ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 19:59:28.58 ID:ElSrlCtL0
番外編『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その3


宵闇の中、銀は大木の幹にもたれかかってまどろんでいた。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
最近よくここに来るようになった、あの少年のことを思い出す。

あの少年――
モナーと言ったか。

あの少年が銀に寄せる好意に気付かぬほど、
銀は鈍感ではなかった。

が、銀は少年の気持ちに気付きつつ、
あえて素知らぬふりをしていた。

今までに、銀が人間と関わる中で好意を受けたことは何度もある。
しかし、そのいずれもが最後には悲劇に終わっていた。

銀の魔性としての正体を知り、『化物』と罵りながら二度と現れなくなるか――
人間の方が先に老いて死ぬか、
どちらかだった。

銀と共に時を歩んでいるのは、
皮肉なことに彼女の最も忌み嫌うセントジョーンズだけだったのだ。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:01:16.00 ID:ElSrlCtL0
もう沢山だ。
何度そう思ったことだろう。

しかし、それでも銀は、人と関わることを止めることが出来なかった。
人間は見ていて飽きない。
それもある。

しかし――
一番の理由は、寂しかったからだ。

同属もほとんど死に絶え、
仲間も滅んでいきつつある。

そんな黄昏の時の中を、ただ独り歩んでいかねばならない。
それが、怖かった。
一人ぼっちが、嫌だったのだ。

誰に頼らずとも生きていけるだけの、孤高の超常能力を持っていながら――
誰かと共に生きることを望まずにはいられない、弱い心。
その矛盾が、銀という化生の本質だった。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:02:30.63 ID:ElSrlCtL0
しかし――
心の奥底で、あの少年を避けているのにはもう一つ理由があった。

時折見せる、あの少年のあの目――
そこに宿る狂気のようなものに、銀は幾ばくかの不安を抱いていた。

あの、化物である自分ですら恐怖を感じてしまうあの目は――

ヒュンッ

どこかで、風を切る様な音がした。
今のは――?

イ从゚ ー゚ノi、「!!!!!!!!!」
気付いた時には、銀の眼前にまで矢が迫ってきていた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:03:31.95 ID:ElSrlCtL0



( ´∀`)「…………」
銀から離れることおよそ500メートル――
そこから、モナーは矢を放った。

夜の闇に加え、相手は木の生い茂る森の中。
矢を放ったところで、普通はどこかで木の幹に矢が当たってしまい、
目標に命中させることなど出来よう筈も無い。
どころか、常人にはこんな闇の中、そんな先の相手が見えよう筈も無い。

しかし――
彼はまさに針の穴をも通す神業的な正確さで、
銀の元へと矢を届かせたのだ。

手応えは、あった。
今ので殺せているようなことは無いだろうが――
それでも、多少の手傷は負わせた筈だ。
そう、確信していた。
その時――



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:05:11.27 ID:ElSrlCtL0
( ´∀`)「――――!」
彼は、気付いた。
恐るべき事実に。

いや、見えたと言うべきか。
『銀獣』が、彼の放った矢を口で受け止めているのを。

この夜の森の闇の中、
500メートルも離れた場所を見ることなど、人間には不可能。
しかしそれでも、彼の目ははっきりと『銀獣』の姿を捉えていたのだ。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
『銀獣』がこちらを見る。
まずい、気付かれた。

( ´∀`)「くっ……!」
モナーはすかさず移動を開始した。

この森の中で闘うのはまずい。
弓矢で闘う彼の戦闘スタイルでは、この場所は圧倒的に不利だ。

さっき木々の間を縫って矢を射ることが出来たのは、
あくまで相手が動いていない状態だったからに過ぎない。
相手がこちらに気付き、動いてしまっては、
いかにモナーの『魔弾』といえど、捉えることは至難の業だ。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:06:36.42 ID:ElSrlCtL0
イ从゚ ー゚ノi、「シャアアアア!!」
( ´∀`)「う、うおおおお!!」
あれだけあった距離が、みるみるうちに縮められていく。

