ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:12:31.94 ID:1DppGPIr0
第二部 第十一話『決戦前夜 〜夜明け前〜』

〜前回までのあらすじ〜

物語りも終盤になってきたので、今まで登場した怪人の紹介をします。

『怪人俺って最低だよな男』

ナルシスト気味な男性が変身することが多い怪人。
何か失敗したり、人を傷つけてしまった時、
これ見よがしにあなたに対して後悔しているような素振りを見せます。
しかし、その本質は決して罪悪感からではなく、
傷ついてる俺を慰めて欲しいといった自己中心的な考えから生まれるものです。
「だったら死ねば」と冷たく突き放して撃退しましょう。


『怪人この前友達の知り合いがさあ男』

友達の知り合いの凄さを自慢してくる怪人です。
自分のことでもないのに、さも自分まで偉くなったかのように自慢をしてきます。
何故か、「だったら今度その人に会わせてよ」と言ったら、
都合が悪いだのなんだの口ごもり、
結局その友達の知り合いに出会わせてはくれません。
そりゃそうですよね。 実在しないんですから。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:14:22.17 ID:1DppGPIr0
『怪人これ嬉しいだろ男』

頼んでもいないのにプレゼントを押し付け、
その見返りを暗に要求してくる怪人です。
しかも、大抵の場合貰っても嬉しくないプレゼントです。
恋人でもないのに、意味も無くプレゼントを貰ったって、
対処に困るだけだというのが分からないのでしょうか?
あまり親しくない人への贈り物は旅行のお土産程度に止めるべきです。
空気を読みましょう。


『怪人今日は何の日でしょう女』

いきなり、「今日は何の日か覚えてる?」と質問してきます。
もちろん緑の日とかクリスマスとか、そういう一般的な記念日ではなく、
初めてデートをした日だとか、初めてお泊りした日だとか、
極めて個人的な記念日を聞いてくるのです。
一々そんなこと覚えていないのが普通なのに、
答えられないとあからさまに機嫌が悪くなり、謝罪と賠償を求められます。
何かある度に手帳に記入しておくのが唯一にして絶対の対処法です。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:16:06.32 ID:1DppGPIr0
『怪人私より〜〜の方が大切なんだ女』

仕事や趣味に忙しくて、あまり構ってやれなかった時、
女性が変身する怪人です。
そもそも恋人と仕事や趣味といったものは、
直接天秤にかけられるようなものではなく、
本質的に比較出来ない別物なのです。
例えば、「カレーと大悪司どっちが好き?」と質問しているようなものであり、
答えられるような問題ではないのです。
しかし人間関係を円滑にする為にも、妥協して「君の方が大事だよ」と答えておきましょう。


『怪人ピンポン来ちゃった女』

恐ろしさだけで言えば最強の部類に入る怪人です。
あなたが家でくつろいでいる時、何の予告もアポもなくチャイムを鳴らし、
「えへ、来ちゃった」などと言って家に上がりこんできます。
果てには、勝手に合鍵を作って留守の間に家に入って来てたりします。
本人は可愛気のある女を演出しているのでしょうが、
かなり重く感じる、というか怖いです。
親しき仲にも礼儀あり。
人の家にお邪魔する前には必ず連絡を入れましょう。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:17:35.64 ID:1DppGPIr0        * 以下、何事も無かったかのように再開 *


イ从゚ ー゚ノi、「マスク仮面」
渡辺の墓までやって来た銀は、
先に来ていたドクオの姿を見かけると、後ろから声をかけた。

('A`)「お前も、墓参りに?」
イ从゚ ー゚ノi、「ああ」
言って、墓前に足を進めると、
銀は墓の前に花が供えられているのに気がついた。

イ从゚ ー゚ノi、「これは、お主が?」
銀がドクオに訊ねる。

('A`)「いや、ロマネスクが」
イ从゚ ー゚ノi、「ああ――」
そうか、あいつか。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:18:19.25 ID:1DppGPIr0
先を越されてしまったか、
と銀は少し悔しく思うと同時に、渡辺に対して申し訳なく思った。

