( ^ω^)ブーンがあの事件に挑むようです


375:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/11(土) 19:18:25.46 ID:3yQOIyIo0
町田「さて・・・それではまず、鍵を集めているか、そしてそれを正しく組み合わせているかを聞こう」
ξ゚听)ξ「・・・わかったわ」

ツンは、昨日立てた仮説を語りだした。
町田、今目の前にいる男が無実の罪で死刑に処され、それを恨み一連の鮫島事件を起こした。
それが様々な要因を経て隠匿され、今は公安から逃げている、と。
町田は仮説を聞きながら落ち着いた動作でコーヒーを飲んでいた。
ツンが話し終えると、空になったコーヒーカップが置かれる。

町田「マスター、おかわり」
(`・ω・´)「はいよ、ただいま!」

久々の純粋な客にテンションが上がっているシャキンがすぐにおかわりを持ってくる。
空になったカップを片付けるシャキンに礼代わりに片手をあげ、町田は煙草をとりだした。
正解なのか、まったくの不正解なのか。
ツンと内藤、ショボンが返答をまっている中、町田はゆっくりと深く煙草を吸う。
吐き出す紫煙とともに、ようやく町田が口を開いた。

町田「鍵は集まっているようだね。だが、組み合わせと推理はダメだ、40点といった所かな?」



377:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/11(土) 19:22:31.57 ID:3yQOIyIo0
(´・ω・`)「・・・40点か」
( ^ω^)「どこら辺が違うんだお・・・?」
町田「まず時系列が間違っている。大事な部分が前後逆なんだ。そしてそれ故に推理が違う方向に行っているね」

町田は首を軽く振りながら答える。
警戒心をもってあたる内藤とショボンに対して、まったく敵対心とかそういう類の感情はもっていないようだ。
煙草を吸い終わり、当たらしい煙草を取り出しながら町田は間違いを指摘しはじめた。
まず死刑執行とリンチ事件は、リンチビデオ事件のほうが先だという。
リンチビデオ事件のあとに上陸事件があり、そのあとで柏台リンチ事件が起こったらしい。
上陸事件と柏台リンチ事件の時系列は合っている。
だが、死刑執行とリンチビデオ事件が時間的に逆だというのは大きな問題だった。

町田「そんなに私を悪者にしたいのかな。第一、私はリンチの下手人じゃないよ。・・・ビデオは売ったがね」



87 :蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2006/03/15(水) 11:21:20.51 ID:JoU3e10F0
町田「そもそも・・・推理がどうとか以前に、君達が気付いていない重大なことがある」
ξ゚听)ξ「気付いていない?」
町田「そうだ。まぁ・・・まずは40点の理由から話そうかな」

町田のいう40点とは、鍵を集めきっている、というだけで30点を占めていた。
そして、上陸事件と柏台事件の時系列の正解。
それ以外の小さな点。それで40点。

町田「まぁ、甘く採点して40点、だな。推理が事実であるかどうかという点で考えると大外れだ」
( ^ω^)「それで・・・重大なことっていうのは・・・?」
町田「リンチビデオ・・・君達はその中身を知っているのか?」



92 :蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2006/03/15(水) 11:28:27.51 ID:JoU3e10F0
(´・ω・`)「中身・・・ビデオの内容か」
( ^ω^)「全然知らないお。見たいとも思わないお。政府にとって見られたくないものだお?」
町田「それはそうだ。だが、その中身が大事なんだよ」

町田は、ビデオの内容を話す前に大まかな流れを説明しだす。
まず、町田はリンチをした人間ではないが、ビデオを販売した。
販売した理由は、政府への糾弾。
その後それに反応した公安が購入者を逮捕し、ビデオの回収に乗り出した。
それから少しして、人知れずに上陸事件が発生。そのころはリンチビデオ事件もまだ燻っており、この事件が2chに上るのはまだ後のこととなる。
そしてリンチビデオ事件が収まり町田が姿を消した後、柏台リンチ事件が起こる。
町田はそれ以降公安のマークをかわしながら生活している。

