ξ゚听)ξツンが感情を喰うようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:42:21.76 ID:vhqCAhHqO
  
18 歩み寄る勇気を



(´<_` *)「兄者、こちら渡辺さん」

从'ー'从「どうも〜」

(♯´_ゝ`)「……初めまして。
      弟者の兄を18年やってます、兄者です」


あれれ〜?お兄さん怒ってるよ〜?

うむむ、私が笑わせてあげなきゃ!



――――



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:44:07.59 ID:vhqCAhHqO
  
ミ,, Д 彡「なんでいつも……こうなんだろうな」

( *゚ー゚)「……私は、私はフサギコさんの気持ち判りますよ?
     ギコ君だって……判ってますよ。
     今は少し、荒れてるだけです」


暗い車内に声が響く。音源は2つ。

雨の雫でモノログかかった窓から、一軒の家を見つめる少女。

もう1つは男の声。
ハンドルに両腕を置き、顔は下を向いている。
左頬は赤く、髪からは水が滴り落ちた。


ミ,, Д 彡「なんでいつも……
       あんな言葉しか吐けねぇんだよ……俺は」


男は過去の、自分の醜態をただ呪った。

弟を救う。

それを強く祈っていても、彼が言ったのは救いの言葉ではなかった。
ただの悪口、ただの怒り、ただの……見下した言葉。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:46:04.79 ID:vhqCAhHqO
  
それを、気付かなかった。
ギコから言われるまで、気付かなかった。

自然と出た右拳は、救うべき弟を殴り付けた。
自分を少し馬鹿にされただけで、
自分が今まで弟をどう見ていたか、気付いただけで。

見下していた人間からの、自分の醜い所を晒された、怒り。
その怒りに身を任せ、殴った。

そんな、あまりに醜い自分の姿を、ただ呪った。


ミ,,# Д 彡「くそっ!! くそっ!! くそぉッ!!」


右手をハンドルに叩きつける。
1度叩けば、もう1度振り上げる。
鈍い音がし、次第に赤くなる右手。

雨音より小さな、嗚咽が聞こえ始める。


ミ,, Д 彡「しぃちゃん……どうすりゃいい……
      俺に、なにができる……俺はアイツを救えるのか……」

( *゚ー゚)「……似てますね、ギコ君と」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:48:15.21 ID:vhqCAhHqO
  
え?と、フサギコが呟く。
同時に顔を上げ、赤い目でしぃを見た。
彼女は微笑みながら、優しい目でフサギコを見ている。


( *゚ー゚)「彼も、私に聞いたんですよ。
     兄貴と喧嘩しちまった、って。
     私と喧嘩した時なんか、
     どうすれば仲良くなれるか、私に相談して来たんですよ?」


しぃは軽く笑いながら、そう言った。
彼女の目は、フサギコに最愛の人の面影を見た。
あの時の言葉を、ギコに伝えた様に、今はフサギコに―――



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:50:15.26 ID:vhqCAhHqO
  
( *゚ー゚)「私の気持ちは判らなくていい。
     私は、あなたの気持ちが知りたいの。
     そうすれば……また……」


( *;ー;)「また、好きになれるから、って。
      そう言いました。
      そしたらギコ君、一緒に居たいんだ、って……
      抱き締めてくれました」


ただのノロケ話かもしれない。

普段は彼女の事は、まともには話さなかった。
気恥ずかしかったんだろう、自分の兄に言う事が。
だけど今、フサギコは、ギコの気持ちが少し判った。


ミ,,゚Д゚彡「あと5年、しぃちゃんが早く生まれてればなぁ……」

( *うー゚)「ホストは無理です。
      ギコ君を誘わないで下さいよ?」


涙を拭いながらしぃが毒づく。
フサギコも一つ伸びをして、腹の底から息を吐く。
彼の目は、完全に蘇っていた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:52:07.20 ID:vhqCAhHqO
  
