが、
       次々とやってくる幸運にてんてこまいです。
       特に人間関係では幸運続きで、
       同居人とのムードが急に良くなったり、
       昔の友人達とばったり出会うなど、人の縁の素晴らしさを再確認しています!」



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:05:41.53 ID:75FRpm3X0
VIP市在住、Rさん
( ФωФ)「カラフルXはマジすごいっスわ!
        彼女もできず、このまま冴えない人生を送るしかないと思ってたのに、
        つい先日念願の年上彼女をゲットしたんスよ!
        これがもう何でも尽くしてくれる彼女で、
        この前なんてお手製のセーターなんか編んでくれちゃったりしてくれて、
        ほんともーまいちゃったっスよ!
        おっと、彼女が呼んでるんでここらへんで!」

VIP市在住、Gさん
(,,゚Д゚)「気紛れで占いをしてもらったら、早死にすると言われてしまい、
    絶望に包まれた毎日だったのですが、
    カラフルXを身に付けてから一変!
    体中にエネルギーは満ち溢れるし、車に轢かれそうになっても偶然助かったりと、
    早死にどころか百歳まで生きれそうな気分です!
    そうそう、カラフルXを買って次の日に昇進したんですよ!」

VIP市在住、Tさん
(=゚д゚)「身内に不幸続きの私で、唯一最後の肉親である姉まで病気で倒れてしまい、
    もうどうすればいいのか分からない状況でした。
    しかし、カラフルXの力は本物でした!
    姉の病気は奇跡的に全快し、仕事も成功して大金ががっぽがっぽです!
    そうそう、カラフルXの凄さはそれだけじゃないんですよ!
    ちょっとかじってみれば気分がよくなっっがあbぐぇcgbwccbjhlッガガbcqcんckwげy」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:07:31.19 ID:75FRpm3X0


              *  以下、何事も無かったかのように再開  *


一殺多生――

多くの人の命を助ける為に、一人、
もしくは少ない方の命を犠牲にすること。

この日本――特に、漫画やアニメやゲームの世界では、
この思想はほとんど悪として見なされる。

俺が好きだった特撮ヒーロー、『マスク仮面』でも、
それは例外ではなかった。

マスク仮面第三十話『ビルジャック、怪人サメ男の罠!』の回で――
一人の少女を見殺しにすれば、他の人質全員の命が助かるというシーンがあった。

勿論マスク仮面は少女を見殺しにすることなく、
他の人質全員の命も助けるという最高の方法で解決した。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:08:30.74 ID:75FRpm3X0
ただ――
これは、所詮テレビの中の話だ。
現実では、そんなうまい解決など望むべくもない。

選ばなければならない。
1人殺して99人助けるのか、1人の為に99人を犠牲にするのか。

どちらを選んでも、必ず誰かが死ぬ。
多いか少ないかの違いだけで、誰かが死ぬ。

そんな決断を迫られた時――
一番やってはいけないのが、選ばないまま時間切れになって、
100人を犠牲にすることだ。

そんなことは分かっている。
分かっているけど、俺は――



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:09:49.08 ID:75FRpm3X0

             *           *          *

俺とドス女は、電車に乗って茨城県に向かっていた。
目指すは茨城県東海村――東海第二発電所。
ご存知、原子力発電所である。

俺達がそんなところへ行く理由はただ一つ。
怪人が、そこにいるからだ。
今から一時間ほど前――


('A`)「あー暇だー」
イ从゚ ー゚ノi、「暇じゃな……」
('A`)「なあドス女、エロしりとりしようぜ。 ちんこ」
イ从゚ ー゚ノi、「死ね」
('A`)「あー暇だー。 テレビでも見るかー」

「……現在、原子力発電所がテロリストに占拠されたとの情報が入りました!!
 テロリストの正体、目的は今のところ不明!
 あ、今現地のアナウンサーと連絡が繋がりました!
 佐藤さーん、そちらの状況を……」
「アナウンサーの佐藤です!
 現在発電所の近くからニュースを……
 う、うわ! 何だあれは! 何なんだあれは!
 ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」

('A`)「!!!!!」
イ从゚ ー゚ノi、「!! 行くぞ、マスク仮面!!」
('A`)「おう!!」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:10:58.08 ID:75FRpm3X0