(´・ω・`)「・・・まて、意味がわからなくなってきたぞ。政府への糾弾?」
町田「そう、糾弾だ。あのビデオの内容がただのリンチビデオではない」
( ^ω^)「それは鮫島特殊学級の大物の子供がリンチされてるって事じゃ・・・」
町田「それは君達の推測だろう。ビデオを見たことがないために、その推測に至った。だが・・・あのビデオはそういう類の物じゃない。あれは、実験の報告ビデオだ」



96 :蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2006/03/15(水) 11:36:57.32 ID:JoU3e10F0
ξ゚听)ξ「実験・・・?いったいなんの・・・」
町田「・・・終戦間近、日本にはまだ徹底抗戦を主張する強硬派があった。その連中は戦後も密かに研究を続けていた・・・兵器となりうる、ある新薬のな」
(´・ω・`)「荒唐無稽・・・B級映画のような話だな」
町田「事実は小説より奇なり、と言うだろう?そもそも大物の子供とはいえ、ただのリンチビデオで国が動くか?」

町田がいうには、戦後1960年代にその研究は政府によって嗅ぎ付けられ、中止を余儀なくされたらしい。
だがその研究者たちは諦めなかった。
政府の通達を無視し研究を続け、新薬は完成。
効果を実証する人体実験を行い、その後1970年代、政府の立ち入りにより完璧に施設もろとも消え去った。

町田「それが行われたのが犬鳴村だ」



97 :蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2006/03/15(水) 11:46:40.06 ID:JoU3e10F0
( ^ω^)「・・・研究施設のわりには普通の学校の教室みたいだったお?」
町田「それは鮫島の犬鳴村だ。あれは本当に特殊学級だった」

だが、九州にあったという犬鳴村。それが研究施設だったとしたら。
九州の犬鳴村は人が入らぬ秘境だった。
政府に知られないよう研究を続けるのに適した場所だろう。
犬鳴村に近づいたら行方不明になる。それは、朝鮮人の仕業だった。
だが、なぜ隔離施設とはいえそんな秘境に隔離したのか。
隔離するのなら、ある程度は目が届く範囲でないと駄目なはずだ。
それはつまり、研究者たちが朝鮮人を招きいれ、近づくものへの警戒をさせていたからではないか。

町田「そして1970年代、研究が政府によって中止させられたのと同時に、九州の犬鳴村は無くなった」

だが、その時にはもうすでに新薬は完成している。
実験は同じ名前をもつ鮫島の犬鳴村にあった鮫島特殊学級の生徒を使って行われた。
その結果を撮影したのが、例のリンチビデオだ。

( ^ω^)「・・・そんなに昔にとられたビデオなのかお?それが何で今頃流出してるんだお?」
町田「言ったろう、糾弾だと。一部の強硬派の仕業とはいえ、政府の一部組織がそんな実験をしたというのは許されてはならん。だから町田・・・この私は、それを入手し世にばら撒こうとした」



98 :蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2006/03/15(水) 11:52:58.74 ID:JoU3e10F0
ξ゚听)ξ「それがリンチビデオ販売事件・・・?それが公安に見つかり、あなたは身を隠した」
町田「まさに。少々ゴタゴタはあったが、私は今でもこうして逃げおおせている」
(´・ω・`)「・・・」
( ^ω^)「ビデオのことはわかったけど・・・結局どういうことだお?」
町田「大まかに言うと・・・こうだな」

リンチビデオといわれていた実験報告ビデオを、町田は政府への糾弾として2chで販売した。
それが公安の目に留まったため、町田は身を隠す。
そして柏台リンチ事件、上陸事件が起き、そのころのログは削除された。
事実を世に広めたかった町田は2chのとあるスレに縦、横、斜めの隠し文を残した。
それ以降、町田は身を隠しつつ、真実に近づくものを探していた。