別に、渡辺のことを忘れていた訳ではない。
ただ――どうしても、すぐにここまで足を進めることが出来なかったのだ。

ここに来れば、渡辺の死を、
何度も味わってきた、自分だけ取り残される孤独感を、
再確認させられてしまいそうだったから。

――いや、こんなの言い訳だ。
結局、自分が弱かったというだけのこと。

孤独と向き合うことも出来ず、
渡辺をほったらかしてしまう、
そんな醜い化物だったということだ。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:19:50.37 ID:1DppGPIr0
('A`)「――もうすぐ」
イ从゚ ー゚ノi、「ん?」
ドクオがおもむろに口を開き、銀はそれに耳を傾けた。

('A`)「……もうすぐ、全てが終わるんだな」
溜息を吐く様に、ドクオは言った。

――思えば、この男とも、思っていた以上に長い付き合いになったな。
銀は思う。

最初の頃は、どうなることかと思っていたが、
存外にこの男は強かった。

途中、何度も倒れ、挫けそうになったこともある。
だが、その度にこの男は立ち上がり、闘ってきたのだ。

自分より、弱く、無力な人間に過ぎなかった男が、
今、こうして世界の命運を懸けて闘おうとしている。

――そんなドクオを、銀は尊敬すると同時に、羨んでもいた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:20:34.79 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「……終わらぬよ」
少し間を置いて、銀はそう言った。

イ从゚ ー゚ノi、「フォックスを倒したところで、何も終わりなどしない。
       世界は、人生は続いていく。
       この荒廃した世界での生は、続いていくのじゃ。
       ――もしかしたら、そっちの方がフォックス達との闘いよりずっと辛いことかもしれぬじゃろう」
そう、世界は続いていく。

例えフォックスを斃し、世界の崩壊を食い止めたとしても、
失われた命は、世界に深く刻まれた傷痕は、消えはしない。

どれだけ自分達が頑張っても、世界はすぐに平和になどならないだろう。
限られた食料や資源を巡って、世界中で紛争が起き、更に命は失われていく筈だ。
最悪、それが原因で世界が滅ぶことも充分に有り得る。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:21:21.37 ID:1DppGPIr0
だが、その争いを正義や悪といったもので定義することは出来ない。
それぞれの命が、それぞれ必死に生き残ろうとする為の、
誰にも裁くことの出来ない争いだからだ。

恐らく、ドクオはその現実を目の当たりにすれば、深く傷つくだろう。
何も出来ない自分を呪うだろう。
そう考えれば、ここで闘いから離脱することが、
ドクオにとっては一番幸せなのかもしれなかった。

だけど、ドクオはそうしないだろう。
そう、銀は確信すると同時に諦めてもいた。

ドクオは、そうしない。
だからこそ、今ここで、こうして立っているのだから。

それが、自分の信じた、ドクオなのだから。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:22:29.95 ID:1DppGPIr0
('A`)「……やっぱドス女は凄いな」
イ从゚ ー゚ノi、「?」
思いがけぬドクオの言葉に、銀は不意を突かれた。

凄い?
こんな自分が、どうして――

('A`)「そんな先の事にまで、考えを巡らせられるんだから。
   俺なんか、目の前の闘いで一杯一杯だからさ」
自嘲するように、ドクオが呟いた。

違う。
違うんだ、ドクオ。

自分は、そんな立派な、
ドクオにそんな風に言われるようなものではない。

自分は――

イ从゚ ー゚ノi、「……儂は、凄くなどないさ」
銀は静かにそう答えた。

イ从゚ ー゚ノi、「儂には、お前やロマネスクのような、闘う為の大きな理由が何も無い。
       何もないのじゃ。
       ただ、闘う為に闘っているだけ。
       今も心のどこかで、自分はこの闘いとは直接関係が無い、と思ってしまっておる。
       ……じゃから、部外者気取りで知った様なことを口にしておるだけじゃ。
       儂は――」
セントジョーンズと同じ、
生きるのに飽きた化物なのだから。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:23:19.55 ID:1DppGPIr0
('A`)「そんな事はないだろ」
イ从゚ ー゚ノi、「え?」
ドクオは即答した。

