ドクオは正義のヒーローになれないようです
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:49:45.50 ID:t80tMjVi0
- 第三十九話『そして二人の別れ』
イ从゚ ー゚ノi、「――そして儂はモナーの前から姿を消し、再びあてのない放浪の旅に出た」
ドス女はそこまで語って、ふう、と短く息をついた。
ロマネスクの秘密基地の出入り口から出て、少し歩いたところで、
俺はドス女の昔話を聞いていた。
秘密基地から出るのは危険かもしれないと感じたが――
まあ、基地のすぐ傍だし大丈夫だろう。
イ从゚ ー゚ノi、「あの時、セントジョーンズは死んだと思っておったが――
まさか、まだ生きておったとはな」
忌々しげにドス女が舌打ちする。
それにしても――
60年前、そんなことがあったなんて。
セントジョーンズ……
そいつが研究を再開して、今回の怪人騒動の元凶となっているということか……
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:52:02.98 ID:t80tMjVi0
- ('A`)「……でもさ。 どうして今になって、そんな話しようと思ったんだ?」
俺はドス女に訊ねた。
今まで短くない時間を、俺はドス女と共に過ごしてきたが、
ドス女は滅多に自分のこと――特に、自分の過去についてのことを話さなかった。
言いたくないなら無理に聞く必要も無いと、
今までは気にしないでいたが――
どうして、今頃になって……・
イ从゚ ー゚ノi、「……最後に、儂の過去を聞いておいて欲しいと思ってな」
…………?
最後、だって?
一体それは――
…………!
まさか……!
('A`)「ドス女! お前、まさか……!」
俺は取り乱した。
最後。
ドス女は今、確かにそう言った。
その意味は、つまり――
- 70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:54:53.79 ID:t80tMjVi0
- イ从゚ ー゚ノi、「今回の事件の原因は、あそこで儂がきっちりセントジョーンズに止めを刺さなかったことにある。
全て、儂の責任じゃ。
じゃから、儂が一人でセントジョーンズを誅殺し、全てにケリをつける。
60年前からの、悪夢のな」
決意のこもった目で、ドス女がきっぱりと言い放った。
イ从゚ ー゚ノi、「お主はここでロマネスクに匿ってもらえ。
今回の件に、これ以上お主が関わる必要は無い。
これ以上、傷つく必要は無い。
そしてロマネスクの科学力ならば、お主の体を元に戻す方法も見つけることが出来るじゃろう」
('A`)「何言ってるんだ! 俺も一緒に闘う!
お前一人に、全部背負い込ませるなんて出来るか!
それに、お前言ったじゃないか!
俺の夢に、一緒に付き合ってくれるって!
あれは、嘘だったのか!?」
俺は叫んだ。
ドス女を行かせてはならない。
ここで、ドス女を行かせたら、ドス女は二度と帰って来ない。
そんな気がしたからだ。
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:56:57.57 ID:t80tMjVi0
- イ从゚ ー゚ノi、「……儂には、お主の傍に居る資格など無い」
('A`)「…………?」
ドス女がポツリと呟いた。
イ从゚ ー゚ノi、「お主の体が人間とは別のものに変わってしまっているということに気付いた時、
儂は心配する振りをして喜んでいたよ。
これで、一人ぼっちじゃなくなるかもしれない、とな。
永遠に生き続けることの苦しみを、誰より分かっている筈なのに、
心の底から喜んでおったのじゃ」
そんなこと……
そんなことくらい分かってた。
分かったうえで、俺は……!
イ从゚ ー゚ノi、「儂は、お主が思っておるほど強くも綺麗ではないよ。
寂しさに耐えれず、仮初の繋がりと、道連れを求める汚い女……
それが、儂の本性じゃ」
自分を責めるように、ドス女が言った。
俺は、見ていられなかった。
ドス女が、自分で自分を苦しめているその姿を。
('A`)「そんなことなんてない!