ミ,,゚Д゚彡「悪かったな、2人だけの秘密をよぉ」

( *゚ー゚)「いいんです。
     私も、歩み寄る勇気を貰えたから」

ミ,,゚Д゚彡「一旦、病院に戻るか?
      やっぱ全員に言わねぇとな」

( *゚ー゚)「そうですね、ツンちゃんも気になるし。
     ドクオ君の意識は戻ってるかな?」


キーを回すと、車も息を吹き返す。
黒塗りの車は、一路病院へと向かっていった。



――――



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:54:03.13 ID:vhqCAhHqO
  
ξ  )ξ「ねぇ、クー……
      私、ブーンを誤解してる?」


午前中クーが着ていたパジャマ。
ツンはそれを着ながら、ベッドにうつぶせ枕に顔を埋めている。
声が少し曇るが、枕元に腰を掛けているクーには十分伝わった。


川 ゚ -゚)「誤解? どういう意味だ?」


不意の問いに、振り返りながら聞き返すクー。
ツンは一つ間を置くと、無感情に話しだす。


ξ  )ξ「ブーンは私を喜ばせてね、
      アイツはそれを生き甲斐にしてるの。
      馬鹿だから、私が笑ってればアイツは幸せなの」

川 ゚ -゚)「……ふむ、間違ってはないんじゃないかな。
     笑わせたいというよりは、哀しんで欲しくないんだろうが」

ξ  )ξ「……私は、アイツに笑わせられてたの。
      それでアイツは喜んでるの。
      それで私は幸せだったの。
      私を見て、アイツが笑って……」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/01(火) 23:56:22.43 ID:vhqCAhHqO
  
ξ  )ξ「私はブーンが判らないよ……。
      私を好き、とかじゃなくて……
      アイツの為に私が必要、って思っちゃうの」

川 ゚ -゚)「それは誤解だ」


クーがきっぱりと言い返した。
ツンはピクリと反応したが、相変わらず顔は枕に埋まっている。


川 ゚ -゚)「ブーンは君が必要だが、君の考えとは違う。
     彼が自分を利用しているから必要。
     そうツンは考えているんだろ?」

ξ  )ξ「あんたはエスパーか……」


気味が悪いほどに、ツンの心を代弁するクー。
昔からこうして、相談を受けていたんだろう。

尚更クーは、ヒートへの自分の態度を戒めた。
感情に踊らされ、彼女を救わなかった自分を。


川 ゚ -゚)「……今のブーンは、そう考えてるかもしれない。
     楽な所に逃げ始める内に、変な自信がついたんだろう。
     だが前は違う。
     君が笑ってくれる事が、嬉しいと言っていた」



16: ◆OTZxCCpfj. [折角直ったのでコテ] :2007/05/01(火) 23:58:34.01 ID:vhqCAhHqO
  
ξ  )ξ「……ほんとに?」

川 ゚ -゚)「あぁ、私が嘘を言った事があるか?」

ξ  )ξ「……わりと」

川;゚ -゚)「……む? あったか?」


ξ ー )ξ「……ありがと、クー」


枕を頭にギュッと寄せ、小さく呟いた。
クーも微笑し、ツンの頭を優しく撫でる。


川 ゚ー゚)「今は休め。
     明日、一緒に行こう」

ξ ー )ξ「……うん、おやすみ」

川 ゚ー゚)「おやすみ……」



――――



17: ◆OTZxCCpfj. :2007/05/02(水) 00:00:21.91 ID:1TVGXx9EO
  



( 'A`)「……怒んなよ」

从#゚∀从「……怒ってねぇよ」


VIP総合病院の一室


( 'A`)「怒ってるよ」

从#゚∀从「怒ってねぇよ……!」


移された病室で、目覚めたドクオ。


( 'A`)「怒っt

从♯゚∀从「怒ってねぇってんだろが!!」


室内には、椅子に座って怒るハイン。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:02:08.72 ID:1TVGXx9EO
  
( 'A`)「……怒ってんじゃん」

从♯゚∀从「……お前ムカツクな」


包帯が増えたドクオ。
出血は見た目程大した事は、なかったようだ。


( 'A`)「……すまん」

从 ゚∀从「はぁ……」


治療したと思ったら、また治療。
今回はドクオが攻勢だった為、全治1ヵ月から変わりは無かった。


( 'A`)「高岡……」

从 ゚∀从「あ?」


横になりながら天井を見つめ、ハインに呟く。
ハインの方は、ドクオを薄らと見つめている。


( 'A`)「俺……アイツは悪い奴じゃない気がする」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:04:09.26 ID:1TVGXx9EO
  
