内藤小説
- 4: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 16:49:59.08 ID:lmUy2yHtO
―――時はまだドクオが日本を発つ二週間前、つまり内藤が襲われる一週間前―――
ツンはジュディから受け取った資料にじっくり目を通していた。
今までさらっとは読んでいたが、じっくり腰を据えて読む時間はなかったのだ。
ライブテンファンド社の業務内容、官公庁との癒着、資金の流れ………
短い期間でよくこれだけ調べたものだ、とツンは感心した。と同時にカーターへの哀しみもふと漂ってくる。
- 5: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 16:52:30.07 ID:lmUy2yHtO
ワードでタイプし印刷された文字。カーターの直筆ではないその文字の羅列ですら彼の事を思い出させた。
感傷に浸ってはいられない、ツンはそう自分に言い聞かせた。いや実際そうなのだ。
この資料を見る限りライブテンファンド社は内藤達を捕えるために動き出している。
しかし目的が分からない。資料にも書かれていないのだ。もちろんツン自身に心当たりはない。
- 9: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:13:07.22 ID:lmUy2yHtO
内藤達は…?
それは分からない。何せ十年以上会っていないのだから。
内藤達に狙われるような原因があるかもしれない。
しかし、敵のターゲットの中にはツンも入っているのだ。
カーターが残してくれた資料によると敵のターゲットは
内藤、ドクオ、ショボン、そしてツンの四人だ。
この四人の共通点は何だろう?
掲示板。
だがそれだけではない。なぜならシャキーンや、クー達は入っていないから。
となると…
ξ゚听)ξ「四人の共通の過去の出来事に関係がある…?」
それからツンは十年前の記憶の糸を手繰り寄せることに集中した。
- 10: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:15:52.63 ID:lmUy2yHtO
ハマーから話しがある、と言って呼び出されたツンはハマーの自宅ではなく近くにカフェテリアに居た。
ハマーの知り合いの人がオーナーをやってるらしい。ツンは自分が狙われている旨をハマーに話していたが、特別な個室を用意するということで危険はないらしい。
実際に行くとそこは個室というか部屋だった。オーナー自らが普通に注文を取りに来たのが妙におかしかった。
- 11: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:23:31.45 ID:lmUy2yHtO
- ジュディは事務所の片付けやら何やらで出払っていた。どうやら事務所を畳むらしい。探偵のいない探偵事務所が成り立つわけもないが。
あなたのせいじゃないわ、とジュディは優しく微笑んで言った。
ツンはジュディの事が大好きになっていた。強く、そして優しく。こんな女性になりたかった。
がたん、と裏口のドアが鳴る。
もう一度がたんという音がなり個室のドアが開く。
ひょいと顔を覗かせ、大きな身体をキビキビ動かしながらハマーがツンのテーブルに向かってくる。
- 12: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:28:42.33 ID:lmUy2yHtO
- ハマー「やぁ、待ったかい?」
ξ゚听)ξ「いえ全然」
ハマー「そうか。ならいいんだ。俺も君と同じのを頼もう」
ヘイ!とオーナーを呼びツンと同じカプチーノを頼む。
ハマー「VIP待遇はどうだい?」
ξ゚听)ξ「これがVIP待遇なら私は庶民のままでいいわ」
ハマー「HAHAHA!その通りだな」
この豪快笑い声を聞くと少し心が安らぐ。彼にとっては命を狙われる事など日常茶飯事だったのだろう。
- 13: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:37:27.73 ID:lmUy2yHtO
ξ゚听)ξ「それでお話っていうのは?」
ハマー「あぁ…」
丁度、ドアが開きオーナーがハマーの頼んだカプチーノのを持って来た。
そしてオーナーが部屋から出ていくとハマーは口を開いた。
ハマー「話しっていうのはな…まぁ色々あるんだが」
ハマー「まず、カーターのことだ」
ξ゚听)ξ「カーターの?」
ハマー「あぁ。奴は俺の…親友であり戦友だった。まぁ…親友といっても随分連絡すらとってなかったが」
ξ゚听)ξ「わかるわ」
ハマー「奴とは傭兵時代を一緒に過ごした。奴の腕前はピカイチだった。おかげで俺はいつまでたってもNo,2に甘んじていたわけだ」
ξ゚听)ξ「………」
- 14: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:44:10.96 ID:lmUy2yHtO
ハマー「そのあいつが殺された。いとも簡単にだ」
ハマー「どうもおかしく思えてな。さっきまで古い知り合いの刑事に会っていたんだ」
ξ゚听)ξ「………」
ハマー「そいつに聞いたんだ。事件の概要を。もちろんその刑事は信用出来る奴だ」
ハマー「どうやら上から相当なプレッシャーがあったらしい」
ξ゚听)ξ「プレッシャー?」
ハマー「あぁそうだ。『自殺で処理せよ』とな」
ξ゚听)ξ「………」