('A`)「俺は、お前が何の目的も無しに闘ってるとは、これっぽちも思ってないぜ?
    お前には、お前なりの理由がある。
    でないと、ここまで一緒には闘って来てくれなかった筈だ」
イ从゚ ー゚ノi、「じゃが、儂には――」
世界を救うとか、正義の為だとか、
そういう大義は持っていないのだ。

('A`)「んなもん俺だってそうさ。
   口ではかっこいい事言ってるけどさ、
   俺も正義の為とかみんなの為とか言われてもピンと来ないよ。
   俺が闘うのは、フォックスの奴をぶっ飛ばしてやるとか、
   死にたくないとか、渡辺のおばあちゃんの仇を討つとか、
   目の前で誰も死んで欲しくないとか、そんな個人的な理由からだ」
意外だった。
ドクオは、もっと崇高なものの為に闘っていると思っていたからだ。

これじゃ、まるっきり自分と――



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:24:07.19 ID:1DppGPIr0
('A`)「――だけど、俺はそんな理由で充分だと思ってる。
   いや、正義とか平和とか、そんな漠然とした訳の分からない理由なんかじゃ、
   きっとここまで闘ってくることは出来なかったと思う。
   ロマネスクも、いつだったかこう言ってた。
   『正義も悪も、所詮は闘う過程の為の手段に過ぎない』ってな。
   だから俺は、正義とかそんなんじゃなくて――
   自分の、本当に大切なものの為に闘う」
迷いの無い瞳で、ドクオはそう言い切った。

('A`)「だから、ドス女。 闘う理由が無いだなんて、お前が悩む必要は無いと思う。
   お前だって、渡辺のおばあちゃんが死んだ時、涙を流してたじゃないか。
   その涙がお前の闘う理由なら――それで充分なんだと思う」
イ从゚ ー゚ノi、「――――」
ああ――そうか。
そんな簡単な事だったのか。
そんな事でよかったのか。

今まで、自分は勘違いをしていた。
セントジョーンズを殺さなければいけないとか、
モナーを止めなければいけないとか、
渡辺を殺した奴らを八つ裂きにしてやりたいとか、
そんなものは理由になどならないと思っていた。

だけど、それでよかったんだ。
それでいいと認めてくれる人が――
こんなに近くに居たんじゃないか。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:25:49.88 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「……変わったな、お主は」
('A`)「え?」
今度は、ドクオが銀からの言葉を聞き返した。

イ从゚ ー゚ノi、「お主は、強くなった。
       初めて遭った時とは、比べ物にならないくらいに」
そう、ドクオはこの闘いを通じて大きく成長した。
以前の彼を知る者が今の彼を見れば、きっと見違えてしまうだろう。

それくらい、この男は強くなることが出来たのだ。

それに比べて――

イ从゚ ー゚ノi、「人間は、ここまで変わることが出来るのじゃな。
      儂のような化物とは、違う――」
そう、自分は変われなかった。
変わることが出来なかった。

60年前、モナーと遭った時から――
数百年前、セントジョーンズと遭った時から――
何一つ、変われてなどいない。

ずっと、同じ所で止まっているだけに過ぎなかった。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:27:09.36 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「……最悪じゃな、儂は」
自分を嘲る様な口調で、銀は言った。

イ从゚ ー゚ノi、「この期に及んで、儂はお主を憎いと思うてしまっておる。
       変われることを、羨ましく、嫉ましく感じてしまっておる。
       ――笑ってくれ、マスク仮面。
       儂はこんな、醜くい化物なのじゃ」
嫌われた、と思った。