ξ゚听)ξ「探していた・・・一人でも多く真実を知る者を導き、増やすために?」
町田「そうだ。だからこうして君達に話をしている」
(´・ω・`)「・・・柏台リンチ事件の仙人コテはお前だと言う話だが」
町田「まぁまて。君達に話をしている理由はもう一つあるんだ」
(´・ω・`)「・・・ふむ」
( ^ω^)「もう一つの理由?」
町田「そのビデオだが・・・もう大半は公安が抑えてある。広めるためにも手元に置いておきたいんだが、残念ながら手元にないんだ。そこで、だ。公安のマークが厳しい私にかわり、ビデオをとってきてほしい」



99 :蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2006/03/15(水) 12:07:38.23 ID:JoU3e10F0
ξ゚听)ξ「それが私たちに接触してきたあなたの目的?」
町田「そうだ。ある場所はわかっているが私は動けないのでね、どうか頼みを聞いてもらいたい」
( ^ω^)「・・・なんで僕たちが・・・」
(´・ω・`)「いや、わかった、引き受けよう。どこにあるか教えてくれればもう帰ってくれてかまわない」
町田「・・・そうかい?それならこの紙に住所を書いてある。手に入ったら連絡をくれれば良いよ」

町田は用意していた紙を懐から取り出した。
それにはビデオの在処らしい住所と、携帯の番号が書かれている。
ショボンが紙を受け取り、町田は席をたつ。
きた時と同じように優雅に去っていった町田を見送った後、ショボンは席に戻った。

( ^ω^)「先生、なんで急に引き受けるなんて・・・」
ξ゚听)ξ「そうよ、まだ分からないことなんかもあるのに・・・」

内藤とツンの文句を聞きながら、ショボンは難しい顔をしていた。
町田から受け取った紙を見つめながら何か考えているようだ。
内藤とツンが怪訝に思ったとき、ショボンが口を開いた。

(´・ω・`)「・・・あいつ、何か変だぞ」



193:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/15(水) 23:09:00.15 ID:JoU3e10F0
( ^ω^)「・・・変っていうと?」
(´・ω・`)「あいつの言っていることは真実かも知れん。だが・・・偏っていないか?」
ξ゚听)ξ「偏っている?」
(´・ω・`)「もっとも重要とか言っていたが・・・あいつ、ビデオ事件以外のことをなぜ話さない?」

良く考えてみれば、町田はリンチビデオ事件とそれに付随する事件の話以外は詳しく説明していない。
町田が死刑執行されたときの話や、その理由。
過去ログが正しければ柏台リンチ事件の仙人コテの名前は町田であるはずなのに、それが本当かどうかも話を濁した。
そして、どうやってビデオを入手したのか。
ビデオの中でリンチ、町田のいう事が本当だと仮定するなら実験、の下手人は町田本人ではないと言ったが、ならばどうやって入手したのか。

(´・ω・`)「なにより・・・自分を綺麗に見せようとしている気がするな。それもやや過剰に」



200:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/15(水) 23:26:30.36 ID:JoU3e10F0
ξ゚听)ξ「・・・先生、何が言いたいの?」
(´・ω・`)「そうだな・・・あいつ、本当に全てを知っているのか?」
( ^ω^)「けど、町田はビデオ販売事件、柏台事件、死刑執行に直接関わっているはずだお。それ以外の事件にも繋がりがあるだろうし・・・」
(´・ω・`)「確かにそのはずなんだが・・・頭がこんがらがってきた。そもそも、全てとはなんだ?」
ξ゚听)ξ「・・・町田事件の真相とそれを覆い隠す5つの鍵の詳細、かしら・・・」
(´・ω・`)「そうだ。だが、俺にはどうもあいつが全てを知っているとは思えん」
( ^ω^)「なら色々と質問すればよかったのに・・・」
(´・ω・`)「柏台事件の事を聞いたとき、まぁ待て、で止められたからな。それが解せなくてな」

