( ^ω^)ブーンが植物の世話をしているようです

107:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:31:57.46 ID:aOvnGawE0
  
『大学校』


カーチャンとごはんを食べてから、すぐに職場に戻るともうしばらく時間があった。

そこでのんびりとしていると、長岡さんがパソコンに向かって何かしている。
興味をそそられて尋ねてみた。

( ^ω^)「長岡さん、何をしているんですかお?」

( ゚∀゚)「ああ、大学時代入っていたサークルのホ−ムページ見ていてたんだ」

( ^ω^)「大学時代は何をされていたんですかお?」

( ゚∀゚)「ん、テニスサークルだよ。
   つっても女の子と仲良くなるのが目的だったようなもんだけどな」

長岡さんのパソコンにはサークルの集合写真がでかでかと載っていた。
皆楽しそうだ、自分には無い経験……正直に羨ましかった。



108:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:33:30.10 ID:aOvnGawE0
  
(*ノωノ)「あ、内藤先輩お帰りなさい。
   二人で何見ているんですか?」

( ^ω^)「風羽さん、ただいまだお。
   今は長岡さんの大学時代のサークルについて話していたんだお」

(*ノωノ)「大学かぁ……私高卒で大学に行ってないからちょっと憧れますね」

( ゚∀゚)「色んな地方の知り合いが出来るから中々楽しいぞ。
   高校ほどで無いにしろ、自由度は高くて楽しいな」

( ^ω^)(大学時代が楽しいか……。
   何の部活やサークルにも入らずに中退した自分には到底結びつかないお)

自分は大学を中退してこの仕事場に入った。
ある程度自由はあったが、高校のように同じ毎日を繰り返していたように思う。
その毎日が楽しいかどうかが高校とは違った。

特に大学は関係が質素だったりする。
一歩引いてでしか他人と付き合えないのだ。



109:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:34:52.09 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「あ、そういえば風羽さん、お弁当ありがとうだお。とても美味しかったお」

( ゚∀゚)「ん、何だ? 愛妻弁当とは見せ付けてくれるじゃないか」

(*ノωノ)「あぷー……そんなんじゃなくて、日頃のお礼です!」

( ゚∀゚)「日頃のお礼ね……なんか白けたなー、仕事しよ仕事ー」

(*ノωノ)「あ、あぷぅー……」

(;^ω^)(なんだか誤解招いちゃったみたいだけど……まあ別にいいお)

とりあえず長岡さんに促されるように自分たちも仕事に移った。

改めてパソコンに向かうと、打ち込みを再び開始した。

( ^ω^)(参加区分は、学生と一般と……学生は値段が安くて……)

学生……大学生も当然含むのだろう。
大学生、すごく懐かしい響きだった。

といっても、長岡さんのような思いいれは大学に無かったりする。
あまり印象に残るような出来事は無かったのだ。

他の人達がクラブや恋愛に精を出している中、自分は一人冷めた面で学校と家の往復を繰り返していた。
それでも、母親に感謝したりするきっかけは大学だったから……丸々意味が無かったわけではないが。



110:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:36:22.74 ID:aOvnGawE0
  
高校受験の時に、毒男と色々と話をした。
互いに同じ大学に進学する事を望んでいたが、それは叶わない夢だった。
それくらいで切れる縁じゃない、同時に互いが独立しなければという意思を少なからず抱いていたのだろう。

必然ともいえるように、別々の大学を受験した。

そして自分は近場の私立大学に進学した。
国立に行ける頭は無かったが、まだ働きたくないだけの理由で私立に行くことにした。
少なくともカーチャンもそれを望んでいたし。

バカ高い授業料が自分の母親でも出せたことからどこかでお金の価値観が狂っていたのだと思う。


大学生活は悲惨だった。
工学部というところは皆が自分の領域を持っていて、他人と一線引いているので積極的な人間は小数に限られる。
クラスで孤立した人間は多く、自分もその例に漏れる事は無かった。

サークルにも入らず、高校と同じように片道2時間程度の長い電車通学を繰り返していた。
1週間、1ヶ月、半年……時間は無常なほど早く過ぎたように感じた。



111:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:37:24.63 ID:aOvnGawE0
  
大学一年の冬、母親が倒れた。
当時は随分と無感情だったと思う、驚きながらも冷静に観察している自分がいた。

大学を止めないといけない様な事をカーチャンが一度口にしたが、止めずに済んだ。
やはりお金なんていくらでもあるものなんだなって思った。

そして自分はバイトをする事もなく、親のスネをかじりながら無気力にダラダラと大学に通っていた。
唯一の楽しみといえば、休みの日に会う毒男のことだろうか?


