ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 19:57:20.75 ID:hhNMLrKZ0
第四十九話『心殺術の脅威! 危うしネガティヴアヴァター!!』

〜前回までのあらすじ〜

彼女は年上  第一話『恋人のできない男』

( ^ω^)「それで、昨日ついにツンとセクロスしたんだお!!」
昼休み、学校の屋上で昼食を食べながら、
ブーンは誇らしげにそう宣言した。

('A`)「マジか。 これでお前もついに脱童貞だな」
(´・ω・`)「付き合って二ヶ月で初セックスか。
     結構早かったね」
ドクオとショボンがそう言いながらブーンに祝辞を述べる。

('A`)「で、どうだった?」
( ^ω^)「マジすげえお! もう無我夢中で、言葉では言い表せれないお!!」
ブーンが嬉々としながら答えた。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 19:58:08.88 ID:hhNMLrKZ0
(´・ω・`)「ま、最初のころはそんなもんだろうね。
     しかし、そうなると残ってるのは……」
ショボンがちらりとこちらに視線を向けた。

(´・ω・`)「ギコだけが、チェリーボーイということになるね」
(,,゚Д゚)うっせえ! 余計なお世話だゴルァ!」
俺は叫んだ。

俺、ブーン、ドクオ、ショボンは小学生からの悪友で、
以来ずっとこのようにつるんでいる仲だ。

('A`)「俺はブーンが一番最後に童貞捨てると思ってたんだがな」
( ^ω^)「フヒヒヒ! サーセン!」
高校に進学してからの一番の話題は、何と言っても異性のことで、
誰が最初に彼女をつくるかの話で持ちきりだった。

そうこうしているうちに、まずショボンが同級生の渡辺さんとくっついた。
まあショボンは顔も良いし頭も良いし、彼女が出来るのも当然だろうと思っていたので、
そんなに焦りはしなかった。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 19:58:37.75 ID:hhNMLrKZ0
が、その一ヶ月後、今度はドクオが、
あろうことかクラスでも1、2の人気を誇る素直クールと付き合うことになったのだ。

これには、俺もブーンも驚いた。
ドクオも悪い奴ではないが、いかんせん性格的に女受けはしない。
そんなドクオに彼女が出来たという事実は、少なからず俺とブーンを動揺させた。

それでも、俺にはまだ余裕はあった。
彼女がいないのは俺一人ではなく、ブーンも同じだったし、
何より、ブーンよりは先に彼女くらい作れるだろうという自信があったからだ。

が、その最後の牙城も二ヶ月前にあっさり崩された。
なんと、犬猿の仲だと思っていたブーンとツンがカップルになってしまったのだ。

そして今日、ブーンが童貞を捨てたことをこうして聞かされることになったのである。
ブーン……
お前だけは、違うと思っていたのに……



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:00:16.07 ID:hhNMLrKZ0
(´・ω・`)「しかし本当に以外だったね。
     まさかギコが一番最後に残るなんて」
('A`)「だな。 一番女子に人気ありそうなのに」
ショボンとドクオが哀れむような視線を浴びせてくる。

おのれこの勝者どもめ。
今晩お前らのチン毛をわら人形に入れて牛の刻参りやってやる。

( ^ω^)「やっぱ人間内面ってことだお!」
ブーン、お前は特に念入りに釘を打ち込んでやる。

……しかし俺はどこかで、彼女が出来ないのも当然と思っていた。

自慢ではないが、俺は顔も悪くないと思うし、運動神経も良い方だと思う。
積極的にアプローチでもかければ、彼女に一人ぐらい出来たとは思うんだが……
どうにも、本気で彼女を作りたいとは思えなかった。

誤解の無いように言っておくが、俺は断じてホモではない。
女の子に興味が無いというわけでもない、というか、興味津々である。

俺も年頃の男だし、
女の子と付き合って、えっちぃこともしてみたいと思っている。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:01:03.47 ID:hhNMLrKZ0
けれど、そういう気持ちだけで彼女を作ることが、
良いことだとは思えなかったのだ。

