ドクオは正義のヒーローになれないようです
- 1: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:50:55.19 ID:QbmBFsTn0
- 番外編『『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その1
これから話すことは、誰も知らない物語だ。
誰も覚えていない物語だ。
誰も聞いたことのない物語だ。
誰の目にも映らなかった物語だ。
誰の記憶にも残らなかった物語だ。
所詮この世は泡沫。
一夜限りの夢。
しかし、あの時彼らは確かにそこにいて、
確かにそこで生き、闘っていた――
- 3: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:53:10.16 ID:QbmBFsTn0
* * *
――1947年7月、日本。
東北地方のとある県の奥深い山の中に隠された、
旧日本軍の軍事施設跡の中――
「銃の手入れはいいか?」
「弾薬の貯蔵は余裕があるか?」
「情報を徹底的に集めろ」
深夜、蛍光灯の薄暗い明かりの下で、
旧日本軍の軍服を着た軍人たちがせわしなく動いていた。
二年前、日本は戦争に負け、
連合軍の支配下に置かれることとなったのだが――
それを良しとしない者達が、こうして集まり、
再び決起して日本の覇権を取り戻そうと画策していた。
- 4: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:53:43.60 ID:QbmBFsTn0
- 「糞ッ! 腰抜けどもめ!
原子爆弾だか何だか知らんが、たった二発の爆弾ごときで降伏するとは!」
「こうなれば我々が闘うしかない!」
狂熱に身を焦がしながら、闘争の準備は着々と進められていた。
連合軍を打倒出来るかどうかはともかくとして――
彼らが行動すれば、再び日本に混乱が訪れることは確実だった。
そう、行動出来れば、の話だが。
「よし! 開戦は三日後だ!
それまで準備は万全に――ぐわッ!」
「!?」
指揮官らしき軍人の頭部が、一瞬にして消失した。
その場にいたもの全員がその光景に呆気に取られる。
ややおいて――
そのなくなった頭部が、眉間に一本の矢が刺さった状態で
床に転がっていることに他の者達が気づいた時には、全てが遅かった。
- 5: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:54:21.76 ID:QbmBFsTn0
- 「ぎゃあッ!」
「ぐわあッ!!」
飛来する矢が次々と基地の窓を突き破り、中にいた軍人たちを次々と射殺していく。
「何だ! どこからだ!?」
軍人の一人が矢の飛んできた方向に視線を向けた次の瞬間、
彼の心臓に矢が突き刺さった。
「がばッ……!」
胸を赤く染め上げ、軍人が床に突っ伏す。
瞬く間に、基地内は血の海と化していった。
- 6: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:54:52.55 ID:QbmBFsTn0
- 「敵襲! 敵襲ーーーーー!!」
しかし、彼らとて軍人。
いつまでも黙ってやられっ放しというわけではない。
すぐさま手近な武器で武装し、矢の飛来した方向から狙撃手の位置を予測して、
これを討つべく行軍を開始する。
その間にも矢は飛んでき続き、途中何人もの兵士が犠牲になりはしたが――
それでも、兵士達は狙撃手の元へと辿りついた。
「今のは貴様の仕業か!!」
「何だ! 何者だ!?」
夜の闇の中の人影に向かって、兵士達が銃口を向けて叫ぶ。
と、雲の切れ間から月影が差し、狙撃手の姿が露になる。
そこにいたのは――
- 9: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:56:30.83 ID:QbmBFsTn0
- ( ´∀`)「今晩はモナ。
過去の栄光に縋り付く亡者ども」
まだ成人もしきっていない、あどけない顔立ちの少年だった。
兵士達はその姿に己の目を疑ったが――
その手に構えた、少年の外見とは余りにも不釣合いな金属製の大弓から、
今の攻撃がこの少年のものであったことを理解する。
「貴様! こんなことをして只で済むと思っているのか!!」
兵士達が一斉に少年に突撃銃を突きつける。
しかし、少年はそんなことを全く気にしない様子で、
( ´∀`)「るせえなあ。 前時代の遺物がごちゃごちゃ喋るな」
吐き捨てるように、短く言った。