- 15: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 17:49:19.43 ID:lmUy2yHtO
ハマー「しかし結局は無理だった。カーターの死体を発見したのが運悪くマスコミ関係の奴だったんだ」
ハマー「流石にマスコミまでは圧力はかけられない。下手したら嫌な部分までほじくり返されるかもしれないからな」
ξ゚听)ξ「警察に圧力をかけたのって……」
ハマー「もちろんライブテンファンド社だと俺は睨んでる。ジュディの言う通り警察の上にも相当なパイプがあるらしいな。事件も形式的には犯人不明の強盗殺人って事に落ち着いたしな」
ξ゚听)ξ「………」
ハマー「話しはまだある。というか俺の興味をそそったのはむしろこれから話す話しだ」
ξ゚听)ξ「…嫌な予感がするわ」
ハマー「今更かい?」
ツンのその遅すぎる予感は的中したのだった。
- 19: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:06:47.98 ID:lmUy2yHtO
(´・ω・`)「ん…。朝か…」
安ホテル独特の固いベッドの中でショボンは目を覚ました。よく眠れたみたいだ。と言ってもやはり神経は疲れている。
一応いつ敵が襲ってきても最低限の対処は出来るようにしていたからだ。
(´・ω・`)「顔洗おう」
頭を目覚めさせて回転させる。まず、考えることは…
新しく手に入れた情報。ライブテンファンド社。
- 20: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:10:10.88 ID:lmUy2yHtO
これはまた懐かしい言葉だな、と思う。
ライブテンファンド社。まさかこの社名を再び聞くとは。
初めて聞いたのはいつだったか。多分、7、8年前だ。丁度ショボンがアメリカに居た時の事だ。
当時ショボンはバーテンの修業の為にアメリカに渡っていた。そしてモイヤーという気のいいオーナーがやっている店で雇ってもらい皿洗いから始めてバーテンのいろはを学んだ。
若かりし日の武田と出会ったのもその店だった。―――――が武田の話は省こう。後に武田もライブテンファンド社と関わる事になるのだが。
とにかくショボンはその店『ヘヴン』でしばらく働いた。『ヘヴン』には色んな客が来た。それに伴って色んな出来事もあった。
- 21: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:20:54.08 ID:lmUy2yHtO
- そのおかげで(?)ショボンは色んな経験をし肉体的にも精神的にも強くなった。―――――がその事も今は省こう。
かい摘まんで話すと、ショボンはそこでライブテンファンド社の関係者と会っていたのだ。
会ったといっても向こうは呑みに来てもオーナーのモイヤーと話すばかりでショボンとは挨拶はかわすくらいだった。
向こうはショボンの事を覚えていないだろう。
(´・ω・`)「レインズ…デニー・レインズ……関係しているのか…?」
ショボンは何か胸に引っ掛かるものを感じた。
五月中旬の朝は部屋の中だけでなくショボンの胸の内もどんよりさせるのだった。
- 22: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:26:27.80 ID:lmUy2yHtO
ライブテンファンド社内。ドクオと武田は相変わらず作業を続けていた。
('A`)「これは………?」
武田「今回の事件のファイルだね。やはりターゲットは内藤君、ドクオ君、ショボン君、そしてツン君」
('A`)「ツンが狙われているのは本当だったんだな」
武田「でもこのファイルには最低限のことしか書かれてないみたいだね」
('A`)「目的は?」
武田「……書いてないね。まぁ仕事をさせるのに目的を書く必要もなかったんだろう」
('A`)「じゃあ実際動いてる奴らも知らないってわけか」
- 23: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:29:30.07 ID:lmUy2yHtO
武田「どの部分をコピーして帰ろうか?」
('A`)「そうだな…。社員名簿と重役名簿。それから…」
武田「とりあえず関係ありそうなのと役に立ちそうな部分を出来るだけでいい?」
('A`)「そうしてくれ」
武田はテキパキと作業をこなしていく。もし武田が居なかったらドクオはきっとあたふたしていただろう。
作業を急いでやってくれるのは有り難い。なるべく早くこの場所を後にしたかった。
- 24: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:34:29.18 ID:lmUy2yHtO
武田「…よし。ここまでだ。さぁさっさとここを出ようか」
武田が時間を見計らって言う。
('A`)「わかった」
二人は自分達が忍び込んだ痕跡を消し部屋を後にする。
薄暗い廊下に出ると何とも言えない感覚が肌に伝わる。役を為さない監視カメラが不気味にこちらを見張っている。
武田はやはり慣れているのか、どんどん先へ進んでいく。ドクオも武田の背中を見るように後をついていく。
- 25: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:41:34.97 ID:lmUy2yHtO
こう書くといかにもドクオが情けないように思うかもしれないが、彼の名誉の為に言うと彼―――ドクオだって今まで何度も危ない橋を渡っている。