それから、おっとり刀で飛び出して、現在に至る、という訳である。

ニュースではテロリストの正体は不明と言っていたが――
間違いなく、怪人達の仕業だろう。

そして――
今回は、今までの脅威とは訳が違う。

もし原子力発電所が破壊されるようなことがあれば、
その犠牲は計り知れない。

正直、怖い。
もし俺達が闘っている最中に、原子力発電所が爆発でもしたら、
死亡することは間違いない。

だが――
それでも、やらなければならない。

警察や自衛隊では、この状況には対応できない。
俺達が、やるしかない。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:12:06.36 ID:75FRpm3X0
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ドス女は、緊張した面持ちで窓の外を眺めていた。

ドス女のあの顔を見てから――
俺は、ドス女のことが分からなくなっていた。

悪い奴ではない。
それは分かる。

だが――
あの時の、顔。
あれが、目に焼きついて離れない。

……何を考えているんだ、俺は。
これから、命を懸けた闘いに赴こうというのに、
俺が、俺の相棒となる相手を信用していないでどうする。
だけど――

イ从゚ ー゚ノi、「……着いたようじゃな」
ドス女が言った直後、電車のドアが音を立てて開いた。

ホームには文字通り山のような人。
さっきのニュースを見て、逃げ出そうとしている人でごったがえしていた。

イ从゚ ー゚ノi、「行くぞ」
('A`)「ああ!」
人の海を掻き分け、俺達は駅の外へと向かった。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:13:02.86 ID:75FRpm3X0



東海村周辺――
物陰に隠れて、俺達は自衛隊隊員の動向を窺っていた。

当然のことだが、原子力発電所周辺には戒厳令が敷かれていた。
既に一般住民は逃げ出したのか、家の中にほとんど人は残っていない。
ただ、自衛隊だけが、警戒活動を行っている。

('A`)「……どうする?」
自衛隊に気付かれないよう注意しながら、俺はドス女に尋ねた。
このままでは、怪人と闘うどころか、原子力発電所に近づくことすら出来ない。

無理矢理突破することも、ドス女がいれば出来ないこともないんだろうが――
俺達の敵は怪人であって、自衛隊ではない。
自衛隊と事を起こしても、戦況が悪化するだけで、それこそ怪人どもの思う壺だ。

イ从゚ ー゚ノi、「突破する――と言いたいところじゃが、そうもいかぬな。
       ここを抜けるだけなら、強行手段を用いてもいいじゃろうが、
       それでは原子力発電所に辿り着く前に気づかれ、大立ち回りになってしまう」
万事休す――といったところか。

糞、何だってんだ。
ここに来て、一番の障害が怪人ではなく人間になるなんて……!



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:14:08.27 ID:75FRpm3X0
――と、俺達の耳に、聞きなれた音が聞こえてきた。
音のする方を見てみると、一台のトラック。
見た目からして、民間のものではない。
自衛隊のものか。

イ从゚ ー゚ノi、「ふむ」
ドス女が、やおら頷いた。

イ从゚ ー゚ノi、「どうやら儂らはついておるようじゃな。
      マスク仮面、あれを使うぞ」
('A`)「…………?」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:15:28.40 ID:75FRpm3X0



「積荷に以上は無いようだな」
自衛隊員がトラックの荷台の中を慎重に確認し、
トラックは再び前へと進み出した。

俺達はトラックに隠れて、原子力発電所を目指していた。
といっても、隠れているのは荷台ではない。
荷台の中なんかでは、少し念入りに調べられたらすぐに見つかってしまう。

隠れたのは、誰もこんなところにはいないだろうという心理的な盲点。
そう、トラックの真下、シャーシーの部分である。
その部分にしがみついて、俺達は隠れていたのだ。

普通は長時間こんなところになど隠れることは出来ない。
しがみつくことは出来ても、すぐに腕の筋肉が疲労して手を離してしまう。

だが、それは人間であれば、の話だ。
人間以上の筋力さえあれば、それは容易に可能である。

( ▼w▼)「…………」
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
俺達を乗せたまま、車は原子力発電所へと向かって行く。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:15:59.13 ID:75FRpm3X0
イ从゚ ー゚ノi、「……覚悟は出来ておるか? マスク仮面」
ドス女が静かに口を開いた。

( ▼w▼)「覚悟? 勿論、あるさ。
       もしこの闘いで自分が死んでも――」
イ从゚ ー゚ノi、「死ぬ覚悟ではない。 殺す覚悟じゃ」
殺す、だって――
いや、それも当然か。
この闘いは、絶対に勝たねばならない。
そう、例え相手を殺すことになっても。

( ▼w▼)「……やれるさ。
       原子力発電所が爆発でもしたら、多くの人が犠牲になるんだ。
       怪人や戦闘員が元は人間だったとしても、俺は――」
イ从゚ ー゚ノi、「違う」
ドス女の言葉が俺を遮った。