こんなにも自分を認め、受け入れてくれたドクオに対し、
どす黒い嫉妬を抱いてしまう自分に、好意など持ってくれる筈もない。

だけど、仕方がない。
これでいいのだ。

こいつは、自分みたいなのにいつまでも縛られていてはいけない。
別の誰かと、共に歩むべきなのだ。
それが、ドクオにとって一番幸せなのだから。

ドクオが自分の下を去れば、きっとまた孤独が自分に襲い掛かるだろう。
だけど、それでもいい。
ドクオが不幸になるより、よっぽどマシだ。
だから――



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:28:27.91 ID:1DppGPIr0
('A`)「お前だって、変わっただろ」
イ从゚ ー゚ノi、「――――!?」
銀は耳を疑った。

そんな訳はない。
化物の自分が、変われるだなんて、そんなこと――

('A`)「前までのお前だったら、そんな風に自分の弱さを曝け出さなかっただろ。
   何でもない振りして、平気な振りして無理矢理笑ってただけだろ?
   それだけじゃない。
   今のお前の心には、昔までのお前には無かった思い出が、刻まれてる筈だ。
   例え姿形が変わらなくたって――お前は確実に、変われたんだ」
イ从゚ ー゚ノi、「――――」
嬉しさに、涙が溢れそうになった。

ずっと、思い込んでいた。
ずっと、思い知らされていた。

自分は変われないと。
いつまで経っても、何も変わることの出来ない、
孤独な化物なのだと。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:29:34.52 ID:1DppGPIr0
だけど、ドクオは言ってくれた。
自分は変わることが出来たのだと。

大切な者にすら嫉妬を抱いてしまうような、醜い化物に、
変わることが出来たのだと。

そうか、変われていたんだ。
外から見ても、分からないのかもしれない。
ほんのちょっとなのかもしれない。

だけど――
自分は、変わることが出来たんだ……!

イ从゚ ー゚ノi、「……マスク仮面」
小さく、呟くような声で銀は言った。

イ从゚ ー゚ノi、「……ありがとう」
たった一言。
だけど、有りっ丈の思いを込めて。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:30:26.47 ID:1DppGPIr0
もう、さっきまであれ程自分を苛んでいた孤独は微塵も感じない。
代わりに感じるのは確かな絆。

見えなくても、触れなくても、
きっと、必ずそこに在る、何にも比べることの出来ない暖かさ。

だから、もう大丈夫だと、銀は思った。
だからやっていけると、思う事が出来た。

これから先、どんなに苦しいことがあっても、
例え、ずっと一人ぼっちになるのだとしても、
今のこの気持ちがあれば、頑張っていける。
胸を張って、生きていくことが出来る。

――ドクオ。
お前はやっぱり、本物の正義のヒーローなのだろう。

お前は、助けてくれた。
孤独に怯えていた自分を、確かに助けてくれたのだ。

だから自分は、最後までお前の為に闘おう。

自分には、それくらいしか、お前の絆に報いることが出来ないのだから。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:32:37.64 ID:1DppGPIr0


             *            *            *


イ从゚ ー゚ノi、「……ありがとう」
小さい声で、ドス女はそう言った。

('A`)「よせやい、照れるぜ」
俺は恥ずかしさを紛らわす為に、おどけた調子で返した。

全く、慣れないことはするもんじゃないな。
こういうムードは、どうにも苦手だ。
だからこそ、今まで彼女居ない暦=年齢なのだろうけど。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:34:14.36 ID:1DppGPIr0
('A`)「……そういやさ」
イ从゚ ー゚ノi、「ん?」
どうでもいいことが頭の中に浮かんできたので、
会話の間を持たせる為にだけ口にしてみる。

('A`)「いや、結構どうでもいいことだと自分でも思うんだけどさ、
   今まで、俺達ってほとんど本当の名前で呼び合ってないなって」
イ从゚ ー゚ノi、「――? ああ――」
俺はこいつのことを銀ではなくドス女と呼び、
こいつは俺のことをドクオではなくマスク仮面と呼ぶ。