本来恋人というのは、好きだから付き合うのであって、
性欲だけで付き合うというのは相手にとって失礼なのではないか、
と考えると、どうにも躊躇してしまうのだ。

自分は相手のことが本当に好きなのか、
性欲の対象として見ているだけではないか、と。

……こういう古臭いことばかり考えているから、
未だに童貞なのだろうけれど。

(´・ω・`)「おっと、もうすぐ授業が始まるみたいだね」
('A`)「んじゃ、そろそろ教室に戻るとすっか」
こうして、昼のY談は打ち切られることとなった。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:01:47.12 ID:hhNMLrKZ0



(,,゚Д゚)「はあ〜、まさかブーンに後れを取ることになるとはなあ……」
放課後、俺は昼休みのダメージが抜けきらないまま帰路についていた。

大体、付き合って二ヶ月でセクロスとか貞操が乱れ過ぎだろ、
常識的に考えて……

(,,゚Д゚)「あー、ったくムカつくー」
道端の空き缶を蹴飛ばし悪態をつくも、それで何かが変わるわけではない。

そんなことより、明日に控えた小テストのことを考えていたほうが、
有効というものだろう。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:02:08.73 ID:hhNMLrKZ0
(,,゚Д゚)「…………?」
と、俺の目の前を茶色の紙袋が横切っていった。

(*゚ー゚)「やばっ!」
直後に、若い女の人の慌てた声。

(,,゚Д゚)「よっと!」
反射的に道路に飛び出し、
紙袋を拾い上げて歩道に戻った。

(,,゚Д゚)「大丈夫か? これ、あんたのだろ?」
そう言いながら、紙袋をつまずいて転んでいた女性に差し出した。
女性が紙袋に手を差し出し、そこで俺と女性の目が合う。

(,,゚Д゚)「――――」
(*゚ー゚)「「――――」

――これが、俺と彼女、羽二屋(はにや)しぃとの、初めての出会いだったのだ。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:02:44.70 ID:hhNMLrKZ0


        *  以下、何事も無かったかのように再開  *


( ▼w▼)「ハアッ―― ハアッ――」
トラギコの遺体の前で、俺は膝をついていた。

何でだ……
何で、こうなった。

こいつは、傷ついていたんじゃないか。
助けを求めていたんじゃないか。

なのに――
なのに、どうしてこうするしか出来なかったんだ。
どうして、助けてやることが出来なかったんだ……!

( ▼w▼)「う――うわあああああああああああああああああああああ!!」
空を仰ぎながら叫んだ。

一人で耐える辛さは、
助けが来ない苦しみは、
俺が一番良く知っていた筈なのに――
どうして、トラギコを救ってやることが出来なかった。
どうしてなんだ……!



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:03:31.61 ID:hhNMLrKZ0
( ▼w▼)「うう…… ゥ…… ぐうううぅ……!
血の涙を流しながら、奥歯を噛み締めた。

後悔。
自責の念。
それが、俺にのしかかってくる。

まただ。
また俺は、間違えた。
発電所の時のように。

何で俺は、
何をやっても上手くいかないんだ……!



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:04:11.36 ID:hhNMLrKZ0
( ▼w▼)「――――!」
と、周囲がいきなり暗くなった。

いや、暗くなった、なんてもんじゃない。
完全な闇。
さっきまであった筈の崩れた家や瓦礫だらけの道路が、
全く見えなくなってしまっている。

( ▼w▼)「…………!?」
俺は慌てて周囲を見渡した。
暗黒。
それ以外、何も見えない。

馬鹿な。
月が隠れたにしたって、ここまで真っ暗になる筈がない。
ならば、何故こんな現象が!?

( ▼w▼)「まさか――!?」
敵の攻撃か何かか!?

そう思い、より注意深く周囲を見回すが、
何も見えず、何も起こらない。
すぐに、直接攻撃してくるという訳ではなさそうだ。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:04:40.97 ID:hhNMLrKZ0
( ▼w▼)「くッ……!」
だが、いつまでもこのまま、という訳にはいかない。

俺にはまだやらなければいけないことがある。
急いで国会議事堂へ行って、歯車王を……!

(=゚д゚)「まだ誰かを殺しにいくつもりラギか?」
( ▼w▼)「!!!!!!!!」
俺は心臓が口から飛び出そうになった。

馬鹿な。
トラギコは死んだ。
俺が、殺した筈だ。
それがどうして、目の前に立っている!?