たしかに、ここまできた目的を話そうとする時に柏台事件の質問をされて後に回したかったのだろう。
だが、町田の目的が政府への糾弾という大義名分のもとにあるとすれば、柏台で鮫島コテをリンチしたという、ほぼこちらが確信している疑惑を晴らすべきだ。
町田はそれをあっさりと遮った。
大まかに話しの流れを語ったわりには、それもアバウトすぎる。

(´・ω・`)「言いたくなかったのか・・・それとも、知らなかったのか・・・?」
ξ゚听)ξ「知らないはずは・・・町田は全部知っているはずじゃあ?」
(´・ω・`)「・・・そうか、そこが納得できないのか・・・あいつ、本物の町田か?」



204:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/15(水) 23:47:37.58 ID:JoU3e10F0
( ^ω^)「それはさすがに・・・町田じゃないと食いつかないように書き込んだんじゃないかお」
(´・ω・`)「町田じゃなくても、町田並みに関心を注いでいれば気付けるかも知れんぞ?」
ξ゚听)ξ「・・・なら、あれは誰?なんで町田に扮する必要があるのかわからないわ」
( ^ω^)「それに、もっともらしい真相を話してはいたお。偽者だとするとここに来た理由がワケワカメだお」
(´・ω・`)「むぅ・・・直感に走りすぎたか・・・正直すまんかった」
ξ゚听)ξ「・・・まぁ、渡された紙の住所に行けばわかるんじゃないかしら」
(´・ω・`)「・・・そうだな、本当にビデオがあるかも知れんしな・・・」

ショボンの疑いは晴れなかったが、ここで頭を捻っても埒が明かない。
偽者だとしたら、なぜビデオを欲するのか。本当に糾弾のためなのか。
そもそも、本当に実験ビデオなのか。
町田の真贋はともかく、ビデオを欲しているのは同じだ。
それなら、ビデオを入手できればこちらが優位に立てるかもしれない。

( ^ω^)「住所は・・・柏台の近くだお・・・」
(´・ω・`)「いくか。そう遠くはないし・・・ビデオの中身も確認するべきかも知れんしな」



214:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 00:09:34.52 ID:DMiQdEIB0
高速道路をショボンのRX-8が走る。
内藤たち3人は何も言わずに、サービスエリアで買ったお菓子を食べ荒らしていた。

( ^ω^)「・・・」

内藤は隣でジャガリコをかじっているツンを眺めながら、ショボンの話した町田への疑惑について考えていた。
もしも町田が無実の罪での死刑執行を生き延びた人物とするならば、少なくとも何かを知っているはずだ。
その何かがビデオの内容、つまり戦中から戦後への新薬開発のことだとしよう。
そうすると、喫茶店に現れた町田は30年以上昔のビデオをどこからか入手し糾弾のために販売、その後身を隠した。
町田はそういった。だが、町田は死刑執行はリンチビデオ販売事件の後で起きた、とも話した。
普通自分が無実の罪、というよりも政府にたてついたから死刑に処されたのなら、それについての憤りなり何なりを漏らすはずだ。
なぜ喫茶店に現れた町田はそれを感じさせなかったのか。

( ^ω^)(政府への恨みなんか感じられなかったお・・・恨みがないのかお?殺されかけたはずなのに)

それによくよく考えてみれば、ショボンの指摘のとおり町田はビデオ事件のことを重点的に話していた。
それがもっとも重要だと言って。
重要とは、事件を紐解く鍵になるということのはずだ。
だが、もしも町田にとって重要なだけだとしたら。
事件の真相をある程度話し、ビデオを回収させることが目的だとしたら。

( ^ω^)(だとしたら・・・先生の言うとおり、偽者なのかお?ビデオが欲しいだけの・・・?)



216:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 00:26:36.53 ID:DMiQdEIB0
ξ゚听)ξ「ここね・・・」
(´・ω・`)「マンションだな・・・301号室にビデオがあるらしいが」

内藤たち3人は、町田から渡された住所のマンションの前に立っている。
何の変哲もない普通のマンションだ。
ここの一室にかつてビデオを購入した人物がいるのだろうか。それとも、ビデオだけが残されたのか。
3人はエレベーターに乗り、ビデオがあるという部屋の前に向かう。

( ^ω^)「・・・山田さん。普通の名前だお」



217:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 00:26:58.82 ID:DMiQdEIB0
その部屋の主は山田というらしい。
町田から渡された紙には、住所ともうひとつ、鍵の隠し場所が書かれていた。
その紙のとおりの場所に鍵が隠されているのを見つけ、3人は鍵を開ける。
部屋には誰もいない。もう人は住んでいないようだ。

(´・ω・`)「ビデオはどこかいな、と」
ξ゚听)ξ「けっこう埃がたまってるわね・・・」

随分長いあいだ使われていないらしい部屋で埃を舞い起こしながら、3人はビデオを探した。
本棚、机、床に置かれた紙袋、クローゼット。
ビデオはどこにもなかった。

(´・ω・`)「やはり、無いのか?」
( ^ω^)「ん・・・あれ・・・?」

諦めかけたとき、内藤の目がビデオデッキに向けられる。
ビデオデッキにはビデオが挿入されていることを示すランプがついていた。

ξ゚听)ξ「デッキにはいったまま・・・とか?」

マンションのそばを、竿竹屋が回っていた。



222:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 00:40:24.07 ID:DMiQdEIB0
(´・ω・`)「・・・ビデオに名前は書かれていない、か。再生してみよう」

ショボンは一度取り出したビデオをデッキに戻す。
テレビをつけ再生を始めると、テレビの画面にノイズが走った。
すぐに昔のAVのような古臭い画質で、鮫島で見た廃墟、鮫島特殊学級が健在だったころの教室が映し出される。
教室には生徒と思われる者たちが並んでいた。
小学校くらいの段階の学級だと思っていたが、並んでいたのは高校生くらい、もしかしたらそれ以上かもしれないような年頃の者ばかりだった。

ξ゚听)ξ「私達より年上かもね」
( ^ω^)「・・・誰かはいってきたお」

教室にはいってきたのは、教師らしい壮年の人物だった。
手にはアタッシュケースを持っている。
並んでいる生徒たちの先頭が呼ばれ、教師の元に歩いていく。教師が開けたアタッシュケースには、注射器と数種類の薬品がはいっていた。

(´・ω・`)「この展開・・・本当に実験なのか・・・・?」



227:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 00:57:28.52 ID:DMiQdEIB0
教師のもとに呼ばれた生徒の顔は蒼白だった。
そんなこと気にせずに、教師は注射器を取り出し薬品をセットする。
椅子に座らされた生徒の腕に針が刺さり、薬品が注入されていく。
そこで、今まで無音だったビデオで初めて音がたった。
生徒が椅子から倒れる音。
それと、生徒が教師を呼ぶ声。

町田先生、これなんの薬ですか
んん?ちょっとだけ苦しくなるけど大丈夫さ

たったそれだけのやり取りの後、生徒は苦しそうな呼吸を繰り返すだけになった。
教師は次の生徒を呼び、違う薬品を注射する。
その生徒も倒れると、次の生徒にはまた違う薬品を注射。
それを延々と繰り返した結果、生徒は全員床に崩れ苦悶に喘ぐだけになった。

ξ゚听)ξ「・・・ひどい・・・さっき、この教師・・・」
( ^ω^)「町田って呼ばれてたお・・・けど、喫茶店に現れた町田とは全然違う・・・」



230:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 01:14:32.74 ID:DMiQdEIB0
ビデオはまだ終わらない。
生徒が床で苦しむ教室に、新しい教師がはいってきた。
その教師は注射器をもった教師に、町田先生、と呼ばれた。