今までずっとそれで通してきた為、
特に気にしてはいなかったのだが――
今更ながらに思い返してみると、少し奇妙だ。

('A`)「まあ、仕方無いっちゃ仕方無いけどな。
   最初の出会い方が、アレだったし」
『出たな怪人ドス女! このマスク仮面が成敗してくれる!!』
だもんなあ……

イ从゚ ー゚ノi、「確かに、風情や色気の欠片も無い初対面じゃったな」
クスリとドス女が笑う。

('A`)「何? お前ムードとかそういうの気にするタイプだったの?」
茶化す様に訊ねてみた。

イ从゚ ー゚ノi、「悪いか。 これでも一応女の子じゃからな」
むっとした顔で、ドス女が不服そうに答える。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:35:18.92 ID:1DppGPIr0







m9(^A^)「プギャーーwwwwwwwwwwwwwww
      何百年も生きてるババアが、何女の子とか言ってんだよwwwwwwwwwwwwwww
      自重しろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

イ从#゚ ー゚ノi、「あ゛?」

m9(^A^)「プギャーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」







40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:37:54.64 ID:1DppGPIr0








(;)'A;)「いや、ホントすいませんした。
    お願いですからそのダンビラしまって下さい。
    払いますから。 払いますから」

イ从゚ ー゚ノi、「ふん」
このババア、かなり本気で殴りやがって。
決戦前に死んだらどうすんだ……!



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:38:46.72 ID:1DppGPIr0



('A`)「…………」
ふと、山の上から街を見下ろした。

真っ暗な下界に、ポツポツと家の光が灯っている。
一見、いつもと変わらぬ平和な世界のように見える。

だけど、今こうしている間にも、
世界では沢山の人が死んでいっているのだろう。

それを止める手立ては、俺には無い。
俺は無力だった。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:39:31.38 ID:1DppGPIr0
('A`)「……はあ」
イ从゚ ー゚ノi、「どうした、マスク仮面?」
俺の溜息に、ドス女が反応した。

('A`)「……いや、結局俺は、最後まで正義のヒーローにはなれなかったな、って」
そう、俺は正義のヒーローになることは出来なかった。

誰も救えず、誰も護れなかった。

発電所の人達も、核兵器で死んでしまった人も、
今現在死んでいっている人達も、渡辺のおばあちゃんも、
助けを求める人を救うことは出来なかった。

きっと本当の正義のヒーローになろうと思ったら、
それこそフォックスくらいのことをしなければいけないのだろう。

だからと言って、全くこれっぽっちも、
フォックスの思想に共感することは出来ないけれど。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:40:56.08 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「それがどうしたというのじゃ」
ドス女が何でもないことの様に言った。

イ从゚ ー゚ノi、「お主は、今まで必死に闘ってきたではないか。
       何度傷ついても、何度倒れても、それでも立ち上がって闘ってきたではないか。
       どうしてそれを誇れないのじゃ?」
('A`)「必死にって――
   何も分からないまま、がむしゃらに突っ走ってただけだよ」
結局は自己満足。
そんなつまらない理由。
だから、誰も救えなかったのだろう。
自分すらも。

イ从゚ ー゚ノi、「いいや、そんなことはない。
       お主は立派に、誰かを助ける為に闘って来れた。
       誰かを助けることが出来た。
       ――少なくとも、儂はお主に助けられたと思っておる」
('A`)「俺が、お前を……?」
そんなことはない。
俺は、お前にだって何もしてやれなかった。
何も、救ってやることは出来なかったんだ……!