(=゚д゚)「そう、俺はお前に殺されたラギ。
    お前の独りよがりな正義とやらの信念の為に」
トラギコの体が、無残に腐蝕して崩れていく。
死んだ時と同じ姿で、トラギコの姿は暗黒の中に浮かんでいた。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:05:26.56 ID:hhNMLrKZ0
(=゚д゚)「俺はただ、姉さんを護りたかっただけラギ。
    それを分かっていて、お前は殺した。
    俺がいなければ、姉さんも死ぬラギ。
    全部お前の所為ラギ。
    お前が、俺と姉さんを殺したラギ」
トラギコが恨みを込めた視線で俺を射抜く。

(=゚д゚)「お前は救いようの無い極悪人ラギ。
    お前が闘っているのは、正義の為なんかじゃない。
    殺したいだけラギ。
    そうやって、自分を虐げてきた世界に復讐したいだけラギ」
( ▼w▼)「違う! そうじゃない!
      俺は、俺はただ――!」
護りたかっただけ。
目に映る苦しむ人々を。
助けを求めている人を。
そして――ドス女を。

ただ、それだけだった筈なのに……!



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:06:44.95 ID:hhNMLrKZ0
イ从゚ ー゚ノi、「そうやって、お主は儂に罪をなすりつけるつもりなのじゃな」
( ▼w▼)「!!?」
さっきまでそこにいた筈のトラギコの姿が、いきなりドス女へと変わっていた。

イ从゚ ー゚ノi、「儂の為、か。 そう言っておれば楽じゃろうな。
      それを理由に、いくらでも責任転嫁が出来るのじゃから」
( ▼w▼)「違う!!
      俺は、俺は――!」
ドス女の為。
それは決して、ドス女に責任を被せようとか、そういうつもりじゃない。

ただ、嫌だったんだ。
ドス女の悲しそうな顔を見るのは。

ただ、望んでいたんだ。
ドス女が笑っていられることを。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:07:16.59 ID:hhNMLrKZ0
イ从゚ ー゚ノi、「もうよい。 そんなのは、正直迷惑じゃ。
      お前はそれで満足かもしれんが、儂にしてみれば、鬱陶しいことこの上ない。
      お主はどうせ、そうやって儂の気を引きたいだけなのじゃろう?
      儂を抱きたいだけなのじゃろう?」
( ▼w▼)「違う!
      絶対に、違う!!」
ドス女に対して、口では言えないような邪な感情を抱いたことが無い訳ではない。
だけど、それだけじゃない。
抱きたいとか、繋がっていたいとか、そんなものだけじゃない。

そんなものが無くたって――
ただ、相手の幸せだけを願う。
そんな気持ちが、必ずある。

イ从゚ ー゚ノi、「嘘じゃな」
冷たく、ドス女は言い放った。

イ从゚ ー゚ノi、「お主の言葉に、何一つ本当のものなどありはせぬ。
      偽りの正義のヒーローを名乗り、偽りの信念で闘い、
      偽りの苦悩で自己憐憫に酔い、偽りの正義を振りかざす。
      それがお主。
      虚偽と欺瞞の塊――
      それが、お主の本質じゃ」
( ▼w▼)「――――!」
俺は、何も言い返せなかった。

違う。
そうは思っているが、果たして本当にそうなのか?
絶対に違うと、言い切れるのか?



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:07:53.44 ID:hhNMLrKZ0
イ从゚ ー゚ノi、「もう疲れたろう。
      自分すら騙し続けるのは。
      儂が終わらせてやる。
      ――お主はここで眠れ」
ドス女が日本刀を鞘から抜き、こちらに近付いて来る。

( ▼w▼)「あ―― う、あ――」
俺はその場から動けなかった。
ただうろたえながら、ドス女がこちらに来るのを見ているしか出来なかった。

イ从゚ ー゚ノi、「去らばじゃ」
ドス女の一閃が、俺の体を両断した。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:09:06.07 ID:hhNMLrKZ0



( ▼w▼)「!!!!!!!!!」
次の瞬間、目の前の景色は切り替わっていた。

いや、違う。
変わったのではなく、暗黒のそれから、
元の風景に戻ったのだ。

周囲を埋め尽くすような瓦礫。
トラギコの亡骸。
全てが、闇に包まれる前のまま。

今のは、幻覚!?
全て、幻だったのか!?

胸の辺りを見る。
ドス女に斬られた筈のそこに、外傷は無い。
ということは、やっぱり夢だったのだろうか?