( ´∀`)「あのな、手前らみてえなのがいつまでも未練たらしく生きてんじゃねえモナ。
他の人が迷惑するだろ、この大戦時の負債どもが。
ま、せめて苦しまないように殺してやるから――」
少年はゆっくりと弓を構えて、
( ´∀`)「――さっさとくたばるモナ」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
銃声が、辺り一面にこだました。
- 10: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:57:11.46 ID:QbmBFsTn0
( ´∀`)「あ゛ー……暑っちぃー……」
惨劇の夜から二日後の昼――
少年は、山道を彷徨い歩いていた。
少年の名はモナー。
JOW日本支部特殊戦闘部隊の最年少隊員にして、
『魔弾』、『死置き人』の異名を持つ最強の切り札。
しかしそんな戦闘能力も、
道に迷ったときの脱出方法については全く役には立たなかった。
- 11: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:58:06.94 ID:QbmBFsTn0
- ( ´∀`)「行けども行けども山ばかり――
てか、北はどっちなんだモナ?」
JOW日本支部のある東京までの電車賃を浮かそうと、
徒歩で帰ろうとしたのがそもそもの失敗だった。
栃木か茨城の辺りの山を歩いていることには間違いない筈なのだが――
それ以上は全く分からない。
食料も水もそろそろ底を突き始め、
このまま「遭難死するのも時間の問題だった。
( ´∀`)「暑ぢいーー。 水ー。 水ーーー……」
犬のように舌を出しながら、水を求めてふらふらと歩く。
このままでは野垂れ死ぬ――そういった不穏な予感が、モナーの頭を掠めた。
( ´∀`)「!?」
と、モナーの耳がある音を感知した。
さらさらと、水が流れる音――
間違い無い、これは……!
( ´∀`)「か、川だ! 川だモナーーーーー!!」
さっきまでの疲労も忘れ、モナーは水の流れる音のする方向へと駆け出した。
モナーは狂喜していた。
川があれば水が飲める。
どころか、それを下っていけば人の住む所に辿り着ける可能性が高いからだ。
- 12: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:58:44.28 ID:QbmBFsTn0
- ( ´∀`)「ひゃっほーーーーー……う?」
木々の切れ目から川が見える所まで来て、モナーは急に足を止めた。
川の中で誰かが水浴びをしている。
あれは?
こんな山奥で、誰が――
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
モナーは息を飲んだ。
整った顔立ち、透き通るような白い肌。
銀色の髪――
そんな、美の象徴とも言うべきような女が、惜しげもなく裸体を晒している。
( ´∀`)「…………」
モナーは我を忘れて、ただぼうっと女を見ていた。
モナーも一応は男であるから、女性に全く興味が無いと言えば嘘になる。
しかし、今はそんな性的な好奇心とは別に――
何か、人の手には決して届かないような、
そんな一種触れ得ざるもののような魅力に、彼は取り込まれてしまっていた。
- 13: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 22:59:18.04 ID:QbmBFsTn0
- ( ´∀`)「……綺麗だモナ」
モナーが無意識に足を前に出そうとした時、
偶然にも枯れ枝を踏んでしまった。
枯れ枝の割れる乾いた音が、辺りに響く。
イ从゚ ー゚ノi、「誰じゃ!?」
その音に女が気付き、モナーの方へと顔を向けた。
( ´∀`)「やばッ……!」
モナーは逃げ出そうとしたが、
女の視線に射竦められてしまって一歩も動けない。
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
女もモナーが逃げ出そうとしないことを察したのか、
川の傍に置いてあった着物を簡単に羽織って取り敢えず素肌を隠すと、
ゆっくりとモナーに向かって近づいてくる。
- 15: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 23:00:04.82 ID:QbmBFsTn0
- イ从゚ ー゚ノi、「のぞきをするとは、あまり良い趣味とは言えんな」
モナーまであと4、5歩というところで足を止め、女は言った。
( ´∀`)「ご、ごめんなさいモナ!