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:42:47.15 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「お主がどう思っていようと、儂はお主に感謝しているよ。
       それに、正義のヒーローがどうしたというのじゃ。
       渡辺も最後に言うておったじゃろう。
       お主は、例え正義のヒーローなどではなくとも、
       そんなものよりずっと素晴らしい人間なのじゃぞ?」
――渡辺のおばあちゃん。

そうか、そうだった。
自分は、託されていたんじゃないか。

渡辺のおばあちゃんから、
とても、大切な物を。

それなのに、こんなに弱気になっていてどうする。

俺は、自分に誇りを持って闘わなければならない。
例え、正義のヒーローにはなれないのだとしても。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:44:08.83 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「自身を持て、ドクオ。
       お主は、お主が思っておるよりずっと強い。
       儂が保証する」
そう言って微笑むドス女は、とても綺麗で。
胸が締め付けられるくらい、本当に綺麗で。

('A`)「銀――」
俺は、今までずっと隠していた想いを伝えようとした。
伝えたいと思った。

伝えるならば、今しか無いと。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:44:51.82 ID:1DppGPIr0
('A`)「…………」
だけど、喉まで出かかった声を、
俺は無理矢理押さえ込んだ。

きっと、想いを伝えれば、
ドス女は少し困った顔を見せて、
それでも結局は受け入れてくれるのだろう。

だけど、それじゃ駄目だ。
それでは、俺は、ドス女の重荷になってしまう。

それじゃいけない。
それだと、最終的にはドス女を苦しめてしまうだけだ。

だから、想いを伝えなかった。
伝えることが、出来なかった。

だけど、それでいい。
それでも、充分だ。

例え想いを言葉になんかしなくたって、
直接、伝えることがなくたって、
俺達は、深く繋がり合えている。
そう、信じている。

それが、例え、俺の望む形とは、
少しだけ違うのだとしても――



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:45:40.46 ID:1DppGPIr0
イ从゚ ー゚ノi、「どうした、マスク仮面?」
('A`)「ん、いや、何か、お前と出会ってからの事ばっか思い出すなって思って」
嘘ではない。
事実、俺の頭の中ではドス女と出会ってからのことが、
ぐるぐると渦巻いている。

辛いこともあった。
苦しいこともあった。
挫けそうな時もあった。
後悔することもあった。

だけど、それでも心の底から楽しかったと断言出来る日々。

渡辺のおばあちゃんと、ロマネスクと、ドス女と、
みんなで一緒に過ごしてきた、大切な日常。

それがあるから、俺は闘える。
何度だって、立ち上がることが出来る。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:46:38.02 ID:1DppGPIr0
不思議なものだ。
22年生きてきた中で、ドス女と出会ってからのことは、
ほんの少しの間の筈なのに。
それからのことしか頭に浮かんでこない。

それはきっと、
ドス女に会う以前の俺は、本当の意味で生きてはいなかったからなのだろう。
ドス女と出会うことで、俺は生まれ直すことが出来たのだ。

……決戦を前にして、
こんな風に過去のことばかり振り返ることは、
後ろ向きな姿勢と言う奴もいるだろう。

前だけ見て進むことだけが、
勝利に繋がるのだと言う奴もいるだろう。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:47:10.09 ID:1DppGPIr0
だけど、俺は必ずしもそうだとは思わない。

思い出に縋ることが、昔を振り返ることが、
力に繋がることだってある。

逃避の為のではなく、敗北の為ではなく、
より大きく明日に向かって飛び立つ為の、
助走する距離を取る為の、ほんの少しの後退。

その為に過去を振り返る必要があるから、
そうするだけだ。

他の奴は知らない。
だけど、俺はこの思い出があるから、
もっと強くなれるのだ。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/02(日) 18:48:07.32 ID:1DppGPIr0
('A`)「……ドス女」
イ从゚ ー゚ノi、「うん?」
ああ――だから。

('A`)「良かったらさ、少しだけ、昔話に付き合ってくれないか?」
だから、せめて今だけは、
甘い思い出に浸っていよう。

古き佳き日々を、懐かしんでいよう。

生きて戻ってくる為に。
もっと沢山の、思い出を作っていく為に。


〜第二部 第十一話『決戦前夜 〜夜明け前〜』 終
 次回、『LAST IGNITION』乞うご期待!〜



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