いや、ドス女に斬られた時のあの感触。
あれはまるで、体の外側でなく、内側、心を斬られたような――



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:09:45.50 ID:hhNMLrKZ0
( ▼w▼)「!!!?」
と、俺の視界を突然黒い何かが覆った。
それと同時に、ボトボトと、地面に何かが落ちるような音が聞こえてくる。

( ▼A`)「な――うわあああああああああああ!?」
これは――
俺の体から、黒いへどろのような物が溢れ出てきているのか!?

へどろが出るのにあわせて、俺の変身も強制的に解除されていく。

何だ、これは!?
何が起こっている!?

いや、この黒いへどろ、どこかで見たことがある。
これは――



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:10:27.27 ID:hhNMLrKZ0
( ▼A`)「!!!!!」
そうだ。
これは、奇形男に囚われたとき、
俺を喰らい尽くそうとしていたものだ。
それが、どうして――

( ▼A`)「がッ……!」
突然、体中の力が抜け、俺はその場に膝をついた。

( ▼A`)「ぐあああああああああああああああああ!!!」
直後、全身を気が狂いそうな程の痛みが襲う。

これは――
今までに受けた傷が、開いてきているのか!?
俺に力を与えていた真っ黒な塊が、俺の体から出ていっているからか!?

( ▼A`)「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!」
意識が遠のいていく。
駄目だ、このままじゃ――



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:11:43.92 ID:hhNMLrKZ0


            *             *              *


(’e’)「これが、ネガティヴアヴァターの戦闘データだ」
スクリーンを指揮棒で示しながら、セントジョーンズが言った。

(*゚ー゚)「へえ……
    これはまた、規格外の化物ね」
それを見ていた女――しぃが感嘆の声を漏らす。

(’e’)「君にはこれを、斃してもらおうと思う」
事も無げにセントジョーンズは言った。

(*゚ー゚)「冗談キツいわね。
    まともにやっても、勝てるとは思えないわ」
(’e’)「まともにやれば、な」
セントジョーンズがニヤリと微笑む。

(’e’)「この怪人――『ネガティヴアヴァター』は、他の怪人とは少し違ってね。
   肉体の改造ではなく、異存在との精神的なリンクによって、その異能を発揮しているのだ。
   つまり、心と内部――内的宇宙に、その本体があると言っていい」
そこまで言って、セントジョーンズは一度唇を湿らせた。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:13:00.34 ID:hhNMLrKZ0
(’e’)「つまり、この精神的な繋がりを絶てば、その異能は失われ、
   ネガティヴアヴァター、ドクオは、単なる人間と化す。
   そして彼が今までの闘いで受けた傷は、彼の内に眠るネガティヴアヴァターの核、
   怪人や戦闘員の失敗作の集合体の力により癒されている。
   もしこの精神接合を絶ち、力を失えば、
   失敗作のつなぎにより治癒されていた傷も開き、ただの人間に過ぎないドクオは死ぬ。
   併せて、依代を失った失敗作も滅びる、という訳だ。
   君にならば可能だろう?
   君の『心殺術』の力を使えば」

(*゚ー゚)「簡単に言わないで欲しいわね。
    心の中に忍び込み、心を操り、侵して殺す『心殺術』とは言っても、
    精神的なリンクを絶つのは容易じゃないわ。
    ましてやあの化物――相当強固な繋がりで結びついていると思うけれど」
しぃが溜息をつきながら言った。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:13:39.74 ID:hhNMLrKZ0
(’e’)「クククッ。 その点は問題無い。
   依代である人間――ドクオは、精神的にかなり脆くてね。
   彼の心が弱まれば、その繋がりも連動して弱体化する筈だ」

(*゚ー゚)「……何か策があるようね」

(’e’)「トラギコを奴にぶつける。
    トラギコも、あれで悲劇的な境遇でね。
    トラギコではネガティヴアヴァターには勝てないだろうが――
    もしドクオが彼の過去を知り、その上で殺したとなれば、
    苦しむだろうな、ドクオは」

(*゚ー゚)「非道い人。
    死ぬと分かってて、部下を犠牲にするなんて」

(’e’)「何、トラギコもそろそろ使い道が無くなってきたところだ。
   最後くらい、少しは役に立ってもらわないとな」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:14:18.78 ID:hhNMLrKZ0