ずっと長いこと孤独なまま生きてきて、そんな風に考えない方がおかしいんだ!
もし、一人が嫌だって言うなら――」
イ从゚ ー゚ノi、「やめろ……」
('A`)「俺がずっと一緒にいてやる!
俺の体なんか、元に戻らなくたって――」
イ从゚ ー゚ノi、「やめろと言っている!!」
ドス女の叫びが、俺の言葉を遮った。
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:58:41.00 ID:t80tMjVi0
- イ从゚ ー゚ノi、「分かっていない!
お主は、全然分かっていない!!
永遠に生き続けることが、周りが変わっていくのに、自分だけ取り残されることの苦しみが、
自分と共に歩んでくれるもののいない辛さがどれほどのものか――
これっぽっちも分かっていない!!」
ドス女が俺の胸倉を掴んで、叫び続けた。
イ从゚ ー゚ノi、「周りの人間から化物と罵られ、命を狙われたことがあるか!?
信じようとした者から、拒絶されたことがあるか!?
やっと心を通わすことの出来る相手を見つけたとしても――
自分は何一つ変わらないまま、相手は老いて、死んでいく。
その苦しみを味わったことがあるのというのか!?」
不老不死。
人間の求める共通の願望の一つ。
人間は、それをさも素晴らしいことかのように追い求め続ける。
だが――
それは果たして、本当に素晴らしいことなのだろうか。
永遠に続く孤独と苦痛。
ドス女は、ずっとそれに耐え続け、
そしてこれからも耐え続けていかなければならないのか。
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:59:58.38 ID:t80tMjVi0
- イ从゚ ー゚ノi、「……すまぬ。 お主に当たるつもりは無かったのじゃが……」
はっと気付いた様子で、ドス女が俺の胸倉から手を放した。
……言わなければいけない。
ここで、俺の気持ちを。
伝えなければならない。
でないと、ドス女は、ずっと――
('A`)「俺は――」
意を決し、俺は口を開いた。
('A`)「俺は、嬉しかったんだ。
大分前、研究所に連れ去られて、そこに閉じ込められた時――
ドス女が助けに来てくれて。
本当に、嬉しかったんだ」
全てに絶望していたあの時――
ドス女は、助けに来てくれた。
それが、俺にとって、どれ程の救いになったことか。
- 85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 01:02:36.37 ID:t80tMjVi0
- ('A`)「あの時、助けに来てくれて、本当に嬉しかったんだ!
今まで、俺が助けて欲しいって願っても、誰も助けに来ちゃくれなかった!
正義のヒーローなんてやって来なかった!
だけど、ドス女は来てくれた!!
それが、嬉しかったんだ!!
生きてて良かったって、俺にも救いはやって来るんだって、
心の底から嬉しいって思えたんだ!!!」
あの時から、ドス女は俺の全てだった。
やっと来てくれた、正義のヒーロー。
いいや、正義のヒーローだとか、そんなことは関係ない。
助けに来てくれた。
それだけで、充分だったんだ。
- 89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 01:03:50.67 ID:t80tMjVi0
- ('A`)「だから俺も誰かを助けることが出来ればって、
助けを求める人を、救うことが出来ればって、
あの嬉しさを、誰かにも分けることが出来ればいいなって思った!!
だから、もう少しだけ正義のヒーローの真似事を続けてみようって、そう思えた!!
それまでは、ただ自分が救われたいから正義のヒーローの振りをしているだけだった!!
だけど、今は違う!!
ドス女が、助け合うことの尊さを、闘うことの意味を教えてくれたんだ!!
お前が居なければ、今の俺は居やしなかった!!!」
だから、護りたかった。
自分は弱くてちっぽけだけど、
それでも、ドス女が俺にしてくれたように、俺もドス女を護りたかったんだ。
(;A;)「だから――
だから、俺は……!」
それ以上、言葉にすることが出来なかった。
何をやってるんだ。
俺が言いたいのはそんなことじゃない。
もっと単純で、素直な言葉。
分かってるのに、どうして言えないんだ……!