逃げるモナー。
追う銀。

その鬼ごっこはしかし、
最初から勝負になるものではなかった。

いかにモナーが卓越した身体能力を持っていようと、所詮は人間の範疇。
本物の人外である銀の敏捷性に敵う筈などないのだ。

( ´∀`)「おおおおあッ!」
――が、この鬼ごっこのモナーにとっての勝利条件は、
銀から逃げ切ることではなかった。

森をつっきり、
渓谷へと躍り出る。

逃げ切れないまでも、『この場所』――
この開けた渓谷にさえ辿り着けばそれでよかったのだ。
この、遮蔽物の無い場所ならば、『魔弾』の真価、余すことなく発揮出来る。

イ从゚ ー゚ノi、「――――!」
( ´∀`)「――――!」
銀がモナーに追いつく。
月明かりの中、一人と一匹は、
かつて始めて二人が出会った場所で向き合った。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:09:30.59 ID:ElSrlCtL0
イ从゚ ー゚ノi、「……お主だったか」
銀が日本刀の柄に手をかけ、ゆっくりと鞘から抜いていった。

( ´∀`)「その様子だと、あんまり驚いてねえみてえだな」
モナーが背中の矢筒に手を伸ばし、手に矢を握る。

イ从゚ ー゚ノi、「……何となくそんな気はしておったからな。
       それより、昨日までとは大分口調が変わっておるようじゃが?」
( ´∀`)「もうアンタの前で猫被る必要はねえからな。
      正直、人畜無害の好青年を装うのも疲れんだよ」
鬱陶しそうに、モナーが吐き捨てる。

イ从゚ ー゚ノi、「ふん、しかし、何故に儂の命を狙う?
       儂を殺したところで、得をする人間がそう居るとは思えぬが」
( ´∀`)「とぼけるのはよせよ……
      アンタだって、もう気付いてんだろ?
      その異能――解明し、自分の物にしたいってえ奴はゴマンといる。
      そう、世界のどこにだってな」
モナーが弓を掲げ、真っ直ぐに銀を狙った。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:10:26.40 ID:ElSrlCtL0
( ´∀`)「……が、俺にとっちゃあ、そんな下らねえ事は関係無ェ。
      俺の所属してる組織――JOWって言うんだが、まあこんなことはどうでもいいか。
      兎に角俺は上司からアンタを連れて帰るように命令されてるんだ、生死問わずにな。
      だが、そんなことはどうでもいい。
      今日、俺がアンタを殺すのは、俺個人の目的の為だ」
イ从゚ ー゚ノi、「お主の目的、だと――?」
( ´∀`)「あァ、そうさ……
      ここ数日、実際に間近で話してみて分かったぜ。
      アンタ、本当に良い女だ。
      あの腐れ上司どもにくれてやるのは勿体ねェ。
      だからよ……」
モナーが矢を弓に番え、目一杯引き絞った。

( ´∀`)「俺の『魔弾』でぶち殺(バラ)して、俺の中で愛で続けてやらあ!!!」
モナーが矢を放ったのが、戦闘開始の合図だった。
銀とモナーとの間で、極限まで張り詰められていた気迫が爆発する。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:12:10.45 ID:ElSrlCtL0
( ´∀`)「るおおおおおおおあァッ!!!」
矢継ぎ早に、モナーが銀に向かって『魔弾』を放つ。

イ从゚ ー゚ノi、「――――!」
銀はそれに構わず突進し、モナーとの距離を詰めようとする。
人外の自分にとっては、飛び道具など大した脅威にはならない。
そう判断したからだ。
しかし――

イ从゚ ー゚ノi、「!!!!!!」
その考えは間違いだったことを、銀はその体で思い知ることとなった。
刀で打ち落とそうとした矢が、まるで生き物のように刀をすり抜けて銀の体に突き刺さる。

イ从゚ ー゚ノi、「ちッ!!」
避けようとすれば、既に避けた場所へと矢が放たれている。

次々と突き刺さっていく矢。
それはあたかも、銀自身が自ら矢に当たりに行っているようですらあった。

イ从゚ ー゚ノi、「くうおおおおおおおお!!」
それでもなお――
銀はモナーに向かって突き進んだ。

何本矢を喰らったところで、少々のことでは自分は死なない。
対して、相手はただの人間。
自分の刀の届く範囲にさえ捉えることが出来れば――



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:13:58.16 ID:ElSrlCtL0
イ从゚ ー゚ノi、「シィィィィィッ!!」
間合いに入ったところで、銀が一足飛びにモナーへと斬りかかった。
横薙ぎの一閃。
その一撃が、モナーの右脇腹へと吸い込まれていく。