(*゚ー゚)「…………」
しぃは遠くから、崩れ落ちたネガティヴアヴァターを見ていた。
ネガティヴアヴァターの変身はほとんど解け、
化物と人間とがごっちゃになったような姿で、地面に倒れ伏して動かなくなっている。

(*゚ー゚)「ここまで上手くいくとはね。
    案外、あっけないものね」
しぃはそう言いながら薄く笑みを漏らした。

(*゚ー゚)「さて、こっちは片付いたみたいだし、次の仕事に移るとしましょうかね」
しぃは踵を返し、ドクオに背を向けた。

もう一つの仕事。
それは恐らくネガティヴアヴァター以上に厄介な存在、
ロマネスクの心に侵入し、その弱点を探ること。

しぃにとっては、そちらの方が骨の折れる仕事といえた。

(*゚ー゚)「バイバイ、正義のヒーローさん。
    せいぜい、苦しまずに逝きなさいな」
それだけ言い残し、しぃはドクオの元を去っていった。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:15:57.30 ID:hhNMLrKZ0


              *             *             *


('A`)「…………」
俺は地面に倒れたまま動けなかった。

体から、どんどん力が抜けていくのが分かる。
畜生、俺、一体どうしたっていうんだ……


『我らとお前との繋がりが絶たれたようだ』


('A`)「!?」
どこからか、聞き覚えのある声がした。

この声は――
まさか、あの黒い塊から聞こえてきているのか?



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:16:33.73 ID:hhNMLrKZ0


『何者かが、何らかの方法で我らとお前との心の鎖を絶った。
 故に、我らがお前の体から乖離しようとしている』


……何だって!?
それじゃあ、さっきのあれは、やっぱり誰かの攻撃だったのか!

('A`)「俺は――どうなるんだ?」
息も絶え絶えに、俺は声に訊ねた。


『我らがお前から離れれば、我らの力によって生きていたお前は生きてはいられないだろう。
 そして、お前という器を失った我らも、消える。
 ここで、我らとお前は朽ち果てるのだ』


('A`)「そんなのは駄目だ!
   何とかして、俺の体に戻れないのか!?」


『無理だ。
 我らとお前を結ぶ鎖は、修復不可能な程完全に断ち切られた。
 もう、どうにもならない』


('A`)「そんな――」
駄目だ。
ここで俺が死んだら、誰がこの惨劇を止めるというんだ。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:17:33.79 ID:hhNMLrKZ0


『だが、これはお前に残された最後の幸運とも言える。
 今ここでなら、お前は人間として死ぬことが出来る。
 化物としてではなく、人間の生を全う出来るのだ』


('A`)「そんなものなんていらない!!」
そんなものは欲しくない。
人間なんかでなくたっていい。
俺は、俺はただ――


『……いずれにせよ、最早我らとお前との離別は避けられぬ。
 お前が何を望もうと、我らとお前の死はもう避けられぬのだ』


('A`)「駄目だ! そんなのは駄目だ!
   何とか、何とかならないのか!?」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:18:10.78 ID:hhNMLrKZ0
『…………』


('A`)「お願いだ! 俺はまだ、闘わなくちゃいけないんだ!
   死ぬことが怖いんじゃない!
   護りたい人がいる! それを失うのが怖いんだ!
   ほんのちょっとの間だけでいい!
   力を、力を貸してくれ!!」
都合の良い願い事だとは分かっている。
それでも、それでも――


『……我らに残された力で、しばしの間お前の体に留まることは出来る。
 しかし、それだけだ。
 闘うことなど到底出来はしない、辛うじて生きているのがやっとでしかないだろう。
 徒に苦しむ時間を長くするだけだ。
 それでも、お前は立ち上がるのか?」


('A`)「……ああ。
   それでも、だ。
   生きている限り、何か出来ることはあると思うから」
たとえ短い時間でも、俺はやり遂げようとしなければいけない。

ここで諦めたら、
今まで、俺は何の為に多くの人を殺してきたんだ。

トラギコ、怪人、戦闘員、発電所の人達――
彼らは、何の為に死んだというんだ。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:18:53.05 ID:hhNMLrKZ0
『……ならばもう何も言うまい。
 だが、生き延びることが出来る時間は本当に少ないぞ?
 それだけは、覚えておけ』