从 ゚∀从「……で?」

( 'A`)「だから……俺がケリつける。
     アイツは、なんか可哀相な気がする」


憎しみのジョルジュから、ドクオは何かしらの意志を感じた。
その意志は、自分自身で何とかしてやりたい。

憎しみの中で、ドクオはそう考えt


从 ゚∀从「やだ、俺が殴る」


あっさり否定


( 'A`)「駄目」


それを否定


从 ゚∀从「……殴る」


貫く馬鹿



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:06:14.82 ID:1TVGXx9EO
  
( 'A`)「駄目」


更に貫く馬鹿


从 ゚∀从「殴る!」


更に更に貫く馬鹿


( 'A`)「駄目だ」


頑なな馬鹿


从#゚∀从「……!」


ついに言葉は消え、ハインは震えはじめた。


( 'A`)「駄目だからな」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:08:08.71 ID:1TVGXx9EO
  
ドクオの決意は固かった。
ただの同情、興味、償いかもしれない。
だが、固かった。


从♯゚∀从「お前ボロボロじゃねぇか!
      そんな身体で喧嘩できるかボケ!
      いいから俺に任せろよ!」

( 'A`)「喧嘩は根性だ。
     ……多分だけど」


ハインが勢い良く立ち上がった時、病室のドアが開いた。


(´・ω・`)「おや、起きたのかい。
      調子はどうかな?」


入ってきたのはショボン。
両手にコーラの赤い缶を持っている。


( 'A`)「あ〜、大丈夫っすわ。
     ショボンさんが俺助けてくれたんすよね?
      ありがとうございました」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:10:05.44 ID:1TVGXx9EO
  
最初のドクオ襲撃以来、話す機会が無かった2人。
当然、餌の話も聞いてないドクオだが、
一応ハインから大体は聞いたドクオ。


(´・ω・`)「いや、気にしないでくれ。
      餌の事は聞いたかい?」

( 'A`)「あ〜……高岡は全然理解してなかったようで」

从#゚∀从「はぁ!? ちゃんと教えたろが!!」

(♯'A`)「擬音使うのは説明じゃねぇんだよ!」

从#゚∀从「餌はバーンで感情がドーンするとズガーンなんだよ!」

(♯'A`)「分かるか馬鹿!!」


どうにも役不足の様だった。


从♯゚∀从「あぁ!?」

( *゚ー゚)「はいはい、ここは病院よ?」

从;゚∀从「ムガッ!?」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:12:08.96 ID:1TVGXx9EO
  
突然しぃが後方から現れ、ハインの口を両手で塞いだ。
ゆっくりと自動で閉まりかけた扉から、びしょ濡れの黒服も入ってくる。


(´・ω・`)「おや、おかえり。
      ずいぶん濡れてるね」

ミ,,゚Д゚彡「雨がひどくて、な……。
      ん、起きてたか。始めまして」

( 'A`)「……誰?」


ハインの説明は、全然足りていなかった。



――――



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:14:28.64 ID:1TVGXx9EO
  



川 ゚ -゚)「だいぶ止んできたな……。
     これならスクーターでよかったな」


雨の道路をぼんやりと一人歩くクー。
右手には、ツンから借りたビニール傘。

スクーターは彼女の家へ置いてきた。
ツンを追い病院を飛び出た為、カッパは病院に忘れていた。

お陰でびしょびしょになっが、幸いツンの家は病院から近いため、
ツンの服を借りて、クーは徒歩で病院に向かっていた。

その歩みはズッシリと重たかった。
雨の所為だけでは無い。
彼女はつい先ほど、ブーンの家へ寄っていた――――



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:18:18.20 ID:1TVGXx9EO
  



川 ゚ -゚)「ブーン、開けてくれ。
     少し話しをしよう」


傘を差しながら、インターホンに話し掛ける。
小さな声だが確かに、わかったお、と聞こえた。


( ^ω^)「……クー、まぁ上がるお」

川 ゚ -゚)「いや、ここで構わない。
     ツンの事なんだが、大丈夫か?」


中からの足音の後、ドアがガチャと音をたて開いた。
身体2つ分くらい開き、裸足で私服のブーンが見えた。


( ^ω^)「……あまり話したくはないお」

川 ゚ -゚)「なら、このままでいいのか?
     変な意地は張るな、お互いの為にもな」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:20:13.13 ID:1TVGXx9EO
  
