ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:27:34.87 ID:DNLaVsEz0
番外編『『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その2

〜 番外編なので、あらすじ・番組提供割愛 〜

1939年8月、群馬県山中――

从;ー;从「えーん、えーん」
山中の獣道、渡辺は泣いていた。

数日前から、渡辺は母方の祖母の田舎へと遊びに来ていた。

田舎での暮らしは彼女にとって決して苦ではなく、寧ろ喜んですらいたのだが――
今日は少し羽目を外し過ぎた。

山の中で地元の子供達と一緒にかくれんぼをしていて、
調子に乗って山の奥の方まで隠れに行ってしまい、
そのまま道に迷ってしまったのだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:29:17.56 ID:DNLaVsEz0
从;ー;从「お父さーん! お母さーん!」
既に日も暮れ始め、渡辺の心を恐怖と絶望が覆い尽くしていった。

更に、先日祖母が教えてくれたこの山についての噂が、
一層彼女を追い詰めていた。

少し前から、この山には恐ろしい獣が棲み付いていて、
そいつに見つかったら食われてしまう。

何でも、その獣とは全身が銀色の毛に覆われているらしい。
もし今、そんなのに出会ってしまったら――



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:30:12.32 ID:DNLaVsEz0
ミ,,゚(叉)「――――」
从;ー;从「――ヒッ!」
そして、渡辺はそれと出会ってしまった。

全身を雪の様な輝く銀色の毛に覆われた、大きな狼。
これが、噂になっていた獣なのか。

ああ、もう駄目だ。
私はここで死ぬんだ。

从;ー;从「うえっ、えっ、ええええええ……」
渡辺が腰を抜かして地面にへたりこむ。
もう一度、その狼をその目で見た時――

从;ー;从「…………え?」
渡辺は自分の目を疑った。

そこにいたのは、さっきまでの獰猛そうな狼ではなく――
イ从゚ ー゚ノi、「全く、泣き声がしたかと思って来てみれば――」
背の高い、和服姿の女性だった。

イ从゚ ー゚ノi、「どうした童、道にでも迷うたか?」
これが、銀と渡辺の最初の出会いだった。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:33:06.67 ID:DNLaVsEz0



1941年12月、東京――

『先だって行われた真珠湾攻撃により、我らが大日本帝國は戦争への参加を表明し――』
ラジオから戦争の開始を告げる声が流れてくる。

これが人類史上最大の戦争となり、日本はこの戦争によって壊滅的な打撃を受けることは、
この時はまだ、誰も知らなかった。

从'ー'从「……でね、お父さんは兵隊さんになる為に軍隊に行っちゃったんだ」
イ从゚ ー゚ノi、「そうか……」
寺の境内で、銀と渡辺が話をしていた。

あれから――
山での暮らしも飽きてきたと、渡辺にひっつく形で銀は東京へとやって来ていた。

それから、渡辺は銀の仮住まいである寺にやって来ては、
近所の子供達と銀と一緒に遊ぶのが日課になっていた。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:34:37.75 ID:DNLaVsEz0
イ从゚ ー゚ノi、「……寂しくないのか?」
心配そうに、銀が訊ねる。

从'ー'从「平気! お母さんが一緒だし、狗神様だっているもん!
     それに……戦争が終わったら、お父さんも帰ってくるから!」
そうやって屈託なく笑い、渡辺は答えた。

イ从゚ ー゚ノi、「そうか……」
まだ子供だというのに、何と健気な――

銀はただ、頷くしか出来なかった。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:35:19.67 ID:DNLaVsEz0



1942年、6月――

从'ー'从「……狗神様?」
夜、渡辺は誰かが窓の外に銀が立っているのに気付いた。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
从'ー'从「狗神様、こんな時間にどうしたの?」
渡辺が寝巻きのまま玄関先に出て、銀に訊ねた。

イ从゚ ー゚ノi、「……今日は、お主に別れを言いにきた」
静かな声で、銀が答える。
渡辺の顔からさあっと血が引いて、
从'ー'从「どうして!? 何でそんなこと急に!?」
大声で、訊ね返した。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:36:31.81 ID:DNLaVsEz0
イ从゚ ー゚ノi、「……すまぬ。 詳しくは言えぬが、このまま儂がここに居っては、危険なのじゃ。
       どうやら、怖い連中に目を付けられてしまったようなのでな」
从'ー'从「で、でも、少ししたら帰ってくるんだよね! そうだよね!?」
懇願するように、渡辺は言った。