('A`)「――ああ」
体中の力を振り絞り、ゆっくりと立ち上がる。

( ▼A`)「がッ……! ぐあ! ごぼォ……!」
血と黒いへどろを垂れ流しながら、
それでも俺は立ち上がった。

体中が酷く痛む。
心が、悲鳴を上げる。
生きているだけで、奇跡のようなもの。

( ▼A`)「ぐうううぅッ……!」
それでも――
それでも俺は、足を前に踏み出した。

行かなければならない。
辿り着かなければならない。

俺が、本当に護りたかったものの所に――



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:19:43.51 ID:hhNMLrKZ0


              *              *              *


イ从゚ ー゚ノi、「…………」
最初に国会議事堂に辿り着いたのは銀だった。
日本刀を腰に下げ、神妙な面持ちで国会議事堂を見据える。

ここに、居る。
あいつが――
セントジョーンズが。

奴が何を企んでいるのかなんて知ったことではない。
いかなる策謀を持っていようと、一刀両断に斬り捨てるのみ――!

イ从゚ ー゚ノi、「――――?」
と、銀は何かが飛来する音を聞いた。
見ると、夜空を切り裂くように戦闘機が飛来してきている。

あれは――自衛隊の戦闘機か。
この惨状の中、動ける部隊もあったということか。

イ从゚ ー゚ノi、「!!!」
戦闘機が国会議事堂に向けてミサイルを発射した。

好機。
このミサイル攻撃による騒ぎに乗じて、
一気にセントジョーンズと歯車王とやらの所へ――



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:20:15.97 ID:hhNMLrKZ0
イ从゚ ー゚ノi、「!!!!!!」
しかし、ミサイルは国会議事堂に着弾する前に爆発した。

今のは!?
いや、一瞬だが、見えた。
何かが、ミサイルを射ち落したのだ。
一体、何が――

イ从゚ ー゚ノi、「!!?」
その『何か』は、ミサイルを射ち落しただけでは終わらなかった。

幾筋もの放物線を描きながら空を飛翔し――
戦闘機へと進路を変えて襲い掛かる。

次の瞬間、『何か』は正確に戦闘機の燃料タンクを射抜き、
戦闘機は空中で大爆発を起こして墜落した。

馬鹿な。
戦闘機とミサイルを、こうもあっさりと。
誰が、こんな神業を。

――まさか!?
いや、そんな筈がない。
そんなことがあてはならない。
だって、あいつは――



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:21:08.10 ID:hhNMLrKZ0
「やっとお越しになられましたか」
イ从゚ ー゚ノi、「――――!」
一番聞きたくなかった声が、銀の耳に届いた。

声のした方向――
国会議事堂の屋根に視線を向ける。
そこには――

(´ー`)「待ちくたびれましたよ、『銀獣』」
『魔弾』――初代モナーが、そこに立っていた。

イ从゚ ー゚ノi、「モ――ナー……!」
信じたくないといった表情で、銀はモナーを見る。

イ从゚ ー゚ノi、「何故じゃ! 何故お主がここにおる!?」
(´ー`)「何故? あなたにだって分かっているでしょう」
モナーがひらりと国会議事堂の屋根から飛び降り、着地した。

人間では落ちればただではすまない高さ。
その高さから、軽やかに飛び降りた。

それを見て、銀の脳裏に嫌な予感がよぎる。
まさか、モナーは既にもう……!



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:21:57.46 ID:hhNMLrKZ0
(´ー`)「長かった…… ここまで、本当に長かった。
    しかし、もう待つ必要などない。
    やっと、願いが叶う」
初代モナーの姿が、次第に変化していった。
白髪が黒く染まっていき、顔から皺が消えていく。
それは、まるで――

( ´∀`)「続きをしようぜ、『銀獣』!!
     60年前の、あの夜の続きをなァ!!!」
銀が始めてモナーに会った時の姿、そのままだった。


〜第四十九話『心殺術の脅威! 危うしネガティヴアヴァター!!』
 次回、『『魔弾』VS『銀獣』、真冬の夜の夢』 乞うご期待!〜



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/04(土) 20:22:29.36 ID:hhNMLrKZ0
この番組は、

どきどき魔女裁判
アルトネリコ
ボディコンクエスト

の提供でお送りしました。



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