町田先生、どうですか
ああ、町田先生。とりあえず全員倒れちゃいましたよ
そうですか。では、次の注射にしましょうかね

新しく入ってきた教師が数種類の新しい薬品を取り出し、注射器をもった教師に渡す。
渡された薬品を注射器にセットし、教師は倒れた生徒たちに注射していった。
ある者は痙攣を起こし、ある者はそのまま動かなくなった。
ある者は胸をかきむしり、ある者は血を吐いた。
そして、ほんの僅かの生徒、青色の薬品を注射された生徒だけが、何事もなかったかのように立ち上がった。
教師は歓声をあげ、教室に数人の男たちがはいってくる。
新しくはいってきた男たちも全員、町田先生と呼ばれていた。
町田と呼ばれる教師たちの一人が持っている書類にカメラがズームされる。

書類の文面を映そうとしたところで、唐突にビデオは終わった。
リンチなども起きず、実験なのかどうかわからないような終わりかたで。
それから再びノイズが走った。



232:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 01:19:32.19 ID:DMiQdEIB0
( ^ω^)「・・・なんだこりゃ、だお・・・」
ξ゚听)ξ「倒れた生徒はどうなったのよ・・・」
(´・ω・`)「変なところで終わったな。どうし・・・?」

ビデオの終わりを告げるノイズが途切れ、画面が青く染まる。
終わったはずのビデオが、再びどこかを映し出した。
画面に映っていたのは三人が今いる部屋。画質は最近の安物カメラで撮ったような感じのものになっている。
この部屋に住んでいた人物が重ね取りしたようだ。
画面に一人の男がはいってくる。
その男は画面中央の椅子に座り、神妙な面持ちで話し出した。
カメラの向こうの三人に向けて。

男「このビデオを見ているのは誰だろうな。何の関係もない一般人か、偶然このビデオを手に入れた2chネラーか・・・それとも町田、お前か?」



238:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU : 2006/03/16(木) 01:38:51.11 ID:DMiQdEIB0
男「・・・なんてな。お前が見ているんだったら、今頃激怒してこのビデオは壊れてる頃だろう。だから今もこれを見ているのは町田じゃない。どうせ、町田に言われてこのビデオを回収しに来たんだろう」

画面の中で、こちらの返答の間を確保するように間隔をあけて男は話し続ける。
男の言うとおりだった。
町田に頼まれてここまで来た内藤たち3人のことを見据えているかのように、男は自己紹介をした。

男「俺の名前は鮫島・・・このビデオを見ている奴には馴染み深い名前だろう。町田の相棒だった男だ。ま・・・このビデオを見てるってことは今頃は俺は死んでるんだろうが・・・」


(´・ω・`)「鮫島・・・!」
( ^ω^)「・・・まさか柏台リンチ事件の?」
ξ゚听)ξ「町田の、相棒・・・?どういうこと・・・」

鮫島「これを取りに来たのが町田に言われてなら、あいつが悔しがる顔が目に浮かぶな。俺は数年ごしに一矢報いたわけだ。さて・・・町田がいないうちに、君達に真実を話そう。俺たちの、真実を」



249:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/16(木) 01:56:12.60 ID:DMiQdEIB0
数年前、アメリカのネラー社に勤める2人の男は世界中の過去ログを読み漁っていた。
世界中の過去ログ、しかも余すところなくネット情報が管理されているその会社のデータバンクの中には、インターネットの前身であるアメリカ陸軍のネットシステムで取り交わされた情報も残っている。
その中に、日本の新薬実験のログがあった。
それは当初兵器であるという噂からアメリカに注目されたが、兵器ではないと判明したためそのまま放置されたらしい。
それは兵器ではなく、心臓病などの難病の特効薬だった。
その開発は失敗し、人体実験をしたために政府の立ち入りを受け計画は消滅したとある。
だが2人は、日本のもっとも古いネット情報の中に、その計画で完成した薬があり、それはあらゆる難病への特効性をもっているという噂話を見つけた。
そして、その実験を記録したビデオの最後に調合表が映されていると。