足が冷たいが、クーの雰囲気は更に冷たかった。
多分軽蔑されたな、とブーンは感じた。
ネガティブな考えが、さっきから渦巻き続けていた。


( ^ω^)「よくは、ないお……」

川 ゚ -゚)「なら私の話を聞いてくれ。
     ツンはな、君に不信感を抱いている。
     今の彼女は、君と居ても笑う事は無いだろう」


一瞬、目の前が白くなり足元がくらついた。

嫌な言葉だった。
彼のネガティブな考えが、あっさりと肯定されたのだ。


( ´ω`)「僕は……もうツンと居られないのかお
      笑わせられないのかお」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:22:10.30 ID:1TVGXx9EO
  
川 ゚ -゚)「……ツンを笑わせれるのは、ブーン、君だけだ。
     私は喜びが見え、喰える。
     今日ゲーセンに行ったよな? あの時のツンは、喜んでいたよ」

( ´ω`)「……」

川 ゚ -゚)「私も、ツンの笑顔は好きだ。大好きだ。
     だから、ブーン。
     君には彼女を笑わせて貰いたいんだ」


川 ゚ -゚)「君が彼女を笑顔にして、幸せになる。
     彼女が君の笑顔を見て、幸せになる。
     私は君たちを見て……幸せになる」

( ´ω`)「……クー。
      僕は、ツンを笑顔に出来ないお。
      どうすればいいか、判らないんだお」


いつのまにか、俯いてしまったブーン。
クーの口調は、自然と荒げ始めていた。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:24:09.74 ID:1TVGXx9EO
  
川 ゚ -゚)「それでいいのか……!?
     判らないから、諦めるのか!?
     判らないから、無理矢理餌の力で笑わせるのか!?
     ツンが嫌がる事を続けるのか!? 逃げるな!!」

( ´ω`)「……クーには僕の気持ちは判らないんだお。
      所詮は『3人目』なんだお……クーは」

川#゚ -゚)「……!!」


クーは、右手を振り上げた。
だがその手は、すぐに平手からグーに代わる。
プルプルと震えながら、全身を奮わせながら、彼女は口を開いた。


川#゚ -゚)「……失望したよ、君には!
     何が笑顔にしたい、だ! 何が幸せになる、だ!
     自分だけの幸せなんか、意味が無いだろう!?」

( ´ω`)「……帰ってくれお」

川#゚ -゚)「ブーン!」

( ´ω`)「帰ってくれお……!」


川#゚ -゚)「……」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:26:32.86 ID:1TVGXx9EO
  
踵を返し傘を開く。
3歩程進むと、クーは首を横に向け、口を開いた。


川#゚ -゚)「約束したよな……!! 夏に!! 私と!!
     ツンを幸せにする、って!! あれは嘘か!?」


「……ごめん。今は……無理だお」


静かに、玄関の扉が閉まった。
クーはそれを横目で見届けると、何事も無かった様に歩きだした。




ブーンの家から10分くらい後、雨は完全にやんだ。
日はすっかりと暮れ、辺りは真っ暗になった。
住宅街のため街頭はポツリポツリとあるが、それでも暗い。

その暗い道の左側、民家の位置から灯りが漏れていた。
どうやら、玄関の扉が開いているのだろう。
淡い光と、おじゃましましたの声が聞こえた。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:30:11.83 ID:1TVGXx9EO
  
