('A`)ドクオは透明人間のようです

  
104: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:15:36.92 ID:S6mrRFftO
  
   *



('A`)(モララー……! な、なんで)

 隣の教室に身を潜めて、神経を研ぎ澄ませた。
 聞こえてきたのは、モララーとショボンの声。

('A`)「……聞こえねぇ……くっそ」

 教室出口に位置する俺。
 内容が何も聞こえなくて、焦りが出てきやがる。

 どうにか近づきたいのだが――足が動かない。
 まるで、俺に話を聞かせたくないように感じる。

(;'A`)「……ひゅー……ひゅ……」

 バレたくない、しかし内容の欠片でもいいから聞きたい。
 指一本を動かす事さえ億劫な俺を置いて、二人は話を続けていた。



( ・∀・)「……僕はね、はっきりして欲しいだけなんだ。
     僕らとドクオ、どっちを取るのかを、ってね」

(´・ω・`)「どっちにつく……か。幼稚な考えだね。
      どちらでもいいじゃないか。君には関係無い」



  
106: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:17:36.44 ID:S6mrRFftO
  
( ・∀・)「ん? ……だからさ、こう聞いてるんだよ。
      ドクオを僕がぶん殴るか、君がぶん殴るか。
      わかるかい? 僕だって、長々と話したい訳じゃないんだよ?」

(´・ω・`)「……」

 一瞬、教室が静寂に包まれた。
 やはりよく聞こえなくて、むず痒い。

( ・∀・)「僕はどっちでも構わないよ。
      君の真意がどうだろうが、ドクオさえ弾く事が出来ればいいし」

(´・ω・`)「……ふぅ。つまり、ただドクオが気に入らないと。
      そういう事だよね? ……馬鹿馬鹿しい」

( ・∀・)「正確には、気に入らないだけじゃないけどね。で、どうするの?」



 モララーの声の後、すぐにショボンの笑い声が聞こえた。
 俺の座り込んでいる廊下へと、高らかに響く。
 不気味な感じで、いつものショボンじゃないみたいだった。

(´・ω・`)「……ははは。お手上げだよ、君には負けた。
      いいよ、ドクオを切るよ。……これでいいね」



  
108: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:21:00.43 ID:S6mrRFftO
  
( ・∀・)「いい判断だね。良かったよ、ホントに。
      やっぱり君は、"こっち側"の人間だ」

(´・ω・`)「こっち側……? どういう意味だい」

( ・∀・)「簡単な事だよ。君には色があるって意味。
      "色"は、僕にもある。そして、"あいつ"にもある。
      わかるかい? 僕が何を言いたいか」

(´・ω・`)「……わかりたくもないね」

 一転して、モララーの笑い声。
 普通の話し声は、ブツブツ呟いてるようにしか聞こえない。
 けど、笑い声は気持ち悪い程の大声だった。

( ・∀・)「わからないか。つまり……ドクオには"色"がないんだよ。
      透明なんだよ。ムシャクシャするぐらいにね」

(´・ω・`)「透明? 色? ……なにかの宗教かい?
      全くもって、僕には理解出来ないよ」

( ・∀・)「いつかわかるよ。人間と、人間未満の違い。
      ……ま、感覚だよ。影が薄いとか、そういう問題でもないけど。
      理解は求めちゃいない。とにかくそういう事だよ」

(´・ω・`)「僕はあくまでも中立だ。
      進んで暴力を振るうつもりはないし、君の下につく事もしないよ」



  
109: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:22:34.25 ID:S6mrRFftO
  
('A`)(やっぱし聞こえない……近づいてみる、か……)

 思いきって、扉へと目を向けて。
 閉めきられたドアに耳をつけて、集中する。
 なんとなく――いや、はっきりと声が聞こえた。

( ・∀・)「そんな事、どうだっていいんだ。
      ドクオへの接し方さえ変えてくれればね」

 接し方? 俺へのショボンの態度は、本当に優しい。
 それを変える? ……全く意味がわからない。

 とにかく、面白可笑しい話じゃなさそうだ。

(´・ω・`)「……じゃあ、もう用事は済んだかい?」

( ・∀・)「うん。それじゃ、明日中にドクオに言いなよ。
      そうすれば、君は勿論ドクオへのイジメも控えるかもしれないし」

(´・ω・`)「どうだろうね。君が彼への暴力を辞めるとは思えない」

( ・∀・)「あー……やっぱりバレてた?」

(´・ω・`)「悪ふざけは好きじゃない」

( ・∀・)「あんまり堅物ぶんなよ……いつか、わかるからよ」

(´・ω・`)「……」

('A`)(訳分かんねぇよ…… こいつら、何話してんだよ……くそ)



  
112: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:25:50.48 ID:S6mrRFftO
  
 状況が、把握出来なかった。
 なんでショボンとモララーがこうやって話してる?