特に十年前、掲示板でまだ現役だった頃は命懸けの事件もあった。例えば、日本企業の掲示板買収事件、韓国からのサイバーテロ事件、オンラインゲーム事件………挙げればキリがない。
とにかく度胸と経験は裏稼業の人間と比べても決して引けをとるものではないのだ。
そしてその経験が今まさに生かされる事になる。
- 26: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:45:48.64 ID:lmUy2yHtO
('A`)「………?武田、ちょっと待て…」
武田「ん?どうしたの?」
('A`)「いいから静かにするんだ」
二人は足を止め息を止めた。
('A`)「………空気が振動している…」
- 27: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 18:51:09.37 ID:lmUy2yHtO
それは感覚というよりは感触に近いものだった。人の気配がする、ドクオはそう感じた。警備の巡回という考えが浮かんだがすぐにそれを打ち消した。
武田は巡回の時間もチェックしていた。となると、侵入がばれたか。いやそうだとしたらこんな気配じゃないだろう。何か身を潜めてるような…しかし見られてるという感覚でもない。
('A`)「とにかく…進んでみよう」
武田は二重あごを三重あごにして頷いた。
壁に背中をつけ進み、気配を探ってはまた進むことの繰り返し。ものの数分で背中には冷や汗をかいていた。
- 34: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 19:38:34.54 ID:lmUy2yHtO
気配はなくならない。
先に進むと階段のある所まで来た。ここからは階段で下に降りなければならない。
スパイ映画のようにビルの屋上からハングライダーでブーンとはいかないのだ。
音を立てないように慎重に階段を降りる。
武田を見ると汗だくで必死に口をしばっている。足の筋肉を使っているのか心なしかプルプルしているように見えた。
- 36: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 19:41:44.15 ID:lmUy2yHtO
ヤバイ―――――ドクオがそう思った時には既に遅かった。
先行して下にいるドクオに向かって100キロオーバーのピザがダイブしてきた。
ドクオはなんとか受け止めようとする。
武田「あふぅ!」
武田の熱い声が洩れる。
('A`)「アッー」
ドクオの甘い声も洩れる。
しかしドクオは何とか持ちこたえた。まるで舞の海が曙を持ち上げているようなそんな絵だった。
- 37: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 19:47:45.16 ID:lmUy2yHtO
素早く気配を探る。が、気配は消えていた。不自然に消えた。
鼓動が早くなる。気付かれた。いや気付かせてしまった。
しかし、警備員ではない。おそらくここの回し者でもない。となると…
武田「…セフセフ?」
('A`)「アウアウ…」
二人は階段中腹の踊り場にいる。ドクオは下の階に人が居ると読んだ。出口まで行くには階段を降りていかねばならない。
この暗い中で待ち構えられていたら不利だ。だが、襲ってくるとも限らない。
- 38: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 19:53:21.10 ID:lmUy2yHtO
('A`)(ピザ、走れるか?)
武田(私に走れと?)
('A`)(別に囮にしてもいいんだけどな)
武田(力の限り走るよ!)
('A`)(じゃあ…せーのっ)
ドクオが先行して二人は全力疾走で階段を駆け降りた。
- 39: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 19:58:55.72 ID:lmUy2yHtO
ひゅうっ
という音ともにドクオの目の前に棒のような物がかすかに見えた。
('A`)「クッ!!」
間一髪でかわす。
メキッ!パリンッ!
すぐ後ろを駆けていた武田の顔面にヒットし眼鏡が割れる。
武田「ごぼふぁ!」
('A`)「チッ」
ドクオが反転する。大きな人影が見えた。また棒を振り下ろしてくる。
避けれない。そう判断し、なるべく相手に突っ込み前で受ける。肩に鋭い痛み。
- 40: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 20:09:07.91 ID:lmUy2yHtO
そのまま懐に入る。
膝蹴りをもらう。恐ろしく痛い。プロか。強い。
負けじとショートフックをレバーにねじ込む。
ウッという声が相手から洩れる。
すかさず叩き込む。が、ガードで入らない。
もう一発膝蹴りをくらうとまずい。
- 41: ◆P.U/.TojTc :2006/10/07(土) 20:14:25.62 ID:lmUy2yHtO
('A`)「うぉぉぉぉおお!!!!」
叫び、力をいれ全身を固くする。
ズウンッと重い衝撃。
耐えれた。まだイケる
そう思った瞬間だった。
「ドクオッッ!!!!!」
それはもちろん低くて野太い武田の声なんかじゃなく…
…十年振りの懐かしい声だった…
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