( ´∀`)「くッ!」
モナーが金属製の弓で、その一撃を受けた。
同時に、その衝撃を利用して後ろへと跳躍する。

そして跳躍した次の瞬間には、
既にモナーは弓から矢を放っていた。

イ从゚ ー゚ノi、「!!!!!!!!!!!」
矢が、銀の体に深々と突き刺さっていく。

モナーとの戦闘を開始してからものの数分――
それだけの間に、銀の体のあらゆる場所に矢が撃ち込まれていた。

全く――
何という卓越した業の持ち主だ。
これ程の手練れが、まだ人間の中にいたとは――



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:15:22.01 ID:ElSrlCtL0
イ从゚ ー゚ノi、「……『魔弾』、と言ったな」
全身を血で赤色に染めながら、銀が言った。

イ从゚ ー゚ノi、「必中必殺――
       成る程。 故の、魔弾ということか」
( ´∀`)「その通り。
      この『魔弾』から逃げられる獲物などいやしねえ……
      『魔弾』の妙味、存分に味わってくれたかな?」
モナーが新たに矢筒から矢を取り出し、弓に番えた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:17:20.96 ID:ElSrlCtL0
イ从゚ ー゚ノi、「くっ、くくく…… くくくくくくくくく……!」
と――
銀は突然笑い出した。
心の底から、楽しそうに。

( ´∀`)「…………!?」
流石のモナーにとってもこの展開は想定外だったようで、
意表を突かれた様に立ち尽くす。

イ从゚ ー゚ノi、「くははっ、ははっ、はははははははは!!
       ははははははははははははははははは!!!」
そんなモナーのことなどお構い無しに、銀は笑い続けた。

楽しい――
何て、楽しいのだ。

自分と肩を並べ、
自分の全力をぶつけることが出来る相手が居るという愉悦。
まだ、そんな悦びを与えてくれる人間が居たというのか。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:18:41.17 ID:ElSrlCtL0
この数日、モナーとは何気ない会話をしたりしたが――
この密な瞬間に比べ、何と薄っぺらい、無為な時間だったのか。

闘いの中、自分の持つ全てが一瞬の為に凝縮していくこの感覚。
刹那が永遠となる時間。

この己の全てを出し尽くすこの瞬間、時間の流れは止まり、
その中で存分に、命と命で相手と会話が出来る。

人間と化物の寿命の差など、今この場においては意味が無くなる。
この瞬間だけは、同じ時の流れの中を歩むことが出来る――



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:19:52.30 ID:ElSrlCtL0
イ从゚ ー゚ノi、「嬉しいぞ、人間! よくぞ、ここまで練りあげた!!
       儂はお前を尊敬する!!
       いや――愛すら感じてさえいると言ってもよい!!!」
銀が日本刀を右手の甲に突き刺した。
同時に――その体が人間のそれから、みるみるうちに異形のものへと変わっていく。

( ´∀`)「なッ――あッ――!?」
モナーは驚愕に目を見開いた。

さっきまで、確かに人間の女の姿をしていた筈の相手が――
瞬く間に別の何かへと変わっていっている。

ミ,,゚(叉)「アオオーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」
大気を奮わせるような咆哮。

筋肉が盛り上がり、その圧力で体に刺さっていた矢が抜け落ち、
全身が銀色の体毛で覆われていく。
銀色の毛の人狼。
その姿は、正に――



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:20:53.98 ID:ElSrlCtL0
( ´∀`)「『銀獣』……!」
モナーの背筋を氷の様な冷や汗が伝った。

このプレッシャー、今までとは比べ物にならない。
今までは、本気ではなかったということか……!

これでは殺すどころではない。
闘って、果たして生きて帰ることが出来るかどうか――

モナーの体をいまだかつて味わったことのない恐怖が襲う。
しかし――

( ´∀`)「……面白ェ」
モナーの顔から、まだ笑みは消えていなかった。

( ´∀`)「その心臓ブチ抜いて、百舌鳥の早贄にしてやらァッッ!!」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/20(水) 20:22:09.27 ID:ElSrlCtL0


          *           *           *


(’e’)「…………」
遠くから、セントジョーンズが銀とモナーとの死闘を見物していた。

(’e’)「クククッ……
    久し振りに会おうと思ったら、何やら面白そうなことになっているな」
その顔に、邪悪な笑みが浮かんだ。


〜番外編『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 その3 終
 次回、番外編『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 最終話 乞うご期待!〜



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