('A`) 「まぁ新しい仲間も出来てそれなりに過ごしてるよ。
   テスト期間の時は皆で徹夜とかもしたしな」


立派に一人立ちしていた彼を、少なからず羨ましがった。
そして悔しい感情を抱いた事も覚えている。
それが更に自分を無気力にした。

怠惰というのは癖になると厄介だ。
周りが自動車学校に通いだしても自分は一人学校と家だけを往復していた。

自動車学校なんて行く気になれなかった。
そんな時間あれば家でのんびりとしたかった。



意味も無く通い続ける大学、気付けば二十歳になっていた。



114:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:40:09.05 ID:aOvnGawE0
  
カーチャンは病院から退院しても、また倒れるんじゃないかというくらい熱心に内職に励んでいた。
心配していないわけではなかったが、敢えてそれを口にする事は無かった。

そんな無意味な時間を送る息子を、母親はどう見ていたのだろう?
大金を払って無駄な時間を過ごし続ける自分を。


それは成人式の日だった。

自分は小学校のグループなんかに会いたくなかったので、同じ考えの毒男と一緒に二人でカラオケをした。
ちょっと豪華なごはんを食べて、彼の一人暮らしの寮で二人で飲み会をした。

家に帰ったのは夜中の23時。
帰るとカーチャンは間に合ったと安心した様子で、自分に封筒を手渡してくれた。


『二十歳の祝い金 20万』


中身を見たら16万円しか入っていなかった。

J( 'ー`)し「ゴメンね、それだけは使っちゃダメだって分かってたんだけど……ゴメンね。
   足りない四万円は絶対にあげるから、もう少しだけ待って欲しいの、ゴメンね……」



115:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:42:12.74 ID:aOvnGawE0
  
20万円も自分に渡して……何に使えと言うのか?
2万円でもあれば十分だ、むしろ特に使い先の無い自分は満足している。

別にいいのに、そこまで気を使わなくてもいいのに。

ずっとずっと辛かったんだ。
ここで初めて自分の家計の苦しさ、そしてそれを隠し通してきたカーチャンへの感謝に気付いた。

自分はずっとカーチャンの前で表情を忘れていた。
笑う事も無かった、泣く事もしなかった。
怒るか、無表情で感情を込めずに頷くだけだった。

( ;ω;)「カーチャン……」

泣いた。
何年ぶりだろう、泣いて……笑った。
嬉しくて笑ったんだ。

最高の20歳だった。

カーチャンに感謝したが、本当の有り難味を知ったのは後になる。
それは今は省く事にしよう。



116:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:44:20.26 ID:aOvnGawE0
  
その後、カーチャンと話し合って大学を止める事にした。
カーチャンの望みは母子家庭だからといって大学に行けないなんて不自由をさせたくない、
だから自分を大学から出す事だった。

ただ、自分が大学を辞めたいのだ。
自分は不自由なんかじゃない、そう言って無理矢理止める事にした。

初めてだろう、カーチャンのことを考えての自分勝手だった。

J( 'ー`)し「ありがとう、ゴメンね、ゴメンね……」

カーチャンの口癖はこの時既に『ゴメンね』だった。
当然それは自分のせいだ、常に自分勝手に振舞ってきたから……何度もカーチャンを萎縮させて謝らせてきたから。

その口癖は自分にとってとても辛かった。
自分勝手の残した傷跡だった。



仕事場は当然思うように見つからなかったが、毒男の大学友達のツテで何とかしてもらった。

そして自分は晴れて大学を中退し、今の会社に入社して社会人となったのだ。



117:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:45:32.93 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「……ふぅ」