- 94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 01:04:59.25 ID:t80tMjVi0
- イ从゚ ー゚ノi、「もう、充分じゃ」
ドス女が小さな声で呟くように言った。
イ从゚ ー゚ノi、「無理して言葉にする必要は無い。
お主が何を言いたいかは、ちゃんと伝わっておるよ。
……優しいな、お主は」
違う。
俺は優しくなんかない。
俺は――
イ从゚ ー゚ノi、「……それでも、もうお主とは一緒には居れぬ。
これ以上共に歩んでも、お主が不幸になるだけじゃ。
元々人間と人外は相容れぬ存在――
儂は、これ以上お主を傷つけたくはない」
('A`)「ドス女……!」
イ从゚ ー゚ノi、「お主と一緒に歩めて、楽しかった。
お主と出会えて、本当に良かった。
……有難う」
そう言って、ドス女は微笑んだ。
今まで見たこともないような、心の底からの笑顔。
それが、最後に見せる笑顔のような気がして、俺は――
('A`)「ドス女!」
俺は引きとめようと、ドス女の肩を掴んだ。
イ从゚ ー゚ノi、「去らばじゃ、ドクオ」
ドス女がそう言った直後、俺は自分の腹に鋭い痛みを感じた。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 01:05:55.36 ID:t80tMjVi0
- ('A`)「な――あ――う――」
俺の腹に、匕首が突き刺さっていた。
傷口からどんどん血が溢れ、
体から一気に力が抜けてその場に倒れ込む。
駄目だ。
立たなければ。
このままドス女を行かせたら――
('A`)「銀……」
その言葉を最後に、俺の意識は真っ黒に塗りつぶされていった。
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 01:07:03.30 ID:t80tMjVi0
* * *
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
銀は倒れたドクオを見下ろしていた。
急所を狙いはしたが、今のドクオならば致命傷にはならない筈だ。
数時間もすれば、目を覚ますだろう。
( ФωФ)「行くのか?」
いつの間に来ていたのか――
杉浦ロマネスクが後ろから銀に声をかけた。
イ从゚ ー゚ノi、「止めてくれるなよ。 これは、儂一人の問題じゃ」
( ФωФ)「止めなどせんよ。 我輩は別に、貴様らと仲間という訳ではないからな。
どこで何をしようが知ったことではない。
それに、お互いもう子供ではないのだ。
自分なりに考え、決めたことに関して、一々口出しする義理も無い」
腕を組んだまま、ロマネスクが言った。
- 104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 01:08:21.27 ID:t80tMjVi0
- イ从゚ ー゚ノi、「……こんなことを言える義理ではないことは分かっておるが、一つだけお願いさせてくれ。
マスク仮面を頼む。 貴殿しか、頼れる者が居らぬのじゃ」
深々と頭を下げ、銀がロマネスクにお願いした。
( ФωФ)「フン、言われずともそのつもりよ。
だが勘違いするな。
我輩がこいつの面倒を見るのは、いずれ我輩が倒す為。
時が来れば、我輩はこいつと雌雄を決するぞ?」
イ从゚ ー゚ノi、「……かたじけない」
それだけ言うと銀はドクオとロマネスクに背を向け、進もうとする。
と――
( ФωФ)「待て」
ロマネスクが、銀に向かって日本刀を投げ渡した。
イ从゚ ー゚ノi、「これは……」
銀が手にした日本刀は、まさしくJOWに囚われた時に取り上げられたものだった。
( ФωФ)「JOWに行った時に見つけたものだ。
我輩には武器など不要だからな。 くれてやる」
イ从゚ ー゚ノi、「……恩に着る」
日本刀を腰に差し、銀は歩き出す。
背中に寂しさと、暖かい思い出を背負い、
一歩一歩力強く進んでいった。
〜第三十九話『そして二人の別れ』 終
次回、『強くなる為に』乞うご期待!〜
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