鮫島「その情報を・・・俺たちは信じた。なぜ信じてしまったんだろうな・・・その情報を信じた俺たちは2人で日本に渡り、ビデオを探したよ。見つからなかったがな」

その二人、鮫島と町田は日本に渡りビデオについて調査をしたが、当然成果は上らなかった。
だが、二人が諦めアメリカに帰りかけたときに、2chでひとつのスレがたった。
リンチビデオの販売。
二人は何気なくそのスレを読み、そのビデオ内容に興味をもった。
そのスレはすぐに削除されたためビデオの購入はできなかったが、二人はIPを割る技術をもっていた。
販売者の住所を特定しそこに向かった二人は、無人の部屋に放置された購入者名簿を入手した。

鮫島「それからだよ、俺の相棒が町田を名乗りだしたのは。購入者名簿を持つことでビデオを販売した町田に成り代われると考えたからな。・・・思えば、町田はあれから代わっていった。大人しい奴だったんだがなぁ・・・」



250:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/16(木) 02:11:22.00 ID:DMiQdEIB0
購入者名簿を持った町田は、ビデオにたいして今まで以上に興味を持ち出した。
名簿を頼りに購入者を探しビデオを入手しようとしたが、購入者はすでに逮捕されたり姿を隠したりした後だった。
大人しく真面目に仕事をするタイプの人間だった町田は、その誰も知らないだろうビデオに隠れていた野心を燃やしたんだろう。
なにせ、情報が真実なら万病への特効薬なのだ。
その調合方法さえあれば、巨万の富が手に入る。
町田に半ば引っ張られるように、鮫島は調査に協力した。
幸い、同じ時期に乱立した鮫島スレの中には有益な情報も含まれていた。
まるで、誰かが意図的に紛れ込まれているように。

鮫島「誰かが真実を小出しに限れ込ませていたのか、まったくの偶然か・・・どちらにせよ俺たちは情報を集め、研究が行われていた犬鳴村の存在を知った」
鮫島「だが、九州の犬鳴村はすでに無く、俺たちが行こうと思った少し前に鮫島に上陸した5人の2chネラーが殺害されたって事件が起きていた。危なくて行けないよ。」

研究があったとされる場所に行けなかったのが町田を焦らしたのだろうか。
町田は強硬にビデオの購入者を探し、狩ろうとした。
すでに公安が動き出していた中で、そんな真似をすれば二人とも捕まり、アメリカに帰るのも難しくなる。

鮫島「だから俺はあえて2chに鮫島の名を名乗り書き込み、荒らした。危険な行動を起こすことによりさらに危険な行動を始めようとしていた町田を牽制するつもりだったんだ」



255:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/16(木) 02:26:29.54 ID:DMiQdEIB0
鮫島「だが・・・ビデオから富が得られると完全に信じ込んでいた町田は、暴走していた。仙人というコテを名乗り俺を柏台駅前に呼び出してきやがった」
鮫島「俺はこのビデオを撮り終わったら、柏台駅前に行く。町田は2chネラーを呼び集めでいるようだが・・・集まらないことを祈ろう。だが、もしボコられて死にでもしたら腹がたって死に切れんから、町田の化けの皮は剥がしておこうとこのビデオをとっているわけだ」

鮫島は最後に町田の情報をまとめた。
町田、アメリカのネラー社の社員だった男は、日本で購入者名簿を手に入れそれから町田を名乗りだした。
販売者である本物の町田を騙ることで、ビデオを手に入れようとしたのだろう。
だがビデオはすでに失われかけていた。