イ从゚ ー゚ノi、「……いや、恐らく戻っては来れぬ――戻らぬ方がいいじゃろう。
       ではな、渡辺。 体に気をつけてな。
       ……お主と一緒に遊べて、楽しかったぞ」
それだけ言い残し、銀は渡辺に背を向ける。
それ以上の言葉は、未練を残してしまうと感じたからだ。

从'ー'从「やだよ! 行かないで、狗神様!
     お父さんが戦争で死んじゃって、狗神様まで居なくなったら、
     私――!」
渡辺の言葉はしかし、銀を止めることは出来なかった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:38:44.00 ID:DNLaVsEz0



1945年7月――

イ从゚ ー゚ノi、「るあああああああああああああッ!!」
日本刀の一閃と共に、血飛沫が舞い散った。

日本某所にある、神威師団特別研究施設――
正確には、特別研究施設『だった』場所。

過去形になっている訳は、最早この施設には、
一人の兵も研究員も残されておらず、
既に研究所としての機能は停止しているからだ。

廊下や部屋に転がる夥しい数の死体の山。
その死体は、全て斬殺によるものだった。

イ从゚ ー゚ノi、「はあっ、はあっ、はあ……」
息を整え、刀を鞘に納める。

これで、全部か。
研究材料とかいう馬鹿げた理由で追われ続け――
今日、ようやくその本拠地を壊滅させることが出来た。
やっと、明日から枕を高くして眠れ――



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:40:46.17 ID:DNLaVsEz0
(’e’)「いやはや、流石の手並み。 流石は銀狼」
パチ、パチ、パチと、拍手の音と共に聞き覚えのある不愉快な声が聞こえてきた。

イ从゚ ー゚ノi、「セントジョーンズ……!」
銀は忌々しげに歯軋りをした。

この男のことは、何百年も前から知っていた。
銀と同じ妖、セントジョーンズ。
紳士的な姿と言動とは裏腹、その腹の内はへどろのように腐りきっている。
戯れのように人間を殺すこともしょっちゅうだった。

故に、銀はこの男のことが好きにはなれなかった――
と言うより、憎み、嫌悪していた。

イ从゚ ー゚ノi、「矢張り、この一件の裏には貴様が絡んでいたか!」
銀が叫ぶ。

(’e’)「そうだがそれが何か?。
    ところで、私の作品と闘った感想はどうだった?
    化物の体組織の一部を人間に移植しただけの即興品だが――
    人間にしては、中々のものだったろう?」
死体の山に目をやりつつ、セントジョーンズが答えた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:42:20.47 ID:DNLaVsEz0
(’e’)「しかし――まだまだ改良の余地はあるみたいだな。
    いくら高い身体能力を持っているとはいえ、所詮は人間に毛が生えた程度。
    我々化物の域には遥かに及ばない――」
イ从゚ ー゚ノi、「黙れ!
       何の為にこんな狂気の実験をした!
       何が目的じゃ!!」
銀が日本刀を抜き、セントジョーンズに突きつけた。

(’e’)「目的? そんなものはたった一つ。
    楽しいから、それだけのこと。
    この研究が実を結べば、現在戦争で劣勢の日本も、立て返すことが出来るだろう。
    そうなれば、もっともっともっっっと面白いことになる。
    更なる混乱を、更なる混沌を生み出すことが出来る。
    だが、私や二流の妖の体組織を使った研究では、まだまだ足りない。
    しかし、最強と名高い貴女の体組織が手に入れば、この研究は飛躍的に推進するに間違いない。
    どうかね? 折角ここまで足を運んできてくれたことだし、協力しては――」
イ从゚ ー゚ノi、「続きはあの世で喋れ!!」
セントジョーンズが言い終わる前に、銀は斬りかかっていた。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:44:32.89 ID:DNLaVsEz0
イ从゚ ー゚ノi、「!!!」
しかし、刀を振り下ろした時には既にセントジョーンズの姿はその場になく、
いつの間にか研究所の外へと移動してしまっていた。

『また』か……!
セントジョーンズの持つ異能、瞬間的空間跳躍――
何度、今回のようにその能力を使われて取り逃がしたことか……!