別にのぞこうとしてここに来た訳じゃなくて、あの、その――」
しどろもどろになりながら、モナーが必死に弁解する。
イ从゚ ー゚ノi、「分かっておるよ。
わざわざこんな山奥に来てまで、のぞきをしようなんて酔狂な輩はおるまい」
女はそう言いながら軽く微笑む。
イ从゚ ー゚ノi、「それで、その弓は? 狩りでもしにここへ来たのか?」
モナーの背負っている弓矢を見て、女が尋ねた。
( ´∀`)「そんなもんだモナ。
それで、帰ろうと思ったら道に迷っちゃって……」
狩りの対象が動物ではなく人間であることは伏せて、モナーは答える。
イ从゚ ー゚ノi、「そうか。 じゃったらこの川に沿って下っていくといい。
半日も歩けば、人里に下りれる筈じゃ」
それを受けて、川下の方を指差しながら女が道案内をした。
- 16: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 23:00:47.79 ID:QbmBFsTn0
- ( ´∀`)「あ、ありがとうモナ!」
モナーは丁寧にお辞儀をすると、女の方に向き直り、
( ´∀`)「あの……それでお姉さんは、何でこんなところに?」
おずおずと、女に質問した。
イ从゚ ー゚ノi、「あー…… まあ、色々あってな……
えーと、そう、借金! 借金取りに追われておって、
こうして人の居ない所に隠れ住んでおるのじゃ」
( ´∀`)「へー。 それは大変モナね」
深くは追求せず、モナーはそう答えた。
( ´∀`)「どうもすみませんでしたモナ。
それじゃ、モナはそろそろ行くモナ」
イ从゚ ー゚ノi、「ああ、達者でな」
お互いに手を振り、モナーと女はその場を別れた。
- 17: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 23:01:10.72 ID:QbmBFsTn0
( ´∀`)「…………」
モナーは自分の心のざわめきに驚いていた。
モナーは、自分が硬派とまではいかずとも、
それほど惚れっぽい性格ではないつもりだった。
だが――
この、やりきれない感情は何なのだろう。
名前も素性も知らない相手に。
それも、たった一目見ただけで――
ここまで、心を揺さぶられるとは。
……時間があれば、もう一度ここに来よう。
来て、ゆっくりあの人と話をしよう。
そんな風に考えながら、モナーは山を下りていった。
- 20: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 23:01:59.98 ID:QbmBFsTn0
「遅かったな、モナー」
JOW日本支部長官室――
モナーはその中で、作戦からの帰還が遅れたことについて叱責を受けていた。
( ´∀`)「わりぃな。 歩いて帰ろうとしたら、道に迷ったモナ」
悪びれもせず、モナーは言った。
「……まあいい。 それで、首尾の方は?」
長官が椅子に座ったままの状態でモナーに尋ねる。
( ´∀`)「それは心配ねえモナ。 一人残らず皆殺しにしてやったモナ、モナの『魔弾』でな」
クククと含み笑いを漏らしながら、モナーは答えた。
- 22: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 23:03:48.38 ID:QbmBFsTn0
- ( ´∀`)「しっかし日本政府も相当の悪党モナねえ。
邪魔になったからって、曲りなりにもかつてはその日本の為に働いてた連中をあっさり見捨てるんだから」
「そんなものだ。 使い道の無くなった力など、最早脅威でしかないからな」
長官が手を組みながら苦笑した。
「それで、早速で悪いんだが、次の任務に移ってもらう」
( ´∀`)「あァ? いきなりだなモナ」
「そう言うな。 我々が独自で旧日本軍について調査してみたところ、興味深い情報があってな。
どうも、大戦末期中において旧日本軍内に極秘任務遂行部隊が組織されていたらしい」
( ´∀`)「?」
「詳しくは私にもわからん。 GHQにすら秘密のまま存在を抹消したみたいだからな。
しかし、この部隊に課せられた任務の、重要な鍵となる存在を掴むことが出来た」
そう言いながら、長官はモナーに一枚の写真を手渡した。
( ´∀`)「――――!?」
モナーはその写真を見て驚愕する。
そこに写っていたのは――
「『銀獣』、というコードネームで呼ばれていたらしい。
そいつを生け捕りにすること――
不可能ならば殺してでも連れて帰ることが、今回のお前の任務だ」
〜番外編『『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その1 終
次回、『汚れた手と、綺麗な意思』乞うご期待!〜
- 24: 留学生(岡山県) :2007/04/23(月) 23:05:23.55 ID:QbmBFsTn0
- あとこれは番外編なので前回までのあらすじと番組提供はありません。
べ、別にネタギレになったわけじゃないんだからね!
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