鮫島「町田は気付いていなかったが・・・俺はビデオを手に入れることに成功していた。俺は町田が暴走したと確信したときに、ビデオの
最後、もっとも大事な調合法がある部分に、今とっている映像を上書きする」

それに気付かない町田は、2chでの鮫島の妨害行動に激怒し、鮫島を呼び出した。
鮫島はこのビデオに上書きする映像を撮り終わったら、柏台駅前で最後の説得を行う気だ。

鮫島「それでダメならあの馬鹿を見捨てるしかない。おそらくこれを見ているのは俗に言う町田事件を追う2chネラーなんだろうな。だから、最後に町田事件に触れよう・・・もっとも、俺も町田もそう多くは知らないがな」



261:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/16(木) 02:48:09.63 ID:DMiQdEIB0
町田事件とは、誰がそう呼び出したのかも定かではない。
だがおそらく、命名者は新薬研究をしていた連中の組織名を知っていた。
その研究組織は、MACHIDA対策機関。
所属員が全員町田と呼ばれたことから名づけられたとか、I AM A CHDの字列変換だとか諸説はあるが、その機関名が「まちだ」であるのは確かだ。

それを最初から知っていた、もしくは突き止めた誰かが、すでに闇に葬られたはずのその事件を表舞台に引っ張り出した。
数十年ぶりに世にでたそれは、当時の実験報告ビデオという実体すら持って2chに現れた。
そんな昔の事が世にでるとは思わなかった公安は初動が遅れ、ある程度の数のビデオが出回った。
公安が大半を確保するころには、鮫島上陸事件が起き、鮫島事件とそれ以外のいくつかの都市伝説がいっせいに各地で囁かれ始めた。

鮫島「問題なのは、なぜそうなったかだ。誰かが巧妙にそんな昔の研究の存在を世に流し、なおかつそれをカバーする噂を流布し、鮫島に上陸した5人を殺害し、公安を撹乱し・・・俺たちくらいしか知らないはずのアメリカのネラー社の存在を都市伝説として流した」

鮫島「町田事件とはその一連の流れの総称だ。誰かがカビの生えた政府の失態を引っ張り出し世に広め、公安すら動かし、さらには数多くの都市伝説を生み出した。その大きな見えない力の流れとでも言うべきものが、町田事件と呼ばれている」

鮫島「事件としてではなく、もっと大きな流れ、それが町田事件。とある者が過去に、町田事件とは鮫島事件やそれ以外の鍵を使った壮大な人探しゲームだ、と言ったことがある。あるいはそいつがウォーリーだったのかもな・・・」

さて、そろそろ行って来よう。
無事に帰ってきたらこのビデオは破壊し、捨てる。
町田事件なんて不気味な流れは、最後のビデオであるこれを破壊すれば止まるはずだ。
最後にそう言って、鮫島は片手を上げた。
ビデオの映像が途切れ、再生が停止する。



268:蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU: 2006/03/16(木) 03:21:09.35 ID:DMiQdEIB0
( ^ω^)「・・・そして、この人はこの後柏台駅まえでリンチされ・・・死んだのかお」
(´・ω・`)「説得しようとした相棒と20人の2chネラーに、か」
ξ゚听)ξ「ビデオの中の調合法が欲しいから町田は私達に接触したのね・・・」

ならば、このビデオは町田が望むものではない。
肝心の調合法は鮫島により上書きされた映像によって消されている。
鮫島が言うには、今内藤たちの手元にあるこのビデオは公安が確保していない最後のビデオらしい。
それを知れば町田はどんな反応をするのか。

(´・ω・`)「ま・・・いい事を聞いた。帰って偽者ヤロウを呼び出してみるか」
( ^ω^)「・・・先生なんで急に強気になるんだお・・・」

内藤たちはマンションを後にし、ショボンのRX-8は再び高速道路をニュー速市に向かって走った。
その途中、珍しいものを見た。
高速道路を走る、竿竹屋のトラックを。



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