(’e’)「危ない危ない。 もう少し反応が遅れたら殺されるところだったな。
    今日はここらで引き上げさせてもらうよ。
    ここまで研究所を徹底的に叩き潰してくれては、当分研究は続けられないだろうしね。
    まあ、近いうちにまた会おう」
そういい残すと、セントジョーンズは再び姿を消した。

イ从゚ ー゚ノi、「セントジョオオオオオオオオオオオンズ!!」
銀の叫びだけが、空しく響き渡った。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:45:50.77 ID:DNLaVsEz0



1947年、7月――

( ´∀`)「それじゃ、もう500年以上も生きてるモナか!?」
イ从゚ ー゚ノi、「そうじゃ」
モナーが『銀獣』捕獲の命を受けてから数日――
モナーは、まだ任務を遂行してはいなかった。

いつもの彼ならありえないことだった。
自分がこうしてターゲットと仲良く話をしているなんて――
見つかれば、反逆者と看做されても文句は言えない状況だ。

勿論、最初は任務を忠実に実行するつもりだったし、そのつもりでここに来た。
しかし――
再び『銀獣』の姿を目にした時、その気持ちは消え去ってしまったのである。

あの凛々しく、それでいてどこか少女の面影を残す顔を見た時、
どうしても闘う気にはなれなかった。

この自分が、一目惚れ――
冗談にしては、あまりに笑えなかった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:48:02.09 ID:DNLaVsEz0
イ从゚ ー゚ノi、「しかし、お主も奇特な奴じゃな。 毎日こんな山奥まで通うて来るとは」
( ´∀`)「べ、別に大したことじゃないモナ。
      何となく、この山の雰囲気が好きだから……」
自分でも苦しいと思う理由だった。

だけど、それでもいいか。
今、こうしてこの人と一緒に話が出来る。
それが、幸せだった。

……ここ数日『銀獣』と話をしてみて、分かったことがある。
彼女は正真正銘の化物ではあるが――
その実、その考え方や感情は極めて人間に近い、
と言うより寧ろ、人間以上に人間らしいということ。
言い方こそ乱暴だが、本当は優しい心を持っているということ。

そして――自分はそんな『銀獣』に、確かに魅かれているということだ。

イ从゚ ー゚ノi、「おっと……そろそろ日も暮れ始めたようじゃな。
       今日はこれくらいにしておくか。 暗い山道は危険じゃぞ」
( ´∀`)「分かったモナ。 それじゃ、また明日来るモナ」
別れの挨拶を交わし、モナーは山を降りるのであった。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:50:28.92 ID:DNLaVsEz0



( ´∀`)「…………」
山の麓に借りている宿の部屋で、モナーは思案に耽っていた。

このままではいけない。
JOWの方には未だ目標の発見に至ってはいないということで誤魔化してはいるが、
これ以上時間が過ぎるようであれば、流石に怪しまれるだろう。

そうなれば任務放棄ということで厳しい懲罰――
最悪、命を奪われるかもしれない。

全てを打ち明けて、『銀獣』と一緒に逃げるか。
いや駄目だ。
そんなことが通用する組織ではないということは、自分が一番よく知っている。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/16(土) 22:51:55.78 ID:DNLaVsEz0
だが――
それでは、他にどうすればいいというのか……

もし自分が任務を遂行しなくとも、他の誰かが代わりにやるだろう。
その際、もしかしたら『銀獣』が死ぬことになるかもしれない。
死ぬことはなかったとしても、その時はJOWに生け捕りとなり、
一生自分の手には届かなくなってしまう。

嫌だ。
そんなのは、絶対に嫌だ。

ならば、
そうなるくらいなら、
いっそ自分の手で『銀獣』を――

( ´∀`)「…………」
モナーの瞳に、狂気の光が宿った。


〜番外編『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その2 終
 次回、番外編『『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その3 乞うご期待!〜



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