大学時代を少し思い出していたら、皮肉にも仕事効率は良かったようだ。
あれよあれよという間に打ち込みは終わった。

確認のため、栖来さんのメールアドレスにデータを送っておく。
添削してもらって、また後日その修正だ。

( ^ω^)「絶好調だお」

そう言って椅子から立って時計を見るともう17時だった。
結構時間が経っている、特に効率がアップしていたわけではなかったようだ。

それでも一仕事終えた開放感に浸って風羽さんを見ると、画面と睨めっこしていた。
彼女がメガネになるのは近い将来になりそうだ、そう思いながら話し掛ける。

( ^ω^)「調子はどうだお?」

(*ノωノ)「あぷー……ぜんぜんです」

( ^ω^)「今日は僕が早く終わったから、普通に手伝うお」

(*ノωノ)「そんな、悪いですよ……」

( ^ω^)「美味しいお弁当のお礼だお」

(*ノωノ)「お弁当がお礼なんですが……すみません、ありがとうございます」

そうそう、正直にお礼を言うくらいが一番可愛い。
風羽さんから資料を預かると、手早く打ち込み始めた。



118:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:46:46.66 ID:aOvnGawE0
  
今日の仕事終わりは18時過ぎ、今まで比べるととても早かった。
明日は休日だと思うと尚更気分がいい、風羽さんと一緒にタイムカードを押すと、車に乗り込んだ。

( ^ω^)「それじゃ、帰るお」

(*ノωノ)「いつもすみません、よろしくお願いします」

まだ明るみを帯びたその空の下を車で気持ち良く快走した。
ラジオからはロマンティックなムードのクラシックがかかる、
自分で自分に酔ってしまいそうなほどロマンスグレーだった。

(*ノωノ)「……内藤先輩」

( ^ω^)「ん、何だお?」

(*ノωノ)「その、明日仕事休みですが……暇ですか?」

明日は毒男との用事がある、しかし自分も男だ。
若干の期待と下心が見え隠れする。

( ^ω^)「明日がどうかしたのかお?」

(*ノωノ)「その、いつもお仕事も手伝ってくれて……そのお礼に、映画とか見に行きませんか?
   ……いえ、忙しかったら当然いいです、暇だったら……暇じゃなくてもその、
   時間とか作れるんだったら良ければ一緒に行かないかななんて……」



119:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:47:47.39 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「別に空いてるから構わないお」

すまない毒男、自分たちの友情はこれくらいでは到底壊れないと思っている。
彼がまだ年齢=28=彼女いない歴だとしても、これくらいでは友情が壊れる事はないと信じている。
彼なら分かってくれると信じている。

明日の毒男との久しぶりの再開は延期だ。
理由は当然仕事が忙しく、休日返上したいからとでも言っておこう。
嘘も方便というヤツである、これで温和に事を勧められるのだ、誰も傷付かなくて済むのだ。

(*ノωノ)「本当ですか? あ、でも映画でいいですか? 何か他にしたい事とかあれば……」

( ^ω^)「映画がいいお。風羽さんのオススメの映画がいいお」

(*ノωノ)「分かりました、お勧めの映画準備しておきますね!」

喜んだ様がとても可愛かった。
これは……浮気なんかじゃない、相手のお礼を無下に扱えないだろう?
紳士的な行動だ、決して浮気なんかじゃない。


そして今日も風羽さんから缶コーヒーを受け取ると、ツンのいる病院へ車を走らせた。



120:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:48:26.86 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「ツン、明日はようやく休日だお」

( ^ω^)「今日は仕事が早く片付いたお」

( ^ω^)「だから後輩を手伝ってあげたお」

明日の予定は話さなかった。
別にやましい気持ちは無いのだが……。

無いのなら何故予定を話せないのか?
どうしてOK返事をしたのか?

違う浮気なんかじゃない、絶対。

でも……


でも……ツンは話してくれないんだ。



121:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:49:15.01 ID:aOvnGawE0
  
……そう考えた自分にひどい怒りを覚えた。
自分が信じてやら無くてどうする、ツンは生きているしいつか返事してくれる、なのに何言っているんだ自分は。
ツンの事は誰よりも自分が知っている。

(;^ω^)「ゴメンだお、でも浮気とかじゃ断じて無いお」

そんな言い訳をしている自分がバカらしくなってきた。


……バカらしく?
何故?


  『こ、こんにちはですお……内藤って言いますお……ブーンって呼んで……欲しいお』


  ガタッ


嫌な気分になったので、立ち上がると今日は帰ることにした。
こんな気分で話しかけてもツンが不快な思いをするだけだ。

( ^ω^)「ツン、ゴメンだお。また明日も絶対に来るから、その時に沢山話したいお」

明日だ、浮気じゃない事を明日一日かけて証明すればいいんだ。
そして堂々として来よう、それが一番だ。

そう自分に言い聞かせて、逃げるように病室を後にした。



122:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:49:49.77 ID:aOvnGawE0
  
家に帰ると、簡単にご飯を済ませてシャワーを浴びた。
その後念入りに歯磨きすると、明日の服装を考える。


……。
せっかくの休みを楽しんで何が悪いんだ。
映画なんてどれだけぶりだろう、それを楽しみにして何が悪いんだ。


目覚ましを早い目にセットして、早い目の就寝となった。



戻る『社会人〜これまで1』