 まるで、俺を騙してるみたいじゃねぇか。
 なんなんだよ。ショボンは、何を考えてんだよ。

 ……俺は今すぐ扉を開けばいいのか?
 それとも、引き返してからショボンを問い詰めればいいのか?
 どうすりゃいい、どう行動すればいい?

( ・∀・)「そうだ、ドクオにはこう言いなよ。
      『モララーと組んでた、僕は君を騙した』ってね。
      そうすれば、場の雰囲気は盛り上がるかもよ?」

 こいつは、何を言ってんだろうか。
 恐らくショボンは、俺を騙すような奴じゃない。

 一緒に遊んだ時から、学校に登校する時まで。
 ショボンの笑みは、偽りじゃなかった筈だ。

(´・ω・`)(なんだコイツは……おかしいんじゃないか?
      "中立"って言ってるんだ、ドクオを本当に突き放す訳がないのに。
      ……いや、ドクオは適当にごまかしちゃえばいいのか)

( ・∀・)「なんだい、怖い顔しちゃって……
      正直に言ってごらんよ、君もムカついてたんじゃないかい?
      もしくは……自分の子分を作りたかった、とか?」



  
113: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:27:38.73 ID:S6mrRFftO
  
 ショボンは、何も言わなかった。
 黙って、ただ黙って。やはり、意味はわからなかった。

('A`)(……ショボン、は?)

 寡黙で、数学の時くらいしか目立たない奴だった。

 そのショボンが、俺に声をかけた時に笑ってた。

 だから俺は、変な自信を持ってたのかもしれない。

('A`)(よく考えたら俺って……馬鹿みてーだな。
    ショボンの事、用心棒くらいにしか思ってなかったのかもな)

 実際、そう思ってる訳はない。

 ショボンはモララー達に対する用心棒じゃなくて、友達だ。

 今日の今日まで、ずっと。俺はあいつを信じてた。

 つーか、今でも信じてるけど。なんか、よくわかんない。

('A`)(わかんねぇ。……なんなんだよ)


 俺は結局、ここで考えに行き詰まってしまう。

 ただ、モララーがムカついた事だけはわかった。
 だから、馬鹿正直に扉を開いた。
 思いっきり、ぶち壊す勢いで開いてやった。



  
114: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:28:24.24 ID:S6mrRFftO
  





('A`)「お前ら……説明、しろよ……」










 モララーは、笑っていた。

 ショボンも、笑ってた。

 俺まで、笑った。



  
115: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:30:25.99 ID:S6mrRFftO
  
   *



 三つの笑い。各々、意味は違っていただろう。

 嘲笑。苦笑。哀笑。

 そのそれぞれが、高らかな響きに変わった。



 ――この後、ショボンとドクオは和解を果たした。
 和解と言うよりは、誤解を解いたような意味に近い。

 なのだが、やはりと言うべきか――距離は離れた。
 ドクオが離したのだ。迷惑をかけまいと、自己の判断で。

 ショボンは悩み、考えた。
 どうすればいいだろうか。どう接すればいいだろうか。
 自己嫌悪に陥りながらも、必死に思案した。

 ――その結果が、今の二人の関係だ。

 ショボンは影ながらのサポートに回った。
 ドクオの遠慮を汲み取り、そして何とか助けようと。
 思慮深い、そして人情深い考えであった。



  
116: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 00:31:16.44 ID:S6mrRFftO
  
 ドクオにしては、満足な待遇だった。
 ショボンにもモララーにも、大した不満は無かった。
 完璧とは言えなくとも、三方に見合った施策だった。

 このまま、モララーが何の動きも見せなければ。



 ……このままの状況だったならばドクオも別の人生を歩めただろう。
 幸せにはなれなかったかもしれないが、不幸にもならずに済んだかもしれない。



 今更、遅いのだが。
 終わった物語は、もうやり直す事が出来ない。
 わかりきった理論であり、また否定の余地すらない理論。

 つまり――傷付いた身体は、時間をかけて元に戻る。
 だが。死んでしまった人間は、時が経っても生き返る事はない。

 そういう意味だ。



  
122: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:06:23.42 ID:S6mrRFftO
  
 『透明人間』。
 彼の物語は、ショボンとの出会いで転じた。
 その出会いについて語る事は、今更必要ないだろう。






 ――時は"今"に戻り、放課後。

 ブーンやショボンと出会い、またモララーとも出会い。
 その物語の主人公であるドクオは、夢を見ていた。

 『皆が皆仲良くして、誰もが色を持つ世界』。
 途方もない夢だった。そして、壮大な。

 彼は、その世界を観る事はない。
 現世すら、堪能する事はない。
 夢は、夢なのだ。



 夢は観るものであり、叶えるものではない。
 『透明人間』は、そう諦めた。



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