( ▼w▼)「違う、って――?」
イ从゚ ー゚ノi、「儂の言っておるのは、無関係な人間を犠牲に出来るか、ということじゃ」
( ▼w▼)「!?」
思わず、トラックを掴んでいた手を離しそうになった。

無関係な人間を犠牲に、だって――?
馬鹿な。
何で、そんなことを覚悟する必要がある。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:17:08.05 ID:75FRpm3X0
( ▼w▼)「何言ってるんだ、ドス女?
       何で俺がそんな覚悟を……」
イ从゚ ー゚ノi、「分からぬか。 
       此度の闘いは、なるべく一瞬で、それも大量に、かつ、隠密にな。
       ただ倒すだけではいかぬ。
       もし戦闘の最中、相手が銃火器を使い、
       それが発電所の施設に深刻な破壊を与えるようなことがあれば――
       その時点で、儂らの負けじゃ。
       あと、相手が死ぬ間際に、やけくそになって時限爆弾か何かを発動させるということも充分に考えられる」
( ▼w▼)「それぐらい分かってる!
       だけどそんなの、俺が毒ガスを使えば……」
そう、俺の能力の一つである、いかなる生物をも瞬殺無音の無色無臭の毒ガス。
これを使えば、今ドス女が言ったような問題も解決出来る筈だ。

超常の能力を持つ怪人は、毒ガス程度では倒せないかもしれないが――
戦闘員を一気に無力化することは、こちらにとって大きく有利に傾く筈である。

イ从゚ ー゚ノi、「その毒ガスが問題なのじゃ」
( ▼w▼)「???」
毒ガスが、問題?
それは、どういうことなんだ?



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:18:26.58 ID:75FRpm3X0
イ从゚ ー゚ノi、「お主の毒ガスは確かに恐るべき威力じゃ。
       いかなる生物をも瞬殺無音。
       人間に毛が生えた程度の能力しか持たない戦闘員なら、
       10秒とかからず絶命しさしめるじゃろう。
       そう――
       原子力発電所の中にいるかもしれぬ、生き残りの一般人諸共にな」
( ▼w▼)「!!!!!」
そういうことか……!

考えてみれば、当然のことだった。
原子力発電所が占拠されたからといって、その中で働いていた人達とかが全て殺されたとは限らない。

人質にされていたり、どこかに隠れていたり――
生き残りがいる可能性は、充分に考えられる。

そして、俺の毒ガスは、そんな事とは無関係に、
その場の全ての生物を滅殺する……!



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:19:36.07 ID:75FRpm3X0
イ从゚ ー゚ノi、「じゃが、戦況を考察するに、
       一番有効な方法はその毒ガスしかない。
       寧ろ、その方法でなければより多くの犠牲が出る可能性が高い。
       さあ――どうする。
       お主は、毒ガスを使えるか?」
ドス女の問いかけが、氷のナイフの様に俺の心に冷たく突き刺さった。

1人殺して99人生かすか。
99人殺して1人生かすか。
その決断を、迫られていた。

( ▼w▼)「…………!」
俺は答えられなかった。
答えられる筈がなかった。

だってそうだろう。
俺の判断一つで人が死ぬ――
そんな状況に自分が出くわすなんて、誰も考えなんてしないじゃないか……!



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:20:01.96 ID:75FRpm3X0
イ从゚ ー゚ノi、「……もし儂がお主の立場に立っていたなら、迷わず毒ガスを使う。
      微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺出来る。
      何故なら、儂は化物じゃからな」
化物だから、殺せる。
ドス女ははっきりそう言った。

化物――
この場合の化物は、外見のことではない。

思想であり、信念だ。

目的の為に、躊躇無く無関係なものを犠牲に出来るか。
殺すことが出来るか。
出来るからこその、化物――

――では、俺は一体何なのだろうか。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:20:46.35 ID:75FRpm3X0
( ▼w▼)「…………」
俺は答えられなかった。

だが、迷っている時間はもうほとんど残されていない。
決めなければならない。
原子力発電所に着く前に。

殺すか、殺さないのかを。

イ从゚ ー゚ノi、「……お主がどういう決断をしようが、儂は咎めぬ。
       だが、答えだけはきっちりと決めておけ。
       それが、お主の義務じゃ」
ドス女が重い声で言う。

その間にも、車は確実に原子力発電所に近づいていて――
俺の決断の時間も、刻々と迫っていた。


〜第三十話『緊急事態発生、原子力発電所での攻防!』 終
 次回、『命の取捨選択』乞うご期待!〜



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/12(土) 18:21:49.65 ID:75FRpm3X0
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