从'ー'从「じゃーねー、弟者くん」

(´<_` )「本当に一人で大丈夫か?」

从'ー'从「平気だよ〜、すぐそこだし!」

(´<_` )「わかった。じゃあ、いつでも来てくれ」

从'ー'从「うん、ばいば〜い」


2階建ての民家から出てきた少女は、片手を振りながら道路に出てきた。
クーの前方で、暗く少し遠いため、表情は伺えなかった。

だが顔は見えなくても、見える物があった。


川 ゚ -゚)「……凄い喜びだな」


感情。

彼氏らしき男が家に入り、光が消える。
少女は感情を撒きながら、クーの方に歩いてきた。

喜びなら、誰でも感じるだろう。
たとえ些細でも、喰う側にはそれを隠せない。

だが少女は、自分から大量に撒いている印象を受けた。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:32:07.61 ID:1TVGXx9EO
  
川 ゚ -゚)「君、ちょっといいかな?」

从'ー'从「ふぇ?」


あとは、直感に従うだけ。
クーは彼女とすれ違う寸前で、呼び止めた。


川 ゚ -゚)「君、名前は?」

从'ー'从「ふぇ? スカウトさんですか?」

川 ゚ -゚)「まぁ、そんな所だ。私はクー、君は?」


クーの感情は、昼間ゲーセンに行った時に減った。
帰り際に他人のを少し喰ったが、減ったままだ。

それが彼女に近づいた瞬間、一気に膨れた。

1度目の病院時の、ハインの様に。
別に喰った訳では無いのに、勝手に箱、心が膨れた。

間違いなく、喜びの餌だった。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:34:13.30 ID:1TVGXx9EO
  
从'ー'从「渡辺だよ〜」

川;゚ -゚)(不用心すぎる……)


暗い夜道で名を聞かれても、フラグktkr!とか言って素直に名乗ってはいけませんよ。


川 ゚ -゚)「君は……餌だな?」

从'ー'从「クーちゃん……なんで笑わないの〜?」

川 ゚ -゚)「……君は」


 餌の力を、知らない?


疑問符が次の言葉の候補として、脳から出された。
だがとりあえず、自分が知っている事を彼女に話す。
クーの脳は、そう判断した。


川 ゚ -゚)「君は……喜びを撒いているな?」

从'ー'从「……なに言ってるの〜?」

川;゚ -゚)「うむ……何と言えばいいか……。
      そうだな、周りの人間は笑顔にならないか?」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:36:06.03 ID:1TVGXx9EO
  
クーなりの、簡潔にした質問だった。
ブーンという前例が居たから、出来た質問だろう。

喜びや楽しいとは、案外曖昧だからだ。


从'ー'从「うん! 私の近くに来ると、みんな笑顔になるよ〜!」

川 ゚ -゚)「……そうか」


あまりに元気に答えた渡辺。
クーは、何と言えばいいのか、全く判らなくなった。

 君は間違っている?

 君は不愉快な存在だ?

 それは必要な力か?

 それで君は幸せか?

 それで君は……


浮かんでは消えていく質問達。
流石に不信に思い始めた渡辺は、怪訝な顔で口を開いた。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:38:20.38 ID:1TVGXx9EO
  
从'−'从「クーちゃんは……何の用なの?」

川 ゚ -゚)「私は……君を……」


救いたい? そんなもの、ただの偽善だ。
救うとは、今の現状を変えてやる事だけじゃない。
その人の心を、守るための『何か』も必要なのだ。

今のクーに、その『何か』を見つける事は不可能だった。
彼女を知らなさすぎるから。


从;'ー'从「あのぉ〜?」

川 ゚ -゚)「……あ、すまない。
     コレ、私のメルアドだ」


財布からレシートと細いボールペンを取り出すと、
器用にサラサラと文字列を書き込み、渡辺に渡した。


从'ー'从「はぁ……」

川 ゚ -゚)「それじゃあ、な」

从'ー'从「うん、ばいばい」



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/02(水) 00:41:59.38 ID:1TVGXx9EO
  
何もできない自分が、悔しかった。
ハインに救われた。ただそれだけ。
それが自分にとって、素晴らしい事だった。

ヒートを傷つけ、ツンには気休めの言葉しか吐けない。
ブーンには、力になる事すら拒まれた。

ただの真似事、駄目な自分への復讐、新しい道、喜び。

結局は何もできない自分が、クーは悔しかった


水溜まりを踏みしめ、クーは病院へゆっくりと歩を進める。

彼女は、静かに泣いていた。



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